≪地獄戦線対策派遣隊≫異変



<オープニング>


 地獄列強の侵攻を阻止する為に破壊されたドラゴンズゲート・死者の祭壇。
 完全に絶たれた地獄への道。
 そんな死者の祭壇を調査するべく、活動を開始した冒険者達の姿があった。
 白骨夢譚・クララ(a08850)を団長とする『地獄戦線対策派遣隊』の面々である。

「それで、今はどんな感じなの?」
 インフィニティゲートからグレートツイスターにやってきて、合流したばかりのリボンの紋章術士・エルル(a90019)の言葉に、ざっと死者の祭壇付近を確認した結果をまとめた物が取り出された。
 死者の祭壇の入口は完全に塞がっており、地獄への道は絶たれている。
 今のところ、先日の侵攻時に目撃された列強種族、シャドウスナッチ、セフトシルフ、ディアブロ、そしてノスフェラトゥの姿は発見されていない。魅了の歌を使って動物達への情報収集も試みられたが、それらしき話も特に聞かない。
 コルドフリード艦隊の特攻は、あの侵攻を完全に阻止した。それを裏付ける結果だと言えるだろう。
「とりあえずは一安心、といった感じですけれど、警戒しすぎて損という事は無いでしょうから」
 引き続き態勢を整えていくつもりだと、そう語るクララ。
 なにせ、相手はあのノスフェラトゥを筆頭に、一癖も二癖もある地獄の軍勢なのだ。
 あとから後悔なんてしないように、自分に出来る限りの事をしたい。そう思い実践するのは、クララや、彼の呼びかけで集まった冒険者達にとって、ごく自然の行いだった。

 そうして警戒行動を続けていく『地獄戦線対策派遣隊』の団員達。
 これといって特筆すべき事は起こらず、時が過ぎていく中……それは、突然起こった。

 何も無い空中に、突如としてまばゆい閃光が走る!
 同時に空間がぐにゃりと歪み、何者かが閃光の中から現れようとしていた。
 閃光の中から現れた存在は、見るも美しい美少年の頭部を持ち……。
「あれ?」
 それは、大仰な登場の割に、なんとも滑稽な姿の怪物であった。
 見るも美しい美少年の部位は頭部だけで、後は体長3m程の、黒い巨大蜘蛛の体。
 確かに異形ではあるが、はっきり言って、冒険者にとってはそれほどの脅威を感じない。
「た、単なるモンスターかな?」
 その程度の外見であり、その程度の力量に見て取れた。
「……何者だ?」
 冒険者の1人は慎重に構えながら、怪物に向かって呼びかけてみた。何となく、予感があったのだろうか。
 すると、そのモンスターと思われた異形は、驚くほど流暢な言葉で、冒険者達に返答した。
「俺は!」
 次の瞬間だった。
 再び、空に閃光が走ったかと思えば、ぽてん、と落ちて転がった何かが体を起こす。
 それも、やはり同じだった。
 いや、顔の外見は違う。だがしかし、やはり美青年の顔を持つ蜘蛛が、こちらを見ている。
「俺達は!」
 その蜘蛛も口を開くと、先程の蜘蛛と声を重ねるように、同じ言葉を口にした。
「「そう、ビューティスパイダー!!」」

「……ビューティスパイダー、って名前みたいね……」
 エルルは軽く眩暈を覚えながら、そう呟いた。だが、そんな事を言っている場合ではない。言葉が通じるのならば、聞く事はひとつだ。
 冒険者のひとりが、どこから何をしに来たのかと尋ねる。だが返答は「俺達ビューティスパイダー!」の一言だけだった。
 どうしたものか、と思わず顔を見合わせる冒険者達。その間にビューティスパイダーは素早く移動を開始する。向かう先は死者の祭壇、今や完全に塞がれた、その入口だった。
「「「俺達、ビューティスパイダー!」」」
 きらっ、ぽてっ、しゅたっ。
 3匹に増えたビューティスパイダーは死者の祭壇の入口で蠢きながら、何かの動作をしている。
 その様子に、冒険者達は不穏なものを感じた。もし、彼らが本当に地獄から来たのだとしたら、この動作には何かしらの意味がある。あるいは、これは死者の祭壇をどうにかする為の行動なのでは無いだろうか。
「このまま、続けさせてはいけません。止めましょう!」
 言葉が通じないのならば、力ずくしかない。冒険者達は一斉にアビリティを駆使し攻撃する。攻撃を受けたビューティスパイダーは、蜘蛛の糸を飛ばしたり、足を使っての反撃こそするものの、最初に感じた通り、冒険者達にとっては決して強敵ではない。
 だが……。
「また!?」
 空が光り、ビューティスパイダーが落ちてくる。
 まるで定期的に時の鐘を鳴らすかのように、増えていくビューティスパイダー。
 これで、最後かもしれない。だが、更にまた増えるかもしれない。もし、このまま増え続ければ、一体どうなってしまうのか……。
「とにかく、何か起こっているのは確実よね。これを倒して、情報を持ち帰らなくっちゃ……」
 グレートツイスターまで退けば、後は一気に戻る事ができる。
 だがしかし、この状況を放置して、希望のグリモアに戻ってしまっても良いのだろうか……?
 留まる事を知らない時の中で、冒険者達は決断を迫られていた。


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参加者
求道者・ギー(a00041)
浄火の紋章術師・グレイ(a04597)
白骨夢譚・クララ(a08850)
空気は読まない・レジィ(a18041)
透硝華・ハル(a20670)
若緑樹へ寄り添う紫眼竜・シェルディン(a49340)
獣哭の弦音・シバ(a74900)
黒鱗の闇風・ホラノ(a76901)
NPC:リボンの紋章術士・エルル(a90019)



<リプレイ>

 突如起きた異変に、43人の団員達はすぐさま、迅速に反応した。誰もが異様さを感じ取っていた。けれど、それに決して圧倒される事は無い。
「まずは、切り離すのが肝要でしょうか」
「だな」
 死者の祭壇で何かをしようとしているのなら、彼らをそこから切り離すべきでは。そう考えた浄火の紋章術師・グレイ(a04597)の言葉に、黒鱗の闇旋風・ホラノ(a76901)は頷く。全てにおいて奇妙としか言えない相手だが、だからこそ、阻止せねばなるまい。
 ホラノはビューティスパイダーが全て射程に収まるように間合いを計ると、粘り蜘蛛糸を放った。
 ビューティスパイダー達に糸が絡まり、拘束している間に冒険者達は一気に動く。
「そんじゃ早速」
 空に響く幻奏・レジィ(a18041)は魅了の歌を使う。
(「……神様たちはこれがイヤだったのかなあ」)
 見れば見るほど個性的な造詣だと思いつつ、糸から抜け出せずにもがくビューティスパイダーにレジィは問いかけた。
「あなたの目的は?」
 返答は無い。ビューティスパイダーは糸から逃れようと動くだけ。拘束を解いた所で、彼は再びレジィに向き直った。
「どうやってここに来た?」
「テレポートだ! そう、俺達ビューティスパイダー!」
 違うこと喋った。
 返答はレジィだけでなく、周囲の全員を驚かせる。
「……あー。動物じゃないから関係ないって事かな」
 その反応にレジィは結論付けた。魅了の歌と質問に答えてくれるかどうかは、どうやら別物らしい。
 しかしテレポートとは……彼らは一体どこから来たのだろう?
 その頃、もう1人ビューティスパイダーに呼びかけている者がいた。白骨夢譚・クララ(a08850)だ。それは魂の拳と共に精神世界で行われる。
「正しくは『俺達、ビューティスパイダーズ』だろゴルァ!」
「そうだな。だが、俺達ビューティスパイダー!」
 頷いているが、直すつもりは無いらしい。
 ともあれ相手が反応するのを見て、更にラグレイダークや、デスバリアといった十将軍の名前を出してみるが、これといった反応は見られない。
 クララは更に呼びかけた。
「下から来たんですか? 第何層から?」
「地獄の66層からやってきた。そう……」
 1分だ。精神の繋がりが途切れる。瞬間、空に閃光が走った。
「来ます!」
 ずっと警戒していた透硝華・ハル(a20670)は叫びながら飛燕連撃を飛ばす。それは空から現れた、新たなビューティスパイダーにぶつかる。
「俺達、ビューティスパイダー!」
 だが傷をさして構う事なく、ビューティスパイダー達はいつものセリフを言い放った。

「また増えましたか……」
 若緑樹へ寄り添う紫眼竜・シェルディン(a49340)は槍を構えた。情報を仕入れたいのは山々だが、増え続けるのを放っておく訳にもいかない。
 シェルディンが流水撃を放てば、血の覚醒を使った求道者・ギー(a00041)もまたそれに続く。2人が流水撃を選んだのは、彼らがグリモアの加護を得ているのかを見定める為だ。
 反撃してくるビューティスパイダーの一撃を、イマージナの鎧聖降臨で強化された鎧で弾きながら、ギーはその動向を観察する。
「姿は酔狂極まりなく思えるも、空間を渡り現れるか……事態は思っている以上に深刻やも知れぬ」
 レジィへの返答を踏まえても、只事とは思えない。あれが何なのかを見定めようとギーは睨む。
「クララは……あれか」
 ホラノは慈悲の聖槍が命中したビューティスパイダーとの距離を計ると、それを巻き込まぬように気を配りながらナパームアローを撃った。
「列強種族ではない、ようですね」
 その頃には、シェルディン達はひとつの結論を出していた。冒険者達はあえてアビリティを選んでいたが、ビューティスパイダーが威力を半減させている様子は無い。列強種族ではないと、考えていいだろう。
「あそこを」
 グレイの放ったエンブレムシャワーに貫かれ、最も多くの血を流していたビューティスパイダーが、とうとう力尽きて倒れる。グレイの声が、皆の目をそこへ注目させた。
 遺体は、消えなかった。キマイラのように姿を変える事も無い。
「支援を頼む」
 それを見た獣哭の弦音・シバ(a74900)が近付く。霊視の為に体の一部を手に入れるのだ。手っ取り早いのは、足を一本もぎ取る事だろう。
 ビューティスパイダーは糸を放つが、それは鎧進化を使ったサクラコが盾になる。フーリの粘り蜘蛛糸が動きを拘束し、逃れたビューティスパイダーにはレイヴンのサンダークラッシュが飛んだ。
 シェルディンの槍が蜘蛛の足を弾き返し、セラの静謐の祈りがビューティスパイダーの糸によって拘束された体に自由をもたらす。仲間達がビューティスパイダーを抑える間に、シバは蜘蛛の足をもぎ取った。
「後は任せた」
「確かに。行こう!」
 駆け戻ったシバからそれを受け取り、ヨハンはグランスティードに乗った。
 リューディムと武器の交換を済ませたカナタの後ろでは、ファオが袋を抱えている。中身はキールが集めてきた死者の祭壇の瓦礫と土だ。それもまた大事な霊視の材料。エルルは準備が出来たのを確認すると、レイヴンを乗せて駆け出した。
 最後尾は、武器をラスキューに預けたルルモーラと、それを乗せたヨハンだ。3騎のグランスティードは、瞬く間にグレートツイスターへと駆けて行った。

 クララはシュハクと慈悲の聖槍を撃ち続けていた。相手が、アンデッドかどうかを確認する為だ。
 やがて、力尽きて倒れるビューティスパイダー。だが相手は倒れただけで、僅かながらに息がある。死に至らず、戦闘不能に陥ったと考えていいだろう。
「アンデッドでも無いようですね」
「しかし、モンスターとも異なるように思われる。一体何かねアレは……」
 クララの声にギーは首をひねる。今のところ性質は一番モンスターに似ているが、だとしたら何故会話が成立しているのか。全くもって謎である。
「私達の知らない異質なもの……という事だけは確かでしょうね」
 ハルは小さく溜息をつく。蜘蛛が苦手なハルですら、ビューティスパイダーを前にした今、普通の蜘蛛に多少の可愛げを感じなくも無い気がするくらいだ。
 あの蜘蛛に今なら歩み寄れそうな気がするだなんて。色々な意味で嫌な敵だと思いながらも、その辺りの事は頭の片隅に追いやって、僅かな情報も見落とさずに得られるようにと、再び周囲に意識をやった。
「彼らの目的も気になる所です」
 グレイはエンブレムシャワーを撃ちながらビューティスパイダー達を見やる。彼らは相変わらず死者の祭壇に近付いて、何事かを行おうとしている。その間に割り込もうとする冒険者達と戦いになるのは、当然の事と言えた。
 彼らのコミュニケーションの取り方を分析しようとしたグレイだが、どうも「俺達ビューティスパイダー」だけで十分なのか、それ以上のボディランゲージなどは見られない。
「あそこだ!」
 その時、周囲を警戒していたウィリアムの声と、ほぼ同時に光が走った。ラスキューは迷わず、そこにルルモーラから預かった武器を投げつけた。
 ビューティスパイダーが出現し、それと交差するように投げ飛ばされた小宝珠が歪みに触れて……そのまま、消えた。
「マジで消えたなぁ〜ん!?」
 アッシュの電刃衝が叩き込まれる中、ハンゾーは目を凝らした。空にも地面にも、確かにどこにも見当たらない。自らのチャクラムを同じ場所へ投げるが、ただ空を切って手元に戻る。今はもう、歪んだ空間も元通りという事か。
「途切れる気配が無いな……」
 空の警戒を続けるシバの言葉通り、ビューティスパイダーの増加が止まる様子は無い。ほぼ同じ間隔で空が光り、ビューティスパイダーが現れる。その光景を繰り返し目にしていた彼らは、出現のタイミングを掴み始めていた。
「そろそろ……あ!」
 オキが指差すのを見て、シバはすかさずジャスティスレインを放った。降り注ぐ矢の一部は途中でどこかへ消えていったようにも見えたが、その矢がどうなったのかを知る術は無い。
 シアーズはタスクリーダーで、ナビアで行方不明になった冒険者達に呼びかけた。もしかしたら、この空間が彼らの近くと繋がっているかもしれないと考えたからだ。だが、返事は無い。それでもシアーズは、またいつでも呼びかけられるよう空を見る。
「奴らを封じるのは、任せてくれ」
 数が増えてきたのを見ると、ホラノは攻撃を皆に任せ、粘り蜘蛛糸を放った。ペインヴァイパーの力を重ねた糸は、すべてのビューティスパイダーを絡め取る。動けずにもがく彼らに、冒険者達は次々と攻撃を与えていく。
 この戦場で、粘り蜘蛛糸は目ざましい効果を上げていた。それはビューティスパイダーの反撃を封じ、体力の消耗を抑える事に繋がっていたからだ。
「……消えたわ」
 その時、リューディムの元からカナタの武器が消えた。彼らは無事にインフィニティゲートまで辿り着いたのだ。
「ひとまずは安心ですね」
 シェルディンは胸を撫で下ろす。これで必要な情報は皆に伝わる。あとは出来る限りの力を尽くすだけだと、再び流水撃を繰り出した。

 範囲攻撃を生かして複数のビューティスパイダーにダメージを与え、仕留めていく冒険者達。だが、数を減らす合間にも光が走り、その増加は留まる所を知らない。
「あまり増えすぎてもマズいでしょうね」
 増えすぎないうちに掃討したいと、グレイもエンブレムシャワーを放つ。ラスはビューティスパイダー以外の何かが現れるのを危惧し、空以外にも警戒を張り巡らせていたが、今の所は他に何も見つかっていない。危惧されたアンデッドの姿も特に無く、今はひとまずビューティスパイダーに専念できそうだと粘り蜘蛛糸を放った。
「ディオさん」
 クララの言葉に頷き、デュオは弱ったビューティスパイダーにデモニックフレイムを撃った。その一撃に力尽きたビューティスパイダーの足元から、クローンが起き上がる。
 ディオの命令を受け、他のビューティスパイダーに近付くクローン。姿形はビューティスパイダーと同じ。だが、それを見たビューティスパイダー達は、すぐさま敵対の構えを取る。
「お前は……違う!」
 クローンは糸をかけられ、動けないまま攻撃を受けるうち、やがて力尽きて消えた。その後も何度かトドメを狙ってデモニックフレイムを撃ち込んで倒すが結果は同じ。彼らは仲間とクローンを正しく見分けているのだろう。
「あれも仲間意識の一環だろうかね」
 ギーは呟きつつ達人の一撃を放った。その手応えに小さく眉を寄せる。ビューティスパイダーはあれでいて体自慢なのか、蜘蛛の足を構えて防御体勢を取るビューティスパイダーに威力を減じられてしまう事がたびたびあった。彼らの得意分野と考えていいだろうか。
「新手です!」
 ハルは皆に知らせながら飛燕連撃を放つ。
 息切れしそうになるのを、飲み込む。ビューティスパイダーは確かに倒しているのだが、倒す先から増え続けている。その数はもはや、10や20では済まない。
 フリッツの氷河衝がビューティスパイダーを凍らせて粉々に砕き、辛うじて持ち堪えた1体をタケマルのブラックフレイムが襲う。そうして倒しても、また空には光が迸り、ビューティスパイダーは増え続けるばかり。
「大丈夫よ。まだいける」
 受けた傷はラトレイアの高らかな凱歌が癒す。回復には十分な余裕があったが、問題は攻撃だ。数の多いビューティスパイダーに対処するべく、一度に複数を攻撃できるアビリティが次々と繰り出されるが、その残数は徐々に減っていく。
 これほどの冒険者が集まろうとも、アビリティが有限である事は変わらないのだ。
 流水撃を使い尽くしたシェルディンは、キルドレッドブルーの魔炎と魔氷を宿した一撃を叩きつけた。ホラノは残り僅かなナパームアローの使いどころを慎重に計りながら、チャクラムを投げていく。
 血の覚醒の効果が途切れた事に気付いたギーは、再び破壊の衝動を呼び起こすと、パワーブレードを叩き込んだ。あえて顔を狙うようにして繰り出せば、ビューティスパイダーは悲鳴と共にざっくり切り裂かれた頬を拭って、ギーへ猛烈な反撃を繰り出した。
「俺達、ビューテュスパイダー!」
 力尽きた蜘蛛の足が数え切れないほど転がる大地の上で、ビューティスパイダーの合唱が響く。冒険者達は絶え間なく攻撃を仕掛けるが、アビリティが尽きれば倒すペースは、どうしても落ちてしまう。やむなくビューティスパイダーの増加を許してしまえば、今度は受ける傷が増える。
 時間が経てば経つほど、攻めきれない。
「……仕方ないか。クララ、ホーリーライトを」
 増加の一途を辿る敵の数に焦りを感じつつ、皆の回復アビリティの数を確認したレジィは、舌打ちすると、やむを得ないと呟いた。撤退のタイミングを見誤らないように、状況を見定めていたレジィの言葉だ。クララはすぐさま光の輪を赤く輝かせた。タスクリーダーの声を聞いたミヤクサが、それに倣う。
「皆、今のうちに!」
 ホラノがペインヴァイパーの力と一体化した最後の粘り蜘蛛糸を放つのと同時に、冒険者達は撤退を開始した。範囲外となったビューティスパイダーにはクリスの粘り蜘蛛糸が飛んでいき、それに呼応するように、今まで力を温存していたルシールが前に出、蜘蛛の足を防ぎながら反対に一太刀浴びせる。
「怪我をされた方を先に。こちらですわ」
 レムは出来るだけ多くの怪我人をヒーリングウェーブで癒し、先に行かせる。シェルディンは咄嗟に周囲を見回すと、何か新しい霊視の材料になるかもしれないと、ビューティスパイダーの髪を切り取った。本当は祭壇の入口周辺を入念に探し、何か目ぼしい品が無いか確かめたかったのだが、今の状況ではこれが精一杯だった。
 撤退の間もビューティスパイダーに向き直ったルシファによってジャスティスレインが降り注ぎ、鎧聖降臨を使ったゼオルは盾を構えて殿を引き受けながら、同じように撤退を援護する為に残る仲間達へ鎧聖降臨を使う。
 何体かのビューティスパイダーが糸を振り払うのを見計らい、彼らの中央にシバのハートクエイクナパームが叩き込まれた。同士討ちの隙を突いて、冒険者達は一気に退く。
「………」
 距離を置いた冒険者達を、ビューティスパイダーは深追いしなかった。
「さっきの続き、でしょうか」
 ずっと周囲を警戒していたヘルムヴィーゲは、祭壇の方を振り返ると、遠眼鏡片手に呟いた。破壊された死者の祭壇入口を取り囲むようにして、蠢いているビューティスパイダーの群れ。その数は、周辺警戒に重点を置いていたシバ達が手分けしながら、正確にカウントしていた。
 104。
 いや、105だ。空に、閃光が走り、また新たなビューティスパイダーが輪に加わる。
 彼らはどこまで、増えるのだろう。このまま放置すれば、死の国がこの奇妙なビューティスパイダーに埋め尽くされかねない。
 一刻も早い対処が必要ではないだろうか。
 そう、彼らがグレートツイスターからインフィニティゲートへ、転移しようとした時だった。
「……動きが変わった」
 ずっと死者の祭壇方面を警戒していたローの声が、いやに大きく感じられた。
 106体に増えたビューティスパイダーが、死者の祭壇入口跡に詰め寄った。これ以上は密着できないほどに密集したビューティスパイダーの頭上で、空に光が走り、その上に107体目のビューティスパイダーが現れる。
 それを契機にするかのように、ビューティスパイダー達は折り重なっていく。それはまるで、今は絶たれたはずの地獄への道に、我先に飛び込もうとするかのよう。
「やはり、まずいのでは……!」
 大勢のビューティスパイダーが集う事に何か意味があるのではないか。そう考えていたグレイは、この光景に強い危機感を感じていた。危険だと、彼の冒険者としての豊富な経験が警鐘を鳴らす。
 それは、その予感は……次の瞬間、的中した。

 空に光が迸り、新たなビューティスパイダーが現れる。
 108体のビューティスパイダーが死者の祭壇の前に集まった、その時。
「俺達ビューティスパイダー! そして……」
 今までの比ではない程に、まばゆい閃光が辺りを包んだ。光と同時にビューティスパイダーの中心から爆風が巻き起こり、途方も無い轟音が鳴り響く!
 耳が破れそうな程に激しい地鳴り。その向こうから、それすら凌駕するほどに力強い叫びが響き渡った。

 デェェェェェストロォォォォイ!!!

 108の声が1つに集約されて、戦慄すら感じる程に恐ろしい声色に変わる。光が収まり、ようやく目を開けた冒険者達は、砂煙の向こうに見た。
 かつて、死者の祭壇の入口があった場所に、巨大な人影がそびえている。風に吹かれてなびくのは赤いマント。それに覆われているのは、とても筋肉質な青色の肌。
 ずしん……と大地を震わせて、こちらを向いた『それ』の頭には、肌の色と同じ2本の角。いや、頭だけではない。その背からも6本の角が伸びて、先端から不可思議な光が迸っている。
 顔にゴーグルのような物を装着した青き巨人の腹には、更に異質な物があった。
 口だ。巨大な口としか言いようの無い、その異次元空間から伸びた舌は、獲物を求めるかのように蠢いている。
「なんだ!?」
「あ、あれは一体……!」
 遠くからでも一目でわかる。その異様な威圧感が、嫌というほど教えてくれる。あれは、強い。ビューティスパイダーなど足元に及ばないほど『まずい』と。
 だが、事態はそれだけでは済まなかった。遠眼鏡で死者の祭壇を、更に確認した者達が気付く。
 その足元に穿たれた、巨大な穴に。
「我こそが『大魔王』! 我が名はデストロイキングボス!」
 空気が震えた。巨大な声が、冒険者達のいる場所まで鳴り響く。
「だ……大魔王!?」
「で……デストロイキングボス!?」
 冒険者達は思わず、大魔王と足元にこじ開けられた大穴に視線をやった。直後、大穴から幾人もの人影が飛び出した。そのシルエットは、間違いなく彼らの知る地獄列強の物だった。
「か、完全に塞がっていたのに……」
「それを、どうにかできる力の持ち主という事だろう」
 信じられない思いで、それを見た冒険者達は、すぐさまグレートツイスターに飛び込んだ。
 彼らが見た光景は、地獄列強の再侵攻を意味しているのだ。事態は急を要する。一刻も早く戻り、すべてを伝え、迅速に対応を行わねばならない。

「ダメ。戻ってこないよ」
 一足先に戻り、事態を伝えた伝令班は、首を振るルルモーラを取り囲んでいた。ウェポン・オーバードライブを使っても、彼女の武器が戻って来ないのだ。
 彼らは知らない。デストロイキングボスの出現も、その体に僅かだが、真新しい傷があった事も。
 いや……。
 じきに転移してきた仲間達によって、彼らもまた真の異変を知る事になる。そして、彼らがもたらした情報は、同盟全ての冒険者に衝撃を与える事になるのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2009/05/31
得票数:冒険活劇1  戦闘7  ミステリ45  ダーク3  ほのぼの1  コメディ14 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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空気は読まない・レジィ(a18041)  2009年08月31日 21時  通報
ビューティスパイダー達のおかげで、地獄が好きになれた気がします。
ありがとうビューティスパイダー。