【惚れっぽいアイツ】君を追いかけて……



<オープニング>


●大脱走!?
「あっ、ちょうど良かった。大変なの! ま〜た、あの大猿が逃げ出しちゃったのよ!! もう1回捕まえて、きちんと森へ搬送してあげて。もう、出てこないように……ね」
 一仕事を終え、酒場に戻った冒険者たちを、渡りに船とばかりに呼び止めたのは、霊査士のリゼル。
 そして、彼女の言う『あの』とは、先にヒトの女の子に恋して、問題を起こした大猿。
 その問題っぷりたるや、強靭な顎で革鎧程度は噛み破り、大きな手はヒトの腕など握り潰すほど。実際、『彼』の底無し(に見えるほど)のパワーは、冒険者をも重傷に陥れるほどだった。
「え〜っ!! また、ったらまた〜!?」
 それを聞いて、心底嫌そうな顔をしたのは、エル(エルフの吟遊詩人・エリシア(a90005))。
「で、今回はどこの誰を好きになっちゃったのさ?」
「それが……」
 呆れたように問いかけたエルに、リゼルは、いつになく言い淀み、続く言葉を濁した。
 
●『彼』が惚れた相手は……?
「実は、今回、彼が好きになったのは、あなたがた冒険者のうちの誰か、みたいなの。どうやら、これまでの2度に渡る事件で自分をあしらってのけた皆のことが頭から離れなくなってしまったみたいね。そして、彼の強い『想い』は、何処に居ても目的の相手を見つけだす筈。 ……ある意味、獣の世界の服従心や帰巣本能に近い気もするけど……言うことも聞かないし、もっと特殊なものかも知れないわ。もしかすると……ううん、何でもない……」
「何だかリゼルちゃんってば、ヘン! さっきから、ハッキリしないし……」
「と・に・か・く……森への搬送中に逃げ出した『彼』が、いつ、どこで皆に襲いかかってくるか分からないわ。なるべく単独行動は避けて、十分に警戒して頂戴。知っての通り『彼』の忍びにも似た技術は天下一品。でも、皆なら大丈夫。きっちり捕まえて、丁重に森へ送ってあげて。仲間がいるかも知れない森にね」
「……はぁ〜い」
 気乗りしない様子のエル。
「あっ、そうそう……できれば片が付くまで街中から離れてくれると助かるわ。万一の場合に余計な問題は起こしたくないから」
「リゼルちゃんってば、冷たいね……」
(「ギクッ☆」)
 私からも離れてね…と心の中で付け加えたリゼルの気持ちを読んだかのようなタイミングで、エルは彼女を恨めしそうに見上げたのだった。

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参加者
静流の癒しの雫・リッカ(a00174)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
夢見る乙女・フィリア(a00936)
紫尾の発破娘・スイシャ(a01547)
重拳の反逆者・アルシー(a02403)
氷雪の淑女・シュエ(a03114)
サイレントシャドウ・ガス(a07813)
雲路の果てで微笑う・クーナン(a08813)
まつろわぬ神の休命の狛・トリコリス(a09482)
ブラックジョーカー・ブラッド(a09591)
NPC:楽しい事だけ考えて居たい・エリシア(a90005)



<リプレイ>


『大猿のこれまでの行いを聞き、ショックを受けるアルシー、そんな中、リッカが『彼』の狙いに思いを馳せ……そして、ブンブンと首を振る』

「何で? 動物にも変態がいるの? 変態は厭〜っ!」
 依頼を聞いた途端に、過去の様々な出来事が頭をよぎり、重拳の反逆者・アルシー(a02403)が叫んだ。
 どうやら、人生の半分(正確には冒険の半分)を変態に囲まれていたらしい。
「たいへん……だったんだね♪」
 と、言ったエル(エルフの吟遊詩人・エリシア(a90005))の口調は、同情というより、面白がっている風。

「又か、又なんだ……あの猿!? でも……今度は誰に会いに抜け出したんだろ?」
 などと考え込むような面持ちの、静流の暴れん坊・リッカ(a00174)を見、探愛の指圧師なまはげ番長・クーナン(a08813)と嘲笑う悪魔・ブラッド(a09591)が、後ろで顔を見合わせる。
「誰って、それは……でも、お仕置きされて愛が芽生えるなんて……素敵ですわね」
「そうだな。自分をしばいた女に惚れるたぁ、やっぱりあのエテ公、相当な変態だな」
 もちろん、2人が言いたいのは『彼』の狙いがリッカではないか、という事。当のリッカも、すぐに2人が何を言わんとしているか気付いたらしく……身震いしながら振り返った。
「まさか……ボク?」
 が、クーナン、ブラッドの2人は、意地悪く笑って見せただけだった……。


『故郷の忍猿と比べ、密かにライバル心を燃やすスイシャ。その逆に『彼』の行動に奇妙な感心をするガス。だが、その感心は……』

 勿論、リッカにも異論はあったが、話していたところで『彼』の狙いが分かるわけでもない。とにかく、このまま街に留まっている意味もなし、と早々に街を後にしたのだった。

「それにしても猿の分際で、忍びの術を会得しているとは生意気でござるな。拙者の祖父殿が飼っていた忍猿のサスケを思い出したでごさるよ。あの猿には、晩御飯争奪戦で随分負け越したでござるが、今度の猿はサスケより随分と手強そうでござる……」
 そんな、紫尾の発破娘・スイシャ(a01547)の呟きに、エルが間違った質問を投げかける。
「そのお猿さんもやっぱり、すぐ女の人に抱きついたりするんだ?」
「い、いや……手ごわいと言うのはその意味ではなく、忍びの技の話でござる……忍びの誇りにかけて、負けられないでござるよ」
 微かに動揺しつつも、何とか間違いを正し、誓いを立てるスイシャ。続いて、氷雪の淑女・シュエ(a03114)もスイシャをフォローする。
「さすがに斯様な者、いや猿が、そうそう居っては困るからのう……第一、猿に惚れられても、さすがに人と猿では無理があろうて」
「まぁ確かにいい加減にして欲しい感はありますが……ある意味、自分より人間らしいと言えなくもないですがね…」
(「!!」)
 と、女性にあまり興味の無い27歳、サイレントシャドウ・ガス(a07813)が、さりげなく呟き……すぐに妙なツッコミを受ける可能性に思い至る。
「とにかく……、狙われている可能性のある方々が一つに固まり、このまま目的地の森に向かう……そして、道すがら『彼』を捕獲し、そのまま搬送する、という段取りで良いんでしたね」
「そうじゃな……どの道、その猿殿の恋は実らぬと思うのでの…おとなしく森へ帰ってもらうとしようぞ」
「猿が何で拙者たち人間を見破るかというと、気配と音と匂いでござる。視覚的なものであれば、猿も忍びも視力は大して変わらぬでござるからな。であれば、工夫次第でまだまだ我らに分があるでござるよ」
 シュエとスイシャ素直に答えてくれたお陰で、ガスはイメージダウンを免れたのだった……。

 ……旅は暫くの間、極めて順調に進み、一行はいつしか目的地へと向かう林道へと入っていた。


『ブラッドの不埒な台詞に、反論するトリコリス。だが、その言葉に反応したのは他にも……。この上ないほど強い拒絶を露にするフィリア。そして、何とかして彼の気を逸らせようとするシュエ。彼女をめぐる熾烈な争いが始まっていた』

「どっかに温泉でもありゃあなぁ〜」
「何で?」
 ブラッドの呟きに、エルが問いを返す。
「そりゃあ……男だったら見たいだろ、惚れた奴の素っ裸。そん時、俺たちゃハイドインシャドウで影に隠れててよ、ヤツが油断したトコをとっ捕まえる、って寸法だ」
「ダメですっ! 女の方たちを危ない目に遭わせるような真似……」
 すかさず休命の狛・トリコリス(a09482)が反応する。決して、クーナンによって女装させられているからなどではない。ましてや、万一の場合には自らが盾になろうとまで考えているトリコリスである。純粋に女性たちを気遣ってのことだった。
「あら、それで彼が大人しくなってくれるんでしたら、私は別に……」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)がそう言った瞬間……!!

 ガサァッ!
「ウッホホッ」
「来たっ!?」
 冒険者たちのわずかに後方で、葉音とともに奇声があがり、すぐそこの地面が急に盛り上がる。
 そして、辺りの土を巻き上げ、樹々を揺らすように『彼』が姿を現したのだった。
「派手な登場でござるな。それにしても地に伏せて待ち伏せるとは……末恐ろしい学習能力でござる……」
 妙に感心しつつも、素早く距離をとるスイシャ。
 『彼』は、そんな冒険者たちの動きに構わず、エルフの翔剣士・フィリア(a00936)に向かって一直線に突き進む。
「嫌〜っ! 私をずっと想ってくれる相手が猿だなんて…そんなの、耐えられない! これが素敵な人だったら良かったのに!!」
 などと口にしながらも懸命に『彼』の動きを目で追うフィリア。
 そのフィリアのすぐ眼前まで、大猿の巨躯が迫り……
「嫌〜っ!!」
 この上ない拒絶と、それを意に介した様子もない『彼』の――熱き抱擁。
「ウホッ♪」
 ……だが、必死のライクアフェザーが効を奏し、『彼』の太い腕が空を切った。
 しかし、『彼』はそのまま躊躇うことなく今度はリッカに向かって疾走し始めた。どうやら、フィリアへの抱擁はフェイクだったらしい。
 その大猿に並走しつつ、アルシーが破鎧掌で突き飛ばそうと試みる。が、大猿の怪腕を警戒したが故に踏み込みが足りず、決定打にはなり得ない。
「大猿! こっちじゃ!」
 シュエが気を引こうと声の矢文で、あさっての方角から声を立てる。
 が、目がはぁと、な『彼』にはリッカしか見えてはいない。
「もうっ! いい加減にしないと退治する事になっちゃうよ? それでも良いの? 皆に迷惑掛けちゃ駄目!」
 リッカがハリセンを構え、声を大にして大猿を迎え撃つも、状況は明らかに不利。
 そんなリッカを庇うようにトリコリスが前に出……さらには、そのトリコリスを護るようにブラッドが脇を固め、居合斬りを放つ。
「遠慮なんかしてられっか!」
 ブラッドの叫びと共に、トリコリスの元から銀色の光条が放たれ、『彼』の胸板を直撃、さらにはブラッドも居合斬りを一閃させるが……何と、彼はその神速の刃をサイドステップで躱してのけた。
 ドンドンドン!!
 派手なドラミングと共に、再び加速する大猿。その突進がトリコリスの身体を数mも弾き飛ばし、そのままリッカに肉迫する。
 パァ〜〜〜ン!!
 その『彼』に、カウンター気味に思いっきりハリセンを打ち据えるリッカ。
 が、その会心の一撃も彼を止めることは適わず、それどころか、却って興奮したように荒い息遣いでリッカを『熱き抱擁』で包み込む……
「放せっ! はな……」
 懸命の抵抗も虚しく、次第に意識が薄らいでゆくリッカ。
 その腕を放そうと、大猿の肩めがけて、ガスとスイシャが同時に飛燕連撃を放つ。
「まさか、これも効かない……なんてことは……」
 反応の見られない『彼』に、一瞬、ガスの脳裏を不吉が過ぎる。
「キキッ、ウッキーッ!!」
 が、そうではなかった。急に甲高い悲鳴をあげると、リッカを降ろし、両肩から血を流した姿のまま、泣き崩れる。
「ふっざけやがって〜っ!」
 トリコリスが戦闘不能に陥らされたことも手伝って、怒り心頭のブラッドが渾身の力を込めた電刃衝を叩きつける。
 そして……ついに『彼』はリッカに覆い被さるように崩れ落ちたのだった。


『激しかった戦いはようやく終わった。冒険者たちも、かなりの痛手ではあったが、それは同時に、『彼』の負った手傷をも物語っていた。そんな彼にラジスラヴァは……』

 こうして、この上なく激しい戦いは、辛うじて決着を見ることができた。瀕死の2人(トリコリスとリッカ)は、クーナンの命の抱擁により辛うじて一命を取り留め、行動は侭ならないまでも意識だけは取り戻した。
 『彼』の方はと言えば、ガスがきっちりと両手足を拘束し、改めて運搬して来た檻に閉じ込めた上で、こちらもクーナンのヒーリングウェーブで傷を癒した。が、恋に一途なゆえか相当鈍かったらしく、怪我の状態はかなり酷く、ようやく落ち着いた上でも立ち上がることすら困難な様子だった。
「これで悪気がないというのだから俄かには信じ難いけど……とにかく運ぶしかないわね。しっかり調教(?)しながら……ね」
「調教だなんて、そんな……さ、怒ったりしないから、これでも食べて!」
 アルシーの言葉に何を想像したのか、赤くなりながらも、ラジスラヴァが『彼』にフルーツを差し出す。そして……、なぜ、自分たちの仲間ではなく異種族を追いかけるのか? などと尋ねる。
「このままだとあなたを殺そうとする人が出てきますよ」
 今一つ要領を得ない大猿に、やむなく脅し半分の言葉をかける。そう、ちらりと幾人かの仲間たちの顔を見やりながら……。
「……そうだよ。今度逃げ出したら……さすがにキミを殺さなくちゃいけない」
 エルに支えられながら、リッカが声を掛ける。怪我させられた事を責めるでもなく、そっと憂いを忍ばせて……。
「ウホ、ウホッ…」
 『彼』は、そんな2人の言葉が終わるや、2度頷く。
 そして……反対側から、ガスが『彼』にだけ聞こえるような声で囁く。
「この人たちに惚れたりしてたら……命が幾つあっても足りませんよ。今回でよく分かったでしょう」
「ウッホ、ウッホーッ!」
 一段と強く頷く『彼』。こうして、冒険者たちは、『彼』とのコミュニケーションを試みながら、2度と逃げ出したりしないよう、きっちりと言って聞かせたのだった。 


『二度と『彼』が下界で悪さをしないように、そして、ほんの少しの邪まな想いを胸に、クーナンが……』

「もし……どうしても私たちと会いたいのでしたら、時折ですけど、私たちの方からあなたに会い行きますから……待っていてもらえませんか?」
 道すがら、ラジスラヴァが『彼』に声を掛ける。
「そうですわ。たしかにちょっと乱暴さんですけど……私もあなたの事……嫌いじゃありませんし……」
 調子に乗って誘惑するクーナン。予想どおり、『彼』の目が再びはぁとになる。
「……だから、もう逃げたりしないで」
「ウッホホーッ!!」
 それは、『彼』の喜びの雄叫びか?
(「秋には松茸、冬には猪とか贈って下さるかも」)
 その裏で邪まなことを考えるクーナン。

(「あ〜あ、そんな事言っちゃって、クーナンちゃんってば……ボク、知〜らない、っと!!」)
 そんな様子を眺めながら、我関せずにしよう、と心に誓うエルだった……。

【終わり】(一応ね……)


マスター:斉藤七海 紹介ページ
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死亡者:なし
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