されこうべは二度嗤う



<オープニング>


「うわぁあああぁ!」
「ぎあ、っああああああ!?」

 ――何が起こったのか、何が襲ったのか、理解出来たものは居なかった。その悲鳴がさきほどまで談笑していた家族の声だとは、走り逃げる少年には気付けなかった。そんな余裕も、なかった。
 町から街への行商人一家。悪天候で遅れた分を取り戻そうと、殆ど人の立ち入らぬ険しい近道を選んだのが、間違いであり彼らの不運。
 そこで出くわしてしまった二人の子供、子供に見えるけだものが、彼らを無残に引き裂いたのだ。
『からから、からから』
 悲鳴は途絶えて、逃げる少年の背を乾いた音が追いかける。笑っているようだった。誘っているようだった。振りかえる余裕などありはしない。やがて開けた大きな街道に出る。助かるかもしれない、と少年の脳裏に一筋の希望が見えた時

 ――首筋を何度か吹き抜けた風。転がったのは三つ目の首。

●されこうべは二度嗤う
「……それで。現在もその街道脇の細道に、モンスターは留まり続けています。滅多に人が使わないとはいえ、今回既に犠牲になってしまった方々のように……どうしても通らなくてはいけない事もあるでしょう。どうかこれ以上の被害を出さない為にも、早急な討伐をお願いします」
 かれこれ二桁代目になる眼鏡の位置を頻りに直しながら、それでも真剣な声音で霊査士は告げた。
「男女の双子……髑髏の面をした子供の姿のモンスター、か」
「はい。必ず二体同時に現れ、行動を共にしています。他に視えたことについてもお話しますね」
 視えたことを纏めた羊皮紙に目を移し、霊査士は語る。

 モンスター達は、その細道に近付いた『だいたい人間ぐらいの大きさ』の生き物だけを襲うようだ。細道に入って適当に進んでいけば、その内向こうから勝手に出てきてくれるだろう。
 その面と腕は白骨がむき出しになっており、その瞳に宿るのは禍々しい血色の光だ。しかしそれ以外は、生きている人間と変わりない姿だという。
 攻撃パターンは、まず男の子が近接攻撃主体で、その腕できつく締め上げる、抱き締めるようにして相手へとりついてから皮膚を突き破る肋骨で刺し貫くなどの攻撃を行ってくる。
 女の子の方が遠隔攻撃主体で、目から光線を放って一列薙ぎ払ったり、上空へ無数の骨の針を生み出して放つニードルスピアに似た技を使う。
「抱き締めと、光線に関しては防具を貫きます。回復手段はしっかり持っておかないと、熟練の冒険者だとしても痛い目を見るでしょうね」
 共通する攻撃方法は、笑い声だ。どちらもダメージこそないものの、超混乱を齎してくる。
「そして、二体が同時に笑う時……何か、ずっとおぞましく恐ろしい事が、起きるような……そんな、とても曖昧な感覚が浮かびました。途切れない……死……どんな強者さえも地に伏してしまうような。どうか十分にお気を付けて」
 霊査士の声に見送られ、冒険者達は戦場へと向かうのだった。


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参加者
白骨夢譚・クララ(a08850)
林の・ルーツ(a10241)
緋色の花・ジェネシス(a18131)
ソニックハウンド・カリウス(a19832)
北の一刀・カルー(a42439)
霧霞む朝方の竜胆・ラセン(a44292)
断章・グリフォス(a60537)
三元八力の掌・ハイル(a77468)
NPC:鋼・ギーゼルベルト(a90373)



<リプレイ>

●零を生む双子
 その道は酷く乾いていた。夏だから、という訳ではなく、元より栄養の少ない土地なのだという。故に、だろうか。踏み込んだ瞬間に妙な冷たさを覚えたのは。
「何か、気の所為かな。変な空気だね?」
 きょろりと辺りを見回して、三元八力の掌・ハイル(a77468)が呟く。そう思ってしまうのは、今回の相手――髑髏面の双子の姿をしているというモンスター達の事が念頭にあったからかもしれない。
(「絶好の骨狩り日和、ですかねえ」)
 一方、白骨夢譚・クララ(a08850)はそんな空気を寧ろ好とするように、好奇と興味に満ちた眼差しで行く先を見ていた。無論、油断なく周囲を見て敵の出現に備えながらである。
 グリモアの加護を失い、人ならざる姿へと身を窶した今となっても共に在るというその二体。生前はさぞ繋がりの深い者同士であったのか、とソニックハウンド・カリウス(a19832)は思う。
(「哀れ、とも思うが……」)
 放ってはおけない。それは彼らの為であり、守るべき一般人達の為である。
「むー……」
 子どもの姿を取るというモンスター達について考え、思わず渋い顔をしてしまったのは霧霞む朝方の竜胆・ラセン(a44292)。幾らモンスターと言っても、幼子の姿へ傷を付けるのは気持ち的に躊躇われる。それでも、これ以上誰かが傷付き涙することが無いように。どうにか出来るのは自分たち冒険者だけなのだから。その背を、気負い過ぎるなと言うように鋼・ギーゼルベルト(a90373)が軽く叩いた。

 細道を行くこと幾許か。遠眼鏡で索敵していた断章・グリフォス(a60537)が、短く警告の声を発した。
「その先に」
 茂みの影に紛れる、動く何かの姿を捉えたからだ。先頭で警戒していた北の一刀・カルー(a42439)も歩を緩める。冒険者達はそっと顔を見合わせると、各々の得物に手をかけながら近付いて行く。
 乾いた風が、不意に吹き抜けた瞬間。影から何かが躍り出た。

●一度は別れ
 右から少女、左から少年が飛び出す。無論、ただの人では無いことは、発される邪悪な空気から理解出来た。ゆるりと上げた面に見えるは虚ろな眼窩。そこに暗く光るは血色の灯火。骨の鳴る乾いた音と共に、彼らは動き始めた。

 音も無く中空に出現する無数の白い針。――否、正確には細く鋭い骨だ。空を覆い尽くさんばかりのそれは、ほんの一瞬溜めるような間を置いて一斉に降り注ぐ。その間を掻い潜り、緋色の花・ジェネシス(a18131)が少年骸骨の眼前へ。二体を分けて各個撃破する作戦だ。
「ここで止めます……っ!」
 銀の狼が撃ち出され、少年骸骨の肩に喰らい付く。だが拘束には至らずに、狼はかき消えてしまった。一人外れた位置からカリウスが放った矢は少女骸骨の体を射抜き、魔氷と魔炎を纏わせる。
 幸いにも敵が左右から現れたお陰で、冒険者達がその間へと割り込めば二体の分断は簡単に成功した。未だ動ける少年骸骨も、積極的に少女骸骨へと近付こうとはしていないように見える。少女骸骨へ駆け寄り、渾身の力で槌を振るうラセン。
「せー、のッ!」
 胴体へと直撃したその手応えは、生ける者と同じ柔い感覚。少年の足が大地を踏みしめると同時に、その体は跳躍する。標的はカルー。皮膚を突き破った肋骨は、その体を捉えんと虫の足のように蠢いた。
「あ、っぶない!?」
 紙一重でその攻撃を回避する。口惜しそうに動く肋骨は、程なくして何事もなかったかのように体の内へと戻っていった。
「笑いは活力を生み、安らぎを得るもの。奪う為に在るものではありませんわ……」
 林の・ルーツ(a10241)の声に合わせ現れる漆黒の腕は、魔炎にもがく少女骸骨の体を捉えて引き裂いた。悲鳴の代わりに骨が鳴る。からから、かたかた、嘲笑うように。
「ほんと、ホラーだわ」
 カルーの持つ白銀の剣から迸る雷光が、少年骸骨の身を灼く。声も感情も持ち合わせないモンスターがバランス崩して倒れ、そしてまた当たり前のように立ち上がってくる様は、練達の冒険者にさえ薄ら寒さを感じさせるものだった。
 想定以上に禍々しいモンスターの様に表情を苦いものへと変えながら、ハイルはその斧を少女骸骨へ叩き込まんと走る。しかし硬い何かにあたったような感触はしたものの、相手へと大したダメージを与えられている様子は無い。続いて畳みかけグリフォスのスピードラッシュにも、堪えた様子を見せなかった。ギーゼルベルトの大岩斬が、辛うじて小さな傷を相手に与える。
 しかし、少女骸骨は魔氷を振り払うことは敵わず、佇むばかり。人を呪うような紅い瞳で、冒険者達をただただ見詰める。

●されこうべは二度笑うか
 ――戦いは、持久戦と化していた。牽制と分断は本来通りの役割、敵を二体同時に行動させないという目的を達していたが、戦力を二つに分けたことが、結局、一度に与えるダメージ量を減らすことに繋がった為だ。戦いの長期化が予測出来れば作戦変更を、と考えていたルーツも、そもそも『何をもって持久戦化しそうだと予測する』のか曖昧で、それを提言する事が出来なかった。
 最初から戦力を分けたりせずに、単純に一体へ攻撃を集中させた方が迅速な討伐となったかもしれない。しかし、そうは思っても後の祭りというもの。

「おっと、そうはさせませんよ」
 甲高く骨が鳴く。不快で不気味な音に心乱される仲間へと、クララが静謐の祈りを捧げた。混乱から立ち直ったジェネシスが、幾度目かの銀狼を少年骸骨へと向ける。だがどうにも相性が悪いのか、それが相手を拘束するには至らない。
「……あちらさんも大分弱っているな。いくぞ!」
 双子からかなり距離を開けるようにしていた為に、回復の恩恵に与り難く、カリウスは他の誰よりも疲弊していた。それでも離れているが故に見える戦況を伝え、また弓を射る。魔炎に焼かれ、既に少女骸骨が纏っていた衣服は襤褸布同然となっていた。その内側にある体もまた、幾つも穴が穿たれ欠落し、見るも無残な有様だ。そこに叩き込まれるラセンの破鎧掌。吹き飛ばされ、仰向けに倒れた少女骸骨の目が空を仰ぐ。
 その空を、呪うように少女が嗤って。その声に同調して少年がないた。高くからからと乾いた声が、まるで拡声器で増幅されたように大きくその場に響き渡る。
「!!?」
 笑い声が邪なる風を呼び起こし、ただの風に混じった刃は、それに気付けなかった者へと深い傷を与えた。その一撃一撃は確実に急所を狙うもの。ルーツが急いで高らかな凱歌を歌い上げる。
「皆さん、どうかしっかりと」
「ありがとう、ルーツ。……さぁ、お返しだよ!」
 ハイルが一気に距離を詰め、倒れた少女骸骨へと斧を振り上げた。骨が砕け肉を引き裂く音。辺りへ飛び散るのは血液ですらない、ただ黒々としただけの何か――やがて、瞳の紅が消える時、その体も砂塵となり消えた。
「あと一体、畳みかけましょう!」
 グリフォスの振るう細身の剣が、目にもとまらぬ剣戟を少年骸骨に繰り出す。大きく仰け反ったそこへ、クララの死樹を刻んだ漆黒の術手袋から衝撃波が併せられる。
「これで、終わりッ!」
 ラセンの槌が、強かに敵の体を打つ。その、一撃が最期となって、少年の体もまた崩れ去り消えていった。
 全ては風に吹き散らされて、当たり前の平穏が訪れた。

●途絶えて無へ
「流石にもう、獣なり何なりが攫って行ってしまっていますか」
 双子髑髏による最後の被害者である行商人一家の遺体も見つければ弔おうと考えていたジェネシスは、少し目を伏せる。ともあれ彼らの無念は晴らせたのだから、せめて安心して眠れれば良いと願って。
「全く、見事に何も残さず消えたな……」
「でもせめて、簡単な墓碑ぐらいはね」
 カリウスやラセンは、手近なものを集めて消えた双子の為の墓所を誂えた。ごくごく簡素なものだけれど、そこに小さな野の花も添える。
「……おやすみなさい。たのしい夢を」
 誰彼構わず傷付けることなど、かつての二人は望まなかった筈だから。グリフォスもそっと冥福を祈る。ギーゼルベルトはそんな冒険者達の様子を見て、何も言わずに目を瞑っていた。
「結構苦戦しちゃったね。でもこれ以上の犠牲が出なくなっただけでも幸いかな……」
 結局、怪我が重傷化した仲間もいない。ならばこれは、成功と言っていいものだとハイルは思う。もう誰もこの件に関しては、不条理に怯え傷付く必要が無いのだ。当たり前を当たり前のように過ごせる――それは、何よりも素晴らしい事だろう。
 太陽が地平線の向こうへと消える前に、冒険者達は帰路を辿っていく。確かな勝利を手にし、依頼は恙無く成功したという、最高の報せを携えて。


マスター:河流ロッカー 紹介ページ
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