貧乏人は麦を食え!



<オープニング>


 地方によっては人々の間で、星祭りと呼ばれるお祭りが開催されているある日のこと。
 冒険者の酒場に、霊査士ジュリアス(a90047)から1つの依頼が舞い込んできた。

「実は、とある貴族からの依頼なんだけど……、屋敷の倉庫が何者かに荒らされ、蓄えていた食糧がほとんど盗まれてしまったと言うんだ。おりしも、つい先頃、比較的裕福な貴族たちが集まって、貧窮している一部の市民たちの為に、食糧を供与しようと決まったばかりだと言うのに……」
「それでは、犯人を捕らえて盗まれた食糧を取り戻してくれば宜しいのですね。それで……犯人について何かお分かりの事は?」
 ジュリアスの話を聞き、ツバサ(a90094)が依頼の内容を確認した。
「いや、それが……」
「???」
 何やら口幅ったい様子のジュリアス。その意味がまったく分からないツバサが首を傾げていると……、
「その倉庫で、いくら霊査を試みても犯人らしき姿など何も浮かんでは来なかったんだ。視えたのは、屋敷の主人である貴族の姿だけ……。一体、どういう事だろうね?」
「たしかにそれは……変、ですわね」
「うん。そういう訳だから、申し訳ないのだけど、何とか、この事件を解決して、人々に少しでも多くの食糧が供与できるよう、手配してもらえないかな?」
「分かりました。全力を尽くさせていただきますわ……!!」
 強い口調で依頼を受ける旨を伝えるツバサを見、ジュリアスは……、
(「ツバサも、もう少し肩の力を抜いてくれれば良いのだけれど……」)
 などと感じていた……。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)
お転婆医術士・チコリ(a00849)
ブランネージュ・エルシエーラ(a00853)
白陽の剣士・セラフィード(a00935)
翔竜の戦人・アレスディア(a01677)
断魔の刃金・ゼフィランサス(a03256)
優しき魔女・ルフィア(a09153)
NPC:優しき手・ツバサ(a90094)



<リプレイ>

●盗人
「全く…妙に都合の良い事件だね。配給用の食料を集めた倉庫から、それだけがごっそり無くなるなんてさ」
 依頼を聞くや、聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)が皮肉たっぷりに呟く。勿論、その意味するところはたった1つ。
「度重なる戦で民が貧窮しているところを、食料を供与すると見せかけ私腹を肥やす……全く以て許せんな」
「ええっ!?」
 そして、それをストレートに語った翔竜の戦人・アレスディア(a01677)の言葉に、ツバサが思わず驚きの声をあげた。どうやら、誰もがすぐに気づいた『事の真相』に、本気で気づいて無かったらしい。
「……貧しい方に配布されるはずの食料を隠すだなんて…許す訳には…いきません…」
 驚きと怒りなどを混ぜたような複雑な表情の、優しき魔女・ルフィア(a09153)。
「貴族たるもの、民は護るべき存在。その民への食料を横領するとは……何としても証拠を見つけ、民へ食料を供与できるようにせねば」
 続くアレスディアの言葉に、皆、一様に頷き……(ツバサがいち早く追求に乗り込もうとして止められたのは、また別な話)……、
「そこでな、我に1つ考えがあるのだが……」
 六風の・ソルトムーン(a00180)が1つの提案を挙げたのだった。 

●嘘
「酒場に依頼を頂いたのは…卿ですかな? 霊査の結果をお知らせしよう。貴殿の食糧を奪った者たちについて、素性までは判らなかったのだが、代わりに、その者が別の盗賊に襲われ皆殺しにされる。そして更には、せっかくの食糧までも、その盗賊に奪われるという結果が出たのだよ」
「ええっ! そんな……」
「何を驚かれる? まぁ、盗人が盗人に殺されるだけの話……まあ、敢えて言うなら、その盗賊が街を襲う可能性もなきにしもあらず、ということで2〜3日くらいは逗留させて頂く事にしますかな……」
「も、もちろん逗留されるのは一行に構いませんが……それより先に盗賊を討伐しては頂けないのですか?」
「討伐……ですと?」
 動揺気味の貴族の言葉に、一際、不審がるように眉根を寄せるソルトムーン。
「盗人同士が殺し合いをしてくれるなら、残った方を倒す方が効率が良いでしょう。それに……先のソルレオン戦で、我もこの傷でしてな……。他にも傷を負っている仲間も多いので、正直、あまり無理はしたくないのですよ」
 ここぞとばかり数カ所に巻いてきた包帯を指し、苦笑交じりに応える。さしもの貴族も、こう言われてはそれ以上、強弁できるはずもなく……冒険者たちは堂々と数日間の屋敷逗留を確約させたのだった。

●狂言
 そして……さっそく、捜査開始ということで、盗難現場の倉庫に、貴族とともに足を運ぶ冒険者たち。
「ところで盗まれた食料って、どんなものだったのかしら? 供与予定だったんだし……リストくらいあるわよね!?」
 お転婆医術士・チコリ(a00849)が、貴族に確認する。当の貴族も表面上とは言え、依頼している手前、素直に目録を提示せざるを得ない。
「ちょっと良いですか?」
 微妙に間を外して尋ねたのは、エル(ブランネージュ・エルシエーラ(a00853))。そして返事も待たずにオーエンが根掘り葉掘り……。
「まず…盗まれた時刻について。そして、あんたたち屋敷の人間がその頃何をしてたか。それと、月並みだが、倉庫に鍵は? そして見張りなどは? 更に、ここ以外に被害は? せっかく誰にも気付かれずに侵入したというのに、盗ったものが食糧だけというのがな……。そして最後に、犯人とその一味について生死は問わぬ、と約束してもらいたい。どうだ?」
 矢継ぎ早の質問に戸惑う貴族……かなり、しどろもどろになりながらも絞り出すように質問に答えてゆく。盗まれたのは夜、屋敷の人間は残らず寝静まっていた頃。最近ではすっかり治安もよくなってきたので鍵も見張りも無かったという。
「う〜ん……」
 貴族の回答をこの上なく険しい表情で聞く冒険者たち。が、その様子に貴族は逆に激昂した。
「……!! 被害がココだけじゃ変? そんなの私の知ったことじゃない! 盗人の考えることなど知ったことか!」
「ゴメンなさい。そんなつもりじゃなかったの」
「すまなかったな……だが、おかげで内部情報に詳しいヤツの犯行らしいことだけは想像がつく。あとは任せてくれ」
 が、荒事で冒険者が怯むはずもない。チコリが素直に謝ってみせることで彼の気勢を削ぎ、当のオーエンが謝ったことで、その場は収まったのだった。

「さて……残念だけど、間違いはなさそうね。あとは、全容を洗って消えた食糧を見つけ出すだけ…ね。私は使用人や屋敷の者たちに話を聞いてこようと思うけど」
 冒険者たちだけになってから、セーラ(白陽の剣士・セラフィード(a00935))が自らの考えを話した。その話が終わるや否や、徐に屋根裏から声が響く。声の主は、あらかじめ屋敷に潜入を果たしていたゼフィ(現世を観し忍び・ゼフィランサス(a03256))。
「ふむ、消えた食糧の行方でござるか。畏まってござる。ところで、盗まれた食糧に何か特徴や印等あるのでござろうか? 見つけても『個人のモノ』と言い逃れられる可能性がござる故」
「それは大丈夫よ。さっき目録を貰っておいたから、人知れないトコに明らかにこれと一致するものが見つかったとなれば、言い逃れなんてさせない」
 自身ありげなチコリだった。

●証拠
「さて…あたしだったら、何処に隠すかしら?」
 口元に指をあてがいながらチコリが首を傾げる。
「やっぱり…地下とかでしょうか?」
「うん、それが一番自然だよね」
 ルフィアが遠慮がちに答えると、チコリをはじめ仲間たちも皆、頷く。それは、至極一般的ではあるが、最も堅実な隠し場所だったから。
「だとすると、おそらく、一人では運び切れないはず……何か知っている方がいらっしゃる筈ですわ。私も、お話を聞いてまいります」
 こうして、ルフィアもセーラ同様、聞き込みに廻る。
「夜中に、何かあやしい影とかを見ませんでしたか?」
「あるいは、誰か見慣れない者が出入りしているとか……?」
 屋敷の者たちに片っ端から尋ねて歩くセーラとルフィア。大半の者たちはすぐに知らないと返したが、幾人か、言葉を濁らせる者が…。
「何か隠している事があるんでしたら、素直に話してください。決してあなたが話したと口外はしませんので」
「……え〜っと、その……実は……」
 その使用人たちも、かなり躊躇っていたようではあったが、粘り強いセーラに根負けし、ついに重い口を開く。
「食糧だったかどうかまでは分かりませんが、ココ2、3日ほど、玄関から地下に、抱えるほどの大きさの木箱をいくつか運びました」
 そうやって数人から話しを聞いていくと、他にも倉庫で食糧を木箱に詰めた者や、木箱を倉庫から玄関先に運んだという者たちが見つかったのだった。

 その頃、ゼフィはアレスディアとともに、見事に気配を断ちつつ貴族の私室を見張っていた。
「さして気が大きい者ではなさそうだ。間違いなく何か動きを見せるはず……」
 その予感は見事に的中し、夜も更けた頃、貴族がビクついた様子で自室を後にする。そして、手にした鍵で地下室への扉を開けると、小さな燭台を片手に、闇が広がる地下へゆっくりと降りていった。
 さっそくアレスディアが付いていこうとするが、すかさずゼフィがそれを押し留めた。
(「たしかに、付いていきたい所ではござるが、ハイドインシャドウも万能ではないゆえ、見つかっては元も子もないでござる。ここは我慢を」)
 そして…ほどなくして安心した様子で戻った貴族が、自室に戻ったことを確認すると、2人は仲間たちのもとへ報告に戻ったのだった。

●強請り
 ……翌日。
「民の食糧を隠すような輩の食事など……」
 確信を得、改めて食事を拒否しようとするソルトムーン。これも武人の矜持か。
(「痛っ!」)
「ほら、無理しない! ……皆も怪我人なんだから、ココは素直に食べられるときに食べて栄養つけなきゃ!」
 が、そのすぐ後に顔をしかめるソルトムーンを見、チコリが他の重傷者を含めた皆に告げる。それは、医術士であり、かつ食べられない苦労を知るが故の台詞。
 その言葉で、遠慮なく屋敷の朝食に与った冒険者たちは、再び、一通り屋敷内を捜索する振りをすると、改めて倉庫の傍に貴族を呼び出した。
「実は……盗人の手口が少し掴めたのでな」
 堂々とした様子でオーエンが語る。が、向こうもまだまだ余裕だ。どうやら冒険者たちの言葉が、彼に冷静さを失わせるのが狙いであることに気づいているようだった。
「ほう……昨日の今日でとは凄い。聞かせていただきましょう……」
「なかなか巧妙ね。大切な食糧の姿を変える者、そして、それを途中まで運び出す者…そして、別な場所に隠す者。他人を上手く利用して、全体が露見しないように企んだ……」
「……」
 セーラの指摘に言葉を失う貴族。
「そうですわ。あなたが!」
 ビシッ!!
 ツバサが、貴族を指差した。
「な、何を根拠に……! それに私がやったのだとしたら、自分の物を動かして何が悪い!」
「おや? 盗まれたと言ったのはあんただろう!? その意味じゃ…盗みは無かった訳じゃなく…実際、お前さんが主張したように盗みはあったのだろうね。ただ、行き先が決まっていた筈の物を…その時点でお前さんの者では無くなった物を……お前さんは盗んだのさ」
 開き直る貴族に、オーエンが指摘した。
(「早く……皆さん」)
 その裏で焦るルフィア。そう、実は今…目的の食糧を確認すべく、ゼフィとアレスディアが貴族の私室から鍵を探し、そして地下へと向かっていたからだった。その意味ではまだ、証拠は何も…ない。
「何処にそんな証拠が……! まったく話にならん。好きにさせておけば勝手なことを言いおって! もう冒険者になど用は無い。帰ってくれ!!」
 貴族が最後通告を出した。

 ……その時!!
 一条の矢がセーラたちの足元へ。そして、そこから囁くよう声が。玄関先からエルが放った声の矢文だった。
「食糧…確認できました。地下に、木箱に詰められて目録通りの品々が……」
「ちっ!」
 それを耳にし、貴族が舌打ちを漏らす。そして、静かに後ずさりを始める。
 ヒュン!
 再び、弧を描いて矢が貴族の足元に突き刺さる。途端に身動きを封じられる貴族。
「無事、完了ですね…♪」
 自らの『仕事』に、満足げなエルだった。

●そして、食糧は無事住民たちの元へ……
 そして、ゼフィとアレスディアが皆の元へたどり着くと、改めて食糧が見つかった旨を報告した。
「配給する品を掠め取るとは情けない。他の貴族たちに、申し訳ないとは思わんのでござるか?」
 諭すように言うゼフィを止め、オーエンが再び貴族に告げた。
「盗まれたのはあんたの怠慢、そして、残念ながらそれは二度と戻ってこない……俺たちが回収したのは初めっから住民の物、って事で良いかな?」
「ふふっ。そういうのもたまには…良いか」
 アレスディアが微笑む。つまり……貴族には、盗まれたもの以外で、当初の予定量を改めて捻出しろ、と告げているのだ。勿論、裏には、事件の真相は公にはしないという条件を含ませた上で。
「住民たちにゃ、盗まれた事を反省したあんたが、予定より多くの物資を供出する事にした、とでも説明してやるよ。太っ腹貴族さん♪」

「さ〜て、と。セーラにルフィア、さっそく食糧を配りに行きましょ。最初の予定通りなんだから、誰かさんに文句言われても知らな〜い♪」
 チコリが声を掛けた。解決を見越して、セーラが早朝のうちにノソリン車の手配しており、あとは順次積み込むだけ……。
 貴族は、ただただ項垂れるしか出来なかった。

「セラフィード様…ご一緒に皆様に食事を作って差し上げませんか?」
「そうね。私も考えていたのよ」
 その日、住民たちの元へ届いた食糧を、さっそく炊き出しに使おうと提案するルフィア。勿論、セーラに異論などあるはずもない。
「ツバサ…君は料理が得意らしいね。君も、一緒に料理して市民の方々にご馳走してあげたらどうだい?」
「はい。そうですわね」
 オーエンの言葉に頷くと、ツバサもルフィアたちについていく。

 住民たちの喜ぶ顔が、皆の目に浮かぶようだった……。

【終わり】


マスター:斉藤七海 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2004/07/22
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