【佳辰令月】河光水面



   


<オープニング>


「これが軟玉か。ふうん、綺麗だね」
「でしょ」
 酒場のテーブルで開かれているのは、ちょっとした品評会と言った風情だろうか。双面の霊査士・アルフレッドの手の平の上、乳白色の玉を見つめるのは白髏の霊査士・ロウと白月の霊査士・ミニュイの瞳。エマイユが先の依頼で拾って来たという玉を囲んでいた。
 ……もう1人、テーブルには居るのだが、現在、意識がないようなのでここでは割愛しよう。
「これがロカリゼ河デ採れるのですカ?」
「今は直接山から切り出す方法が採られるけれどね。昔は河底に沈んだ玉を月光の反射を頼りに探したらしい。白い美しい玉は特に羊脂玉と呼ばれるね」
 石マニア・エマイユが聞かれて幸いと話し出す。
 水面を覗き込むと、白玉は月明りに応えるように白く、光っているのだという。
「綺麗だろうな〜。私でも拾えるかな?」
 わくわくと瞳を輝かせてミニュイがエマイユを見つめた。
「月夜に河遊びですカ、中々風流ですネ」
 楽しそうな言葉面とは裏腹に、ロウの目は微塵も笑っていないように見えるのは気のせいだろう。
「今度皆で出かけようか? リュートも持って……と、クロトは…?」
「そう言えばコンビ名を考えていましたネ。彼ナラ、依頼の真っ最中ですヨ」
「そうか、残念」
 アルフレッドは笑顔のまま、首を傾けた。
「……水を差すようで悪いけれど」
 エマイユは穏やかな寝息を立てる人物の隣に腰掛けると、苦笑した。
「間もなく新月だからね。恐らく、星明かりでは玉は探せないと思うよ」
「え〜」
 ミニュイの上げた声に、エマイユの隣ではびくりと一瞬身じろぎする。
「そのかわり、今の季節なら蛍が見事だろうね。これは近所の村の人から聞いた話だけど……」


 それは他愛のない、お話。子供達へ寝枕に語られるおとぎ話。

 ロカリゼ河の玉は月光から生まれ落ちる
 月の晩に河を覗けば、彼等は光って月に居場所を伝えているだろう
 だから月の無い晩には彼等を見つける事はできない

 夏は彼等の季節
 月明りの届かない曇り空や新月を狙って、河上へと飛び出すのだ
 河の上に飛び交う光は玉の化身
 けれども捕まえてはいけない

 遊びに飽いた彼等が空へと帰る時に
 あなたの願いも空へと届けてくれるのだから


「成る程、玉の化身が蛍なんだね」
 話を聞いてピンときたアルフレッドが笑った。
「ならば、蛍狩りですネ」
「ふわ〜」
 ミニュイはもう一度瞳を輝かせた。

……一方。同じく酒場の片隅でも瞳を輝かせるもう1人。
「アズヴァルちゃん、これ美味しいねっ☆ もう1個おかわりっ」
「はい、どうぞ……一応皆さんの分を用意してきたのですけどね…」
 白銀の霊査士・アズヴァルはさっきから幾つ目だろうかと苦笑しながらも、金狐の霊査士・ミュリンにグラスに入ったレモンのゼリーを手渡した。さっき水から上げてきたばかりなので、まだ、冷たい。
「わたくしにも一つ頂けますかしら? 先日の貸しがまだ残っていると思いますし」
 酒場の賑やかな様子に、紅雪白華・シルエラがテーブルの輪の中に入った。
「貸しなら確か、あの後お茶を奢ったでしょう?」
「あれは、その前の貸しだった筈ですわ」
 シルエラは、そういうとにっこり、零れんばかりに微笑んだ。

「あっゼリーだ。いいな〜」
「残念。最後の1個が先程売り切れてしまいましてね。また作ってきましょうか」
「レモンだよ☆ ミニュイちゃん、あ〜ん、あっロウちゃんもアルフレッドちゃんも、はい、あ〜ん」
 ミュリンの笑顔に惑いながらもあ〜ん、とロウ達が口を開けるその横で、ミニュイは河行きの話を振りまいた。
「このゼリーは何で冷やしましたの?」
 食べ終えたグラスをアズヴァルに返しながら、シルエラは尋ねた。
「そこの井戸水ですよ。やはり暑くなってくると冷たい井戸水が有り難いですね」
「河で冷やすのもいいですわね」
「そうですね。また作って行きましょうか」
「お代は……賭けても宜しいですけれど」
「いえいえ、皆の分を作りますよ」
 そう言って笑いながら、勝てると思われている所がなんだかなーと思わないでもないアズヴァルだった。
「じゃあ一緒に行く人ー!」
 ミュリンが酒場中の冒険者に声を上げ、
「……アルフレッドちゃんと、シルエラちゃんと、皆で、え〜と……ひい、ふう、みい……」
 その場で手を挙げた人数を数え始める。
「モルテ兄さんも勿論行くよね?!」
 大声に、かくり、と首を垂らすと反動で斜陽の霊査士・モルテがエマイユの隣の席で目を覚ます。
「じゃあモルテ兄さんを入れて〜……」

 和気藹々と相談する皆を遠目に見つめて、眠そうに目をしょぼつかせながらモルテが口を開く。
「何の話だ……?」
 そうして、もう一つ欠伸をしたのであった。

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参加者
NPC:霽月の霊査士・ミニュイ(a90031)



<リプレイ>

 夕陽が水面にオレンジ色の瞬きを映す夕暮れ。水の流れに、とぷんとぷん、とベリーメロンを沈める音が響いた。
「…準備完了」
 シュウが爽やかに額の流血を拭うと、丁度皆が歩いて来るのが見えた。

「夕暮れの散策も良い物ですわね」
 河のすぐ傍を歩くのはシルエラとリン。
「…蛍狩り、素敵でしょうね…」
 リンは微笑む。手にした籠には種々の果物達。清水で冷やした果物は格別のご馳走だろう。
「川の水も気持ち良さそうですわね…足を浸してみたい気もしますけれど蛍を驚かせてしまうかもしれませんわね」
 浅瀬を選んで河原に降りたリンが籠を水に浸けると、二人で両手にすくった水に夕陽を捕まえた。

「あの、川辺までご一緒してよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
 ファオがそっと見上げると、アズヴァルは静かな笑みを返す。ふとファオの目にアズヴァルの手にしていた籠が映った。
「お菓子ですか?」
「ええ。皆さんの分のゼリーを…」
「ねぇアズヴァルちゃんこれ重〜い! …あ! モルテ兄さん寝ちゃ駄目! 籠落ちちゃう!」
 背後で上がった声は間違い無くミュリン。
「…大丈夫」
「モルテさん寝てる寝てる」
「中々器用ですネ」
 モルテの後ろに、籠をもったアルフレッドとロウが首を振り合っていた。
「エリスさんも「ゆかた」なのね?」
 ミニュイもやはり籠を持っていた。
「東方探索に行ったとき、東の村でお土産に買ったのですよぅ♪」
 エリスは笑ってみせた。紺地に紅い帯をキリッとしめた姿は、異国情緒を感じさせる。
「私もミニュイちゃん達と、この間のお祭りでゆかたを新調したのです♪」
 ミライは水色の涼しげなゆかた。袖周りがふうわり夕風を通して心地良かった。

「よう、怪我の様子はどうだ…?」
 スィーニーが見知った影を見つける。
「今回は重傷だし、大人しくしておくよ…な?」
 アネットは先の防衛戦での負傷が癒え切らないままである。同じく負傷したエマイユと二人、ゆっくりと歩を進める。
「ナンなら今ここで『抱擁』してやっても良いが…」
「スィーニー」
 振り返ったアネットはスィーニーを見つめ…そのままうにっ、と両頬を引っ張る。
「気持ち『だけ』有り難く頂くよ」
「勿論冗談だ」
 スィーニーはにやりと笑って、だが時折痛ててと漏らしながら歩くアネットに「一応様子見ておくか」と小声で呟いた。
 隣でエマイユが、愛情だーと思ったのは内緒。
 
「…どうやら賑やかになりそうですね」
 がやがやと連なる列に微笑を浮かべたアズヴァルに、ファオはこくりと頷いた。
 やがて空はオレンジから葡萄色に、闇を濃く移していった。

 河原の片側に荷物をまとめ、一行は蛍見の準備を始めていた。蛍が良く見えると言われる辺りには、近隣の村から訪れた村人達の姿も見える。
 だがさらにずっと下流。…玉を諦められない者達が、闇夜に奮闘している所だった。 
 ぱあっと夜空に光の筋が広がる。シヴァの放ったエンブレムシャワーだ。だが一瞬の閃光は瞼に残像を残しただけで、川底まで通る光にはなり得ない。それならば、と代わりにカンテラを取り出すと辛うじて狭い範囲は見渡せる。
「気合いで玉拾い、もしくは心の目で!」
 暗い水面を見つめる目は真剣そのもの。そんなシヴァの目の前には、トウヤがざぶり、一足お先にと河へ突入していた。
「愛と勇気と根性でみつけてみせるでござる!!」
「…愛と勇気と根性…それだ!」
 シヴァはトウヤの言葉に両手を打つと、目についた白っぽい石を手当たり次第に掴んでは目を凝らすトウヤの後を追って、河へと突き進んだ。

「おーやってるやってる…」
 蛍狩りを邪魔しないように、とやはり下流まで歩いて来たのはシュウ達。
「っと、暗いから気を付けてな。ミライにミア、ウィスちゃんにフィーネちゃん」
 引率の先生宜しく後方を気にかけるシュウの背後に忍び寄る影。
「ソコ、危ないですヨ?」
「へ?」

 ざぶ〜ん。

 声をかけたロウ諸共に河原に滑り落ちたシュウ…ぱんち傷に冷水がしみるようです。
「シュウ団長、大丈夫ですかー?」
 心配するミライに手を振って「水もしたたるナンとやら」と一人ごちる隣で、巻き添え喰らったロウが何やらぼそっと呟いていた。

「ウィスちゃんと一緒に仲良く…石探しするのにゃ♪(///)」
 素足を水に浸けながらルィンフィーネが笑う。ウィスタリアと仲良く手を繋いでそろそろと河を渡って行く。
「目指せ白くて綺麗な羊脂玉♪♪…って、白以外も見つかるかにゃぁ?」
 昼間、酒場でエマイユに見せてもらった玉達を思い出す。
 白も良いけど薄ら翠も綺麗だったにゃ♪
 両手を水面に翳してウィスタリアがフォーチュンフィールドを試みるが
「…駄目にゃね」
「にゃ…」
 何とかなる♪ と信じてみたがぼんやり河底が光っているような気がするようなしないような…。
 離れた位置でざぶりと頑張るトウヤを見ながら気合いで頑張る、とウィスタリアは両手を握った。
「灯りの代わりになりますでしょうか?」
 離れた位置からはリンが宝珠を手に、水面に蝶を舞わせてみる。が…。
「キレイだけど…そのまま消えてしまいましたね」
 一緒に見ていたミアの言葉に、残念です、とリンは笑った。
「リルゥはヴァイスと遊んで待っててにゃ」
 ルィンフィーネが手を振った先、河原に座って石拾いを見守るミア。隣にはヴァイスとリルゥの仔猫達、それにルィンフィーネのリクエスト、ミア手製のチェリーパイの詰まったバスケットがあった。
「皆さん…大丈夫でしょうか…」
 2名のずぶ濡れは勿論、足だけとは言え、河の水は冷たいのではなかろうかとミアは心配する。腕にじゃれついてきた仔猫達を優しく撫でながら、ミアはカンテラを上げたアルフレッドに笑顔を浮かべると手を振り返した。
「三個も見つかるかな…」
 腕輪は勿論、普段から着用のマントも脱いで、アルフレッドも果敢に石探しに挑戦。
 一つぐらい欲しいかも、というミアの呟きに、ええ頑張りますとも。男の子ですから(何

 他方、こちらも頑張る男の子(?)アルビレオ。カンテラを手に、気合いを入れて玉を探す姿はアルフレッドに勝るとも劣らない。
 ちらりと上げた視線の先には、河原でミニュイ達と玉を見ながら談笑しているルティスの姿。
「ルティスさんも河に入るの?」
「玉が見つかれば、願いが叶うかもしれないしね…」
 楽しそうな声。アルビレオは頷くと、再び河へと視線を戻す。
…まだ、気持ちを伝えるわけじゃないが、これ位は…。
 風に揺らいだ水面、その底に微か白い灯りを見つけて腕を伸ばした。

「エリオは早速玉拾いに専念か…全く情緒のない奴だな」
 濡れるのを気にして、河原でエリオノールを見守るのはメイノリア。たまには一緒にのんびりしようと参加してはみたものの。
 ふう、と小さく息を吐く。
 本当は蛍達を見に来た筈なのに。
 カンテラに照らされた蒼い癖っ毛を見つめながらメイノリアはもう一度息を吐いた。
「ん?」
 見つめていたカンテラの灯りが揺れている。
…玉でも見つかったかな?
「メイ」
「何だ? って うわ!」
 浅瀬で手を振ったエリオノールは、濡れないようにとそっと近寄ったメイノリアの手を引いた。思わず抱きついたメイノリアにバランスを崩した二人は浅瀬に腰まで浸かってしまう。
「何がおかしい?」
 憮然とするメイノリアに思わず笑ったエリオノールだった。

 濡れた袖をぎゅっと捲り上げ、河原で一息ついていたロウ。眺めていた河にこちらへと手を振る人影。
「ロウ団長もいかがですか、気持ちいいですよー」
 フォーチュンフィールドで玉探しをしていたシュシュが笑う。
「…確かに気持ちはいいですネ」
 既に一浴びしていたロウは、ぎゅっと髪を絞ると手を振り返した。


 アネットが燈籠風に細工を施したカンテラの灯りを点滅させる。
 蛍を模したその灯りに応えるように、川面をついっと横切った光に、河原に集まった人達から声が漏れた。灯りは灯りを呼び、やがて周囲に広がっていく。 
…蛍か…。なんだか思い出すな…昔の事。
 不意に目の前を掠めた光にアネットは目を閉じた。

 皆から少し離れて空を仰ぐのはバーミリオン。川面に顔を出した岩に座って、足先だけ水に浸けて。
…俺は、もっと色々と、しっかりとできるようになりたい…。
 願い事を天へと届けてくれるという蛍。
…どうしたら他の人達みたいに、しっかりできるの? ねぇ、教えてよ。
 見上げた宙には星々、川面には蛍達の渡る灯り、そして河底には月の光を映す玉。身を屈ませて、手を水に浸け、触れた石を拾い上げる。
…ありふれた、ちっぽけな光らない石。俺も同じみたいなものなのかな…。
 だが、磨かれた石は滑らかで、丸く、ひんやりと心地よかった。

…本物見るのも悪くないか。
 ティキがそっと懐に入れた蛍玉を取り出すと、闇に淡く光る。
 ソルレオン戦を終えて一息。河傍の草むらに腰を下ろしたティキは地面に手をついた。
 目の前にはあちこちに瞬く灯り達。かごの中の蛍とは違い、夜空を、水面を、時に足元を照らす蛍達。水面に映った灯りに、玉の話を思い出し、ティキは首を巡らせる。
…蛍は玉の化身…蛍に成り損ねて自力じゃ外に出れない石があるかも…なんてな。
 光ったように見えた水面を覗いたティキが、背後に殺気を感じて飛び退ると、間一髪。
 ごぷん…。
 耳を引っ張ろうとしたシュウが勢い余らせて、河へ飛び込んだ音が辺りに響いた。

 蛍見にと、石探し隊も上流へと引き上げて来た頃。
「甘くて美味しいっ」
 幸せ〜という表情で、ミュリンがシャラににっこりと笑った。着物で団扇片手に、おやつに作ったカルメラを配り終えると、シャラは皆と一緒に草むらに座り蛍達の舞いを見つめる。
「蛍さんの光りってほんとに弱いけど、でも、嬉しくなっちゃうぐらい、とってもキレイなんだよね〜☆」
 …願い事。
 カルメラのお返し、の果物を手に、シャラは一瞬だけ目を閉じる。
「ありきたりだけど、早くみんなが仲良くできる世界になりますように、…かな?」
 小さく呟いた言葉は蛍に、天に届く事を祈って。

「アズヴァルちゃんおなかすいたー!」
 シャラのカルメラも、シュシュの用意したクッキーもすっかり平らげて、ミュリンがアズヴァルの袖を引っ張る。
「もちろん準備は万端ですわよね?」
 シルエラもにっこりと笑うと、はいはい、といった風情でアズヴァルが皆に預けた籠から手製のゼリーを取り出して配り出す。
「お手伝いします…」
 そういうファオに、アズヴァルは怪我をしているのだから、構いませんよ、と笑顔。
「蛍は良いね…戦争後なので安らぐね」
 マモルはミニュイの隣で空を見上げ、夜風に吹かれる。手にしたゼリーの器も、河で冷やされて心地よい。
「私の故郷でも蛍を愛でるお祭りがあるけど、どこの場所でも蛍って綺麗だよね〜♪」
「本当ね」
 ミニュイはミライに頷くと光を目で追うように、顔を上げた。
「次の満月の時にまたここに来て、羊脂玉を少し分けて貰いに来るから楽しみにしていてね」
 ミライは、少し小声で続けるとにっこり笑った。
「皆のお願い事は何かな?」
 そう言うミニュイからゼリーを受け取って、エリスは小さく首を振った。
「お願い事は…ないです。叶えられないお願いをしても仕方ないです。ほんとは…ケイナさんにもう一度会いたいです。でも、ケイナさんはこの前の春の、北方解放戦で…」
 エリスちゃん? とミュリンが気遣わしげに覗く。
「…あ、暗い話しちゃったですね。うん、もう大丈夫ですよぅ」
 にっこりと笑顔を作って、エリスはスプーンを手にした。
「私も、先の戦で前線治療班として参戦いたしましたが…大変な初陣となってしまいました。…戦で亡くなられた方たちの冥福をお祈りします。…いつか…ソルレオンの方たちとも、こうして一緒に星を見上げられたらいいですね」
 少し遠い瞳で、シュシュは目線を上げた。
「僕の願い事は…ま、今、結構幸せだからあんまり高望みはしたくないので保留っと、言う事で。…あっモルテさん!」
 言ってびしっと、首を垂れたモルテを突っ込むマモルに、寝てないから、というように不機嫌そうに首を横に振るモルテ。
「…願い事は、いつまで眠っていても平気な世界になるように」
 それだけ言うと穏やかな息を漏らす。
「寝言?」
 かもしれません。
「お手伝いしますわ」
 冷やした果物を取り出したリンに、シルエラが声を掛けた。
 それではこれを、と桃を手渡そうとしたリンの髪に、蛍が灯る。
「きれいだねー…あっモルテ兄さん! 起きて! ちゃんと見ないと勿体ないよ!」
「……」
 ゆさゆさと揺すぶられて、こくこくと頷くモルテは、しかし寝ながら頷いているようで…。
 間近で瞬いた輝きはやがて空へ。
…私の大切な方々が、本当の笑顔でいて下さるように。
 リンはその軌跡を見送った。

「隣、いいかな?」
 チェリーパイを振る舞うミアに声をかけてアルフレッドは座り込む。冷たくなった手にはミアの為の玉。
「ちょっと休憩」
 呟いたアルフレッドにふふ、と笑ってルィンフィーネの拾ってくれた玉と二つ、ミアは大事に手に抱いた。

「たまにはお伽噺を信じて、願い事も悪くないっしょ♪」
 スィーニーは手にしたカップに口をつけ、舞う蛍達を視線で追う。
「……。(皆の怪我が早く治るように)」
 隣で座っていたアネットも願いを蛍に預けた。
「皆は何を願った…? おっと、内緒は無しだ」
「俺は、月並みではあるが……こういう時間が長く続くように、かな」
…あと、もう少しマシになるといいなぁ、とか(歌が)
「エマイユは?」
「…アネットは?」
「秘密だ」
 なら、私も秘密かな。もう一度、三人は蛍に乾杯した。

「川、草、蛍、星空…自然っていいなあと思います。大好きです…」
 言ってころんと草むらに転がったファオが眠ってしまわないように。アズヴァルは黙って隣に腰掛けた。

「ここ、いいか?」
 ルティスに声をかけアルビレオは隣へ座る。
「…蛍、綺麗ね…。儚いけれど…最後の最後まで輝き続ける…」
 言って目を細めたルティスの横顔に、アルビレオは思わず見とれてしまう。視線に気付いたルティスが瞬くのに我に返ると、アルビレオは握りしめていた玉をルティスの掌に落とした。
「まぁ、その、今回の戦いで色々面倒掛けたから、そのお礼だ」
 きっと紅潮しているだろう頬を掻きつつアルビレオは説明する。
「…ありがとう、貰っておくわ。…戦い、ね。願いが叶うのなら…」
…今も遠い空の下、戦っているかもしれない大事な人達の無事…。
…いつか、ルティスを護れるくらい強くなりたい。
 二人分の願いを受けて、蛍は草影から飛び立った。


 終宴。
 いよいよ舞い踊る蛍達は川面へと集まり、やがて山へ、天へと帰る刻。

 もしも誰かの心に光を灯せるのなら… 

 メイノリアの隣、エリオノールの紡ぐ薫夜の調べが彼等を導くように。
 河辺に現れた天の河は空へと帰って行った。


マスター: 紹介ページ
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