【霊査士探偵ベベウの事件簿】ブリキ怪人登場



<オープニング>


「ある少年からの依頼です。保護者と街に出た際のわずかな隙を突いて、一人で酒場へとやって来たのです。依頼の詳細はこの手紙に書かれてありました。なかなかの難事件のようですよ。それから、一枚の銀貨が同封されていました」
 薄明の霊査士・ベベウがテーブルの上にコインを置くと、冷たく小さな音が鳴った。
 彼は話を続ける。
「今回の事件は、非常に複雑です。
 まずはその経緯を、発端となったと思われる怪人の出没にまで溯ってお話したいと思います。
 数週間前のことです。全身をブリキ製の衣服で包んだ、ブリキ怪人なる人物が町に現れるようになりました。薄く伸ばしたブリキの板を、紳士の着用するスーツの形状に仕立て上げたもので、これを造った人物は相当に手先が器用であると推測されます。
 彼は、もしくは、彼女は、特に悪事を働くのでもなく、自分の姿に驚いてしまった子供には飴をあげたうえで、きちんとあやまるという優しい一面の持ち主です。
 当然、町の人たちはその正体を知ろうとしました。実害がなかったとはいえ、怪しい人物ですからね。
 ですが、ブリキ製の仮面が隠す素顔を、誰も知ることができなかったのです。
 惜しいところまで追いつめることができたとしても、怪人はいつも忽然と消えてしまうのだそうです」
 ここでベベウは言葉を切った。
 そしてカップに注がれたお茶に口をつけて、唇を湿すと、話を継いだ。
「怪人が出没するようになってからしばらくのこと、町の有力者で、危うい方法で大金を稼いでいるとの悪しき噂を囁かれる人物、マーカスという男の元へ、一通の手紙が届けられました。
 その内容は、二十歳の誕生日に息子のオスカーをこれから誘拐する、開放して欲しいのであれば身代金を支払えというものでした。
 お気づきの通り、この脅迫状の妙な点は、息子のオスカーの誘拐を『これから』と事前に予告していること。
 通常の誘拐事件であれば、わざわざ犯行を予告するなどということはあり得ません。いったい犯人にどんな益があったのか……。些細な謎ですが、事件を解く鍵となるように僕には思えて仕方がありません。
 豪胆で図太く冷酷なマーカスは、気弱で繊細かつ優美という自分とは正反対な性格のオスカーを、情けない息子だと常日ごろから罵っているそうです。彼はオスカーならば誘拐されてしまってもおかしくはないと思ったのか、ホッグという手下に護衛役を命じました。
 このホッグという人物の評判も芳しくないようです。ならず者のような服装で、夜の町を我が物顔に歩いているそうですからね。確かなことは言えませんが、マーカスの手下として、悪事に手を染めているのかもしれません。
 そして、本当に誘拐事件が発生してしまいました。起こるべくして起こった事件……と言うことができるのかもしれません」
 
 事件当日の詳細を、ベベウは以下のように語った。
 護衛が付いてから数日後、マーカスの住む母屋から、離れの自室へと向かおうとしたオスカーは、辺りを警戒しながら歩くホッグの後ろを歩いていた。
 ああ……というオスカーの悲鳴に振り返ったホッグに手痛い一撃が見舞われ、彼が最後に見たものは、ブリキ怪人の鉛色の笑顔だった。
 その後、ブリキ怪人が麻の大きな袋を引きずりながら、離れに入ったところが偶然に通りかかった近隣の住人によって確認されている。この住人ケメルマンは、倒れているホッグを介抱し、オスカーが誘拐された旨を聞かされ、慌ててマーカス宅へ知らせに走っている。ホッグが殴られ、息子が誘拐されたと聞いたマーカスは、使用人を集めて離れへと急行した。中には、何者の姿も残されていなかった。
 後日、マーカスの元へは、手紙が届けられた。後ろめたい裏の事情を抱えているのか、マーカスは冒険者たちに依頼することもなく、おとなしく身代金を支払っている。
 金の受け渡しが済むと、オスカーはふらふらの状態で戻ってきた。暗闇で監禁されていたため、自分がどこにいたのかわからなかったと彼は語っている。
 
「今回の依頼人についても、ご紹介しておきましょう。
 ロッドくんという少年です。彼はブリキ仮面から飴をもらった少年の一人で、町で大勢の孤児を引き取っているシャーマン老夫妻の元で暮らしています。
 彼らの暮らす小さな家へ、最近になってから多額の寄付があったそうです。朝にシャーマン夫人が玄関の扉を開くと麻の袋が置かれてありました。その中には、ぎっしりと金貨や銀貨が詰め込まれていて、シャーマン夫妻の活動に賛同し寄付する、との簡潔な手紙が添えられていました。
 もちろん、シャーマン夫妻は喜んでいます……ですが、ロッドくんは寄付があった日の前日、深夜にたまたま寝つけず、ブリキ怪人が通りを去っていくのを見たそうなのです。
 彼は……寄付された金がブリキ怪人によって奪われた物であることを、シャーマン夫妻に告げたものか迷っています。
 僕はこの銀貨を霊視しました。これは、間違いなくマーカスからブリキ怪人へと支払われた誘拐事件の身代金です。それだけではありません、この金をマーカスは詐欺まがいの行為で、悪徳商人から巻き上げているのです」
 再びベベウが口を開くまで、冒険者の酒場は、しんと静まりかえっていた。
「ブリキ怪人の正体は誰なのでしょう?
 オスカー誘拐事件の当日には、何が起きていたのでしょう?
 どうして、ブリキ怪人はマーカスの金をシャーマン夫妻に寄付したのでしょう?
 これらの謎が解かれなくては、ロッド少年の杞憂を晴らしてあげることはできません。
 ……ですが、それは簡単なことではありません。なぜなら、様々な可能性が残されいるからです。
 ホッグの自作自演かもしれません、オスカーの狂言という可能性もあります。
 近隣の住人なる目撃者が怪しいと言うことができますが、マーカスが歪んだ善意の使者となればブリキ怪人となることも……。
 いかようにも推測は成り立ちますが……まずは、町へ赴かなくては何も始りませんね。
 情報を集め、推理を構築し、謎を解いてください。
 どうか、ロッドくんのために」

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参加者
蒼奏・キリ(a00339)
フレッツ・ヒカリ(a00382)
紅の女子大生・ルビナ(a00869)
銀鷹の翼・キルシュ(a01318)
戦闘執事・リース(a03126)
黄昏の漣・フリア(a03388)
琥泉舞・エルクァナネア(a07950)
流しの歌い手・ウィン(a08243)
虚飾の迷図・リゼルヴァ(a08872)
銀髪の修羅・ヒムカ(a09563)


<リプレイ>

 ゲートをくぐり抜けると、そこは白い壁の家が建ち並ぶ、賑やかな町だった。
 長い銀の髪を風にすかして、しなやかな身体を伸ばすと、髪と同じ銀の尾が呼応して揺れる――銀鷹の翼・キルシュ(a01318)は思っていた。孤児のロッド君のためにも頑張ってこの謎を解こう、と。
 赤い瞳に好奇の光を携えて、蒼夜・キリ(a00339)が町の大通りを進むと、そこには元気に遊ぶ子供たちが。彼らを見て、キリは決意をさらに深める。
(「児院への寄付……良心からの寄付である事を信じて真相を調べないとね」)
 路地を抜けて、町の大広場に姿を現したのは、小柄で均整のとれた身体の女性。ヒトの武道家・エルクァナネア(a07950)は今回の事件に、子が親へと抱く強い負の気持ちがあると感じていた。
「嫉妬は『無実の事実』さえ作り出すほど、況して火の気があればね……」
 そう呟くと、軽やかな身のこなしでエルクァネアは雑踏の中に消えた。
 最後にゲートを潜ったのは、長く伸ばした艶やかな髪を背に這わせた美しい二人の冒険者たち。
 一人は、黒髪に黒の瞳、赤の唇。身体の線に沿って流れるような衣をまとっている。
 一人は、銀の髪に黒の瞳、白い肌。何か厳格な雰囲気を感じさせる武器を手にしている。
 前者は、虚飾の迷図・リゼルヴァ(a08872)、続くのは、戦闘執事・リース(a03126)である。
「子供の杞憂を晴らすだけなら、なにも真実なんて必要ないでしょうに。名探偵の坊やとしては、怪人の心情をも汲んで欲しいってことかしらね?」
 そう囁いたリゼルヴァに、リースが折り目正しく返答する。
「探偵をやって真実を突き止めるのでございますね」
 シャーマン夫妻の孤児院を訪ね、ロッド少年の行き先を聞いた少女は、町の外れ、古くなった噴水があるという小さな公園へとやって来ていた。名を、黄昏の漣・フリア(a03388)という。
「ロッドさま、シャーマンさまから場所を聞いて参りましたの、フリアと申します」
 あ、どうも。と少年が頭を下げる。
「ブリキ怪人から飴を貰った子供さんから、出会った場所や時間、そして声はどんな感じだったのか、くわしくおうかがいしたいと思いまして」
 ロッド少年の返答は、ここで、というものだった。
 もう水の通っていない古い噴水、この広場で彼はブリキ怪人と出会ったという。 
 他の子供たちは、それぞれ別の場所で怪人と鉢合わせたというが、フリアは自分も会うことができないものか、しばらく待ってみることにした。
 渇いた噴水の石組みに腰掛けると、ロッド少年が横に並び、彼女たちは足をぶらぶらとさせて、満たされているはずの水面を蹴った。

 赤く熱せられた鉄が打たれ、白い蒸気が吹き上がる。
 リースは金属製の衣服がいかに仕立てられたのかに興味を持ち、町の鍛冶屋を訪ねていた。
 手先が器用だといえども、一人でブリキを加工するなど、鍛冶師がそれに準ずる腕の持ち主でなければ難しいだろうと考えたのだ。
 執事の隣には、キリの姿もある。着ることができるくらいに薄く伸ばしたブリキ、そんなものを作るためには、きっと特殊な工具がいるだろう。そう考えて、彼も鍛冶屋を訪ねていたのである。
「道具やブリキを買いたいという特殊な注文はなかったのかな?」
 仕事の手を休めた鍛冶屋は、キリをじっと見つめると――彼が少年なのか、それとも少女なのか迷っていたのである――ぶっきらぼうに言った。
「ねえなぁ」
「ブリキ怪人の事を調べてるので……変わったことがあれば教えてほしいんだけど」
 リースが続いた。
「この町に、鍛冶が得意な方はおられないのですか? もちろん趣味の範囲で、でございますが」
「あー、それなら教えてやれる。一度だけしか言わねぇ、俺はあいつのことが大嫌いなんだ。マーカス」
 そう言うなり鍛冶師は黙り込み、鉄を打ち続けた。

 大通りから小さな路地を入ると、そこには多くの緑に囲まれた家があった。壁を這う深い緑が幾何学的な模様を作りだしている。
 ここはシャーマン夫妻と、親を亡くした子供たちが暮らす家である。
「親しい間柄で仕立て屋さんとかブリキ加工の職人さんになった人がいらっしゃいませんか」
 フリアが尋ねる。怪人とは会えなかった。
 シャーマン氏が口を開く。温和で、話し相手を安心させる、とてもいい声をしていた。
「一人、すごく手が器用な子がいましてね……でも、職人さんにはなりませんで」
 テーブルの端に着いていた、黒髪の少女が口を挟む。
 それは、いきなり核心を捕えたものだった。
「……マーカスさんはここの出身の方だったりしないですよね? その器用な子って……マーカスさんじゃないですか?」
 この質問をしたのは、蛍の・ヒカリ(a00382)、ガラスの奥の潤んだ漆黒の瞳が月夜のような光を湛え、いつも黒衣を着込んでいる少女である。
 驚いた様子で顔を見合わせていたシャーマン夫妻は、ヒカリに向かって首肯いた。
 マーカスは、孤児院の出身だったのだ。
 椅子に座らずに、立っていた少女がテーブルへと歩み寄る。
 まとった白衣の内に、明るい紅色で変わった襟の服がのぞく。それはタイトで、美しく身体の線を描き出していた。
 紅の女子大生・ルビナ(a00869)は言った。
「マーカスさんは危うい方法でお金を稼いでいるというけど、詐欺をした相手というのは悪徳商人で貧乏人ではないのよね。彼はどんな少年だったの?」
 シャーマン夫人が語るに、マーカス少年は非常に正義感の強い子供であったという。たまに危険なことに手を出してしまうが、それは夫妻たち家族を思ってのことであった。
 キルシュが言葉を継いだ。
「マーカスさんと、今でも交流をお持ちなのですか?」
 成人して職を得て独立してからも、マーカスはしばしば夫妻の家を訪ねていた。始めは金属を扱う商人として旅に出ていた彼だったが、裕福になるにつれて悪い噂が立ち昇るようになり、ぱったりと足が途絶えてしまったという。

 手にした町の地図には、赤い点が並んでいる。 
 キリはブリキ怪人に追われた人たちの話をまとめ、その地点を調べるべく、町中を探索していた。
 彼の予想によれば、ブリキ怪人が消えた場所はマーカスの家や店などの近くではないかということなのだが……。
 路地に入ったキリは、行き止まりの壁を食い入るように見つめる。隙間も仕掛けもないようだ。跳ねて壁の上を見てみるが、向こうは住宅の中庭となっている。ブリキを着込んだ怪人が素早く乗り越えられるとは思えなかった。
 キリが路地を戻ろうとすると、同行していたヒカリが一点を指差しながら彼のことを待ちかまえていた。
 関係者以外立ち入り禁止、といういかにも怪しい文字がある。
「……現場100回は推理の基本ですね、ここ、入ってみましょう」
 キリが首を傾げている。
「入っていいにょろ?」
 語尾が変わっているのは、彼が考え込んでいるときの癖だ。
 ゆったりながらも一切の躊躇を見せずに首肯いたヒカリは、キリの頭を優しく撫でながらドアを開いた。
 中は……倉庫だった。雑多な品が並べられている。奥にはもう一つのドアがあり、そこは、表通りに面した雑貨屋の店内であった。
 怪訝そうに二人を見つめる店員に、ヒカリは気づかず、キリはぺこんとお辞儀をすると、表に回って看板を見る。
 そこには、『よろずや マーカスの店』と書かれていた。
「あれ、キリにヒカリじゃないか。どうしてここに?」
 二人に声をかけたのは、キルシュだった。
 ブリキ怪人が子供たちに手渡した飴、その出所を探って町の商店を巡っていたのである。彼の聞き込みによって、町で買うことのできる飴玉は数種類あるが、怪人が配っていたものは珍しくないものであることがわかった。

 一人の冒険者が、ある家を訪れていた。
 腰に『霄燕』を帯びた彼の名は、唯一振リノ刀・ヒムカ(a09563)。
 銀の髪に指を通しながら叩いたドアには『ケメルマン』とある。
 被害者であるオスカー、そして、事件の目撃者であるケメルマン、その両者が怪しいと睨み、彼らの話に食い違いがないか尋ねるつもりだ。
 姿を現したケメルマンは、ヒムカの刀に目を留めながら部屋の中へ入るようにと薦め、事件について話を聞きたいという申し出に真摯に対応した。
 彼が麻袋を引きずったブリキ怪人が、オスカーの住む離れに入るのを見たのは、いつもの散歩に出かけた直後であったという。
「まったくの偶然でした」
 ケメルマンは断言した。

 夜が更けていく。
 昼間にフリアたちが腰掛けていた古い噴水に、狐の尻尾を揺れている。
 枯れた噴水の中には、猫たちが集う……猫の夜会が開かれているのだ。
「うんうん……へえ、やっぱりそうなんだ」
 猫たちが作る円の中心にあぐらをかいて座り、先天性道化師症候群・ウィン(a08243)が納得の表情を浮かべている。
 同行しているリースへVサインを決めると、猫たちに向かって歌った。
「どうも〜ありがとね〜♪」
 顔を洗う猫たちの、にゃあにゃあという返事に見送られながら、二人はとある家へと向かった。
「ブリキ怪人には鍛冶師と作業場が必要だと思われます。ゴミとして片が抜かれたブリキなどが出ていなかったかも、調査対象でございますね」
「うん、中に入るのはまずいだろうけど、外からならいいよね」
 建物の裏手に回って、窓から中をのぞこうとしたウィンだが、足の裏に妙な感覚を覚えてしゃがみ込んだ。
 彼が手にしていたものは、月光に照らされて鈍く光る、ブリキの破片だった。

 深夜、冒険者たちは、マーカスの館を訪ねていた。
 会見に夜が選ばれたのは、ブリキ怪人の行為が善意によるものであり、他の町人たちにばれないほうがいい、というキリの提案に皆が賛成した結果だ。
 渋々ながらも彼らを広間へと通したマーカスの他に、その場には、事件に関係すると思われるすべての人たちが集まった。
 オスカー、ホッグ、シャーマン夫妻、そして、眠たい目をこするロッド少年である。

 優雅な振る舞いを見せながらリゼルヴァが口を開いた。
「まず、超常の怪人が存在しないと考えるのが妥当かしらね」
 続いたのはフリアだ。テーブルに手を着いて、顔が隠れないようにしている。
「匿名で大金を寄付するような方が、理由もなくこんな事をしたとは思えません。なので、ブリキ怪人の正体は、シャーマン夫妻と関係がある人物で、わざと目立つ行動をして、なにかを変えたかったのかも……と思いました」
 エルクァナネアが言葉を紡ぐ。
「わざと目立つ行動、つまり、奇妙なブリキの衣裳で町を練り歩いたのは『ブリキ怪人』という架空の人物の存在を町の人たちに認識させるため……重い衣裳で動くための実験を兼ねていたのかもしれないわね」
「俺もそう思う」薄く開いたカーテンの端から月明かりを受け、ヒムカが言った。「子供に飴を配り謝りもしていたというのは、自分は危害を与えるつもりはいという意の現れだろう」
 ウィンが続いた。
「なぜ誘拐前にうろついていたのか、それは文字通りアピールだね。中に入っているのが誰かなんて想像できないほど強くね。犯行予告も一種のアピールだと思う。それだけじゃないよ、予告したことでホッグさんがオスカーさんの護衛に着くことになり、ブリキ怪人に殴られたという証言――事実と言ってもいいかな――までしてくれた」
 それまで大人しく座っていたオスカーが急に立ち上がった。
 だが、それを無言のマーカスを押しとどめる。
 その眼差しは、奇妙なことに風評による彼の印象とは異なり、憂いと優しさに充ちていた……。
 オスカーの引いた椅子の足が石の床をこすって、音を響かせる。
 そこへ、ヒカリが唐突に言い放った。
「ブリキ怪人……その正体は、あなたですねオスカーさん」
 騒めくシャーマン夫妻、目を大きく開いたロッド少年、うな垂れるオスカーと静かに目を閉じるマーカス……。
 しじまを破り、リゼルヴァが鋭い推理を披露する。
「注目するのは、ケメルマンが偶然にも麻袋を運ぶブリキ怪人を見たという点。ヒムカの調査によれば、ケメルマンは本当に偶然だったと証言しているわ。だけど、それがいつも散歩に出かける時だったとも言っている。オスカー、貴方はケメルマンにブリキ怪人を見せる必要があった、自分が入れられた麻袋と一緒にね。そうでなくては、貴方とブリキ怪人が同時に存在しているとの証言が得られなかった」
 ウィンが補足する。
「麻袋の中にはそんな大した物は入ってなかったんじゃないかな。オスカーさんが詰め込まれていたのではなくて、隠れてる間の食料、とか」
 オスカーが小さく首肯いた。
 細い指先で眼鏡を押し上げながら、キルシュが言った。
「怪人の正体は、オスカーとホッグの二人だと最初は思っていたんだけど……」
 エルクァネアが続く。
「前を行くホッグさんに気づかれることなく、オスカーさんがブリキの衣裳を着られるかしら? けれど……」
 ヒムカがまとめた。
「ホッグは背後にいるオスカーの悲鳴を聞き振り返った瞬間に一撃をくらった。最後に見たものがブリキの笑みだと。こう考えればいい、オスカー自身がブリキの面を被って悲鳴をあげ殴ったのだ。面だけなら十分に着ける時間があった。気絶間際の人間が詳しいことまで憶えているはずもない」
 首肯きながらルビナが言った。
「まさに不意打ちね、守るべき相手から攻撃されるのでは隙もできるわ」
 広間の入り口に立つリースが、しずしずと歩み出て発言した。
「マーカス様が犯人を追及しないのは、身内に犯人がいると知っておられたからでございましょう」
 突然に、広間に笑い声が響いた。
 声の主はマーカスだ。
「その通り、私は犯人がオスカーだと知っていた! まさかこいつにそんな真似ができるなどとは思ってもみなかったが、独創的で鮮やかな手口だ。私は自慢に思う」
 うつむいていたオスカーが顔を上げ、ヒカリがキリの髪を撫でながら言った。
「……オスカーさんが家のお金を寄付しただけなら罪になることはないでしょう? それよりどうしてこうなったかを考えるのが大切じゃないでしょうかね」
 オスカーが動機について語り始めた。
 父親が危険な商人たちを相手に商売することを諌めたかった。そして、シャーマン夫妻との親交を取り戻して欲しかった。なぜなら、彼は父親のことを愛していたのだ。
 金がシャーマン夫妻の元へと送られたと聞き、愕然としたとマーカスは言った。そこまでは、オスカーの行動を読むことができなかったのだ。そして、自分には敵が多く、夫妻に迷惑をかけないために親交を自ら断ち切ったのだと告白して、涙を流した。

 真相は明らかとなった。
 これからは親子二人、その関係を深めていくのだろう。 
 そう確信した冒険者たちは、そっと広間から立ち去るのだった。


マスター:水原曜 紹介ページ
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ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2004/07/13
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