【nativity in black】終末を待ち続けて



<オープニング>


 それはまるで悪夢の様な。
「……母ちゃん、助けてよぅ、おれ、おれ……いい子になるからさぁ……」
 ガリガリと壁を指で掻く。ときどき何か呟き、思い出した様に嗚咽を零す。
「…………食べ物の好き嫌いとかしないから、しないからさぁ……」
 また感情がこみ上げてきたのか、少年――それも、年端もいかぬ少年だ――は、しゃくりあげはじめた。鼻をすする音も聞こえる。
 少年は孤独であった。ただしその精神は既に狂気に犯されていたから、自分の心の状態を「孤独」と認知していたかどうかは知れない。広い邸宅に身を隠し、誰かが自分を迎えに来てくれるのではないかと時折、耳を澄ませて物音を探る。そのような事があるはずもないのに。
「家に帰りたいよぉ……」
 と呟いているが、そんなことができないのは彼自身も知っていた。
 何故って、少年の母親を斬殺したのは、他ならぬ少年自身であるのだから。
 少年は名をマシュウという。マット、という愛称で呼ばれることも多かった。されどもう今となってはそんな名で呼んでくれる者はおるまい。街の住民は彼を「化け物」と呼んだ。この館の連中も例外じゃなかった。だから一人たりとも許さなかった。
 ガリガリと壁を指で掻く。この部屋はまるで闇そのものだ。暗すぎて怖い。母親はまだ迎えに来てくれないのだろうか。
 それはまるで悪夢……しかし悪夢より、ずっと残酷な現実であった。

●until the end of time
「キマイラ討伐の依頼です。今回も楽な戦いにはならないでしょう……覚悟はよろしいですか」
 エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は告げる。そのとき彼女は、険しい表情を微かに緩めた。
 久々に顔を合わせるとはいえ、そこには、彼女の見知った顔がいくつもある。彼らの実力を彼女は知っている。知っていて、信頼している。それゆえ、僅かながら口元を綻ばせたのだ。
 しかしその感覚はわずかだった。たとえるなら厚い雲間から刹那、月影が差したかのよう。ユリシアは再び眉を曇らせている。
 キマイラ化した少年が、小規模な街を滅ぼしたという情報が入っている。キマイラは元々ここの住民だったようだ。住民を一人残らず殺戮した後もこの地に留まり、母親が自分を迎えに来ると信じて待ち続けている。
「迎えに来るはずがありません。少年は自分の母親を手にかけ、これをきっかけに暴走状態となってしまっのたのですから。人間だった頃の名はマシュウ・ギルバート、まだ十三歳に過ぎません」
 相手が少年だからといって、決して情けを見せてはいけないとユリシアは言う。その顔色は紙のように白い。毅然とした口調で続けた。
「キマイラに対する『情け』は、油断でしかないと断言させていただきます。キマイラ戦においてはそうした油断が、死に繋がることがままあるのです。ゆめ、お忘れなく」
 この相手には決して説得は成功しない。そもそも、知能が極端に低下しているので会話そのものがまともに成り立たないのだ。
 少年の姿はキマイラそのものというより、その「なりそこない」といった観が強い。頭部が異常に肥大しており、頭と胴がほぼ同じサイズらしい。しかもその頭は、ゆがき過ぎたジャガイモのように歪な形をしている。髪はほぼ抜け落ち、引き延ばされた目は黄色く濁っているという。あまりに特徴的な姿ゆえ、遠目からでもすぐ見分けが付くはずだ。普通の人間に偽装することも出来ないらしい。
「このキマイラが、肥大化した頭部を持つのには理由があります。そこに二本の『腕』が隠れているのです。黒く粘液質の両腕は、細いながら強靱、自在に伸ばす事ができます。キマイラは後頭部の黒い穴からこれを飛び出させ、襲いかかってくるでしょう」
 頭部より飛び出す『腕』は同時に二人を攻撃することが可能だ。粘液は防具の隙間より染みこむ性質があり、しかも強酸性で鎧を溶かしかねない。また、この『腕』で天井を掴み、素早く移動することが可能となっている。とりわけ、天井から飛び降りざま繰り出してくる攻撃は強烈だ。何の対策もしなければ、熟練の冒険者とて深傷を負いかねない。
 前回同様、このキマイラはモンスター化の能力を持たず、一度殺せば復活することはないだろう。やはり同様に凶暴化するのだ。一般的なキマイラに比して能力が段違いに上昇しているうえ、相手を皆殺しにするか自身が死ぬまで決して戦いをやめないはずだ。
「キマイラのマシュウは、街でもっとも大きな邸宅の一室に隠れ住んでいます。ただ、物置も含め十数ある部屋の、どこに隠れているのかまでは判りません。敵は耳がいいので、門を入った瞬間から、こちらの動きは筒抜けになっていると考えたほうが良いでしょう。この人数ですから完全に消音するのは難しすぎますし……察知されながらも、こちらが優位を取れる様な作戦が立てられればいいのですが。また、キマイラは異様なほど母親を恋しがっており、いつか迎えに来てくれると信じているようです」
 ここまで語り終えてユリシアは再び、少しだけ表情を緩めた。
「困難な戦いになることをお覚悟下さい。ですが皆さんなら、成し遂げてくれるものと信じています。どうか、お願いします」

 闇に生まれたキマイラを、闇に戻すのは冒険者の使命。
 二度目の使命も完遂を。


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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
暁に誓う・アルム(a12387)
風薫る桜の精・ケラソス(a21325)
守護者・ガルスタ(a32308)
濡れ羽色の閃光・ビューネ(a38207)
駆け抜ける銀剣・バゼット(a46013)
凍刻・ヴァイス(a50698)
黒影の聖騎士・ジョルディ(a58611)
太陽と大地の狭間に・ミシャエラ(a66246)
裏プーカ・フウ(a75216)


<リプレイ>

●一
 かつて紅い色だったものが、乾燥して黒ずんでいる。
 石造りの門にこびりついた血だ。錆色の汚れが、門のほとんどを覆い尽くしている。
(「……一人や二人の血では斯くまでの事態にはなるまい」
 痕跡が何よりも雄弁に、この地で行われたことを物語っている。六風の・ソルトムーン(a00180)は暫し、現出したであろう地獄絵図に思いを馳せるだった。
 同じく柱に張りついているものを観察し、太陽と大地の狭間に・ミシャエラ(a66246)は思わず後じさる。
 ――人間の皮だった。
 断片でしかもよく乾いているが、皮膚組織であることだけは明白だ。途上、腐乱した遺骸はいくつも目にしたが、そうした直接的なものよりも、ある意味衝撃は大きい。
「動じたか?」
 ソルトムーンがその背を支えた。
「いえ……」
 否定しかけたミシャエラだが、団長に偽りを述べたくなくて素直に告げる。
「……少し。でも、怯えてなんかいられないわ。悲しむのは、まだ後よ」
「その覚悟、尊重しよう。間もなく我らは羅刹に接することになろう。羅刹を討つには、それ以上の存在にならねばならぬ」
「『それ以上の存在』とは一体どのようなものですの〜」
 裏プーカ・フウ(a75216)が手を挙げた。
「フウよ、その答は自ら見つけるべきであろう」
 ソルトムーンの口調は厳父のよう、厳しいだけではなく深みと、慈愛が感じられる。
「見つけて見せますの〜」
 フウは素直に頷いた。
 門をくぐればすぐに屋敷だ。くぐるより先に、守護者・ガルスタ(a32308)が濡れ羽色の閃光・ビューネ(a38207)の肩に手を置く。
「誓おう。我は不破の盾であると」
 力がガルスタより流れ込み、ビューネはこれに、自身の魂が包み込まれるように感じた。これより二人は運命共同体となる。彼女に加わる痛みは、その半分を彼が受け持つことになろう。
「周囲を探索してきた。やはり、これが正門だろうな」
 と告げる黒影の聖騎士・ジョルディ(a58611)は、油や薪、火種となるものを抱えている。
「いざとなれば屋敷ごと焼き落とそう。無論、そうならないに超したことはないが」
 ジョルディは守護の力をビューネに付与した。
「危険な役割となるが……任せた」
「はい。皆さんも、お気をつけて」

●二
 カリカリと指で壁を掻く音が止まった。
「……」
 何か聞こえる。
 誰かが門から邸内に入った音だ。
 扉を開ける音がした。屋敷に足を踏み入れる音も。
 そして女の声。
「マット、マットぉ〜、どこにいるの? 出てきてちょうだい」
 マシュウは、自室の扉を開けた。

●三
 上下左右に目をやりながら、ビューネはわずかに玄関先へ歩を進めた。正体が露呈しないよう灰色のローブで身を覆っている。これでおびき出せればいいのだが。
 そのとき通路の向こうに、人影があるのを彼女は知った。
「ああ、マット、そこにいたのね。こっちへ……」
 返事は、涙声だった。ただし、多分に怒りを含んだそれであった。
「……お前、そんな意地悪するなよぅ……何が楽しくてそんな真似するんだよぅ」
 いくら狂っていても、いや、狂えるからこそ、執着するものには敏感なのかもしれない。
 後じさるビューネに、マシュウはたちまち追いついていた。
 粘液したたる『腕』で攻撃する。恨みを込めて突き刺す。

●四
 急に扉が閉じた。ビューネの姿は視界から消えてしまう。
 ビューネとダメージ共有しているガルスタが、真っ先に危機的状況を知る。
「攻撃されている……」
 膝をつく。激しい痛みだった。燃えさかる篝火を肌に押しつけられたよう。これで半分というのが信じられない。立て続けの攻撃に声を洩らさぬよう耐える。
 静観できる事態ではない。だがここで一斉に屋敷内に踏み込むような愚を彼らは犯さなかった。
 駆け抜ける銀剣・バゼット(a46013)は決断した。剣を抜いて大音声、
「聞こえてるんだろう!」
 館に向かって叫び声を上げた。
「出て来い化け物! 狩人のお出ましだ!!」
 ビューネがまだ館の中だ。火をかけるわけにはいかない。バゼットは賭に出たのである。
 読みは的中した。
「……来た!」
 暁に誓う・アルム(a12387)は守護天使を空より降した。「天使達」は羽ばたきながら冒険者の周囲を経巡る。アルムは同時に視線を滑らせ、戦場たるべきこの地の概要を頭の中で復唱していた。
(「天井がわりに『彼』が掴むものがあるとしたら石造りの門か……跳ぶ姿勢になったら気をつけないと……」)
 夢中で飛び出て来たのだろう。キマイラは日を浴びて停止し、怯むように後じさった。
 日の下に現れたその姿に、冥焔・ヴァイス(a50698)は眉をひそめざるを得ない。
(「しかし随分と醜い、な」)
 人を殺め続けた報いだというのか。歪にゆがんだ頭部は、頭というよりずた袋のようだ。顔は悪意を込めたカリカチュアさながら、汚れた黄色い眼球は左右非対称で、口は斜めに引っ張り上げられて涎が垂れている。そしてその『頭』の両側部から、真っ黒で長い腕が、同じ色の粘液を垂らしながら延びているのだ。凄まじい悪臭がした。恐らく腐った血の臭いだ。
 これだけ醜ければ、攻撃するのに躊躇いはない。ヴァイスは胸の前で合わせた両の掌から、黒い火炎の玉を放射する。火炎は冷たい風を喚び、ヴァイスの聖衣をはためかす。火球は、命中した。
 風薫る桜の精・ケラソス(a21325)はヴァイスほど割り切って考えられない。心に哀しみが満ちる。澱んだ黄色い目に、涙の跡があることを彼女は気づいていた。
(「化け物と呼ばれ、孤独の中で生きてきた事。……それは、同情の余地があるけれど」)
 その意を心に閉じ込めて、ケラソスは銀色の狼を使役する。
「お願い、彼を止めて」
 しかし、ケラソスの狼は標的に牙を沈めるも一瞬、すぐに弾き飛ばされている。
「半円の包囲陣を保て!」
 ソルトムーンが駆るは漆黒のグランスティード、両膝で鞍を押さえ両腕でハルバートを握る。彼の駒は彼の意を知っている。人騎一体となってキマイラの懐に飛び込み、一撃を見舞う。
 ――が、甲高い声を上げてキマイラはこれを回避していた。頭部の『腕』が屋敷の梁を掴み、屋敷内部に飛び込んだのだ。そのまま奥に消えようとする。
 ジョルディはそれを許さない。
「来い化物!」
 叫んで注意を惹くと、再びキマイラは反転し向かってきた。梁の上から飛び降りてくる。
「重騎士の本分は守りにあり!」
 ジョルディは避けなかった。鎧と盾、それに自分を信じた。怯まず突進する!
 黒い手が鞭のようにしなる。
 致命傷こそ避けられたが、鎧の側部が溶け始めている。ジョルディは歯を食いしばった。継ぎ目から粘液が染み、肌を焼いた。
 体勢を崩すジョルディだが包囲は解かれない。バゼットが、迫る。
「瞬殺百閃……斬捨て御免ッ……!」
 薔薇の剣戟だ。当たらないが、相手を包囲網の内側に取り込むことには成功した。
 よろめきながらビューネが屋敷より出てきた。酷い有様だ。頬は擦過傷で赤く、服の肩口が避けて白い肌が胸の辺りまで露出している。
「無事か……!」
 ガルスタが彼女を抱き留めた。しかしビューネは我が身に構わず告げる。
「燃して……焼いて下さい。屋敷……暗い場所のほうが、『彼』は強い……」
 短い邂逅ながら、敵の実力は暗い場所で発揮されることを彼女は掴んだのだ。
 フウはすぐに悟って、
「わかりました! 燃やしてみしょうホトトギス!」
 手にした薪、さっと火をつけて館に投じる。
「ふっふっふ燃えるでごわす」
 フウの狙いは正確だった。キマイラの背後、木製の戸口に火がつく。焔は蛇の舌のようにこれを嘗めていった。
 館内に逃げられることを思えば致し方ない。ミシャエラも次々と火種を投じた。
「できれば、焼き討ちはせずに済ませたかったけど」
 たちまち館は焔に包まれたのである。ここ数日、乾燥した日が続いていた。
「……ひぃぃ! ひぃい!」
 キマイラが狂ったようにわめくのが聞こえた。

●五
 燃えさかる館を背景に、無人の街での死闘は続く。
 少年の首から下はほとんど飾りだ。移動、攻撃、その大半を、頭から生えた『腕』が行っている。
 アルムとヴァイスには、次々と緊急の使命が科される。しかもそれはめまぐるしく変化した。ビューネと、彼女と被害を共有するガルスタを治療し、鎧を溶かされた仲間を癒す。そうこうしている間に、今度はバゼットが痛烈な一撃を首筋に受け、半身を朱に染めている……といった次第だ。
「バゼットさん、下がって。無理はいけないわ」
 雷の矢を放ちつつ、ミシャエラがタスクリーダーにて呼ばわる。
「……まだいける……って言いたいが、一旦そうさせてもらうよ」
 失血が酷く、頭が朦朧としている。美しい銀髪も血の色に染まっていた。常人であれば首が刎ねられていただろう、それほどの一撃をバゼットは受けたのだ。しかしこれは自分の挑発が敵を「本気」にさせた証拠、そう考えてバゼットはむしろ誇りに思った。
 怪物は、哭いていた。
「……お前ら、なんでこんな意地悪するんだよぉ……おれ、母ちゃんを待ってるだけなのに……酷いよぅ……」
 マシュウの目から血液混じりの涙が流れ落ちている。事態を彼は、半分も理解しておるまい。
 ケラソスはこれを見るのが辛かった。けれど敢えて、真正面からキマイラの狂態を見た。冒険者として……今からこれを殺す者の一人として、目を逸らすのは偽善だと、そう思ったからだ。
「気をつけて下さい。まだ一度も柱には飛びついていませんが、『彼』の目は一度となくそちらに向かっています!」
 館の炎上する音に負けず、強い調子でケラソスは喚起を促す。同時に治療も発動している。
 バゼットが抜けた現状をフォローすべく、ガルスタは敵を誘った。
「醜いな、マシュウ。貴様のような化け物の相手は私がしよう」
 言葉だけではない。敵を刺激するように、フェイントやバックステップを繰り返す。計算し尽くした動きで誘う。しかしマシュウはそれを無視した。
 マシュウを挑発する動きはガルスタだけではない。
「……こいつ、さっきから、鬱陶しいんだよぉ!」
 相手はソルトムーンである。彼は駒より降りず、ときにキマイラ以上の動きを見せて翻弄していた。夜そのもののように黒い駒は、駈歩、襲歩、巧みに動く。とはいえキマイラもそのポテンシャルは高い。これを追いながらも戦列復帰したビューネの放矢、あるいはジョルディの兜割りを巧みに回避しているのだ。
「流石にやる……なれど……追えぬ動きではないぞ、化け物め!」
「ばけもん、って言うなぁ!」
 マシュウは目を怒らせソルトムーンに飛びかかる。石造りの門に飛びつこうと跳躍を見せた。
「刻(とき)来たれり!」
 気合い諸共ソルトムーンは、ハルバートを地面に突き刺す。これを軸とし急転に成功、ゼロ距離から達人の一撃を叩き込んだのである!
「フウ!」
「はいな!」
 この機をフウも待っていた。虚空より招く、巨大なる虚無の手!
「全力でお母さんのもとへ連れて行ってあげます!」
 既に歪んだ顔面が、さらに歪むような一撃を決めた。キマイラは悲鳴を上げて地面に落ちる。
 だがここで、一気に集中攻撃に繋げることはできなかった。
「火が……!」
 アルムは盾で火の粉を防ぐ。バックドラフトというのだろう、館が内側から爆発したのだ! 冒険者たちは避けたが、悲惨なのは火元に一番近いのはキマイラだ、絶叫もろとも炎の大波に呑まれ姿を消した。さらに強風が吹き、火は周囲の建物に延焼をはじめた。
「……このままじゃ……街ごと燃えてしまうかもしれない」
 アルムに応えるはミシャエラだ。
「退けないわ、ここは。不幸中の幸い、もう街は無人よ。焼け落ちても、誰も被害は受けない」
 ミシャエラは冷徹に言い放つと、稲妻を矢にして投じたのである。
「そうだね……終焉を見届けよう……」
 アルムは、決意を固めた。
 ケラソスは煙に咽せているが、それでも敵の姿を目で追っていた。
「ヴァイスさんの方角です。お気をつけて!」
 鋭く叫ぶ。火炎の向こう側に、動く者をケラソスは見つけたのだ。
「壮大な火葬、か。ならば最後まで支えよう。隠れていないで出てこい化け物……!」
 ヴァイスが呼ばわると果たして、炎に包まれながらマシュウが追ってきた。
 まともに炎を浴びたらしい。既に火達磨、そのシルエットは真っ赤な炎に包み隠されている。何か叫ぼうとするのだが、
「お前ら……お前……ら」
 途中から言葉が、言葉にならない。肉の焼ける匂いが立ちこめる。
「嫌なファイアーダンスだな、化け物!」
 バゼットが前線に戻る。炎の熱さに汗流しつつ、繰り出す攻撃薔薇の剣戟!
「ジルバでもタンゴでも、お好みで踊ってやるさ!」
 一刀、二刀、バゼットはまるで踊るよう。燃えさかるキマイラに食らわせた。
 これに連携、ジョルディが仕掛けた。
「破断!」
 垂直に落とした重い刃は、燃え上がるキマイラの『腕』の片側を落としている。
「片付け次第ここから離れるぞ! 速攻をかける!」
 ソルトムーンは雷撃を放ち、フウとビューネを同じ駒の鞍に上げていた。
「……マット……ご免なさい」
 ビューネは呟く。しかしその矢は鮫牙の威力、決して容赦しなかった。
 ガルスタは言葉を口にしなかった。ただ、その心に一抹の哀しみを抱いた。
 ガルスタは、確かに聞いたのである。
「……母ちゃ……」
 マシュウの声を。
(「救いは母の許へ送ってやることだろうか……」)
 ガルスタは盾を捨て、両腕で剣を握りしめ吶喊した。
 銘刀ジルヴァラ、その切っ先は炎も、キマイラの本体も貫いていた。
 どっ、と炎の塊は倒れた。その身が浄化されていく。
「お見事! それでは……うっひゃー! 火事火事! 一旦逃げるでごわす」
 フウの声に従って、一同、煙に包まれながら街から飛びだしたのだった。

●六
 やがて火事は収まった。
 危うく街すべてが全焼となる前に、一行は燃えるものを取り除き、石壁を崩すなどして炎を消し止めたのである。
「あったよ……」
 ヴァイスが仲間に告げる。彼はキマイラの遺骸を見つけ出したのだ。
 死体は消し炭のようになっている。もう表情も、読み取れない。
「本当は、こうなる前に……キマイラになる前に、救ってあげたかった」
 アルムは悲しげに首を振った。
「……遅れて……ゴメン」
 マシュウの魂は救われた、せめてそう信じたい。
「悪夢は終わりだ……次は良い夢を……マット」
 戦いが終われば、そこに憎しみはない。ジョルディは、横たわるマットの腕――キマイラの形質ではなく、本来の腕を胸の前で組ませた。
「死出の餞ぞ」
 ソルトムーンはコインを弾いて死体の額に乗せた。
「その身の不運を嘆くなかれ、汝は町の皆より不運では有らじ……。なれど、その魂に幸運があらん事を……」
「祈りましょう」
 ケラソスが呼びかけた。
 一同は黙祷を捧げる。
 終焉を迎えたこの街に、そして、母を求め続けた子の魂に。

(続く)


マスター:桂木京介 紹介ページ
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冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2009/05/31
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