cyclone〜暴風



<オープニング>


 神殿の最奥にて、冒険者達を迎える女神。微笑みを浮かべたままで、静かに口を開いた。
「お越しいただき感謝申し上げます。実は、変異した燕が自然の摂理を乱しているのです。皆様のお力でどうか、湖の平穏を取り戻してください」

 円形の湖を囲むように、背の高い樹がそびえ立つ。直径10メートルの小さな水面は、植物の生存にとっての貴重な水源。また長い歴史の間に、様々な動物や虫も棲息していた。
 けれどもちょっとした出来事によって、消えてしまった自然の風景。現れた2体の燕はつがいか、はたまた兄妹か。超高速で、回転しつつ急降下。さらに巨大な翼で、衝撃波とも取れる暴風を巻き起こした。結果、湖の水や生物は撒き散らされ、周囲の植物も斬り倒されてしまう。
 現在は、湖だった窪みに入って羽を休めている燕達。頭から尾までの体長は2メートル、翼を拡げた幅は4メートルにもなる。飛行高度は、最高5メートル。速度はまぁまぁ速いのだが、狙いを定めるのに支障はない。しかしながら、急降下時の速度だけは別格。回転を眼に捉えた、次の瞬間には鋭い嘴と翼による体当たりを受けている。翼は鋼のように硬く、直撃を受ければ冒険者と言えども無事には済まないだろう。そしてもう1つ……羽搏きが起こす大暴風こそ、最も注意すべき攻撃だ。ダメージとともに、吹き飛ばしと超混乱、超マヒのバッドステータスを与えてくる。
 湖周辺は、窪地から半径50メートルまで完全な荒れ地。燕達のおかげで、邪魔になるようなものは何もない。その外には、南の方角だけにわずかながら低木が繁る。姿勢を低くすれば、大人でも10人くらいは身を潜められるようだ。

「これを……すべてを終えた後、湖跡へ埋めてください。皆様が心を込めて『大地が再び力を取り戻しますように』とお祈りしてくだされば、荒れた生態系も元に戻るでしょう。くれぐれもお気を付けて」
 冒険者の掌に、フォーナ女神は1粒の種を置く。信頼を載せて、深く頭を下げたのだった。


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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
太白・シュハク(a01461)
降りそそぐ木漏れ日・スタイン(a04948)
朝凪の珊瑚樹・フェイルローゼ(a05217)
かはたれのひかり・オーロラ(a34370)
剣の天使人形・マサト(a47419)
プーカの忍び・アグロス(a70988)
風を射る・タージ(a77910)


<リプレイ>

●決意の言葉
 夏の陽射し降り注ぐなか、依頼へと向かう冒険者達。低木の陰に隠れれば、燕達の鳴き声が届く。
「さて、此度は医術士が多いのう。如何するかとも思ったのじゃが、妾は方々よりも弱い故回復支援に専念するとしようかの」
 仲間達に宣言して、朝凪の珊瑚樹・フェイルローゼ(a05217)は護りの天使達を召喚した。鎧聖降臨の邪魔にならぬようにと思うも、要らぬ心配に終わる。該当のアビリティを、誰も活性化させていなかったのだ。
「ツバメは軒下でよく見ますよね。巣に2、3羽の雛がいて親鳥が帰って来ると元気に餌をねだったり。たまに飛ぶ訓練失敗したのか、落ちたのを拾って巣に戻したり……糞の問題さえなければいいのですが。それはともかく。自然に被害を与えるまで変異してしまっては仕方がありません。速やかに退治しましょう」
 語る想い出に、降りそそぐ木漏れ日・スタイン(a04948)の顔が綻んだ。けれども気持ちを切り替えて、表情を引き締める。黒炎覚醒を発動して、標的をその双眸に収めた。
「ん……どうしてこんな風に変異しちゃったのかなぁ。魔石のグリモアの影響……だったら、早い所処理しないと、かなぁ。元々は大人しい、普通の燕だったかもしれないのに、残念」
 スタインの言葉に、太白・シュハク(a01461)が反応する。現状を放置することは、絶対に許さない。でもせめて、事態の原因くらいは知っておきたかった。
(「実はフォーナ様の祝福の種って初めて見るんだよね……お祈り頑張ります」)
 護りの天使達は、フェイルローゼが先に使用していたため温存。女神の笑顔を思い浮かべて、シュハクは心中にて成功を誓った。
「目から2匹だけ見る分には、とても愛らしい姿ですけれど……周囲の惨状の原因はその2匹なのですから、退治せねばなりませんわねぇ」
 シュハクの嘆息に、かはたれのひかり・オーロラ(a34370)が瞼を上げる。『遠眼鏡』の先には、水のない湖で戯れる燕の姿。黒炎を身にまとい、拳を握った。
「あの巨体にとってあそこはただの水溜りだったのでありますか」
 感嘆の色とともに、プーカの忍び・アグロス(a70988)は言葉を漏らす。燕達の巨大さに、窪みはあまりにも小さく見えた。
「今トンデモ状態に陥ってるとは言え、足元を放置するわけにもいかんからな。こういう依頼もきちんとこなさないと」
 『遠眼鏡』を覗きつつ、剣の天使人形・マサト(a47419)が淡々と述べる。どのような状況にあっても、冒険者の本分を忘れてはならない。強い気持ちが、自分だけでなく仲間達をも鼓舞する。
(「この燕達を放っておいたら被害はここだけでは済まないかもしれない。フォーナ様の願いを自分達が実現させなければ!」)
 あくまでも心の中で、風を狩る猟兵・タージ(a77910)は叫んだ。話し声に気付かれる可能性を考え、連絡はタスクリーダーでと考えていたタージ。だが今のところ、仲間に呼びかける事柄は無い。上空へと『遠眼鏡』を向け続けるも、敵が飛び立つ気配は無かった。
「ん、今のうち……だな」
 事前準備が完了したことを確認して、マサトが呟く。全員一斉に、低木の陰を飛び出した。
「みんな、医術士との距離には十分注意よ!」
 言い放ち、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は長剣を抜く。誰よりも前へ……後衛を、味方を護るために。自然を取り戻すための、戦闘が始まった。

●墜落の玄鳥
 向かい来る冒険者達に、色を失い飛び立つ敵達。しかし、その巨体ゆえか高く飛べなくなった身体。十二分に、遠距離攻撃の射程圏内だ。
「引きずり下ろしてやる!」
 2体には距離があったため、より自分に近い片割れを狙って粘り蜘蛛糸を放ったタージ。見事に拘束し、冒険者達のいる地表へと連れ戻す。
「もう1体も動きを封じるであります!」
 空中に残る相方へも、アグロスが蜘蛛糸を投げ付けた。しかし先の攻撃に学んだのか、素速く翻り躱される。
「ならば、魅了し同士討ちを行わせるわ」
 状況を見て取り、魅了の歌を奏でるラジスラヴァ。本当は放蕩の香りで注意を惹こうと考えていたのだが、活性化をし忘れていたために諦めて他のアビリティを選択した。
「攻撃はなるべく片方に集中したいので、拘束されている方を狙いましょう」
 まだダメージを受けていないため、スタインは攻撃に回る。冷静に情勢を分析し、『エンタングル』からブラックフレイムを撃ち出した。魅了済みの敵は、ラジスラヴァの狙いを活かそうと放置を決め込む。
「僕も、今のうちに攻撃だね」
 スタインと同じく、回復をメインに戦闘へと臨んでいたシュハク。『白神氷牙』を、シュハクは勢いのままに振り下ろす。作りだした慈悲の聖槍が、転がる敵を刺し抜いた。
「変なツバメも来たものだ……」
 追ってマサトも、『エクスカリバー・イグナイト』からサンダークラッシュを放つ。攻撃対象は、皆に同じく。攻撃をするなら拘束されていない方からと決めていたのだが、未だ飛翔しているために対象を変更した。空を飛ばれていては、当たる確立が低いと判断したのだ。
「みなさん、足元にも注意ですわ!」
 仲間に呼びかけながら、ブラックフレイムを撃つオーロラ。もともとは湖にあったはずの水が、すべてその周囲に撒き散らされている状況だ。最初から、オーロラは足元への注意を忘れていなかった。促された側は皆、頷いたり声を発したり、何らかの行為で了解の意を示す。
 ここで、魅了にかかっている敵が攻撃をしかけてきた。拡げた翼が風を斬り、暴風を巻き起こす。直接の狙いは自らの相棒だが、地上に向けて吹かせたために冒険者達も幾分かのダメージを受けることとなった。幸いにも、バッドステータスを付与された者は前衛の数人だけに留まったのだが。
「大地よ風よ、我らの心を沈め賜う」
 『白梅』に包まれた両手を組み、静謐の祈りを捧げるフェイルローゼ。静かに、しかし確実に、祈りは皆を浄化していった。
「私は皆様の怪我の回復を」
 フェイルローゼの行動を受けて、スタインはヒーリングウェーブを唱える。バッドステータスに続き、体力をも完全に回復させた。
「もう攻撃は許さない!」
 敵の体当たりと暴風による攻撃を誘発させない……そんな目的で、タージはコンフューズアローを射る。『強弓【Cross Wind】』を飛び出したねじくれた矢が、空中の敵を捕らえた。
「暴風雨は天災だけで充分だっ!」
 大地へ墜ちる片割れに、続けざまサンダークラッシュが襲いかかる。怒りにも似たマサトの叫びが、攻撃の威力を増大させたように見えた。
「すごいね、僕も負けてられないよ」
 マサトの気迫に、微笑みを浮かべてシュハクが言う。再びの白き聖なる槍を、追撃に震える身体へと気合いを込めて解き放った。
「敵が動けないうちに攻撃するであります!」
 『奏でるもの』を背に負い、ブラッディエッジを発動させたアグロス。握り締めた矢が、拘束されている方の敵の急所を貫いた。
「同感よ、バッドステータスの効果が続いているうちに」
 アグロスの言葉に頷くと、ラジスラヴァはニードルスピアで攻撃をしかける。無数に浮遊する黒針が、『戦乙女の剣』の指し示す先へと飛来した。
「それでは私も……覚悟ですわ!」
 胸の前に、『皓炎』をはめた両手を突き出すオーロラ。1体ずつ倒す方針に則り、より傷付いている敵へと黒炎を撃ち込んだ。
「いと小さき我が朋輩よ、集いて我らを護り賜う」
 敵の行動を封じており、なおかつ回復も不要。現状にフェイルローゼは再度、守護天使達を招来した。被害を抑えるために、施しておいて損はないだろう。
 相手をバッドステータス漬けにして、片方ずつ集中攻撃。作戦は功を奏し、数ターンの後に冒険者達は2体ともの息の根を止めたのだった。

●茜色の輪廻
 朱の射し始めた空に、景色も変わりゆく。冒険者達は、戦闘の余韻を感じつつ息を整えていた。
「木々よ森よ、我が眷属よ。その恵みを光となさん」
 最期の最後に受けた、羽搏きによる攻撃。そのダメージを回復するためにと、フェイルローゼはヒーリングウェーブを唱えた。傷付いた仲間の身体を、暖かな光が包み込む。
「大穴を開けたカゲロウの幼虫を相手にしましたが、今回はそれ以上の被害でありますな」
 辺りを見渡して、アグロスは言葉を零した。思い起こすのは、以前に受けた女神からの依頼だった。
「水がありませんので、窪地の中央に種を埋めたいと考えているのであります」
 改めて湖跡を調べ、アグロスが提案する。ラジスラヴァやフェイルローゼも賛同し、全員で窪地へと脚を下ろした。
「……元に戻るだけじゃなくて、もっと自然豊かになるといいね。元々はどんな景色だったのか、これからどんな生き物が棲むのか楽しみー」
 ちょっと指でへこませた地面に、そっと種を入れる。願いを込めて、シュハクは土を被せていった。
「……こういうの初めてなんで、どう祈ればいいのか。フォーナが言うような祈りでいいのか? だったらそのまんま祈るが」
 ふと呟くマサトの疑問に、皆は肯定の意見を述べる。素直な気持ちで、心から祈ることが大切なのだと。そのうえで、さらに想うところがあれば。
「早く、普通の大きさのツバメさんが遊ぶような自然に戻りますように……いいえ、ツバメさんだけじゃなく、いろんな動物が集る自然に戻りますように」
 オーロラのように、言詞を紡ぐこともまた素晴らしい。冒険者達全員が穏やかな表情で、この地の復興と永久の平穏を祈願した。
「我らドリアッドにとって木々は近しきもの、言い換えれば眷属と同じなのじゃ」
 瞼を上げ、誰へともなく告げるフェイルローゼ。可憐な哀愁は想いとともに、種へ届いただろう。
「さて、ツバメ達も手近なところに穴を掘って埋葬してあげませんとね」
 祈り終わり、ラジスラヴァが呼びかけた。大きな遺体を、このまま放置していくわけにはいかないから。オーロラが率先して賛成し、湖の傍へと2体一緒の墓をつくった。
「こうして生まれ育ちゆく命の灯が消える事のないように」
 倒さざるを得なかった生命に……そして頭上を通り過ぎる鳥達の声に、タージはしみじみと思う。ずっとずっと、これからも輪廻を絶やさぬよう。
「今度は普通のツバメ達が仲良く飛んでいますように」
 事後処理も済ませ、冒険者達は戦場を後にする。スタインは一言、残して歩き始めるのだった。 


マスター:穿音春都 紹介ページ
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作成日:2009/07/20
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