酒樽亭の探索



<オープニング>


「相変わらず人が居ませんね、この酒場は」
「まあ、もう諦めたよ」
「枯れてますねえ」
 ここは酒樽亭。夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)のお気に入りの酒場の1つである。
 久々に訪れた酒樽亭は、やっぱり寂れていたわけだが……。
「で、ミッドナーが1日借りきったらしいんだけど。帰ってこないんだよね」
 トレジャーハンター・アルカナ(a90042)はそう言うと、ふう……と溜息をついた。
「なんかイイお酒が入ったとか言ってたから、飲んでるうちに時間忘れたんだと思うけどねー」
 大して心配していないような口調で言うが、やはり心配なものは心配なのだろう。
「で、そういうわけだからさ。ミッドナー探しに行かない?」
 要は、ちょっとした宝探しゲームだ。
 場所は酒樽亭。
 宝物はミッドナー。
「えーとね、酒樽亭は2階建てで、地下室が1つと倉庫が1つみたいだね。何処にいるかはよく分かんないけど、まあ、きっと何処かで飲んでると思うんだよ」
 実にアバウトだが、きっと正解である所が恐ろしい。
「見つけた人には……そうだなあ。うん、きっとミッドナーが何かくれるんだよ♪」
 賞品も実にアバウト。
 しかし、ちょっとしたかくれんぼと考えれば、少しばかり趣向を凝らせた遊びと言えるかもしれない。
「じゃあ、行こっか、皆!」
 こうして……史上最大にどうしようもない宝探し……もといかくれんぼが、幕を開けたのであった。


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参加者
NPC:夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)



<リプレイ>

「酒樽亭に来るのも久しぶりだなぁ……」
「うむ、久しぶりじゃのう」
 そんな漢・アナボリック(a00210)の言葉に、光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)が頷く。
 そう、此処は酒樽亭。いつでも客が来ない事で有名な酒場だ。
「……つか、何やってんだミッドナー」
「全くだよね〜」
 紅虎・アキラ(a08684)とトレジャーハンター・アルカナ(a90042)が、やれやれと肩をすくめる。
「こうなったら酒場の酒全部飲み干される前に見つけるしかないか。や、流石に全部飲み干す程では無い、はず……ううむ」
「酔い潰れるのが夢とか言ってたからねー、たぶんどっかで潰れてるとは思うんだよ」
 酒豪のミッドナーではあるが、さすがに酒場1つを飲みほす程ではないはず。
 それに、それよりも。アキラには許せない事が1つあった。
「とりあえず酒を1人占めになんかさせてたまるかー!」
「若い奴は元気だなぁ。探すのは若いもんに任せよう」
 何やら年寄りじみた事を言う、アラフォーのアナボリック。
 まだまだ若いので動くべきだ、とはアルカナの談だ。
「じゃあ、早速探そうか。ぼく、地下行くよ」
 エンジェルの紋章術士・シャインタスク(a78649)の言葉に、何やら「若さとは何か」という論議をしていたアナボリック達も頷く。
 こうして、ミッドナー探索が始まったのだが……。
「酒場のマスターさんは……いらっしゃらないんですねぇ」
「俺も見た事無いよ」
 朔と晦の黒狐・ラティ(a76500)の呟きに、アナボリックがワインを傾けながら答える。
 基本的に集まる時は借りきっているので、マスターは旅行に出かけているらしい。
「ミッドナー殿ー、ご飯の時間じゃよー」
 中庭でウロウロしていたプラチナは、2階を何となく眺めてみる。
 確か2階は宿屋にもなっていたはずだ。そこで寝ているという事もあるだろうか。
「ミッドナー殿ー」
 言いながら、茂みを掻き分けてみたりするものの。そこにはどうやらミッドナーは居ないようだった。
「ここですか〜?」
 一方、神官戦士・イストテーブル(a53214)は何やら怪しげなL字型の棒を2本持ってウロウロしていた。
 何やら探し物があると棒が開いたりするらしいが、効果の程は不明だ。
 棒が開く度に何やら上下に激しくシェイクする踊りは何の儀式なのか不明だが……そういうものもあるのだろうと、あえて誰もつっこみを入れない。
「こっこれは……思うより疲れます」
 しかし、やはり動きの激しい踊りは疲れるのだろう。
 両手両膝を地につけて、ぜぇぜぇと苦しそうに息を吐いていると、何やらベッドの下にキラリと光るものが1つ。
「……ん?」
 イストテーブルがベッドの下に手を伸ばして見ると、何やら硬い感触。
「ぬ……くっ……ふっ……」
 ガタゴトとやりながらベッドの下のモノを取りだして見ると、1本のペンが出てきた。
「プラチナさん、ちょっと宜しいですかー!」
「なんじゃー?」
 中庭にいるプラチナに窓から顔を出して声をかけると、イストテーブルはペンを見せる。
「おお、それはミッドナーのじゃな」
 プラチナの言葉に満足して顔を引っ込めると、イストテーブルは満足そうな顔でペンを糸に結わえる。
 何やら振り子のような形にして、再び歩き始めるイストテーブル。
 どうやら、少なくともこの部屋にミッドナーが立ち寄った事は間違いなさそうだった。
「ふむ……この部屋にも居ない……という事は。倉庫でしょうか」
 不偏狂気・メルチェ(a75551)は、2階からの階段を降りて倉庫へと歩いて行く。
 1階のカウンター裏の扉を開けると、様々な香りが漂ってくる。
 保存の比較的効くものを保存してあるであろうせいか、チーズや燻製のような香りが結構強い。
 とはいえ、どれも安物ばかりで価値はあまり無さそうだ。
「食品の価値に関しては専門外ですけど……ふむ」
 メルチェは言いながら、その辺に並べられたものを品定めする。
 そう、確かに安物ばかりだが。
 味はそう悪くなさそうなものばかりが並んでいる。
 場末の酒場というよりは、大衆向けに安く提供する事を目的としているのだろうか。
 こういったモノを揃えている辺りは、店主の目利きか人格か。
 どちらにせよ、流行らなければ意味はないのだが……ミッドナーが贔屓にしている理由が少し、メルチェにも分かる気がしたのだった。
「まぁ、酔っぱらってどこかでお酒を呑んでいらっしゃるらしいので、きっとお酒の有るとこですね。地下室にいらっしゃるかな?」
「だろうね」
 ラティの言葉に、シャインタスクも頷く。
「見つけたら軽く小突いて……やるわけにもいかんな」
 一応女性だ、と溜息をつくリザードマンの狂戦士・ガイラム(a78685)に、アキラも苦笑する。
「じゃあ、宝物さんを探しに行くとする?」
 エルフの牙狩人・ティアナ(a77881)が地下室の扉を開け、階段を降りていく。
 ひんやりとした地下室には明かりが灯っていて、誰かが此処に来たのであろう事を感じさせた。
「やれやれ……こいつは当たりかな?」
「そうかもね。とにかく探してみようよ」
 ガイラムとシャインタスクは頷き合い、右と左に分かれる。
 意外と広い地下室は、それなりに人数がいなければ探索は難しそうだ。
「少なくとも、地下にいたのは確かみたいだね」
 地下に灯った灯りを眺めながら、シャインタスクは呟く。
 確かに。誰かが来なければ地下室に灯りは灯らない。
 そして、その誰かがミッドナーである事は確実だ。
「しかし……これは凄いな」
 ガイラムは、並んだ酒を見ながら独りごちた。
 銘柄を1つ1つ確かめたわけではないから分からないが、様々な種類の酒が並んでいる事だけは分かる。
 これ等を全て主人が集めたのだろうか?
「……いやあ、確かに……すげえけど、な」
 同時にアキラは気づいていた。
 あちこちの酒に、ミッドナー印のボトルキープがついている事を。
 いや、ボトルキープ……というのだろうか。
「樽キープの場合……何と言うのでしょうねぇ」
 ラティは考えてみたが、特にいい言葉は思い浮かばない。
 何故なら、樽でキープするような特異な人間が限られ過ぎていて、そういう呼称を必要としなかったからだ。
「痕跡と言う名の点の延長線上で、ミッドナーさんはきっとお酒を呑んでいるはずですぅ」
「あるいは、潰れてるかもしれないわね……宝物さん出てきて頂戴」
 ラティとティアナは辺りを探してみるが、酒瓶や酒樽が置いてあるだけだった。
「こうも全体的に酒臭くてはな……」
 ガイラムは、今日何度目かの溜息をつく。どうやら、地道に探すしかないようだが……。
「一度地下と倉庫に行ってから、庭にいたりして」
「いや、庭には居なかったのじゃ」
 シャインタスクに答えるように、プラチナが階段から降りてくる。
「他の場所にも居ないみたいですね」
 メルチェやイストテーブルといった面々も、続々と階段を降りてくる。
 どうやら、各人の探索状況を纏めていたアナボリックによれば、残るはこの地下室だけらしい、という事だった。
「ま、探してみようよ、皆」
 アルカナの言葉と同時に、全員が地下室のあちこちに散っていく。
「ミッドナー何処だー、居ないなら返事してくれー」
 無茶振りをしながら、アキラが地下室を眺めながら歩く。
「寝てるなら少し驚かしてやろうかな、1人だけ良い思いしやがって」
 言いながら辺りを見回すが、普通の酒場には充分すぎる程のものが並んでいる。
 地下室に並べられた酒はほとんどが何処ででも手に入る酒ばかりだが、所々に貴重そうな酒があったりする。
 客が少ない割に酒が多いのは何故か。何処かで寝ているであろう酒豪に答えがあるような気がしてならなかった。
「見つからないのぅ……」
「もう帰った……って事はないわよね」
 ほどなくして、プラチナとティアナは悩んでいた。
 いや、全員が集まって悩んでいた。
 探せる場所は探したはずだが……一体、ミッドナーは何処にいるのか。
 考え、もう1度他の場所を探してみようかという結論に達しそうになった時。
「ふふふ……むにゃー」
 何やら、幸せそうな声が聞こえてくる。
「今のは……」
 メルチェが辺りを見回すも、そこには彼ら以外には誰も居ない。
 だが、プラチナとアキラは顔を見合わせ、近くにある樽に目を向ける。
「くぅ、くぅ」
 今度こそ、全員が気づいた。
 そう……樽の中から聞こえてくる寝息に。
「これは……どうする」
 ガイラムの言葉に、アルカナは肩をすくめる。
「全員で見つけた……って事でいいと思うんだよ」
 かくして、樽の中で寝ていたミッドナーを取り出して起こすと、幸せそうな寝顔は一転して、いつもの不機嫌顔。
「おや、皆さん。おはようございます」
 あまりにも何時も通りすぎる態度に、全員が思わず脱力して。
 アルカナのお説教を経て、全員での宴会が始まっていた。
「ぼくまだ未成年なんでお酒は……」
「ジュースがあるわよ」
 ティアナがシャインタスクにジュースの瓶を差し出して。
「リクエストがあれば何なりとじゃよー」
 夕飯を調理しに行くプラチナを見送りつつ、アキラはグビリと酒を飲む。
 この中にある酒では、恐らく一番いい酒だ。
「いいですけどね。お酒なんて、飲めれば全部同じですから」
 何やら拗ねたような様子でグビグビ飲み始めたミッドナーに、思わずアキラは苦笑して。
「その服、白熊を見に行くときは寒くないか?」
「ボクはシロクマなんか見に行かないからいいんだよ」
 アナボリックをアルカナがつねりあげ。
「死生観、ですか」
 お酒のつまみがわりにメルチェから出された話に、ミッドナーは少し考えるような素振りを見せる。
「私は死んだ事が無いので、死に関する概念については答えられません」
 その上で、生を語るなら……と前置きして。
「私にとって生きる事は信じる事です。それは私の冒険者としての誓いであり、霊査士としての信念でもあります」
 それにですね、と言いながらアキラの前のおつまみの所有権を主張する。
「死の先にある何かよりも、生きて進んだ先にあるモノの方が尊いに決まっているんです。私はずっと、そう信じてます」
 そう言って、グラスを少しだけ高く掲げて。
「これから先、もっと大変になるでしょうが……それでも私、信じてますから」
 やがて戻ってきたプラチナも含め、全員がグラスを重ねる。
「最良の……結末を」
 最良の結末を、祈りながら。
 サイコロを転がし、様々な話をしながら。
 こうして、酒樽亭での騒がしい夜は更けていくのだった。


マスター:じぇい 紹介ページ
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