【食卓に潤いを】黄色スイカの巻



   


<オープニング>


「今年もスイカの美味しい時期になったなぁ〜ん」
「真っ赤な果実に、大きな口を開けてしゃぶりつくのはたまらんなぁ〜ん♪」
 ワイルドファイアでは比較的珍しい、通常サイズのスイカを口にしているヒトノソリンの男性が2人。口の周りが真っ赤になるのも気にせず、豪快にスイカを平らげている。
「そういえば、そろそろアレがいい感じに熟した頃じゃないかなぁ〜ん?」
「ん……? ああっ、アレなぁ〜ん! でも丁度、今は皆出払ってるからなぁ〜ん。2人で狩るには、ちょっと辛いなぁ〜ん」
 実は集落の他の若い衆は狩りに出かけており、この2人は留守番役なのであった。狩るということは、何かしらの怪獣を相手にするのだろうか。
「でも、思い出したら食べたくなっちゃったなぁ〜ん」
「そう言われるとそうだなぁ〜ん」
「ペコペコなぁ〜ん」
「グーグーなぁ〜ん」
「そうだっ、冒険者の皆に手伝ってもらえばいいのなぁ〜ん!」
「それは名案なぁ〜ん!」

「というわけで、皆にはヒトノソリンの人達の代わりに、巨大スイカ怪獣の実を採ってきて欲しいんだ」
「スイカですか。……そういえば、今年はまだ食べてませんねー」
「……食べるのは、ちゃんとヒトノソリンの人達の分を確保してからだからね?」
「わ、わかってますよ!」
 焦りながらも弁解はしない今日も一日・ランティ(a90391)の姿に、前よりも食い気が増大してるなーこの子、と小さく呟きながらも説明を続けるワイルドファイアの霊査士・キャロット(a90211)。
「巨大スイカ怪獣はこの先の道をずーっと真っ直ぐに行ったところに群生してるから、迷うことはないはずだよ。実を採ろうとする人達には、蔓で攻撃してくるんだけど――そんなに強い相手でもないし、皆ならそんなに苦戦しないはずだよ」
「あれ? でもそれならどうしてこんなに人がいっぱい……?」
 今回依頼に集まった人間は、ランティを含め11名。通常の依頼などから考えても、少々数が多いといえる人数だ。
「ああ、怪獣自体は弱いんだけど、実の回収に人手が要るかなって思ってね。相当大きいらしいよ。ちなみに果肉は黄色」
「黄色スイカですか、結構珍しいですよね」
「――まあそういうわけで、がんばってきてね。皆!」
 どんなものだろうかと妄想の世界へと入り始めたランティの背中を押し、冒険者達を送り出すキャロットであった。


マスターからのコメントを見る

参加者
蒼の閃剣・シュウ(a00014)
奇爵・レーニッシュ(a35906)
異風の叫奏者・ガマレイ(a46694)
黒き咆哮・ルージ(a46739)
星槎の航路・ウサギ(a47579)
高空の戦娘・エミルリィル(a52732)
断章・グリフォス(a60537)
星を集めた音色・チユ(a72290)
偽黒・エス(a73695)
獣哭の弦音・シバ(a74900)
NPC:今日も一日・ランティ(a90391)



<リプレイ>

●台車を引いて
「あう、黄色いスイカ楽しみなのです〜♪」
 台車を引っ張り砂利の転がる道を歩く星槎の航路・ウサギ(a47579)が、日差しにも負けぬほどの晴れやかな笑みを浮かべる。台車の上にはウレタンなどが乗せられており、車輪が砂利をかむ度に小さく跳ね上がっている。
「……なんだか平和な印象だな。ワイルドファイアらしいというか」
 どこか呆れたように呟き頭を掻く真実に惑う・エス(a73695)。勿論手を抜くつもりはないだろうが……モンスター相手などに比べると、どこかのどかさすら感じる依頼内容に、やや脱力気味になってしまうのも仕方がないというものだろう。
「しゃー! 割んぞこらー!! デェェェェェストロォォォォイ!!!」
「うおっ!?」
 突如叫び声をあげ道端の大石を叩き壊す蒼の閃剣・シュウ(a00014)に、もふもふふかふか――ただしその分すごく暑そう――な鬣を弄っていた獣哭の弦音・シバ(a74900)が驚きの声をあげる。
「オゥゥゥライトッ!!! 相変わらずシュウさんはもじゃもじゃっとハイテンションね。……そうそう、自分、これが終わったら故郷で豆腐屋開こうと思うのよ」
「えっと、ガマレイさんも十分ハイテンションなような……」
「こ、これが噂に聞く死亡フラグ……我輩も負けていられぬであるな!」
「レーニッシュさんは、もう十分立ってるから大丈夫ですよ」
 ネックレスを片手で弄びつつ、遠くを見るように目を細める異風の叫奏者・ガマレイ(a46694)。見た目だけならば、まるで故郷に思いを馳せているかのようにも見える……のだが、声はとてもハキハキと元気がいいため非常にちぐはぐな印象を受ける。思わず突っ込んでしまった今日も一日・ランティ(a90391)の隣で、しぶとさに定評がある奇爵・レーニッシュ(a35906)が、目をキラキラと輝かせガマレイの言葉に感動してる。
「すいかっ、なぁ〜ん♪ すいかっ、なぁ〜ん♪」
「とうとう来ましたぁ〜大好物ぅ〜!」
 尻尾を揺らしてご機嫌な高空の戦娘・エミルリィル(a52732)が、道に落ちている大き目の石を拾い上げては端のほうへと放り捨てている。デザートなぁ〜ん、デザートなぁ〜ん! と鼻歌すら歌いだしそうな彼女の心は、既に依頼後へと飛んでしまっているのだろう。どうやら隣にいる星の導き・チユ(a72290)もそれは同じようで、黄色いのなんて初めてですぅ〜! と両のほっぺを嬉しそうに押さえている。
「ぼくも黄色いスイカは食べたことないなぁ〜ん、興味深いなぁ〜ん!」
「味のほうも違うんでしょうか……これから楽しみですね」
 お腹がすいたと主張するかのように、軽くお腹を撫でる黒き咆哮・ルージ(a46739)。そんな姿を見た断章・グリフォス(a60537)は、自分も同意であるとでもいうかのように、ルージのまねをするようにお腹を撫でる。
 灼熱の太陽の下、冒険者達の額からまるで滝のように汗が流れ落ちる。拭っても拭ってもきりがないほどの暑さにいい加減根を上げそうになり始めた頃、濃緑の色を湛えた一群へと辿りつくのだった。

●また……太いです
「っらぁ! デェェェストロォォイ!!」
「なんだか荒れてるわね……挑発兼ねてるのはわかるんだけど。嫌なことでもあったのかしら」
「むしろ今から嫌なことが起こるような気もするのであるが……今回我輩安全っぽくて若干他人事であるが!」
 先ほど石を叩き壊したような勢いで暴れるように動き回るシュウに、同じ班であるガマレイ達から同情込みの生暖かい視線が注がれる。
「それよりも……あれは……惨いです」
 手で口元を押さえ、悲痛な声をあげるグリフォス。直視することも最早耐え切れぬ、とばかりに視線を逸らし、目の端には涙の粒すら浮かんでいる。
「なんでシュウさん――ウサギのきぐるみ姿なぁ〜ん?」
 そう、蛮刀片手に暴れ回るシュウの全身は、ふわふわもふもふなウサギのきぐるみ――目の辺りには何故かサングラス付き――で覆われていたのだった! お陰でやたらとファンシーなウサギがぐれてるようにしか見えない。
「だってあの外見なら衝撃吸収できそうでしょ?」
「あれは最早罰ゲームレベルであるなあ」
「やば、無理、もう我慢できな――あはははは!」
 茶目っ気たっぷりに片目を瞑ってみせるガマレイ。確かに鎧の強度自体は上がっていて問題はないのだが、今度はグリフォスの腹筋が心配である。
「今のうちに蔓を叩くなぁ〜ん!」
「くっそ、やりなおしを要求するーーーーっ!」

「あう、ウサギ達も始めますですよー!」
「それじゃあ行ってくるなぁ〜ん!」
 シュウと同じくガマレイにきぐるみ姿――彼女の姿は白ノソリンである――に変えられたエミルリィルが、尻尾をびたんびたんと地面に叩きつけるようにしながら蔓を挑発し始める。
「……助かった」
「先に囮になってたら、確実にあの格好させられてただろうな。……まあ服装の変更を拒否すればいいだけではあるが」
 どこか感慨深く、そして安堵の混ざった息をつくエス。その視線の先では、尻尾を可愛らしく振りながら、蔓へと立ち向かっていく少女の背が。
(「もしあれがオレだったら……考えただけで頭が」)
 1人悶々と沈み込むエスの肩を、わざわざ自爆するなよと苦笑混じりに叩くシバ。そんなシバ自身は、何時でも矢を放てるようにと既に弓を手にしている。
「お腹すきました……」
 ランティは、ぼーっとお腹を押さえている。
「……それだけですぅ?」
 チユの言葉に、びくりっと体を震わせそっぽを向くランティ。心なしか同じ班の面々からも視線が飛んできているような錯覚すらある。
(「……うぅ、どうしてボクが何かしようとしたら皆チラチラ確認しようとするんだろう。き、期待? 期待されてるの!?」)
 事前に自分らしく頑張って、と伝えられていたランティであるが、いざ行動しようとすれば何か刺すような視線を感じ、どうにも動けないランティであった。
「え、えーっとー……お、お腹すいたなあー……」
「……あう、それだけなのですー?」
 色んな場所から失望のため息が聞こえる。ちぇっ、もっと面白いことやると思ってたのに、とでも言われているかのようなそれに、ガックリ崩れ落ちるランティであった。
 ――全てひっくるめて、ランティらしかった。

「で、予想通りがんじがらめなわけだけど……やっぱり齧るしか! ってこれ前回もやろうとしたようなあああぁっ! そんな強く縛らないでやめそこは――」
 2度ネタには2度ネタで返されるという法則と蔓に縛られたシュウの叫びが響く中、スイカの収穫はなかなか順調に進んでいた。
「自分が巻き込まれないって素敵であるな! あ、シュウ殿はがんばってー」
「このスイカ、すっごく大きいなぁ〜ん! ぼくの身長より高いなぁ〜ん♪」
 今回は比較的安全なため余裕たっぷりなレーニッシュが、嬉しそうにスキップをしながらおざなりかつ無責任な応援をシュウへと飛ばす。それへの返答とも言うべきどこか苦痛の中に艶かしさの混ざったシュウの悲鳴の響く中、蔓の汁がついた剣をしまいながら、スイカに頬擦りをするルージ。コンコン、と軽く叩いてみれば、心地よいリズムとなって返る音にルージの食欲はいやが上にも高まっていく。
「割らないように、ゆっくり運びましょう」
「ええ、そうしま――へぶうっ!?」
 スイカへ駆け寄ろうとしたガマレイが、蔓に足を引っ掛け顔から盛大に転ぶ! あまりの見事なこけっぷりに、またもグリフォスの腹筋がピンチである。
「…………ダァァァァイッ!!」
 無言で起き上がり、蔓へと八つ当たりの攻撃を始めるガマレイ。心なしかグリフォスの近辺にもぶっ放しているような気もするが、その辺はちゃんと制御していることだろう。
「熱っ、熱っ!?」
 制御していることだろう。

「蔓がいっぱいなのですよー! あう、ちょっと大変なのです」
 蜘蛛糸でウネウネと動き回る蔓を束ねていくウサギ。既に囮はエミルリィルからエスへと交代しており、お約束通りというようにもう片方の班で艶やかな悲鳴をあげている人と似たような感じになっていたので、出来るだけそっちは見ないようにしていた。
「蔓が、蔓が……! やめろ、オレは――」
「ウサギは、何も見てないですよ」
「無残な……」
 シバの頬を一筋の涙が伝う。エスさん、自らの体を差し出して自分達に依頼を遂行しろと態度で示した貴方のその背中、何時までも忘れはしない。今も目を閉じれば無数の思い出がまぶたの裏に蘇る。いや、そこまで長い付き合いでもなかったりするけど。ああ、あぁ……。

 自分が囮じゃなくてよかった。

「そんなことより、スイカなぁ〜ん! 早くもって帰って食べたいなぁ〜ん!」
「こっちの荷台はもういっぱいですぅ〜!」
「あと1個か2個が限界ですかね」
 そんなことでエスの雄姿やら諸々を片付け、スイカを運び出していくエミルリィル。しかし既に両方の班で幾つも運び出しており、そろそろ荷台に収まりつかない量になりつつある。
 それじゃあこれが最後の1個ですぅ〜、と修羅を用意していくチユ。先ほどまではぼーっとしていたランティも、開き直ったのか手伝いを始めていた。早く早くなぁ〜ん! とエミルリィルが急かす中、ゆっくりと修羅の上に最後の1個が降ろされ巨大スイカの収穫が終了を迎える。
 これで自分達もヒトノソリンの集落の人達も満足するだけの量はあるだろう。あとは帰って満足いくまで食べるだけだ!

 去りゆく仲間達の背に、男2人は涙する。
「え、あの、ちょっと、俺達このままアッー!」
「洒落にならなアッー!」
 合掌。

●齧り付け!
「フッ……帰る道中の坂道、皆からの期待という名の恐怖の目を向けられながらも、レーニッシュ・レーニッシュ無事生還であるよ! 我輩、ここまで来てスイカの食べ損ねとか勘弁なのであって……おっと、スイカを荷台から降ろさねぎゃあああ!」
 ぷちっと。それはもうぷちっと。アリが潰れるかのように自然にかつ呆気なくスイカの下敷きになるレーニッシュ。残念ながら彼の冒険と食事時は終了――。
「も、もっててよかった紳士魂! 最後の最後なのにいつものオチとか我輩泣いちゃう!」
 ――することもなく、しぶとく肉体を凌駕し復活するレーニッシュであった。余談だが、ちっという声が聞こえたとかどうとか。
「結局坂道でスイカは転がらなかったけど……結局レーニッシュさんは潰れたわね」
「スイカが大惨事にならなくてよかったですなぁ〜ん♪」
 鎧聖降臨使う暇も無かったから、むしろ今のほうが大惨事だったのかしら、と内心思うガマレイの隣には、既に小さく切り分けられたスイカの皮が積み上げられている。まあ大半はガマレイの食べた分ではなく――。
「おっかわーりなぁ〜ん♪」
「ぼくも、おかわり欲しいなぁ〜ん!」
 シャクリシャクリと水気を含んだ咀嚼音と共に揺れる、白と黒のノソ尻尾。ぴこぴこゆらゆらなぁ〜んなぁ〜ん、とそれが揺れるたびに、どんどんと分厚い皮が積み上げられていく。
「次はお塩が欲しいなぁ〜ん」
「2人とも、すごい食欲ですね……」
 スプーンを使いながらも、既に口の周りをまっ黄色に染めているルージ達を見て、驚き目を丸くしているグリフォス。そんな彼の手にも勿論食べやすいサイズに切られたスイカがあり。
「……意外でした、種が普通のサイズだったなんて」
 グリフォスの持っているスイカには種が全く入っていない。どうやらこの巨大スイカ、種が大きいのではなく小さな種が大量に入っているらしいのだが、皮のある位置から食べやすいサイズに切り分けた場合、種のある層まで届かないのであった。
「青空の下、皆で食べるスイカは美味いな……」
 先ほどまで執拗にもふもふしようとしていたチユの追従を振り切り、ようやく瑞々しい果実をほお張ることが出来たシバ。口の中に広がる甘みに暫し舌鼓を打っていると、いつの間にか鬣を触りたそうな集落の子供達に囲まれていることに気が付くのであった。またスイカはお預けかな、とシバは苦笑を浮かべるのであった。
「スイカの種飛ばしが出来ないのはちょっと残念ですけど……甘くて美味しいのです〜♪」
 大きな口を開けて黄色い果肉に齧り付くウサギ。どうやら好みの甘さだったようで、荷台の上から垂らした足をぶらぶらと振りながら、すぐさま二口目へと移るのだった。
「スイカにはお砂糖! ちゃ〜んとマイお砂糖も持参なのですぅ〜。ランティさんもいかがですかぁ〜♪」
「え、えーっと……ボクは何もかけない派なので」
 自身の持つスイカに砂糖を振りかけていくチユ。その姿を見た人達……それも塩を振りかけていた人は、ギョッと目を剥きながらチユのほうを見つめている。そんな人々の視線を気にもかけず、ランティをはじめ周りの人々へ砂糖を勧め始めるチユであった。
「まさか本当に忘れられるとは……」
「……思わなかった」
 和気藹々としたスイカの食事会の一角に、彼らは居た。澱んだ空気を全身に纏いながら。
「誰だ砂糖なんてかけてる邪道なやつは……塩使え」
 エスの誰かへの抗議……というかチユへの抗議の声も、覇気が感じられないほどに弱弱しい。
「ああ、そうだランティ。今度ウ○ギの蒲焼とかどうだろう、ウ○ギの蒲焼。精根使い果たしちゃったし――ついでに丁度誕生日迎えてたウサギのお祝い兼ねて」
「ボ、ボクはいいと思いますけど……」
「……あ、あう、なんだか凄い邪気と悪意が! なんだかウサギ、ピンチなのですよ!?」
 やつれ果て目の下にくまも出来ているシュウに見つめられ、ランティとウサギが蛇に睨まれた蛙のように動きを止める。流れ落ちる汗を拭うことも出来ず、まるで異界に放り込まれたかのような錯覚を覚えるほどである。先ほどまで食べていたスイカの甘みを忘れるほど恐ろしい視線であったと、後に2人は語る。
 こうして一連の食を巡る物語は、常夏のワイルドファイアで始まりそして終末を迎える。多くの人々との触れ合い、そこで出会った食の喜びを胸に、冒険者達は騒がしく帰路についていくのだった。


マスター:原人 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2009/08/17
得票数:ほのぼの2  コメディ16 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。