土竜と桜花



<オープニング>


 たくさんの桜の花が咲いている。
 そこは山の斜面一帯に桜と梅が植えられていて、今は盛りの桜で覆い尽くされていた。
 活動的なモグラが地面にいくつも穴をあけて、モグラ塚を作っている。
 ずいぶん、でかい。
 何がって、そのモグラの穴が。ちょっと尋常ではない。

 酒場で、食淫に耽り艶笑する霊査士・ユラ(a90261)は甘い桜餅(中身は餡ではないが、聞かぬがよい)を食べながら、微笑んだ。
「モグラ退治です。大きいといっても……」
 依頼を受ける冒険者達を見回して、一番背の高い人を示して言った。
「この方の、きっかり二倍ですね」
 依頼は切実であった。
 元々、地盤の緩い山の斜面で、田畑を作るのに適していなかったため、せめて見目善いように梅や桜などを植樹したのである。
 そこへ、大型モグラ。
 斜面の下には村が存在し、これで雨が降ろうものならどんな悲劇が起きるか。
「春は雨も多いですし。急ぎのお仕事です。現場が特殊なためもありますが、普通の土地でも巨大モグラに地下トンネルを縦横無尽に造られては、地盤沈下地域にされてしまいますからね。どこにも生きていく先がないのです」
 言いながら、ユラは巨大なスコップを人数分手渡した。
「ほかにいい方法があれば、そうしてください。一応、お持ちくださいな。モグラは一匹ですから、それだけは救いですね。火を吹いたりもせず、黙々と土の中を掘っていくだけです。ではいってらっしゃい」


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参加者
闇に翔けるは銀の光・ネロ(a44481)
ガラクタ製作者・ルーン(a49313)
者語・ヤイバ(a63475)
蒼氷と共に歌う白翼・ライナ(a66736)
聖風の戦姫・アヤセ(a72388)
光の先へと向かった静観者・ハク(a75184)
冥闇を纏いし紫眼の走狗・レィウ(a76642)
黄金の都・ディアブルー(a77484)


<リプレイ>

●モグラ退治
 一同は麓の村に立ち寄った。
 モグラを退治するというと、村人達の顔に恐怖が走った。
「山津波がくるかもしれんっ」
 彼らは即座に避難を開始した。
 山津波とは、山崩れのでかいものを言う。
 長年住んでいる人間がこの反応であるから山の地面はかなり危ないことになっているのではないかと、冒険者たちは心した。
 危険は覚悟の上である。早くモグラを退治しないと村人の危惧が現実になってしまう。
「民の暮らしとその心を癒す花々を護る為に、いざ往かん」
 宝石のような青い瞳と髪を持ったセイレーンの少女、黄金の都・ディアブルー(a77484)は勇ましく言った。
 大モグラの暴れるという山を急ぎ登った。
 斜面はそれほど急ではない。走って登るのは辛いが、歩いてなら冒険者達には楽に登れる。四つ這いにならなければ登れない難所は今のところ見あたらない。ただ下を見下ろすと、けっこうな角度だった。石を転がしたら惨事が起きること請け合い。
 桜はちょうど満開で、花霞が視界を奪う。
 下界を見下ろせば、村人達は避難の真っ最中で、それもまた花枝によってだんだん隠れていく。
 梅に桜、希に銀杏などの樹木の根が土を掴んで固定しているのがわかる。ときたま、その根っこに足をとられることもあったが、一同はソレのある場所に危なげなく到達した。
「うわっ、こりゃデカイな! 想像以上だぜ……」
 闇に翔けるは銀の光・ネロ(a44481)が叫んだのは無理もない。普通のモグラの作るものの軽く十倍はある塚である。こんもりと山になっている土。猫の尾を持つ少年は用心深くカットラスに手を添えながら、少しかがんで塚を見てみた。真新しい。土が乾いていない。
 ここから人間が一人ずつなら入れそうである。が、こんな脆い地盤に入って生き埋めにされるのはごめんだ。
 小さな翼を持った少年、誓いを抱きし白翼の歌声・ライナ(a66736)は「厄介な場所に出たものですね……」とため息をついた。
 とにかく、地面から引きずり出すかおびき出さねばならない。地中で暴れさせるのは得策ではないから、誘うための餌の準備に取りかかった。
 モグラの餌は主に昆虫類とミミズだが、さすがに集めにくかったのでディアブルーは生肉をミンチにしたものを用意。
 犬の尾を持っている少年、狗尾草・レィウ(a76642)もあの騒然とした村の中で、なんとか一人二人捕まえてモグラの餌になりそうなものを貰ったので、混ぜてみる。バッタの佃煮だったが、生肉よりはモグラの食性に近いはずだ。
 これにさらに匂いをかきたてるために、ネロが持参した香草を混ぜ。
 えげつない色の、気持ち悪い匂いの品ができあがった。
「うわぁぁ」
 三人はその異様な刺激臭に涙目になりながら、真新しいモグラ塚に餌を置いて、そばから少し離れた。
 穴は古いのと新しいの、風か何かで崩れてつぶれているのと、痕跡も合わせれば八つある。各自でモグラの穴がどんな風に伸びているか探ってみた。
 ディアブルーは10ftの棒で、地面を突いて柔らかさを確かめてみたが、ずるりと入ってしまう場所もちらほらあって危険だった。彼女が危ないぞ、と声をかけるのも間に合わず、
「きゃっ」
 聖風の舞・アヤセ(a72388)の右足が地面の中にめり込んだ。地上付近を走るモグラ穴の真上を踏んでしまったらしい。このエンジェルの少女は一同の中で一番背が高く、太刀を所持していたため他の人より重かった。
 今回、依頼を受けたときに「男性の方もいらっしゃるのにその方々より大きいなんて」と、軽く気に病んでいたところに、重みでも引っかかったので、「背が高い女性は可愛くないですかね?」と、心配になって、足を引き抜きながらそばにいるガラクタ製作者・ルーン(a49313)に問いかける。が、十三歳の少年が年上の女性に答えるのにはいささか難しい質問である。
「可愛いと思うよ」
 と、女の子のように可愛い男の子が言っても信憑性がない。
「あ。大丈夫です。依頼はちゃんとこなしますですから」
 落ち込むアヤセであった。
 土の中を巨大なものが動いていく気配がした。腹を空かせたモグラが血の臭い(いろいろ混ぜたミンチ肉)に惹かれて動き回っているのだ。
 ルーンは素早く足下のしっかりしていそうな場所を探したが、いずこも同じである。かろうじて、根が張っているところがマシとも思われたが、今度はその根が足にひっかかってよろしくない。モグラ穴の上でなさそうな、土の上程度で我慢せねばならなかった。おまけに、斜面である。
「場所の地盤がゆるいってとこが難点だね……」
 ふさふさの狐の尾を揺らした少女、瞳の物語・ヤイバ(a63475)は身軽な格好をしていた。ナイフを抜いて周囲に気を配る。
 めりめりっ。
 モグラは突然に地面を割って頭だけを出してきた。、既存のモグラ塚を通る気はまったくなかったようである。
 霊査士から大きさは聞かされていたから、心構えはできていたが、それでもこの大きさにはぎょっとさせられる。3メートル半の巨体である。こんなものが地下を心のままに掘って回ったら、山津波も起きもしよう。
「こんな場所で暴れられても困りますし……眠っていただきましょう」
 ライナは竪琴を奏で、眠りの歌を紡いだ。
 が、モグラは音に驚いて再び地面に潜ろうとした。頭しか出してないのですぐに潜れてしまう。
「みんな、テンペストフィールドを使うから気をつけてくれ!」
 ネロが言うと同時に、荒れ狂った風が周囲に吹き乱れた。敵味方問わず、その場にいる者たちの力を高める風だ。
 モグラは当然、地面に潜る速度が速くなった。
 光に生まれ闇に生きる静観者・ハク(a75184)は「逃がさない」と走り込んだが、間に合わない。指先に神経を集中した技指天殺は、相手に触れなくてはならないのだが、寸前でモグラは完全に潜ってしまった。
 引っ込み思案のリザードマンの少年は、またみんなの目が恥ずかしくなって近場の木陰に隠れてしまった。
 その後、しばらく待ってみたが、動きがない。警戒させてしまったようだし、そもそもモグラは地上には出たがらないのだから、ただ待つのでは無理だろう。餌はもう罠だとばれてしまっている。
 ルーンはクリスタルインセクトを召還して、その穴から偵察させに潜らせた。神経を集中させて、暗く狭い穴を探索する。カンテラを下げているので、なんとか周囲や枝分かれの道がわかる。
 地面の中で巨大モグラと遭遇。頭突きを食らわされた。攻撃されたクリスタルインセクトは自動的に、戦闘モードになる。ルーンは引き返すよう疑似生命体に意識を送ったが、方向転換するにはこの穴はちょっと具合が悪い。お世辞にも小回りの利く体型ではないため、身動きが取れなくなってしまった。
「モグラの習性として『自分の巣穴に異物が入った場合除去する』というものがあるので、クリスタルインセクトと闘いになってしまいましたね」
 と、ライナ。
 小柄な大人サイズと、大人の二倍サイズのモグラが地面の下で暴れれば、緩い地面はぐだぐだである。
「揺れ、揺れてるっ」
「ま……負けませんです」
 揺れている中心に走り寄る一同。
 ずずずっ……どどどどぉ〜。ばきっ。
 いやーな轟音が彼らのいる場所より下あたりからしていた。
 振り返って惨状を確認したヤイバは冷や汗をかいて「や、やっちゃったの、かな?」と呟いた。
 半分以下の大きさのクリスタルインセクトは敵モグラに打ち負かされて消失してしまったが、モグラも深く傷ついて動けなくなっていた。
「ほっといても死ぬかもしれないけれど、回復するかもしれない」
 と、壊れる寸前に見た情報をルーンは口にした。
「アヤセ殿と我で、あたりをつけてソニックウェーブをありったけ撃ち込む、か?」 
 と、レィウ。
 その技ならば障害物を通過して敵にあてることはできる、が。
 だがみんなもうわかっていた。
 モグラが動けない以上は、地面を掘って生死の確認をする、生きていたらとどめを刺す、というほかないということを。
 そしてみんなはスコップを手にした。

●花見
 モグラの死体と穴を埋め終わり、騒動でやや花の散った桜の下で、一同は一息ついた。
 皆、泥まみれであったが、ともかく闘いは終わったのだ。
 一応、モグラは退治したし、幸い村を飲む手前で山崩れは止まっていた。津波と呼ぶほど大規模にならなかったのは運が良かった。村人も避難していてよかった。
 土石が崩れたおかげで、モグラ穴もほとんどつぶれたようであるから、今後の心配はないだろう。
 梅は生命力があるからこんな状態でも生き延びるだろうし、桜は……7割方無事である。
「よかった。思ったほどひどくなくって」
 ヤイバは安堵してアハハと笑った。
 これで心おきなく花見ができる。
 みんなで持ってきたお弁当を広げた。
「皆さん、よろしければ食べてください。……モグラに狙われなくてよかったです」
 と、ライナはたくさんのお弁当を広げた。料理が得意な彼は作るのも、食べて貰うのも楽しみであった。
 肉体労働のあとのお弁当はとても美味しかった。
 ハクが恥ずかしそうに木陰に隠れてちらちらとこちらを見ているのに気がついて、ディアブルーが側に寄った。
「どうした? 皆と一緒に食べないのか」
 ハクは木の幹に半分隠れてしまいながら、
「これ……みんなで……食べようと思って……」
 と袋に入っている桜餅を差し出す。ハクの白い鱗が今はほんのりピンクに見える。
 ディアブルーが少年の背を促すように押して、仲間の元へ。
「我が旅団自慢の飲み物はいかが?」
 と、ネロはみんなに白い液体を注いだ。『背が伸びる〜乳』と瓶には書いてあり『〜』のところはネロの手に隠れて読めない。
「ただし、本当に伸びるかは保証しないぜ?」
「きれいな桜ですね。見にきてよかったです」
 ライナは少し寂しげな顔で桜を見上げ、「葉桜になる前にあの方と来たいですね」と呟いた。
 弁当が終わると、レィウは持参してきたクッキーやカップケーキを皆に配りながら、
「それにしても、なぜあんな巨大になってしまったものか」
 と、気になって、モグラを埋め直した塚のあたりに目をやった。
 未成年しかいないので、酒も出ず、穏やかな花見をみんなでゆったりと楽しんだ。
 桜の花は静かにひらひらと散っていた。


マスター:無夜 紹介ページ
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ガラクタ製作者・ルーン(a49313)  2011年11月22日 22時  通報
崩れる事への対策に色々考えていたのですがクリスタルインセクトの予想外の働き……。
大きな問題はなかったようなのでよかったんですけど。