<リプレイ>
「スティードの頭数、足りないか?」 玻璃剱・モニカ(a46747)はグランスティードの頭数を数え、3人乗りするなら誰が良いかと、同乗者を見繕い始める。 「じ、じゃあ、おらが走って……っ」 握り拳で言う護りの魔箭・クウガ(a90135)の肩を、業の刻印・ヴァイス(a06493)は笑いを堪えながらポンと叩いた。 「ん……多分、オレかタンゴの方が向いてると思うが。ここはアレだ。子供2人と大人1人の3人乗りでギリだろう」 そう言って指差すのは、気ままに・エーテル(a18106)の方。 「お! そうだな」 同意するモニカとは身長差こそあれ、見かけだけは軽そうな気がする。なにせエンジェルだ。 「はぁ……。言わない、言わないよー。『僕は子供じゃない』なんて、弄られそうなネタ」 エーテルはちょっと口を窄めながら言う。自分が、月にうさぎ月夜に黒猫・タンゴ(a36142)とニードルスピアフルバースト・ユーリ(a42503)を引き受ければ良い訳だ。 「……」 無言で、北落師門・ラト(a14693)はエーテルの肩をぽむ。「こっち来いよ」と呼ぶモニカのグランスティードに相乗りした。 そして、共にヒトで三十路の月吼・ディーン(a03486)とアイギスの赤壁・バルモルト(a00290)は、口元を緩めながら、ヴァイスとクウガを、それぞれ自らのグランスティードに引き上げる。 早駆けで向かう先は、湯治場にある村――。
火急を報せた村人達は、護衛士達の到着を、今か今かと待ちわびていた様子だった。護衛士達は早めに着いたはずだったが、すぐに村長が出迎えてくれる。 バルモルトやエーテルが尋ねるまでもなく、村長は、「こちらです」と村人達の使う森の入口へ、護衛士達を案内した。 森の中には、彼ら狩りでが日常的に使う小径が通っている。その先にあった猿の死骸までは、クウガも確認しているから大丈夫だろう。 そして、入口までの道すがら、グレスとウォレス兄弟の風貌も教えられた。歳は20と24のエルフの青年、栗色の髪に青い瞳のグレスが弟で、灰の瞳が兄のウォレスということだ。 「じゃ、僕らが帰って来るまで、みんな家から出ないでよ?」 皆の靴の滑り止めや、防具が目立たないようマントを勧めたりしていたエーテルは、最後にそう村人達へ言い置く。 村長はただ、礼を返して護衛士達を送り出した。 「……兄弟の体力がどこまでもつか、心配だな」 村を後にした時のヴァイスの呟きに、すぐ後ろを歩いていたタンゴは頷く。 「2人も助けて解決したいにゃ」 「アリスも難しいことを言ってくれるが……こなしてこそ冒険者、そして護衛士ってとこか」 用意した飲料とチョコレートを懐に確認したヴァイスの隣りで、ディーンはそう返す。 「仕損じなければ、間に合うはずです」 「そのつもりは毛頭ないが。……万一の時には、兄弟を優先しよう」 ユーリの冷静な声に、後ろに続くラトが言い挿し、「構わないな?」と仲間達を見回した。 「異議なしだ」 モニカは言うと、ニッと笑う。寡黙なラトがあえて確認するのが、妙に嬉しくて。 そんな遣り取りをしながら進む間、モンスターの痕跡を探していたのは、先頭のバルモルトとエーテル。 「……」 饐えた臭いに、バルモルトは眉を寄せ、潅木の陰に件の猿の死骸を見つけた。 死骸を荒らしたのは他の動物だろう。その辺りの風景には、多少、潅木の枝が折れたりということはあっても、異常と言えるものは見出せない。 「森が荒らされた感じはないね。この擦ったみたいな跡は何だろう?」 「……モンスターかもしれない。重たい尾とか、太い蛇とか、そういうもんを引き摺った感じがする」 覗き込み、ヴァイスはそう判断する。先を見やり、エーテルは念のために、自身のグランスティードを待機させた。 「奥へ行くか」 バルモルトの問いに、否の声は無く。仲間達の会話も途切れた。 森の斜面はなだらかで、木々もそれほど混んでいない。周りと往く先を観察すれば、モンスターが気付くよりも先に、護衛士達がその存在を視認出来るだろう。 ――遠くで、葉擦れの音がする。 口元に人差し指を当て、エーテルは身を低くする。その仕草が通じぬほど、経験の浅い者は仲間内には居ないが、油断はある。 敵に察知されなかったのは、木立の遮蔽の助けと、エーテル、そして、呼応して身を潜めさせたラトの御陰でもあった。 少なくとも敵には、魅了した動物達と、グレスとウォレス兄弟の知覚が加わっている。敵の視覚外や背後を突こうというのなら、この油断は致命的ともなりかねなかったが、今の彼らに必要なのは、敵との十分な距離を測ること。 「(動物か?)」 バルモルトの潜めた声に、遠眼鏡を覗き込んだエーテルが「うん」と肯定を返す。 「(熊かな……? それだけじゃないけど)」 他はまだ断定出来ないと言う仕草に、下生えと潅木を掻き分けるような音と、鳥の羽ばたきが重なった。 「(人影は?)」 ラトに問われ、緑の合間から時おり覗くものの中に、エーテルは人影を探す。そして……。 「(いた)」 チラと見える栗色。そして傍には、何者か知れない灰色の頭髪が動いている。 確定情報を得て、ラト、タンゴ、ユーリの3人は、木々の陰に身を寄せた。 その動きのせいだろうか。護衛士達の左前方から左へ、やや斜めに遠ざかるような方向に移動していた一団が、止まった。 灰色の髪が揺れ、耳を澄ますような仕草をすると、ゆっくりと振り返る。 手には鉄杖。握る手は長爪の獣のものだが、護衛士達にはまだ見えぬ下半身は、とぐろを巻く大蛇。 バルモルトが鎧を強化してやったエーテルは、グランスティードが現れるよりも先に、影へと潜んだ。 ザワリ、ザワリと枝と葉擦れの音が近付いて来るとともに、敵の全容も明らかになってくる。 「随分と余裕の御成りだな?」 揶揄するディーンは、敵――いや、エルフの兄弟の真正面を陣取るように1歩前へ。 それが、密やかな戦端の火蓋。音も無く、戦闘態勢をとる召喚獣達が、それを報せていた。 ザッと駆ける音がし、下草を蹴散らして魅了された獣達が向かって来る。数拍の間に、護衛士達は一気に動いた。 「止めるのは、ちょっと自信無いだよぅ?」 バルモルトの鎧聖降臨を受けながら魔矢をつがえたクウガは、そう言い添えて、最奥のモンスターへ影縫いの矢を放つ。 「『数撃ちゃ当たる』といいますでしょう」 決して、気概のある無しが成否の境ではないが。とにかく撃てと檄するユーリ自身は、黒炎を纏って備えている。 交錯する兄弟の矢はディーンを狙うが、構えた盾で、彼は難なく回避する。ルナエクリプスは儀礼用だが、それで事足りた。 兄弟は、モンスターの前面に並ぶようにしている。 「魅了……弓ほど射程は長くないぜっ」 「そのようだ」 その瞬間はまだ、モンスターの初手は来ていない。モニカの見切りに、ラトも同意する。 「鳥が2羽、熊1、猪4、狼2っ まだいるかもなっ!」 時折、木立や潅木に紛れながら迫る動物の数を、ヴァイスがカウントしながら蜘蛛糸を放った。絡め取られたのは、鳥1羽と猪3頭を除いて、糸の届く距離の全て。 「残りは任せるにゃよっ!」 「鳥、追加だ! タンゴっ!」 さらに2羽の鳥がいることに気づき、ヴァイスが指し示す。 「オッケーにゃよ! 2人はよろしく……にゃっ!」 ディーンにかける言葉の勢いで、影閃を振り抜くように繰るタンゴ。その視線の先へ蜘蛛糸が走り、鳥と猪達を余さず捕える。 全て上手く行けば、このまま動物達は傷付けずに済むはずだ。 モンスターの接近とともに、ジリ……と後退する護衛士達の中にあって、ディーンだけは場所を譲らず、大音声で叫んだ。 『あれで終いかっ!』 応えるように眇められるのは、射手の灰の瞳。手応えを感じて、ディーンは、ウォレスを誘き寄せるように右後方へ退こうとした。 「任せてっ!」 即座に潜伏を解いて駆け込んだエーテルと、モンスターの初手は同時。彼らの周囲を、炎が埋めた。 「「……っ!」」 回復のため控えていたモニカやユーリ達は、一瞬ドキリとする。 「幻か……?!」 一瞬限りの、炎の幻影。ただの幻でないことぐらいは、ラトも先刻承知だ。注視する彼の視界の中で、幻の熱に浮かされたように、エーテルがグレートアクスの握りへ手を掛けた。 ラトの凱歌はその先手を取って。一連のエーテルの動作を確認してからでは、間に合わなかったに違いない。現に、ユーリは機を逸し、後追いで歌うことになってしまった。 「……っ あっ!」 間一髪、我に返ったエーテルは、ディーンへ撃つところだったデストロイブレードの標的を、モンスターへと変える。だが、標的を変更するので精一杯だったか、斧は空を切っていた。 「ごめんねぇ」 抵抗するウォレスを無理やり抱え上げ、回頭した白碧のグランスティードの背上から、エーテルが言う。 「いや。……退避を頼む」 ディーンは苦笑する。次は、自分がやるかもしれないとまでは言わなかったが。 「こちらへ」 言って、ユーリが道を開ける。彼らを掠めるように、影縫いの矢が飛ぶ。 「やっぱ無理だぁ〜っ」 情け無い声が後衛から上がり、モンスターは大蛇の下半身を引き摺り、ズルズルと前へ出て来る。 拘束を待っていたバルモルトだったが、俄かに、強引にグレスとモンスターを引き離す算段をし始めた。それを、止めさせたのはヴァイスの声。 「無理ムリ言うなっ」 弓装備でない分、ヴァイスは敵の近接距離まで踏み込むことになる。グレスがモンスターを庇うように出て来たが、それをいなして、指に掛けたままのチャクラムを一閃した。 紫の霧を棚引かせ、魔矢はモンスターの鎖骨に突き立つ。 ぐっ……と声にならぬくぐもった音を立て、モンスターの動きが止まる刹那に、バルモルトは弓引くグレスを抱え上げた。即座に、左後方へと退く朱金のグランスディード。
「引き受けるぜっ!」 「頼む」 ユーリが引き継いで来たウォレスと、モニカが腕を取ったグレスは、護衛士達に抗うように身を捩る。さらに後方へと2人がかりで兄弟を引き摺っていきがてら、モニカは困ったように舌打ちした。 「悪いが、ちょい大人しゅうね」 かけられた眠りの歌は、兄弟の意識を現から引き離す。 眠りに落ちた2人の、木の枝ででもつけたらしい無数の傷、渇ききった唇と目の下のクマが、隠された疲労をモニカ達に伝えている。 「運び手は後回しだな」 膝をついて兄弟の様子を確認するモニカに、立ったまま戦闘域を向いていたユーリは、「回復は私が」と凱歌を使った。 それでも、傷が癒え、血色が良くなったように見えた他に変化は無い。 「やっぱり……」 と呟いたモニカは、目を伏せ、清らな祈りを捧げ始めた。
拘束を破ろうともがくモンスターへ、裂帛の気合とともに閃くクイーンデッドを皮切りに、護衛士達が攻勢に移る。 「いっくにゃよ〜っ!!」 人質の枷が外れ、タンゴは一気に前衛へと駆け上がった。 ラトの足元から伸びる、禍々しい影がモンスターを叩き伏せた間隙に、タンゴの気の刃が飛ぶ。 バルモルトとエーテルが前衛へ戻った時、薙いだ鉄杖から、流れた血をともなって放たれた応手は、黒炎を纏って降り注ぐ無数の刃。 「うわぁっ タイミング悪っ」 ヴァイスやディーンも無傷とは行かないが。バルモルト達も巻き込まれた。 「い……っ これくらい平気にゃっ!」 痛い、と言うのを自らに禁じて、タンゴは前を向く。彼女達の傷を、ただ1人回避していたラトの凱歌が拭い去って行った。 魅了の解けた狼が、拘束までは解けずにいたのは幸いだったか。悲鳴のような鳴き声だけが響いた。 「もういっぺん止まれよっ!」 呪詛のように叫んで、ヴァイスが撃った魔矢は、モンスターの影を捕える。 モンスターの流した血の量が、もう終わりの近いことを告げている。 「短剣符は返してもらうにゃっ」 陽の光に煌めいたのは、鋼の糸。 断末魔は、森の空気を切り裂いて消えた。
「とにかく落ち着いて下さい」 ユーリがそう宥めるのは、グレスとウォレスの兄弟。 退いたとはいえ、間近で繰り広げられていた戦闘は、覚醒したばかりの2人には驚き以外の何物でもなく。事態を認識するには、多少の時間が要った。 そうして――。 「……だから、大人しく待ってな?」 説明を終えたモニカの声に、「もう終わった」とラトの報告が重なった。 「もう聞いたろうが……我等はグヴェンドリンの護衛士だ」 「ま、これでも食って。帰ろうか?」 ヴァイスは飲料とチョコレートを差し出しつつ、そう笑って言った。 「ねえ? 動物達はどうしよう?」 のんびりと、エーテルが問う。皆が振り返ると、拘束が切れて起き出したところだった。 「……飢えてるみたいだな」 猪と鳥は逃げたようだが、熊と狼が残っていた。 「手土産にしよっか?」 言ったエーテルの頬を、タンゴがむにゅと掴む。 「折角、巻き込まないようにしたのに、狩ってどうするにゃ」 「ふ、ふぁい……」 やり取りに苦笑しつつ、ラトは歩み出ると、飛び掛って来そうな動物達に凱歌を歌ってやり、バルモルトとディーンは得物を薙いで蹴散らしてやった。 「狩りは、出直すのがいいだよ」 クウガが言うと、兄弟は揃って頷いたのだった。

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参加者:8人
作成日:2009/08/21
得票数:冒険活劇9
戦闘2
えっち4
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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