地獄列強追撃戦 :8対6



<オープニング>


●地獄列強追撃戦
 死者の祭壇から侵攻した地獄列強の軍勢を、黄金霊廟、エギュレ神殿図書館、カダスフィアフォートの3つのドラゴンズゲートで迎撃した同盟諸国の冒険者は、見事、その攻撃を退け撤退させることに成功した。
 しかし、ノスフェラトゥ以外の地獄列強、ディアブロ、セフトシルフ、シャドウスナッチの中には、そのまま死者の祭壇まで撤退せずに独自の行動を取り始める者が出てきているのだ。
 このまま、地獄列強の好きにさせておけば事態はどう悪化するか判らない。
 そこで、精鋭の冒険者による『追撃部隊』が派遣されることとなった。

「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます」
 エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は、冒険者達に一礼して、状況の説明を始めた。
「ドラゴンズゲート防衛戦の勝利、おめでとうございます。しかし、一部の地獄列強は死者の祭壇に逃げ帰らず、独自の行動を取り始めています。皆さんには、この地獄列強達を撃破してもらいたいのです」
 ユリシアは、真剣な口調でそう語った。
 これ以上、地獄列強にランドアースを蹂躙させるわけにはいかない。
 ランドアースに住む全ての住民の為にも、地獄の勢力は撃破しなければならないのだ。
「ノスフェラトゥ以外の地獄列強は、個体として同盟諸国の冒険者を凌駕する力を持っています。かなりの危険が予想されますので、用心してかかって下さい」
 ユリシアは願いをこめて、冒険者達に頭を下げるのだった。

●8対6
「ああ、くそっ! けったくそわりぃ」
 イラついた罵声が響く。紅い蛮刀を担いだそのディアブロは、ゲシゲシと壁を蹴り付けた。無骨な金属鎧が擦れ、存外大きな音が鳴る。
「少しは落ち着け、紅の。ここで悪態を吐いても詮の無いこと」
「けっ、てめぇはいっつもそうだな、銀。勿体ぶった洒落者気取りやがって」
 銀と呼ばれたディアブロは、苦笑混じりに肩を竦めた。腰に帯びるのはサーベル。銀鎖を幾重にも編み込んだ戦装束は、見るからに重々しい。
「……だが、確かにこのまま撤退も業腹な話」
「俺も、まだ戦い足りん」
 軋るような声が相次いで上がる。ディアブロの外見はおおよそ似通って見えるが、革鎧を着込んだこの2人は正に相似。違いは手にする得物のみ。片や灰色の枯木にも見える杖、もう一方は蒼い刀身の儀礼用長剣だ。
「やるか……?」
 言葉少なにギョロリと仲間を見渡したディアブロは、板金のスーツアーマーを悠々と着込んでいる。鉄の斧の刃には血肉がこびり付いたまま。傍らには、6色の輝石をあしらった儀礼的な盾が立てかけられていた。
 そう言えば、1人を除き、それぞれ同じ儀礼用盾を携えている。硬革鎧を着込み金縁のチャクラムを弄ぶディアブロにしても、マントが同じ紋様に染め抜かれていた。或いは彼らの旗印、なのかもしれない。
「ヴァルガリウスなんぞ知ったこっちゃねぇ。俺達は俺達で、やりたいようにやる。『六色』の名に賭けて……違うか?」
 マントを翻しディアブロが吼えれば、「おうっ!」と猛々しい鬨の声が上がった。

「……とまあ、えらい血の気の多い連中が視えたんやけど」
 明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)の口調は軽かったが、冒険者を見渡す眼差しは真剣そのもの。
「うちからの依頼は、ディアブロの小隊の討伐や。戦いたがっとるさかい、ほっといたら腹いせに周囲の村を襲いかねへん。可及的速やかにってヤツやな」
 「六色」と名乗る彼らは6名。「紅」「銀」「鉄」が前衛、「灰」「青」「黄金」が後衛と予想される。
「召喚獣は出してなかったさかい、その組み合わせまではわからんかったけど……ある程度なら、編成の予測は出来るんとちゃうかな」
 集められた冒険者は8名。数ではこちらが勝る。
「けど、魔石のグリモアが見下ろす地上に出た事で、ディアブロの力は地獄にいた頃より一層増しとる。油断は出来へんで」
 「六色」が立て篭もったのは、放棄された砦。その大広間にいるという。
「広さは大体40メートル四方やろか。出入り口は大扉1ヶ所のみ。小窓しかないから、突入はその大扉からになるやろな。綺麗な石畳で足元に不安はないし、天井も高い何もない空間で遮蔽物もない。明かりについても採光窓はあるから不自由はないやろ。丈夫な岩造りやから、ちょっとやそっとで崩落する事もない筈や」
 要するに、小細工なしのガチンコ勝負になる、という事だ。
「敵も冒険者や。それぞれ、自分の役割を全うして戦うやろ。生半可な連携では、きっと返り討ちに遭う。作戦は、しっかり錬って当たってな」
 今回の追撃戦が成功すれば、死者の祭壇の奪還戦を行う事が出来る筈。
「きつい仕事になると思う。けど、地獄の勢力をランドアースから駆逐する為にも……皆、頑張って来てや!」

!注意!
 このシナリオは同盟諸国の命運を掛けた重要なシナリオ(全体シナリオ)となっています。全体シナリオは、通常の依頼よりも危険度が高く、その結果は全体の状況に大きな影響を与えます。
 全体シナリオでは『グリモアエフェクト』と言う特別なグリモアの加護を得る事ができます。このグリモアエフェクトを得たキャラクターは、シナリオ中に1回だけ非常に強力な力(攻撃或いは行動)を発揮する事ができます。

 グリモアエフェクトは参加者全員が『グリモアエフェクトに相応しい行為』を行う事で発揮しやすくなります。
 この『グリモアエフェクトに相応しい行為』はシナリオ毎に変化します。
 霊査士ラランの『グリモアエフェクトに相応しい行為』は『挑戦(challenge)』となります。
 グリモアエフェクトの詳しい内容は『図書館』をご確認ください。


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参加者
観察者・ヒリヨ(a02084)
白楽天・ヤマ(a07630)
琥珀の狐月・ミルッヒ(a10018)
夏休みは昆虫採集・チグユーノ(a27747)
沈戈待旦・ハル(a28611)
隻眸の黒蛇竜・シアーズ(a30789)
ディッツィローズ・ヒギンズ(a33003)
数撃ちゃ当たるぜ・オウオウ(a73949)


<リプレイ>

 黒き太陽が睥睨する荒涼とした野辺……天上の白き庭から降り、地獄の不毛の地で務めを果たしてきた隻眸の黒蛇竜・シアーズ(a30789)の眼には、それでもエンデソレイより豊かに映っただろう。
 ディアブロの小隊が立て籠もるその砦は、荒野にポツンとあった。
「これ以上好きにさせないよ」
(「皆が守ってきたこの地上の全て……絶対渡さないし、荒らさせないんだから」)
 砦を睨み付ける琥珀の狐月・ミルッヒ(a10018)の呟きに、小さく頷く観察者・ヒリヨ(a02084)。
 思い返せば、列強同士の対峙はトロウル以来か。今回も出来るだけの事はしようと決めている。
「力及ばずとも、個々でやるのでなければ出来る事はある筈です」
(「所詮はノスの駒なのに、可哀想な人達……吾ら潰しても獄の連中で殺し合うのでしょう?」)
 遠眼鏡を覗きながら、羽化の娘・チグユーノ(a27747)の唇に冷たい笑みが浮かぶ。
(「それでは何も変わらないって判らないのが、神様の言う災いなのかもね」)
「……あからさまな監視はなさそう」
 砦の見張り台に人影はない。それでも、極力音を殺し、死角からの侵入を図る。
 岩造りの廊下は、採光の小窓のお陰で視界に不自由はない。
(「割と好きよ、こいつらみたいなノリ」)
 だからと言って、ディッツィローズ・ヒギンズ(a33003)に真っ向から付き合ってやる義理も、そのつもりも無い。今、侵入を気取られぬよう静かに移動するのも、連中の先手を取る為だ。
(「侵略も蹂躙も……戦いも何ひとつ思い通りにさせないわ!」)
 しかし、砦の奇妙に気付く者はいただろうか。
 空堀に架かる跳ね上げ戸は下ろされ、要所の頑強な格子の扉も開かれたまま……ヒリヨが警戒する罠さえもない。
 それはまるで、来訪を歓迎するかのように。
「!」
 入り組んだ廊下を渡り、細い螺旋階段を登り切った果て――冒険者達は愕然と息を呑んだ。
「存外、早かったな」
「そうか? 俺は待ちかねたぜぇ」
 階段から大広間までの廊下は約5m――よもや、入口の大扉が全開であったとは。
 大広間の奥には、情報通りディアブロが6人。武器はまだ構えておらず、召喚獣の姿もない。だが、同盟の冒険者達に寧ろ嬉々とした風情。待ち構えていたのは明らかだ。
 沈戈待旦・ハル(a28611)は唇を噛んだ。先んじての自己強化の優位は許されそうにない。
 だが……霊査士は、小細工のない勝負になると言った。
 砦は護りに易く攻めるに難い――たとえ放棄されたとして、その特性は変わらない。
 砦という地形的優位を利用しなかったという事は、ディアブロがそんな戦を望んでいるという事。否、問答無用に小細工できない状況を作り上げた時点で、待ち伏せの利点を活用した事になろうが。
「何をぼさっとしている? さっさと始めようではないか」
 スーツアーマーのディアブロ――鉄の言葉に、弾かれるように動いたのはヒギンズ。
 ここで退く訳にはいかない。粘り蜘蛛糸で先手を打つ算段だったヒギンズだが、ディアブロは前衛にさえ遠距離アビリティも届かない奥に立つ。やむを得ずライクアフェザーのステップを踏めば、白楽天・ヤマ(a07630)、ヒリヨとミルッヒが後に続き、戦の火蓋が切って落とされる。
「射手に注意!」
 唯一ディアブロを射程に収めた数撃ちゃ当たるぜ・オウオウ(a73949)は、最初から壁際に立つチャクラム使い――黄金を見るや警告する。つがえた矢は黄色。コンフューズナパームがディアブロの前衛3人を巻き込み爆発する。
「どうだ? 間合いを制したヤツが勝ちだろうよ!」
 初手でディアブロは混乱しなかったが、もう1つの狙いは連中の召喚獣を確認する事。
 果たして爆発が止んだ時、彼らは変化していた。武器を構えた後衛にも召喚獣が出現する。
「戦闘開始、だな?」
「如何にも」
 抜刀した紅と銀は、ダークネスクロークに護られていた。不敵に笑みを浮かべて前に進み、各々独特の構えを取る。
「やはり殲術の構えかえ」
「銀はイリュージョンステップでござるか……」
 仲間に遅れて大広間に飛び込んだハルは、シアーズの言葉に頷いた。邪竜導士達と同様に黒炎を纏いながら分析に余念がない。
 狂戦士と翔剣士に続き、黒炎覚醒した灰の召喚獣はミレナリィドール。同時にダークネスクロークを纏って前進した青に、魔氷と魔炎を噴き出しながら鉄が掛けたのは君を守ると誓うだろうか。
「間合いを制すれば、な……その通りだ、そこの鳥」
 最後にチャクラムを構えた黄金の表情は冷静だった。
「だが、貴様の仲間は、そうは思ってなさそうだぜ?」
 桃色に染まるチャクラムに、三つ首の蛇が吐くガスが融合する。
 狙いは前衛――初手の射程までに気を回さなかったツケが、即座にトリニティナパームとなって襲い掛かる。
「くっ!」
 前衛で唯一範囲攻撃を警戒していたヤマは、辛うじて爆発から逃れた。寧ろ力勝負の武人である彼女はそれで正解か。
 爆発が止み、挙動に異常が生じたのはヒギンズ。超魅了の回復は豪運でも厳しい。こうなれば、高いイニシアティブが仇となる。
「ヒギンズ様!?」
 チグユーノの高らかな凱歌の前に、同盟冒険者に放たれる粘り蜘蛛糸。幸い誰も拘束されなかったが、行動の浪費自体が痛い。
「……ごめん」
 チグユーノとハルの高らかな凱歌、オウオウの毒消しの風が何とかヒギンズを正気に戻す。その間にも剣劇の音が大広間に響き渡る。
「地獄に戻って貰うよ」
 グランスティードの突撃の勢いに任せ、紅に鎧砕きを浴びせるヤマ。幾らかのダメージを与えたようだが、アーマーブレイクには至らず。
「まあ、焦るな。すぐ叩き潰してやるからよ」
 紅の表情が更に凶暴な凄みを帯びる。血の覚醒で荒ぶる破壊衝動に身を任せる前兆か。
 銀に対峙したヒリヨとミルッヒは相次いで粘り蜘蛛糸を放つが、優雅な挙措でかわされた。紅も巻き込んだが、儀礼用盾で阻まれる。
(「相手の方が格上でしょうが、防ぐだけなら何とか……」)
 互いに技に秀でる者同士。だが、残像さえ伴う銀の鋭い踏み込みはヒリヨを掠めた。サーベルの切っ先が狙うのは、ミルッヒ。
「っ!」
 シャドウロックで鎧の繋ぎ目を塞いで尚、鮮血が飛沫いた。踏み込む灰から伸びた虚無の手が装甲を砕く。黄金の鋭い逆棘の矢が、狙い違わず彼女を貫いた。
「……くぅ」
 2人の忍びの経験の差を見抜く眼力は、戦いに明け暮れてきた故か。ダメージが通ればすかさずの集中攻撃、何よりヴォイドスクラッチの直撃が致命的だった。
「大人しく地面の下に潜ってろ……ノスの卑怯に乗り合う顔色悪鬼っ!」
「容赦はしない。それが牙剥く者への礼儀だ」
 装甲を破られなければ、紙一重で耐え切れただろうに。血を吐くような罵声に返るのは沈着の薄笑い。その余裕がミルッヒには悔しい。
(「強い相手って解っていても、退けない時ってあるじゃない……」)
 せめて最後まで顔を上げて……銀を睨み付けたまま、ミルッヒの身体が崩れ落ちる。
 ミルッヒに駆け寄ったシアーズが、銀へ牽制のヴォイドスクラッチを放つが、こちらも巧みな足捌きでかわされた。
 7対6――紅や銀と肩を並べ斧を掲げる鉄。その鎧が大きく変じ、次いで青の高らかな凱歌が紅を癒す。
 唇を噛むハル。敵は何れも厚い防具を着る上に、半数がダークネスクローク。後衛の牙狩人と邪竜導士は火力重視のようだが、その前に立つ前衛2人はそれぞれ独自の構えで防御を高め、回復役の吟遊詩人は重騎士が護っている。
(「体力自慢のディアブロが更に防御に力を入れる……それが『六色』でござるか」)
 こちらの戦力が減じる前に、如何にして堅牢の布陣を崩すか。
「……出てって貰うわよ、『六色』」
 大太刀【The Empress】を構えるや、鉄へ疾駆するヒギンズ。至近距離からの粘り蜘蛛糸は、黄金を除く5人を巻き込む。
 ペインヴァイパーに強化された蜘蛛糸は、捕えれば効果は大きい。
「今よ!」
 ヒギンズの蜘蛛糸が捕らえたのは紅。同時に、ヒリヨの粘り蜘蛛糸も鉄を拘束する。紅はまだ殲術の構えが解けていない。かねての打ち合わせ通り、同盟冒険者の攻撃がキルドレッドブルーと融合した鉄に殺到する。
「ディアブロちゃん……余が壊す手立てをお望みかえ?」
 シアーズのヴォイドスクラッチが、今度こそ装甲を砕いた。続いてオウオウの鮫牙の矢がアンチヒールと出血を強いる。
 だが、倒れたミルッヒを入口まで下げようとしたハルを、灰のヴォイドスクラッチが捕らえた。ダークネスクロークに庇われアーマーブレイクに至らずとも、呼応した黄金の鮫牙の矢が貫き、銀のソニックウェーブが抉れば……倒れた者が2人に。
「無念……」
 6対6――鉄が雄叫びを上げる。青の高らかな凱歌が響けば、アーマーブレイクが回復し出血が止まる。幸い超拘束は続いていたが、ここで攻撃の手を休める訳にはいかない。
 紅の拘束がまだ解けないのを確認するや、ヤマは打刀『戯戮天・真打』ごとぶつかるように、鉄へ鎧砕きを叩きつけた。
「貴様……」
「あなた方がそうするように。わたしも、わたしの役割を全うしたいだけ」
 その一撃に再び装甲が砕け……チグユーノのデモニックフレイムが食らいつく。
「おのれぇっ!」
 絶叫と共に、巨漢が倒れ伏した。
 これで6対5――尤も敵とて冒険者。そう簡単に死には至らない。クローンの作製にはデモニックフレイムの1度ならずの使用が必要だろうが。
「てめぇら、ぶっ殺ぉすっ!」
 拘束を振り払った紅の雄叫びが轟く。健在の敵はまだ5名。戦闘不能にアビリティを割く余裕はない。
 紅の蛮刀が闘気を込められ小刻みに震える。一気に振り下ろせば、竜巻が同盟冒険者を襲った。
「うぐっ……!」
 範囲攻撃のダメージが半減して尚、レイジングサイクロンの威力は脅威だ。血の滲む頬を拭い、ヒギンズの太刀が徐に紅へ向けられる。
「お返しよ」
 反動で麻痺したままの紅を抉るソニックウェーブ。だが、続く連携を阻むように、銀の真空の刃も閃く。
「!」
 思わず飛びのくヒリヨ。その弾みで紅に放ったバッドラックシュートは大きく外れた。
 だが、ディアブロの狙いはあくまで回復役。チグユーノの繊細な身体に刻まれる衝撃波。そして、黄金の鮫牙の矢が容赦なく穿つ。
 唇から一筋、鮮血が滴った。ここで灰のヴォイドスクラッチが決まれば、一溜りもなかっただろう。だが、ダークネスクロークは主をよく護った。紙一重で踏み止まったチグユーノからヒーリングウェーブが広がる。
「負けないぜ!」
 ここで紅を仕留めれば、流れも変わる。ヤマの鎧砕き、オウオウの鮫牙の矢も確実に捕らえたが、まだ倒れない。それでも、シアーズの攻撃が当たれば倒せただろうが……。
「……本当に面倒」
 未だ有効な殲術の構えが枷となる。結局青にヴォイドスクラッチを放つも、流石に一撃では倒せない。
 高らかな凱歌三度……尤も、同盟冒険者の攻撃は確実に効いたと言えるだろう。青の歌声は、アンチヒールの所為でバッドステータスの解除のみに留まったのだ。
「やるじゃねぇか……」
 紅はニィと嗤った。満身創痍ながら、その表情はけして諦めていない。
「とっておき、食らわせてやるぜ!」
 狂戦士の狙いは……もう1人の忍び。
「危ないっ!」
 咄嗟に割り込んだヤマの打刀と紅の蛮刀が鍔迫り合う。次の瞬間、凝縮した闘気が爆発する。
「ああぁっ!」
 競り負けた。破壊の刃の爆ぜる痛みがヤマの身を焼く。召喚獣の支えなくば、立っていられなかっただろう。
 回復が先か、撃破が先か――潰し合いの様相の戦闘において、今度はどちらが先手を取るか……その勝負は、グリモアに集いし者の数が決した。
 チキンフォーメーション――本来はヒトであるヒギンズには使えない技。チキンレッグが齎した戦況の察知と迅速な行動を可能とするアビリティが、彼女に力を与える。
「ぐあぁっ!」
 ソニックウェーブが満身創痍の狂戦士に引導を渡す。息を合わせたチグユーノのヒーリングウェーブが、銀の攻撃にも先んじた。
 6対4――前衛2名の撃破に、それまで一歩も動こうとしなかった黄金が前に出る。
「ヨォ、臆病者仲間」
 嘯くオウオウのつがえた矢は黄色。
「戦いが止めらんねぇなら、何でノスとの戦いを投げ出した? 地上に出たのが運の尽きだな」
 黄金は答えない。構えたチャクラムに逆棘が生える。
 2つのアビリティはほぼ同時に交錯した。コンフューズナパームの爆発が黄金を中心に巻き起これば、鮫牙の矢を貫くのは未だ手負いのヤマ。
「っ!」
 混乱に陥った灰が杖を振り回すのにも構わず、あくまで攻撃に専念する黄金と銀。青の回復を信頼しているとも言えるだろうか。
 それでも……ただ1度とは言え灰が攻撃を欠けば、ヤマを倒しきれず。複数の癒しのアビリティが彼女を完治すれば、漸く戦況は同盟冒険者に傾こうとしていた。
 突出を嫌ったのか下がる銀に追いすがれば、青が後衛の射程にも入る。
 ダークネスクロークの護りはあれど、シアーズのヴォイドスクラッチが青の装甲を砕き、ヒリヨのバッドラックシュートが呪いの印を刻めば……ダメ押しのオウオウの一矢に、敢え無く崩れ落ちる。
 6対3――回復手を欠いて尚、ディアブロ達は攻勢に転じる。手負いがいなければ、狙いはやはり回復役。再び、狙いはチグユーノ。ヒギンズのソニックウェーブが身を抉るのも構わず、銀の衝撃波がエンジェルの少女を穿つ。
「……く」
 その一撃が、ザックリと身を削ったのは流れ出る血の量で分かった。
「今、回復を!」
 だが、ヤマのガッツソングの前に、黄金の鮫牙の矢が回復を妨げる。反動も顧みない灰の暗黒縛鎖が悉く縛り上げる。
「癒し手を潰せば、まだ勝機はあろう……戦いこそ我ら『六色』の誉れ!」
(「……何ですって?」)
 この期に及んでのディアブロの鬨の声に、意識を手放そうとしたチグユーノは辛うじて踏み止まる。
 連中が自尊の為に戦うなら……自分達は何の為に戦っている?
「……ランドアースを好きにはさせないのです」
 歯を食いしばれ。退いて護れるものなど何も無い。
 此処での勝利が一歩なり。迷うな! 貫け! 突き進め!
(「今の吾の役割は……」)
 回復する事。護る事――戦時のみならず、冒険者としての役割に立ち返った時、グリモアは応える。
「チグユーノさん?」
 高らかな凱歌――声高く歌い上げたチグユーノの身体から光が溢れる。ディアブロさえも息を呑む光芒が収まった時、呪われた鎖はバラリと解けた。
「これが……?」
 戦の前の昂揚が蘇る。凱歌が齎した身に溢れる活力こそが、グリモアの奇跡。
「てめぇらの戦は、ここで終焉だ」
「くく……ならば、最期まで付き合って貰おうか」
 6対3――同盟冒険者は一斉に武器を構える。回復役を欠いて尚、敗走を良しとしないディアブロに引導を渡す為に。
(「やれやれ……地獄連合は脅威ですが、こんな敵もいるなら何処かに綻びがあるかもしれませんね」)
 勝負が見えた瞬間だった。


マスター:柊透胡 紹介ページ
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ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2009/06/23
得票数:冒険活劇1  戦闘15 
冒険結果:成功!
重傷者:琥珀の狐月・ミルッヒ(a10018)  沈戈待旦・ハル(a28611) 
死亡者:なし
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