秘密基地



<オープニング>


●遠き日の幻想(ウソ)、今日の現実(ホント)
 きらきらなビー玉。
 すべすべした平べったい石。
 つかまえたまっ白なちょうちょ。
 みんな、ぼくらのたからものだった。
 でも、それよりもなによりも大せつだったのは―――。

●惨劇の終わり
 今日もかしがましい冒険者の酒場。
 その一隅で食物繊維ばかりを摂取している霊査士がいた。
「何を食べてるのか? ぺんぺん草のバジルソース和えですよ。私は草食系男子ですから、今流行りの」
 その単語はベジタリアンという意味ではない。そんな空気をこの千の悲しみを識る霊査士・ツキユー(a90076)は肌で感じ取った。
「なんですかそのトキメキ熱視線は? 惚れますよ?」
 気のせいだった。
「まあいいや、最近冬眠から覚めたばかりでよくわかんないんですよ。依頼は完璧ですから気にしないでください」
 そう嘯くと、飄々とした態度を保ったままツキユーは依頼について語りだす。
 その内容はドライな彼の語り口とは打って変わって凄惨なものだった。

「なり損ないのキマイラによって、子供ばかりが5人ほど殺されました。被害現場は秘密基地、成り損ないのキマイラはその付近から立ち去る様子はありません」
 濃緑な森の中。
 エアポケットのように拓けた花畑の中心。
 木板の壁とわらの屋根で作られた、扉も窓も無い粗末な小屋。
 そこが子供達の秘密基地であり、墓地でもあった。
「で、その成り損ないの姿は被害者と同じ子供、と。左腕がその子よりも大きな棍棒になってますけどね」
 子供といえど、暴走した成り損ないの一撃に一般人が耐えられるはずもない。
 耳をつんざく甲高い悲鳴や反比例するようにくぐもって響く破砕音、小屋の壁に付着する赤い飛沫。
 ツキユーはそんな過去を視ていた。
「戦場である秘密基地付近は拓けた花畑になっていますから、まあ特に地形に気をつける必要はないでしょう」
 そこまで言ってから、忘れてましたとつけたした。
「地形といえば建物がありましたね、秘密基地が。でも、ぶっ壊しても良いんじゃないですか? 成り損ないが暴れたおかげでもう半分くらい傾いちゃってますし、基地の隊員も……もう、誰もいないんですから」
 成り損ないについては棍棒腕のなぎ払いに気をつけてください、そんな言葉で締めくくるとツキユーはボヤく。
「ほんと、何回視ても慣れませんね。死の光景ってのは」
 ツキユーは草食系なのではなく、ただ肉が喉を通らないだけだった。


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参加者
蒼の閃剣・シュウ(a00014)
ウェイトレスの大魔術師・ルーシア(a01033)
兄萌妹・フルル(a05046)
風舞彩月・シリック(a09118)
月下に咲く花・エルシー(a10291)
聖剣の王・アラストール(a26295)
探しの・シンクレア(a37318)
重鎧・トビー(a72634)


<リプレイ>

●冒険者たるもの
 光も微かにしか差し込まぬ暗い森。
 細い獣道を掻き分けるようにして、冒険者の一行は進んでいた。
「ツキユーがぼやきたくなる気も判る気がするよ」
 蒼の閃剣・シュウ(a00014)は刀で自分の顔へと当たる枝を切り落とし、ひとつ溜息をついた。
 相手は子供の『なりそこない』で、出現した箇所は子供の秘密基地。
 となれば、なりそこないの素性も自然と想像できてしまう。
「恐らく、今回討伐する『彼』は、その基地の元隊員だったのでしょうね」
 淡々と告げる風舞彩月・シリック(a09118)。木々が好き放題に茂っている森の中だというのに、その衣服には解れのひとつもない。それは卓越した技量の表れか、翔剣士は優雅であるべしという矜持か。
「ったく、あの霊査士め……!」
 一方で、苛立たしく地を踏み鳴らす者もいた。探しの・シンクレア(a37318)だ。
「秘密基地とか、秘密の場所ってはな、子供の頃はそれ自体が宝物だったんだ! それをあんな軽く、壊しても良いとか言いやがって……!」
 激しく、自分自身をも焦がしてしまいそうな熱量を持った炎。しばらく依頼を請けていなかったものの、シンクレアの胸には未だ太陽が宿っていた。
「ツキユーさんの事を悪く言わないでください!」
 その後ろでは月下に咲く花・エルシー(a10291)が、頬を膨らませて抗議の視線をシンクレアに送っている。エルシーはあの気の抜けた霊査士のファンという、奇特な人物だった。
「そりゃ、秘密基地を壊しちゃうのはさびしいかな、って思いますけど……」
 語尾はどんどん小さく、尻すぼみになっていく。
 そう、エルシーも決してシンクレアと意見が全く違うのではない。
『秘密基地を壊したくない』、『なりそこないを倒す』という点では意見が一致しているのだ。
「まぁまぁ、お二人さん落ち着いて〜。これから壊れないようにするんだもんね?」
 底抜けの笑顔で二人の間へ割って入る少女、兄萌妹・フルル(a05046)。
 二人だけではなく、それは一行の総意でもあった。
「気持ちを切り替えて参りましょ〜。じゃないと、死んじゃいますよぉ〜?」
 ウェイトレスの大魔術師・ルーシア(a01033)の言葉は気だるい口調と裏腹に、重い。
「……あぁ、そうだな」
 仲間達の言葉は正しい、それがわからないほどシンクレアは愚かではないし、新米でもなかった。
「全ては行動で示す……」
 無愛想にポツリとそれだけ呟く重鎧・トビー(a72634)。無口な彼は、これまでそうしてきたのだろう。そして恐らく、これからも。
 同じく、黙々と獣道を進んでいた天壌の劫火・アラストール(a26295)が足を止め、代わりに口を開く。
「見つけた」
 視線の先には、降り注ぐ何条もの光の帯。剣に手をやる。戦いを予感し、既に戦闘準備に入っているようだ。
「何はともあれ『彼』が人である事を捨てた以上、我々はそれを討つのみです。人ならざる者を相手にし、同時に基地を護るとなると正直厄介ですが……」
 シリックは帽子のつばに片手をやると、歯の浮くような笑みを浮かべた。
「困難を華麗に乗り越えてこそ、翔剣士、ひいては冒険者たる者です。そうでしょう?」

●なりそこない
「おい、さっさと家に帰るぞ!」
「いやいや、それよりわたしと遊ぼうぜぇ〜」
「出てこないと基地をぶっ壊しますよ〜!」
 冒険者達が口々に囃し立てると、なりそこないはすぐに姿を現した。
 色とりどりの花が咲き乱れる地。花畑の中心に存在する傾いた木の小屋。
 そこから『なりそこない』がゆっくりと顔を出す。薄汚れた衣服を纏い、肥大化した左腕を引きずる少年。
「聞き分けが良くて助かるよ」
 片手を前へ突き出し、鎧進化を発動するシュウ。
「う、ああああ゛ぁぁぁっっ!!!」
 冒険者達の姿を認めたなりそこないは、その前の緩慢な動きとは段違いの速度で冒険者達めがけて疾走してきた。
「やはり話し合う余地も無し、か。何故、こうも理不尽なのだろうな……」
「俺に出来るのは『彼等』を村に連れ帰ってやる事だけ、か……」
 アラストールの独白を受け、トビーは半眼で呟くと鎧聖降臨を仲間へとかけていく。
 その表情には、理不尽な力に蹂躙された者達を救えなかった、そんな慙愧の念が含まれているようだった。
 各々が準備の一段階を終えた頃、なりそこないが冒険者達へ接近する。
 散開、包囲しようとする冒険者達へ向かって、なりそこないはさきがけの薙ぎ払いを繰り出してきた。
 棍棒のような腕が弧を描き、赤や紫色の花を周囲に吹き上げる。
「っちぃ!」
 想像以上の速度に舌打ちし、盾でなんとか薙ぎ払いを受け流すシュウ。
「くうっ!」
「いった〜い!!」
 次にその腕はアラストールとエルシーを巻き込んで弾き飛ばし、
「頑張って避け……無理ぃ〜!」
 準備がし終わっていないフルルをも吹き飛ばした。
 まだ勢いは止まらない。正に豪風のような一撃。
 シリックは回避できたものの、シンクレアとトビーもまた、薙ぎ払いを食らっていた。
 この間、一瞬。
 舞い散る花弁の中、なりそこないは身体を捻って更なる一撃を繰り出そうとしている。
「させるかっ!」
 花弁の吹雪を、突っ切って抜けていくトビー。
 捻りを加えたなりそこないの左腕振り下ろしと、飛び込んだ懐から跳ね上がるようにして放たれるトビーの切り上げとが激突する。
 力勝負は、なりそこないに分があった。弾き返されるトビー、花畑に一筋の土肌が露出する。
「流石っ!」
 シンクレアはトビーを心配ではなく、賞賛した。それはガッツソングを発動しているから、という理由だけではない。
「速いが、対応できない速度ではっ!!」
 その一撃分の隙さえあれば、シュウとアラストールがなりそこないに太刀を浴びせられると確信していたからだ。
 肥大化した左腕を二人に攻撃され、なりそこないはバランスを失って後ろへ倒れかける。
「破ッ!」
 そこへ横から、シリックの生み出した真空の牙が襲い掛かる。なりそこないは驚異的な身体能力で真空の牙へと身体を向けると、左腕でガードした。
 そんな彼でも転倒は防げず、花畑の中へなりそこないの体が消えていく。
 間髪いれずフルルの紅蓮の雄叫びとルーシアの緑の縛撃が飛んだ。
「とほほ、また失敗だよ、相性悪いのかなぁ?」
「こうするんです、よっ!」
 紅蓮の雄叫びではなりそこないを縛る事はできなかったが、代わりに花畑には不釣合いな木の葉達が現れ、なりそこないの身体を縛り上げていく。
 一体で活動するなりそこないにとって、束縛での時の消費は死に直結していた。
 時が経てば経つほどトビーの鎧聖降臨が前衛の皆へ行き渡り、その守りがより強固になる。
「ここですっ!」
 エルシーのソニックウェーブをなりそこないは身をよじって避けようとした。
 そこを見計らってシンクレアが飛び出し、切り札の電刃居合い斬りを解き放つ。
 腹に一撃を受け、くの字に体を折り曲げるなりそこない。
「パワーブレイドだよっ!」
 更に血の暴走で強化されたフルルの一撃が上空より降り注ぐ。
 後頭部にハンマーの直撃を受け、なりそこないは頭から花畑へと倒れこんだ。
 もがき、うごめくなりそこない。その側に、アラストールが立った。
「――願わくば苦しみを忘れ、その辛苦に終焉を」
 アラストールは瞳を閉じ、弔いの言葉と共に長剣をなりそこないの左腕ごと、花畑へと突き刺す。
 なりそこないの身体の上に、千切れて飛んだ花びらが降り積もっていった。

●大切なものは
「救出、終わったぞ」
 秘密基地を捜索していたトビーとシンクレアは、遺体を回収とはいわず、あえて救出と呼んだ。
 花畑に並べられた子供5人、なりそこない1人、都合6人の遺体。
「討つ事でしか救う事が出来ないってのは、やはり辛いもんだね」
 舞い散った花を拾い集めると、胸の上へ置いてやるシュウ。
 事切れ、物も言わなくなったなりそこないを、あくまで人として弔ってやりたかった。
「ほんと……なんで子供までキマイラになっちゃうんでしょうね」
 同じように花を手向け、遠い目で天を見上げるエルシー。
「太陽が、眩しかったからですかねぇ……」
 ルーシアが呟くとおり、光が差し込まないはずの森の中、その花畑だけは太陽の光を受けて眩しかった。
 だとすれば、断罪の瞬間は慈悲の祈りではなく呪詛を吐かれる事を、彼は望んでいたのかも知れない。
「こっちも、準備できたよ〜」
 フルルは戦闘で荒れてしまった花畑の一角を、そのまま墓地とするべくひとつの穴を掘っていた。
「みんなが離れ離れになるより、一緒の方がいいもんね」
 皆が、手分けをして遺体を墓へと納めていく。
「……ん?」
 アラストールは一番損傷が激しかった少女の遺体を抱きかかえようとして、服ポケットから包みがはみ出しているのに気づく。巾着型で、リボンで締められていたその口は緩んでいる。
「ああ、それか……俺らが見つけた時には、もう開けられてたんだ」
 曖昧な苦笑いを浮かべるトビーとシンクレア。遺体を回収した二人は、その包みが何なのかを既に調べていたようだ。
 中には粉々に砕け散ったクッキーと、くしゃくしゃになったメモ。
『おこってごめんね トリィ ほんとはだいすきだよ セリスより』
 柔らかい丸文字が、しわくちゃにされたせいで歪んでみえた。
「はぁ―――」
 アラストールの長い、溜息。
「またひとつ、この世界を睥睨する暗黒の太陽―――魔石のグリモアを許せない理由が増えた」
「恐らく、この少女と喧嘩をしてトリィ少年は……いえ、やはり止めておきましょう」
 シリックは思い直し、それ以上の憶測と追求を止めた。それはシンプルな理由で、美しくないからだ。
「勿論事実は伝えるとして、親御さんにはどこまで報告すべきか……」
 トビーは一人、密かに頭を抱えるのだった。

●霊査士への報告
「で、どこまで報告したんですか」
 酒場、野菜ジュースを飲みながら、ツキユーは傍観しようとするトビーへしつこく話しかけた。
「……………」
 トビーは黙して語らない。真相は本人のみが知っている。
「ツキユーさん、シュウさんのおごりなんだからもっと食べようよ〜! メニュー全制覇だ〜!」
 なおも食い下がろうとしたツキユーだが、横からフルルに飛びつかれた。
「それ、店員死にますからねぇ〜……」
 厨房へ同情の視線を向けるルーシア。ウェイトレスもやっている身としては、色々と身につまされるものがあるらしい。
「今回は奢るんで好きなもの頼んでね」
 既に酒が入っている様子のシュウ。しかし、ツキユーはシュウに答えるどころではなかった。
「いや、あのですね。フルルさん、腕に柔らかいモノが当たってるんですが……」
「むぅ……ツキユーさんはみんなのものなんですっ!」
 反対側から、フルルと同じように飛びつきを試みるエルシー。
「おお、エルシーさんもしばらく会わないうちに成長しましたね……えへへ」
「俺、やっぱりこの霊査士嫌いだ」
 一人遅れて酒場へやってきたシンクレアは、両手に花状態でデレデレしているツキユーを見てジト目で言い放つ。
 酒場にいた周りの一般人男子はシンクレアの発言に200%同意し、心の中でよく言ったと万雷の拍手を送るのだった。


マスター:蘇我県 紹介ページ
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月下に咲く花・エルシー(a10291)  2010年06月30日 23時  通報
ものすごく久しぶりにツキユーさんが依頼出してくれたので喜び勇んで参加したんですが……なんか、やりきれないですよねぇ。