鼠は尾針で刺す



<オープニング>


 その日、鼠は兎に出会った。

 錆びたナイフが脇腹に刺さる。苦悶の声をあげながら鼠は倒れた。
 こん棒が耳の間に叩き込まれる。凹んだ頭から漏れる血が兎顔を赤く染めていき、瞳の赤さが目立たなくなる。そんな状況だけあって当然兎も倒れている。
 拳が鼠を倒し、蹴りが兎を倒す。石斧が骨を折り、石槍が肉を突く。
 出会い頭に起こった衝突は、どちらかがいなくなる――もしくは双方がいなくなるまで続くようにみえた。
 しかし、今日は違った。
 双方とも滅びないうちに戦いが止んだのだ。
 鼠グドンの群れは2割、兎グドンの群れは3割もの戦力を未だ残したままである――、無論、知性ある者ならば7割、8割も消耗するまえに戦いを止めていたかもしれない。
 鼠グドンの群れを率いる長は、兎グドンを率いるピルグリムグドンに一つの提案をしたのだ。
「腹ガ減ッタ。向コウノ大木側ニ人間タクサンイル。ソコデ食ベナガラタクサンノ首ヲ集メラレタホウガ勝チトシヨウ」
「腹ガフクレルシ、勝チ負ケハッキリスル。ヨシ、ワカッタ」
 長は薄汚れた顔で、乱れた長髪が旨を覆った腰蓑一つのヒトの女だった。ただ尻から蠍のような尾が生えているのが異様だった。

「ぬしらには村の東から迫る鼠グドンの相手をしてもらうのじゃ」
 ヒトの霊査士・エイベアー(a90292)は丸めた羊皮紙片手にそう告げてきた。
「鼠グドンを率いる長は……、グドンでもピルグリムグドンでもないようじゃ。最近出現が報告されるようになったキマイラっぽいやつじゃな。まぁ、グドンと行動を共にするような輩じゃから、お里が知れておるというやつじゃ」
 老人はここまで語ると笑みを浮かべた。
「ぬしらならば必ずやグドンから村を守ってくれると信じておる。よろしく頼む」


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参加者
吟遊詩人・カズハ(a01019)
無変身忍者・ハヤテ(a21057)
橙鶏冠の武鶏・タードリィ(a21096)
銀の剣・ヨハン(a21564)
小さな探究者・シルス(a38751)
ベハンデリング・ルア(a48919)
漆黒の暴渦・キョウ(a52614)
黒影の聖騎士・ジョルディ(a58611)


<リプレイ>

●鼠落とし
 南からの日差しが注ぐ。日差しのせいだろうか、西からの風を浴びてもほとんど寒さを感じはしない。
「腹が減っては戦はできないのなぁ〜ん」
 こういって、ベハンデリング・ルア(a48919)は村でもらった焼き菓子を口に放り込む。ルアにとっては初依頼で火照りがちな体を心地よい風だった。焼き菓子の味わいに満足してか、白いノソリン尻尾も元気満々に揺れ動く。
「グドンもキマイラも退治して、村にも畑にも被害は出さないなぁ〜ん。それでも焼き菓子も守るのなぁ〜ん」
「しっかし、最近はキマイラも変わったなぁ……。グドンと徒党を組むんだもんね」
「たしかにそうですね、キマイラ『もどき』ということなんでしょうか? 何はともあれ、村に被害が出ないようにしないとですね」
「キマイラ――、モンスターとは違いますが元は人間という所は一緒ですね。これ以上の悲劇はなんとしても食い止めましょう」
 漆黒の暴渦・キョウ(a52614)、小さな探究者・シルス(a38751)、銀の剣・ヨハン(a21564)が遠眼鏡を覗きながら、そんなやりとりを続ける。
「キマイラ化はいまだ謎が多いでござる……、注意力を研ぎ澄まして、隙の少ないように心がけるでござる。もしかすると今後に繋がる情報が見えるやも知れぬ……、今後のために無事に帰るでござる……」
 無変身忍者・ハヤテ(a21057)はそういうと無意識のうちに鎧に触れていた。今回は少しでも守りを固めようと準備してきたリングスーツである。
 その隣では黄金色の防具に身を固めた、雷光の聖騎士・ジョルディ(a58611)が遠眼鏡片手に独り言ちていた。
(「似合う……かな? ハヤテ、鎧にまで気を配ってこそ真の冒険者だ」)
「実に素敵な鎧に仮面ですが……、このお日様の下で目立たなければいいのですが」
「そうかもしれません。グドンとともに動いているとはいえ、キマイラ相手です。道の上で目立つ格好で待ち伏せているのは……」
 ヨハン、記憶の演奏者・カズハ(a01019)が考え込む中、ジョルディは黄金鎧を革のマントで隠しつつも、黄金の仮面をさらしていた。

「人間狩りで勝負を競うなんてことをさせるわけにはいかないからな。村に――畑に近づく前に殲滅するぜ!」
「言っとくけど、首を狩って決着って言葉、俺は本気で怒ってるんだからね?」
 橙鶏冠の武鶏・タードリィ(a21096)、キョウが血気盛んにじろじろ見回す。
 大木が目印の村から東に、道沿いに村を囲む畑帯を抜けた冒険者たちは見晴らしのいい平原でネズミグドンを待ち伏せている。
 影が短くなったと思えば、気づけば長くなり始めていた。
 ルアの焼き菓子が尽きた頃――。
「敵影、確認できました、敵影です」
 ヨハンに前後して、シルス、ジョルディ、キョウもその姿を確認する。薄汚れたネズミグドンが石斧を片手に歩いて迫ってきている。ところどころには、赤褐色の汚れが目立つ。その汚れの報告に、タードリィがぼやき、呆れ果てる。
「ほんとにグドン同士でやり合ったんだな」
「そんな愚かなグドンでござるが数はあるでござる。油断なきよう慎重に準備でござる」
 ハヤテにいわれるまでもなく、『黒炎覚醒』で炎をまとい、『血の覚醒』で血走り、『鎧聖降臨』で鎧を強化していく。
「おや、グドンたちが駆け出しました。どうやら髪の長い人物――、女キマイラがこちらを指さして叫んでいるようです」
 ヨハの報告に、ざわめきが走る。
「くっ、仕方がない。グドン相手ならば全員の鎧を強化する余裕があると思ったが期待しすぎたか」
 ジョルディが舌打ちするのを、カズハが苦笑いで受け流す。
「まぁ、なんだかんだで誘き寄せには成功したようなものですから、よしとしましょうよ」

●鼠返し
「キー」
 女キマイラがジョルディに飛びかかったところから、実際の衝突は始まった。
 全身を激しく捻りながら、尻から生えた蠍の尾を突き出す。連続して突き出された尾針が鎧を貫通して脇腹と腿に刺さる。針から流れ込む毒液がジョルディの逞しい体を冒していく。
「なぁむ、すっかり凶暴になってるのなぁ〜ん」
 ルアの戸惑う声の中、蠍の針は陽光を浴び不気味な照り返しを見せていた。
「重騎士の本分は守りにあり!」
 ジョルディは叫ぶと、盾で女キマイラを押しのけ、間合いを計る。
「毒がまわりきらないうちに」
 カズハが竪琴を奏でる。『高らかな凱歌奥義』に励まされ、ジョルディの傷がふさがり、黒ずみかけた顔色が元通りになる。
「百条の光よ!」
 シルスの描いた紋章から無数の光がネズミグドンの上に降り注ぐ。5体が『エンブレムシャワー奥義』で倒れた。
「まさかキマイラが飛び出してくるとは……、金に惹かれたのか?」
 キョウが無造作に握っていた左右の斧を振り上げた。如才にみえた動きの中で込められた闘気が、キョウの握る拳を振るわせる。
 受け流そうと繰り出された女キマイラの腕も気にせず、二つの斧がそれぞれの軌跡を描く。斧の切り裂いた傷口が一気に弾ける。ほとんど何も身にまとっていなかった彼女の左腕と左乳が弾け、血肉が散乱する。
 キョウは素早く退いたものの、鎧に描かれた白牡丹をわずかに汚してしまった。
「キマイラはジョルディさんたちにお任せして、グドンを減らしておきましょう」
 ヨハンの銀の蛮刀が流れるように振るわれた。『流水撃奥義』の衝撃波が近くのグドンを2体血祭りに上げる。
「針ばかり振るわれては都合が悪い、ここは一つ策を講じねば」
 ジョルディはキマイラ脇をすり抜け、グドンの真ん中に飛び込んだ。ちょうどグドンたちが隊列を組み替える際に邪魔になるような位置取りだった。『タクティカルムーブ改』がグドンらにキマイラを惹きつける。
「とりあえずみんな大丈夫そうなのなぁ〜ん。それじゃ、包囲殲滅なぁ〜ん」
 惹きつけられたグドンたちに、ルアが『エンブレムシャワー奥義』を放ち、7体葬る。
 続いてハヤテが蜘蛛糸状のものを投げ込む。召喚獣ペインヴァイパーの紫のガスと混ざり合いグドンたちに迫る。
「これで尾針をちょっとでも鈍らせられればよいのでござるが」
『粘り蜘蛛糸奥義』がグドンたちの体にからみつく。女キマイラは身をそらして避けている。
「雑魚だからって油断しないぜ、くらえっ」
 糸にもがくグドンに、タードリィの『流水撃奥義』が襲いかかる。残っていたグドンが断末魔の叫びをあげ絶命した。

 戦いは長引いた。
 冒険者たちの優勢は揺るぎないのだが、針を警戒する冒険者たちの慎重な構えは攻撃の手を緩めることに繋がっていた。だが、だからこそ、幾度となく毒を注入されても未だ倒れる者がいないのではあるが。

「キッキキー!」
 女キマイラはジョルディの技の影響から抜け出すと、尾針を四方八方に突き出しまくる。前衛全員に繰り出された尾針は、ジョルディ、ヨハンの体を捉える。体内に毒が流れ込み、痛みと痺れが全身を襲う。
「なんの、皆の代わりに攻撃を受けるは重騎士の本分。これごときでは倒れはしない」
「心に迷いなく、曇りなし」
 そこにカズハの歌声が響く。『高らかな凱歌奥義』がヨハンの体を正常に戻す。
「全てを焼き尽くす炎よ!」
 シルスの描いた紋章から、巨大な火の球が姿を現した。シルスの求めに応じ、女キマイラの体を一気に焦がす。
「お前の首は俺が狩ってやるよ!」
 続いてキョウの『デストロイブレード改』が女キマイラの傷を更に抉る。
 さらにヨハンが『サンダークラッシュ改』を打ち込み、体勢を乱す。
「これでどうです?」
 刀身の黄金色が陽光を反射させる。ジョルディの黄金色の愛刀『牙王剣』が振るわれ、最後の『氷河衝』が女キマイラを捉えた。
「破断!」
 全裸を縮れた髪の毛で隠したその女は、凍りつき、そして砕け散った。

●鼠穴
「田畑に埋めるわけにはいきませんからね」
 ヨハンが道の周囲に広がる二十近い死体を見て言い放った。
「村とか畑の近くに、こんなたくさんのグドンの死体は気持ちのいいものじゃないなぁ〜ん。ちょっと離れた所に運んだほうがいいかなぁ〜ん」
「そうだね、村人や旅人だけでなくのの獣たちもいい気分はしないだろうね」
 ルアの問いかけにキョウが頷く。
「あの先はいかがでしょう? ちょうど緩やかに丘が盛り上がっていて、道から見にくくなってます」
 ヨハンの見つけた辺りが掘り返された。
 暖かい日差しの下の労働が生んだ汗を拭いながら、シルスは空を見上げる。緑の瞳の先には、黒い太陽がそびえる。
「このようなことは早く終らせないといけませんね」
 カズハは頷き、死体を穴に埋める作業を続けた。
「……願わくば来世では良き友になれること願うでござる」
 埋め終わったところで、ハヤテが黙祷を捧げる一方、ジョルディはタードリィに引き立てられ、丘の上に看板を立てていた。
「これで近寄って怯えるやつもいねえだろ」
 タードリィが『グドンどもの死体』と彫り込んだ木柱を二人して大地に刺すのだった。

 その後、村に戻った一行は、西のウサギグドン退治も無事済んだことを村人から耳にし、安心して帰途につくのだった。


マスター:珠沙命蓮 紹介ページ
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作成日:2009/04/07
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