【春の谷のリップルクラット】ふんわりミモザ



<オープニング>


●春の谷のリップルクラット
 遥か彼方まで広がる春の青空は、日毎にその色合いを変えていきます。
 明るい春の陽射しに白練色に照り映える谷の奥、空飛ぶ鳥が見下ろせば山の一部をスプーンで掬い取ったように見える地にある村、リップルクラットから見上げる空は、綺麗に咲き誇るヒアシンスの花を澄んだ水に映したみたいな色をしていました。
 明るい水の色に潤う空に深い青をひとしずく落としたような、心を優しく包んでくれる澄んだ青空を背に、春の盛りを迎えたリップルクラットでは、眩い陽の光をぎゅっとあつめたみたいなミモザアカシアの花がいっぱい、いっぱいに咲き零れます。空飛ぶ鳥の視点で見ることができたらきっと、春の陽がふわふわとした形を持って村に降り積もっているような、そんな景色に見えるはず。
 村全体を包むようにミモザアカシアが咲く風景。
 これが『春の谷の』リップルクラットという名の由来だと言います。
 明るく、眩く、ふんわりとしたミモザアカシアが咲き零れる、春の谷がまさしく春の谷たるこの時期に、リップルクラットはもっとふんわりしたものでいっぱいになる。
 そう言って誇らしげに胸を張るのは、リップルクラットの若き村長、サイラス・リップルクラットです。
 ふんわり咲き零れるミモザアカシアよりももっとふんわりしたもの、それは、空に浮かぶ綿雲よりも軽やかでふんわりとした毛をたっぷり持った、リップルうさぎと呼ばれるこの村独特のうさぎたち。
 遠くから、いえ、この時期なら近くから見てもふわふわの毛玉に見えてしまうリップルうさぎたちは、ミモザアカシアが満開になる前にいっせいに出産をして、花が満開になるころには花よりもっとふわふわした仔うさぎたちと一緒に村中を駆け回るのです。
 彼らの好物は地面に零れたミモザアカシアの花。
 花をいっぱい食べたリップルうさぎたちの毛には、ほんのりと花の香りが移ります。
 村のあちこちで花を食べたうさぎたちから採れた、ふんわり軽い花の香つきの毛糸やそれらで作った毛織物は、リップルクラットの名産品のひとつです。しかしある日、リップルうさぎたちの飼い主、兎飼いのターナーさんが「ここ数日うさぎたちがあまり花を食べることができていない」とサイラスに相談に来ました。それと言うのも――。

●ふんわりミモザ
「春の谷をぐるりと囲む崖の上に、不思議な力を持ったミモザアカシアが現れたからですの」
 藍深き霊査士・テフィン(a90155)はそう言って、酒場のテーブルに集まった冒険者たちに香ばしい焙じ茶を勧めました。お茶請けは、ふるふるの白玉に明るい翡翠色が綺麗な空豆餡を乗せたもの。先日もリップルクラットに向かった冒険者がお土産にと持ち帰ってくれた空豆で作られた、優しい春色が目に楽しい一品です。
 ふかふかをありがとうございましたのと幸せそうに微笑んで、霊査士は説明を続けます。
 不思議な力を持ったミモザアカシアが現れたのは、リップルクラットの村の中ではなく、村をぐるりと囲む崖の上。どうやら山奥からてくてく歩いてそこまでやってきたらしいそのミモザアカシアは、とても広い範囲に眠りの効果を及ぼす力を持っているのだと霊査士は語りました。
「眠りの力は、牙狩人の弓の射程と同じだけの距離を半径とする一帯に影響を与えますの。うさぎたちは件のミモザアカシアが崖の上から零した花を食べようとして、そこで眠りに落ちてしまうよう……」
 眠ってしまえば当然花を食べることもできません。
 花の香りがする良質の毛が採れなければ、元男やもめで五人の子持ち、かつ三人の子持ちの未亡人と再婚したばかりのターナーさんちの家計が大打撃を受けてしまいます。また、今は崖の上にいるそのミモザアカシアも、いつ一念発起して「てやっ」と村の中に飛び降りてくるかわかりません。
 そんなこんなで、村長のサイラスから眠りのミモザアカシア退治の依頼が来たのです。
「村の中から崖を登って近づくと、ミモザアカシアは山に逃げ込んでしまうでしょうから、皆様には山の方から崖の上まで回りこんで頂くようお願いしますの。ただそうなると、件のミモザアカシアが村を背にする形になりますから、ミモザアカシアが崖から飛び降りて村に入ったりしないよう気をつけて頂く必要があるかと……」
 相手は樹ですが、山奥からてくてく歩いてきたらしいと霊査士が言うように、移動することもできる樹です。充分気を配った方がよいでしょう。
 敵の能力は、広い範囲に影響を及ぼす眠り、そして細い枝でびしびし殴りつけてくるビンタだとか。それほど強力な相手ではないから、油断さえしなければ大丈夫、と霊査士は言いました。
「退治が終わった後は、もし宜しければ村で遊んでらして下さいませ」
 リップルクラットの方々は皆様をとても好きになってしまったようですから、と彼女は笑みを零します。
 村のひとたちとお茶をしたり、リップルうさぎや村の子供たちと遊んだり、ふわふわしたうさぎの毛から糸を紡いでみたり、毛織物を見せてもらったり。
 そんな風に過ごす春の谷のひとときは、きっととてもとても幸せなものになるはずです。


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参加者
緋色の花・ジェネシス(a18131)
奏す灰白・ツェツィーリア(a20211)
悠揚灯・スウ(a22471)
空言の紅・ヨル(a31238)
白雪・スノー(a43210)
刻の白露・セッカ(a45448)
風車の唄・アテカ(a58345)
獣哭の弦音・シバ(a74900)


<リプレイ>

●ねむりのミモザ
 明るく晴れ渡る春の空は、耳を澄ませばせせらぎが聴こえてきそうな水の色。どこまでも広がる優しい色の空へ向け、綺麗な声でさえずっていた菜の花色の小鳥が飛び立ちました。
 暖かな陽射しに白練色に照り映える谷の奥にあるのは、空を飛ぶ小鳥にはまるで山をスプーンでくりぬいたようにも見える、周囲をぐるりと崖に囲まれた場所。春の谷のリップルクラットと呼ばれる村がそこにはあるのです。
 しかし今冒険者たちが向かっているのは村ではなく、リップルクラットをぐるりと囲む崖の上。何故ならリップルクラットを見下ろすことができる崖の上に、不思議な力を持ったミモザアカシアが現れてしまったからです。
 谷ではなく山から崖の上に回り込もうとすれば、見ているだけでも嬉しくなってくるような新緑の若葉いっぱいの木々の間を通ることになりました。空へ差しかけられた若葉の梢の間から降る木漏れ日はきらきらと踊り、刻の白露・セッカ(a45448)はほんのりと頬を緩めます。何だか皆とハイキングをしているような気分になってきましたが、勿論この先に待っている仕事のことは忘れません。楽しい心地になるのはきっと、何度もリップルクラットへやってきた仲間たちと一緒だからでもあるのでしょう。
「ミモザアカシアも実はマメの仲間らしいですね、先の空豆と繋がりがあるのでしょうか」
 空豆も動きましたし、今回のミモザアカシアもそのようですし……と緋色の花・ジェネシス(a18131)が首を捻ります。が、余り関係無いのかも知れませんがと続けたとおり、きっと偶然なのでしょう。
「マメのお仲間だったなんて初耳。ジェネシスさんは物知り博士ですねえ」
 これぞまさしく豆知識。豆についてひとつ詳しくなった悠揚灯・スウ(a22471)は、ちょっぴり和みながらも油断なく遠眼鏡を覗き、件のミモザアカシアを探します。今回の依頼はとても広い範囲に眠りの力を及ぼすミモザアカシアの退治です。そのミモザアカシアも、きっとおひさまの雫みたいなふわふわの花を咲かせているのでしょうけど――
「村のためにも、ターナーさんのご家計のためにも……まずはお仕事、ですね」
 頑張りましょーと張りきるスウにそう答え、奏す灰白・ツェツィーリア(a20211)も木立の彼方に瞳を向けました。樹がまばらになって、ひときわ明るい陽光が射す辺りに、ふわふわと風に舞う黄色の花が見えてきます。崖のふちギリギリっぽいところに立つミモザアカシアは、満開に咲かせた光の花をふんわり風にそよがせていました。
「逃げられないうちに……行きましょう!」
 眠りの射程ギリギリの場所から、空言の紅・ヨル(a31238)が誰よりも早く飛び出します。けれど指の間に生み出した不幸を呼ぶカードを放つためにはまず距離を詰めなければなりません。弓と同じ射程を持つミモザアカシアから先手を取るなら、やはり――
「さーミモザさん、私達と一本勝負ですっ! シバさん、どうぞ!!」
「お、おう。任せてくれ」
 皆の位置を的確に見極めたスウにびしっと振り返られ、獣哭の弦音・シバ(a74900)は黒鉄の弓に番えた真紅の矢を放ちます。そう、長い射程を持つ敵から先手を取るなら、此方も同じ射程で対抗するのが一番です。春の陽射しを貫いた矢が樹の根元で爆ぜれば、ミモザアカシアはぷるぷると梢を震わせ、此方へ向かって「むきー!」とでも言いたげな感じで駆けてきました。
「そうは行きません!」
「うん! 『てやっ』って捕まえるんだよ!」
 けれどシバに突撃しようとするミモザアカシアへ向け、ツェツィーリアと風車の唄・アテカ(a58345)が流麗な紋章陣を描き出します。輝く紋章陣からは白蛇の息吹と虹の色を纏った銀狼が飛び出して、樹の幹や枝に噛みつきミモザアカシアを組み伏せました。
「ヨル、行こう!」
「うん!」
 軽やかに地を蹴った白雪・スノー(a43210)がヨルに声をかけました。皆と話し合った作戦通り今の内にミモザアカシアを囲んでしまえば、樹が村へ飛び降りる心配もなくなります。ミモザアカシアの後ろへ回り込んだ瞬間、ヨルは今度こそ不幸を呼ぶカードを放ちました。
 同様にジェネシスもミモザアカシアの背後に回りこみます。怒ったミモザアカシアが此方へ近づいてくれたため、移動すると同時に黒き炎を身に纏うこともできました。
「私もてやっと行きますよー!」
「ん、もうちょっとそっちに飛ばすから……皆、気をつけて」
 鈴蘭咲く術手袋に覆われた指先でスウが紋章陣を描きます。続けて輝ける紋章陣を宙に刻むのは、ミモザアカシアの背後に回り込んだセッカです。スウが撃ち出した木の葉の群れがミモザアカシアを包み込み、木の葉に縛られた樹をセッカの突風が崖から遠ざけるように吹き飛ばしました。
 不幸の烙印を刻まれ縛めを解くことができずにいる樹の様子を素早く見定め、シバは眩いほどの力を秘めた雷光の矢を放ちます。鋭い稲妻に貫かれ、ミモザアカシアは花咲く梢を大きく震わせました。
 陽の光をあつめたみたいな花はとても綺麗で、ふわりふわりと風に舞う様は心を和ませます。
 優しい色のパンジーを髪に咲かせたアテカは花が大好きですが、うさぎや村のひとたちを困らせる花を見逃すわけにはいきません。リップルクラットのひとたちは、皆優しくしてくれたから。
「だから……たくさんたくさん恩返しするよ!」
 織り上げた紋章陣が輝いて、そこから虹の七色に変幻する木の葉の群れが噴き出しました。
 虹色に輝く木の葉がミモザアカシアを包んで行く様は、まるで夢の光景のような気さえします。ひとつ、またひとつと暖かな春風に舞う花も思わず微笑みたくなってしまうような風情ですが、油断するわけにはいかない、とヨルは気を引き締め魔力を手繰ります。影から奔らせた虚無の手が深く樹を抉ったところへ、すかさずジェネシスが炎の蛇を撃ち込みました。
 黒い染みのような不幸の烙印はまだミモザアカシアに息づいていて、樹が身体の自由を取り戻そうとするのを阻みます。けれど冒険者たちの攻撃がその息の根を止める前に、フッと染みが消えました。
「……解けます!」
 咄嗟に身構えたツェツィーリアが叫ぶと同時、蛇の息吹を篭められた深い縛めまでをも勢いよく振り払ったミモザアカシアが、花咲く枝をざわざわと震わせます。その瞬間、辺り一帯に甘く優しい花の香りがふんわりと広がっていきました。
 ――どうか、私とみんなを護って……!
 春の優しさそのものみたいな香りが意識を眠りの中へ引きずりこもうとします。けれどスノーの強い意志は魂の底へと触れ、戦場に立つ獣の柱の力となって彼女を目覚めへと導きました。白銀の杖で軽やかに大地へ触れ、スノーは透きとおるような力で祈りを紡ぎます。
 彼女に任せれば、皆も大丈夫。
 同じく獣の柱の力で踏みとどまったセッカは、揺るぎない信頼をこめ一瞬だけスノーを見やり、再び敵を見据えて紋章陣を織り上げました。解き放つのは、鮮やかに燃え立つ焔の球。
 風を焦がして翔けた小さな太陽がミモザアカシアを焼き焦がします。ミモザアカシアの背後に回り込んだスノーの祈りは正面にいる者たちには届きませんが、火球の輝きにツェツィーリアの儀礼剣が清らな光を返す様にシバは頬を微かに緩めました。花の香りを防いでいたらしい彼女が凱歌を歌えば、此方側で眠りに落ちた味方も大丈夫。獣の柱で一足先に覚醒した自分の役目は、ミモザアカシアへの攻撃です。
 生み出すのは眠りを払う風でなく、鮮やかに輝く雷光の矢。
 水晶の鈴を震わせたみたいなツェツィーリアの歌が響く中、宙を奔った稲妻がミモザアカシアの幹に突き立てば――光の花を咲かせた樹は、めりめりと音を立てて、真ん中から二つに裂けました。

 一息ついてふと崖から望める景色を見下ろしてみれば、そこには春の陽だまりがふわふわと形を成したような、優しい黄色をしたミモザアカシアの花がいっぱいに咲き零れる村の姿。
 平和な平和な――春の谷のリップルクラットが、そこにありました。

●ふんわりミモザ
 暖かな春の風は陽と草と水の香りを抱いて、白練色の谷を抜けリップルクラットへと辿りつきます。
 白練色の崖に挟まれていた視界が一気に開ければ、瞳に映るのは光のしずくをふんわり咲かせた、眩く柔らかな黄色のミモザアカシアに抱かれた村の光景です。
「こんにちはー!」
「崖の上のおかしなミモザアカシア、退治して来ました」
 真直ぐに駆けたスウが明るく声を張りあげて、ツェツィーリアが微笑みながらそう言えば、村の皆からはわぁと歓声があがります。賑やかな声に驚いたのでしょうか。皆の足元にいたふわふわの毛玉の中から、ぴるぴるっと動く長いうさぎの耳が見えました。
「これが……リップルうさぎ?」
 こんにちはと挨拶をしたセッカが首を傾げれば、空の綿雲よりも真白でふんわりしたそれを抱きあげた子供が、はい、と彼女にそれを抱かせてくれます。柔らかで温かなそれを胸に抱けば、ふわふわの毛の中からつぶらな瞳とひくひく動く小さな鼻が覗きました。
「ふふ、可愛い……」
「初めまして! アテカだよー……ふかふかだね〜」
 一緒になって覗き込んでいたツェツィーリアとアテカも満面の笑顔になってしまう可愛らしさです。
 仔うさぎ抱っこする〜? と子供たちに訊かれ、顔を見合わせた二人は思いきりよく頷きました。
 大人のてのひらくらいの大きさをした仔うさぎたちは、ひときわ柔らかふわふわの毛に覆われていて、まるで小さな毬のようにまんまるです。てのひらで何やらもそもそ動いていた仔うさぎがくるりと向きを変え、ツェツィーリアと瞳を合わせ不思議そうに小首を傾げました。愛しい愛しい、小さないのち。
 私もうさぎさんと戯れたいのです、と意気込んでうさぎを抱きあげたスウが瞳を瞠ります。
「ふおお……なんというふかふか!!」
「おねーちゃん、空豆の時も『ふおお……な、何というふかふか!』って言ってた〜!」
 あまりのふかふかっぷりに感激の声をあげれば、周りの子供たちが楽しそうに笑いました。これは流行語誕生の予感です。スウがうさぎに頬ずりし、ほのかな花の香りに幸せを感じている間にも、新たな流行語は子供たちに広がっていきました。
「あのね、まず最初にね、こーやってうさぎをなでなでして、『ふおお……なんというふかふか!』って言わなきゃいけないのー」
「こ、こうか……? ふ、ふおお……なんというふかふか!」
 村のひとたちが用意してくれた美味しい紅茶と空豆パンをゆっくり味わったシバも、子供たちと一緒にうさぎを撫でてみます。自分の獅子の顔にうさぎたちが怯えたらどうしようとこっそりどきどきしていましたが、子供たちの教えのおかげかそんな心配はなさそうです。
 優しい香りを漂わせるふんわりしたミモザアカシアの花をてのひらに乗せ、そっと差し出してみれば、うさぎはふんふんと花の匂いを嗅いで、シバの手からはむっと光の花を食べました。
 膝に乗せた仔うさぎをふんわり撫でながら、ジェネシスは何とも微笑ましい「ふおお」の儀式の様子に瞳を細めます。紅茶のおかわりをどうですかと声をかけられ、お願いしますと頷きました。
「何かありましたらまたお声をかけて下さいね。喜んで馳せ参じますから」
「うわ、ありがとうございます! 凄く心強いです!!」
 微笑んでそう言えば村長のサイラスは大喜びで、ジェネシスのカップを紅茶でいっぱいにしてから彼の手をとり、ぶんぶんと勢いのよすぎる握手をします。いつかまたこの村を訪れる時には、霊査士や他のひとたちも連れて来られれば素敵です。それはきっと、とても喜ばしいことだと思うから。
 辺りにふんわり漂う花の香りをかきまぜるように、暖かな風が吹き抜けます。
 細波みたいな音を奏でてミモザアカシアの梢がさざめき、ふわふわとした眩い光の花が、幾つも幾つも風に舞いました。明るい黄色の花は春の陽射しに明るく深く色を変え、優しい光の雨となって皆の周りに降りそそぎました。
「これ……ゴールデンシャワーと呼ぶそうですね」
 きらきら降りそそぐ光は、まるでリップルクラットが自分にくれたもののよう。
 眩しげに瞳を細めたツェツィーリアがそう紡ぐのに頷いて、ジェネシスは手にした胡琴で心のままに幸せな旋律を奏で始めます。応えるようにツェツィーリアも頷いて、幸せをもっと暖かに膨らませるような歌声を乗せました。優しさと暖かさをこの谷やひとびとに返せるよう、感謝を込めて。
 来年の春を楽しむならここがいいなとセッカがうさぎを抱きしめます。次の春に「お久しぶり」と言えたらきっと素敵。たくさんのうさぎに埋もれたスウも、仕事抜きで遊びに来たいなと思います。
 だってもう、リップルクラットは第二の我が家みたい。
 次に来た時は「こんにちは」ではなく「ただいま」って言ってみよう。
 リップルクラットのひとたちはみんなきっと「おかえり」と迎えてくれるはず。
「そうだ! アテカお手紙書くね!」
「まぁ素敵。なら皆で読めるように、私とサイラスで子供達に字を教えておくわね」
 村長夫人のジュディとアテカのそんな遣り取りに、シバの心も和みます。
 優しく輝く太陽のもと、皆とこうして笑顔で繋がっていると思えることが嬉しくてたまりません。
 たとえ遠く離れたとしても、同じ時を笑顔で過ごした皆を思い出せば、自分は決してひとりではないのだと感じることができるでしょう。
 暖かな光の花が、心にふんわりと咲くかぎり。

 真白でふんわりしたうさぎを抱きあげれば、伝わってくるのは暖かな温もりと命の音。
 柔らかに抱きしめた優しい命に口元を綻ばせたヨルが振り返れば、やっぱり真白なうさぎを抱きあげていたスノーの銀の髪と真白な翼が、穏やかな風にふわりふわりと揺れました。
 ふんわりまっしろコンボに完敗とふるふる震えつつ、ヨルは彼女の傍らに腰をおろします。きらきら輝くスノーの髪についた花を摘みとれば、何だかふんわりした花が美味しそうに見えてきました。
「ふふ、お花の味がする」
「……ヨルったら、食いしんぼね」
 光の花を口に入れて笑みを零せば、スノーもつられたように微笑みます。
 紅の唇に触れた光の花が甘いお菓子のように見えたから、スノーは自身の唇で掠めるように彼女の唇へと触れました。お花の味がすると笑みを深めれば、頬を染めた彼女も笑みを咲かせました。
 春は、世界は、こんなにも美しくて。
 出逢うひとはみな、優しくあたたかい。
 私をここへ連れてきてくれてありがとうと手を取られ、一緒に来れて良かったとヨルも手を握ります。
 手を繋いでうさぎを抱いて、楽しそうに笑い合う皆のもとへ向かいました。

 絵本をめくるたび、空豆をむくたび、ミモザアカシアが咲くたび、きっと必ず思い出すでしょう。
 皆と一緒に過ごした、春の谷のリップルクラットの想い出を。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2009/05/01
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