水の郷リシャッセ 〜夏陽に煌めく氷菓子〜



   


<オープニング>


●水の郷リシャッセ
 山の滋養が凝り湧き出た清水は、岩床を伝い、渓谷を走り――やがて麓に至る頃には、豊かな川となる。
 せせらぎの音は絶え間なく、緑滴るその地を潤し続けている。
 川の名はリシャン――せせらぎの音がシャンシャンと、弦を掻き鳴らすかに聞こえると喩えたのは、名もなき吟遊詩人であったとか。
 滋味豊かなリシャン川の清水は、数多の恵みをもたらしている。
 穀物をはじめ、様々な野菜や果物がよく実り、清流に揉まれてよく肥えた川魚は鮎が特に美味だとか。
 清き水は人を呼ぶ。川の畔にはリシャンの清水を使う造り酒屋が建ち並び、いつしか集落が出来ていった。
 水の郷リシャッセ――近隣の村々からはそう呼ばれている。

●夏陽に煌めく氷菓子
「皆で冷たいもん食べに行かへん?」
 この暑い最中に珍しく、明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)は元気そうな笑顔だった。
「おや……いよいよですか」
「せや。例によって水の郷の名物や♪」
 正確には『リシャンの川床』と呼ばれている。造り酒屋の人々が川の中州や浅瀬に床机を作り、遠方からの客をもてなしたのが始まり。今では夏になると幾つもの川床がリシャン川に設えられ、それぞれ個性溢れる料理が供される。
 清流の水面より数十センチに作られた川床は真夏でも涼しく、青々とした木々に囲まれた安らぎのひとときはまた格別だろう。
「ちょっと前に、リシャン川にある氷洞探しをしてもろたんやけどな。依頼が成功したお陰で、今年のリシャッセは氷が仰山手に入ったんよ。それで、なんや♪」
 リシャンの川床は6月から9月まで。そして、8月の前半2週間で催される『リシャンの氷床』は、今年から始まった特別床だ。
「まあ、元々、氷室ならあったさかい、川床の贅沢なデザートではあったんやけど……今年は色んな氷菓子が出るみたいやで」
 まずは氷塊を荒く砕いただけのかち割り。使われる氷は山の滋養が凍った粋だけに、まず一欠片は氷そのものを味わってみたいもの。
 そして、定番のかき氷。涼しげなガラスの器に削った氷がてんこ盛り。色とりどりのシロップを甘露尺で掛けただけのシンプルな物だが、氷を楽しむには1番だろうか。冷やした果物など様々なトッピングで自分だけのかき氷を作って貰うのもよいだろう。
「うちはやっぱり『水』が1番好きかなぁ。抹茶小豆も捨て難いけど」
 もっと手の込んだ物が希望なら、アイスクリームがある。ヤギの乳に砂糖と卵黄を混ぜたクリームを小さな瓶に入れ、塩を振った氷を満たしたボールに漬けて手で転がしながら凍らせていく。やがて瓶の内側にへばりつくように凍ったクリームは、正に根気の結晶。それだけに量は少ないが、舌に乗せれば優しく溶ける味わいは至福そのもの。同様にして、果汁や果実、珈琲やハーブティーなどを凍らせたソルベも人気が出そうだ。
 ソルベより粒の荒い氷菓子はグラニテと言う。シャリシャリした食感が特徴で、川床によって様々なバリエーションがある。レモンやオレンジ、グレープフルーツという柑橘果汁を掛けたもの、ジャスミンやミント、薔薇で香り付けしたもの、アーモンドや濃く淹れた珈琲が香ばしいフレーバー等々……お勧めは桑の実だろうか。冷たい氷に甘酸っぱい桑酒やジャムを添えれば、それだけで御馳走になる。他にも、トマトやキュウリという夏野菜を使ったグラニテまであるという。
「グラニテにはブリオッシュが付いとるんよ。横半分に切ったブリオッシュに挟んで食べるんは、リシャッセでは贅沢な夏の朝食なんや♪」
 また、クラッシュドアイスにリキュールを注いだフラッペは、大人だけの楽しみだろう。
「リリル、アイスクリームが食べてみたいなぁ〜ん。氷のお菓子って初めてなぁ〜ん♪」
「本当に色々ありますね」
 わくわくした面持ちの陽だまりを翔る南風・リリル(a90147)に、目を細める放浪する地図士・ネイネージュ(a90191)だったが、ふと何かを思い出したようだ。
「……そうだ。私は『みぞれ』をまた食べに行ってみたいです」
「ミゾレ……?」
 ネイネージュ曰く、先頃発見したリシャンの氷洞には『みぞれの泉』なるものがあったらしい。
「氷洞の奥に、泉が湧いていたんですけどね。温度の加減でしょうか……その泉の水がみぞれのようになっていたんです」
 一匙味見してみたそうだが、シャリシャリしていながら滑らかな食感は初めて知るものだったとか。
「不思議な事に、仄かに甘かったんですよね……だから、その朝に獲ったライムを絞って味わってみたいです」
 氷洞にある時点でみぞれ状の氷である為、下流の川床で味わえる物ではない。なので、ネイネージュは再び山歩きするつもりのようだ。
「みぞれをお椀にすくって、外で食べてみようかなと思います。真夏の大自然の中で氷を食べるというのも贅沢な話ですよね」
 みぞれの泉が気になるならば、ネイネージュについて行くのも一興かもしれない。
 氷菓子を急いで食べてキーンとなった頭を抱えるのもお約束。清らな川床での冷たい一時は如何?


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参加者
NPC:明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)



<リプレイ>

●陽煌氷菓
 降り注ぐ日差しは眩く、曇りない夏空に人々の表情も明るい。
「お紺ちゃん、早く早く♪」
 振り返ったレインはネイヴィを浮き浮きと手招く。
「さーて、何食べよっかな」
 メニューを開けば、品数の多さに今度はワクワク。
「アイスも良いけど、まずかき氷。お紺ちゃんは?」
「うちは苺ミルクで」
 細かくかいた氷はふわふわと新雪のよう。シロップの薄紅と練乳の白が目にも鮮やかだ。
「かき氷って綺麗やねぇ……」
 ネイヴィが見た目を楽しむ間に、レインはスカイブルーのかき氷をあっという間に平らげる。
「超涼しいー♪」
 次々と頼んではどんどん口に運ぶレイン。
「うわ、きた、きちゃったー」
 あんまり食べるスピードが速過ぎて、頭を抱えるのもお約束。
「……ふぅ。あ、お紺ちゃんのも美味しそうだねー」
 頭痛が収まれば屈託ない彼にクスリと笑んで、かき氷を差し出すネイヴィだった。

 氷床の厨房は氷室に近い木陰。パラソルの下に並ぶシロップ瓶が目にも楽しい。
「抹茶小豆とアイスクリームです」
「おおきに」
「冷たいなぁ〜ん♪」
 かき氷の小鉢に目を細める明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)。アイスクリームに、リリルも大はしゃぎだ。
(「暑い季節にせせらぎを聞きつつ、なんて素敵ですね!」)
 そんな2人の次はツバキ。白狐のお面越しに瞳を輝かせる。
「あ、その苺と抹茶シロップも頂いていいですか? 果物も!」
 甘露尺から流れる色とりどりのシロップに興味津々。かき氷を手に卓に着けば、懐から梅蜜の瓶を取り出す。
「お、美味しいのです! 梅の実と一緒だと甘酸っぱくてシャッキリです!」
 こめかみをキンキンさせて食べれば、これぞ夏の風物詩。
 お面を着けたまま器用に初かき氷を堪能するツバキだった。

 目標は全種類制覇♪
「エルさん、早速食べにいきましょお〜」
「うん! 2人で分けっこしたら、楽に食べ尽くせそうだね!」
 チユに手を引かれてエルも笑顔。
 沢山食べたいエルは、1つ1つは少なめだがそれぞれ西瓜や梨、オレンジなど旬の果物をトッピング。
「チユはどうする?」
「わたしもカキ氷で……ピンク色シロップたっぷりでお願いしますぅ〜」
 砕いたチョコを散らせば、西瓜風カキ氷の出来上がり。
「気持ちいいにゃ〜♪」
 容器に頬を寄せ、冷たさを堪能してから一口。
「うぁ〜♪ 甘くて冷た〜い! エルさんもどうぞ〜!」
「じゃあ、ボクもお返し。あ〜ん♪」
 つい急いで食べてキーンとなる痛みさえ何だか楽しくて。
「た〜っぷりひんやりしましたぁ〜♪」
「うん! 一緒に来れて良かったんだよ」
 存分に氷菓子を堪能して、2人は幸せそうに笑み零れた。

(「氷が食べれるなんて嬉しいな」)
 イーグルのかき氷は、勿論大好きな苺のシロップがたっぷり。生憎と苺の季節は過ぎており、トッピングは砂糖漬けの苺だ。
(「ファリアスは……アイスかぁ」)
 苺と氷で幸せ一杯の筈が……隣の芝生は何とやら。
「一口おくれ」
「ああ……よっこらせっと」
「だ、抱きついたら、暑いだろ……」
 隣では物足りないと、後ろからの抱擁に思わず頬も熱くなる。
「ほら、美味しいだろ〜」
 照れ隠しの抗議も聞き流し、アイスクリームを恋人の口に運ぶファリアス。
「もう、仕方ないなぁ……」
 お返しにイーグルはアイスクリームに好物を乗せてあげる。
「……ん、カキ氷もチョコも美味しいや」
「でも、苺はあげないもん」
「そんなにてんこ盛りなのにか!」
 じゃれ合う笑い声が、夏空に響いた。

●氷洞に眠る泉
 今日は地図を手に山歩きの冒険者も多い。
「ネイネージュ先生、山歩きのご指導よろしくっす!」
 何だか体育会系なジーニアスに、ネイネージュはクスリ。ルディも楽しそう。
「この先に美味しい氷があるから、山登り頑張ろうね」
「食前の大事な運動なぁ〜ん。楽しく進むなぁ〜ん♪」
 山登りも楽しいお出掛け。ミルッヒとヴィカルも、地図を覗き込んで浮き浮き。
「あら、ネイネージュさん。あの時はお世話になりました」
「こちらこそ」
 今日は絶好のハイキング日和。狼岩までは道もなだらかで、ミレイナもエルスと並んでのんびりだ。
「ねぇ、後どれぐらいなの?」
「ここからが登山本番ですよ。食べたら一頑張りしましょう」
 日傘と氷菓子を手にワクワク顔のエルスに、ミレイナは優しく微笑む。
「出発〜っ!」
 炎天下の最中、クローブの元気な声が響く。
「日傘は邪魔かしら?」
「途中までは大丈夫。でも、斜面がきつい所は両手を空けてね〜」
 ピンクの日傘をクルリと回すアンジェリカに返事して、考え込むクローブ。
(「アセルスさんにはレイさんがいるから、吾はアンちゃんとイルガさんをエスコートして……」)
「カラートさんは男だけど、エスコート必要?」
「いやいや。後ろからついて行くから」

 狼岩から山に入り、長老杉の厳しい斜面を登る。迫り出す大岩を迂回、二又の沢を左に往けば――やがて冷気を吐き出す穴に辿り着く。
「中は寒いのう」
 フォーネにくっつき、ウラはキョロキョロ。奥へ向かえば、天井の隙間から射し込む陽光に泉が煌めく。
 氷と水が入り混じる水面は氷結もせず、かと言ってみぞれが溶けもせず、静かに湧き出る不思議な光景だ。
 フォーネがみぞれをすくえば、シャラリと独特の感触。まずは一口。続いて練乳だけ、レモンだけ、両方合わせて、と次々味を変える。特に練乳みぞれは、口の中でほどける濃厚な甘さに思わずうっとり。
(「前のお仕事の達成感を改めて実感します」)
 氷洞の中は結構寒いが、2人でくっつけば心地好く。
「暑い時に冷たい場所で、冷たい物をあったか〜い友達とくっついて食べる。凄い贅沢な体験じゃな! ていくあうと出来んの? この幸せ空間はっ!?」
 興奮しきりのウラが微笑ましい。フォーネもつい世話を焼いてしまう。
「涼しくて気持ちいいね」
 冷気が火照ったエルスの肌に心地好い。
「泉が万華鏡の中にあるビーズみたいですね」
 氷洞は2度目のミレイナも、改めて自然の妙に溜息を吐く。そっと泉に手を浸ければ、予想以上の冷たい。
「えっと……いただきます」
 その場でみぞれを味わうエルスだが、身体の内外を充たす冷気で流石に震えてくる。
「ふふ、美味しいわね」
 エルスを外に誘い、ミレイナは優しくその口元を拭う。
(「山歩きで疲れた身体も潤っちゃう、すっごく美味しい氷菓子なんだろうなー」)
 切子細工の器にみぞれを満たし、期待の面持ちで振り返るジーニアス。ルディが涼しい顔で掛けたのは黒蜜、と思いきや?
「二十歳のジーンさんに大人のデザートを……と持って来たお酒がめんつゆに」
「ふっ、こんな事もあろうかと!」
 すかさず素麺を投入する辺り、ジーニアスも負けていない。
(「こんな時でも、ルディと一緒だとドキドキで顔が熱い……って、乙女か僕はー!」)
「青春ですねぇ」
 気を利かせて2人から離れていたネイネージュは、とっても微笑ましげ。
「ひゃー、やっぱり涼しいね。気持ちいいー」
 マイカップを手に歓声を上げたギイナは、まずはそのままみぞれを一口。山の精気を味わい、次に濃いめの紅茶でアイスみぞれティーと洒落込む。
「ミントを添えても良さそうだな。ネイネージュもどう? ライムはどんな感じか、一口良い?」
「勿論」
「フルーツみぞれ黒蜜です。案内のお礼に」
 みぞれに黒蜜と桃、梨、葡萄と寒天を盛り付けた、ルディ本命の氷菓子も差し出される。肩越しに見れば、ジーニアスも幸せそうに堪能中。
「こっちも美味しいなぁ〜ん♪」
 ヴィカルは『オレンジでさっぱり柑橘の香りのこらぼ?』みぞれをお裾分け。
「美味しい天然の氷だと『きぃ〜ん』って来ないのは本当だったんだね」
「みぞれなので、口当たりが優しいからかもしれませんね」
 感動しきりのミルッヒも交え、色んな味のみぞれがあちこちで交換される。
「到着だよ〜」
 交換会(?)の最中に到着の「導きの樹海」の面々もみぞれの泉にまっしぐら。
 まず煌めく泉の光景とその冷たさを堪能して。
「水遊びは……流石に無理か」
 冷気漂う氷洞で氷水と戯れるのは流石に厳しい。思わず苦笑するレイ。
「エヘヘ、実は涼しげなグラスを用意したんだ♪ いただきまーす!」
 嬉しそうに氷華の杯を取り出し、アセルスは早速みぞれを一口。
「〜〜ッ! キーンって……来ないね。ほら、キノも」
 みぞれを舐めた愛猫の様子にクスクス。そして、恋人にも一匙。
「フフッ、レイも。はい、あ〜ん♪」
「あ、ああ」
 梅酒で大人の味を楽しむつもりのレイだったが、恋人のお約束には照れ臭そう。
「夏にこんな冷たい物食べられるなんて、すごい贅沢!」
「……本当、何だか甘みがあるわね」
 無邪気に笑うイルガに頷いて、アンジェリカはみぞれ本来の味わいに何だか不思議そう。
 次は思い思いのトッピングで。早速カラートはオレンジを絞る。
「パイナップルジャムだよ〜」
 黄金色のジャムを落とせばキラキラと目にも鮮やか。程よい酸味と甘さは正にお薦めの味。
「あたしはライムを……おぉ、大人の味になったかも!」
 他の味も気になるのはプーカの好奇心か。イルガはジャムをお裾分けするクローブと交換会に突撃♪
「クローブさん、誘ってくれてありがと。今度はプーカの森の秘密の場所も教えてあげるね!」
 実は皆でお出掛けは久々。でも、集まればまた楽しい思い出が生まれる。それが絆なのかもしれない。

●黄昏氷菓
 そろそろ黄昏時だが、涼を求める人の波は絶えず。
「川床ってこんな感じなのですねぇ。来年はうちでも作りますか」
「まるで川の上に浮いているみたい〜」
「丁度、足が水面に届く高さですわ」
「水の音と風が気持ちいいね」
 川床初体験組は珍しそうにキョロキョロ。
「わーい、この前のリシャッセも楽しかったから楽しみー♪」
 川床2回目のナオは、皆で涼める場所を探そうとして……早速、川に落ちている。
 折角なので川床の一角を陣取り清流に足を泳がせる。
「ほんまに美味しい氷なんやね。どのカキ氷も楽しみや♪」
 まずはかち割りで氷の味見。
「カキ氷って、シロップ掛けて食べるもんでしたか……」
 ちょっとカルチャーショックのナオはマンゴーどっさりのカキ氷と、コーヒーリキュールのフラッペを抱えて。
「グラニテって初めてや。カキ氷とどう違うんやろ?」
「うん、氷菓子ってこんなに種類あるんだな……正直、カキ氷とフラッペの違いもよく判らないけど」
 カガリのジャスミンとグレープフルーツのグラニテは、かき氷よりザクザクした食感が楽しい。バーミリオンが注文した胡瓜とキウイのグラニテは甘さ控えめ。瑞々しい夏野菜がアクセントか。
(「漢の夏は氷! でも、やっぱり……」)
 硬派を貫く決意も束の間。ヨイクのかき氷はパインと餡子に練乳を掛けて。その名もシロクマ。
「何処かのお茶屋さんで有名な食べ方なんだって〜」
 アーケィのかき氷は抹茶シロップを掛け、一口サイズのお餅と漉し餡を乗せている。
「所長が食べたら、どんな反応をされたでしょうね?」
 苺のかき氷を抱えるリアンシェの呟きにちょっぴりしんみりとしたけれど。
「あの……交換こせん? 緊急開催、味比べ会! みたいな」
「大賛成です」
 カガリの提案にヨイクの硬派路線は完全崩壊。きっと皆で楽しむのが1番美味しいトッピング。
「ウチにも氷室とか、あればいいのに……うお、頭痛て!」
「あはは、きぃ〜んはお約束やなー」
「毒消しの風も護りの天使達も、効果ないようですわね」
 まあ、アイスクリーム頭痛はバッドステータスでもダメージでもない訳で。
「ここでお婆ちゃんの知恵袋! 頭きーんは器を10秒間、額に押し付ければ解消だって」
「お約束は過去通った道、俺は二の轍は踏まないぞ! ……って、皆食べるの速過ぎ!」
 振り返れば色々あったけど、今は仲間とまったりと――真夏の自然の中で美味しい氷菓と過ごす幸せな時間。

「アイスクリームや果実を沢山乗せたいの」
「ふふふ、任せておけ」
 氷床の厨房を借り、シンバは愛妻の可愛い我儘の為腕を振るう。
「とってもとっても大きなパフェね」
 あれもこれもと盛り付ければジャンボパフェの出来上がり。
「いただきます」
「うむ、食べるがよい」
 早速一口。幸せそうなリノンの表情に、思わずシンバの髭もピクピク。
「はい、あーん」
「私も食べて良いのかな? がおー」
 2人で食べれば正に甘露。大きなお口で可愛く食べる旦那様の仕草に、リノンもキュンキュンしてしまう。
(「私は幸せ者だな」)
 シンバと出会って笑顔を覚えたというリノン。そんな妻の笑顔は彼にとって世界一美しい。
「もう一口」
「がおー」
 幸せな時間はまだ続く。

「おまたせですなぁん」
 アイスクリーム作りは根気仕事。カスタードクリームを入れた小瓶を、塩を振った氷を満たしたボールでじっくり凍らせる。
 だから、漸くエィリスにお盆を運んできたメルフィの額には汗が滲む。
「お疲れ様でした」
 頑張った後はお楽しみの時間。
 メルフィはアイスを小皿に盛り、オレンジのソルベとブリオッシュも添えて。
 色々と目移りしたエィリスは、結局お勧めの桑の実のグラニテに決めた。
「あらまあ、本当に夏だから楽しめる贅沢と言った感じですね」
 グラニテをブリオッシュに挟んで一口。エィリスの初体験はちょっと癖になりそうな美味。
「メルちゃんも如何ですか? あ〜ん♪」
「エィリスちゃんも、あ〜んなぁん♪」
 桑の実のグラニテとアイスクリームを交換すれば、自然と笑みが浮かんでくる。
「私の作ったアイス、ちゃんと出来ているかなぁ〜ん?」
「ええ」
 一口一口が喜びの味。溶けたアイスクリームもブリオッシュに付けて余さず戴く。
「他の味も試してみましょう」
 体重の心配は明後日の方向にぶん投げて。今日はひんやりを満喫する日。

 折角なので浴衣を着た。ハルカは紫の濃淡に白い帯が上品な装い。イルディスは黒緑に細く柳煤竹と錆鼠の縞模様だ。
「イルディス君、氷菓子を交換しない?」
「はい……ハルカさんは何にしたんです?」
 微妙に身を寄せてハルカの器を覗けば、白桃のソルベに青リンゴの角切りとミントの葉。
 一方、イルディスのソルベは甘さ控えめの柑橘系。実は甘い物が苦手なイルディスだが、大好きな人と食べるなら別。
 氷菓子を換えっこして、川のせせらぎに耳を傾ける。
(「そう言えば僕、あまりお酒に強くないのですよね……」)
 その内、ハルカはうつらうつら。レモンリキュールのソーダ割りで酔ったらしい。
 膝枕で頭をぽふぽふすれば、嬉しそうに抱きついてくる。そんなハルカに思わず胸キュン。
(「偶に子供っぽいというか、無防備で……安心してるんですかね?」)
「夏はちょっと苦手でしたけど。今年は大切で、好きな季節になったかな……」
 それはきっと大好きな人と一緒だから。微笑むハルカの呟きにほっと安らぐイルディスだった。

 今日もリシャンのせせらぎはシャンシャンと……数多の恵みをもたらしている。


マスター:柊透胡 紹介ページ
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作成日:2009/08/26
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