≪帆船『ブリージア』≫一念発起の甲板修理大会!



<オープニング>


「もう二ヶ月になるのかぁ……」
 金色海風・サリカ(a01582)はマストの見張り台で物思いにふけっていた。眼下の甲板では旅団員の一人が、甲板の穴にはまって助けを求めている。
 ここは帆船『ブリージア』、泳ぎ方を忘れた船に集う者たちの旅団だ。

 サリカが小型帆船ブリージアを手に入れたのは、二ヶ月ほど前のことであった。
 いかにも怪しい風貌の商人。
 妙に安い提示価格。
 はたして彼女が手に入れたものは、水に浮いているのも不思議なほどのぼろっちい帆船であった。
 そんな状態であったブリージアも、今ではだいぶ見られる姿にまで修繕がすすんでいる。多方面からの協力を得て少しずつ確実に作業を進めてきた結果、海原に漕ぎ出すことも夢ではなくなって来ている。
「……問題は甲板、だね」
 サリカがそう考えるそばから、また別の旅団員が駆け足途中に甲板を踏み抜く。元が悪かったせいか暴れん坊が多いせいかその両方か、甲板だけは一向に修繕が進んでいないのだ。
 どうにも、かっちりやってしまわねばならないときが来ているような気がする。
「よーし。ね! みんなちょっと聞いてくれる?」
 決意ひとつ。
 団員を集めたサリカは、元気良く青空に通る声で告げた。
 帆船ブリージア、今日こそ一気に直しちゃおう! と。

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参加者
金色海風・サリカ(a01582)
通常の三倍・ネッド(a07553)
狂乱の貴公子・マイアー(a07741)
南海の暴食娘・フォルトゥーナ(a07920)
氷月の玻璃・シアン(a08409)
白南風・ルキ(a08446)
陽海兎・アルヴァール(a09304)

NPC:朱凛撃・アレク(a90013)



<リプレイ>

●さっそく落ちてみよう
 天気はよし。程好く肌をやく陽射しに、入り江を渡る風の匂いががいかにも夏の海辺らしい。
「よぉっし、みんながんばっていこー! 準備はいいかー?」
 無残にも穴だらけの帆船ブリージア甲板にて、金色海風・サリカ(a01582)が気合の入った声を投げかけた。気のせいだか、誰かがいないように感じられる。
「はーい! がんばるのでこきつかってくださーい!」」
 サリカが首をかしげるより前に、思い切り元気のよい返事があった。ストライダーの紋章術士・シアン(a08409)だ。作業開始を待ちきれないでいる気持ちを表したように、しっぽがぱたぱた揺れている。
「板が破れたりはがれたりしないような、丈夫な船にしないとね☆」
「本当にそのとおりですね……」
 ぐっと拳に力を込めるシアンに白南風・ルキ(a08446)が泣きそうな相槌を打った。
 甲板に開いた穴から、頭だけ出して。
「わわっ、ルキさん大丈夫です――かー!?」
 そして二次災害。慌ててルキに駆け寄った陽灼兎・アルヴァール(a09304)の足元がいやな音を立てて割れ落ちる。
「あーあー何やってんだよ二人と」
 暴風怒涛の朱金星・アレク(a90013)の言葉尻に取って代わり、腐った板の破れる音と三者三様の悲鳴が響き渡った。三人が転げ落ちた穴を少々呆れた表情のサリカが慎重に覗き込む。
「ちょっとちょっと……皆大丈夫?」
「これはクラゲの呪いだね」
 真顔で不思議な事をつぶやくのは天上の落とし子マイアー(a07741)だ。
「修理しても修理しても踏み抜かれる甲板、その一方で増殖し続けるクラゲ……間違いない。現状を打破するには、やはりクラゲを退治するしかないかと」
 実際、ブリージア周辺の水場には時期も時期だというのに現在進行の形でくらげが大発生しているのだが、真偽のほどはかみさまだけが知るところである。
「縁起でもないこと言わないでー! と、とりあえずはこの子たち引き上げてあげないと!」
「うーん……引き摺り下ろす方はどうします?」
「えぇ?」
 マイアーの示す先には、おひさまを背負ってマスト台に立つ人影がひとつ。当初、人が足りないと感じたのは気のせいではなかったようだ。
「もー、あっちもコッチも穴だらけ! こんなに壊しちゃダメぢゃんー! ここはひとっつ元漁船乗りのわたしが一肌脱ぎまして……とうっ!」
 穴だらけの甲板を見渡す瞳をきらっきらりと輝かせ、彼女はちっさな身体を宙に躍らせる。
「みんなー、全てはこのフォルトゥーナちゃんにお任せだよー! ぼろっちくてちっちゃくって毎日起きる度に『今日も沈まなかった(はぁと)』なーんて太陽に感謝しちゃうくらいのこの船をー素敵に無敵過激に完璧なっ――」
 決めポーズを取りつつのとても長い口上を最後まで言い切ることなく、南海の暴食娘・フォルトゥーナ(a07920)は傷み切った甲板を突き抜けて船倉に落下して行った。
 シアンが反射的に目を覆い、ようやっと這い上がってきた落とし穴三人組は開いた口がふさがらないまま新たに開いた特大の穴を眺めやる。
「……なんてこった」
 いち早く我に返った爆熱赤竜・ネッド(a07533)がフォルトゥーナ救出に向かうのに、大慌てのサリカが続いた。
「ふへへ〜ぇ、みんなぁ大船に乗ったつもりでだいかいぞーきんいろがったい……きゅぅ」
 完全に目を回してうわごとを発し、戦線を離脱するフォルトゥーナ。こうしてブリージアが怪しい改造を施される事態は回避されたのだった。
「なんだか心配になってきたなぁ」
 しかしアルヴァールが不安げに見渡す甲板はもちろん、修理大会開始前よりもひどい有様になっていたのである。

●壊してばかりじゃないけれど
 気を取り直して、ようやく甲板の修繕が始まった。よからぬ(?)ことをたくらんでいたフォルトゥーナがすっかりのびてしまったため、修繕作業はそれなりにまっとうに進んでいた。ただし順調かどうかといえば、疑問が残る。
 生家が道具屋を営んでいたアルヴァールが器用に工具を操って、甲板の板を張り直す。その向こう側で、力いっぱい工具を振り回すアレクが、張り直したばかりの板を割り飛ばした。
「ご、ごめ……いやこういうの慣れてなくて!」
 アルヴァールのうらめしい視線からしくじった現場を隠すようにかに歩きをするアレク。
「だ、だいじょうぶ大丈夫! また直そう! ね、どんどん直しちゃおう♪」
 アルヴァールに道具の扱いを教えてもらいながら近所で作業を進めていたシアンが、慰めの言葉をかけて材料置き場へと駆けて行く。
「くぅ、まけるもんかー!」
 猛スピードで甲板の強化を再開するアルヴァール。その気迫に思わず顔を上げたサリカは、船の様子に安堵の息をついた。
「最初はどうなることかと思ったけど、何とかなるかな?」
 たくましい赤腕に材木の束を抱えたネッドが、一瞬考えてから相槌を打つ。
「そうだな。まあ壊すより直す速度のが速ぇようだから、そのうち何とかなるだろうよ」
 サボり者には拳骨の一つも食らわしてやろうと考えていた彼であったが、心配は杞憂に終わった。
 修理しているつもりで破壊を繰り返したり、頭の中八割ほどがクラゲのことで埋まっていて作業が手につかなかったりするのは、とりあえず今の時点ではサボりに含めていない。
 水辺に降りたマイアーは、ひたすらに普通クラゲとの攻防を繰り広げていた。斬り倒しても斬り倒しても無尽蔵に沸いて出てくるクラゲたち。通りすがりのシアンが興味津々といった様子で、船縁から身を乗り出した。
 ふと、違和感を覚える。ちょっと離れた所の水面が不自然に揺れ動いたような、盛り上がったような。
「……なんだろ、あれ?」
 不自然な水面はそのまま波と一緒に背丈を伸ばし、そして、水だけが派手なしぶきと共に零れ落ちた。
「うわ、わぁ〜!」
 水が落ちた後の空間にはゼリー菓子の雰囲気にも似た巨大な半透明生物の姿があった。何に導かれたものか、それはやって来た。ブリージア旅団内でも幾度か目撃の噂があった、巨大クラゲである。
「いよいよ来ましたね」
 マイアーは髪先から水を滴らせ、普通クラゲに振るっていた蛮刀HEAVEN’S DOORを構え直す。
 数ヶ月の因縁。ブリージアとクラゲとの対決が始まろうとしていた。

●りとる・くらげ・うぉーず
 おなかいっぱいになるまで食べられそうな生き物たちを発見した巨大クラゲは、器用なことに大量の脚を動かして船へと近づいて来る。
 マイアーの水平にないだ一撃が、水の流れのごとく周囲を取り巻く小クラゲを飲み込み切り捨てる。
「なにやら、普通のクラゲにも敵対されている気がしますね」
「巨大クラゲの手下なのかも! リングスラッシャー、ふにょふにょしたクラゲ達を退治しちゃって!」
 細身の剣、久遠の風を振るって呼び出した円盤に命令を下すサリカ。リングスラッシャーはうなりを上げて大小のクラゲに襲い掛かってゆく。縁についた腕を重心に船から飛び降りる彼女の背中から、ネッドが響く低音で叫んだ。
「下に居る奴、避けてくれよ!」
「おう任せろ!」
 上方から降ってきた投網をかわして、アレクは巨大クラゲの脚に二刀の剣を突き立てる。
「おっきなクラゲ、捕まえちゃうぞー♪ えいやーっ」
「塩まいたら一網打尽……はなめくじだしなあ。研究が必要かもですね〜」
 シアンとアルヴァールが続けざまに放つ光の弾と針とがきらめきと共に小クラゲを撃ち落し、撃ち漏らしはルキが棍を武器に丁寧に潰して行った。
「うわわ、刺されないようにしなくちゃ……それにしても、いつのまにあんなのが近づいて来ていたんでしょうね?」
「最近クラゲが異常にうようよしてたのも、こいつのせいだったんじゃねーか? ほんとのとこは霊査士でもねーとわっかんねーけど!」
 巨大クラゲの脚を切り刻みながらアレクが答える。
 大量の脚を活用して前衛に出ている者たちを一度に刺そうとしてくる巨大クラゲ。マイアーが次々と放つ流水撃がそれらを爽快に宙へとかっ飛ばしている。時々船にも衝撃が流れているのは、お約束というところか。
 なくなりつつある脚、頭部分に叩き付けられるネッドの拳。ほどなく、巨大クラゲは平衡を失い、浅瀬に倒れ付した。
 巨大クラゲが泡立ちながら海水に溶けて流れ去るのを、シアンはちょっと惜しむ気持ちで見送る。
「んー、でもまだ普通のクラゲはたくさんいるからいっか。クラゲのお料理って美味しいのかな……?」
 彼女が見つめる物、ネッドが引き上げた投網には普通のクラゲがごっそりとかかっていた。
 後日この普通クラゲたちは樽に詰められ、クラゲ料理が名物となっている他所の旅団へと送られることとなる。

●新装目前ブリージア
 出鼻から発生した破壊劇やら、巨大クラゲの襲来やら。こんなときに限って頻発する事件を何とか乗り越え、ブリージアの修理はほぼ終わりに近づいていた。
「はぁ、だいぶ綺麗になっちゃったんだねー……」
 夕闇迫る頃、復活を果たしたフォルトゥーナは、真新しい板の張られた甲板にたたずんでいた。いつもの突き抜けた元気はどこへやら、寂しげに肩を落としている。
「徹夜で考えた変形合体機構も〜白兵戦用尻尾捕獲罠も〜巨大クラゲ用の水槽も〜……何もかもが海の藻屑だーぁ」
「フォル〜……そんな怪しげな改造しようとしてたわけ?」
 サリカにほっぺたをむにむにっとされながら、しょんぼり肯定するフォルトゥーナ。あれやこれやと涙混じりに指折り数え――不意にひとみを輝かせた。
「あ、まだ一つあった!」
 手を打つや否や、フォルトゥーナはほっぺむにから素早く逃れスキップでどこかへ去って行く。
「こらー! 待ちなさーい! ねえ、ネッドからも何か言ってやって!」
 一部始終を聞いていながら、マストの柱に寄りかかりさりげなくそっぽを向いているネッドをつついてサリカは唇を尖らせた。
「いや、まあな……」
「ネッドさんはフォルトゥーナさんに弱いんですね〜」
 やっぱり、尻尾かじられるからですか? と内緒話の音量でつけたしたアルヴァールに、ネッドは答えず頭の後ろ辺りを掻く。
「ちょっと失礼しまっす♪」
 そこへデッキブラシ片手に仕上げの掃除をして回っていたシアンがやってきて、くるりと辺りを掃き清める。
「頑張ったつもりなんだけど、まだ穴開いたとこ残ってるねぇ」
 シアンは豆の出来た掌をあわせて残念そうに言った。とはいえ残っているのは日常の修理で間に合いそうな小穴が幾つか、これも船員たちの気合のたまものである。
「また別の日にしようぜー……今日はもう疲れたし腹減った!」
 まだ木の匂いがする甲板にひっくり返ってアレクがわめく。空腹の訴えを受けて、サリカは一つうなずいた。
「そうだね。今日は陽も落ちるし一旦終わりにしよー! 残りもみんなでちょこちょこっとやっちゃえばすぐ終わるよね♪ 今日はお疲れ様っ! ご飯にしましょう!」
「ちなみにそれは……」
「これ、だろうな」
「締めの暗黒料理……いよいよ重傷者が出るのでしょうか」
 サリカの料理と聞いてマイアーとネッド、男二人は普通クラゲが詰められた樽の影でこそこそと言葉を交し合う。マイアーの方はさらにこそりと後ろ手に何かを持っていたが、特に誰かに言及されるようなことはなかった。もちろん、フォルトゥーナがそそくさと船室から持ち出してきた『もう一つ』の何かも。

 そうして、月明かりの下。
 船首には金色に輝く謎の像『がったいろぼ』が取り付けられ、マストの頂上には何か凄惨な印象を持つどくろマークの海賊旗が高々と翻る。実は甲板の何処かには、裏にアルヴァールの名前が彫られた板が使われていたりもして。
 密かに飾られたブリージアへの贈り物に船長さんが気がついたり気がつかなかったりするのは翌朝のこと。もう少しで海に漕ぎ出せる帆船は今はただ、静かな入り江にからだを休めていた。


マスター:阿木ナツメ 紹介ページ
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作成日:2004/07/20
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