キマイラ砦を陥とせ:紅の星、流るれば



<オープニング>


●キマイラ砦を陥とせ
 虚空の裂け目から魔石のグリモアが見える様になって以来、一般人がキマイラと化す事件は、発生する頻度を以前よりも大幅に増していた。
 その中で新たに確認されたのが、『どこかを目指すキマイラ』の存在だ。
 事件を起こしながら進もうとするキマイラ達と冒険者達が戦う中、ある冒険者達によって、統率された『キマイラ集団』の存在が確認される。
 さらには数々の依頼の結果から、キマイラ達が旧モンスター地域方面を目指している事が判明した。

 調査を行った『神鉄の聖域グヴェンドリン』の護衛士達は、キマイラ達が旧モンスター地域の各所にある放棄された砦を改修し、拠点として利用しているのを発見する。
 そして、それらの拠点では、キマイラとなる事を目指す盗賊達が、悪徳を積み重ねていたのだ。
 旧モンスター地域のあちこちから誘拐して来た村人達を、悪徳のための糧として……。

 この事態を放置するわけにはいかない。
 今こそキマイラ集団の拠点を壊滅にさせ、囚われた村人達を救出する時なのだ。

※※※

「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます」
 エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は、冒険者達に一礼して、状況の説明を始めた。
「今回は旧モンスター地域で発見された、キマイラと盗賊の集まっている砦を壊滅させ、囚われている村人達を救出して頂きます」
 ユリシアは、真剣な口調でそう語った。
 これらの砦の中はキマイラが支配する悪徳の街と化し、囚われの村人達は盗賊からの責め苦を受けながら、助けの時を待っているのだ。
「今回の依頼では、複数のキマイラと戦う事になります。かなりの危険が予想されますので、用心してかかって下さい」
 これ以上、キマイラの犠牲になる人達が出ないよう、確実な成功を……。
 ユリシアは願いと共に、冒険者達に頭を下げるのだった。

●紅の星、流るれば
 常よりも低い声で、紫煙の霊査士・フォルテは「話は聞いているようだな」と切り出した。
「お前さんたちには、グラール砦のキマイラを倒してもらいたい。数は6体。能力は後で説明させてもらうぜ」
 まずは討伐の流れからだ、と霊査士は静かに続けた。
「流れとしちゃぁ、こうだ。最初にグラール砦の外部に出ているキマイラ3体を倒して、そいつらの荷物を奪い砦に潜入、その後、砦の主であるキマイラを倒す。そこで3体と戦闘になる」
 一度目を閉じ、厳しい視線で霊査士は言った。 話は長くなるから、まず座ってくれと霊査士は冒険者達を見た。
「まずは、最初に戦う3体のキマイラについてだな。こいつらは、3体1組で行動している」
 3体のキマイラの仕事は、食料の確保だ。周辺の村々から食料を調達し、砦まで運ぶ。見た目は人の姿だが、普通の人間が運ぶには大き過ぎるほどの食料の包みを運んでいるから、見分けることはできるだろうと霊査士は言った。
「食料の包みは、大きな麻袋だ。そいつが、3体のキマイラの目印となる。意気揚々と帰ってきている奴らを襲撃し、且つ倒してもらいたい」
 戦闘能力については、心特化の邪竜導士の力を使うキマイラが1体。残りの2体は武人の力を主に使ってくると言うと、霊査士は羊皮紙を引き寄せた。
「殲滅は絶対だ。生き残りや逃亡者がいれば、別の砦に襲撃についての情報を伝えられちまう可能性がある。……勿論、別の場所で悪事をはたらく可能性もな」
 一つ言葉を切り、霊査士は続けた。
「3体のキマイラ……こいつらの戦闘能力は、高く無い。8人全員でかかれば、問題なく倒すことができる。奴さんらは倒されるとモンスター化するが、今回の依頼ではそのまま放置してくれ」
 冒険者達の目を見ながら、霊査士は言った。
「このモンスター達が人を襲う場合は、別途、通常の依頼で冒険者達に向かってもらう。だから、お前さんたちには砦へと潜入してもらいたい」
 羊皮紙をひきよせる。じゃらり、と霊査の鎖が音を鳴らす。
 話は長くなるから、まず座ってくれと霊査士は冒険者達を見た。
「まずは、最初に戦う3体のキマイラについてだな。こいつらは、3体1組で行動している」
 3体のキマイラの仕事は、食料の確保だ。周辺の村々から食料を調達し、砦まで運ぶ。見た目は人の姿だが、普通の人間が運ぶには大き過ぎるほどの食料の包みを運んでいるから、見分けることはできるだろうと霊査士は言った。
「食料の包みは、大きな麻袋だ。そいつが、3体のキマイラの目印となる。意気揚々と帰ってきている奴らを襲撃し、且つ倒してもらいたい」
 戦闘能力については、心特化の邪竜導士の力を使うキマイラが1体。残りの2体は武人の力を主に使ってくると言うと、霊査士は羊皮紙を引き寄せた。
「必ず、こいつらを倒してくれ。……生き残りや逃亡者がいれば、別の砦に襲撃についての情報を伝えられちまう可能性がある。……勿論、別の場所で悪事をはたらく可能性もな」
 一つ言葉を切り、霊査士は続けた。
「3体のキマイラ……こいつらの戦闘能力は、高く無い。8人全員でかかれば、問題なく倒すことができる。奴さんらは倒されるとモンスター化するが、今回の依頼ではそのまま放置してくれ」
 冒険者達の目を見ながら、霊査士は言った。
「このモンスター達が人を襲う場合は、別途、通常の依頼で冒険者達に向かってもらう。だから、お前さんたちには砦へと潜入してもらいたい」
 言うと、霊査士は潜入の方法について説明を始めた。
「砦への潜入は、下水道を使ってもらう。下水口には格子がはまっているが外の3つが外れる。入り口こそ狭いが、中はかがまなくても進むことができる。奴さんらの秘密の通路だが……使わせてもらう」
 秘密の通路となっている下水道は水の流れも少ない。濡れることはないだろう。
「秘密の通路を進んでいけば……光と人の声が聞こえる。扉を開ければ、そこが砦への入り口だ。キマイラ達が持っていた食料を詰め込んだ袋、あれを持っていれば怪しまれる危険性もない。
 ーーそして、お前さんたちは砦を支配するキマイラの元へと向かってくれ」
 砦には、盗賊達もいるが今回は構わずに一気にキマイラの元へと向かって欲しい。重ねて霊査士は言うと、グラール砦を支配するキマイラがいる場所を示した。
「霊視で見えたのは、砦を見渡す事が出来るだけの高い場所……豪奢な椅子にベッド。恐らくは砦の最上階、司令官室にいる」
 螺旋階段を上がり、豪奢な取っ手のついたついた扉の向こうに砦の主はいるのだ。
「燃えるような赤い髪をした女が砦の主だ。戦闘になれば、砦の主であるキマイラは2体の『なり損ない』のキマイラを呼ぶだろう。こいつらは、砦の主の命に従い、お前さん達に襲いかかってくる」
 これで、あわせて6体。
 最初の砦の外にいるキマイラとあわせて、その数になると霊査士は告げると冒険者達を見ていった。
「司令室にいる3体を倒せば、依頼は成功だ。
 ……問題は、こいつらの能力だが……。まずは、砦の主ーー便宜上、ボスキマイラと言わせてもらう。こいつからだな。赤い髪をした女の姿でいるキマイラの手は鋭いかぎ爪になっている。その手に抱くのは己の尾。己の子を抱くように宥めているが、一度戦闘となればその尾は、キマイラの第三の手のように動く。防御は主にこの尾で行われる。その先にある針からは一度攻撃を受ければ、毒とアーマーブレイクが同時に叩き込まれる」
 くすんだ白いドレスを着たキマイラは見目こそ静かだが、くつくつと笑いながら容赦なく襲いかかってくる。かぎ爪となった手を振り下ろせば、周囲を切り裂く竜巻が生まれ、追撃として放たれる尾の毒針は全てを連続が体に受ければ、無事ではすまない。
「アビリティから見れば……主に扱ってくるのは狂戦士の能力だ。動きは素速く、尾と両手がまるで別の生き物のように動く」
 残りの2体は体の半分をごつごつとした鉱石に包まれたキマイラと、額に角を生やしているキマイラだ。
「鉱石に包まれている方は、その屈強な体から一度の攻撃だけではよろめきもしない。基本、重騎士に似ているな。もう一体、角を生やしている方はその角を光らせ回復の旋律をならす。吟遊詩人に似た能力だ。この2体に関しては、一度倒した後にモンスター化するような事はない」
 つまり、砦の主はモンスター化し、残り2体はしない。戦闘と同時に凶暴化し、戦いの為に戦う存在となる。
「……3体、この3体だ。ボスキマイラと、その配下である2体の『なり損ない』のキマイラを倒してくれ」
 
 キマイラが倒されてしまえば、砦いる盗賊たちは散り散りになって逃げていくだろう。
「奴さんらを逃がすのもあれだが……下手に刺激して、街にいる人々を人質にとられるわけにもいかない。先に、囚われている人々を保護して欲しい」
 盗賊達が、これだけの事をできたのはキマイラがいたからだ。そのキマイラがいない以上、大したことはできなくなる。
「……勿論、盗賊をとっつかまえるな、と言うつもりは無いがな。少しでも早く、囚われている人々を保護して欲しい」
 暗い部屋から連れ出し、どうか彼らにもう大丈夫なのだと伝えて欲しい。
「決して、楽な依頼とは言えないが……成し遂げられないものでも、ない。言うだけ勝手だって話もあるがな」
 苦笑一つ紡いで、霊査士は言った。この場に来てくれた冒険者に感謝と祈りをのせて。
「俺は、お前さんらを信じたい。この依頼が成功すれば、キマイラ達の陰謀を阻止し、囚われている人々を救い出すことができる」
 これ以上の、被害者を出さない為にも。そう紡いで、霊査士はまっすぐ冒険者達を見た。
「武運を。グリモアの加護を、冒険者たちに。
 ーーこの依頼、参加する者はいるか」
==========
!注意!
 このシナリオは同盟諸国の命運を掛けた重要なシナリオ(全体シナリオ)となっています。全体シナリオは、通常の依頼よりも危険度が高く、その結果は全体の状況に大きな影響を与えます。
 全体シナリオでは『グリモアエフェクト』と言う特別なグリモアの加護を得る事ができます。このグリモアエフェクトを得たキャラクターは、シナリオ中に1回だけ非常に強力な力(攻撃或いは行動)を発揮する事ができます。

 グリモアエフェクトは参加者全員が『グリモアエフェクトに相応しい行為』を行う事で発揮しやすくなります。
 この『グリモアエフェクトに相応しい行為』はシナリオ毎に変化します。
 紫煙の霊査士・フォルテ(a90172)の『グリモアエフェクトに相応しい行為』は『挑戦(challenge)』となります。
 グリモアエフェクトの詳しい内容は『図書館』をご確認ください。
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マスター:秋月諒 紹介ページ
全体シナリオですね。
このシナリオは、キマイラに支配された悪徳の町を解放するというシナリオです。
難易度は「難しい」です。
この依頼には重傷、死亡の可能性があります。参加の際はお気をつけください。

!相談期間が短くなっています!

▼敵
 キマイラ6体
 (内訳……キマイラ4体、なり損ないキマイラが2体)

▼戦場
 砦の外
 砦の中……司令官室

▼敵能力について
 オープニング文章を参考にしてください。

▼グリモアエフェクトについて
フォルテのグリモアエフェクトは挑戦(challenge)です。
詳しくは図書館をご覧ください。


決して、楽な依頼ではないと思います。
ですがどうか、砦の開放の為に冒険者の皆様の力を貸してください。
グリモアを供に歩む冒険者の皆様に、どうか武運を。

参加お待ちしております。

参加者
白鴉・シルヴァ(a13552)
天皎・ルーシェン(a16220)
風声鶴唳・ゼアミ(a21108)
野良ドリアッド・カロア(a27766)
終焉に翔く漆黒の翼・レイヴン(a28342)
紅薔薇の翔剣士・ベアリクス(a29524)
錦上添花・セロ(a30360)
琴線を爪弾く・カンティアーモ(a34816)


<リプレイ>

●隠
 グラール砦より東に、砦へと続く道がある。冒険者達はそこに身を隠していた。顔を上げた終焉に翔く漆黒の翼・レイヴン(a28342)はひら、と琴線を爪弾く・カンティアーモ(a34816)の手が動いたのを見た。遠眼鏡で木々の合間から、通りの奥へと目を凝らしていた彼のその合図からすぐに、賑やかな声が耳についた。
 ーーあれだ。と、目だけで言う。肩に麻袋を担ぐキマイラ達の影が大きくなるそれよりも前に、冒険者達は通りに躍り出た。
「ん? あぁ? なんだ、お前達……」
 キマイラ達に、剣を向ければ向こうもこちらの意図に気がついてか笑った。物足りないと思ってたんだよ、とうっそりと。武人のキマイラ達が剣と鎌を持つ。邪竜導士の力を持つキマイラが黒き炎を身に灯す。
「バラバラになっちゃいなよ!」
 降り注ぐのは無数の針の雨。なるつもりなどないーーと息を吐き、一気に錦上添花・セロ(a30360)は槍を突き出した。にたにたと笑っていた武人が大鎌を構え、距離を取ってくる。ぶん、と振り下ろされた鎌から生まれた風が木々を揺らす。
 回復をしながらマロンチスト・カロア(a27766)は敵を見据えた。
「……こんな奴ら、一人残らず滅んでしまえば良いのに……」
 剣士を迎え撃ち、白鴉・シルヴァ(a13552)がパワーブレードを叩き込む。術士のデモニックフレイムが狙ったのはレイヴンだった。回復の声を上げ、葬翼・ゼアミ(a21108)は旋律を奏であげる。くつくつと笑うのは鎌使いだった。稲妻を放とうとするーーそこへ、天皎・ルーシェン(a16220)は紋章の獣を放つ。
「……っち」
 腕に噛みついた獣に、腕を捩る。そこに、紅薔薇の花嫁・ベアリクス(a29524)はミラージュアタックを叩き込んだ。後方、声を上げたのはカンティアーモだった。紋章の獣が彼の命に従い地面を蹴り、一気に襲いかかる。
「はっ」
 一度片手でひいた槍を構え直し、セロは狙いを、剣士に向ける。鎌使いは紋章の獣に囚われている。黒き刀身を振り下ろしたのはシルヴァだった。無言の剣士の表情は変わらない。吐き出した息が重く響く。その、時だった。レイヴンの放った放った粘り蜘蛛の糸が武人達を絡め取り、動きを奪う。
「っち、面倒な……っ」
 声を上げた術士が、踵を返す。逃げだそうとする術士を押さえ込み、ゼアミは術を放った。

●潜入
 拘束が成功してしまえば、3体のキマイラを倒すことは簡単にできた。キマイラ達がモンスター化するのに任せ、追いかけて来ようとする所を粘り蜘蛛の糸で拘束し、砦から見えにくい所に放置しておく。
「それで……これが、例の食料袋か」
 シルヴァが見つけた袋には、果実や穀物が詰め込まれていた。これを持っていけば大丈夫というのが霊査士の話だ。キマイラ役には姿形が似ている方が良いだろう、とシルヴァ、セロ、レイヴンがかって出た。ドリアッドの3人は、大きめのターバンで髪と額を隠した。ゼアミは、食料袋の中に隠れる手はずになっている。
 通りから見上げた砦は、薄い雲を乗せていた。空は風が強いのか。日が射し込んではまた消える。
「さて、連戦になるが、最後まで諦めずに」
 レイヴンはそう言って、指についていた血を拭った。傷はカロア達によって癒されている。行きましょう、とセロは言った。見据えた先、分厚い壁に覆われた砦に風が溜まってか、おぉおぉ、という音が響いた。
 
 砦への潜入自体は、難なく行うことができた。下水道を抜け、光と音を便りに中へと入り込めば強い酒の匂いがした。奴らの振る舞いを見れば見るほど囚われている人々を早く助け出さなければ、とシルヴァは思った。荷を担ぎ、奥へと進んで行けば僅かに目を細めた盗賊が声をかけてきた。
「それ……」
 盗賊が見ていたのは一際大きな食料袋だった。中にはゼアミが隠れて入っている。
「すごい量っすね。何をそんなにいれてきたんすか?」
 純粋な賛辞か、それとも疑っているのか。シルヴァが大きく一歩を踏み出し堂々とすれば、盗賊達もぱ、と身をひいた。早く運んでしまいたいんだ、と暗に示せば盗賊達は身を引いた。その顔を見ながらルーシェンは内心、息を吐く。
(「キマイラを目指す阿呆がいるとは……この一件で事態の収束へつながるといいな」)
 盗賊達が怯えるように散っていく。静かに吐いた息は、ガヤガヤとした砦の中に消えた。
 煤色をした階段を上がり、細い通りを抜けていく。上へと進んでいけば、一際大きな扉が見えた。
 此処まで来て負けるわけにはいかないわね……。そう、胸の中一つおとして、ベアリクスは髪に巻いていたターバンに触れた。麻袋が下ろされ、出てきたゼアミは軽く頭を振るって運んでくれた礼を言った。
 重厚な扉に、レイヴンが手をかける。ぎぃという音と共に開いた部屋。こは、さっきまでいた部屋とは違う匂いがしていた。甘い花と、石鹸の清潔な香り。聞こえてきたのは、女の楽しそうな声だった。

●紅主
「何……アナタ達」
 天蓋付きのベッドの上、己の尾を幼子をあやす様に抱いていたキマイラは不機嫌そうに言った。だがすぐに敵と気がついてか、きっと睨み付けてくる。
「アナタ達っアタシと、この子の邪魔をしようって言うのね!」
 キマイラに怒りに呼応するかのように、天蓋がはためき、纏う白いドレスが揺れる。侵入経路は1箇所のみ。セロはざっと辺りを見渡し、現れるだろうなり損ないのキマイラ達に備えた。
「おいで、坊や達! アタシに役に立つのを見せてちょうだいっ」
 声は分厚い硝子を震わせ、一行が閉じた筈の扉を開かせた。カロアは錫杖を手に声を上げる。振り上げられた刃から感じた冷たさに、カロアは出来る限り後ろに退ける。叩き込まれたのは氷河衝か。鉱石に体を包まれたなり損ないのキマイラと、額に角を持ったなり損ないのキマイラが現れた。キマイラが嬉しそうに声を上げ、自らもベッドを蹴り襲いかかってきた。かぎ爪に、セロは防御の構えを取る。
「っく」
 僅かに漏らした息。避ければ、後衛に当たってしまう。き、と顔を上げれば後方、ルーシェンに作り出された紋章の火球がキマイラに叩き込まれた。退いたキマイラが声を上げる。
「キライ!」
 振り上げられた手に、カロアが警戒の声を上げる。ごう、と唸る竜巻の合間から、縫うように敵を見てカンティアーモは緑の縛撃を紡ぐ。強力な風さえすり抜けて、葉はキマイラに襲いかった。僅かに呻くような声がした。それでも、拘束に成功はしていないのか。飛んだ毒針を目にゼアミは凱歌を歌い上げる。カロアは真っ直ぐ、なり損ないのキマイラ達に相対する仲間達を見た。角を付きに、ベアリクスがソニックウェーブを叩き込む。飛び散った紅に、追撃を仕掛けるかのように剣を構えたシルヴァに、鉱石を体に纏ったなり損ないが襲いかかってくる。殴る方が便利なんじゃないかと思うほど、大きな剣を振り回すなり損ないは、獣のように唸った。
「っち、悪い。頼む……っ」
「分かった」
 引き継いだレイヴンが駆ける。あわせた背の向こうでは、セロ達がキマイラを何とか抑えてくれている。傷ついた、キマイラの声に応じるようになり損ないの角が光る。一気に距離を詰め、レイヴンが電刃衝を叩き込んだ。ぎゃぁっという声が響き、獣のような鳴き声がする。反撃とばかりに突き出された手が、ファンファーレと共に光を放った。光は束となり襲いかかり、レイヴンの頬を焼く。飛び散った血を視界に、ベアリクスは剣を振るう。不可視の衝撃波はなり損ないが角を光らせるのを遅らせる。響くのは痛みに喘ぐ声か、それとも助けを求める声か。鉱石のなり損ないが、地面を抉るような一撃を放ち、飛び散る砂塵を受けながらシルヴァはデストロイブレードを叩き込んだ。後方、ゼアミが放った粘り蜘蛛の糸が踏鞴を踏んだなり損ないを捉えた。だん、と鉱石のなり損ないが倒れ、角付が声を上げて倒れる。
 ひゅう、と息を飲んだのはキマイラだった。セロとルーシェン、カンティアーモからの攻撃でドレスを赤く染めていたキマイラは、紋章の獣を振り払うようにして声を上げた。
「アタシの……可愛い子達になにをするのよっ!」
 キマイラの、柘榴の様な光が見開かれる。声はなり損ないを相手していたメンバーを麻痺を与える。
「回復します」
 カロアは声を上げる。それは静謐の祈りを捧げる為の合図。頷いたゼアミを視界に、カロアは祈りを捧げた。
 
●紅の星、流るれば
 バッドステータスから回復と同時に、斃れた角つきから、鉱石のなり損ないへと攻撃を移動させる。叩き込んだパワーブレイドに、その横からレイヴンは大岩斬奥義を叩き込んだ。踏み込んだ足を引き、剣を構え直す。敵拘束はまだ続いている。ーーだが、後ろの剣戟も続いている。ベアリクスはいっきにソニックウェーブ放った。拘束から解放されたのか、大きく身を捩るなり損ないが、起き上がりに受けた傷にその剣を落とす。
「あぁ!」
 声を上げたのはキマイラだった。どうして、どうして。と言葉を重ねて、斃れていくなり損ないに嘆くようにーーだが助けに行く様子もなく闇雲の手を震う。
「どうしてアタシの邪魔をするの!」
 叩き込まれた一撃に、散開する。メンバーは揃った。到着と告げて、シルヴァは剣を構え直す。セロ達が抑えていたキマイラも、少なくは無いダメージを負っている。血で、微かに歪んだ視界でセロは回復の声を上げるカロアの癒しに身を任せた。動けない程ではないのだ。槍を構え、たん、と地面を蹴るキマイラを目で追う。キライよ! と叫んだキマイラが、周囲を薙ぎ払うように尾を震った。払うように抜いた刃を持つレイヴンの手が、針に掠る。痛みは皮膚を焼くような衝撃に代わり、は、と息を吐きながらも放った電刃衝奥義がキマイラの肌を切り裂く。たん、と両者の間に入り込み、シルヴァはデストロイブレードを叩き込んだ。防御した尾が、一度弾かれる。回復を告げるゼアミの凱歌が響く中、ルーシェンは呼びだした気高き銀狼を走らせた。追いかけるように、カンティアーモの緑の縛撃がキマイラを捉えた。
 だん、と音を立てキマイラが倒れ込む。足に引っかかったのは椅子か、戦闘で壊れた家具の破片が足にめり込む。上がったのは悲鳴では無かった。そこに、真っ直ぐ刃を向ける。拘束の合間、前衛の4人が叩き込んだ攻撃にキマイラが仰け反る。その間に、カロアは仲間の回復を急ぐ。見据えた戦場は優勢ではあるが、油断はできない。握りしめた錫杖が小さな音を鳴らす。回復はまだ残っている。カロアの緑の瞳が捉えたのは、拘束を振りほどき、立ち上がるキマイラの姿だった。
「アナタ達っ許さないから!」
 振り上げられる手に警戒の声が重なる。ざっと前に出て、後衛の壁になるようにシルヴァは竜巻を受け止める。ざっと風が舞い上がり、鎧が衝撃を受け、頬に傷がつく。
「アタシの嵐を受け止めるっていうのね! 馬鹿にしないで!」
 声と同時に、キマイラの尾が動く。毒針が来る。重なるその声の間で、踏み込んだレイヴンが尾を弾く。軌道のそれは針が壁を撃った。流れる血を拭うこともなく、口の端を上げシルヴァは言った。
「例え綺麗なお姉さんだろーが狂戦士として負けたくねー」
 叩き込む刃は闇鴉。光の反射など一つもしない漆黒の刃は、キマイラの尾を抉り、白いドレスを切り裂いた。唇から漏れるのは呪詛の言葉。貴様! と叩く響く。振り上げられたその腕を、切り払うのはベアリクスの衝撃波。
「選んではいけない選択肢はあるんです。そこにどんな思いを秘めていても」
 そして選んだ結果は、受け止めなければならない。
 構えた槍が、不意に眩しい程の光を帯びた。ーーこれは、グリモアの力。呟いたのは誰だったか、息を飲むキマイラに発動したグリモアエフェクトを乗せ、セロは地面を蹴った。終わりにしましょう、そう言って。
 カンティアーモの秘術により、舞う葉がキマイラを捉え、ルーシェンの炎が打つ。そうして突き出されたセロのミラージュアタックがキマイラを貫いた。
「あ……あぁ……ぁ」
 声が震え、次第に変わっていく。後ろに倒れ込むようにしながら、それでも声だけは力を失わない。ばたん、とキマイラが倒れる。そして、目の前で変化が始まろうしていた。モンスター化だ。カロアとゼアミが回復を紡ぐ。ぼこぼことキマイラの肌が膨らみ、白いドレスが破れる。その下から現れたのは女の肢体ではなく、甲殻に包まれた肉体だった。
「あぁぁぁぁぁ」
 モンスターが唸る。声は言葉にならず、聞き取ることはできない。これが、最後の一人。残る全ての力を持って、冒険者達はモンスターに立ち向かった。
 モンスターと化したキマイラは、闇雲にその爪を振るう。一撃を盾で流し、残るアビリティを叩き込むようにレイヴンが剣を振るう。叩き込んだシルヴァのデストロイブレードとセロのミラージュアタックがモンスターの甲羅を砕いた。カンティアーモの縛撃に囚われれば、身動きを取ることはできない。残るアビリティの全てを叩き込むように、ベアリクスは剣を振るった。ゼアミは癒しの旋律を奏で続ける。ーー必ず、皆でただいまを……。握りしめた手が、舞い上がった砂塵を取った。ふっと、モンスターが復帰する。手を振り上げ、放つのは同じ、竜巻。構えた前衛を護るように、回復が同時に発動した。無事に済んだルーシェンとカンティアーモが攻撃と縛撃を同時に放つ。
 びくびく、と体を振るわせモンスターが膝をつく。一瞬、出来た隙を逃さぬように前衛の4人が武器を向けた。突き刺さる一撃を正面に見据え、カロアはモンスターと化したキマイラの最期を見据えた。

 戦闘終了後、残ったアビリティで怪我人の回復をする。荒く息を吐くのは皆似たようなものだった。痛む手で槍を掴みなおし、セロはルーシェンの回復に礼を言った。もぎ取った勝利は、砦の開放を意味する。それは、囚われていた人々の自由を示す。
 下に、行こう。
 武器を片付け、早々に階段を下りていく。ベアリクスは、盗賊達にキマイラはもう存在しないのだと告げ、盗賊達に立ち退きを命じた。その横を抜け、部屋に閉じこめられていた子供達を助ける。大丈夫ですか? とゼアミは声をかけた。
「御免なさい……。私達がもっと早く気が付いていれば……」
 両手を添え、カロアは回復を使う。淡い光に包まれた少女がはらはらと涙を流しながら、あ、と声を漏らす。
「……り、が……とう」
 そのまま、ふっと、気を失う。安堵から気を失ったのだろう。動けない者を抱き上げたシルヴァは、心配そうに見てくる少女達にに、と笑みを見せた。ぴりぴりとした痛みの中で、見えるのはようやくの自由を得た人々の安堵の顔だった。カンティアーモは扉の正門を開き、動ける人々を誘導する。眩しさに目を細めれば、低くたれ込めた雲の合間から光が射し込んで来ているのが見えた。


マスター:秋月諒 紹介ページ
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作成日:2009/05/30
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