村が燃えゆく



<オープニング>


 また一軒燃えている。
 燃え上がる家屋の周りでは、村人の歌声が、炎の巻き起こした風に乗り上昇していく。
「ん? あなたも歌わなくちゃだめでしょ? そんな声じゃ、お頭様のところまで届かないわよ。んー? もしかして、お父さんみたいになりたいのかなぁ?」
 頭をスキンヘッドに剃り上げ、それを七色に塗り分けた男が、裏声で罵っている。言葉だけには飽きたのか、亜麻色の短髪の少年の首根っこを掴むと、炎に少年の顔を近づけていく。少年の喉から意味ある言葉として把握できない音が漏れ出した――。

 数刻後。
 村人たちは、七色スキンヘッドに先導され、焼肉の盛りつけをドラグナーのもとへ運ばされた。

 ヒトの霊査士・エイベアー(a90292)は、お茶を喉に流し込み、一息ついてから口を開いた。その表情からすると――、盛りつけた様子をもみてしまったのかもしれない。
「辺境の村に、ドラグナーが見つかったのじゃ。忠誠を誓ったチンピラに命じ、2日に1度村人の家を燃やし、ついでに反抗的な村人を焼き、その肉を喰らっているそうじゃ」
「……人肉、ですか。なんとも悪食な……筋ばかりで美味しいわけがないでしょうに」
 呆れ果てたように、リザードマンの年増狂戦士・バーリツ(a90269)が言い捨てる。
「村はもともと8軒からなっておったのじゃが、そのうちの1軒にドラグナーが転がりこみ、あとは先程いうたように燃やして喜んでおる。じゃから、ぬしらがたどり着く頃にはおそらく残り4軒になると予想される」
「彼らを可能な限り救い出せ、ということですか」
 バーリツの問いかけに、エイベアーは力強く頷いてみせる。
「じゃが、ドラグナーが厄介でのぅ。冒険者などを村に迎え入れた場合は、転がりこんだ家の住人を喰らうと脅しているのじゃ」
 ドラグナーが現在住まいと定めた家屋には、もともと4人が住んでいた。押し入った際に父が殺され、第一の『焼肉』として食されている。現在のこの家屋では、残された母、少女に幼児が人質かつドラグナーの身のまわりの世話役に使われていた。
「村は広場を囲むように家が並んで構成されておった。そのうちの最大のものがドラグナーが転がりこんだ家屋じゃ。広場を中心にチンピラ4人が周囲に目を配っているようじゃな。チンピラたちもドラグナーの癇癪を恐れており、チンピラのわりには気を抜かずに見張り役をがんばってるようでのぅ。
 そのあいだ、ドラグナーは涼しい木陰で、鉄傘を枕にお昼寝じゃな」
 バーリツは、卓上の皿からキクラゲの炒め物を摘み上げ、並べ、そして、腕組みして唸る。
「むむむ……、なかなか卑怯道にかなったやり口ですな」
 割と冷静な口調を装っているが、瞳の辺りをみるとどうやら怒っているらしい。
「村人らにはいつも通りの生活をさせておき、『迷い込んできた旅人を焼いて差し出せば村人の番はあとになる』と言い含めておってのぅ、無害な旅人を装えればなんとか村に入り込むことはできるじゃろうがなぁ、何しろ辺境じゃ、旅人自体が珍しいからのぅ。
 ちなみに、チンピラに報告されることなく、村人と話をつけねばならぬことを忘れてはならぬ」
「そう……、ですね。冒険者がドラグナーに勝る存在だと信じさせられなければ追いつめられた村人が注進に走るかもしれませんし、村人に信じてもらうのに手間をかけすぎればチンピラに気づかれ、ご注進と」
「そういうことじゃ」
 バーリツは広げたキクラゲを一気に拾い上げると口に放り込み、一気に麦酒で流し込んだ。

「して、注進を受けたドラグナーはどうするかわかるかのぅ?」
 エイベアーからの問いに、バーリツは卑怯脳を駆使し、一言口にした。
「逃げの一手ですね」
「うむ、そういうことじゃな」
 言葉とは裏腹に、エイベアーの表情は晴れない。正答の内容自体が気にくわないのだろう。
「ドラグナーは自らの力量をわきまえておるそうじゃ。だからこそ、ドラゴンとも渡り合う冒険者と戦わずに逃げることを選ぶじゃろうのぅ。その際、余裕があれば人質を始末することも厭わぬじゃろうて」
 バーリツの瞳が細められる。
「無力な女子供を殺すくらいの時間はチンピラたちでも十分作り出せますね」
 エイベアーの表情が硬くなり、バーリツを見据える。
「ドラグナーに従っているとはいえ、チンピラも無力な民じゃ、忘れてはおわらぬとは思うがのぅ」
 バーリツは、重々承知、といった気配で頭を垂れてみせる。
「さて、ドラグナーの力じゃ。鉄傘を振るいつつ武道家のような技を使ってくるものと思われる。ドラゴンと比する価値のない存在とはいえ、油断するでないぞ」
 エイベアーは息継ぎする間も惜しみ、話し続ける。
「奴めを倒し、どうにかせめて3軒――3家族は守りきってくれぃ」
 エイベアーはそこまで語ると頭を下げた。


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参加者
ウェイトレスの大魔術師・ルーシア(a01033)
猫又・リョウアン(a04794)
終焉の探求者・ガイヤ(a32280)
未来の豪商・ナルヤ(a37402)
濡れ羽色の閃光・ビューネ(a38207)
風の翼・リア(a45123)
ノソ・リン(a50852)
蒼髪・ブレッド(a76847)
NPC:リザードマンの年増狂戦士・バーリツ(a90269)



<リプレイ>

●おばちゃん
 村の広場に面した家の一つに、二人の姿はあった。
「こ……、こ、こんな何もない村に、よ、よう来なすったなぁ。まぁ、ま、まずはお茶でも」
 おばちゃんがお茶を出してくれた。
 かなり震えているようで、お茶をこぼしてしまう。おばちゃんは2人の前に杯を置くと、執拗に指についたお茶の残滓を拭き取っている。
「おばちゃんは、きれい好き? なんだね」
 白花天・リン(a50852)はそういうとおばちゃんの手を掴む。懐からハンカチを取り出すと、おばちゃんのごつごつした指を拭った。
「そ、そんなことは、なぁよ。それよりも、折角入れてやっただよ、冷める前に飲んでけろ」
 おばちゃんの必死な様子に、リンの青い瞳と、ウェイトレスの大魔術師・ルーシア(a01033)のそれが向き合わされた。
「でもぅ、力一杯拭ってたでしょ〜。肌が真っ赤だよぉ」
「ちょ、ちょっと肌の調子が悪くてね、大おばばにも注意されてりゅのさ」
 おばちゃんは噛んだ舌の痛みに表情を歪ませつつも、手振りでお茶を重ねて勧めている。
 ルーシアは杯を両手で挟み込むように持ち上げる。おばちゃんは、その様子に喜色を見せるのだが、ルーシアは口へ運ぶ手を一休みさせた。
「おばさんには感謝してるんですよぅ。薬草を探しに来ただけの旅人をいきなり自宅に誘いいれてくれるなんてぇ、なかなかできることじゃぁ、ありませんよぉ〜」
「や、やだねぇ、ほめたところで何も出やしないよ」
 おばちゃんは二人から視線をそらした。
「……そうそう、おばちゃんの拭い方を見てね、てっきり、まるで、体に悪いものがついたみたいに感じたね」
「い、いやなこというねぇ。あたしがはじめて会った旅人さんに、ど、毒薬を入れる理由なんてありゃしないって」
 おばちゃんはこう弁解しながらも、視線はあらぬ方向に彷徨っている。どうやら隣の部屋に繋がる扉に向かう時間が多いような気がする。
「……そういえばぁ、大おばば殿にお会いできませんかぁ。わたしも、お肌の話聞きたいですぅ」
「お、お忙しい方だからねぇ、すぐんは無理だなぁ。さぁ。そ、そんなことより、ささ、飲んどくれ。一休みしたら、あんたらのいう貴重な薬草探しの手伝いしてやっからさ」
 ルーシア、リンが杯に唇を触れた。おばちゃんは刮目して、二人の様子をうかがう。杯が傾けられ、中の液体が喉に流れ込んでいく。
 変化しない二人の様子に……、おばちゃんは慌てて杯内に残る茶を指で拭うと、舌で舐めた。おばちゃんは首を傾げて二人に問いかける。
「そう、なんだねぇ、体が重くなってきたりしないかい? そろそろ……、旅の疲れが出てくる頃なんじゃないのかい?」
 二人は一瞬目配せすると、大きなあくびを漏らした。
「あ、あれ、そういえば、なんだか、疲れたかな」
「わたしも、とってもぉ、眠くなってきましたぁ〜、おやすみなさぁい」
 リン、ルーシアは棒読み風に喋ったあと、横になって寝息をたててみせた。
 おばちゃんをその様子に安堵の溜息を漏らし、隣室への扉を開けた。スキンヘッドのごろつきが飛び込んできた。
「あたしゃ、もうこんな役目はごめんだよ。今度は別の者にやらせておくれ」
「そんな戯れ言の暇があったら、とっとと焚き火の準備をすませるんだな。餌が舞い込んだと御館様がお待ちだからな」
 ごろつきはそういうと、二人の全身を舐めるように眺める。
「しかしまぁ、勿体ねぇこった。御館様とは違う意味で、オレもこの嬢ちゃんたちの味を楽しんでみてぇもんだがなぁ」
 ごろつきは羨望の溜息を漏らすが、隣室から運び込んだ大壺の中身を柄杓で二人にかけ始めた。それからは生姜ベースのタレの臭いがした。

●あんちゃん
 村からわずかに離れた茂みに、残り7人の冒険者が潜んでいた。
「リンとルーシアがあの家に入ってからずいぶんと経ったな」
 這いつくばって遠眼鏡を覗き込む、終焉の探求者・ガイヤ(a32280)の言を、猫又・リョウアン(a04794)が同様の姿勢のまま、あとを続ける。
「!? 何やら出入りが慌ただしくなってきました」
「どうなりました? どんな酒が運ばれてきましたか――余裕があれば、でかまいいませんが」
 リザードマンの年増狂戦士・バーリツ(a90269)のとぼけた質問に遠眼鏡カルテットの緊張がわずかに弛む。別の意味で体を強張らせる者もいたようだが。とはいえ、その緩みは瞬刻にすぎない。
「二人を連れ込んだ婦人が出たり入ったりせわしいな」
 鈍色の小さな遠眼鏡から見えた光景を、告命天使・リア(a45123)が告げた。
「この分では、どうやらその夫人が一服盛ったのかもしれませんね。村人に薬を盛らせるとはなんて酷いことを」
「とはいえ、村人が準備できるような薬でうちら冒険者がどうこうできるとは思えんな……、そうなるとあの二人、狸寝入りでも披露してるってとこやな」
「村人に卑劣な手を取らせるドラグナーに、卑怯で対する冒険者……、これぞ三卑主義の真髄」
 濡れ羽色の閃光・ビューネ(a38207)、未来の豪商・ナルヤ(a37402)、バーリツが、潜入組のルーシア、リアらの武器の動向を観察しながら、カルテットから次々もたらされる報告を肴に話を弾ませる。
「あの夫人の使っている手拭いは赤いな……、あの赤さはそういうことか」
 ガイヤの呟きに、蒼髪・ブレッド(a76847)が頷く。
「赤ドラグナーは屋外ということですね。村人とドラグナーからの注意を彼女らが集めているうちに見つけないといけませんね。
 まったく、卑劣な輩がいるものですね。怒りも覚えますがここは冷静に、慎重に……ですね」
「ドラグナーの性格を考えるに、住居の庭や広場から離れていない、樹木の生い茂った場所にいそうな気がするな……」
 リアの指摘をナルヤが続ける。
「ドラグナー自体が人質を連れて村から少し離れた場所にいる可能性もあると思うんや。涼しい木陰になりそうなところやな」
 その言葉を耳にしながら、リアは遠眼鏡『ガーベラスコープ』の向こうに、村一番の大きな家、焼けた家を写し出し、周囲に樹木のある場所を探す。

 茂みの中から何本もの遠眼鏡がせり出てくる。黒布がまかれ、西日を照り返さぬよう配慮された向きとはいえ、異様な光景かもしれない。
「黒ずんだ傘を発見、大きさからしてあの下にドラグナーだな」
「ごろつきの出入りが多いところを見ると、よっぽど大事な存在が傘の下にはいるようだな」
 リョウアン、リアの推測に、異論は起こらなかった。

●おいちゃん
「ほぉ、今日はうら若き乙女の血肉を味わえるか。これでしばらく涼しく過ごせそうだな」
 ひざまずくチンピラに鷹揚に頷くと、ドラグナーは立ち上がった。辺り一面に日陰を提供していた鉄傘を無造作に掴みあげる。大きな団扇を振るっていた母と二人の子は、ドラグナーの膂力をあらためて見てしまい、驚いて座り込んでしまう。親子ともども向かおうとしてか、ドラグナーはその場で三人の回復を待っている。
 木陰のせいか、鉄傘がなくなっても、その場は若干涼しかったようだ。

 宴へ歩き出したドラグナーの背に、一対の斧が連続して叩きつけられる。同時に稲妻がドラグナーの筋肉質の体中を巡る。
「……どうやら美食家ではないようだな。そんな問題でもないが」
「ぬ、後ろからとはせこい手を使う」
「せこい? 卑怯? お前に言われたくない……」
 鼻で嗤うリアの『電刃衝奥義』で、ドラグナーの体は強張っている。
「おっと、人質に手を出させはしない」
 リョウアンに殿をまかせ、人質一家は村広場の反対側に逃げていった。
「くっ、いざというときの非常食が」
 ドラグナーは怒りに身をまかせ、痺れを振り払い、傘を広げ近くの者たちを切り裂いていく。
「このくらいの打撃では猫だって倒せませんね」
 ブレッドの言葉にドラグナーの怒りはますます激しくなる。
「村を、村人を燃やして喜んでいるなんて。人質を取り、村人を追いつめ、焼き、食す。どうしてこんな非道が行えるのでしょう。これ以上被害が出ないように、きっちり片付けて差し上げなければなりませんね」
 陽光の反射で茂みに隠れているのがばれないように外されていた眼鏡をかけ直したビューネが『鮫牙の矢奥義』を放った。逆棘の凶悪な外見の矢は、ドラグナーの肌に深くめり込む。
「まぁ、もう太古の昔から生きているのだから、未練はないだろう。さっさとあの世に行って、懺悔してくるといい……」
 ガイヤの呼び出した3頭の黒い炎が、ナルヤが影から伸ばした虚ろな手が、更にドラグナーに破壊をもたらす。『スキュラフレイム奥義』と『ヴォイドスクラッチ奥義』である。
「卑劣な行為……許せませんね」
 ブレッドの『蒼剣アーティミス』が突き刺された。『ミラージュアタック奥義』の幻影にドラグナーはさらに怒りの叫びをあげる。逃亡を阻止するように、冒険者一行は囲むことができたようだ。
 そこに、無数の葉が燃えながら現れドラグナーを包み込む。『緑の業火』を放ち、ルーシアが姿を見せた。その脇からリンが謝っている。
「ごめん。『ウェポン・オーバードライブ』の準備忘れちゃって……」
「ハンカチとの二段重ねにしておいてよかったでしょお」
 ルーシアの指摘に同意の頷きがいくつか起こった。
「貴様ら、我をなめておるな! 我とても無駄に長生きしておらぬ、その力を見せつけてくれるわ!」
 ドラグナーの叫びもむなしく響くなか、冒険者たちの猛攻は続いた。
 やがて、ドラグナーの命の火は消えた。

●おやじ
 翌日。
「ごろつきたちを許すん……だ」
 リンはどこか呆れたように、言い放った。
「ええ、もともと彼らも同じ村の民ですからな。おまけに、今や人っ子一人でも多く力が欲しいですからね」
 村人から暫定的に長に選ばれた壮年の男の言葉に、ナルヤはしみじみ頷いてみせる。
「そうやなぁ、焼失した家の片付けに、亡くなられた人の埋葬もせなあかんからな。確かに人手はいくらあってもたりんわな。うちらももう少し手伝いたかったんやけど」
 長だけでなく、婦人も首を振った。
「残った私たちでできるようにならないといけませんから、いつまでも助けてもらうわけにいかないのです」
「しかしなぁ、その土人形便利だぁ。あのとき見せられたときもたまげたけんど、眠り薬が効かない頑丈な、あんたらの体にもびっくりだったねぇ」
「わたしはぁ、まだまだ冒険者じゃひ弱なほうなんですぅ。ほらぁ、リョウアンさんのほうが、とってもとってもすごいんですよぉ」
 ルーシアの話を聞き終えると、婦人はリョウアンのもとを訪れ、全身の筋肉のたくましさを触って感じ取ろうとするのだった。
 そして、婦人により広まったリョウアンらの筋肉の激しさについてのうわさ話をお土産に、冒険者は帰途につくのだった。


マスター:珠沙命蓮 紹介ページ
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ウェイトレスの大魔術師・ルーシア(a01033)  2009年09月04日 22時  通報
初ドラグナー依頼でしたがなんとか成功したなぁ。
やっぱカンスト級は良いからだしてんだろね。