ひとりでやるの!



<オープニング>


●おじょうさま
「い、や、な、の!」
 広い屋敷の中に、少女の声が響く。困り果てた使用人らが顔を見合わせ、眉根を寄せては、こっそりと溜息を付くのが判る。
 その中で唯一、正装に身を包んだ老齢の紳士が、顔の皺をより深くして、少女の顔をちらりと覗う。
「ですがお一人では……」
「そういうのが嫌なの! もう、何回言ったら判るのよっ」
 ぷんすかと、という擬音がとても似合う様子で、軽く握った両手を腰に宛てて見せる。
 続く平行線に、嘆息に塗れた沈んだ雰囲気が部屋を包む。
 やがて、紳士は緩慢に首を左右に振ると、深い息をゆっくりと吐き出しながら姿勢を正した。
「判りました。そこまでおっしゃるのなら……」
「ふふーん、なーんて言って、嘘ね」
 根負けしたように告げる紳士に、少女は小さな胸を逸らせて見せる。
「どうせ、あとでこっそり冒険者に頼むつもりなんでしょ。ばればれなんだから」
 一層、皺を深く、苦笑を浮かべる紳士し、少女はそれみたことかと言わんばかり、得意げな笑みを浮かべると、びしっ、と……自身よりも随分上のほうにある紳士の鼻先に指を突きつける。
「ぜーったい、一人でいくんだからね! 変な冒険者が付いてこないように酒場とかいうところ見張っててやるんだから!」

●君
 君は、いつものように酒場にやってきた。
 一般人から冒険者に至るまで、今日も大盛況なその中に……何か、妙に中をじろじろと見回している少女の姿を認めるが……冒険者なんてものは見た目では判断しづらいもの。その時は、特に気に留めずにカウンターの席に着いた。
 何を頼もうか、思う間もなく。
「あちらのお客様からです」
 唐突に目の前に置かれた飲み物と……下に挟まっている、いかにも洒落た封筒!
 これはもしや恋の予感?
 なんて思いながらも平静を装って、君は早速封を切った。
 封筒の中にはもう一通、別の封書。そして、一緒に入っていた便箋には、手短な一文。

『仕事の依頼です。内容は口外厳禁、貴方以外の誰にも知らせてはなりません。
 以上を了承し、受ける場合は同封の封書を開封し、内容を確認して下さい』

 恋文ではなかったことにがっかりしながらも、やはり平静を装って、君は出された飲み物で喉を潤す。
 それからもう暫くして、封書に手を掛けた。

『受諾に感謝します。
 依頼主はとある領主の使用人で、内容は依頼主の主人でもある、少女の護衛です。
 少女自身の目的は、離れた場所にある親族の領地への『単独訪問』です。ありていに言えば、反抗期、背伸びしたいお年頃……とでも言うのでしょうか。一人だけで行って帰ってくる事に、大変なこだわりを見せているそうです。
 無論、彼女は一般人ですから、野生動物や、素行の悪い大人になど、太刀打ちできません。目的地である親族の領地も、子供の足では決して近いとはいえません。実に危険極まりない行為なのですが……護られて育った環境ゆえか、若さゆえか、その辺りのことを全く理解しておらず、使用人が幾ら諭しても全く聞き入れなかったといいます。それどころか、逆に態度を硬化させてしまう始末とか。
 そこで依頼主は一計を案じ、冒険者にそれとなく護衛を……と考えたそうなのですが、それもまた少女に悟られてしまい……実は現在、この酒場で依頼受諾者が居ないか、目を光らせているのです。その少女の容姿は――』

 その内容に、君は少なからず覚えがあった。
 手紙に書かれていた内容が、始めに酒場に入ったときに気になった少女の容姿そのままだったからだ。
 ちら、と視線を走らせて、少女がじーっと酒場を懐疑的な視線で見回しているのを一瞥してから、君はまた気付かれないように手紙を読み進める。

『疑いの心があるうちは、あらゆる会話、行動が怪しく見えてしまうものです。恐らく、この手紙も目を付けられているでしょう。この上で更に、少女についての話を口にすれば……疑いに心を尖らせた相手には、易々と見つかってしまうことでしょう。
 ですから、重ねて申し上げますが、この手紙の内容は口外厳禁です。
 また、依頼主に状況さえ許せば少女の願いを叶えたいという気持ちがあることも事実です。少しでも自然な状態で少女と接触ができるよう、一部、重要であろうと思しき情報のみここに記します。

 ・護衛の期間は往復。
 ・少女は現在は徒歩。
 ・目的地までは、ノソリン使用で片道丸二日。
 ・一日目の距離に、別の宿場街がある。
 ・道中は見晴らしのいい街道。
 ・人通りは多くないが、全くないわけではない。
 ・お土産を持っていくつもりであるが、まだ決めていないらしい。

 他、安全が確保できるのであれば、寄り道の有無や、日数の延長・縮小は特に問いません。何しろ、お屋敷育ちの箱入り娘な上、あくまで護衛と悟られないように接触するわけですから、最速での往復護衛とは勝手が違うでしょう。それに……どうせなら少し位は楽しい想い出にしてやってほしいと、依頼主も思っているようですので……羽目を外さない程度に。

 この依頼書は合計で十通用意しました。上手くすれば、志を同じくする方が他に九名居ることになります。そうでなければ貴方一人。ですから、貴方一人で最善を尽くせる方法を先ずは考え、実践してください。
 最後に、もう一度申し上げますが、口外厳禁です。
 この依頼書を受け取った時から、依頼は既に始まっています。
 くれぐれも、悟られることのないよう……宜しくお願いします』

 読み終えた君は、手紙を丁寧に畳むと、封書の中に仕舞い込む。
 少女は相変わらず、酒場の中をじっと見回しているようだ。そろそろ出ようか、どうしようか、そんな風にも見て取れる。
 依頼は既に始まっている……先に出るか、後に出るか。君もまた、色々と考えを巡らせるのだった。


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参加者
紫晶の泪月・ヒヅキ(a00023)
壊れた弱者・リューディム(a00279)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
空を望む者・シエルリード(a02850)
無限のファンタジア・チアキ(a07495)
砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)
夢を贈る狐・ネイヴィ(a57376)
樹霊・シフィル(a64372)
流れる群雲・ロドリーゴ(a73983)
糸使いの悪戯小僧・ライ(a74993)


<リプレイ>

●変態紳士
 要は冒険者だとばれねば良いのだ。
「だったら楽勝じゃぜ!」
 途端に、ダメ蜥蜴・チアキ(a07495)は手紙をむしゃむしゃ食い……着衣をキャストオフ!
「きゃー!」
「えー!?」
「なんでやねん」
 突然の奇行に飛び交う悲鳴と困惑と突っ込み。
 ……つまり、変態という名の紳士を着飾れば、小娘如きにばれないという寸法。実際、少女は呆然。他の皆も今だとばかりに酒場を脱出。
 夢を贈る狐・ネイヴィ(a57376)はその一人。まさに渡りに船。
 同じく、壊れた弱者・リューディム(a00279)も。
「追って来てはいないけど念の為ね……あ、意外と美味しい」
 途中で購入した砂糖菓子を口に含み、商店街を足早に抜ける。
 一方、チアキに残るのは、ほんの少しの良心を現したかのような葉っぱのみ。一応セーフ? ……いやアウト!
「ゲババババ! ……なんじゃお主らは?」
「早く服を着なさい」
「なんじゃいいきなり。裸の何が悪いんじゃ! 裸になっちゃいけないって規則でもあるんか!?」
「あるから来たに決まっておろう!」
「……あ、そうですか……スミマセン……」
 怒られながら連行されていくチアキ。
 そこで我に返る少女。呆けている場合ではない。だが、いつまでも監視している訳にもいかない。
 いい加減出ようと、席を立った時。
「きゃ!」
「あ、わりぃ! 大丈夫か?」
 軽く肩が触れる程度でぶつかったのは、糸使いの悪戯小僧・ライ(a74993)。
 特に疑念もなく退出していったのを見届けて、空を望む者・シエルリード(a02850)も酒場を出ると、しれっと雑踏の中に消えていった。

●追跡
 銀の髪を黒い短髪のかつらで覆い、酒場に居た時とは違う化粧を施し印象を変えて……紫晶の泪月・ヒヅキ(a00023)は土埃で汚れたマントを纏い、旅の吟遊詩人として街道へ。
 明らかに高級そうな身形で一人街道を歩く少女。実に目立つ。
 遅れて出た、樹霊・シフィル(a64372)の覗く遠眼鏡にも見事にくっきり。
 その背面から、荷車が近付いてくる……振り返れば、成金っぽさを漂わせるステッキと丸眼鏡を身に付けた、流れる群雲・ロドリーゴ(a73983)。そのいでたちはチキンレッグの行商人そのもの。
「こんにちわお嬢さん。お出かけですかな?」
「あ、うん」
「道中不埒者が居るやもですし、お気をつけなさい」
 驚いたように返す少女に構うでもなく。
「では、私も先を急ぎますゆえ、これにて」
 軽く会釈すると、そのまま行ってしまう。
 まさにただの行商人として行過ぎたロドリーゴを見送り……疲れたのか路傍の石に腰掛ける少女。するとそこに、
「追いついてしまったわね。どちらまで?」
「……お姉さんは?」
 明らかに訝しげな視線を向けてくる少女に、これから進む道の先を指すヒヅキ。
「行く道が一緒みたいだから、良ければお願い」
 なおも怪訝な表情の少女に、ヒヅキは手にしたリュートの金糸雀を示す。
「想い鳥が居るらしいと聞いて」
 ふうん、と少し興味が沸いたようにリュートを見つめる少女。
 ……俄に。近付いていた足音が止まったことに気付いて、二人が振り返れば、今度は複数のノソリンに花や籠やリボンを一杯に積んだ別の行商人。
「どこか痛めたの?」
 薬も積んでるよ、とノソリンを指すシエルリード。
 首を振る少女。ヒヅキは丁度良いとばかり道連れに誘っていた所だと説明する。
「そりゃあいい、僕もそちらで行商するんだけど、乗っていかない?」
「えっ」
「歩きだと大変だよ。それに、最近物騒だからね、同行して貰えると心強いな」
 シエルリードの誘いを受けて、旅の道連れが増えるのは嬉しい、一緒に行きましょう、とヒヅキも重ねて誘う。そんな少女の脳裏に、先ほどのロドリーゴの言葉が思い出される。
「……そうね、多い方が安全よね」
 独り言のように呟いて承諾した少女に笑って見せると、シエルリードは早速、二人を花一杯のノソリンへ促した。

●見守り隊
 先行しハイドインシャドウで景色の中に紛れながら遠眼鏡越しに一行を確認すると、ライは一度、道から外れた木陰に移動し、
『聴こえるか?』
 同行の二人から返答はないが、僅かに反応したのが判る。届いたということは、二人は間違いなく護衛だろう。安堵の念を抱きつつ、今度は進む先へ遠眼鏡を差し向ける。
 ……さっきも見えたが。
 先の方で獣と戯れてるあの人影も、絶対仲間だ。
 同じように、タスクリーダーを投げてみると。
『何処に居る?』
 同じくタスクリーダーで応じる、砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)。今は魅了の歌で動物達に道の状況を訪ねていた所だ。
 そして、ライからは離れすぎていて届かなかったのだが。
『こっちにもおるでー』
 デューンの声を拾ったのは、行商から離脱して単独行動に入ったネイヴィ。その姿はかなり先行しており、少女の肉眼で捉えることはできない。
 暫くの間、三人のタスクリーダーが密やかに飛び交う。デューンが動物から集めた危険な野生動物の出現情報、身を潜め易い地形の場所……他、給水所として利用できるよう、道中の農家に宝石を代価にして交渉を行っていたこと等も。
 そして、そんな三人の遣り取りに耳を傾ける者がもう一人。
「……私一人だけだったら間違いなく失敗してるな」
 苦笑を浮かべ、早速仕留めたはらぺこの野犬を道から離れた草むらに隠蔽するリューディム。返答は出来ないが、情報は有り難く使わせて貰おう。それに、これだけ居れば、露払いに専念できるというもの。先に聞いた暴漢出現地区を思い出しつつ、リューディムは再び先行を開始した。

●一時
 宿場町に着いたのは、夕暮れ前。
 談笑しながら入り口に着いた所で、
「あー!?」
 シエルリードがお土産の話を出した途端、少女は慌てふためく。
「忘れてた……あの変態のせいよー!」
 そんな叫びを、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)はしっかりと耳にする。とはいえ、時間が時間、先に宿の手配をしようという話になる。
 それを待っていたとばかりに、やや挙動不審に近付いてきたのはシフィル。ハイヒールにドレス……その姿は森から出てきた世間知らずのドリアッドお嬢様にしか見えない。
「宿を得るにはどのようにすれば宜しいか、ご存知ありませんでしょうか」
 似た境遇に引き寄せられてきたと言わんばかりに、しかし、少女自身も宿の手配など初めてで勝手が良く判らない。
 だが、そこに。
「この宿、もう二度と泊まらんぞ。最初からあっちの宿にすれば良かった」
 すれ違い様に独り言を――聴こえるように呟いて通り過ぎ、そのまま評判の良い宿の方へと消えていくデューン。少女はそれに敏感に反応した。
「あの宿がいいみたい」
「宜しければご一緒させて頂けますでしょうか」
 他の皆が反対する筈もない。そして、上手い具合に誘導されてくる少女へ。
「きゃ!?」
「わっすまんってまたお前か」
 浴衣姿で夕涼みに出てきた振りをしてぶつかってきたライに、少女はあっと声を上げる。ライは軽く周囲を見回し。
「親御さんは? 後ろ……は違うよな」
「最初は一人だったのよ」
『そのまま皆の接近の仕方聞いてくれへん?』
 すかさず、既に宿を取って様子を覗っていたネイヴィから飛んでくるタスクリーダー。かくかくしかじかと語られる経緯を、ライは同じ心の声でネイヴィへと送り返す。
「凄いな! オレものんびり一人旅中なんだ」
 少女の話に感嘆の声を漏らすライ。そのまま世間話に持ち込み、同行の仲間から話もネイヴィへと送信しつつ、宿代を奢ると行って宿泊の手配を済ませてやる。
「浮いた宿代でお土産でも買っていけばどうだ?」
「うん、そうする」
「僕は明日のノソリンの手配をしてくるね」
 シエルリードに見送られ、少女はうきうきしながらお土産探しへと出かけていった。

●お土産
 居並ぶ店の前で、夕食を取る人々……の中に。
 旅人と談笑するロドリーゴの姿を見つける少女。
「この辺は良い小麦が穫れますから、その粉を使った焼き菓子等は貴人をも魅了するそうで」
「焼き菓子かぁ」
 耳に挟んだ会話に浮かぶイメージ。焼き菓子にシエルリードの花を添えて……うん、いい感じ。
「何をお探しですか?」
 早速探し始めた所へ掛かる声。振り返る少女に、あえて自身が冒険者であることを明かす。途端に、少女の視線が疑惑に満ちるが……ラジスラヴァは構わず続ける。
「冒険者になる前にお世話になった旅芸人の一座が来ているらしいので久々に会いに行こうかなと思っているんです」
 もし、少女一人なら疑惑のまま終わっていた所だが。シフィルが何かと世間知らずを装って上手くプライドをくすぐるように質問や意見を挟むお陰で、少女は段々気が大きくなってきたらしく、遂に身の上話を始める。
「まぁ、目的地は一緒ですね。それでしたら色々と大変ですから一緒に行きませんか」
「今日は行き先一緒の人によく会うわねぇ……」
「目的地までは一本道ですからね」
 ヒヅキの言葉にそれもそうかと思い直す。そして、更に今度はネイヴィが……少女でなくラジスラヴァへと声を掛けた。
「悪いなぁ、立ち聞きして。冒険者なんやて?」
 ラジスラヴァが頷くと、よかったーと胸を撫で下ろして見せる。
「この先に行商に行く予定やけど、物騒な所があるて聞いてな、道連れ探しとったんよ。ご一緒してええかな?」
 続けて、少女やヒヅキにも同意を求める。シフィルがわざと指示を仰ぐようにして少女を見つめると……少女はやがて頷いた。
「有り難う、助かるわぁ!」
 ……と、そんな会話をする後ろを、何事もない振りで通り過ぎていく人影。その手が少女の手荷物に何かを潜ませたことに気付いてラジスラヴァが視線をやると……目配せをして返すリューディムが。そして、荷物に加えられた物が真新しい砂糖菓子の袋だと気付くと、意図を悟って頷いて見せる。
「……♪」
 その様を確認すると、リューディムは再び雑踏の中に消えていった。

●出た
 翌朝。
 いつの間にか加わってる仲間の中に、折角だからと加わるライ。一方で、シフィルはこっそりやっておいた打ち合わせ――皆に護衛を任せ、自身は先行しての安全確保に回る――通り、少女に別れを告げる。
「色々とご教授頂き有り難うございました」
「森のお話有り難うね」
 そんな遣り取りを背景に、先に宿場町を発つロドリーゴ。
 実はノソリン取替えの時に出くわしたシエルリードと、この先々の治安情報を交換していたりする。
「この辺りと聞きましたが」
 いかにもな身形のロドリーゴを見れば、その手の輩は率先して出てきそうなものだが……いや、付いてくる気配は感じたが、いつの間にか消えている。
「どなたかが片付けて下さっておるのですかな」
 きっと先行する仲間のお陰だろう。これなら少女も安心だ。
 実際、ちんぴら・不良の類がロドリーゴが一人きりになるのを狙うこともあった。しかし、誘き寄せられた所をリューディムやデューン、シフィルに捕捉され……ある意味絶妙なコンビネーションによって、駄目な大人達は姿を現す前に処理されていた。
 だが、皆は知らない。
 もっと駄目な大人が、少女の行く手に現れることに!

 何だかんだでまんまと酒場を抜け出したチアキは、「この方法使えるぜ? 試験に出るぜ?」といった表情で少女一行を見ていたが……なまじ堂々と道の真ん中でハイドインシャドウ中なので、逆に気付かれていない。
 なお、連行後をどう切り抜けたかは企業秘密。曰く、カッコイイスピードで抜け出したらしい。グッドスピード!
 そして、そのグッドスピードで追いついたチアキは……またおロープされるのも難なので、最低限の衣服を纏い……わー、ハイドインシャドウ解けたー。
 ぬるっ、と景色から湧き出てきた見覚えのある物体に、思わず悲鳴を上げる少女。
 というか、突然出てきて、同行の皆が肝の縮む思いをする羽目に!
「酒場に居た変態ー!」
「変態という名の紳士……じゃなくて、謎のぬるぬる大道芸人参上!」
「なによその藻はー!?」
「じゃからぬるぬる大道芸……うわらば!」
 もろ顔面に気高き銀狼を食うチアキ。撃ったのはヒヅキだが、ラジスラヴァがやったフリをしている。召喚獣も外してきたので気付かれない。見事だ。
 しかし、他の皆は召喚獣付きだ。こんなことをすれば戦闘形態になってしまう……が、少女がそれを目にする事はなかった。
 草むらから聴こえる低い唸り声へ向け、ラジスラヴァがすかさずに眠りの歌を響かせる。同時にネイヴィも少女を対象に含めて眠りの歌を歌う。あらゆる意味でチアキに視線を奪われていた少女は、皆の召喚獣の発現を見る間もなく、眠りに落ちていた。
 チアキの意図はまさにそれ。違う意味での警戒心を集中させて他の皆に意識が向かうのを防ぐ作戦!
「逢った事も無い仲間を信頼する心……それが何より大事なのさ!」
 よかったよかったと仰向けのまま頷く耳に。
「大丈夫か?」
「気絶しててんで」
「びっくりしましたね」
「無理もないわ」
「ぬるぬるさんは冒険者さんがやっつけてくれたからね」
 全てをチアキのせいにして通り過ぎる声が聞こえるのだった。

●思い出
 ノソリンに積んでおいた焼き菓子と砂糖菓子と花束を、リボンを飾った籠に入れて手渡すシエルリード。その花束の中には、ライが見つけて案内してくれた花畑で、少女が自ら摘んだものも含まれている。
「忘れ物ない?」
「うん」
 ついでだからと入り口まで見送りに来た皆に手を振って、屋敷の中へ消えていく少女。
 その姿が再び現れたのは、翌朝のこと。
「あれ?」
「想い鳥では無かったの」
「古い知り合いはもうすでに町を出てしまった後でした……」
 残念そうに肩を落とすヒヅキとラジスラヴァ。そして、帰りも一緒にどうかと思って待っていたのだと告げる。ライも笑って、
「のんびり一人旅だからな」
 と、そこに、ワインを積んだノソリン車で通り過ぎていくロドリーゴ。流石に三回目、少女も驚いたように見ている。
「おや、良く会いますな」
「えっと……有り難うね」
「はて?」
「なんでもない」
「では、荷を取引先まで運びますので失礼」
 去り行く姿を見つめる少女を、不思議そうに覗き込むライ。
「どうした?」
「お土産喜んで貰えたから」
「お家にもお土産を買ってはどう?」
「そうね」
 笑って頷く少女。その後、ぺんぎん着ぐるみで愛想を振りまいていたデューンから試食のお菓子を受け取って皆で食べながら、一行は帰路に着く。
 ささやかで楽しい、旅の思い出と共に。

「……というワケで、少女の一夏の思い出の為にわしは全裸だったわけですよ、警邏の人」
「ぬるぬる大道芸人ってお前かー!」
「ゲゲェ! わし既に有名人ー!」
 かくして、少女が旅の出来事を親戚宅並びに自宅で大変熱心に語ったがために、チアキは街道周辺に現れる『謎ぬるぬる大道芸人』として語り継がれるのであった……。


マスター:BOSS 紹介ページ
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作成日:2009/09/01
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