豊かなる土地を目指して 〜未来への贈物〜



<オープニング>


「みんな、フォーナ様から光の種の準備ができたと連絡が来たわよ」
 酒場の扉をくぐったヒトの霊査士・リゼル(a90007)のその一声に、冒険者の酒場は一時静まり、それまでと違うざわめきを起こす。
 円卓の決議で決定した光の種による被害地域の復興支援。それが実行段階になったのだ。
 その日酒場にいた復興支援の協力者たちはリゼルの案内の元、光の種を受け取りに向かう。
 そして復興支援の準備が整ったことは街や周辺に旅団を構える多くの冒険者たちの間に徐々に伝わるのだった。

 ※※※※

「へぇ、これが光の種か」
 南国の太陽・オープスト(a90175)がテーブルの真ん中にいくつか積まれた手のひら程の大きさの光の種の一つを取り、手のひらの上で回しながら、しげしげと種を見つめる。
 確かな手触りをもちながらも、優しい光を放つ不思議な種。フォーナ女神の神性がこの種1つ1つに篭められているのを想像し、オープストは手遊びを止めてそっとテーブルの真ん中に戻した。
「オープスト殿は光の種に触れるのが初めてなのでござるな」
 ソルレオンの忍び・サイルス(a90394)は誰の顔を見るでもなく、短剣をヤスリ砥ぎながら光の種の説明をする。
「この種を埋めて祈ることで、その地は数年で元の自然に戻るのだそうでござる。
 例えば変異動物などの異常な力に死した森に命が芽生えたりとかでござるな」
 サイルスは以前変異した蝶の討伐に向かったときの、祈りによる小さな小さな芽生えを思いだしていた。
「私も毒に浸された山の浄化をお手伝いしたことがあります。
 あと種の散布が行われ初めてまだ1年と数カ月ですが、作物であれば種類によってはもう収穫できているかもしれませんね。例えば一年草の薬草とか」
 一輪の花・オリヒメ(a90193)もまた、盗賊団だったある踊り子の一団の事件を振り返えり、女神の愛を感じ取るように種を1つ両の手で優しく包みながら、当時の感慨にふける。
 更生した踊り子たちは今も華やかに公演を続けているのだろうか、彼女らの故郷の薬草園はもう収穫できるようになっているのだろうか、と。

「あら、光の種の思い出話ってところかしらね。ここ、座っていいかしら」
「リゼルさん、案内お疲れ様です。どうぞお座りください」
 その日の案内を終えたリゼルが酒場の入口近くに座っていたオリヒメたちを見つけ、四角いテーブル席の1つにつき、ウェイターが置いた水を一口飲む。
「みんなは、何処に種を植えにいくかもう決めたかしら」
 そのリゼルの問いかけに真っ先に答えるサイルス。
「拙者はプラネットブレイカーの隕石が落下した西ドリアッド領の海岸に向かおうと思っているでござる。元々ソルレオン王国とは親しい間柄でござるからな。これも王国冒険者の努めでござろう」
「そう。さすがに地形を修復する程の力はないそうだけれど、それでも地上はもちろん海底にも光の種の力は及ぶそうだし、クレーターも植物たちが徐々に癒してくれるでしょうね」
 次に答えたのはオープスト。
「そうだなぁ。俺は……覚悟を決めて旧モンスター地域に行ってみようかと思う。あそこもモンスターやらミュントス略奪部隊やらで爪跡がひどいだろうかなぁ」
「あの時は心に痛い事を住民から言われた冒険者もいっぱいいたわね。大切な家人を奪われた人たちには私たちは永遠に受け入れてはもらえないかもしれないけれど、それでも私たちが守るべき人々だものね」
 男2人が答えた後もオリヒメはまだ悩んでいた。悩む彼女にリゼルはいくつかの選択肢を例としてあげる。
「グドンたちが食い荒らした傷だらけの森と荒野が広がる旧グドン地域、トロウル族が隆盛を誇っていた時に搾取され続けていた旧トロウル領、かつてアンデッドが跳梁跋扈していたがためにほとんど人が住まない荒野広がる死者の国の入口周辺、他にも候補は色々あると思うけれども、どうする?」
「私は……死者の国の入口周辺に行こうと思います。
 荒野ではなくなるまでは時間がかかるかもしれませんが、大陸の真ん中が豊かな大地となって、それが周囲に広がっていくのはとっても素適なことだと思うのですよ。
 ちょっとした夢、なのですけれども」
 現実的な男性陣とは対照的に、夢を理由に選んだことを話したオリヒメ。恥ずかしかったのか顔が赤くなる。リゼルはそれを優しい口調で想いを支持した。
「素適な夢だと思うわ。将来住みやすい土地になった時、大きな街がそこにできるかもしれないわね」

 リゼルはゆっくりと席を立ち、すでに光の種を手に入れている冒険者や支援を手伝おうか悩む冒険者に向けて鼓舞と懇願を込めて大きく声を張り上げる。
「この復興支援はきっと数年後、数十年後の私たちのためになるはず。
 みんなが抱く夢や信念に従って活動してほしいと思っているわ。
 だからみんな、よろしくお願いするわよ!」


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参加者
NPC:一輪の花・オリヒメ(a90193)



<リプレイ>

●旧モンスター地域
 村の人々を集め、種を植えて祈りを捧げる。目を開けた時、そこに芽は出ていなかった。
 失った信頼を取り戻すのは努力の積み重ねしかない。ミュントス略奪部隊のから村を守った時にそれを教えられた。
 だから彼は根気よく村の仕事を手伝い、病人がいれば診察し薬を煎じる。人々に再び信頼してもらうために。
「見せてごらん」
 足に怪我をした泥まみれの少女。怪我そのものは大きくはないが何ら手当をされていない。彼は優しく少年の緊張を解き治療の術を用いる。
「……ありがとう」
 少年は小さな声で礼を言った。

 現在、人の領域に現れるのは、外から彷徨い出るモンスターが大半である。
 そして運悪く出くわしたとも思えるし、人里に被害が出る前に見つかったのは幸いとも思えた。
 風来の翼・リリア(a72539)は魔炎による火傷を治療術で素早く癒した後、同行していた南国の太陽・オープスト(a90175)と一緒に両手杖を振り回して衝撃波を叩きこんだ。2人とも医術士。持久戦にも耐えられる。
 2人は互いに傷を癒しながら彷徨うモンスターを倒し、魔炎に焼かれた土地に光の種を埋めて再生を祈った。

 足元に転がる奇妙な形をした、人間よりも大きな白骨。かつてこの地を蹂躙していたモンスターのものだろうか。
 半分幻の辻斬り・ジョセフ(a28557)は近寄ってそれが動かないことを確認すると、その近くに手持ちの光の種を一粒植えて祈りをささげる。
 生まれる小さな芽生え。大地の復興の一歩。彼はその芽生えを確認すると次の種を植えるべく荒野を踏みしめる。

(「この土地が元の姿を取り戻しますように」)
 空を望む者・シエルリード(a02850)は種を植えながら祈った。失われたものは二度と帰ってこないけれども、この土地の再生を願いながら。
(「遠い未来、ランドアース全体が豊かになっているのかな」)
 そうすれば、人の争いもきっと減って皆幸せに生きられる。そう信じている。

 ミュントス略奪部隊の襲撃により生き残った人々が死んだ人のことを嘆き、阻止できなかった同盟冒険者に対して抱く恨みの感情。
 それは土地自体の消滅により人がいた痕跡すら残していない場所の戦火の爪痕よりはマシとも言えるが、そこに生きる人にとって嘆きが減る要素とはならない。

 暁闇・カナエ(a36257)は、山間にある無人の村に入った。
 更なるノスフェラトゥの侵攻に備えて行われた、死者の祭壇から旧エルドール砦へと到る地域の住民強制避難。この村も対象となり人々は遠方に退避している。
『大丈夫、絶対に戻って来られる。例え私一人でも、何とかするからっ!』
 かつて自身が発した言葉が頭の中でリフレインする。
(「あの時は村の方にも土地自身にも何も出来なかったから。今からでも出来ることがあるのなら……」)
 カナエは村の水場を見つけると、そのそばに種を植えた。

 廃墟の中で残る石畳を、ゴースト・フォッグ(a33901)は足元に注意しながら進む。
 かつて東方ソルレオン王国があった黒桔梗の森近辺。冒険者たちの積極的なクエストにより、森のモンスターはほぼ狩りつくされている。
「あの馬鹿の故郷はこの辺だろうか」
 荒れた町を一通り歩き、フォッグは折れた街路樹の根元に種を一粒植えた。

 月吼・ディーン(a03486)はグヴェンドリン護衛士として護衛士団の管轄下にある村のうち、遠方にある村々を巡っては村長に一粒づつ手渡していく。村長たちは例外なく光りを放つ大粒の種に驚いていた。
 そして懐にしまっていた最後の一粒を手に、ディーンは壊れた柵を越えて踏み込む。
 人が住まなくなった理由すら知られていない廃村。
 この地に真の平和が訪れた時、この廃村にも再び人が住む日が来る。そう信じ、彼は種を村の中央に埋めた。

 ――無人の村や町。モンスターやアンデッドに滅ぼされた町、住人が避難した村――。
 ――世の中がもっと平和になり人が増えればそこにも人が戻ってくる――。
 ――それは願いであり希望――。

「皆さんの故郷を大切にする気持ちが、フォーナ様の奇跡を呼び起こすんです!」
 コンサーティナの・キニーネ(a13906)は種を掲げ村の住民に訴えかけた。村人はやや訝しげに思いながらも、女神の慈愛たる光をじっと見つめていた。
 恋人である真実の探求者・エコーズ(a18675)は途中で彼女と別れて別の村を訪れている。
(「強制退去からも早4年か」)
 感慨に耽りながら彼は村長の家に向かい、種を植えさせてほしいと頭を下げる。まさか冒険者が力ないただの人である自分に平身低頭で頼みごとをされるとは思っていなかった村長は驚き、彼に頭を上げるように申し出た。

 俺達が去った後もこの土地に住み続ける人達の祈りこそが、最も効果があるのではないだろうか。
 真紅の風の自由戦士・ラムナ(a41962)は荒れ地に点在する村々を巡っては、光の種を手に効果を説明して皆と共に祈りを捧げ、村を発つ。
 村人の1人が彼に問うた。なぜ、種を手に村を巡っているのかを。
「戦乱の世を剣と共に生きた俺達の、戦乱の後の勤めだと思ったんだ」
 豊饒な土地という贈り物が、未来を生きる人達に笑顔と安らぎをもたらす事を切に願いながら、彼は次の村の門をくぐった。。

 閃紅の戦乙女・イリシア(a23257)の心には濃い影があった。
 とらわれた人々を助けられず、仲間を炎で焼き殺され、村人たちに罵声しか貰えなかったあの日。
(「今でも私たちの事を恨んでいる人が居るかもしれません。それは仕方のないことです。それでも、未来のために今出来る事をしなければ」)
 イリシアは両手で種がすっぽりと入るくらいの穴を掘った。

 青・ケロ(a45847)は村人と共に畑に鍬を振った。
 あの時避難させた住民はまだ避難先にいるままだった。その地に定住を決めた人も多い。それも一つの選択だろう。
 畑にいた村人と一息ついた後、彼は光の種を取り出して村人たちに説明をし、豊作を願った。

 平和とは単に戦いがないことではなく、人々が安心して暮らせること。
 護りの蒼き風・アスティア(a24175)はその心を胸に大地が笑顔であふれる日を願い、祈る。
 戦いには勝ったけど、平和を取り戻すことはまだできていない。
 その思いは光の種に恵みの雨として降り注がれる。

 円環の治癒師・アルティ(a08063)が村を去る時、種を植えた場所で屈んでいる少年を見つけた。
 先日怪我をしていたのを治してあげた子だ。相変わらず泥まみれなのは変わらないようだが。
 彼が少年のところに行くと、足音で顔を上げた少年はアルティの顔を見るなり何処かに走り去った。やや失望感が籠った溜息をつきながら、彼は光の種を植えた場所に目を向ける。
 そこには小さな小さな芽が、土から顔を出していた。

 ――それは新しい関係の更なる一歩――。

●西方ドリアッド領
「ってかどこに向かう気よっ言いなさいキヨカズ!」
 天下無敵の爆裂拳士・パティ(a20549)は、前を歩く武道刃脚・キヨカズ(a01049)に対しガーッとがなり立てた。
 森の中を延々と歩き、どこに向かっているのかもわからない。大まかにはここが何処かは解る。希望のグリモアから千年世界樹に飛んできたのだから。キヨカズはただいいからいいからとパティを連れて歩く。
 そしてようやく森が開けると、目の前には海岸が広がっていた。
 ここはドラゴンロード・プラネットブレイカーにより隕石が落とされた場所。ドリアッドの護衛士たちが復旧を行っているとは聞いていたが、森や海岸の傷跡が痛々しい。
 ここで
(「種はそうね、キヨカズと一緒の穴に2つ並んで埋めれたら……ってぎゃぁぁぁぁ! この天下のパティ様ともあろー者がなに乙女チックなこと考えてるよ!」)
 脳内一人劇場を演じているパティ。真っ赤な顔をキヨカズはきょとんと見つめる。
「み、見世物じゃないんだからね! どーしてもって頼むなら、一緒に埋めてやってもけどっ」
 そそくさと穴を掘り、種を埋める2人。
 キヨカズはさらにいくつかのビンを並べ、そこに1つずつ光の種と手紙を入れて封をし、全力で沖に向かって投げた。
「あの手紙、何て書いてたのよ」
 キヨカズは笑いながら、そっとパティに教えた。
『何年後になるかわからないけど、この種が行き着く地が豊かになることを祈ります。同盟諸国 キヨカズ&パティ』

 西方ドリアッド領海岸。プラネットブレイカーの隕石の被害に対して手を上げた冒険者たちは、種を植えに行くドリアッド冒険者の先導で纏まって被災地に向かっていた。
「おや。もう2人ほどここを希望していたように思ったのでござるが、いかがしたのであろうか」
 ソルレオンの忍び・サイルス(a90394)が同行者の人数を数える。思ってたより足りない。そして冒険者の1人に耳打ちを受ける。
「そ、そうか。まぁ人の恋路を邪魔する奴は、グランスティードに蹴られて何とやら、とも言うでござるしな。ゴホンゴホン」
 サイルスは落ち着きなく視線を左右させた。

「あの場所は、まだ復興されてないのですね……当然といえば当然ですが」
 レルヴァ周辺の地図が描かれている大樹の護符とレルヴァ遠征時の記憶を頼りに森の道を案内した白薔薇姫・フェア(a34636)は、道中休憩で村を経過したところで復興の様子を確認し、彼女は森の北部へと向かう。
 トロウルが進軍の為に伐採した跡。植樹を行ったとしても木は数年で育つものではない。だが、光の種ならば。
 フェアは否応に思いだされる撤退戦の苦い記憶を頭から無理やり追い払い、そこに種を植えた。
(「壊すのは一瞬だけど、森はすぐには生き返らないから。せめて、少しでも早く希望が芽吹きますように」)
 そして手持ちの種を一つだけ残し、彼女は皆と合流するべく海辺へと向かった。
(「帰ったら故郷に木を植えに行こうかな。燃え尽きたあの森に……何の償いにもならなくても 」)

「そこもひどく荒れているなぁ〜ん?」
 ヒトノソリンの武道家・エイビィ(a75149)はドリアッドにいくつか種を使うべき場所を聞き、皆と別れてそれらを回ることにした。できるだけ他の人と場所を被らせずに行けば、それだけ大地の復興が早くなると思ったからだ。
「地形は戻らなくても、前よりも豊かな土地になって、怖い思いした人たちが、ここに住んでてよかったって思う土地になりますようにって、いっぱいいっぱい祈るなぁ〜ん 」
 エイビィは教えてくれたドリアッドに礼を述べ、元気よく走っていった。

「ありがとうございます」
 狩人・ルスト(a10900)は先導してくれたドリアッド冒険者に礼を述べ、浜辺を歩く。
 そして種を植えた後、一人物想いに耽った。
(「成し遂げられなかった事、救えなかった命、か」)
 ドリアッドたちから被害の詳細は教えられていないが、ルストは歩んできた冒険者の道での苦い思いを振り返った。彼も燦然と輝く成功のみの道を歩んできたわけではない。
(「私がここまで来る事が出来たのも頼もしい仲間がいたから。そして、だから私はこれからも進む事ができるのでしょう。きっと」)

「どういたしまして」
 途中別れた仲間から森の先導を引き継いだ後、春待歌・サリエット(a51460)は到着時の仲間からの礼に軽く返礼した。
 彼は復旧活動を続けているドリアッドの1人と交渉し小舟を1隻借りる。小舟に乗り沖に出ようとしたところで、2人の女性が声を掛けた。
「あなたも、海に出るの?」
 護風桂花・ティーシャ(a64602)。彼女もまたドリアッドだ。
「うちらも一緒に行かせてください」
 隣にいるのは包帯クイーン・アス(a70540)。こちらはセイレーン。
 同行を申し出る彼女たちにサリエットは同行を承諾をする。
 ドリアッドの2人は共に同族の済む地が気になり、アスは隕石を防げなかった後悔の念から、光の種を携えて西方ドリアッド領にやってきた。
「これで帳消しに出来るとは思って無いけど……」
 アスは祈りを込めながら静かに種を沈める。彼女の言葉を聞き、サリエットは想いを語った。
「元に戻るには遥かな時間が必要でしょうけれど……、再び海の中と海岸が、豊かな森に覆われることを願いましょう」
「そうですね……。どれほどかかるか分かりませんが、それをこの目で見守っていきましょう。私たちなら、それができますから」
 ティーシャはそう言って控えめな微笑みを携えた。
 できるだけ広範囲に、できるだけ隕石の落下場所に近く。小舟で出来る範囲で3人は海に種を撒いて行った。

「レルヴァの結界へ向かわれるのは、貴方がたでしょうか」
 東からやってきた3人の冒険者を、杖を手にしたドリアッドの女性が迎える。
「お願い、できますか」
 灰色の貴人・ハルト(a00681)の確認に女性は、穏やかな笑みを浮かべた。
「はい。同盟諸国の皆さんをご案内するのが、私の務めですから」
 ハルトたち3人はノルグランド傭兵大隊の人間としてある事を成すためにレルヴァへと案内をしてくれるという村を訪れた。
「目的地へまっすぐ進むのではなく、村をいくつか巡って様子を見せていただきたいのです。……トロウル侵攻時に被害にあった村を」
 青の天秤・ティン(a01467)の申し出に女性は淡々と承知の意を伝える。
「ここはだいぶ復興していますね」
 1つ目に訪れた村は無事に復興を遂げていた。半数近く残った村人たちが頑張ったお陰です、と女性は告げる。
 2つ目に訪れた村は、村人の姿がなくただ家がいくつか点在するのみ。
「ここは……?」
 阿蒙・クエス(a17037)は帽子を深く被り表情を隠す。村人全員が贄とされた村です、と女性は淡々と告げた。
 3人は隊が戦った道を辿る。先のような村だった場所、切り倒された森。それらに手持ちの種を植え、祈る。
(「大メロス。デューイ。レイステル。ヤークト。シファレーン……」)
 そして隊の仲間たちが死んだ地。それらに種を植え、秘蔵の銘酒『獅子殺し』を供える。
 そして、一本の桜の木の前に彼らは並んだ。
 それはエリーゼの墓標。
 桜の木の根元でティンは獅子殺しを開け、カップ一杯分をそこに注ぐ。
「色々あったが概ね上手く行ってるよ。なんでゆっくり寝ててくれな」
 クエスはそう言って帽子を取った。
「ここまで来れたのはあなた達のお陰だ……ありがとう」
 ハルトは木の前に一輪の花を献花した。

●旧トロウル領
 村の広場から聞こえる穏やかな曲に村人たちは誘われる。
 月笛の音色・エィリス(a26682)が笛で奏でるメロディに、朱の蛇・アトリ(a29374)がリュート伴奏し、泡箱・キヤカ(a37593)がカスタネットでリズムを刻む。
「何かご希望の曲はございますか?」
 一曲を終え、アトリが独奏曲を奏でる中、エィリスは村人たちから曲を募る。リクエストされたのは幸せになれる曲。3人は虹をイメージした即興曲を村人に贈った。
「素晴らしい曲をありがとうございます。ところで冒険者の皆さま、何か事件があったのでしょうか」
 何曲か演奏が終わった頃、村長が進み出て曲の礼を述べると共に冒険者たちに用を尋ねた。何か事件が起きたのかを心配しているらしい。
「あぁ心配いらね―よ。そうじゃない。女神フォーナ様からの届け物を持ってきたんだ」
 アトリがぶんぶん手を振って心配事を否定し、懐から光の種を取り出した。
 おっきー! 光ってる! と見たままの感想をいう子供の頭を、スゲェだろ? と言いながら彼は優しく撫でる。
「これは埋めて祈りを捧げることで大地を豊かにする魔法の種なんです」
 光の種の説明をした後、皆さんはどんな大地になってほしいですか? とキヤカは問いかけた。

 トロウルたちに支配されていた時、支配下にあった村は非常に貧しい暮らしを送っていた。
 特に後方で村落の統治に当たっていたのは、戦列に立つことを許されぬ勇者非ざるもの。我が物顔で領地を治め、搾取する者も稀ではなかった。

 罪を背負いし優秀なる劣等生・カスミ(a40120)は道中、同じ目的、同じドリアッドで旧トロウル領へと向かう歳下の冒険者、親の顔を知らない・カトリーヌ(a75641)と出会い、2人で復興支援を行うことにした。
 カトリーヌは旅をしながら顔も知らない親を探しているらしい。カスミにも娘がいた。産んですぐ離れ離れになった娘。
 カスミは種を埋めながら、ここに森が生まれる様を想像する。そしてここに小さな家を建て、村を助けながら、ライフワークとして同盟諸国の歴史を執筆する、そんな夢を見る。
「ねぇあなた。ここに家を建てたて、森が育つのを見つめながら一緒に暮らしてみない?」
 そんなカスミの軽い問いかけに、カトリーヌは言った。
「そうね、お姉さんのこと気に入ったし、もうちょっと冒険してから考えるわ」

 戦刃峡谷から南の村々を、深き海と森の詠唱者・エウリューシア(a44181)は巡る。煙突から出る白く柔らかい煙。長閑に鳴く家畜。
 彼女は次の村への道を尋ねる時に、さりげなく村人に今の暮らしを聞いてみる。細々とした生活ながらも恐怖から解放され、今は幸せのようだ。
 全ての村が同じわけでもないが、少なくとも怯えの色はない。
 エウリューシアは実りの少ない畑や荒れた土地に、種を埋めて回った。

 村に種を植え、形無しの暗炎・サタナエル(a46088)は舞う。
 荒れた大地が、豊な実りと潤いに満ちた恵みの大地になる様に。
 これからこの地で暮らす人々が、毎日美味しい食事をお腹いっぱい食べられるように。
 今もまだ弱いけれど、これからもグリモアの誓いを精一杯護る事を誓って。
 これは豊穣を願う祈祷の舞い。そして、あの日あの時この場所で失われた村人の鎮魂の舞い。

 治療士・エノン(a68487)は他の冒険者と被らないようにと荒れた土地を探して1人流離う。
(「トロウルに搾取され荒廃した土地ですので、種を蒔くに十分値するでしょう」)
 事実、何も育てられずに雑草を生やすのみの畑、過度の要求に答えるために大地の再生力以上に植物を焼いた跡も見られた。
 エノンはそんな土地に種を蒔き、繁栄を願う祈りを捧げる。

 コツコツと土地を耕す、花織りの舞・ピアニー(a74215)。
 広い範囲で土を柔らかくしては、その中央に種を埋める。
 搾取されるためじゃない、自分たちが愛でるための緑の大地。
 いくつか生まれる小さな芽生えに満足し、別の土地を耕しに行く。
 豊かな未来になるように一緒に祈りましょ? 大丈夫、希望を胸に抱いたままなら、きっと叶うわ。
 希望の未来に、凱歌を贈るわ。

(「自然が戻っていない場所は、まずここか……」)
 プーカの医術士・キュア(a79254)は村人から話を聞いて荒れ地の場所を地図に書き込んでいく。その中で近いところから彼は回る。
 現地に到着次第、早速種を埋めて祈る。
「早く森が元に戻りますよーに! そしてみんな平和に暮らせますように!」
 これで僕も未来の為に役に立った! 多分!! と心の中でガッツポーズをとり、次の場所へと向かう。
 ソルレオンのおじさん達と一緒にみんながトロウルと戦ってた時、僕は何もできなかったけど、今ならこの「光の種」がある。
 あの時にできなかったこと……今やってみせるよ!

 トロウルとソルレオンの係争の地。不羈の剣・ドライザム(a67714)はボルテリオン城砦周辺の古戦場を訪れた。
 地面には焦げ跡や窪みがいくつもあり、ここで行われた戦いの苛烈さを窺わせる。
 召喚獣を駆り、彼はこの景色を目に焼き付ける。もうこの景色も今日で終わりだ。
 焼けた大地に、彼は種を埋めた。
 土地が豊かになって平和な森や草原に育ち、不要になった城砦を中心に村や町ができる様を想像しながら祈る。
 戦いや諍い、悲しみや苦しみ、怒りや憎しみ、それらが全て教訓としての記録としてのみ語られる日が来ます様に。

 未来で笑顔が咲き続ける助けになりますように。
 愛する仲間とその大地でいつまでもいつまでも暮らしていけますように。
 時をこえて、また皆で出会えます様に。
 祈り終え、生まれる小さな芽。
 冒険者たちは再び曲を奏でる。みなが幸せになれる未来への曲を。

●剛力の聖域
(「どれも、小さいですね……」)
 氷剣探求者・ニール(a66528)は畑に実っている小さな作物をそっと触りながら、心の中でつぶやいた。
 剛力の聖域近辺の山に住まう、トロウルたちの村。旅団『蛍火幻灯』の団員を中心とした数名の冒険者たちは、旧トロウル領よりもさらに北西の地を訪れていた。
「レイちゃん、このへんでいいかなぁ?」
 天穹風花・クローネ(a27721)は種を埋めのによさそうな畑を見定めると、団長である久遠槐・レイ(a07605)の姿を探すが、姿は見えない。
「レイさんならトロウルの方々と話をされにいきましたよ」
 クローネの様子を見て、ニールがレイの行き先を教える。
「じゃあここでいっかなぁ。いいよね?」
「ええ。田畑には積極的に埋めて大丈夫でしょう」
 種を埋め、クローネは地面に両手をついて祈る。もう争いが起こらないように、この地が花でいっぱいになりますように、トロウルの人たちと仲良しになれますように、と。
 ニールもまた、彼女が埋めた種に共に祈った。人の心も豊かになるように、少しずつ打ち溶け合って、いろんな人たちの集まる土地になるように、緑と花でいっぱいになるようにと。

 トロウルたちの畑にはそんなに作物が成っていない。それはトロウルたちの住まいが険しい山間部に位置し、作物育成には不向きの土地であるため。
 とはいえ、トロウルたちがひもじい思いをしているわけではない。それは皮肉にもトロウルの人口が今の実りで賄えるからである。

「この光の種を植えれば、女神フォーナ様のお力で荒れた土地が少しずつ豊かに代わるのだそうです」
 レイの説明に、集まっているトロウルの一般人たちは素直に頷く。彼らの反応は同盟領の一般人たちと変わらない。それは彼女ら「蛍火幻灯」の活動もあるのだろう。
 ふとトロウルの1人がレイに尋ねた。なぜここまでしてくれるのかと。
「トロウル冒険者は全て死なせてしまったから……、だから彼らが本来する筈だった事を引継きたいって想ったの。今居るトロウルの人達への恩返しが理由かな。私達を信じて、剛力のグリモアを託してくれたわけだから」
 トロウルは納得したのかどうかはわからないが、一言礼を言った。

 そしてその反応は特定の旅団員にだけ向けられるわけではない。
 小さな薔薇の笑顔・ニンフ(a50266)は一つ一つトロウルの村を訪問し、光の種を撒いていった。
「皆で頑張ればきっと豊かな土地になるなぁ〜ん。だから一緒に祈るなぁ〜ん」
 彼女の言葉にトロウルたちは共に祈る。
「あら、仲がよろしいですのね。よかったら皆さんご一緒にお茶でもいかがかしらん」
 村に居合わせた隻眸の黒蛇竜・シアーズ(a30789)は、ニンフとトロウルたちとその場で即席の茶会を開く。いままであまりトロウルたちと話をしたことがなかったため、色々近況などをうかがうためだ。トロウルたちは贅沢こそできないものの、まずまず順調らしい。
「ところで、ニンフちゃんはどうしてこちらにいらっしゃったのかしら。よろしければ教えてくださらないかしらん?」
 ニンフにシアーズが尋ねる。トロウルの被害にあった土地に赴く冒険者はいるが、旅団外でトロウルたちと積極的に関わろうとする冒険者が珍しかったからだ。
「ニンフ、この世界、この世界に生きる皆が大好きなぁ〜ん。もう戦争が終わったから、皆仲間なぁ〜ん。だから豊かにしに来たのなぁ〜ん」
 その言葉に、質問をしたシアーズやトロウルは喜びで口元を綻ばせた。

 砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)は「蛍火幻灯」に所属しながらこちらにこれない仲間に代わり、旅団に協力を申し出ていた。
「この付近の地図があればそれを頂きたいのだが」
「そうね、この辺の簡単な地図だったらあるわ。これでいいかしら」
 レイに手持ちの地図を借りたデューンは、湧水や川など水源になる土地を確認してそこに向かう。
 そしてその地に種を植えて祈った。種の恵みを受けた水がより遠く、広範囲に流れ届いて大地を潤し、豊穣の実りをもたらしてくれる事を。
 デューンは新しい芽が出たことを確認すると、別の水源に向かって足を運んだ。

 聖剣の騎士・アラストール(a26295)は、種を植えながらトロウルたちに尋ねて回り、トロウル領にて大神ザウスが座していた場所を訪れていた。
(「この地で、ザウス神はトロウルたちのことを、彼らが住まう地をどう思ってみていたのだろう」)
 忠実で純粋であるように作られたと作られた愛し子。彼らが豊かな自然と共に暮らせればいいのだが。
 彼女は御座の前に花を捧げ、そして誓いを立てた。
 我等はこれからも貴方の代わりに世界を守り行く末を見守ると。

 哲学する弓手・バスマティ(a43726)は種をいくつかトロウル達に託した後、思索に耽っていた。
 トロウル達はかつて、搾取と征服を望んだが故に今に至る。だが、その根幹にあったのはこの土地の齎した困窮だったのではないか、と。
 同じことは他の地でも見られる。リザードマンの侵攻もノスフェラトゥにそそのかされたとはいえ、豊かさを求める部分が大きかった。またエルヴォーグのノスフェラトゥの中にも地上の豊かさを求めるものがいた。女神フォーナが説得を依頼する盗賊など、その最たるものだ。
 貧しくなれば豊かなな土地を奪おうとする。
(「だからといって罪が許される訳ではないが」)
 いかなる理由があろうと罪は罪である。幸せを手に入れるために誰かを不幸にするのは許されることではない。
 だがトロウル達の数が増えれば、今とれる作物では賄いきれなくなるだろう。そうなったとき、彼らはどう動くだろうか。
 未来の火種はまだ消えていない。
 だから、そうならないように豊かにしなければならない。
 彼は思索を止め、種を撒きに出た。

 支柱に支えられた植物の脇で、新しい作物の芽が生える。
 もう二度と戦争が起きないようにと願う人々の、文字通り大平和の種。
 彼らに大地の祝福があらんことを。

●北方セイレーン領・チキンレッグ領:空中要塞レア
 大神ザウスとの戦い。
 墜落する空中要塞レアを多数の犠牲により墜落場所をずらし、ランドアース北東部の海域に導かれた爆発した要塞は北方セイレーン領とチキンレッグ領の半島や岬の一部を巻き込み海の地形を大きく変えた。
 周辺地域の避難は両王国の護衛士たちによりほぼ完了していたとはいえ、今なお残るクレーターの縁が今なお痛々しい。
 冒険者たちは2国の側へと希望のグリモアより転移した後、海岸沿いに移動した。

「この辺も取り立ててモンスターやドラグナーはいなさそうですね」
 深き森の求道者・セライア(a52184)は村で困りごとがないかを尋ねるも、取り立てて冒険者が出なければいけないような難題は今のところないらしく、ひとまずの平和を満喫しながら、旅団「誓約の剣」の仲間たちと行動を共にしていた。
 彼らは北方セイレーン領から海岸沿いに南下し、チキンレッグ領に向かいながら被害の情報を集めていた。
「特別貧窮しているような村とかは今のところとなしか。王都の目が届きそうな場所だと立ち直りも早いのかもしれないな。商売が盛んな国というのもあるのかも」
 ヒトの武人・ヨハン(a62570)が地図を手に、訪れたところを記入していく。現在、彼らは北セイレーン領の王都と国境の中間にいるらしい。
「それでもさすがに都から離れると所々、被害の跡が見えますね」
 元々そこにあったであろう木々が根元を残して消滅していたさまを見た春陽の・セラ(a60790)。種を植えて祈りを捧げてきたので小さな森ひとつくらいならば数年で蘇るだろう。
「ここも、荒れてますね」
 華凛・ソウェル(a73093)が見つめる先。大きな焼け跡がそのまま海に向かった伸び、絶壁の崖で途絶えている丘。
 冒険者たちはそこに一つ種を植えることにした。
 彼らは光の種と共に、いくつかの野菜や植物の種を撒き、祈りを捧げた。
(「どうかこの先誰も飢えずにすむ時代がきますように」)
(「皆が安らかな日を過ごせるように」)
(「未来の全ての人々の為に、一日でも早く緑が戻りますように」)
 祈り終え、生まれる新芽。それは一つではなく種の数、いやそれ以上。
 セライアはふと、海に目を向けた。レアが落ちたであろう方向。そして静かに黙祷を捧げる。

(「ザウス様。そして皆さん。大昔より続いた長い戦いに、僕らが終止符を打ちました。
 以後、僕らは二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、平和を築いていくことが出来ると信じています。
 ですので、どうか、安らかにお眠りください」)
 海岸線を見つめ、レア墜落の方角に向かい一礼する記憶の演奏者・カズハ(a01019)。ザウスに祈りを捧げながら彼は海岸の縁から海に向かい一粒の種を落とす。

 迦陵頻伽の囀る空に・ツバメ(a32416)はシャベルを手に土を柔らかくし、穴を掘ってその中に種を置く。
(「この大地が未来永劫愛されますようにと祈りながら」)
 旅芸人の一座に生まれ故郷を持たないツバメ。冒険者として関わることが多かった両国は彼女にとって故郷も同じであった。
 その故郷を緑豊かな場所にしたい。その願いと共に彼女は土を優しくかぶせる。
 そこにあったはずの大地。生えていたはずの草木。温・ファオ(a05259)はそれらを想像しながら、海に向かい種を投じる。
(「人々の祈りも、神からの光も、あまねく世界を照らして…優しい大地が、希望の光と共に末永くこの世界に在ります様に」)
 植物が生まれ大地に戻ることを繰り返し、望むならばそこが元来以上に緑眩い大地として現れることを、ファオは祈る。
 この光が失われた大地を育む一助となる事を。
 共に大地の再生を願い、2人はすれ違う。

 グランスティードを駆り、銀の剣・ヨハン(a21564)は海岸を駆け巡る。
 大地こそ削られなかった場所でも、元々人里から遠い場所では爆発によりなぎ倒された木々などがそのままの状態になっていたところもあった。そんな酷く荒れている土地に彼は種を植える。
(「あの時託された希望は神の懸念を払拭する程大きくなりました。まだまだ油断は出来ないし困難もあるでしょうけど、努力を続けて乗り越えて見せます。ですから安心して見ていてください」)
 祈りとともに込められた、命を賭して要塞を動かし散った冒険者たちへの報告。世界は着実に希望が広がっている。

 黄昏の翼・リディア(a18105)は多くの酒と一束の花束を大切に抱えながら海岸に来た。既に手持ちの種は埋めてある。
(「父様、あなたが大神と海に消えてから2年と少しがたちました。ここにくるのが遅くなったこと、赦してください。
 お待たせした分お土産にあなた好きだったお酒をたくさん持ってきました。あなたの願った永い平和の時代への希望を大きくすることが出来ました。だから怒らないで下さい。
 まだ私は直接会いに逝く事は出来ないけれど、逝った時は、そのときはたくさん褒めてくださいね」)
 神との戦いで命を落とした義理の父。父に語りかけながら、娘は小舟に酒瓶と花束を乗せ、沖に向かって流した。
 リディアが小舟を海に向かい流すところを、弥終・セリハ(a46146)は遠くで見ていた。
 セリハにはリディアが何をしていたのか察しがついた。彼がここを訪れた理由も同じだからだ。
 そっと種を埋めつつ、彼も感傷に浸る。
(「あの海から一番よく見えるこの場所が美しく在るならば、この大地を護ったことをより誇れるのではないでしょうか」)
 波の音に心を任せ、セリハは故人を思う。だが当時の彼との関係を思い出し。
「……らしくない、ですね」
 口に出すセリハ。我ながら感傷は似合わないですね、と感傷をふっ切る。
 言いたい事、募る話は、何時か遠い未来で再び相見えるその時に。
 海に背を向け、彼は迷いなく次の冒険に向けて歩む。

 蒼く揺れる月・エクセル(a12276)はチキンレッグ王国の海岸にて、神との戦いを振り返った。
 ザウスの元にあったギア、ミディアムやウェルダンに蹂躙されレアの爆発で削れた土地。ドラゴンロード・ブックドミネーターの力により再度発生した蒼氷ギアの災害。
 彼女は種を一粒海岸線に植えた後、王都バーレル方面に向かいながら、途中の村を訪れては村人たちと共に種を植えた。
「……大地に希望と命が蘇りますように」
 漁師や村人たちとともに捧げる祈り。祈り終え、生活に戻る彼らの後ろ姿を見てエクセルは思う。この世界のなにげない日常、それ自体が希望なのだと。
(「エクセルさんだ」)
 気儘な南風・フェリアス(a60497)は海岸地帯で種を植えた後、今の生活がどうかを聞いてみたいと思い、村々を巡っていた。
 ある村でエクセルと出会い、互いに手を振ってそのまますれ違う。
 海岸一帯の人々の暮らしは概ね順調のようだ。レア墜落からしばらくは海から塩しか採れなくなっていたが、あれから僅かながら海の生き物も増えたらしい。
 だがまだまだかつてほどの量はとれず。フェリアスは更なる復興を願い、種を浜辺に植えた。
 一方で海から野に暮らしを変えた人達もいる。
 チキンレッグの重騎士・グラン(a63965)が訪れた村では農家の人々が話し合いをしていた。畑の収穫が芳しくなかったらしい。
「これを使いましょう」
 グランが取り出した光。豊かな力ある大地へと変える種と聞いて村人たちは目を閉じて共に祈る。そして顔を上げるとそこにはこれから大きくなろうとする葉野菜が生まれていた。
 この変化が広がるのもそう時間はかからないだろう。そう言ってグランは次の村を巡る。

 玄天卿・クリス(a73696)がとある漁村で小舟を借ようと村人と交渉をするが、その漁師は既に他の冒険者に船を貸したから残っていないと断った。それもつい先刻の事だという。
 クリスがその冒険者を探すために海辺に出て見つけたのが金剛を目指す・ヒイラギ(a49737)だった。
 ヒイラギは元バーレル護衛士として海の荒れ様を悲しんでいた。クリスは故郷の近くの被災地には既に埋めており、広範囲に女神の祝福が行き渡るよう、残りの種を持って海に来たのだ。クリスとヒイラギは少し話し、一緒に海に出ることにした。
 2人は少しでもクレーターの中央へと向かうべく櫂を漕ぐ。そして海に向かい種を落とし、破壊の爪跡が深いこの海が将来海草が繁茂し魚介類の豊富な豊な漁場になる事を祈った。
 ヒイラギは一言、海に向かい告げる。
「有事の際には、某達や将来の冒険者に委ねるが良い」

 優しい光を放ちながら、種は海の中へと沈んでいく。
 小さな光は、海底にぽとりと着地した。海を落ちる中で受け取った祈りが種に力を与える。
 そして岩と砂だらけの海底に、海の植物が芽吹いた。

●旧グドン地域
(「やはり、荒れたままなのですね……」)
 執行者・エッセン(a52445)は、荒れ果てた森や大地をその目で見て、心に沸く虚ろの感情を感じとった。
 食べられるものなら何でも食べるグドンたちにより樹皮すら剥がされ、森からは命の気配をほとんど感じない。
 そのグドンたちも同盟諸国が全冒険者に発した掃討作戦により数を大きく減らしている。
 だが、それでもこの地に命の気配は戻らない。失われたものはそう簡単には戻らない。

 夏越・ポーラリス(a11761)の胸に占めるのは、寂寞の感と懐かしさであった。
 エギュレ神殿図書館に転移したとき、あの時の戦友の後ろ姿をそこに見たからだ。
 皆が示し合わせてこの地に来たわけではない。恐らく他にもここで活動している戦友達がいることだろう。
 彼は声を掛けることはしなかった。言葉にしなくても、通じる思いはある。
 彼はこの荒れ果てた大地に緑が溢れ、生命が豊かに息づく事を願い、種を一粒埋めた。
 かつて部隊を共にした戦友達の元へこの光が暖かく届く事を願い、種をもう一粒、光の種を埋める。
 そして、芽が顔を出した側に、金木犀とミモザの種を埋めた。

 紫晶の泪月・ヒヅキ(a00023)は振り返る。あれから4年が経つだろうか。グドン地域強行探索部隊としてこの地域の調査を行ってから。
(「もう地図上には『グドン地域』という場所は無くなってしまったけれど、大地に刻まれた傷跡は前のままなのね……」)
 光の種をその場に埋め、ヒヅキは祈る。
 ひとの手で生み出された滑稽で歪んだ場所が、本当にこの地から無くなり祝福で満たされるように。
 小さく芽吹く新たな命。彼女はそれを確認し、そしてこの地で別れた仲間に向けて報告する。
 漸く戻ってこれました。貴方達のお陰で繋がれた道が今ここに繋がっています。

 外皮を剥がされ湿気で黒ずんだ肌を見せる樹木。枯れて葉を散らした木が目立つ森。濁った沼。
 かつて何度か訪れたときの記憶を手がかりに彼は進んだ。記憶は昔歩いたこの場所を鮮明に覚えている。そうでなければ簡単に命が消し飛ぶ環境だったから。
 永遠の旅人・イオ(a13924)は、資源に成り得る場所を求めて森を訪れた、森の何か所かに種を植えて祈る。
(「枯れた森が生き返って、濁った沼が湖になって。生き残る事すら命懸けだったこの場所でも、いつか温かい暮らしが送れる様に……」)
 そして、それを見届けて、ずっと護っていける様に。

(「ここでかつて戦った仲間達も、だいぶ……もう共に戦うことはできなくなりました」)
 願いの言葉・ラグ(a09557)の脳裏には今でも探索部隊のメンバーの顔が浮かぶ。だが、探索帰還後の幾つもの戦いの末に当時の仲間達は1人倒れ、2人倒れ。
 森の奥地。湿地帯を超え、その先に広がる奇岩地帯。そこは、かつて見た景色と変わりく、ただ数々の奇妙な岩と荒野が広がる。
 ここにお置いてきてしまったもの。ラグはそれを探そうと荒野を進む。
 あの人たちを、それ以外のたくさんの人たちをも礎にして……花が咲くのですよね。
 ラグは奇岩の荒野に種を植えて願う。
 どうぞ、もう命の奪われない土地にと。

 荒涼とした岩と僅かな草や木が生える岩砂漠地帯。エンジェルの重騎士・メイフェア(a18529)の記憶のままの景色。
 4年前の張り詰めた緊張感の糸が今、切れる。
 心の底に閉じ込めていた永遠の別れの悲しみが脳天まで駆け抜け、彼女は膝をついて号泣した。
 誰かに聞かれても構わない。一生分の涙を流しつくす。そんな勢いで泣いていた彼女だが、やがて心を落ち着かせて立ち上がる。
(「きっと、この場所を見るたびに私達は思い出してしまう。だから……」)
 だから光の種よ、こんな光景は変えてしまって。誰も悲しみを思い出さずにすむように。全てを緑で覆ってしまって。

 ダンディ・クロコ(a22625)は光の種と取って置きの酒を懐に、奇岩地帯を彷徨う。
(「あいつらの最後がどんなものだったのか、しっかりと見届けなければ」)
 向かい風から目を庇いつつ、クロコは奇岩地帯を進む。
 柱のような岩が立ち並び、鳥の巣を連想させる大きな穴が岩のそこら中に穿たれている。彼はその穴の中も手が届く範囲で一つ一つ確認していく。
 無ければ無いでそれで良い、どこかで何もかも忘れて平和に居てくれるならその方が良い。
 それは心に抱く、ささやかな願い。だが、現実は非常に苦いものであることを彼は知っている。
 夜を迎え、星空の元。彼は疲れ果てた体を起こして種を埋めて取って置きの酒をそこに流した。
 大地と共になったのなら、大地ごと酔えば良いさ。久々の酒と、これからの平和に、思う存分酔いしれれば良い。

 奇岩に登り、蒼翠弓・ハジ(a26881)は荒野を眺めた。
 見渡す限り広がる、数々の岩の突起。まるで岩の林のようにならぶ手前の岩が邪魔をして、その影に何があるのかを見させない。
 岩を降り、少しでも開けた場所を探して歩く。冒険者として出会った人たちの思いを胸に。
 頭に過るのは帰らなかった人達、遠くに行ってしまった人達、開拓村の人達、大好きな人たち。
 絶景の場所を見つけ、彼は種を植える。金の貝殻と銀の御守りを手に、祈った。
 いつかまた皆でここに訪れたとき、緑なす風の中で笑い合える様にと。
 小さな芽生えを確認し、少年は立ち上がる。
『まっすぐ、そのまままっすぐに行け』
 心に聞こえるのは、金の貝殻の元の持ち主の言葉。彼はその言葉を胸に、未来の為に歩きだした。

 清閑たる紅玉の獣・レーダ(a21626)は照明に明かりを灯し、洞窟の中を足元に注意しながら歩く。
 コツコツと響く彼の足音。それ程長い洞窟ではないはずだが、1人で訪れたここは何故か長く、そして寂しく感じられた。
 歩む先に光が見えた。外の光。歩く速さを上げ、外に出る。
 そこにはただ、何もない広い谷があった。ギガンティックピルグリムの姿はもちろん、ピルグリムワームも、白い糸もなにもない。
 彼は谷を滑り降り、谷底に種を植えた。そして誓いを立てるように祈る。
 この地にいつかたくさんの花が、緑が、満ちる優しい場所になるようにと。

「古代ヒト族のものとはいえ、図書館は貴重だと誰かが言っていましたなぁ〜ん」
 楽園の大地に生きる・サーリア(a18537)エギュレ神殿図書館に到着するやいなや、召喚獣の機動力を生かして周囲を探りに出た。
 図書館周辺も他のグドン地域の例に漏れず、そこには荒れた土地が広がっている。
 彼女はまず川を探し、その近くに種を埋めた。
「遠くない未来に、この地がまったりな平和になることをお祈りしますなぁ〜ん」

 旧グドン地域の中でも死者の国入口に近しい場所。外縁に位置するためかグドンによる被害は少なく鳥獣の姿もある。
 透硝華・ハル(a20670)がいるのは対ミュントス特務部隊として過ごした森。
 泣いたり、笑ったり、ひもじい思いもしたり。この地で過ごした思い出が彼女の心に沸き立つ。
 そして思い出す、仲間の死の知らせ。
 彼らの眠る地を緑豊かな平和な地にする、それが私が彼らに出来る事。
 丁寧に穴を掘り、種を入れて土を被せる。そして目を閉じて祈り、空を見上げて語りかける。
(「この地で眠る戦友さん。世界は前よりずっと、平和に近づいています。皆が、私達を生かしてくれたから。……ありがとう」)

 金鵄・ギルベルト(a52326)は鬱蒼と茂る森を歩いていた。ノスフェラトゥの追撃を防ぐために激突したのがこの森だと聞いている。
 お前が死んで3年経って。……もう大きな戦は殆ど無いかもしれん、なんて言ったらどんな顔をするのやら。
 男の手にあるのは一輪の白百合。
 心底似あわねぇって? そんな事ぁわかってるさ。
 彼は白百合を供え酒で禊ぎ、その場所に種を植える。そして森の再生を願ったあと、腰を下ろして煙草を一服する。
 この世界から脅威が消えてきゃ俺達みたいな人間は遠からず用済みになりそうだ。
 ……まあでも、確かにそれも悪くない、か。なぁ、グリム。

 月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)はトロウル領から北方セイレーン領に向かって、森や荒野を踏みしめる。
 彼女は自身を血と殺戮に染められた冒険者と卑下していた。そして過酷の戦争に傷跡を残された大地を癒す、それが勤めであるとも。
 光の種を蒔いて祈り、目印として短剣を深く突き立てた。
(「……ここでの冒険、懐かしいね……」)
 人々が幸せに暮らせる豊かな大地に戻らせるように。トロウルもセイレーンも、他の種族も共に暮らせるように。それが彼女の願い。
 傷つかれても、私達を優しく受け入れる世界よ。ごめんなさい、そして本当に、ありがとう……。

(「今となっては、個々のグドンの力も痕跡も小さく思えますね……」)
 銀の忘れ音・セレ(a32156)は荒れ果てた土地を見渡し、戦争続きの近年を振り返った。
 元は人の手によって生まれた荒地なら、同じ人の手で、元に戻さなくては。
 ここが緑豊かで動物たちの住まう、素敵な土地になりますように。
 彼は種を埋めて祈り、そして女神フォーナに感謝を捧げる。

 グドン地域制圧戦のことを、穏かに流れ往く・マシェル(a45669)は思い出す。
 彼女がおとずれたのは、かつて彼女が守った小さな川。川沿いに僅かに生える木々は、記憶にある風景よりもほんのちょっとだが緑が増えた気がする。
 彼女はこの木々を豊かな森に変えるべく、川を中心に木々の周りに広げるように種を蒔いていった。
 木々がしっかりと大地に根付けば、それだけ川の水量も上がり、それは次の森の礎になる。
(「私達がいなくなった遠い未来には元気な森に戻っていますように……」)
 静かな祈りが、種に注がれる。
「ここが緑で豊かになれば、この地にも人が住めるようになって、北方セイレーンさんと一緒に遊べるようになるかもしれませんね」
 星槎の航路・ウサギ(a47579)はマシェルと共に祈りを捧げた後、マシェルに希望を語った。
「ランドアースのみんなが、大地も植物さんも、実り豊かで暖かくあれたら、ウサギは嬉しいです。
 ……さぁ、次のところにいきましょう!」

(「この荒れ果てた大地が自然の世界になるにはどれだけ時間を要するのだろうか」)
 一面の荒野。儚幻の対旋律・ゼナン(a54056)はそこに光の種を埋めていく。
 埋める場所が被らないようにと多くの冒険者は単独で行動している。ゼナンもその一人だ。
 荒れ地が実りある土地に代わるのに数年という話だが、もし人手が足りなければ……。
 だが、今はもうそれを考えても詮な気事。
(「いつかこの大地が、動物達も訪れて平穏に暮らせるような自然の世界になる事を」)
 祈り。そして芽生え。
 残りの種を蒔き、あとは、時が過ぎるのを待つのみ。

 岩の砂漠を、枯れた森を、豊かな緑に。
 埋めた種は芽を出し、未だ過酷な環境に新しい世界を築こうとしていく。

●キマイラ塔攻略戦・跡地
 地上に現れキマイラに目覚めた盗賊たちの最後のアジトとなった旧グドン地域キマイラの塔。そしてキマイラの塔を含むアヴェスタたち。
 インフィニティマインドにより浄化された土地を、3人の冒険者が訪れた。
「浄化されたといはいえ、大地の被害まではなおっていないですなぁ〜ん」
 森の小さな護り人・ミルフォート(a60764)が踏み込んだ地の足元はグドンの血で赤黒く染まっている。
「この地で光の種を使ってみる価値は十分あるね」
 青の探検隊長・ラグ(a72884)が手持ちの種を取り出して植えた。
「先にできるだけ育ちやすいように、耕しておきましょうか」
 琴線を爪弾く・カンティアーモ(a34816)が紋章術で土人形を呼び出し、彼らと共に瓦礫を除けたり地面を柔らかくする。
 3人で祈りを捧げ生まれる新芽。新芽の周囲の地面は血の色から豊かな土の色へと変化。
 3人は顔を見合わせてその変化に喜び、意気揚々と行動を別にする。ミルフォートはグドンの血染めの大地を広く癒すために。ラグはアヴェスタや塔の礎になったグドンアンデッドがいた場所を集中して癒すために。カンティアーモは疲れた大地を起こすために。

 決して死なない能力を持ったドラゴンロード・スィートメロディアは、七柱の剣により大地に縛り付けられていた。
 人生はシュガーレス・グレゴリー(a35741)は、スィートメロディアの周囲に、手持ちの光の種を植えていく。
 そしてスィートメロディアの顔前までくると、彼に告げた。
「これは希望の種です。あなたがこの種の意味を知る日が来ることを願ってこの種を植えます。いつか。きっと」
 愛を注いでくれた神々に背き人の形も捨て世界を古代ヒト族、ドラゴン。その頂に立つドラゴンロードの1体である彼が女神の贈り物に心を傾ける時が、誰かを思いやる心が生まれるかはわからない。
 だがグレゴリーはそれを願い、手持ちの最後の種をそこに植えた。

●死者の祭壇跡地周辺
 濃藍の鷲・キースリンド(a42890)が見つめるのは臼状に窪んだ土地。
 デストロイキングボスに開けられたはずの地獄への穴はどこにもなく、元々地獄など存在しなかったかのように、ただクレーターがあるのみ。
 いつの間に? あるいは混沌から帰還できる穴が一時的に空いたことが奇跡だったのだろうか?
「大穴が、塞がってる!?」
 燬沃紡唄・ウィー(a18981)は地獄に絡んだ護衛士団に所属していた何人かに声を掛けて、死者の祭壇に開いていたはずの大穴から皆で降りるだけ降りてみようと考えていた。
 だが、その予定は到着の段階で断ち切られてしまった。
 最近建てられた石碑の側に腰を掛ける、赫風・バーミリオン(a00184)。
「何もかも飲みこまれ、本当に消え去ったということだろうか」
 クレーターの砂を、震える手でぐっと掴む。滲み出るのは悔を抱く様々な感情。
「結局、死の国を豊かにすることもできなければ、地獄を救うこともできなかったですね……」
 浄火の紋章術師・グレイ(a04597)の胸に過るのは、太陽の光届かぬ彼の地で懸命に生きていた人達。その人たちはもう、いない。
 グレイはこの地に献花された花束を見つめた。コスモス、クレマチス、バラ等々。数週間前に捧げられた花束はすっかり水気を失っているが、この地の全てを慰めるように美しく花開いている。
「せめて、この地に豊かさを齎しましょう。私たちの手で」
 ウィーもバーミリオンもグレイの言葉に無言で頷き、光の種を植える。
 ――絶望がこの地に溢れ出しませんように。そしてどうか悲しみと慟哭で覆われたこの地に幸多き事を。
 ――『死者の国』がいつかその呼び名から解放されることを。
 ――いつか『死者の国』でなく『命の国』みたく呼ばれる地になるように。
 ウィーの祈り、グレイの願い、バーミリオンの望み。それらに種は応える。

「これは……薔薇、かしら」
 花音・ティーナ(a11145)は芽生えたばかりの新芽が何の芽であるかを、知識から探り当てた。
「もう既に光の種の効果が出たのでしょうか」
 一足先にウィーたちが植えた種がもう芽吹いたのかと、風切羽・シリル(a06463)は考えた。
「心なしか、木々の苗も元気に見えるな」
 十六夜に佇む葬闇の影月・シンマ(a12592)は献花とともに植えられた苗の様子を見る。この苗にも種の力が及んでいるのだろうか。
「少なくとも、ここを緑の地に変えることは十分可能そうだね」
 理の蒼槍・ラン(a31409)はそっと、芽生えている植物をなでた。
「なら私たちも」
 光の種をクレーター周辺に撒き、緑に芽吹いた大地を思い浮かべ、シリルは祈りを捧げる。
 何年も、何万年も後に、時を経て、その時たとえ自分は居なくなっていたとしても、自分の代わりにこの地を見守る希望の芽が息吹くよう、どうかこの種が希望のはじまりになるように。
「そうですね。今からでも、少しでも、私に出来ることがあるのなら」
 ティーナも膝を折り願いを注ぐ。
 薄暗い、陽の射さないこの地だけど。いつかは光が射し込みますよう。光に触れることができますよう。地上の陽を望んだ彼らの手が、あなたの手が届きますように。
「これが地獄の護衛士活動の仕事納めだね。光の種がいっぱいいっぱい緑を生んで、大きくなりますように〜♪」
 土から手伝いをしてくれる人形を生み出し、ランも手持ちの種をたくさん蒔いて豊穣を祈る。
 シンマもまた地獄で消えていった命を、触れ合った沢山の人達を思いながら願う。
「……ロス・アニョス・シゲン・パサンド・イ・テ・シゴ・アマンド」
 聞きなれない言葉に仲間達は首を傾げて問うが、シンマはただ、告白の言葉だよ、とだけ言った。

「彼の地が花で包まれればと思っていたのですが」
 黎燿・ロー(a13882)は窪みを前に心情を吐露する。
「……ウィーの言ってた通りだ。地獄、本当になくなっちゃったんだね。せめて奥に潜む絶望がマシになれば、と思っていたのだけど」
 暁の彦星・アルタイル(a25248)が窪みの中心に降りるも、地獄に通じていた痕跡はなにもない。
「地獄は消えてしまいましたけれど……それでもその上を緑で満たして少しでも混沌がなくなることを願いましょう」
 焔命擁頌・オルーガ(a42017)は種を取り出しながらゆっくりと歩み寄る。
「少しでも皆が住みやすい場所に変えましょう。それが今からできることですもの」
 たおやかな足取りで、夏休みは昆虫採集・チグユーノ(a27747)も仲間と合流する。
(「絶望を覆うほどの花が溢れ、大地を埋め尽くせば、この地を死者の国と呼ぶこともなくなるかもしれぬな」)
 悲しみや多くの血が流れた大地が再び戦乱の地と為らぬ様に。
(「第2次エルヴォーグ制圧戦、エンデソレイのグリモアガード。ボクはちっぽけで何も出来なかったから。せめて、今回こそ……」)
 この地に眠る絶望が無くなりますように。
(「地獄で命を落とした我が君。奉仕種族の子供たち。地獄を知るために尽力した方々。皆さんの為に美しい命を燈す花を咲かせたいのです」)
 二度と会えない貴方がたへ、言い尽くせないほどの愛と感謝を。
(「きっと今からでも遅くはありせんわ。少しでも皆さんの幸せの足しになれば」)
 たくさんの笑顔が見れる土地になりますように。
 4つの思いは新たな命の始まりとなる。

 黎旦の背徳者・ディオ(a35238)はリュートを奏でる。チグユーノと交代でこの地に訪れた冒険者たちの腹と心を満たすようにと。
(「大穴は塞がっていた、か」)
 爪弾く手を止め、彼女は種を死者の祭壇跡地から距離を置いた場所に埋めるべく歩く。
(「いつかこの種が大きく育って、希望のグリモアを抱く、あの木のように育ってくれれば」)
 そして力を乗せた楽曲を願いを乗せた楽曲に切り替え、彼女は再びリュートを爪弾く。

 今日を生き、明日を生き、限られた時間の中で精一杯生きていきましょう。全てのすべき事は、これから。誰かに護られた今の更に先へ繋ぐ未来の為に。
 森淑気泉の水仕・アキュティリス(a28724)は死者の祭壇があった場所で祈る。
 その隣に、燃龍ブ・ルース(a30534)は歩み出た。
『緑豊かで、それでいて人の暮らしと共存できている場所でしょうか』
 祭壇に来る手前で一輪の花・オリヒメ(a90193)から返ってきた回答を、心の中で噛みしめる。尋ねたのはここをどんなような場所にしたいか。
(「この地では色々とあったが……、だからこそ、緑ある豊かな場所になってもらいてぇてもんだ。それが遠い未来の話であったとしてもだな」)
 今は荒野であるこの地の中心にそそり立つ、生命感溢れる大樹を想像しながら彼は祈った。

(「塞ぐことはできないと思っていたけれど、意外だったな」)
 緋閃・クレス(a35740)は死者の祭壇付近で既に芽生えている芽を横目に、間隔を少し開けて埋めるのによさそうな場所を探してクレーターの外縁を回る。
(「地獄が消滅して今あるのは絶望のみ、か……。だけど皆の祈りと想いがあれば」)
 彼は適度に空いている場所を見つけてそこに種を埋める。
 その全てが希望になって一粒、また一粒とこの大地を潤して、優しさに変えてくれるって信じているから。
 何十年、何百年かかってもいい。たとえ最後まで見届けることが出来なくても、いつかこの荒野に色とりどりの花が咲き溢れて新しい命が芽吹くように祈りを…。
 人の想いは本当に奇跡のようなものだからね。

 プーカの忍び・アグロス(a70988)は死者の祭壇跡地まで行くと、光の種の他に持参した腐葉土とキノコを、武器を使って柔らかくした窪みの一部に混ぜた。キノコの色が少しアレなのは御愛嬌。
(「ナビアよ戻れ、というわけじゃないんだけど……ただ、この景色のほうがあなたが安らかに眠れるんじゃないかなと」)
 誰とはなしに、少年は心で語りかけた。

 元アンサラーの護衛士として活動していた懐かしい場所。そして今は亡き戦友が眠る混沌のを封じている場所。
 薄紅の淡雪・マリエッタ(a40646)はかつて監視対象だった場所を懐かしむ。
「大穴を放置することは決して現地の復興に寄与しない、と考えてここへ来たのですが、見事に塞がっていますね」
 感傷に浸っているマリエッタに紫眼の緑鱗・ボルチュ(a47504)が声をかけた。
「そうですね。大穴に種を投げ込むつもりでいましたから、ちょっとびっくりしました」
 2人は種を植えるべき場所を探す。もしかしたらいつか根が大地を貫き、その下まで伸びるかもしれない奇跡を願いながら。
(「遠い遠い未来にその混沌から『命』という希望の光が生まれることを」)
 マリエッタの祈りで芽が顔を出し。
(「大地を浄める力をお恵み下さい。そして、死者の国という言葉が歴史書の中だけのものになるように、太陽が降り注ぎ緑があふれる大地をお与え下さい。絶望を防ぎ、人々の心に希望をお与え下さい」)
 ボルチェの祈りで葉がひらく。

 緑の木々から生える強靭な根でしっかりと大地を支え、不穏な動きを抑えたい。
 吟遊詩人・アカネ(a43373)はそのために種を蒔く。
「この光るものをぉ、植えましたらぁ、ここがぁ、緑豊かになるようにぃ、祈ってくださるかしらぁ」
 荒野に住む僅かな生き物を魅了して語りかける。動物はきょとんとしながらもアカネのそばに立つ。
 そしてこの荒れた大地が復活することを、彼女は強く願った。

 窪みを前にして、淙滔赫灼・オキ(a34580)はかつて存在していたエルヴォーグに住む人たちを想い、祈りを捧げる。
 本当に、何一つ残らず消えてしまった。地獄の存在を証明するものはなにもない。それでも……。
 かつて多くの人々が祈り、多くの命が呑まれ、沢山の慟哭が響いたその場所がこれから先、緩やかに未来へと向かうその物語が、暖かな光に溢れた優しい世界でありますように。

 死者の祭壇跡を前にして、時空を彷徨う・ルシファ(a59028)に地獄で活動した記憶が次々と克明に沸き立つ。
 エンデソレイの護衛士活動で関わったエルヴォーグやミュントスの奉仕種族の人々。探索クエストで巡り会ったナビアのストライダーの一家。紫天宮に残った小さなヒヨコさん。
 争いの果てに全てが救いもなく無に消え、その結果として得られた地上の平和に、ルシファは虚しさを感じていた。
(「ここがかつて地獄と繋がっていたことを、はるか遠い未来になっても解るようにしなければ。死者の祭壇は世代が替わっても残すべき記憶、記念碑だと思うのです」)
 彼は死者の祭壇跡ではなく、祭壇を見下ろせる山に向かい、そこに種を植えた。地獄で精一杯生きていた人達への手向けとして祈る。
(「ルシファ……」)
 歪曲無明・メイノリア(a05919)は祭壇跡地から離れる、同僚だったルシファの様子を心配しながらもそのまま見送った。
 無くした表情から感じ取れる気持ちは、彼女自身も抱いているものだから。
(「護衛士の思い出の場所……少し悲しい。死んでしまった彼らに、私は祈ろう。来世は、あれば共に在れることを」)
 種を植え、彼女はひたすら祈る。
(「もうなくなってしまった場所には何も出来ないから」)
 だからせめて、彼女は彼らのために祈る。

(「フォーナ神は地獄を嫌悪していましたから、その神の賜りものでは地獄は生まれ変わらないかもしれない」)
 万色を纏いし者・クロウハット(a60081)は死者の祭壇の中心地に向かいながら、種を利き手で優しく手にとる。
(「ですが、かの地でも生きるものはいた。平穏な、幸せな営みがされていたはず」) 
 確かにフォーナ女神は地獄を嫌悪していたが、それと共に冒険者にも幾何かの期待を寄せていた。ならばその希望にすがってみよう。
 クロウハットはかつて入口があった場所に種を埋め、跪き祈る。
 願わくば、平穏で幸せな日々が再び戻らんことを。

(「もしかしたら向こうにも綺麗な花が咲くかもしれない」)
 月蝶宝華・レイン(a35749)はそう願いながら種を蒔いた。
(「そして、此処が綺麗な花で埋めつくされたら、きっと素敵な場所になると思う」)
 エンデソレイ護衛士として、あの土地は忘れられないし、決して忘れてはならない所。
 後悔の念は先にこの地を訪れて花を捧げた際にもう済ませている。だから、今望むのは未来。
 ここに咲く花や緑は、未来を思うと希望の光だと本当にそう思う。
 枯れる事の無い想いをずっと育んで行って、また違う命を生んで行くように。
 それが、私の願い。

 数週間前に捧げられドライフラワー状となっている花束の上に、伐剣者・コウ(a38524)の新たな花束が捧げられる。
「ひとまず絶望の噴出は止められている、と思っていいのかな」
 近いうちに危険なことにはならないだろうと一先ずは安堵する。そして次に過ったのは、これはただの感傷なんだろうな、という花束を持ってきた自分に対する評価。
 そして敵として刃を交える事で、狂戦士として満足する人生をくれた者達に感謝を籠め、煙草を吹かす。
 戦いに人生を捧げた戦士は、それでもこの場所が豊かで命に溢れた土地になるようにと願った。
 どこかで、安息を求めている、のだろうか。
 戦士は再び己に問いかける。

 出来る限り中央へ、絶望の地に希望の種を。
 空謳いの・シファ(a40333)はエンデソレイの護衛士として関わってきた人達に祈りを捧げる。彼らのいた時のように、また誰かが住む土地となって、また誰かの笑い声が響けばいいと。
 そっと、中央付近に種を埋め、次は種に祈りを捧げる。
 護れずに喪ってしまった命達は、決して戻らない。けれど、せめてどうか、新しい命達が安らかに過ごせる地となりますように……。
 顔を上げ、周囲を振り返った。周りには知った仲間や初めて会う冒険者たちが、同じように祈りを捧げている。特に死者の祭壇跡地に集う冒険者は多い。
(「皆一緒だから。きっと祈りと希望は、いつか必ず通じる筈。時間がかかるかもしれないけれど、……きっと、いつか、必ず」)

●死者の国入口周辺
 命の色を失ったかのような荒れた大地。いや、荒れているのは土地だけじゃない。
 かつて噴き出していた瘴気の影響か空は曇り、その合間からひっきりなしに稲妻が雷鳴と共に走る。
 オリヒメは光る種を手に、荒野に足を踏み入れた。いつかこの土地が緑豊かな大地となり、人が住まうことを夢見て。

(「初めて受けた依頼も光の種だったなぁ」)
 種を手に取り、駈け上る魂・ギイナ(a70690)はその光に懐かしさを感じた。
 光の種が、ボクの依頼のデビュー。だから復興支援の話は是が非でも受けておきたかったんだ。
 彼が冒険者となってからの同盟をあげての大きな作戦は、もっぱらドラゴンやキマイラ、地獄列強に絡んだものばかり。死者の国に通じるこの辺りが戦場となることも多く、ゆえに彼のなじみの場所である。
 迷うことなく彼は荒野を歩き、死者の祭壇の付近まで進む。
 そして命を賭した人達への感謝と、地獄の交流のあった人達への安らかな眠り、この地の再生を願って祈った。

(「オリヒメの願い、よくわかるよ。
 私もずっと護衛士として携わってきた場所で、其処に住む人達の助けになれる様頑張ってた場所だもの。守りたくても守れなかった場所だもの。
 せめて、せめて花を咲かせる位の場所に戻したい。失くした命は戻らないけど、新たな命は芽吹く様に願うから」)
 殲姫・アリシア(a13284)は種を埋めながら、オリヒメに共感を覚えた思いを繰り返す。
 そして祈りの言葉の代わりにフルートを取り出し、唄口を下唇にあてがう。
 幾多の戦いで、守り切れなかった土地と人々には只管申し訳なくて、こうする事は自己満足かもと思うけれど、光と恵みが満ちる世界に、笑いの絶えない場所になるのなら。
 そんな願いを乗せて、彼女は音色を贈る。

 旅団『フラクセンサイン移動警備隊』に所属する、夢見鶏空を仰ぐ・ピナタン(a44156)、薔薇柩・ツルギ(a66087)、刻みの歩・ラズリアンテ(a66612)、無邪気な翔剣士・メリル(a76577)の4人は、農具やガーデニングで使う道具を持参していた。
 光の種で緑の大地が蘇るとはいえ、固い荒れ地のままよりは耕された大地のほうが復興も早くなるのではないか。
「しっかり土を耕さないと」
 まずはメリルが角型スコップを、種を植えると決めた場所にざっくり突き立てる。岩のような固い反応に手ごわさを感じるも、これ以上力を入れるとスコップの方が持たないかもしれず、どうするべきかを悩む。
「ならこれならどうだ」
 ラズリアンテが長剣をアビリティにより強化して使って破壊力を上げる。すると岩のような地面も土を起こすような感覚でザクザク柔らかくできた。それを見てピナタンやツルギも同じようにアビリティを使い、地面を耕していく。ラズリアンテは一息いれつつ、皆にエールを飛ばした。
「そろそろ埋めるぞ」
 そして一通り耕地が終わったのを見計らい、ラズリアンテが種を埋めていくことを仲間に伝える。
 ピナタンはガーデニングセットで地面を深く掘り、そこに種を置いた。
(「きっと、あのひとがいるところに、光がとどきますようにっ。そして、もしも……いつか帰ってきたとき、お花でいっぱいの死者の国を見てびっくりしてほしいなのですよっ!」)
 雨など降っていない地面に一滴の水滴が落ちる。水滴は弾け、冠状に散った。
 ツルギは種を取り出すと、両手で大切に包み、愛おしそうに頬に寄せる。女神の愛を肌で感じ取り、名残惜しそうに土に埋めた。
「諦めなければどんなことも叶う。だから、死者の国にもいつか花は咲くよね?」
 明るく元気に、メリルはしっかりと穴を掘って種を底に置く。
 4人は一斉に祈った。強く願うは幸福に満ちた未来。
(「後生だ、芽吹いてくれ」)
 ラズリアンテが恐る恐る目を開ける。そしてほっと溜息をついた。その様子を、先に目を開けていたツルギは微笑ましく見つめる。
「ねえ、ラズ殿。幾年かしたらきっと、皆様と様子を見に参りましょうね」
「ああ、行こう。旅団の他の仲間もさそってさ。ピナタンもメリルも、いいよな?」
 仲間達とわいわい歓談するさまをツルギはただ嬉しそうに見つめる。
 そして心の中で感謝と、愛の言葉を述べる。
 ふとラズリアンテが振り返った。
「ツルギ、どうかしたのか?」
「いいえ、何でもありませんわ」
 ツルギは小走りに駆けより、皆と足並みをそろえた。

 ここの未来に光が灯るのであれば。
 月夜に咲く希望の花・エリザベート(a24594)はその願いと共に、死者の国入口を訪れた。
(「このまだまだ荒れた地に……自然に溢れれば……どんなに素敵でしょう……」)
 エンデソレイでの思い出を胸に、幸せと笑顔が溢れる事を祈りながら、彼女はそっと優しく光の種を植える。
 そして先程よりも強く深く、種に向かい祈る。
(「どうか……この地に未来を……。そして……光を………」)

『へー、これが光の種か。初めて見たわ』
 それが、黒豹吼下月・ナオ(a26636)が配られた種を受け取った時の第一声だった。
 この種ならば。
 彼は光の種以外にも何粒か植物の種を持参し、この地を訪れた。
「……言ったろ。ここに花が咲くまで、何度でも俺は来るって」
 誰かに向けて声に出したメッセージ。
(「例え俺が死んでも、俺の想いを継いだ奴がきっと此処に来て種を蒔く。その次もその次も。……それが今の俺に出来ることだ。今生きてるってことだ」)
 光の種と、持参したいくつかの植物の種を蒔いて祈りを捧げる。発芽した植物の種を確認し、去り際にもう一度語りかけた。
「また来るぜ。たくさんの花、ここに植えてやっからな」
 誰も、誰も寂しくなんかないように、な。

「この辺が良いでしょうか」
 紅焔揺白盾・ヨイク(a30866)は同行者である、陽だまりの花・グリュエル(a63551)に確認をする。
「良いんじゃないか? ヨイクが望むままにするといい」
 グリュエルはヨイクに埋める場所を委ねる。ならばとヨイクは彼女を誘い、2人でこの地に種を埋めた。
 そして関わった死者の国の住人達や亡くなった冒険者を思い、慰霊の念を込めて祈りを捧げる。
「何時かここが花でいっぱいになって、森が出来て、動物がやってくる。そして、人が集まってきたら村が出来るんだろうなあ。
 村は街になり続いていけば、亡くなった人達の命も、ずっと続いていくと思う」
 グリュエルは胸に抱いていた思いをヨイクに話した。
「ヨイクは、何を願ったの?」
 その笑顔の問いかけに、彼はそうですね、と前置きして答える。
「2つありまして、まずは薔薇の産地となりますようにと。
 ノスフェラトゥの王妃が好んでいたように思いましたから。今思うと、あの人も地獄に縛られていたんだなぁと。彼女の心を癒すほどの薔薇が咲き誇りますようにと願を掛けました。
 もうひとつは、肉のような野菜。野菜肉ができますように、ですね。デスバリア卿への追悼の意をこめて、です」
 早く姿を現さないと、だれか本当に作っちゃいますよ。と彼は心の中で亡きデスバリアに向けて語る。
「そっか……」
 数歩、グリュエルは彼よりも駆けるように歩く。
「お互いの想い、叶うといいね」
 振り返り、飛び切りの笑顔でヨイクに言った。

(「地獄の道は封じられている、か。死者の祭壇跡は多くの冒険者が種を植えたようだし、ならばその周囲に蒔こう」)
 共に闘い、散っていった仲間の冥福を祈った後、翠風の翼・マリク(a43864)はエンデソレイ護衛士の務めとして現状を確認し、復興に繋げるためにと死者の祭壇跡の周りに種を植えることにした。
 地獄から漏れる瘴気でアンデッドが徘徊していた荒廃した土地とはいえ、命の息吹がまったくなかったとは思えない。だから、例え時間がかかろうと、命は繋がり育まれるだろう。まして今はアヴェスタも地獄ごと消え、瘴気の噴出もないのだから。
 そう信じ、彼は大地に小さな穴を掘り、種を一つ置いた。
 温かな風が運ぶは生命の息吹……願わくばこの地が生命に溢れた恵み多き土地とならん事を。

 月明かりの代わりに辺りを照らす雷光の元、死者の国入口の周辺に建てられたテント。
 日中に種を蒔き終えた城壁の姫騎士・サクラコ(a32659)は、その一つの入り口側におこした火で湯を沸かし、コーヒーを注ぐ。
「コーヒーを淹れましたよ。どうぞ」
 サクラコはキャンプ地で共にいるモノクロームドリーマー・カナタ(a32054)、オリヒメに配る。2人は彼女に礼を述べ、香り立つ黒い液体が注がれたカップを受け取った。
 温かい飲み物を片手に、3人は旅の疲れを癒しながら話に興じる。
「邪悪な列強種族もいましたけど、そこに住んでいる方々にはそれぞれ暮らしがあって。地獄を作り上げた力って結局なんだったのでしょうね」
 カップに口をつけながら、サクラコはしみじみと思う。眉を少し顰めたのは苦い酸味が舌を刺したからだけではない。
「絶望を織り上げて生まれた世界。でもそこにあるのは絶望だけじゃなく、地上に住む私達と同じ心があった。……神々が封じた混沌は、必ずしも絶望だけではなかったのかもしれませんね」
 オリヒメは一口だけコーヒーを飲み、彼女なりの想像を話す。
「まだ分化されていない喜びの心もあった、ということかしら」
 外が明るいうちに蒔いた光の種。カナタはフォーナ女神が拒否したこの場所に、フォーナ女神が下さった種を植えることの、言葉に表せない不思議な気分を抱いていた。
「絶望だけで作った存在が今日を生きようと足掻いたりするとは思えないのです。あくまで想像ですけれど」
 この場所に緑が溢れたならきっと喜んでくれると願うカナタ。日々思う事や感じる事は私達と何ら変わりはなかったと感じたサクラコ。
 絶望だけの心しかなかったならば、彼女達はそうは思わなかっただろう。
「混沌、か。難しい話をしているな」
「お帰りなさい、ラスさん」
 星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)が見回りから戻り、サクラコが差し出したコーヒーを受け取って軽くすすった。
「お疲れ様です」
 オリヒメの護衛を申し出てくれたラスに、彼女は再び礼を述べた。
「混沌の中にも希望がまだ混ざっているのなら、この地もその下も浄化されると願おう」
 彼の言葉に、オリヒメは頷いた。
 そしてラスは先の戦いで散った仲間に心の中で語りかける。
 未来の為だけでは無く、散った人々の為にも約束しよう。平和な世界を。皆に誇れる未来を。……だから……ありがとう。……またな。

●豊かなる土地を目指して
 故人と語らいながら、未来に希望を持って捧げられた多くの祈り。
 太陽と月と星に見守られながら、光の種は人々の想いを受け取り、育っていく。

 未来の私たちへ。
 飢えも争いもない平和な世界を願い、あなたたちに緑豊かな大地を贈ります。
 願わくばそれが永久に保たれますように。


マスター:falcon 紹介ページ
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玄天卿・クリス(a73696)  2011年11月11日 02時  通報
僕が向かったのは故郷の近辺。
なんだかんだで故郷が好きだし、土地勘もあったしね。
海の方にも効果があるみたいでよかったよかった。

隠遁の歴史家・カスミ(a40120)  2009年11月21日 21時  通報
未来のために何かすることも、やはり冒険者の役割ですから。

プーカの忍び・アグロス(a70988)  2009年09月26日 21時  通報
…こういう結末になるとは思いませんでした。満たされないようでいて、されど穏やかな。