≪神鉄の聖域グヴェンドリン≫連符 冥き業火



<オープニング>


●グヴェンドリン城塞
「そろそろ、住民の皆さんには、自警団を作ってもらっても良いかもしれませんね」
 年を経て、徐々に増えている家並みを砦の回廊から見下ろしながら、美しい花を見守る白雲・フラレ(a42669)は藍玉の霊査士・アリス(a90066)に言う。
「あ……それもそうだわ」
 相変わらず、そういうことを考える経験値は一向に上がっていないらしいアリス。やり取りを聞いて、ニードルスピアフルバースト・ユーリ(a42503)と 闇色の・モニカ(a46747)も同意した。
「そうですね」
「動物も増えてるのはいいことだけど、畑を猪に荒らされたとかいう話もちらほら聞くもんな」
「……。畑にも鳴子がいるかのぅ?」
 修理のために外してきた鳴子を手に、氷輪の影・サンタナ(a03094)はそう提案してみたが。
「だから、それを自分達でやってもらうんだよ。……ってことだよねぇ?」
 そう、忘却と喪失の狭間で揺れる狂気・バサラ(a36130)に軽くツッコまれた。
 この地には、まず護衛士団が配置された。それは、一般人にとっては安心感のあることで。逆に言えば、自警という考えは、少しばかり足りない土地柄になっているかもしれない。
「過保護すぎだ。その程度、いちいち護衛士が出張る話でもないからな」
 血に餓えし者・ジェイコブ(a02128)は、住民に話を通しておくよう、巡回に出る面々に伝えることを請け負った。

●湯治場の村
 その村は、湯治場・湯の花のある街跡に出来た新しいものだった。
 安全性で言えば、一般人ならグヴェンドリン城塞内に居を構えるのが適当だったが、ここは護衛士団の駐留する地という安心感がある。
 そして実際、アンデッドやモンスターの脅威は薄れていた。人々が、生活手段の確保から、その質の向上へ、考えを変え始めているということだろう。
 護衛士団とアリスには事前に断りが入れられていたが、許可出来ない理由は無く、村は興された。湯花も、今はその村で作られている。
 周囲に開墾した畑と付近の森から糧を得ている人々は、それで慎ましやかに暮らしている。今はまだ、護衛士が時折訪れたり、商人・ディルハンが湯花を持ち帰る程度だが、いずれは温泉宿も商いたいとの心積もりのようだ。
 そんな質朴な村で事件らしいものが起こったのは、少し前のこと。
 夜半、やけに森の方が騒がしくなったことがあった。その後日、温泉にも来ていると思われる猿が数頭、森の中で死んでいるのが発見されたという。
 また、同じ日、狩りに出た村人が、森の中で鳥の死骸を見つけた。
 森で何か異変が起こっているのだろうかと、村人達は少しの恐れと不安を抱いたが、それ以外には何事もなかったため、杞憂だろうという話となり、表面上は変わらぬ毎日を過ごしていた。

 村の若者が、長老役の男の家に駆け込んで来たのは、その後しばらくしてから。
「グレス達が、朝、狩りに出たきり……帰らないんだ。誰か彼らを見たか?」
 森での狩りと言っても、当日中に戻れぬ程の遠出をするものではないし、若者が慌てたのは、死んだ動物達の一件を思い出したというのもあるだろう。
 出迎えた長も、その心配に心当たり、息を呑んだ。
 ――何か、いるのだろうか。
 2人は翌朝になっても戻らず、その予感は確信へと近付いた。
 先陣を切って移住した者達だ。そもそも、ここには心身とも身軽な若者が多い。村の男総出で捜索に出ることも思案されたが、動物達の死骸を見た村人達からは、消極的な意見が上がっていた。
「思えば、あの死体はおかしかっただろう」
「食中りか病気と思ったけれどねぇ」
「何かいるんじゃないの……?」
 彼らに、その真実を知る術は無い。
「ここは、頼るべきだろうよ……」
 何をとは、言わずとも知れていた。

 母猫翔剣士・ニナ(a12953)と護りの魔箭・クウガ(a90135)が村を巡回に訪れたのは、丁度その頃だ。
 2人は動物達の死骸も見て来たが、放置されたままだったために荒らされており、死んだ原因などは見た目では分からなかった。
 ただ、村人達の話では、傷などは目立っていなかったということだ。
「森の異変は、動物達の食中りや病気という話じゃないわ。原因はモンスターよ。村の人達が捜索に出なかったことは、結果的に良い判断となったようね」
「でも……」
 クウガの視線を手で制して、アリスは静かに続けた。
「動物達の最終的な死因は餓死よ」
「餓死……って言った?」
 ニナの反復する問いに、アリスは頷く。
「モンスターは1体、短剣符持ちね。……もう、これで最後かもしれないわ」
 アリスは連ねられた鞘の1つに触れながら言う。
 依頼は、行方知れずとなっている若者達――グレスとウォレス兄弟の捜索と、このモンスターの討伐。
「ただ……」
 霊視をしながら、アリスは少し眉を寄せる。
「このモンスターは魅了のような力を使うわ。グレスさんとウォレスさんは、それに捕まっているの。だからこそ、命は無事だったとも言えるのだけれど……」
 モンスターは、遭遇した他者には、まず魅了を使うようだ。そのため、動物も何頭か付き従っており、『敵』が現れればモンスターを護ろうとするか、共に襲いかかるだろう。
 だが、熊がいようと虎がいようと、動物に護衛士達が対応するのは、さして難しいことではない。
 問題は、村の若者2人の動向だ。
 万一、途中で魅了が解ければ、2人はモンスターに『敵』と同等とみなされる。その場合、たとえ護衛士が遭遇した後でも、モンスターに、より近接しているのは彼らの方ということになる。
 そして、魅了が解けずにいれば、2人はモンスターを護ろうとするか、護衛士達へ攻撃してくることになるだろう。彼らの狩りの武器は、共に弓矢である。
「皆さんなら、グレスとウォレスに攻撃されたとしても、十分に回避出来るはずよ。だから、『どうやって攻撃させないか』ではなくて、『どうやって安全を確保するか』で考えてね?」
 魅了以外に、モンスターは、視界内の敵に攻撃出来る術師的な力があることを告げる。
「保護した後も、戦闘域から離脱させるまでは、十分な注意が必要よ。万一、モンスターを逃すことになったとしても……彼らの安全を最優先にしてね」
 アリスは「よろしくお願いね」と頭を下げた。


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参加者
アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)
月吼・ディーン(a03486)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
北落師門・ラト(a14693)
気ままに・エーテル(a18106)
月にうさぎ月夜に黒猫・タンゴ(a36142)
ニードルスピアフルバースト・ユーリ(a42503)
闇色の・モニカ(a46747)
NPC:護りの魔箭・クウガ(a90135)



<リプレイ>

「スティードの頭数、足りないか?」
 玻璃剱・モニカ(a46747)はグランスティードの頭数を数え、3人乗りするなら誰が良いかと、同乗者を見繕い始める。
「じ、じゃあ、おらが走って……っ」
 握り拳で言う護りの魔箭・クウガ(a90135)の肩を、業の刻印・ヴァイス(a06493)は笑いを堪えながらポンと叩いた。
「ん……多分、オレかタンゴの方が向いてると思うが。ここはアレだ。子供2人と大人1人の3人乗りでギリだろう」
 そう言って指差すのは、気ままに・エーテル(a18106)の方。
「お! そうだな」
 同意するモニカとは身長差こそあれ、見かけだけは軽そうな気がする。なにせエンジェルだ。
「はぁ……。言わない、言わないよー。『僕は子供じゃない』なんて、弄られそうなネタ」
 エーテルはちょっと口を窄めながら言う。自分が、月にうさぎ月夜に黒猫・タンゴ(a36142)とニードルスピアフルバースト・ユーリ(a42503)を引き受ければ良い訳だ。
「……」
 無言で、北落師門・ラト(a14693)はエーテルの肩をぽむ。「こっち来いよ」と呼ぶモニカのグランスティードに相乗りした。
 そして、共にヒトで三十路の月吼・ディーン(a03486)とアイギスの赤壁・バルモルト(a00290)は、口元を緩めながら、ヴァイスとクウガを、それぞれ自らのグランスティードに引き上げる。
 早駆けで向かう先は、湯治場にある村――。

 火急を報せた村人達は、護衛士達の到着を、今か今かと待ちわびていた様子だった。護衛士達は早めに着いたはずだったが、すぐに村長が出迎えてくれる。
 バルモルトやエーテルが尋ねるまでもなく、村長は、「こちらです」と村人達の使う森の入口へ、護衛士達を案内した。
 森の中には、彼ら狩りでが日常的に使う小径が通っている。その先にあった猿の死骸までは、クウガも確認しているから大丈夫だろう。
 そして、入口までの道すがら、グレスとウォレス兄弟の風貌も教えられた。歳は20と24のエルフの青年、栗色の髪に青い瞳のグレスが弟で、灰の瞳が兄のウォレスということだ。
「じゃ、僕らが帰って来るまで、みんな家から出ないでよ?」
 皆の靴の滑り止めや、防具が目立たないようマントを勧めたりしていたエーテルは、最後にそう村人達へ言い置く。
 村長はただ、礼を返して護衛士達を送り出した。
「……兄弟の体力がどこまでもつか、心配だな」
 村を後にした時のヴァイスの呟きに、すぐ後ろを歩いていたタンゴは頷く。
「2人も助けて解決したいにゃ」
「アリスも難しいことを言ってくれるが……こなしてこそ冒険者、そして護衛士ってとこか」
 用意した飲料とチョコレートを懐に確認したヴァイスの隣りで、ディーンはそう返す。
「仕損じなければ、間に合うはずです」
「そのつもりは毛頭ないが。……万一の時には、兄弟を優先しよう」
 ユーリの冷静な声に、後ろに続くラトが言い挿し、「構わないな?」と仲間達を見回した。
「異議なしだ」
 モニカは言うと、ニッと笑う。寡黙なラトがあえて確認するのが、妙に嬉しくて。
 そんな遣り取りをしながら進む間、モンスターの痕跡を探していたのは、先頭のバルモルトとエーテル。
「……」
 饐えた臭いに、バルモルトは眉を寄せ、潅木の陰に件の猿の死骸を見つけた。
 死骸を荒らしたのは他の動物だろう。その辺りの風景には、多少、潅木の枝が折れたりということはあっても、異常と言えるものは見出せない。
「森が荒らされた感じはないね。この擦ったみたいな跡は何だろう?」
「……モンスターかもしれない。重たい尾とか、太い蛇とか、そういうもんを引き摺った感じがする」
 覗き込み、ヴァイスはそう判断する。先を見やり、エーテルは念のために、自身のグランスティードを待機させた。
「奥へ行くか」
 バルモルトの問いに、否の声は無く。仲間達の会話も途切れた。
 森の斜面はなだらかで、木々もそれほど混んでいない。周りと往く先を観察すれば、モンスターが気付くよりも先に、護衛士達がその存在を視認出来るだろう。
 ――遠くで、葉擦れの音がする。
 口元に人差し指を当て、エーテルは身を低くする。その仕草が通じぬほど、経験の浅い者は仲間内には居ないが、油断はある。
 敵に察知されなかったのは、木立の遮蔽の助けと、エーテル、そして、呼応して身を潜めさせたラトの御陰でもあった。
 少なくとも敵には、魅了した動物達と、グレスとウォレス兄弟の知覚が加わっている。敵の視覚外や背後を突こうというのなら、この油断は致命的ともなりかねなかったが、今の彼らに必要なのは、敵との十分な距離を測ること。
「(動物か?)」
 バルモルトの潜めた声に、遠眼鏡を覗き込んだエーテルが「うん」と肯定を返す。
「(熊かな……? それだけじゃないけど)」
 他はまだ断定出来ないと言う仕草に、下生えと潅木を掻き分けるような音と、鳥の羽ばたきが重なった。
「(人影は?)」
 ラトに問われ、緑の合間から時おり覗くものの中に、エーテルは人影を探す。そして……。
「(いた)」
 チラと見える栗色。そして傍には、何者か知れない灰色の頭髪が動いている。
 確定情報を得て、ラト、タンゴ、ユーリの3人は、木々の陰に身を寄せた。
 その動きのせいだろうか。護衛士達の左前方から左へ、やや斜めに遠ざかるような方向に移動していた一団が、止まった。
 灰色の髪が揺れ、耳を澄ますような仕草をすると、ゆっくりと振り返る。
 手には鉄杖。握る手は長爪の獣のものだが、護衛士達にはまだ見えぬ下半身は、とぐろを巻く大蛇。
 バルモルトが鎧を強化してやったエーテルは、グランスティードが現れるよりも先に、影へと潜んだ。
 ザワリ、ザワリと枝と葉擦れの音が近付いて来るとともに、敵の全容も明らかになってくる。
「随分と余裕の御成りだな?」
 揶揄するディーンは、敵――いや、エルフの兄弟の真正面を陣取るように1歩前へ。
 それが、密やかな戦端の火蓋。音も無く、戦闘態勢をとる召喚獣達が、それを報せていた。
 ザッと駆ける音がし、下草を蹴散らして魅了された獣達が向かって来る。数拍の間に、護衛士達は一気に動いた。
「止めるのは、ちょっと自信無いだよぅ?」
 バルモルトの鎧聖降臨を受けながら魔矢をつがえたクウガは、そう言い添えて、最奥のモンスターへ影縫いの矢を放つ。
「『数撃ちゃ当たる』といいますでしょう」
 決して、気概のある無しが成否の境ではないが。とにかく撃てと檄するユーリ自身は、黒炎を纏って備えている。
 交錯する兄弟の矢はディーンを狙うが、構えた盾で、彼は難なく回避する。ルナエクリプスは儀礼用だが、それで事足りた。
 兄弟は、モンスターの前面に並ぶようにしている。
「魅了……弓ほど射程は長くないぜっ」
「そのようだ」
 その瞬間はまだ、モンスターの初手は来ていない。モニカの見切りに、ラトも同意する。
「鳥が2羽、熊1、猪4、狼2っ まだいるかもなっ!」
 時折、木立や潅木に紛れながら迫る動物の数を、ヴァイスがカウントしながら蜘蛛糸を放った。絡め取られたのは、鳥1羽と猪3頭を除いて、糸の届く距離の全て。
「残りは任せるにゃよっ!」
「鳥、追加だ! タンゴっ!」
 さらに2羽の鳥がいることに気づき、ヴァイスが指し示す。
「オッケーにゃよ! 2人はよろしく……にゃっ!」
 ディーンにかける言葉の勢いで、影閃を振り抜くように繰るタンゴ。その視線の先へ蜘蛛糸が走り、鳥と猪達を余さず捕える。
 全て上手く行けば、このまま動物達は傷付けずに済むはずだ。
 モンスターの接近とともに、ジリ……と後退する護衛士達の中にあって、ディーンだけは場所を譲らず、大音声で叫んだ。
『あれで終いかっ!』
 応えるように眇められるのは、射手の灰の瞳。手応えを感じて、ディーンは、ウォレスを誘き寄せるように右後方へ退こうとした。
「任せてっ!」
 即座に潜伏を解いて駆け込んだエーテルと、モンスターの初手は同時。彼らの周囲を、炎が埋めた。
「「……っ!」」
 回復のため控えていたモニカやユーリ達は、一瞬ドキリとする。
「幻か……?!」
 一瞬限りの、炎の幻影。ただの幻でないことぐらいは、ラトも先刻承知だ。注視する彼の視界の中で、幻の熱に浮かされたように、エーテルがグレートアクスの握りへ手を掛けた。
 ラトの凱歌はその先手を取って。一連のエーテルの動作を確認してからでは、間に合わなかったに違いない。現に、ユーリは機を逸し、後追いで歌うことになってしまった。
「……っ あっ!」
 間一髪、我に返ったエーテルは、ディーンへ撃つところだったデストロイブレードの標的を、モンスターへと変える。だが、標的を変更するので精一杯だったか、斧は空を切っていた。
「ごめんねぇ」
 抵抗するウォレスを無理やり抱え上げ、回頭した白碧のグランスティードの背上から、エーテルが言う。
「いや。……退避を頼む」
 ディーンは苦笑する。次は、自分がやるかもしれないとまでは言わなかったが。
「こちらへ」
 言って、ユーリが道を開ける。彼らを掠めるように、影縫いの矢が飛ぶ。
「やっぱ無理だぁ〜っ」
 情け無い声が後衛から上がり、モンスターは大蛇の下半身を引き摺り、ズルズルと前へ出て来る。
 拘束を待っていたバルモルトだったが、俄かに、強引にグレスとモンスターを引き離す算段をし始めた。それを、止めさせたのはヴァイスの声。
「無理ムリ言うなっ」
 弓装備でない分、ヴァイスは敵の近接距離まで踏み込むことになる。グレスがモンスターを庇うように出て来たが、それをいなして、指に掛けたままのチャクラムを一閃した。
 紫の霧を棚引かせ、魔矢はモンスターの鎖骨に突き立つ。
 ぐっ……と声にならぬくぐもった音を立て、モンスターの動きが止まる刹那に、バルモルトは弓引くグレスを抱え上げた。即座に、左後方へと退く朱金のグランスディード。

「引き受けるぜっ!」
「頼む」
 ユーリが引き継いで来たウォレスと、モニカが腕を取ったグレスは、護衛士達に抗うように身を捩る。さらに後方へと2人がかりで兄弟を引き摺っていきがてら、モニカは困ったように舌打ちした。
「悪いが、ちょい大人しゅうね」
 かけられた眠りの歌は、兄弟の意識を現から引き離す。
 眠りに落ちた2人の、木の枝ででもつけたらしい無数の傷、渇ききった唇と目の下のクマが、隠された疲労をモニカ達に伝えている。
「運び手は後回しだな」
 膝をついて兄弟の様子を確認するモニカに、立ったまま戦闘域を向いていたユーリは、「回復は私が」と凱歌を使った。
 それでも、傷が癒え、血色が良くなったように見えた他に変化は無い。
「やっぱり……」
 と呟いたモニカは、目を伏せ、清らな祈りを捧げ始めた。

 拘束を破ろうともがくモンスターへ、裂帛の気合とともに閃くクイーンデッドを皮切りに、護衛士達が攻勢に移る。
「いっくにゃよ〜っ!!」
 人質の枷が外れ、タンゴは一気に前衛へと駆け上がった。
 ラトの足元から伸びる、禍々しい影がモンスターを叩き伏せた間隙に、タンゴの気の刃が飛ぶ。
 バルモルトとエーテルが前衛へ戻った時、薙いだ鉄杖から、流れた血をともなって放たれた応手は、黒炎を纏って降り注ぐ無数の刃。
「うわぁっ タイミング悪っ」
 ヴァイスやディーンも無傷とは行かないが。バルモルト達も巻き込まれた。
「い……っ これくらい平気にゃっ!」
 痛い、と言うのを自らに禁じて、タンゴは前を向く。彼女達の傷を、ただ1人回避していたラトの凱歌が拭い去って行った。
 魅了の解けた狼が、拘束までは解けずにいたのは幸いだったか。悲鳴のような鳴き声だけが響いた。
「もういっぺん止まれよっ!」
 呪詛のように叫んで、ヴァイスが撃った魔矢は、モンスターの影を捕える。
 モンスターの流した血の量が、もう終わりの近いことを告げている。
「短剣符は返してもらうにゃっ」
 陽の光に煌めいたのは、鋼の糸。
 断末魔は、森の空気を切り裂いて消えた。

「とにかく落ち着いて下さい」
 ユーリがそう宥めるのは、グレスとウォレスの兄弟。
 退いたとはいえ、間近で繰り広げられていた戦闘は、覚醒したばかりの2人には驚き以外の何物でもなく。事態を認識するには、多少の時間が要った。
 そうして――。
「……だから、大人しく待ってな?」
 説明を終えたモニカの声に、「もう終わった」とラトの報告が重なった。
「もう聞いたろうが……我等はグヴェンドリンの護衛士だ」
「ま、これでも食って。帰ろうか?」
 ヴァイスは飲料とチョコレートを差し出しつつ、そう笑って言った。
「ねえ? 動物達はどうしよう?」
 のんびりと、エーテルが問う。皆が振り返ると、拘束が切れて起き出したところだった。
「……飢えてるみたいだな」
 猪と鳥は逃げたようだが、熊と狼が残っていた。
「手土産にしよっか?」
 言ったエーテルの頬を、タンゴがむにゅと掴む。
「折角、巻き込まないようにしたのに、狩ってどうするにゃ」
「ふ、ふぁい……」
 やり取りに苦笑しつつ、ラトは歩み出ると、飛び掛って来そうな動物達に凱歌を歌ってやり、バルモルトとディーンは得物を薙いで蹴散らしてやった。
「狩りは、出直すのがいいだよ」
 クウガが言うと、兄弟は揃って頷いたのだった。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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