ヴェーネの黒くて甘い誕生日



<オープニング>


 テーブルの上に、小さな粒が散らばっていた。
「おっ、黒砂糖ですね。こういう甘いものも肴にいいものです」
 赤茶の鱗に包まれた腕が伸び、リザードマンの年増狂戦士・バーリツ(a90269)が一片を摘み上げ、口に放り込んだ。その反対の手には、杯が握られている。よほど強い酒なのか、向かい合う少女の鼻にもその臭いは伝わってくる。少女の白く伸びたヒトノソリン耳がわずかに揺れる。
「ちょっと臭いが強いのなぁん……。
 な、なぁん? バーリツさんが頭を下げるなぁんて珍しいのなぁん」
「肴として、黒砂糖をもっとほしいと思ったのじゃろうて。そう珍しがらなくてもいいと思うぞい」
 とは、通りすがりのヒトの霊査士・エイベアー(a90292)だ。ヒトノソリンのうっかり歌い手・ヴェーネ(a90349)の脇に座ると、手扇で酒精の臭いを散らそうとして見せた。
「ややっ、これは手厳しいですね。まぁ……、その通りですが。
 ところで、こんなに広げてどうしました?」
 バーリツの問いに、待ってましたとばかりに、ヴェーネは口を開く。
「これはなぁん、キャラメル以外にも何かできないかぁんと思ったのなぁん」
「うーん? キャラメルには飽きてしまいましたか? 四六時中食べていればそれはまぁ飽きるでしょうけれど……」
 ヴェーネは色白の顔を赤らめて何やら擬音で抗議する。
「そうじゃのぅ、そういえば、楓華のほうでは『黒の棒』などというお菓子があるそうな。ふわふわサクサクでほんわか甘いのじゃよ。小麦粉などを固めたものを棒の形にして焼いたあと、黒砂糖の蜜につけて乾燥させるんじゃったかな」
 こういうとエイベアーは人差し指と中指をくっつけてだいたいの大きさを示して見せた。
「そういえば、ぼちぼちヴェーネの誕生日でしたね。ほかにも黒砂糖の料理を考えてもらって、黒砂糖パーティなんていかがでしょうか。誕生日口実に飲めますしね」
「何やら最後の一言が気になるが、久々にそういうものもいいじゃろうて」
 バーリツ、エイベアーの言葉に、ヴェーネは嬉しそうに頭を下げる。
「ありがとうなぁん。どんな甘いものに出会えるか楽しみなのなぁ〜ん」
 三人は顔を見合わせると、黒砂糖を一つまみ口に放り込んで笑みを浮かべた。


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参加者
NPC:ヒトノソリンのうっかり歌い手・ヴェーネ(a90349)



<リプレイ>

●塊そのまま
「な、なぁ……ん」
 腕一杯に、ヒトノソリンのうっかり歌い手・ヴェーネ(a90349)が運んできた。皆の材料置き場に割り当てられた卓上に、ヴェーネは抱えてきた器を置いた。楕円状の年輪の見事な卓に、木の実の殻を等分に割った器――明記しきれぬが、類似した材料による道具はほかにも見ることができる。それら自然味あふれる道具の数々はまさにそこがワイルドファイアであることを、他大陸を知る者たちに嫌が応にも感じさせていた。
「ヴェーネさんお誕生日おめでとうございますぅ〜♪」
 とポムがヴェーネに近づき、両手で差し出している。
「いっしょう……」
 皆まで言わせず、ヴェーネは頭を下げた。
「ありがとうなぁん。ポムさんがせっかく作ってくれたものなぁのなぁ〜んから、後の誕生会でみんなに披露するときまで内緒にしてほしいのなぁん。わたくしもみんなと一緒に驚きたいからなぁん」
 ポムは両の親指人差し指で挟み込んでいたカードを仕舞いこむ。
「な、なぁ、ん? もしかして、わたくし一人だけに見てほしいデザインなぁのなぁん? そうだったら、わがまま……、言ってしまって……」
 ポムが柔らかく微笑む。今度はその微笑みでポムがヴェーネの言葉を止めた。
 その微笑みをヴェーネが見つめる。
「わたくしの集落の長老さまが言ってたのなぁん」
「長老さまですか……、もぐもぐ」
「ヴェーネさんの故郷ですかぁ。ヴェーネさんのそういうお話はじめてですぅ」
「ななぁんは、なぁ〜んなぁ〜んる」
「はじめて聞くのなぁん」
「あれ? アデルさんの集落では聞いたことなかったのなぁん?」
 ヴェーネの問いかけにアデルの青い瞳に翳りが一瞬走った気がした。もっとも彼と親しいものの中でも、注意力に優れているものにしか気づけなかったろう。
「もぐもぐ……、同じヒトノソリンといっても集落によって違うところがいっぱいあるなぁ〜ん。ヴェーネは歌い手として旅してきたなぁ〜ん。むしゃむしゃ。それくらいわかるはずなぁ〜ん」
「って、みなさん、いつの間にぃ?」
 気づけば、ポムとヴェーネのまわりに集まってきていた。持ってきた器にどんどん手が差し込まれ、黒砂糖がつまみ出されていく。料理用に持ち出すものがほとんどだが、そのまま口に放り込むものもいないわけではない。むしろ、2人の周りに残って話に入りつつある者のほとんどは口に放り込んでいる者たちだ。
「タニアさんのところもアデルさんのところでも聞かなぁいんのなぁん? すてきな言葉なぁんのに」
「ヴェーネさん、じらしますねぇ」
 ヴェーネはポムと違い聞き手が増えようが気にする様子もない。
「じ、じらしていなぁいのなぁん。お師匠様に教わった聞き手への対応法16に従っているだけなのなぁん」
「あえてこの時期に追加設定を加えるなんて驚くしかございませんわ」
 愉快そうに呟くシフィルは黒糖を飴代わりにのんびり楽しんでいる。
「それで、まずは『長老様の教え』から教えていただきたいですわ」
 黒糖片手にシュチが問う。問いつめるという気配は弱く、会話の先を促すという様子だ。だが、シュチの青い瞳の奥に見え隠れする噂好きの炎が問いかけに異様な匂いを漂わせつつあった。
「そうなぁのなぁん。話を戻すのなぁん。単純にいえば隣の鳴き声に引きずられるということで、隣の人が笑っていれば笑い顔に、泣いていれば泣き顔に、怒っていれば怒り顔にひきずられるということなぁん」
「他人に表情は写っていくから表情に気をつけなさい――すてきな教えですね」
 ケロがしたり顔でうなずく。黒砂糖を噛み砕く音がなければ、集落の若い娘が惚れたかもしれない。
「ポムさんのすてきな微笑みを見ていたら、わたしもそんないい顔ができるかな、って、長老様の言葉を思い出したのなぁん」
「え……っ、えっ?? わたし、そんなにぃ、いい顔でしたぁ?」
 ポムが赤面している脇からシュチが再び問いかけた。
「では続いてお師匠様の対応法16をお願いしますわ。あとできれば、残りがあればそれも教えてほしいですわ。長くなるようでしたらわたくしにだけでもかまいませんから」
「え、ええ……っと、なぁん」
 ヴェーネが固まる。
 そこにラセンが叫ぶ。
「あっ、あっちに空飛ぶリザードマンが」
 見れば赤い鱗のリザードマンが村外れに着地していた――頭から。

「驚かしてしまってごめんなさいなぁん。バーリツの引っ張ってきた巨大魚が急に暴れてしまったのなぁん」
「集落で料理の得意な一日抜きをしてもらおうと思って気絶させたまま運んできましたが、村の近くまで来て気がつくとは思わなかったもので……、お騒がせしました」
 食材探しに出ていたエンヤと、無理矢理着いてきたバーリツが頭を下げる。
「魚の黒糖煮はいいつまみになると思ったのですが逃げられてしまったうえに、尾で叩きとばされるとは……まったく、主賓殿に面目が立ちません」
 うなだれながらバーリツはエンヤの指示下、集めた獲物を整理しながら広げていく。
「あれ? みんなはもう料理がすんだのなぁん? みんなが料理終わる前に合流したいと思ってたのになぁん」
 エンヤの確認に、一同は顔を見合わせる。
「すっかりお話に夢中になってしまいましたぁ。急いで作らなくちゃいけないですぅ」
「そうだね、ヴェーネの誕生日を祝うために、黒糖お菓子、頑張って作るよ」
 ポムにうなずき、ラセンは拳を握ってみせた。
「黒砂糖を使って何か作るんですね〜? やっぱりそのまま食べるほうが……?」
「たしかにこれはこれで素朴な味わいでございます」
 ケロの言葉にシフィルが賛意を示す。
「黒砂糖入りホットミルクくらいしか知らないなぁ〜ん」
「簡単なものでも思いが籠もっていればそれは素敵な一品になると思うなぁん」
 惑うタニアに、エンヤが告げた。

●味付けに
 数刻後。
 集落端の広場に、たくさんの料理が並べられていた。
「あらためましておめでとうございますぅ〜」
「ありがとうなぁ〜ん。さっきは……」
 料理前に受け取れなかったことを謝ろうというのだろう。そんなヴェーネにポムは微笑んでみせた。
「さっきのことはさっきでぇ、解決済みでしょー」
 ヴェーネはポムのカードを受け取り、開く。
「これはっ、なかなか」
「うむ、これでヴェーネは5年は戦えます。あのカードはいいものだー」
 ケロの驚く声に混じり、勝手にできあがってるバーリツがあさっての方向に呟いている。
「飛び出す切り絵のケーキじゃのぅ。イチゴの代わりに白いノソリンが載っているのはヴェーネにぴったりじゃな」
 とはエイベアーだ。先ほどの乾杯まで酒精を入れていないので、見苦しく酔ったりはしていない。
「いっしょうけんめいつくりましたのですぅ。本物(のケーキ)を作るのは苦手なのでぇ」
 照れるポムの周りで黒糖クッキーの皿が回される。
「いろんな形があってわくわくなのなぁん」
「……味も素朴で、お茶の添え菓子になりますね」
「これで苦手なんだ。隣で焼いていたけれどなかなか作っている様子は様になっていたけどね」
 ラセンはそうコメントし、自作のかりんとうを回す。
「そもそもレシピを持ってきただけの方もいらっしゃいますし」
「いえいえ餅は餅屋と申します。折角の祝いの席でございますから……、私の……よりも黒糖の扱いに手慣れた集落の方々に作っていただいたほうがいいのでございます」
 シュチのツッコミをシフィルは笑って受け流した。
 そんな2人の菓子も回されていく。
「シフィルさんのこのぱさぱさ感はポムさんのクッキーを思い出させるね」
「でも、これはこれでなかなかどうして」
「一方こちらの、シュチさんのかすていらは食べ応えがあるのぅ」
 あっという間に、ちんすこう、カステラも各員のさらに取り分けられ、胃袋に消えていく。
「さて、甘いものの間にこれをどうぞ。ちんすこうに使う獣脂を作るついでに煮詰めた怪獣の黒糖煮です」
 バーリツが無骨に切り分け、各員に回す。
「……アデルさんのほうに集中していた間に黒糖ばかり入れたなぁん?」
「塩がすっかりかき消されてるなぁん」
 くず餅――白濁しつつも透明さを持つぷにゅぷにゅしたお菓子を回しながらエンヤ、アデルがため息混じりに呟く。
「肉の脂っぽさに、しつこいまでの甘さ――思わず喉が渇きそうでございます。バーリツ様らしく酒の肴として極みを感じられますわ」
 そこに酸味あふれる果物が運ばれてきた。甘いものばかりで舌が麻痺したときに集落の民が食べるものだという。
 それを食べ仕切りなおす。
 黒糖でほんのり甘く仕上がったホットミルクに、さわやかなお茶に、集落伝来の黒糖蒸留酒などが振る舞われつつ、残りの甘いものが平らげられていった。
「今日は甘い一日をありがとうなぁ〜ん。また今度もみんなで食べられるようがんばろうなぁ〜ん」


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