星空より来たる:絶天の銀



<オープニング>


●星空より来たる
 その知らせは唐突にやってきた。
「みんな、大変だよ!」
 インフィニティマインドの神命維持機能に接続し、地獄やドラゴンロードについて霊査を行っていた、ストライダーの霊査士・ルラル(a90014)が、インフィニティマインドの放送装置を利用して、冒険者達に呼びかけたのだ。
「ドラゴンロード・プラネットブレイカーの攻撃が、もうすぐランドアース大陸に降ってくるの!」
 と。

 ルラルの説明によると、ドラゴンロード・プラネットブレイカーは『空の彼方の向こう側』から膨大な魔力を使ってドラゴン化させた多数の隕石を、ランドアース大陸に向けて発射し、全てを滅ぼしてしまう計画を発動させたのだという。
 このドラゴン化した隕石の落下によるダメージは『大神ザウスが使用した空中要塞レアの大陸破壊砲』にも匹敵し、数個落下するだけで大陸の半分が消失する程の威力らしい。

「このプラネットブレイカーの攻撃を阻止できるのは、みんなしかいないの! 迎撃ポイントまでは、ドリル戦艦で送り迎えできるから、隕石の破壊、絶対成功させてね!」
 ルラルはそう言うと、冒険者達に祈るように頭を下げたのだった。

 幸い、隕石はドラゴン化している為、周囲に近づけば『擬似ドラゴン界』を形成して、ドラゴンウォリアー化して戦う事が可能になっている。
 だが、隕石は護衛のドラゴンがいたり、特殊な力を持っていたりする為、任務の達成には困難が伴うに違いなかった。

●絶天の銀
 音もなく、金鎖は垂れる。
 神命維持機能と直結したルラルからの超霊査の情報を受けたエルフの霊査士・ラクウェル(a90339)が詳細内容を速やかに告げる。

「此の度の戦いの敵は、宙の果てに存在した文明が建築したという神殿遺跡そのもの。ロードの莫大な魔力によってドラゴン化させられ、隕石として今この大地に向けて投下されてしまった様です」
 金髪の霊査士は感情をあまり多くは乗せぬ声で話を切り出した。
「放置すればランドアース大陸は再び大きく穿たれるでしょう。今これを阻止出来るのは皆様だけなのです……これを御覧下さい」
 よどみない言葉と動作。卓上に一枚の羊皮紙がかさりと拡げられた。  
 そこにはルラルお手製らしき線画とはしり書きの文字が少々。そして更に随所に、几帳面そうな別人と思しき筆跡で細かな文字が幾つも書き添えられていた。

「竜隕石の前身は、銀に似た輝きを放つ貴金属のみで築かれた神殿で、内部はさながらドラゴンズゲートのように迷宮化しているのだそうです」
 ドラゴン化の影響で水銀のような外見と感触を備え始めたその遺跡の外壁は、外部からではドラゴンウォリアーの力をもってしても破壊することは難しい。ドリル戦艦から飛翔した後隕石に取り付き速やかに内部へと侵入。防御を支える中枢的存在を撃破せねばならないのだという。
「その存在とは最奥部の祭壇広間に立ち続ける『銀のメテオラ』あるいは『花嫁』である……そう脳裏に浮かんだのだそうです。神殿遺跡の維持を担う一体の女性……型、モンスターです」
 他者の霊査結果を自分の言葉に置き換える作業に慣れていないのか、あるいは情報が抽象的で意図を伝え難いのか。先ほどからラクウェルが紡ぐ言葉の端々がわずかずつの揺らぎをみせている。
 だがヒトに似た姿をしているだけの全く自我を持たない番人役でしかないのは間違いないとの言葉には迷いなく力をこめ、断言するのだった。

「『銀のメテオラ』単体での戦闘力は強化ドラグナーを凌駕し、バッドステータス無効が無いとはいえドラゴンにすら匹敵する脅威といって過言ではありません。既に竜隕石の隔離に疑似ドラゴン界を展開した内での戦いとなる為、遺跡内で警備役を務める他雑兵から『銀のメテオラ』だけを孤立させる手段が取れないのですから」
 広大な神殿内には銀の光沢に覆われた大小無数の球体が浮遊し衛兵として各所に配され、警護の任についている。その実力はモンスター程度ではあるが何せ数が多い。
「幸い、ルラルさんの御力で侵入口と、そこから最奥部までの最短経路は判明しています。内壁が蠢き通路が変形するような事はなく、仄かな銀光を発しており照明の心配も無用だとのことです」
 ただ、もう一つ判明したことがと霊査士はいったん言葉を切り、羊皮紙に書きこまれた丸の上に指先を重ねた後、説明を続けた。
「大きく迂回路を取り、警報システムを司るこの小部屋に設置された壁画状の装置を破壊すれば『銀のメテオラ』戦での敵精兵投入を阻む事が可能となるのだそうです」
 無論、小部屋周辺とて厳重に守りを固めている筈。
 迂回路の小部屋には目もくれず最短経路を突破して敵の態勢が整う前に最奥の大祭壇へと辿り着き、数を増してゆく精兵の援護を凌ぎつつ『銀のメテオラ』撃破を目指す。その選択肢も在るだろう。
 どちらがより分の良い賭けなのか、判断は現場の冒険者達に任せるとラクウェルは言い添えた。

「いずれの手順を踏むにせよ、『銀のメテオラ』の撃破さえ成れば、竜隕石も他の警護球も塵と化して完全に崩壊してゆき残骸も大地や大気へと達する事はありません。 ……ランドアースを包む風が、星の息吹が、完全に消し去ってくれるでしょう」
 だがそれも戦士達が勝利し、敵の息の根を完全に止めて後の話。
 退けず、負けられぬ戦い。
 邪悪な星によって星の上に宿る無数の生命が無残に砕かれる訳にはゆかないのだ。
 卓上、傍らに置かれたままの紫珠を手に取り両掌でそっと包んだ。祈るように。

 ようやく浮かんだ淡い微笑みが、天のむこうの戦いに赴く戦士たちひとりひとりへと向けられる。
「ご武運を。 ……大地をどれほど遠く離れようとも星と風は皆様の魂を見守り続けるでしょう」


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参加者
黒龍騎朱雀眼・ザンクウェル(a08604)
泰秋・ポーラリス(a11761)
天藍閃耀・リオネル(a12301)
破狼・レイズ(a19975)
銀蟾・カルア(a28603)
黎旦の背徳者・ディオ(a35238)
輪廻の翼・フィード(a35267)
守護と慈愛の拳闘淑女・クレア(a37112)
花魁・ハナ(a46014)
手のひらの鼓動・アールコート(a57343)


<リプレイ>


 そこに命の息吹は欠片ほども無く、横たわるのは凍てつくような静寂だった。
 無数の輝き。そして、頭上仰ぎみれば迫る銀の巨影。あれこそが敵。
 『世界』を守る十の意思が銀の流星を掌中へと掬いとった。

「……行こうか」
 銀蟾・カルア(a28603)が開口と同時、飛翔した。
 宙空に現れたのは襤褸布の外套。銀に染まり幾重にも折り重なって浮遊する様は精緻を極めた透かし細工の舞花じみても映る。だがそれを儚い、と表現するには其処に宿る『意思』の在り様は少年の翠瞳の輝きはあまりにも凛と頑なだった。
「こんなもの絶対に落とさせない……!」
 蒼の衣を翻し天藍閃耀・リオネル(a12301)が凛と戦意を燃やすに呼応するかの様に、その髪色は金糸と化し額の中央に紋章が浮かぶ。
 月と陽の異名を冠する蒼弓を手に。守るべきものたちははるか遠く足下で。
 その隔たりが零と為る前にあの星を、『ドラゴン』を、この手で破壊し尽くさねばならない。
「……打ち砕く」
 夏越・ポーラリス(a11761)の翠眼と声が決意を強く叩きつける。
 今、星を守り星を砕かんとする彼ら自身もまたそれぞれが熱く、あるいは冴え冴えと。
 燃えるように輝く、誰かにとって、かけがえのない星なのだ。
(「信じています。 ……だから、きっと大丈夫」)
 次々と飛び立つ仲間達の後ろ姿を眩しげにしばし見送った後。
 白銀の淡いきらめきをドリアッド特有の髪にも額石にも纏い、清らかな白梅花を真紅と染めて。
 花魁・ハナ(a46014)もまた、翔けた。


 侵入口に到りここまで通路を突破する間に垣間見た、神殿の外壁、床、内壁や柱の装飾に至るまでが一点の錆びも曇りも無い、銀一色。これ程の壮麗な文明の精華も今や只の質量兵器扱い。
「嘗ての文明が何の因果か魔竜に使われるとはな」
 虚空、遥かいずこにか。
 出会う事なく潰えた営みとその末路に思い馳せる黒龍騎朱雀眼・ザンクウェル(a08604)。
 光纏う二刀の斬撃は迎撃にと殺到した銀の浮遊球達を瞬く間に粉砕し、烈火の如き紅翼は力強く羽ばたき続ける。
「後ろからも、来ます」
 常よりも口早に、最後尾を固めている守護と慈愛の拳闘淑女・クレア(a37112)が警告を発した。
 数は六。破狼・レイズ(a19975)が振り向きざま放った流水撃が瞬くまに球体の群れを圧し潰す。が、銀粧球と思しき耐久性に勝る3体がヒビだらけのまま接近を続ける。
「まかせて」
 時同じく踵を返した黎旦の背徳者・ディオ(a35238) が片手を翳し、漆黒の針を撃ち捲いた。
 判明している三種の衛兵、何れも最大攻撃射程は10m程度。曲がり角の伏兵や閉じられた部屋の向こうからの奇襲等にさえ細心の注意を配れば後は一方的な殲滅の繰り返しだ。
「みなさんご無事みたいですね☆」
 陣の中央で守られる医術士の1人、手のひらの鼓動・アールコート(a57343)は仲間の消耗に常に気を配り続ける。この先待つ敵や死闘と自身の力不足とを思えば震えたくなる位、内心では怖い。
(「でも、逃げちゃいけないときって、ありますよね♪」)
 純白のエンジェルは必死に己を奮いたたせ笑顔を振りまいた。
「小部屋まで後少しだね」
 より気を引き締めていこう。事前に頭に叩き込んだ略図をなぞり蒼穹の翼・フィード(a35267)は仲間達に声を掛ける。前を疾駆する金瞳の蒼き人狼は度々仲間達を先導し安全に心を砕いていた。

 迷宮神殿の攻略にあたり採られたルートは、事前に判明した最短経路ではなく警備管理室を経由しての迂回路。戦闘回避は考えず進撃速度に重きを置き、弱兵を踏み砕いての行軍である。
 前列に前衛職5人が並び、横合いからの攻撃は両端2人が引き受ける。後方に控える術士勢3人を挟む形で前衛職の2人が最後尾を務める。鏃のような陣である。
 又、配置とは別に範囲殲滅に重きを置き敵駆逐を引き受ける者、通常攻撃を主体に残敵掃討に専念する者と。
 道中戦闘時の役割を明確に二分し各々配置につく事で、攻守の効率化とアビリティ温存の両立に成功し、一行は順調に迷宮攻略戦を戦い抜いていた。


 通路の行き止まり、堅く閉ざされた大扉の前に浮かぶ銀球体の群れ。
「きっとあれが銀将球ですね」
 指差したハナの言に異論は出ない。ここまで見た衛兵達は小さくとも直径1m程。だがその個体のサイズは50cm程でよく眺めれば表面には鳥にも樹木にもみえる不可思議な意匠の彫刻模様が施され、のっぺりとしていた他の銀球体とは明らかに異なる。
 フィードが指先に力を込めれば糸は踊り微かな風切り音だけを立てて銀将球に斬りつけた。手ごたえは浅いが逆から飛来したポーラリスの戦輪を援護する形となり、衝撃に揺れた球体から炎氷が噴き上がった。
 最奥部戦の為に此処で同種個体からその実力と手の内を測っておきたい。そのデータは大祭壇戦の方針決定の重要な材料ともなる。リオネルが指先から粘着性の糸を放ち氷結中の敵を更にがんじ絡めにした。
 だが、観察に意識を傾けようとした戦士達の前で突如音を立てて扉が開き、衛兵球の一団が雪崩れ込んできた。その向こう側が警備管理室と呼ばれた小部屋だろう。
 今度は5体。2体が次々に囚われの銀将球に淡い光を注ぎこみ、氷炎と傷の幾つかを消し去った。別の2体はリオネルに疾風を発したがいずれも回避した。残る1体はレイズを標的に銀炎を発したがこれも当たらず。
「邪魔だ!」
 漆黒の髪が乱れた。渾身の力を込めたレイズの流水撃が銀将球もろとも援軍を吹き飛ばす。測定不足を懸念したディオは援軍のみを標的に絞ってニードルを重ね残骸の山に変えた。
 銀将球も拘束もいまだ健在。念の為拘束解除後あえて一度だけ攻撃を許し銀召球を遥かに凌ぐ銀炎を体感した後にまた厳重に拘束を重ね、幾度も集中砲火を浴びせた末に討伐を完了させた。
「時間の猶予はあまり無いからね……」
 フィードの呟きにリオネルが頷いた。おそらくまだ見ぬ能力も残されているのだろうがおおよその確認ができれば充分である。迂回路選択での時間ロスは銀のメテオラ戦での敵数激減で相殺した筈だが此処でデータを取ることに固執し過ぎてしまっては何にもならない。
「こちらもばっちり完了です!」
 並行して装置破壊を行っていたクレア達が小部屋から出てきた。
 銀将球の柄に類似した文様が彫刻された四角い壁画が5枚飾られていた。仕組みは全く判らぬが全て潰してしまえばよい。ポーラリスの言葉に尤もと唸りをあげたクレアの拳が一枚目を粉砕した後、仲間達も次々続きこちらも恙無く作業を終えていた。
 
「増援つぶしで正解だったかもしれませんね☆」
 確かに2体と5体に分かれての順次投入とはいえ並行して銀のメテオラ戦は流石に辛かっただろう。アールコートからの回復術を受けながら壁画状装置を破壊し終えた一同は思案する。
 個体能力はドラゴンウォリアーとほぼ互角だが射程はモンスター程度。
 銀唱球の使用技から他者回復術の行使はおそらくは可能。状態異常は並みには効く様だ。
 事前に幾つか想定したケースの中では第2案と3案の適用条件に比較的近い。
「3案で行こう」
 カルアは決断した。体力が低いとは到底いえないが範囲攻撃半減を備えた様子はなかった。ならば銀のメテオラを巻き込みつつ早期に討ち切れる筈と。方針が決まれば長居は無用。後は最奥部を目指すだけだ。

 中枢に続く回廊を進むにつれて立ち塞がる敵の数もいや増し、僅かずつだが回復術の消費もされてゆく。だが鎧袖一触、障害とはならず。
 戦士達は脱落者を出す事なく、迷宮の最奥、扉のない荘厳なアーチ飾りの入口へと到達した。
 踏み込むなり待ち構えていたのはいきなりの手荒い歓待だった。
 視界に白銀の影が奔り、前列と最後尾から前列に出た前衛役の戦士に襲いかかった。
 途方もなく長く刃を伸ばした、剣だと。かろうじてザンクウェルの紅眼が捉えた。膂力に優れる何人かが防具や盾での防御が間に合い半減の加護にも守られた。だがそれでも軽微とは見過ごせない傷が多く者に刻まれていた。
 導かれるように銀の小球体も迎撃を開始する。片方の個体が戦士達に肉薄し銀光を発したが先の銀閃に比べれば微々たるもの。それよりも残り一体が、奥に立つ人影が纏う白銀の甲冑に注いだ守りの技らしきものの方が戦士達にとって痛かった。

 ドラゴンにも迫ろうかという単体戦闘力を備える神殿遺跡最強の番人・銀のメテオラ。
 悠然と佇むそれは、小柄なヒト族の少女そのものの姿をしていた。齢の頃は十五、六か。
 流れ輝く金髪。器の如き白肌。人形じみた美貌に生気と戦意を灯す、澄んだ深紫の瞳。
 豪奢な織り柄で彩られた藍のドレスも、その上から細身だが柔らかさを備えた乙女の肢体を覆う優美な白銀の甲冑も、あくまで少女の美を引きたてるものでしかなかった。
「さぁ、はじめましょうか」
 英雄譚はすべて花嫁たる貴女の為にたむけたもの。銀猫耳をぴくんと立ててディオは薄く笑んだ。
 

「季節外れの花嫁も流れ星もこんなのはお断りだね」
「同感だ」
 こんなロクでも無い願い星が大地を砕くのは願い下げだ。
 フィードの断言にザンクウェルが心から同意した。三体全てに向けて返礼代わりの流水撃。
「流れ星は大空の塵になりやがれ」
 レイズは大太刀を構え直し、血をより滾らせ、己が破壊衝動を蒼銀の刃へと重ねる。
 静謐の援護を、と。ぽつりと伝えた後にディオが解放したのは呪縛の念。死地にあって我が身すら縛るこの技に踏み切れるのは戦友との相互信頼あればこそ。
 メテオラには全て回避されたが銀将球の体力を削ぐことには成功し、メテオラ寄りに浮かぶ個体の方は超拘束状態に陥った。やや遅れ、ハナは位置取りに苦心しながらもなんとかメテオラだけは範囲内に取り込まぬようにとヘブンズフィールドを展開した。あたりが祝福の淡光に包まれる。
 アールコートが鎧聖を己に施すのを見てカルアが祈りを紡いだ。領域と静謐に包まれディオの体は自由を取り戻す。初撃の傷を癒したのはクレアの歌声だ。藍ドレスと白マントの違いはあれど2人の戦乙女の装束は何処か似通っていた。
 銀将球撃破を仲間に託したフィードがバッドラックを、ポーラリスが鮫牙を『花嫁』に浴びせたが防御姿勢に阻まれ状態異常も深手も負わせるに至らず。だが凶運の刃はもう一枚。
 銀将球が健在な様を見、蜘蛛糸を悩んだリオネルだがまずは『花嫁』だ。金烏玉兎をひゅるりと回し呼び出した不幸札は『花嫁』の細腕に深々と刺さり黒い染みを生んだ。
 被弾した『花嫁』はゆらりと浮遊しながら後退すると銀剣を高々と頭上に掲げた。幅広な剣刃はみるみるうちにレイピアほどの細刃と化しそこに生じた稲光をリオネルへと叩きつけた。
「ぐっ……」
 力ある雷撃を前に回避は無理と咄嗟に弓と腕とを交差させ受けたが一撃で体力の殆どを持っていかれた。剥き出しの腕は千切れずには済んだが鮮血に塗れていた。
 拘束を免れた銀将球が乙女の後を追い凱歌の性質を持つ光を注ぐ。傷は癒えたが黒染みが消えず。やはり回復支援は断たねば厄介。流水撃の射程ではもはや『花嫁』は巻き込めぬがまずは銀将球からだ。ザンクウェルが横薙ぎの二閃を放つに呼吸を合わせ、レイズも凛焔を振り上げたその時。魂へと溶けた随獣の息吹を聞いたような気がした。常の倍する剣威で放たれた一撃は2体を強か砕いた。続けざまディオが解き放った縛鎖に焼かれてトドメを刺され破片を播く。ハナとクレアが癒しを、カルアが再度祈りを注ぎ、態勢を素早く立て直す。

 孤立無援の身となった敵を一気呵成、攻め立てる戦士達。
 だが『花嫁』は小揺るぎもせず誇るようにゆらりと高い天井へと浮き上がる。
 銀の光彩に照らされ藍のドレスが波打つ。弓のみが届くかという高度にまで到達すると、すぅと静かに双眸を閉じ深呼吸のような仕草を見せた。
 だが再び瞼が開かれたその時、その細く白い喉が、桜色の唇が、発したものは声ではなかった。
 リィ……ン。
 唐突に。鈴を揺らし鳴らしたかのような、場違いに涼やかに澄んだ音が大祭壇内に響き渡る。
 リィン、リリリリィー……ン……。その美しい『声』は一節ほどの間かき鳴らされた。
 この音色こそ彼女らの歌、いや、ことば、なのだろうか。
 だがカルアがその思いつきを深く思考する余裕は与えられなかった。心を掻きむしり捕えるべく作用した響きは前衛役の味方ほぼ半数を魅了してしまったのだから。
「……大丈夫、か?」
 素早さが仇となり他が正気を取り戻させるより速く太刀を振り降ろしたザンクウェルと、その雷刃が向けられようとしていたハナ。フィードは咄嗟に割って入り、我が身で太刀を受け止めた後に仲間達に安否を問い掛けた。複数人の魅了状態を見て抗い抜いたポーラリスが戦輪を収め祈りを傾ける。
 多くの状態回復準備に支えられ深刻な被害へと繋がる前に持ち直し、反撃へと繋げてゆく戦士達。
「限界ギリギリまで……自分の力を!」
 負けたら後がない戦い。最近はいつだってそうだ。吼えるようにして突き出されたクレアの拳が堅い白銀をすり抜け破鎧掌の衝撃そのままを叩きこむ。


 癒しに護りの技にと奮戦を続けたアールコートの全身を銀剣の雷撃が見舞い、消失させた。
 途中、レイズが危惧した別入口からの増援もあったが全てが雑兵の三銀球。天上の攻防を繰り広げる『花嫁』と戦士達の戦場では塵ほどの支援も為せず散っていった。
「アカも、似合うわよ……?」
 拘束の技に身動き取れぬ敵にディオのスキュラが襲いかかる。炎の顎は毒を、更なる炎を、そして流血を乙女に強いた。
 だが『花嫁』は笑う。どれほど傷つき、戒められ、責められ、兵を失おうとも。
 天を絶ち地を割るその瞬間まで白銀の竜星を維持する、唯それだけで。
 銀のメテオラは勝利するのだから。
 戒めを振り払い『花嫁』は流体銀を鞭の如く長く伸ばし撓らせる。その切っ先をすり抜ける足運びと糸捌きで白銀を纏う翠の少年は北風すら凍て裂けと鋼糸を手繰り、真空の宙に生んだ真空の刃で肩甲ごと乙女の片腕を深く鋭く斬り刺した。
 それ自体意思を備えるかの様に自在に変幻する流体剣に赤が滴る。リリリ……。微かに喉奥から漏れた音色は悲鳴だろうか。

 ――退かないと、決めた。みんなで、この星を砕くまで。けっして。

 決死の覚悟と致死の挺身との激突。
 死闘に幕を下ろしたのは白光の弧を描いて放たれたポーラリスの蹴技。
「……光が降り注いだ地を、穢させはせん」
 犬牙歯を剥き出し魂すら振り絞って放たれた一撃と叫びの前に、満身創痍の乙女はついに力尽き銀面の床へと身を投げ出す様にして臥した。それと同時。
 銀箔を振り撒く様にして甲冑が剣が、大祭壇が。遺跡を形づくる銀が、形を失い分解してゆく。そんな星屑の雨の中いまだ『界』と竜伐の力を保つ戦士達は再び大きく、飛翔した。
 仲間が待つ艦へ、そして地上へと還る為に。


マスター:銀條彦 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2009/07/28
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冒険結果:成功!
重傷者:手のひらの鼓動・アールコート(a57343) 
死亡者:なし
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