<リプレイ>
夏の熱気と、一面を覆うような澄み切った青い空。きらきらさらら、流れる川もゆったりと。常夏の大地、ワイルドファイアは今日も明るく冒険者の訪れを歓迎した。
「知ってる星祭りと少し違いますが……皆で楽しく過せれば良いですね」 恋人と共に訪れる事になった赤い大地は、少しだけ特別に見える。笑み含んだ白銀の誤字っ子術士・マリー(a57776)の言葉に、幻紫水の青薔薇・マリンローズ(a37119)が折角夫と祭に来たのだから、憂いなく楽しみたいものだと深く頷き同意する。 「そうですね。コイが暴れたままでは、周囲に迷惑がかかってしまいますものね」 「ええ……星祭りを成功させる為にも……川の安全の確保……しっかりと行わないとですね……」 二人の声に、ワイルドファイアに来るのも久しぶりだと楽しげに周囲を眺めていた天照月華・ルフィリア(a25334)も頷いた。 「ところで、星祭りって、カップル限定のイベントじゃないよね?」 紫月の華・テラ(a69456)の唐突な言葉に皆が足を止める。続く言葉は「だって恋人いないもん」。今日の同伴も兄だし、カップルばっかりだと寂しいかなぁ、と思っていたのだ。勿論、兄とのお出かけも嬉しいものだが。 「ええと……笹に託してお願い事をするのもあるのですし、きっと全ての方が楽しめるイベントだと思います」 そこに、控えめに風来の翼・リリア(a72539)が言葉を添えた。皆の願いを掛ける笹を届ける為に来たのだと、強く意識しながら艶やかな表面を見せる笹をみあげると、巨大な笹がとても大事なものにも見えて。リリアの言葉にテラも大きく頷きながら同じように空を、それを覆い隠すような笹を見上げる。 「そっか。星に願いを……ってね!」
二人が笹を見上げている頃。同じように笹を見上げている姿があった。 「さすがワイルドファイア……」 白銀の山嶺・フォーネ(a11250)の呟きは感嘆に満ちていた。人が乗れる程の笹の葉とはどんなものだろうかと想像していたが、想像を遙かに超える巨大な笹が、川に続く砂地の近くににょきにょきと天を衝くように立っている。首が痛くなるほどの角度で見上げても、頂点は見えない。これは刈り取るのも大変そうだ。そんなフォーネの驚嘆を知ってか知らずか、ワイルドファイア生まれのヒトノソっ子は元気に声を上げる。 「わたしも同族の為にもがんばるなぁ〜ん。流しそうめんと一緒に流されたいなぁ〜ん。コイも美味しそうなぁ〜んね」 星祭りをよく理解していない窯焼き白ノソパン・ニノン(a64531)は、食いしん坊な一面を覗かせる発言とともに、そうめんと一緒に流れる自分を想像してわくわくと期待に満ちた目を仲間達に向け。 (「何だかいろいろ間違ってるけど、楽しそうだから訂正しない方がいいのかなぁ……」) 空気を読んだ春風色の自由な翼・ミントレット(a90249)は、仲間達と共に暖かな眼差しではしゃぐニノンの様子を見守るのだった。
●コイよ来い!? さくさくと砂を踏み、川辺を歩く冒険者達。 倒すか、元の川に戻すか。その判断で悩んでいたところ、ルフィリアが近くの集落で聞いた事によれば、徒歩数時間の場所に元居たであろう支流があるという。祭までに十分戻れる範囲と判断し、誘導を目標に冒険者達はコイ怪獣の姿を探していた。
……ぱしゃり。水音は最初、穏やかに響いた。その、すぐ後に。ざばりと大きな音を立てて立ち上がるように姿を見せたのは……。 「話には聞いたけど……ジャンボ鯉のぼり」 テラの呆れたような声が聞こえるとほぼ同時、しなやかに身を翻し、ざばんと音を立てて沈むコイ怪獣。そのままばっしゃばっしゃと激しく水を飛び散らして冒険者へと襲いかかろうとする。 前へ詰めるはフォーネとテラ、そして……。 「なぁ〜ん? 呼んだかなぁ〜ん?」 鎧進化で鯉のぼり風着ぐるみに変化したニノンだ。愉快な姿だが、彼女は大きなコイ怪獣にすっかり食べる気、いや倒す気満々。立派な尾びれの攻撃も余裕で受け止める。その横で、水飛沫に秀麗な眉を顰めるフォーネ。テラもずぶ濡れの我が身を嘆いている。前衛より離れた場所から見守る者はコイの暴れぶりに感嘆していた。流石、というか、完全に八つ当たりというか。 「今、回復します……それにしても、なかなか手強そうですね」 「大丈夫ですか?」 攻撃を確認し、補助に回っていたマリンローズとリリアがすかさず癒しの光を広げた。 (「一人で誘導は無理そうかしら」) その様子を見て、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は単独では実行が無理そうだと判断、皆と共に行動することに決めた。 「さて、どうしましょう? 結構抵抗が厳しいようだけれど」 「……安全を確保する以上……誘導できなければ倒すしかないですが……」 「食べな……倒さないのかなぁ〜ん?」 ラジスラヴァの問いに答えるルフィリアの、「出来れば元に帰してあげたいのだ」との言葉に首を傾げるニノン。彼女としては、丸焼きとか、お刺身とか、試したい事はたくさんあるのだが。 「気持ちは分かります、うん」 癒しの光を広げつつ、うんうんと頷くミントレット。食欲には大変正直である。 「確かに美味しそうだけど……」 頭から離れない「美味しい」という言葉につられかけるも、ぶんぶんと頭を振って、テラは初志貫徹、川面に向かい頭を光らせた。スーパースポットライトの効果で、水際で冒険者を狙っていたコイ達が一気に引き寄せられる。 コイも負けてはおらず、二度目は目くらましに水を飛び散す。力強く水を打つ尾びれに、彼らの姿をつかのま見失うと、少しずれた場所から手痛い打撃が飛ぶ。再びの癒しの光が広がった。 「距離は……そろそろいいでしょうか」 機会を伺っていた仲間に、フォーネが視線で合図する。 ざざざ、と水を切る音に被さるように……飛び上がる怪獣の姿に向け、魅了の歌が響く。 元の川へと戻す為の、交渉が始まったのだ。 「♪ 窮屈でしょう? 向こうへ行けばここより過しやすいですよ」 マリーは穏やかにコイを誘う。彼女の言葉に、コイ怪獣もそれならばと承諾してくれた。もう狭い川は飽き飽きしていたのだ。 「♪ 支流まで案内します。付いてきて下さい」 ラジスラヴァも手伝い、二体のコイ怪獣は猛った気持ちを静め、誘導に従う。 残った1体はテラが誘導し、誘導が途切れては魅了の歌で説得と、皆で協力して川を上っていった。
●お星様にお願い☆ さらさらと、夜風に揺れる笹の葉の音。川の流れと一緒に、それは夏の夜に涼気を感じさせる。 冒険者達は思い思いに着替え、川へと集まっていた。
願いを提げる笹は無事切り出され、川の側に立てられている。組み立てられた足場は櫓のようで、釣り下げられたロープや梯子を使えば、誰もが気軽に短冊を提げられるという趣向だ。 「……滑りやすい竹は専門外だったなぁ〜ん」 ニノンが木登りと勝手が違ってつるりと滑り落ちていったり、 「女の子が木登りなんて……あっ!」 「上の方に吊るせば見られないって。そんなに恥ずかしい願い?」 テラがカレルに木登りの手助けを願うも、お願い事を見せたくなくて結局自力で登って吊したり……など、小さなアクシデントはあったものの……。
大きな大きな短冊に書かれた皆の大切な願いは、大きな笹の頂近く、星に近い場所でワイルドファイアの風にゆったりと揺れて。
平和な時が長く続きますように。 大切な人の笑顔を、ずっと見続けていられます様に……。 来年も彼女と一緒に笑って過せていますように。 あの人が無事に帰ってきますように。 大切な人たちに幸せと平和が訪れますように。 美味しいものいっぱいたべれますようになぁ〜ん……(以下たくさんの願い事)。 最後まで落ち着いて行動できるようになりたい。 もっと珍しい植物とか、料理に出会えますように。 みんなが幸せになれます様に……。 ユキトさんと楽しい思い出が沢山出来ますように。
櫓の下には、川を解放してくれたお礼にと、近くの集落の者が釣ったらしいちょっと大きなサイズのコイ料理も並んでいる。 リリアとルフィリアは料理の手伝いをしていたらしく、皆の所にも配りにやってきた。 洗いに焼き、刺身と、色々な形に姿を変えたコイ料理は、淡泊ながら身は引き締まり、癖のない味はまさに味付けによって変わる。それは長い散歩をしてきた冒険者のお腹を心地よく満たした。 それぞれが楽しく歓談する中、「あ〜ん」と仲むつまじく食べさせ合うマリーとユキトの姿があった。見ている方がごちそうさまと言うぐらいの熱々ぶりだ。
●星の川と笹舟 巨大な笹の葉を全身を使って折り、笹舟を作る。自分で作った舟で流れに乗るなんて、ちょっと他にない贅沢かも知れない。
「……ワイルドファイア……流石に賑やかですね……」 篝火でライトアップされた川辺は、夜だというのに人の流れが絶えない。今日はランドアースからの客人も多いとのことだが、現地の人達の底抜けな笑顔が、余計に賑やかさを感じさせているのかも知れない。 ゆったりとした歩みで、ルフィリアは星祭りを巡る。あちこちから聞こえる歓声。スケールの大きな、ワイルドファイア流にアレンジされた数々の催しは、見ているだけで笑みが零れそうだ。 笹舟で流れていく仲間達に手を振りながら、ルフィリアは祭りの夜を楽しんだ。
笹舟の出発点には今や人だかりが出来ていた。その中で、最初に勢いよく流れに乗るはラジスラヴァ。浴衣の下には水着も着ているから溺れても安心だ。ヒトノソ達に持ってきたお土産などを渡してから、彼女は元気に声を張り上げた。 「もっと歌と踊りと演奏が上手くなりた〜〜い!」 よく通る声で願いを叫び、笹船で川を下っていく。吟遊詩人として、今後も技を磨きたいという向上心ある願い。日々の努力がある限り、それは叶えられるものだろう。 その後、最初に流れた故に最初に笹舟が水没したラジスラヴァだが、川縁で演奏で祭りを盛り上げたり、水着姿で水難者の救助に加わったりと、精力的に活動していたようだ。
「やはり浴衣は見た目も着心地も涼やかで良いですよね」 温泉宿の浴衣に、やはり下に水着を着込んだフォーネは、楽しげな声が響くお祭りの中を歩き、笹船へと向かう。 想像以上に立派な、青い匂いのする笹の葉船。そっと滑り出した水辺には、沢山の笑顔が溢れていた。星空を映した川、空にもまた星が瞬いていて。上下が分からなくなりそうな不思議な夜。 「旅団などで親しくして頂いている方と、ずっと仲良くいられますように……」 口に出すと何だか照れくさいけれど。親しい人達と笑顔が絶えない毎日が続くこと。それこそがフォーネの願う幸せな日々。
「星がすごいわね。ほんと、綺麗……」 そう呟きながら、マリンローズは色々な事があった今年の前半を振り返る。中でも一番の重要な出来事は、やはり恋人から夫婦へ……クロイツと家族になった事だろうか。隣にある体温に、この穏やかな時間を共に過ごせる事に、改めて幸せを噛み締める。 「これからも共に支え合い、幸せな家庭を築けますように……」 だから、口にするのは二人のこれからのこと。 「その願い、これから二人で叶えていこう。マリン……」 「ええ、クロイツ……」 笹舟の上、星空を眺める二人は肩を寄せ合い……自然に、唇が重なる。 同じ思いで、ずっと、共に歩いていこう。
「綺麗ですね……お星様も、お月様も……」 「本当だね」 うっとりとマリーが呟く。本物の笹舟に、空を覆い尽くすような満天の星空。二人で見上げる空は、まるで宝石箱のよう。 ロマンティックな気分に浸り、ユキトと共に寄り添って笹舟でゆったりと川を下る。 抱き寄せられると照れてしまうけれど、目を閉じて委ねれば、彼が甘いくちづけを落としてくれるから。 きっともっと、ロマンティックな夜になる。 ……その後転覆したのは、真っ赤になった顔を誤魔化す為だったのか、それとも単なるアクシデントだったのか。真相は二人しか知らない。
「ミントちゃんはどんなお願いしたの〜?」 笹舟に乗り合わせたテラの明るい声に、ミントレットが答える。 「僕ですか? うーんと、もっと新しい植物に出会えますように! ってお願いしましたよ。テラさんはどんなお願いでしたか?」 そう聞かれると、自然と恋の話に関連してしまうのが悲しいところで。 「う〜ん、気になっている人っていうか」 ある日突然気になりだした人が、危険な状態で旅立っていったから。だから、その人の無事を祈ったのだ。 「そうか……テラにも好きな相手が……。うん、兄としても嬉しいよ」 しみじみとカレルが言うのも、何だか照れくさい。
「皆さん、楽しそうですね」 一人で乗る人、複数で乗る人。それぞれが願いを声にしながら、川を下っていく。誰もが楽しげで、幸福そうで。 そんな幸せな光景を見ながら、リリアも微笑ましさを覚えて笑顔を浮かべていた。 ……と。隣の舟がみるみるうちに傾いている所を幸か不幸か、彼女は目にしてしまった。 「ぼ、僕泳げないんでしたっ!」 「え、あ、た、大変です」 何やら世にも情けない事を言いながら、エンジェルの少年がばたついているのを見て、思わずリリアが手を差し出してしまう。 問題は、泳げない者を救助するのは、それなりに力がいるという事で。
どぼんと音を立てて落ちた二人は、見事に溺れていた。
「うっひゃー、でっかい笹の葉だから乗れちゃうのなぁ〜ん」 きゃっきゃと元気にはしゃぐニノン。ワイルドファイアっ子とはいえ、笹の葉でできた本物の笹舟なんてなかなか乗れるものではないから、テンションは上がりっぱなしだ。 「わーい、しずむしずむなぁ〜ん」 ぐんぐんと底に水が溜まり、やがて傾いていくのを感じても、ニノンは太平楽に笑顔を浮かべていた。ある意味大物である。 そして見事沈没。すいすいと泳ぐ彼女の横をすいーっと横切る人間浮き輪を発見し、とりあえず捕まってみる。すでに捕まっている女の子を目にし、 「ミントレット、ハーレムなぁ〜ん?」 にこり。ニノンの言葉に撃沈したミントレットは水に身を任せるのを忘れ。 「あ、はぶぶぁ、そ、そんながぼけぼっ!?」 折角水に浮かんでたのに、沈んだとか何とか。
さらさらと笹の葉が鳴る。皆の思いを記した短冊が風に踊る。 短い笹舟のクルーズが終わると共に祭りは佳境を迎え、鮮やかな記憶を残していった。

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参加者:8人
作成日:2009/07/15
得票数:恋愛3
ほのぼの7
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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