ドラゴン掃討:氷花繚乱



<オープニング>


●ドラゴン掃討
 ゾフィラーガ・ヴァンダルから魔石のグリモアを託され、地獄の全てを統合して強大な力を得た王妃との戦いに、ドラゴンウォリアー達は勝利した。
 そして、全てを飲み込まんと迫り来る『絶望』を、溢れんばかりの『希望』と共に打ち破ったドラゴンウォリアー達は、インフィニティマインドと共に、地上へと帰還した。
 大きな脅威が過ぎ去り、戦いは終わったのだ。

「ですが、冒険者のなすべき事が、すべて片付いた訳ではありません」
 エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は、改まってそう冒険者達に告げた。
「円卓の間で話し合われた『解決すべき案件』は、まだ多くが未解決なのですから」と。

「最優先順位であった『魔石のグリモアの剣の探索』は完了しました。次に優先順位の高かった『地獄への対応』も、結果的に完了したと言って良いでしょう。つまり、我々が次にすべき事は、3番目に優先順位の高かった案件……つまり『ドラゴン、ドラグナーの発見と、その討伐』です」
 インフィニティマインドがあれば、擬似ドラゴン界を使うことなくドラゴンウォリアーになれる。
 つまり、大勢で一気にドラゴンやドラグナー達を掃討する事が可能なのだ。
「ドラゴンに関しては、すでにルラルさんの超霊視によって、すべての所在が判明しています」
 ドラグナーに関しては数が多いため、もう少し時間が掛かりそうとの事だが、そちらも全容が明らかになり次第、すぐに掃討作戦が決行されるとの事だ。

「あとは、倒すだけで良いのです。この世界からドラゴンの脅威を完全に払拭しましょう」
 その為の作戦に、どうか皆様の力をお貸しくださいと、ユリシアは深々と頭を下げた。

●氷花繚乱
 深淵の紺青と冷冽な蒼に満たされた、深い深い極北の海の底。
「淡く冴ゆるアイスブルーを湛えた巨大な氷塊漂う、コルドフリード近郊の海中……眠るような静寂に満たされた冷たい冷たい深海に、ドラゴンロード・ブックドミネーターの配下であったドラゴン達が潜伏していることが判りましたの」
 清涼な空色のラベンダーシロップで色をつけたソーダの杯には、贅沢にも氷が浮かべられている。瑠璃色硝子のマドラーで涼やかに氷を鳴らした藍深き霊査士・テフィン(a90155)は、「最初に戦場となるのは、ここ」と硝子棒の先を氷の浮かぶ杯の底深くへ沈めて見せた。
 海面付近ではなく、海底付近ということだ。
 極北の深海にはドラゴン達の潜伏地点が幾つかある。ルラルの超霊視で得られた情報を整理し冒険者達に伝えるのが各霊査士の役割で、今回テフィンが担当しているのは深海の潜伏地点の内のひとつ。そこには戦いを美しく彩ることを好むドラゴンが集まっているのだと彼女は語った。

「彼らが好むのは……華やかな彩りを持ったブレスや、華麗な攻撃技といったもの」
 羊皮紙を繰りながら、テフィンはルラルが超霊視で視た戦いの光景を言葉で綴る。

 蒼穹から降る陽射しも殆ど届くことなく、海中を緩やかに降るマリンスノーが纏う発光性の微生物が凍れるように冷たい蒼の闇に仄かな光を散らす深海に、凛冽な煌きを孕む吹雪が迸る。
 深海に放たれたドラゴンのブレスは礫ほどの大きさを持つ蒼銀の雪結晶の奔流で、冷たい輝きを振りまきながら水流と共に襲い掛かった吹雪がドラゴンウォリアーたちを凍りつかせた。海底付近の潮流に乗って吹雪をかわしたドラゴンウォリアーには別のドラゴンが一気に迫り、鋭い爪を揮い凍れる薔薇を幾重にも咲かせ、鮮紅の血を海中へと散らす。けれど血を振りまきながらもドラゴンウォリアーが一気に刃を振り抜けば、冷たい蒼の闇を眩い稲妻が駆け抜けて、ドラゴンの巨躯を打ち据え砕けた銀の鱗のかけらを花吹雪の如く海中へと降らしめた。
 敵が怯んだ隙に間髪入れず凍れる海の底に暖かな凱歌が響き渡り、全身を凍りつかせていた氷を払われたドラゴンウォリアーが真正面からドラゴンへと斬りかかる。高速で揮われた刃は巨大な爪に押し留められたが、その瞬間、ドラゴンの真下に潜りこんでいたドラゴンウォリアーが鮮烈な虹色に燃え盛る火球を撃ち出した。爆ぜた火球は大量の気泡を生み出しながら敵の腹に大きな傷を穿ち、これにはさしものドラゴンも堪らず大量の気泡と共に深海から浮上していく。
 逃がすかと幾人かのドラゴンウォリアーも後を追って上昇し、淡い蒼を帯びた巨大な氷塊を透かした清冽な光に満ちる極北の海の表層部で再びドラゴンと対峙した――。

 語られた光景は戦場の様子の一部、しかも冒険者達の行動次第で幾らでも変化する未来のひとかけらに過ぎなかったが、彼の海に潜むドラゴン達との戦いはおおよそこのような態を成すだろう。
「こう言うとあれやけど……何やすごい、綺麗な感じ」
「ええ。ある意味、美しい光景だとも思いますの」
 微かな感嘆を帯びた吐息を洩らす湖畔のマダム・アデイラ(a90274)に、霊査士は小さく頷き返す。
 雪に閉ざされた高山の頂や、一滴の水も見出せぬ乾いた荒野。そして、凍れる極北の海の底。
 峻厳さを湛えた自然はある種の美しさも併せ持っているものだ。その地に潜むのは美しく彩られた戦いを好むドラゴンで、そこに多彩な姿と技を備えたドラゴンウォリアーが挑むのだから、なおのこと。
 冒険者達にソーダを勧めながら、霊査士は敵の説明に話を戻した。
「彼の地のドラゴン達は『戦いを美しく彩ることを好む』という共通点はあるものの、結束が固いということはありませんの。……けれど、自分の技をより華やかに美しく決めるため仲間の攻撃を利用する傾向があるのだとか」
「……つまり、自分達の攻撃を利用しあって攻撃することで、結果的に連携が取れてるっぽい攻撃になることがある――ってことですよね?」
 確認するような口振りでハニーハンター・ボギー(a90182)が訊けば、仰るとおりですのと霊査士が肯定する。そう考えると厄介な敵だが、ドラゴンウォリアー達とて仲間との巧みな連携では引けは取らないはずだ。
 冒険者達の今回の使命は、彼の地に潜むドラゴンを掃討すること。
「頑張ってきますのです。皆さんと一緒なら――必ず勝てるのですよ」
「ん、皆と一緒やったら……絶対に、負けへんもん」
 周りの冒険者達を見回して、ボギーはぱたりと嬉しげに尾を揺らし、アデイラは柔らかに微笑んだ。
 世界の未来を皆様に委ねますの、と霊査士は瞳を緩めて言葉を続ける。
「平和な未来を勝ち取るため、一体たりともドラゴンを残すわけにはいきませんの。当然ドラゴン達は油断ならない相手ですけれど、皆様が全力で立ち向かって下されば――必ず」
 冒険者達が力強く首肯を返せば、霊査士は「宜しくお願い致しますの」と丁寧に一礼した。


マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:ハニーハンター・ボギー(a90182)



<リプレイ>

●氷花繚乱
 凛冽に透きとおる極北の陽射しは濃藍の海を漂う巨大な氷塊へ届き、薄らとアイスブルーを湛えた巨大な氷の中を踊るように乱反射して、冷たい水中世界を清冽な光で照らし出していた。
 薄紗のように水面下へと射し込む光は不規則な波と潮流で穏やかに揺らぎ、澄んだ静謐に満ちた水中世界を柔らかに彩っていく。静寂を侵すことなくただ静かに光が広がる極北の海へ――更なる静寂と深淵の紺青に満ちた深海を目指すドラゴンウォリアー達が一斉に飛び込んでいった。
 勢いよく噴き上がっていく気泡も凍えそうに冷たい水の抵抗も物ともせずに、強大な敵と戦う意志と力を体現したドラゴンウォリアー達は極北の海の表層から一気に深海部へと潜行する。明るい白群に澄んでいた水の世界が瞬く間に薄藍から紺碧、瑠璃へと移り変わり、そして冷たい蒼と紺青の闇で満たされた頃に、深淵の闇すら見通すドラゴンウォリアーの瞳がはっきりと敵の姿を捕捉した。
「先手必勝! ボギーさん、さぁ行こう!」
「了解、お供しますのです!」
 鮮やかに水を蹴った霹靂斬風・アーケィ(a31414)が背の翼で滑翔するかのように一気に加速する。即座に続いたハニーハンター・ボギー(a90182)と共に狙うのは、真っ先に此方に気づいた月白色に煌く鱗のドラゴンだ。濃密な海水を裂いた刃の軌跡から鋭い衝撃波が迸った。
「行け! 相棒さん!!」
「背中預けるぜ、よろしくな!」
 瑰麗な十日夜の金鏡・ラジシャン(a31988)から齎された鎧聖降臨に背を押されるようにして、金瞳を得た蒼穹の翼・フィード(a35267)も大地を疾駆する獣さながらに凍える海を突き抜ける。奔流の如き水の感触に瞳を細め、海中に鋼糸を閃かせると同時に不可視の刃を奔らせた。だが彼らの攻撃が月白の鱗を貫いた瞬間、ドラゴンの正面に巨大にして複雑緻密な紋章陣が出現する。

 ――人間どもめ、此処まで来おるか! 塵にしてくれるわ!!

 竜の咆哮が轟くと同時、深い海の底に幾条もの光の奔流が迸った。
 己と同質の術を辛うじて防いだガラクタ製作者・ルーン(a49313)は間髪入れずにラジシャンの癒しの光が広がる様に安堵して、蜻蛉の翅を震わせ即座に魔力を紡ぎあげる。だが、その刹那――、
「攻撃、右下から来ます!」
 光の奔流の残滓に紛らせるようにして、更なる深海から音速の衝撃波が撃ち出された。
 反射的に身を翻した翔剣士に躱され衝撃波は霧散したが、すぐさま下方から巨大な影が迫り来る。
「あいつは俺達に任せろ!」
「援護はお任せなのだ☆」
 深い水底から姿を現した紫銀の鱗を持った新手の敵には、焔獣・ティム(a12812)達【紅牙】が即座に翔けた。彼らが接近する隙を作るのは【金糸雀】の七色の尾を引くほうき星・パティ(a09068)、流星の名を冠した弓から放たれた矢は深き紺青の世界に燦然と輝いて、幾千もの雨となってドラゴン達に降りそそぐ。併せて皆の傍へと暁に誓う・アルム(a12387)が降ろした護りの天使を連れて、【紅牙】の狂戦士達はパティの矢の雨と月白のドラゴンの光の奔流を潜り紫銀のドラゴンの懐へと真直ぐに飛び込んだ。
「それじゃま、クリムゾンファング、最後の大喧嘩と行こうじゃねえか!」
「この凍てつく海でも消せない『焔』をくれてやるよ」
 熱く滾る血流を虎紋に彩られた体躯に巡らせ、紅虎・アキラ(a08684)が斧刃へ一気に闘気を凝縮させる。ティムも鋭い牙の連なりと化した巨大剣に闘気を凝らせて、口の端に笑みを刻んだ狂戦士達は己が力を一斉に叩き込んだ。
 派手な轟音が深海を揺るがし、凄絶な爆発が膨大な気泡を噴出させる。
 大量の泡が濃藍と紺青の海水を霞ませる中、紫銀の血が溶けだす様に無機質な漆黒の薄翼を恍惚と震わせて、月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)は彼らの穿った傷を更に広げるべく力ある炎を手繰り更なる力を織り上げた。
「紅蓮の天魔よ、我に逆らう愚者に裁きを降らせ!」
 獰猛な異形を象る炎が、余波に揺らぐ深海を突き抜け紫銀の鱗へと喰らいつく。
 だが強大な炎がドラゴンの肉を抉って爆ぜた途端、凍える深海に不可思議な旋律が響き渡った。

 ――やれ嬉しや、妾の歌はこれでこそ妙なる響きを帯びようぞ。

「北から来ます! 先にあちらを!!」
 彼方から新たに現れた藤色のドラゴンが癒しを歌う。深海の闇を聖なる光で染め稲妻纏う槍を携えた華凛・ソウェル(a73093)が、複雑な流れを生み始めた水中を翔けつつ皆へ共闘を呼びかけた。これに応じたのが緋閃・クレス(a35740)達【暁】だ。
 深海の戦場にあって心を満たすのは、緊張ではなく熱い高揚だ。絆で結ばれた仲間達と戦場を翔けられるのが嬉しい。迷うことなく背中を任せられる存在が翔ける心を後押ししてくれる。
「今日は負ける気がしねぇ!」
「今の妾に怖いものは何も無いのじゃ!」
 快哉にも似た声と共にクレスは音速の衝撃波を撃ち出して、濃密に揺らぐ海水を貫く刃を追って真白な髪を靡かせたあったか戦法にこにこの術・コトナ(a28487)が飛び出した。不可視の刃と漲る生命力に螺旋の力を加えたコトナが藤色の鱗を貫いた瞬間、直線的な鋼鉄の武器へと変化させた愛弓を構えた繊月・マヒナ(a48535)が、鋼の細筒から鮮烈な稲妻を解き放つ。
「まだまだなぁ〜ん!」
「ええ、ここは畳み掛ける!」
「行くわ……!」
 淡金に虹を溶かした髪に咲く月下美人を揺らし、風に流れる詩・フィーリア(a64073)が身に纏った力ある炎から虹色に燃え立つ蛇を撃ち出した。仲間達へ感じる揺るぎない愛しさに漆黒の蝙蝠羽を震わせて、海中に霊布を舞わせた暴君のトゥーランガリラ・ゾフカ(a45900)も肌の上に揺らぐ黒炎から蛇を奔らせる。
 深海を真直ぐ翔ける雷光の矢に炎の蛇達が絡みつき、ドラゴンの肩口で鮮やかに爆ぜた。
 だが衝撃に揺らいだと見えた藤色の巨躯の彼方から、冷たい蒼銀の煌きを帯びた雪結晶の奔流が凄まじい勢いで迸る。心も身体も凍りつかせるような魔氷の力を持ったブレスを魂に還った召喚獣の力で防ぎきり、炎に輝く優しき野性・リュリュ(a13969)が新たに見えた蒼銀の鱗を纏うドラゴン目掛けて水を蹴った。
「電・刃ッ! 居合い斬りなぁあぁぁぁ〜ん!!」
 巨大な怪獣の骨から削り出した得物に眩い稲妻の闘気を纏わせて、渾身の力をこめてドラゴンの横面を思いきり撲り飛ばす。瞬間、今度は彼女の横合いから翠玉色に煌く氷礫の奔流が迸った。
 魂に還った召喚獣の力で蒼銀の雪結晶は何とか躱した明けの唄・フルス(a79163)も、これには全身を貫かれ痛みとは別の感触に光の翼を揺らす。
「……これは、厄介だね」
 翠煌く氷に貫かれた傷口から幸運が奪われていく様に眉を顰め、己が力で水中世界を支配する。
 深い海の底が、柔らかな幸運の光で包まれた。

●銀晶翠玉
 彼我の攻撃の余波に震えるマリンスノーが、蒼銀と翠玉の輝きを受け明滅するように煌いた。
 蒼銀の雪花と翠玉の氷礫重なる深海は鮮麗な色彩に彩られ、魔氷と不幸でドラゴンウォリアー達を翻弄する。だが確実に戦力を削ぎ落とされるその戦場へ、躊躇なく二つのチームが飛び込んだ。
「……ここで終わらせよう」
 頬を髪を掠めていく水流に瞳を細め、灰色の貴人・ハルト(a00681)が呟いた。
 氷礫の奔流を放つ翠玉色のドラゴンへ対するのは、氷海上層から全体の戦況を見定めることに努めていた、彼ら【炬部】の面々だ。タイラントピラーの力を宿し静謐の祈りを携えた耀う祈跡・エニル(a74899)と獣哭の弦音・シバ(a74900)を擁するこのチームは、状態異常攻撃を操る敵に強い。
 力強い鼓動で極寒の海にも凍えぬ熱い血流を巡らせ、皆と共に一気に翠玉色のドラゴンのもとへ潜行した蒼の閃剣・シュウ(a00014)は、振り被った刃に渾身の力を込めて強大な威と共に敵の眉間へと叩きつける。頭を押さえ込まれる形となったドラゴンは憤激し、薄ら翠玉色に透ける巨大な翼を打って氷礫の奔流を生み出した。
 だが殺気を捨て去った構えでこれを跳ね返し、敵へと返る衝撃波に追随させる形でハルトが神威を宿す雷撃を解き放つ。大きく羽ばたかせた翼のせいで防御姿勢を取れずにいる敵の様子に瞳を眇め、浄火の紋章術師・グレイ(a04597)も一気に精密な紋章陣を織り上げた。
「その無駄な動きの動作が命取りになります――この『ジュツ=カタ』の前においては!」
 浄火の印を刻む術手袋に覆われた手で鋭く薙げば、眩く燃え盛る炎熱の理が迸る。
「魔氷ブレス、余波が来る!」
 強大な火球が眼前の敵を灼くのと同時、別のチームが対している蒼銀のドラゴンが雪結晶の奔流を吐くのを察して白妙の鉄祈兵・フィアラル(a07621)が注意を喚起した。楯を構え後衛を背に庇った彼女は鎧聖降臨の護りで吹雪の威を完全に殺しきる。雪結晶を纏い凍りついた者も、老成した金の眼差しで辺りを見渡したエニルが清浄な祈りの波動で蒼く透きとおる氷を払い除けた。
 吹雪が生んだ水流を利用して雪結晶を回避していた青の天秤・ティン(a01467)は口元を綻ばせ、黒炎の威を乗せた凱歌の響きで辺りに波紋を生み出していく。現状、戦いの流れは決して悪くない。
 この流れに乗れば――必ず、勝てる。
「終わりにしよう、俺達の代で!」
「……これで、終わりに」
 眩い黄金に変じた髪を海中に棚引かせ、ヒトの武人・ヨハン(a62570)が同じ輝きを宿した鮮やかな稲妻を迸らせた。彼の言葉に頷いた月森の番人・クローディア(a08285)が展開した紋章陣からは、七色に流動する小さな太陽が生まれ来る。虹色の火球が翔けると同時に湖畔のマダム・アデイラ(a90274)の刃の軌跡からも音速の衝撃波が奔り、それらを追う形で片戀・メロー(a48163)が敵の懐へと飛び込んだ。
 鮮血の色を溶かした髪を振り流し、眩い光の弧を描く蹴撃でドラゴンの顎下から突き上げる。
「連携来るぜ!」
「応!」
 蹴りを喰らわせると同時にドラゴン二体の挙動を察したメローが声をあげれば、燃ゆるような炎の鬣を震わせたシバが二体の敵を視界に収めて燦然と光り輝く矢を撃ち上げた。
 状態異常に対する護りが厚く、全員を鎧聖降臨で固め、なおかつ負傷者や後衛を徹底して庇う態勢を整えた【炬部】は、蒼銀と翠玉の奔流が重なるこの戦場でも危なげなく戦闘を展開していく。
 輝く矢の雨が降りそそぐ中を、蒼銀の雪花と翠玉の氷礫が重なるようにして迸った。
 雪結晶を堪えたリュリュと共に蒼銀のドラゴンに対するのは、やはりタイラントピラーの力と静謐の祈りを手にした野良ドリアッド・カロア(a27766)と銀蟾・カルア(a28603)を擁する【夕焼花】だ。
 揺蕩う銀色の襤褸を纏い遊泳する魚の如き身のこなしで吹雪を躱したカルアは、幻影を伴い一気に敵へと肉薄する。閃く光条は北風の名を冠した黄銅に煌く鋼糸、鮮やかな軌跡を海中に描き巨大な蒼銀の鱗を切り裂いた。

 ――小癪な……!

 凍れる闇を凝らせたような瞳で睨みつけてくる巨大な敵にも臆することなく、負ける訳にはいかないんでねとカルアは軽く双眸を薄めてみせた。此処での戦いは最早自身の一部も同じ。
 極北の地を蹂躙したこのドラゴン達を、必ずこの手で屠ってみせる。
 深海を掻き乱す蒼銀と翠玉の奔流に苛まれながらも、カロアは身の裡に還った召喚獣の力に拠って自身を取り戻した。傷の痛みは堪え木漏れ日の煌きを宿す杖を掲げ、揺るがぬ意志を祈りに変え心で織り成す力で皆の身体を包み込む。
 挫ける訳にはいかない。今よりも絶望的な状況で、臆せず全力で翔けたひと達を知っている。
「やっと……やっと一緒に戦えるんですから!」
「皆が一緒だもん! 絶対に負けるわけがない!」
 行くんだよと続けて蒼穹を映す白銀の弓から矢を解き放つのは小さな海・ユユ(a39253)、少女の周りに浮かぶ小花蒲公英を照らし出すように矢は光り輝いて、無数の矢に裂け二体のドラゴン達へ降りそそぐ。光の軌跡と共に降る矢の雨を潜り抜け、天穿つ黒の斬撃・アトラータ(a77405)が蒼に銀に煌く巨躯へと迫った。
 神話の形に作り上げた剣へは鮮烈な闘気を凝らせて。
「はぁあああああ!」
 自身の傷すら力に変えて、強大な敵へと叩き込む。
「すごいのですよ〜! そしてここでリヴィが華麗に回復しちゃうのです♪」
 満身創痍のアトラータが敵に痛打を与えると同時に、七色の花冠・リヴィートゥカ(a71397)が自身の纏う七彩の花々よりも華やかな声音で活力を甦らせる歌を深海に響かせた。だが範囲攻撃ゆえに威力が半減しているとはいえ、奔流二撃の傷すべては癒しきれない。
「加勢するぜ! リオの姐さん!!」
「……ん、みんなの傷は、わたしの歌が、包むから」
 足りぬ分を補ったのは海と夜空の迷い唄・リオルーナ(a62185)の歌声だ。深い蒼に緩やかな海風を纏う衣の裾を靡かせ、怯む者の背に優しく触れてやるような響きで皆の中から活力を呼び覚ます。
 姐さんので足りねぇ時は俺も歌うからと【夕焼花】に攻撃を促して、大地と空への唄を抱く剣で水流を薙いだ風韻縹緲・ハーツェニール(a52509)は、冷たい虚無の手を蒼銀のドラゴンへ奔らせた。
 影の爪が巨大な鱗を貫く手応えに笑み、最後まで彼女の傍で歌えるよう改めて気を引き締める。
 深海の闇とドラゴン二体の影。それらに鉄紺色の体躯を紛らせるように接近してきた新手が彼らに襲い掛かったのは――その瞬間だった。

●煌鱗散華
 月白のドラゴンが紋章陣から眩い光の雨を迸らせ、紫銀のドラゴンが音速の衝撃波を撃ち込んでくる戦場にも、遊軍の如く深海を泳いでいたドラゴンウォリアー達が続々と集っていた。
「ご覧頂こうか、刃で奏でる旋律を……!」
 降りそそぐ光の雨を鮮やかな剣捌きで切り裂きながら敵との距離をつめ、涼やかな響きで水を薙ぐ太刀を手にした風と共に木霊する旋律・ライナード(a72081)が、咲き誇る薔薇を振りまきながら刃を揮う。斬撃を喰らった月白の敵は再び紋章陣を展開した。
 紋章陣から噴き出す光の雨に負けじとパティが輝く矢の雨を降らせ、光に紛らせて不可視の刃を放たんとした紫銀の敵へは、それを予測していたアルムが激しく燃え盛る火球を撃ち込んだ。
「……それ以上……させない」
 灼熱を孕む理の力がドラゴンの腕を弾き、生み出された刃は海水のみを裂いて掻き消える。
「海の中、キラキラ綺麗……」
 揺らぐ海中に幾つもの光が交錯する様に微かな笑みを浮かべ、黎旦の背徳者・ディオ(a35238)が鮮やかなまでに黒い炎の力を得て凍える虚無の手を深海へと奔らせた。
 魔の爪が紫銀の鱗を抉る隙に皆の傷を癒すのは、小さなアフロ紳士・ウィズ(a47838)だ。
「負けらんないし負けないもん!」
 高潔な白百合咲く彼の髪は虹を秘めた癒しの光に照らされて、漆黒に艶めき海中に揺らめいた。直にドラゴンと相対する力は自分にないことは知っているが、こうして皆を癒して回ることならできる。彼を癒し手と見た敵が不可視の刃を撃ち出したが、その挙動よりも速く緑薔薇さま・エレナ(a06559)が射線に身を躍らせた。凪ぎを思わす構えで刃を完全にいなし、その威を紫銀の敵へと跳ね返す。
「貴方の舞いは簡単すぎて……とうに読みきってしまいましたわ」
 淑やかに笑んで一風変わったブーメランを擲てば、それを機先として攻撃に特化した【紅牙】の面々が容赦ない攻撃を叩き込み、深海の底へと紫銀のドラゴンを撃沈した。
 月白のドラゴンに相対する者達も、増援を加え一気に敵を押していく。
「牙狩人コンビの息の合った連携、見せてくれよな!」
「がつんとお任せ下さいなのです!」
「後ろは任せて思う存分剣を振るいな、がっつりおゆき!」
 気泡の奔流を生みながら真直ぐ敵へと向かう赫風・バーミリオン(a00184)の両脇を護るようにして、朱陰の皓月・カガリ(a01401)とボギーが短矢を撃ち出した。彼を追い越した矢が敵の両翼を貫き掠めた瞬間に、金の瞳に不敵な光を宿したバーミリオンが敵の意識が逸れた下方へと潜り込む。
「華麗な技持っていようが、キレイな景色にテメェら竜は目障りだ!」
 迸る破壊衝動に身を任せ、全身全霊を込めて漆黒の刃を叩きつける。
 月光のように仄光る血が月白の喉から噴出した。
 激怒したドラゴンは再び光の雨を乱舞させたが、聖なる光と力ある炎を重ねたラジシャンの癒しを越えることはできない。清麗に揺れる金鎖や青玉や透明な翼に虹を映し、揺るがぬ癒しを解き放つ。
「俺達の戦い方、みせてやろうぜ!」
「冥途の旅の餞にな!」
 全ての傷を拭われたフィードが愚直なまでに真直ぐ翔ける。
 戦場に美を添えるためでなく、戦いの先にある美しいものを護るため。
 海底へ沈んだ月白の巨躯が沈殿したマリンスノーを舞い上げた。
 途端に翼を打って海中を旋回したのは、月白と紫銀を癒し戦いを長引かせていた藤色のドラゴンだ。連携の取れた【暁】とソウェルに追い詰められていた藤色は離脱を図ったが、そこへ身の裡に秘めた召喚獣の力で回り込んだ青雪の狂花・ローザマリア(a60096)が立ちはだかる。
 二振りの剣と化した戦友の形見からは、熾烈な雷撃が迸った。
 今こそ、すべてを清算する時。
 彼女の言葉に浅く頷き、少女のそれに戻った肢体を緩く撓らせた久遠槐・レイ(a07605)が、飛燕の如く翔ける気の刃を勢いよく撃ち出した。未来へと続きかねない禍根を断ち切るための刃は、藤色の鱗を弾き飛ばし幾重にも肉を抉って遂には心の臓へと辿りつく。
 強い意志を湛えた二人の眼差しの先で、藤色のドラゴンはゆっくりと海の底へ沈んでいった。

●深淵紺青
 一方、蒼銀と翠玉に煌く奔流が吹き荒れる戦場に乱入した鉄紺色のドラゴンへは、奇襲を仕掛ける敵を警戒していた淙滔赫灼・オキ(a34580)達【星藍】が相対していた。
 海底すれすれから浮上してきた敵を真上から押さえ込む形を取ったオキは、不敵な笑みを浮かべた夕闇に染まる白き大翼・トワ(a37542)に笑みを返し、互いに機を併せてドラゴンを攻め立てる。
「じゃ、追撃合戦と行こうか。負けないしね?」
「あ? 俺の勝ちに決まってんだろ?」
 楽しげに軽口を叩きながらも敵と深海を見据える眼差しはどちらも真剣で、空に舞う飛燕よりも速い刃と絢爛と咲き誇る鮮やかな薔薇を幾重にも重ね、追撃の数を競いながら二人は鉄紺の鱗を次々と削っていく。だが無論相手も削られるばかりでなく、狙い澄ました巨大な爪を一閃しようとしたが、
「そーはさせません! ごりっと深紅に燃やしますよー!!」
 深みを潜行してきた悠揚灯・スウ(a22471)が激しく燃え立つ炎熱の塊を横合いから撃ち込んで妨害した。泳げなかったら海底を歩くしかないと悲壮な決意を固めていたのが思わぬところで功を奏する。実際のところは背の四枚羽で宙を舞うかの如く自在に動けたわけだが。
 焔が爆ぜた箇所から溢れだした大量の気泡を薙ぐようにして、スウへと狙いを変えた敵が鋭い爪を閃かせる。だが彼女の前に割り込んだ白散華夜・アッシュ(a41845)が仄白い刃でそれを止め、水の流れから瞬時に力の方向を読んでそれを受け流した。逸らされた爪が引き戻される際に生まれた流れに乗り、桃瞳掉色・リャオタン(a21574)が一気に敵へと距離をつめる。
 援護に放たれたアッシュの鮮烈な雷撃が二度三度と鉄紺の巨躯を駆けめぐる隙に、リャオタンは稲妻の闘気を纏わせた刃を敵の鱗へと叩きつけた。即座にドラゴンが反撃の爪を揮う。
 避ければ仲間に当たるとばかりに、彼はその場に踏みとどまった。
「「ば……!」」
 防ぐことを考えていない彼の背中にスウとアッシュが声をあげる。衣服を纏ってはいてもそれは竜と戦う力が顕現したもの、実際のところ彼は防具らしい防具を装備していないのだ。これでは鎧聖降臨も意味を成さない。だが二人が「か」まで言い終わらぬうちに、上層から一気に潜行してきた終焉を綴る少女・テルミエール(a33671)がすんでのところで彼と爪の間に割り込んだ。
 経験を重ね、タイラントピラーの力と鎧聖降臨を携えた彼女の耐久力は高い。
「誰一人欠けることの無い戦いができれば……」
 素敵ですよね。
 希望そのもののように笑んで、彼女は癒しの光で世界を染めあげた。

 ――貴様らがおらんでは、俺の焔が引き立たんではないか……!

 勝手な理屈で怨嗟を吐いたのは、深海の彼方から新たに現れた濃紅のドラゴンだ。彼が一瞥したのは海底に沈む同胞達。蒼銀や翠玉のドラゴンを屠ったドラゴンウォリアー達の加勢により、この時には既に鉄紺のドラゴンまでもが沈められていた。
「成る程、得意は火焔ブレスってとこか」
 真っ先にこの敵と相対したのは如月・アオト(a55093)達【庵】、濃紅の口元が泡立つ様に九尾の尾をふさりと揺らし、アオトは即座に皆の許へ護りの天使を招来する。一足先に温泉気分を味わって帰るかと笑って皆に注意を促した。戻ったら、皆と揃って温泉で疲れを癒すのだ。
 直後、極北の凍える海水すら糧として燃え盛る灼熱の火焔が迸った。

●紅焔氷花
 巨大な濃紅の口から噴出した火焔の奔流は深海を眩い朱と紅に染め、膨大な気泡を生み出した。
 迸った焔を辛うじて躱した剣舞士・キール(a47731)は何処か面白がるような風情で瞳を細め、焔の熱と勢いで大きく揺らぐ海中を舞うように抜けて、火焔の輝きを受け紅がかった虹色にきらきらと光を弾く泡を掻き分け敵に肉薄する。
「そんなのじゃ当たらないよー? なに熱くなっちゃってるの?」
 効果があるなら大挑発でも使うのだが、状態異常を蒙ることがないドラゴン相手では仕方ない。
 僅かでも言葉で集中を乱せれば御の字と割り切って、闘気を乗せた破壊の剣を叩きつけた。
 焔に弾けたアオトの護りの天使が痛手を緩和してはくれたが、この火焔は奔流が消え去った後も肌に残り肉を灼き続けている。睡郷・ユル(a46502)は優しげな貌を苦痛に歪め、涼やかな蒼に真白の透かしが美しい舞扇をさらりと広げた。肌の上で燃ゆる黒炎が妖艶に揺れる。
「……温泉には惹かれますが、こんな温泉はまっぴらです」
「まったくだ」
 深海へと優雅に響くユルの歌声に魔炎と傷が拭われていくのを感じながら、飛・レン(a29140)は揺らぐ水を蹴ってドラゴンへと向かった。弦月を思わす刃が海水を断ち割るようにして揮われ、瞬間、鮮やかな光を放つ稲妻が深海を奔り抜ける。
 神威の雷が濃紅の鱗を直撃すると同時に、時詠み・リール(a79534)が演舞の如き動作で盛大に太鼓を打ち鳴らした。サーベルから変化したそれは舞楽のリズムで力強い音を響かせて、海水を揺るがす波紋が吟遊詩人の舞特有の避け難い斬撃となってドラゴンへと襲い掛かる。
 再びドラゴンの口元が泡立ち、鮮烈に燃ゆる火焔の奔流が迸った。
 眩い輝きで眼を灼く焔と大量に沸きあがる気泡がドラゴンウォリアー達の視界を奪ったその刹那、今度は上方から鋭い衝撃が襲い掛かる。
 銀色に煌く爪がリールの身体を裂いた瞬間、焔の中に凍れる薔薇が咲き誇った。

 ――おお。これは思ったより美しい……!

 歓喜の声をあげたのは凍れる薔薇の斬撃を放った新手のドラゴンだ。
 銀色の鱗を持つ敵は容赦のない連続攻撃を繰り出し更なる氷の薔薇を咲かせようとしたが、突如そこに割って入った漆黒の鎧を纏うドラゴンウォリアーに追撃を阻まれる。
「派手な攻撃であろうとも、地味に防ぐが勝利の秘訣でござるなぁん」
 構えた楯でがっちりと銀爪を受けとめた深淵の白龍・ノリソン(a29633)は、そのまま妖しげに煌く刃を揮い極寒の海に更なる氷結領域を生み出した。だが氷結の威はドラゴンを傷つけはするものの、その圧倒的に巨大な体躯を魔氷が包むことはない。また、効果範囲の狭い氷結領域では複数のドラゴンを巻き込むことも難しかった。
 状態異常の効かぬ相手を攻めあぐねつつも、透硝華・ハル(a20670)は淡やかな光を孕んで揺れる海水を切り裂くようにして鋭いカードを放つ。禍き札を銀の鱗に突き立てることでドラゴンに隙を生み、その隙にノリソンが体勢を立て直す。しかし周りに集いつつある仲間達と共に更に敵を攻め立てんとしたその刹那、ハルは更なる気配を感じて総毛立った。
「新手が……!」
 深海の彼方から巨大な複数の影が迫り来る。
 燃え盛る火焔の奔流に凍れる薔薇の斬撃、そして新手のドラゴン達から繰り出される攻撃が幾重にもかさなって、一斉にドラゴンウォリアー達へと襲い掛かってきた。

●虹色泡沫
 広大な深海は一気に乱戦の場と化して、間断なく繰り出される敵味方の攻撃が入り乱れ絶えず海水と海底を大きく揺るがしていた。戦いの経験が浅い者や身を挺して仲間を庇った者、薄い装甲で敵攻撃を受けとめ耐えようとした者などが、次々と戦う力を失って倒れていく。
 深い傷を負った味方が複雑に乱れる水流に流されんとする様に、夏休みは昆虫採集・チグユーノ(a27747)は反射的に手を伸ばしたが、
「命の抱擁を……!」
「いえ、此方に任せて貴女は攻撃を!!」
 内なる召喚獣の力で翔けたソウェルが倒れた仲間の身体を先に抱きかかえた。
 命の抱擁は長い時間が必要な術だ。その間彼女の手が塞がってしまうのはあまりにも勿体無い。自分ならグランスティードの早駆けでインフィニティマインドまで負傷者を後退させ、即座に戦場へと舞い戻ってくることができる。
 迷いない彼女の行動に頷きを返し、チグユーノは混ぜてもらった【夜遥】の仲間の許へと戻った。
 精鋭で構成されているこのチームは乱戦の最中にあってもまだ全員が健在だ。
「……なるほど。確かに壮観な光景ではあるな」
 双方が鮮やかに輝く攻撃を多用するこの戦場は、流れる血が薄ら海水を染めあげてもなお美しい。
 前方に陣取ったオパール色のドラゴンが噴き出す気泡の奔流とその余波で生まれた渦を流れるような体捌きで回避しつつ、黎燿・ロー(a13882)は【夜遥】の面々と前方の敵へ襲い掛かった。
 淡やかな虹を孕む気泡は、肌を溶かし意識すらも恍惚の中に溶かしこんでいく。
 思わず気泡の虹に見惚れてしまいそうになるのを頭を振って踏みとどまり、チグユーノは骨の翼を広げて黒炎の力を重ねた凱歌を紡いだ。虹色の気泡溶け込んでいく海に歌の波紋が広がっていき、柔らかなその波紋によって意識を掬いあげられた燬沃紡唄・ウィー(a18981)が、氷の刃の如く冷たい殺意を乗せて嗤う。
 齎された恍惚は心地好かった。
 深淵の紺青と冷たい静寂に満ちた深海で眠れたら――と、何処かで焦がれるように望んでいる。
 けれど。
「……そこ、どいて……」
 それには君達が邪魔だと言わんばかりに、ウィーは全身に揺らぐ黒炎から炎の蛇を撃ち出した。
 漆黒の炎が激しく爆ぜるのと同時、連戦を念頭におきアビリティを温存してきたローが幻影を連れて眼前の敵に斬りかかる。朱の鎖が幾重にも舞い冴ゆる刃が巨大な鱗を砕いたところへ、橙から紺へと艶やかに映ろう髪を靡かせたモノクロームドリーマー・カナタ(a32054)が飛び込んだ。
 極限まで感覚を研ぎ澄まして狙いを定め、夕陽を溶かしたような鮮麗な刃を突き立てる。
 深く肉を裂き骨に傷をつけんと抉りこめば、壮絶なその痛みにオパール色の巨体がのたうった。
 憎悪に燃える巨大な瞳が他のドラゴンを映す様に予兆を得て、カナタは大きく声を響かせる。
「連携攻撃、来るよ!!」
 直後、敵味方入り乱れる深海で様々な輝きに満ちた奔流が荒れ狂った。
 けれど絶対に負けはしない。皆がいて、そして――守り抜くと決めた心が折れない限り。
「混乱だの魅了だのがないだけマシ、だよね」
 魔炎や毒が身体を苛む感覚に眉を顰めつつ、殲姫・アリシア(a13284)は心のままに凱歌を歌いあげた。此処のドラゴンは状態異常攻撃を使う者が多いようだったが、敵を混乱させたり魅了したりするのは美しくないとでもいうのか、その類の攻撃は一切見当たらない。
 絶望を乗り越えてきた仲間と手を携えて戦える。
 傍らの親友と心を重ねて戦える。
「なら――向かうところ敵なし、でしょう?」
「当然、だな」
 紅の瞳を悪戯っぽく煌かせて笑う彼女に幻槍・ラティクス(a14873)も紅の瞳を細めて笑み返し、彼は穂先に翡翠色を宿す槍を携え複雑な水流を突き抜けるように翔けた。間髪入れずアリシアが眩い虹色に輝く業火を撃ち出したが、彼女の炎が描く軌跡は目を瞑っていたってわかる。
 七色に燃え立つ木の葉の奔流が敵の鼻面を直撃したところへ、ラティクスは幾重にも槍を揮って鮮やかに咲き誇る薔薇を深海へと散らした。

●銀氷昇華
 深海の闇を目まぐるしく変化する鮮やかな色彩が染めあげていく中で、弥終・セリハ(a46146)は冷冽なアイスブルーの輝きを帯びた水流に目を留める。幾条にも放たれるその細い水流は鋼糸のように鋭く撓り、死角からドラゴンウォリアー達を切り裂いていた。そして、その攻撃で体勢が崩れた隙をついて攻撃を仕掛けてくるドラゴンが多い。
 予想通り敵の防御困難攻撃は連携の起点になりやすいらしい。
 なら、狙うべきドラゴンは――。
「あちらの、浅葱色のドラゴンを!」
 周囲の味方へ共闘を呼びかけ、彼は一気に標的を目指して翔けた。
「死んだら殺す。合言葉だぜ?」
「ん。無茶したらキスするからね?」
 深海を翔けるドラゴンウォリアー達の中に見覚えある姿を見出して、無刃・エクサス(a01968)が声をかければ瑠璃の瞳を緩めた彼女に微笑まれた。殺す相手も彼女にキスされる存在も随分増えたなと思いつつ、軽く肩を竦めて更に加速する。瞬間、敵の動きを察して彼は回避姿勢を取った。
 浅葱色の翼が翻ると同時、幾条ものアイスブルーの水流が海中に舞い、水流がドラゴンウォリアー達を切り裂いた直後を狙って別のドラゴンからの攻撃が襲い掛かってくる。
「………………!」
「大丈夫、シアはここにいます!」
 荒れ狂う奔流の中でもはっきり彼女が呼ぶ声が聴こえたから、想いを抱く癒しの薔薇・シア(a03214)は声を張りあげて、傷を受けた皆のために聖なる光と力ある炎を重ねた虹色の光を解き放った。決して倒れまいと歯を喰いしばる皆の姿が戦場に立ち続ける勇気をくれるから、最後の最後まで思いを力に変えて、力の限り皆を癒し続けていく。
『挟撃する! 義弟が守った世界、精々守り抜いてやろうじゃないか!』
 心の声で【虚奏】の仲間に伝えたストライダーの忍び・フォルテ(a00631)は金毛九尾を靡かせ敵の横合いへと飛び込んだ。避けきれぬ水流の痛手は味方からの癒しと魂へ還った召喚獣から齎される活力で消し去って、満ちた活力を螺旋の力と成しドラゴンの脇腹へと突撃する。
 左右からの挟撃を喰らって、浅葱色のドラゴンの口から苦悶の呻きと大量の気泡が洩れた。
 戦場に幾重にも矢の雨が降り始める。
 牙狩人達のジャスティスレインはここに来て絶大な効果を発揮していた。
 敵味方全てが入り乱れる乱戦に突入した今、最も大きな攻撃範囲を持つこの技なら牙狩人の立ち位置によっては三体以上のドラゴンを一度に攻撃射程に捉えることが叶う。範囲攻撃の威力はドラゴン相手でも半減されてしまうが、一度に複数の敵を牽制できる可能性があると思えば、その利点は威力が半減されるという欠点を補ってあまりあった。
 浅葱色のドラゴンが屠られて、またひとつ連携の可能性が消える。
 これまでに倒れたドラゴンウォリアーは少なくなかったが、未だ立っている者はそれまでの連携に耐えうるだけの力を持った者達だ。此処までくれば――負けはない。
 残ったドラゴンウォリアー達は手を携えて、一体、また一体と確実にドラゴンを屠っていく。
 護りの蒼き風・アスティア(a24175)は次なる標的を見定めて、凛と煌く蝶の翅で深海を羽ばたきながら周囲のドラゴンウォリアー達へと呼びかけた。
「行きましょう……未来を、この世界に生まれる人達へと渡すために!」
「……まるで夢のようですね」
 金に変じた双眸で鋭く戦場を見渡していた蒼然たる使徒・リスト(a01692)が、僅かに目元を和ませ彼女の軌跡と共に深海を翔ける。最後の選択をしたあの時を思えば、何て遠くへ来たことだろう。
 世界から全てのドラゴンが消え去る時は、もうそこまで来ている。
 彼らの接近に気づいた薔薇色のドラゴンが巨大な爪に闘気を凝らせ身構えたが、爪が一閃される直前に飛来した稲妻が激しく腕を打ち据えその行動を牽制した。カガリの放った雷光の矢だ。
 大きな翼で水を打って翔けながら、紅の愛憐・ルルイ(a42382)は口元を綻ばせた。
 この場に集ったドラゴンウォリアー全てと心が繋がっているのを感じる。
 願いも望みも、皆同じなのだ。
「信頼しあう心……それが私たちの強さであり、希望の源だ!」
「ええ、そのとおりです!」
 蒼き刃の軌跡から鮮やかに奔ったアスティアの不可視の刃がドラゴンの右肩を抉れば、次の瞬間には力ある炎の威を重ねたリストの虚無の手が左の翼を突き破る。生まれた隙を逃さず、ルルイは螺旋の力を加えた技で真正面から敵へと向かっていった。
 三人の攻撃を起点にドラゴンウォリアー達は集中攻撃を図り、残った総力をもってこれを沈める。
 気づけば深海には、白銀の鱗を持つドラゴン一体を残すのみとなっていた。
 無論ドラゴンは逃亡を図ったが、巨大な体躯を誇るドラゴンとはいえ数十人のドラゴンウォリアーがいれば流石に包囲は叶う。全員が残る力の全てを叩き込めば、あっと言う間にドラゴンは瀕死まで追い込まれた。
 黒き炎を手繰ったディオが炎の蛇を放てば、漆黒の蛇が白銀の鱗を喰らって大きく爆ぜる。
 海中に散った鱗の欠片がはらはらと花のように海底へと舞い降りて、彼女は陶然と瞳を細めた。
「綺麗な鱗……まるで花みたいに散るわね、とても綺麗よ?」
「花ですか……」
 応えるように呟いて、安らぎを奏でる柔らかな光・フロル(a25437)は聖性を帯びた緑樹の杖で流麗な紋章陣を水に描き出した。美しい虹色に燃え立つ小さな太陽に未来への希望を込めて、フロルは最後に残ったこの術をドラゴンへと解き放つ。
 虹の炎は大きく爆ぜて、ドラゴンに残った最後の命の灯火を消し去った。
「どうか、その日を遠い場所で見ていて下さいね」
 深い海の底へ沈みゆく白銀の骸を見送りながら、ドラゴン達へ、自分達へと言葉を贈る。

 遠くない日にきっと、咲き誇る花のような幸せで必ず世界を満たしてみせるから。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:69人
作成日:2009/09/19
得票数:冒険活劇10  戦闘25 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
 
ガラクタ製作者・ルーン(a49313)  2011年11月22日 22時  通報
実は重傷を貰っていたり。
でもこれでドラゴンは完全に倒しきってるからもう安心……
それならこの痛みも大丈夫です。