<リプレイ>
雲1つない快晴。今日も春の陽気がさんさんと……そして、次元の裂け目から、『魔石のグリモア』の輝きが照らしている。 「久々のランドアースだ! 頑張るぞー! おう!」 ガルベリオン帰りの白花天・リン(a50852)は、犬尻尾をパタパタと。その碧眼は、茫と黒い太陽を見上げている。 「グドンが群れを成すのは珍しい事ではないが、頭がキマイラもどきというのが厄介だな……」 紅眼の黒刃狼・レイヴァー(a75422)の視線は、ユーニ村の境界となる柵の向こう。 「何故、キマイラもどきは村を襲撃しようとするのでしょう……」 「この村に何か因縁でもあるのかねぇ。事情は知らねえが、思い通りにさせる訳にはいかねえよな」 エンジェルの少女の呟きに、肩を竦める煌・ベルカン(a75471)。 「ええ……どんな意味があったとしても、絶対に阻止してみせますの」 エンジェルの重騎士・メイフェア(a18529)にとって、護る事こそが本分だから。 (「子供の描く悪戯な地図も、様々の危険を孕んだ宝の地図も……描かれた線には、期待や希望が記されているように思えますから」) 「地図を記す大事なインク、絶対に護り抜くのです!」 「どうか宜しくお願いします」 朗らかなる花陽・ソエル(a69070)の決意に、依頼人のセドナは静かに頭を下げた。些か強張っている依頼人の肩を、眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)が励ますように叩く。それでも、セドナの表情に不安が見えるのは仕方ないだろうか。 脅威の潜むオークの林は、村の入り口から見える程、存外近くにあった。もし戦線が決壊すれば、村まで遮るものは何もない。霊査士が林で片を付けるよう要請したのも頷ける。 万が一には、グランスティードで駆けて村に報せる手筈となっているが、勿論、冒険者に負けるつもりはない。 「では、往こうかえ?」 形無しの暗炎・サタナエル(a46088)が言葉少なに促せば、冒険者達は力強く頷いた。
「いるか」 「……いますね」 遠眼鏡を覗くベルカンが不意に立ち止まれば、放浪する地図士・ネイネージュ(a90191)もまた、目を細めた。 オーク林に見え隠れする影。グドンにも奇襲する程度の知能はあろうが、強いボスを戴き気が大きくなっているのか、隠れる気もないらしい。 尤も、そのお陰で一般人であるセドナも気付けたのだろうが……林に入れば、早々に戦闘開始となるだろう。 それでも、緑と生きるドリアッドである護風桂花・ティーシャ(a64602)には、オークの林が息を殺しているように見えた。 「行きますか」 落ち着いた挙措で、スラリと細見剣『タクトディープ』を抜くラードルフ。他の冒険者達も武器を構え、一気にオーク林へ雪崩込む。 「貴様らは雑兵に過ぎん……早々に斃されて貰う」 出会い頭、レイヴァーの両手剣『天狼虎徹』が猪グドンを薙いだ。一撃で屠ったグドンを顧みる事もなく、彼の紅眼はキマイラもどきを捜す。 「締め潰されるがよい」 断末魔の叫びに次々と姿を現す猪グドン共へ、サタナエルの暗黒縛鎖が迸る。ペインヴァイパーのガスを纏う呪われた鎖は、眼前のグドンを尽く締め上げた。 「癒しの聖女よ!」 ソエルが齎した美しき聖女の口付けが、サタナエル自身をも縛り上げた鎖を優しく解く。 その間にも、グドンは群れなして次々と現れる。リンは、2段重ねのお弁当箱を景気良くぶちまけた。 「お肉、美味しいにゃ〜ん」 生憎と中身の焼き肉は冷めていて、匂いを振りまく……とまではいかなかったが、食い意地汚いグドンの注意は、些かなりとも引けた模様。 ギャァァッ!! 1ヶ所に集まれば、鎖に縛られたグドン諸共に、ベルカンのエンブレムシャワーが容赦なく降り注ぐ。 一方、キマイラもどきに対する手筈の冒険者達は、周囲のグドンをあしらいながらボスの姿を捜した。 「いましたっ!」 グドンの血煙舞い、絶叫が木霊する中、最初にその姿を見出したのはメイフェア。打たれ弱いティーシャを庇うべく大きく前に踏み出し、自身のスーツアーマー『女神の沈黙』に鎧聖を降臨する。 ゴアァァァッ! 怒声が轟く。林の奥から現れた老婆は、手下の窮地を見るや突撃した。 「くっ!?」 後頭部の大口からダラダラと涎が零れる。引きずられるままだった長大な青黒い舌が俄かに翻るや、ラードルフの頬を掠めた。 (「これは……」) 老いぼれた見た目に反し、キマイラもどきの動きは素早い。イリュージョンステップの助けで今回はノーダメージで済んだが、短期決戦で片を付けなければ思わぬ痛手を被りそうだ。 グギャギャッ! ボスの登場に勢いづく猪グドン。同胞の血臭に酔うに任せ、冒険者に牙を剥く。 「医術士の誇りにかけて、仲間の膝は折らせないのです!」 ソエルの呼び掛けに応え、守護天使達が冒険者達に寄り添う。 「リン様、このままでは囲まれます」 「了解。ありがと……」 ソエルの忠告に頷き、リンはキマイラもどきから離れたオークの木を背にタクティカルムーブを使った。それでも三方を忽ち怒りに駆られたグドンに囲まれる。これでボスから引き離し、逃走を阻止出来るのは良いが、絶え間ない攻撃に守護天使もすぐ霧散し生傷も急増する。 ともあれ、1ヶ所にグドンが固まれば、対処も易くなるか。再び暗黒縛鎖を放つサタナエル。忽ち瀕死の呈のグドンの群れに、ベルカンのエンブレムシャワーが止めを刺す。 「あっちです! 逃げます!」 殿に立つソエルは、全体の戦況も把握し易い。辛うじて範囲攻撃を逃れたグドン数匹が林の奥へ遁走するのを、大声で報せる。 「ちぃっ!」 ソエルがリンの回復を優先した結果、サタナエルの麻痺の反動はまだ解けておらず、グドンに囲まれていたリンの粘り蜘蛛糸が捕らえたのは辛うじて2匹。ベルカンも緑の縛撃を放つが、拘束の対象は1匹だ。 アビリティをかいくぐったグドンは残り1匹。逃亡を許したかに見えたが、次の瞬間、ビクリとその身体が硬直した。 「……グドンにはまだ効き目があるんですけどね」 咄嗟に放った影縫いの矢の足止めに、ネイネージュはうっすら安堵の笑みを浮かべたが、すぐその表情は険しくなる。 「実は、影縫いの矢はあまり得意でないんですよ……」 ゴアァァァッ! 溜息交じりの呟きは、キマイラもどきの怒声に掻き消される。 魔法的な素養が非常に強いと言われるエンジェルであるが、ネイネージュは寧ろ技に長ける。ペインヴァイパーの力で成功すれば効果は長いが、格下のグドンはまだしも、キマイラもどきが相手では中々影縫いの矢で麻痺させるに至らない。 対照的なのはティーシャか。ミレナリィドールの助けもあり、彼女の放つ気高き銀狼は比較的よくキマイラもどきを押さえた。この辺りはアビリティの相性で、適材適所があるのだろう。 「轟雷に屠れ……千鳥!!」 レイヴァーのサンダークラッシュがキマイラもどきを打つ。その電撃は刹那、体内を駆け巡り老婆を震わせた。 グドン班が猪グドンを一掃する間も、キマイラもどき班の5人も戦い続けていた。 主にティーシャの気高き銀狼に拘束されるキマイラもどきだったが、やられっぱなしではなく。 なけなしの幸運で銀狼を振り払えば、執拗にラードルフを狙う。変幻自在な攻撃を、彼はイリュージョンステップでよく凌いだ。 「おっと!?」 だが、イリュージョンステップが途切れるのを狙うかのように、キマイラの舌の攻撃がラードルフを強襲する。 バチィッ! 「メイフェアちゃん……」 「誰も倒させない……それが重騎士の、メイフェアの務めですの」 庇ったメイフェアの大型盾『聖者の贖罪』が、鞭にも似た攻撃を弾く。ラードルフに鎧聖降臨を施し、メイフェアは周囲を窺った。漸く、前衛から届く範囲の鎧聖降臨を掛け終った。これで攻撃に転じられる。 ゴアァァァッ! 響き渡る怒声――ティーシャの気高き銀狼は、拘束に至らず霧散した。再びイリュージョンステップを踏むラードルフ。レイヴァーのサンダークラッシュに身を震わせ、ギョロリと目を剥いた老婆の視線の先に……金木犀の花咲く緑髪。 「キャァッ!」 「ティーシャさん!?」 青黒い舌が一瞬長く伸びた。鋭撃にドリアッドの少女は思わず膝をつく。重い聖衣と腕に着けた『フォレストガード』に加え、鎧聖降臨と護りの天使達のお陰で一撃は凌げた。だが、キマイラもどきの癖を考えれば……ネイネージュからヒーリングアローが飛んだが、全快には程遠い。 「私が相手です!」 自身に攻撃を引き付ける術があればまだしも、1人で多を庇い続ける事は難しい。活性化したアビリティは攻撃的なものばかり。歯噛みを堪え、メイフェアは大岩斬を叩き付ける。 キマイラもどきの攻撃の前に――ラードルフのスピードラッシュが、レイヴァーのサンダークラッシュがか細い老婆に殺到する。だが、ネイネージュの影縫いの矢は、敵影を射抜く前に消え失せた。大事をとり、ティーシャはヒーリングウェーブで回復している。 グルゥゥゥ……。 キマイラもどきはまだ倒れない。凶暴に歪んだ面が、ニィと嗤ったように見えた。その視線の先は、やはりティーシャ。 (「今度こそ!」) 青黒い舌が躍る。メイフェアが動く。スーツアーマーが擦れる鈍い音を響かせ、2人の間に割って入ろうとしたその時。 「間に合ったか」 ベルカンはぶっきらぼうに呟いた。彼の魔道書から飛び出した銀狼が、キマイラもどきを押さえ付けている。 「皆、大丈夫?」 駆け寄るリン。サタナエルとソエルも後に続く。漸く、グドンの群れを平らげた4人が加わったのだ。 ソエルが再び護りの天使達を呼び出せば、猛攻に転じる冒険者達。 「一気に片を付けようぞ」 「ですね」 サタナエルから伸びた虚無の手がキマイラもどきの装甲を砕く。ラードルフの放った衝撃波は木々を透過して、確実に老婆の身体を切り裂いた。 「お返しです」 ティーシャのエンブレムノヴァが炸裂すれば、息を合わせたメイフェアの兜割りがキマイラもどきを深々と穿つ。 オ、オォォォ……。 銀狼に押さえ付けられたまま、昏い眼差しで睨み付けるキマイラもどき。辛うじて、後頭部の大口がガチガチと乱杭歯を鳴らすも、回復の雄叫びは発せられず。ダメ押しとばかり、ネイネージュの鮫牙の矢が出血を強いる。 「このような醜悪な姿でも、元はただの老婆か……心苦しいが、斬り伏せるしかないのだな」 瀕死の呈のキマイラもどきを見下ろすレイヴァー。『天狼虎徹』を一閃、神の裁きを思わせる強烈な電撃が引導を渡す。 パタリと事切れたキマイラもどきが、再び立ち上がる様子はなく。レイヴァーは眼を閉じ、静かに愛刀を仕舞った。
オーク林に静けさが戻る。 「あまりオークの木が傷ついてないと良いのですけれど……」 亡骸の片付けをしながら、周囲を見回すメイフェア。個々で気を付けていた事もあり、オークの木々に目立った被害は見られない。 「影響が無いといいのですが……後でセドナさんにも確認をお願いしましょうか」 グドンの骸を運びながら、ラードルフも気遣わしげに頷く。 「キマイラもどき……一体『何』なのでしょうね」 同じく木々を点検していたティーシャは、考え込んだ面持ちで呟く。 「見境を失くしている者に、村を襲う理由など無いのかもしれませんけれど。どうしてもどこかに痛々しさを感じてしまうのです……」 「何故キマイラになったのか。何故グドンと群れるのか……推測しかできなくて、歯がゆい事じゃな」 黒い太陽を見上げながらのソエルの応えに、サタナエルも小さく溜息を吐いて。 「すまぬな。墓碑銘を刻めなくて」 後頭部の大口もそのままの老婆の遺骸は、小さくしなびて見えた。そのまま放置も忍びなく、埋葬する事にする。 「オーク林及びユーニ村の安全確保、完了だ」 「ありがとうございました」 ユーニ村に戻り、レイヴァーが報告すれば、セドナは深々と頭を下げた。 せめてものお礼にと、セドナの工房に招かれる冒険者達。 「虫こぶが材料とは、知りませんでした。これまでにも、ここのインクで書いた物を見ているかもしれませんね」 (「インクを作るように、楽しい変化だけなら良かったんですけどね」) 興味深く工房を見学するラードルフだが、ふと脳裏を過るのは倒したばかりのキマイラもどきの事。 「どうかしましたか?」 「あ、いえいえ。何でもありません」 気持ちを切り替えようと変わった形のインク瓶を所望すれば、水牛の角をくり抜いた容器を勧められた。 「ふむ、これなら割れぬし軽い。持ち運びも易いのぅ」 「そうですね」 携帯に向いた物が欲しかったサタナエルとネイネージュも気に入ったようだ。 「濃紺のインク? うーん……私が作るインクは、ほとんどが茶色でしてね」 「そうなんだ……わぁ、面白ーい」 そう言って試し書きするセドナ。書いた直後は茶色い文字が、乾くにつれて、あっという間に美しい黒に変わる。その様子を物珍しげに見詰めるリン。 「まあ、ない事もありませんが……量は少ないですよ」 それでも、様々な色のインクは作っているそうで、希望通り、金箔が瞬く小瓶に濃紺のインクを詰めて貰う。空に透かして、リンは尻尾をパタパタと。 「ありがとうございます」 ティーシャも薔薇の意匠が美しいインク瓶を貰えて嬉しそうだ。 「俺は、変わった意匠のがあれば欲しいかな。鴉の羽根ペンを持ってるんで、それに合いそうなのでも良いんだけど」 「ほぉ、これはフラニー老のペンですね」 ベルカンの見せた羽根ペンを手に暫し考え込むセドナだったが、徐に棚から取り出したのは四角いインク瓶。濃茶のインクを満たせば、黒々とした鳥の足跡が点々と瓶の側面に浮き上がる。 「鴉の足跡か?」 依頼人の悪戯めいた笑みがその答え。 そうして、空の暗い太陽と倒したキマイラもどきに幾許かの心を残しながらも。滅多に見る機会のない匠の技を目の当たりにして、護りきったものを実感する冒険者達だった。

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参加者:8人
作成日:2009/05/20
得票数:冒険活劇3
戦闘6
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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