春のサニーベリーへようこそ! 〜清流のアクアリウム



   


<オープニング>


●泉のほとりサニーベリー
 鮮やかな水色の宝石を透かし見たような青空に、光の粒子を孕んだ風が吹く。
 瑞々しい命に満ちた新緑の梢たちがさざめいて、淡い虹を閉じ込めた朝露を山道へと散らす。透きとおる朝露だけでなく若葉の縁すらもきらきらと輝く梢の天蓋の下を抜け、小さな山の頂を越えて目指すのは、大地の祝福に満ちた小さな村だ。
 頂を越え斜面を下れば重なり合うように茂っていた若葉の梢が一気に開け、斜面から眼下を見渡せば、そこには明るい萌黄色の上を柔らかな光の波が渡っていく大地が広がっている。
 彼方まで続く大地は柔らかな萌黄の春草に覆われた草の原。春息吹に満ちた風が吹けば命の輝き孕む春草がさざめいて、萌黄に包まれた大地の上を光の細波が渡っていく。花の香と草の香と甘く肥えた土の匂い、大地の恵みを一身に纏った風と光の細波が辿りつくのは、萌黄の草原に弧を描いて流れる澄んだ小川の煌く水面。
 光のかけら弾けるように踊る水面で清冽な水の香を抱いて、春の風は澄んだ清流の内側に抱かれた村へと至る。明るい杏色の屋根が並ぶ、素朴ながらも何処か可愛らしい風情を持った、小さな村。
 澄んだ小川の内側に作られて、奥に広がる森に護られているようにも見える場所。
 清らな水の流れと肥沃な大地に抱かれた村の名は、泉のほとりサニーベリー。
 癒しの力を持つ泉が湧くと言い伝えられている、命の息吹に満ちた祝福の地。

●春のサニーベリーへようこそ!
 明るい杏色の屋根を持つ家々が立ち並び、優しい色合いと華やかな彩りに満ちた春の花々が咲き溢れるサニーベリーは、童話の絵本に描かれる世界さながらの可愛らしさを持つ村だ。
 澄んだ水の香が心地好い清流を覗けば、明るい緑に透ける水草が水の中でも白や桃の小さく可憐な花を咲かせていて、清流にかかる橋を越えれば、桜色や淡紫のカンパニュラ、真白なクレマチスや淡やかに香るカモミール、暁を映したスイートピーに濃桃色の薔薇などが咲き溢れる村へと至る。
 花々に彩られた家の間を通る道を行けば、村の奥に見えてくるのは立派に聳え立つ春楡だ。
 春楡の木陰に湧きだす泉は『癒しの力を持つ』と言い伝えられているけれど、それは本当にただの言い伝え。冷たく澄んだ水に僅かな炭酸が含まれているのが不思議と言えば不思議だが、本当に癒しの力を持つと言えるのは、山の滋養に満ちた水や肥沃な大地に育まれた作物と、サニーベリーの温暖な気候の方だろう。
 けれどそれを理解した上でなおサニーベリーの人々は春楡の泉を愛しているし、温暖な気候や穏やかな村人達の気質を愛し長期の滞在や療養に訪れる人々も泉を慈しんでいる。
 泉のほとりサニーベリーは、そんな優しさと温もりに満ちた祝福の地なのだ。

「春のサニーベリーに遊びに行くんやけど、一緒してくれる子はおるかなぁ?」
 湖畔のマダム・アデイラ(a90274)は楽しげに声を弾ませて、霞のような気泡を立ち上らせる炭酸水に枇杷のジャムをひと匙落とす。炭酸水に果実ジャムを加えるのはサニーベリー独特の飲み方だ。
 何度かサニーベリーを訪れている彼女は、ひときわ彼の地を愛しく思っているらしい。
 花と草の香り、そして水と土の匂いを纏う風。
 春楡の木漏れ日に泉の水音、微かな炭酸を帯びた泉の水に、大地と光の恵みをたっぷりたくわえた作物で作られたサニーベリーの料理やお菓子や、家ごとに味の異なる滋味豊かな自家製のお酒。
「そういうんがめちゃめちゃ恋しいんやけどね……今流行ってるって聞いた硝子ボトルのアクアリウムを作ってみたいなぁってのがあって」
 幸せそうに瞳を細めて彼女が語るのは、綺麗な硝子瓶に水を満たし、中に水草を植えて鑑賞するという小さなアクアリウムの話。透明な硝子を透かし澄んだ水や明るい翡翠色に揺れる水草を眺めるだけでも楽しいけれど、特筆すべきは、硝子瓶の底に敷くのは小石などではなく、肌理細やかに砕かれた鮮やかな色合いを持つ硝子砂だということだ。
 街の硝子職人に弟子入りしている村の娘が早春に硝子砂を持ち帰ったのが流行の始まりで、村人や村に逗留中のひとびとにせがまれ再び硝子砂を運ぶことになった彼女が、宜しければ手伝って貰えませんかと声をかけてきたのだとか。
「ってなわけでね、硝子砂運びを手伝うついでに一泊して、めいいっぱいサニーベリーで遊んでこようかなぁって思ったんよ。人手が増えれば有難いし、良かったら一緒に行かへんかなぁって」
 遠方から訪れ長期で滞在するひとびとも多いサニーベリーは、小さなコテージから十数人が滞在できる別荘タイプの館までとかなり充実した宿泊施設が揃っている村だ。優しい花の香に包まれながら眠れば、窓から射し込む朝の光と小鳥のさえずりで心地好い目覚めを迎えることができるだろう。

 眠りから覚めたなら澄んだ泉の水で身体を隅々まで潤して、朝の光を浴びて確りと朝食を採るのがよい。濃厚な甘味を持つ人参と瑞々しい甘夏の果汁を合わせた冷たいキャロットジュースも良いし、朝摘みベリーと朝露のヨーグルトを軽く煮込んだほんのり温かなフルーツスープもお勧めだ。
 搾りたてミルクと生みたて卵に苺のコンフィチュールを落として作ったパンプティングも美味しいし、同じミルクに三年熟成の濃厚なチーズを惜しげもなく削り入れ、朝露香る摘みたてハーブを散らしたというチーズリゾットにも惹かれるところ。どちらにも軽く塩茹でされたアスパラガスとスナップえんどうが添えられて、ほくほくさくさくの歯触りと肥沃な土地ならではの濃い野菜の甘味が心も身体もたっぷりと楽しませてくれる。

 緩やかな時間の流れを楽しみながら朝食を採った後は、ゆっくりと村を散策するのも良いだろう。桜色の花が咲き乱れているという泉のほとり、春楡の木陰でのんびり過ごすのも良いし、村を彩る春の花々を眺めて歩くのも楽しいだろう。外からの客を持て成すことが好きな村人たちに声をかければ、深い香りを持つ紅茶や焼きたての香ばしい焼き菓子を振舞ってくれるはず。話が弾んだならば、彼らが作った自家製ジャムや自家製ワインなどを譲って貰えるかもしれない。
 昼になれば村の広場では、苺やブルーベリーにラズベリーをたっぷり乗せたベリーピザが振舞われるという。ピザと言ってもその生地は厚めのクレープに近く、楓材のパドルに乗せた生地にカスタードを塗って、摘みたてつやつやのベリーをたっぷり乗せたそれを大きな煉瓦作りの窯で軽く焼きあげるもの。卵の風味濃厚なカスタードに甘酸っぱいベリーが蕩ける様は絶品だ。

 気が向いたなら硝子ボトルのアクアリウムを作ってみるのも良いだろう。
 透明な硝子瓶の底には好きな色の硝子砂を敷けば良い。
 水の煌きを閉じ込めたみたいな青硝子、春の花を透かした光のような桜色の硝子、木漏れ日をあつめて作ったような緑の硝子と、まるで世界の美しさそのものを凝らせたみたいな色とりどりの硝子砂が揃っているはずだ。一色でも綺麗だろうし、何色かで層を作れば虹のように煌くかもしれない。
 好みの砂を敷いたら澄んだ水を満たし、村を抱くように流れる清流で摘んだ明るい緑に透ける水草を中へと植える。小さな白や桃の花を咲かせた水草は、呼吸で生まれる細かな気泡を纏い、硝子の中の水世界を楽しませてくれるだろう。

 穏やかに緩やかに、祝福の地で春の終わりのひとときを。


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参加者
NPC:湖畔のマダム・アデイラ(a90274)



<リプレイ>

●泉のほとりサニーベリー
 透きとおる朝露をきらきらと散らしながら、涼やかな風が萌黄色した春草の大地を渡る。
 朝露香る風は澄んだ光踊る小川を越え、淡やかな朝靄の薄紗をふんわり開いていった。
 瑞々しい朝の気配を纏った風に揺れた梢は澄んだ朝露を振りまいて、欠伸をしかけたシーナの額に新緑香る朝の洗礼を落とす。散歩に彼を連れ出したエフェメラはまだ眠いのかと手を繋いだまま恋人の顔を覗きこみ、片手に零れた薔薇を彼の唇に触れさせ花弁越しに軽く唇を重ねた。
 薔薇のアーチに彩られた庭で老婦人に切って貰ったばかりの花は、澄んだ朝露を含み深く香る。
 今朝はおはようのキスがまだだったなと淡く瞳を細め、彼女の腰を抱き寄せれば此処では駄目と無邪気な笑みで窘められたけど、誰も見ていないさとシーナは構わず朝露残した恋人の唇を浚った。
「帰ったら紅茶を淹れて、薔薇の花弁を浮かべてあげる」
 朝の口づけにささやかな約束を重ね、エフェメラは彼を散歩の続きへと誘う。
「……早起きってお得なぁ〜ん」
 幸せそうに寄り添っていく恋人達を見送って、ニンフは思わず隠れてしまったブルーベリーの樹の陰から顔を出した。深藍のベリーを加えたバスケットには炙りたてのハムや卵にレタスを挟んだマフィンと桃やオレンジ果汁のフルーツオレをたっぷり詰めて、目指すは春楡の木陰にある泉のほとり。
 淡やかな緑に透きとおる木漏れ日のもと大きく伸びをして、細かな気泡煌く不思議な泉の水の香を胸いっぱいに吸い込んで、ヒユラは至福の心地で口元を綻ばせる。優しい黄緑色の空豆パンケーキにふわふわスクランブルエッグを合わせ、大地の恵みと甘味をたっぷり含んだキャロットジュースを添えた朝食は絶品で、思い起こすたびに頬が緩んだ。
 今日はのんびりサニーベリーをめぐり、花やお菓子やひとびとの幸せな話にゆっくり耳を傾けよう。
 柔らかな光射し込むテラスの脇には空色のカンパニュラが咲き連なっていた。
 涼しげな花々に瞳を緩めつつ蜂蜜たっぷりのパンケーキを切り分けて、アスティアはチョコチップ入りのスコーンに手を伸ばすディランに野菜も摂ってくださいねと心地好い程度に冷やしたアスパラガスのポタージュを勧める。参ったなと言うように苦笑しスープカップを手前に寄せ、ディランは彼女の手に自身のそれをそっと重ねた。
 一線を退こうかと考えたこともあったけれど、それでもここまで来れたのは彼女がいたおかげ。
 彼が語る言葉に微笑みを返し、ずっと二人でこうしていたいですねとアスティアは囁いた。
 今ある幸せは奇跡の結実だと思うから、ずっと大切に抱きしめて。
 咲き連なるカモミールが風に揺れる様を望める窓辺のテーブルにつき、桃ジャムを落とした炭酸水のグラスを口に運ぶ。優しく弾ける気泡に顔を綻ばせ、ティーは連れの姿を見つけて手を振った。
「おはようございますニールさん、おいしそうなものが沢山ですよー」
 眠たげに目を擦っていたニールもその言葉に「久々のまともなご飯!」と瞳を輝かせ、いそいそと彼女の向かいに腰をおろした。胃にくるかなぁと思っていたチーズリゾットは想像よりも優しい味わいで、たっぷり散らされた朝摘みハーブのおかげか意外にさっぱり食べられる。
「こんなご飯をいつも食べられるなんて、ティーさんから金持ちオーラが出てる気がする……!」
「そ、それは単なるゴージャスオーラじゃ……」
 他愛ない話に花を咲かせつつ、食後には枇杷入りのヨーグルトをたっぷりと。
 新緑の梢を揺らして吹く風は、花と緑の香りに水と土の匂い、そして眩い光に満ちていた。
 気持ちいいなぁ〜んと大きく伸びをして尾を揺らすエミルリィルがとても嬉しそうで、誘ってみてよかったとシルヴァは胸を撫でおろす。早く怪我治るといいなぁ〜んねと覗き込む無邪気な笑顔に内心どぎまぎしつつ、薄桃の花咲き乱れるカルミアの木陰に並んで腰をおろした。
 飴色バスケットに詰めてきたのは生ハムとブロッコリーのキッシュにベリーたっぷりフルーツスープ。頂きますなぁ〜んと手を合わせたエミルリィルは早速キッシュを切り分けて、どうぞなぁ〜んと最初のひときれをシルヴァに差し出した。エミルちゃんもと差し出されたひときれを受け取り一緒に頬張れば、柔らかな卵とチーズの風味に二人揃って笑みが零れる。
 夜には柔らかな胸に抱き寄せられて、大好きという囁きに包まれ眠りに落ちた。
 優しい目覚めを迎え朝の光に満ちたテラスへ出れば、涼やかな風に桜色のスイートピーが揺れる。
 澄んだ朝の空気に目元を和ませ、ハルトはお手製の朝食をテラスのテーブルに調えた。滋養豊かな春野菜の甘味を活かした優しい風味のスープにはポーチドエッグを落とし、早く怪我が好くなるようにと湖畔のマダム・アデイラ(a90274)の額にはキスを落とす。
「……何かね、どきどきする」
「ん。たくさん頑張った分、たくさん食べてね」
 幸せと笑む彼女に抱きしめられて抱き返し、薄切りの胡桃パンには鶏レバーペーストにヨーグルトから作ったフレッシュチーズをふんわり混ぜて、柔らかなセロリの葉と一緒に乗せた。
 世界は不確かで、本当は明日のことすら定かではない。
 けれどひとつだけ確かに判っていることは――自分は今、とても幸せだということ。

●春のサニーベリーへようこそ!
 明るい桃色の花を咲かせた花梨の梢を潜れば、花を透かした木漏れ日が頬に落ちた。
 何だかくすぐったくて心地好くて、苺やブルーベリーの籠を抱えたチェルダと瞳を見交わし弾むような心地でウィズは顔を綻ばせる。朝採り卵をたっぷり盛った籠を手に向かうのは、ベリーピザが振舞われている村の広場。
「こうしてるとさ、お祭りの時みたいだよね」
「うきうきそわそわしますよね、不思議」
「春やもん。皆で故郷に帰る春」
 零れそうになった卵を受けとめ微笑んだアデイラと一緒にアクアリウムを作る約束をして、甘酸っぱいベリーと蕩けるカスタードの香りに満ちた広場へ足早に。
 ありがとう、そしてただいまサニーベリー。
 こうして過ごしていられるのが、とても幸せ。
 優しい陽射しが木漏れ日のシャワーとなった降りそそぐ中、ふんわり漂ってきた甘酸っぱいベリーの香りを感じれば、胸弾ませずにはいられない。
 早く早くと急かすヨハンのはしゃぎっぷりが可愛くて、ちょっぴり苦笑しながらセラも早足で駆ければ、広場ではちょうど窯から焼き上がったばかりの様々な料理が取り出されたところ。
「うわぁ、綺麗だ!」
「ほんとね……!」
 堪らないくらいに甘酸っぱい香りを振りまきながら現れたのは、光の雫を纏ったみたいなベリーがきらきら輝くベリーピザだ。早速頬張ってみれば甘酸っぱいベリーとカスタードの甘味がとろりと溶け合う幸せの味。苺のコンフィチュールでほんのり薔薇色に染まるパンプティングにさくりと匙を入れてみれば中はふんわり柔らかで、一口ずつ交換しあって二人は幸せいっぱいの笑みを交わした。
 後には苺のジャムを炭酸水に落として、乾杯を。
 広場では誰もが楽しげにしているから、ちょっとくらいはしゃいだって誰も気にしない。
 可愛くてちょっぴり凛々しい猫ぬいぐるみを抱えたアーリスが「にゃあ」と挨拶をさせてみれば、うきうきと焼きたてベリーピザを切り分けていた二人に大いに受けた。後で触らせてねと満面の笑みを浮かべつつイーグルはベリーピザを頬張って、両手に花ですなとファリアスも鼻歌でも始めそうなくらい上機嫌でベリーピザに手を伸ばす。私は花って柄じゃ、と慌てて言えば二人は顔を見合わせ、
「だって可愛いよ」
「ねぇ」
 至極当然といった感じで頷きあった。
 熱いおねだり光線に負けてつやつや苺をイーグルに譲ってやるファリアスの様子に小さく笑みを零しつつ、アーリスも宝石みたいに輝く果汁をとろりと滲ませたベリーピザを口へと運ぶ。
 蕩ける甘酸っぱさは、空と大地の恵みをいっぱいにあつめた祝福の味。
 愛らしいチャイブの花を漬けたハーブビネガーは淡桃色の光を透かし、生成りのテーブルクロスの上に透きとおる影をきらきらと踊らせる。アテカのも桃色のきらきらなんだよと撫子の花みたいな色の硝子砂入りアクアリウムを披露して、頂きますと少女は蜂蜜だれで炙った鶏を頬張った。
 鶏の中には軽く炒めた玉葱やセロリに押し麦がたっぷりと詰められている。この子は此処に来ると積極的に野菜を食べてくれるから安心と瞳を緩め、オルーガも金色に蕩けるチーズのパイに瑞々しい蕪のピクルスを乗せてサニーベリーを満喫した。
 チャイブのビネガーで作られたピクルスもほんのり淡い春の色。
 差し入れしてくれたお菓子のお礼にと村人が振舞ってくれたのは、カリカリのベーコンとディルを散らしたローストポテト。わぁと声を弾ませたヴェルーガはいそいそとポテトを摘みつつ、こっそり村人に何かを耳打ちし、今からなら夏の芙蓉を楽しみにするといいよと教えられた。
 瑞々しい命の息吹を含んだ風は泉の水面をさざめかせ、新緑に満ちた春楡の梢を揺らす。
 優しい木漏れ日踊る木陰には桜色を宿した花々が咲き乱れていた。夢みたいと瞳を輝かせるハルの足元に跪き、ラウレスは星の指輪輝く手を取り彼女を見上げ、真摯な声音で希う。
「私の全てを敬愛する貴女に捧げます。どうか、結婚して頂けませんか?」
 大きく瞳を瞠った彼女は薔薇色に頬を染め、至福を瞳に湛えて飛びきりの笑みを咲かせた。
「誰より一番、貴方が大好きです。ラウレスさん。どうぞ私を貴方のお嫁さんにしてください」
 躊躇いなく言葉を紡げば彼も幸せそうに破顔する。
 ふわりと被せられた薄紗と頬に触れる手の感触が嬉しくて、ハルは緩く目蓋を伏せた。
 純白のマリアベールを揺らす風の中、誓いのように口づけを交わす。

●清流のアクアリウム
 鮮やかなほど透きとおる水と様々な色を帯びた硝子砂を透かし、美しい色合いを湛えた光のかけらが花に風に大地にきらきらと踊る。
 苦心しながら硝子瓶に詰めるのは、淡いラベンダーとほのかな珊瑚色の硝子砂。
「この硝子の砂はどうやって出来るの?」
「あははは。言ったら私、師匠に目で殺されマス……」
 何気なく訊けば途端にチェルダが視線を泳がせる。
 一体どんな秘密が!? と慄きながら、ミルッヒは硝子砂を混ぜ綺麗なグラデーションを作り出した。
 淡紫から淡桃へ流れる、祝福の地で迎えた春の暁。
 何処かの夫婦が絶賛していたベリーピザを摘みつつ、シキヤは青の硝子砂を詰めたアクアリウムを陽射しに透かす。水中に揺れる水草も光を透かし、硝子砂を透過した青の光と一緒に頬に触れた。
 紫水晶を一粒落とせば、もっと幻想的に煌くはず。
 静謐に満ちた深海の煌きを凝らせたような深藍に僅かな群青を混ぜ、細かやかな光のかけらが踊る様を楽しむようにしてオキは瓶の中にそっと硝子砂を注いでいく。水を満たし水草を植えれば、深い水底に届く陽光を閉じ込めた水の世界が出来あがる。
 穏やかに揺らぐ光のような優しい幸福に満ちていた――と、何時かの日に伝えたい想いを秘めて。
 光の粒子そのものを形にしたような硝子砂の中から選び出したのは、空を映した湖のような青。
 何色か取り混ぜるのも綺麗でしょうけどと呟きながらも、フォーネが静かに瓶に注ぎいれるのは涼やかな光を湛えた青一色だ。綺麗だなと眩しげに瞳を細め、けれどシラユキは全く同じではなく、青硝子の上に新雪のように煌く白硝子の砂を薄らと敷いてみた。
 澄んだ水を注げば次は可憐な花咲く水草を植える作業。
 これは難しそうだからと二人其々に針金を握り、悪戦苦闘しつつ一緒に硝子砂に植えこんでいく。
 硝子砂に植えられた水草は翠玉色の葉をふわりと広げ、硝子の煌きを可憐な花々で受け止めた。
 朝の清流で摘んできた水草が綺麗にアクアリウムへ収まった様子を眺め、満足気に頷いたジェドは涼しげでいいッスねと傍らのクスリへ声をかける。澄んだ青と透明な硝子砂を交互に敷いた硝子瓶に桃色の花咲く水草を植えた彼女は、これからの季節にいいですよねと瞳を細めて微笑みを返した。
 透きとおる青の光踊る硝子のアクアリウムの中で、小さな気泡が煌きながら水面へ昇る。
 深く鮮やかな青硝子の砂を傍らに置いたレイは、絵筆を握り一心不乱に何かを描いていた。
 彼の手元をひょいと覗きこみ、硝子瓶に描かれた青い瞳の子猫に破顔して、眩いくらい真白に煌く硝子砂を敷いた硝子瓶にアセルスは黒い石と小さめの赤い石、そしてもっと小さな青い石を入れる。
「ほら、今のボクを支えてくれる幸せのかたち」
 彼女のアクアリウムに憩う『家族』の象徴に、思わずレイも笑みを零す。
 緩やかに過ごすこんなひとときは、間違いなく幸せなものだから。
 明るい若葉の色から落ち着いた深緑までを取り揃えれば、濃淡を成す緑の硝子砂が深い森の中に揺れる木漏れ日のような光を零した。水を透かせば光はひときわ柔らかさを増して、ザビネもほっと瞳を和らげる。あのひとに少しでも、森の安らぎを感じてもらえるように。
 森の木漏れ日を思わせる硝子砂を求めるのはリネンも同じ。
 深く眠る森を離れた少女のために森の煌きを閉じ込めて、可憐な花咲く水草を植える。
 幾ら経験を重ねてもひとりの手で成し得ることは少なくて、けれどだからこそこの道を志した理由を忘れず胸に抱いて欲しいから、首からさげられるよう細くとも勁い革紐を丁寧に括りつけた。

 花の色を溢れさせたいから、様々な色の硝子砂を少しずつ。
「……しかしなぜこんなに零れてるのでしょう」
「ソア大丈夫かー? そーっとな」
 真剣な顔つきで硝子瓶に砂を注いでいるソアの周りには、何時の間にか橙や桃に黄や白と黄緑、そして鮮麗な朱に煌く砂が散りばめられていて、何だか花畑みたいだとイクセルは顔を綻ばせる。零れたの拾うのも楽しいよなと明るく笑って、自身の硝子瓶には深い海の色と澄んだ空の色を重ねた。
 綺麗な青なのですとソアも嬉しげに笑い返してくれたから、「綺麗なものはこころの栄養」ってアイツ言ってからなーと硝子瓶を光に透かしつつ瞳を和ませる。花の色で虹を作ったみたいな親友の瓶を覗き込み、きっと姉さんも喜ぶさと頬を緩めた。

 深い煌きを抱く濃藍の硝子砂を掬えば、さらりとした感触と優しい涼感に心が和んだ。
 指先から海の雫を滴らせるようにそっと硝子瓶に注いでいけば、まるで世界を作っているかのような心地になって笑みが零れた。錯覚みたいだけど、ある意味きっと錯覚ではない。
 だってこの世界は、私達の手で作っていくものだから。
 だから幸せと祝福溢れる世界であるようにと祈りながら、レインは澄んだ清水を硝子瓶に満たしていく。今此処にいない誰かが戻ってきた時に、透きとおる光と祝福を降らせることができるよう。
 必ず戻ってくると信じてる、その想いがきっと力になるから。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
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参加者:36人
作成日:2009/06/11
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