ドラゴン掃討:安寧を掴み取る為に



<オープニング>


●ドラゴン掃討
 ゾフィラーガ・ヴァンダルから魔石のグリモアを託され、地獄の全てを統合して強大な力を得た王妃との戦いに、ドラゴンウォリアー達は勝利した。
 そして、全てを飲み込まんと迫り来る『絶望』を、溢れんばかりの『希望』と共に打ち破ったドラゴンウォリアー達は、インフィニティマインドと共に、地上へと帰還した。
 大きな脅威が過ぎ去り、戦いは終わったのだ。

「ですが、冒険者のなすべき事が、すべて片付いた訳ではありません」
 エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は、改まってそう冒険者達に告げた。
「円卓の間で話し合われた『解決すべき案件』は、まだ多くが未解決なのですから」と。

「最優先順位であった『魔石のグリモアの剣の探索』は完了しました。次に優先順位の高かった『地獄への対応』も、結果的に完了したと言って良いでしょう。つまり、我々が次にすべき事は、3番目に優先順位の高かった案件……つまり『ドラゴン、ドラグナーの発見と、その討伐』です」
 インフィニティマインドがあれば、擬似ドラゴン界を使うことなくドラゴンウォリアーになれる。
 つまり、大勢で一気にドラゴンやドラグナー達を掃討する事が可能なのだ。
「ドラゴンに関しては、すでにルラルさんの超霊視によって、すべての所在が判明しています」
 ドラグナーに関しては数が多いため、もう少し時間が掛かりそうとの事だが、そちらも全容が明らかになり次第、すぐに掃討作戦が決行されるとの事だ。

「あとは、倒すだけで良いのです。この世界からドラゴンの脅威を完全に払拭しましょう」
 その為の作戦に、どうか皆様の力をお貸しくださいと、ユリシアは深々と頭を下げた。
 
●安寧を掴み取る為に
「君達に頼みたいのは、かつでフラウウインド大陸に出現したドラゴンロード・碎輝の配下だったドラゴンの掃討だよ」
「碎輝って言うと、あの毒沼にいたドラゴンロードね」
 ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)の言葉に、リボンの紋章術士・エルル(a90019)が戦いの様子を思い出す。
 無限に成長し続けるドラゴンロード・碎輝。自身のドラゴン界を身に纏う事でパワーアップし、次なる力の源としてコルドフリード艦隊を狙って襲い掛かってきた碎輝を、ドラゴンウォリアー達は渾身の力を注ぎ込んで撃破したのだ。
「そう。そして、碎輝の配下にいたドラゴン達は、その毒沼の中に潜んでいる事が判ったんだ」
 尋常ならざる力を持つドラゴンにとって、毒沼で受けるダメージなど大した事は無いという事だろう。彼らはそこで潜伏し、機が熟すのを待っているのだ。……不老不死である彼らに焦る必要は無い。ドラゴンウォリアーの力が滅んだ頃に、地上に現われ、世界を蹂躙すればいいのだ。
「連中を放っておく訳にはいかない。世界の平和と、あと、まあ、明るい未来の為にはね」
「でも、毒って、大丈夫なの?」
 柄じゃないなぁという顔で語るキーゼルにエルルが問えば、「ああ、それは大丈夫」と懐から何かを取り出した。
 それは、光り輝くいくつかの種。
 女神フォーナの加護が宿った種だ。
「これを投げ込む事で、毒沼の毒が浄化されて、美しい沼に戻る事が判ったんだ。……遠い昔は、今とは全然違う、美しい場所だったんだろうね」
 だから、まずはこの種を毒沼に投げ込んで、みんなで祈って欲しいとキーゼルは言った。
 この場所が、再び元の美しい沼に戻るように……そうドラゴンウォリアー達が願えば、毒沼は浄化される。
「あとは、沼の中に突入し、ドラゴン達を掃討して欲しい」
 ドラゴンウォリアーは、いかなる環境にも適応できる力を持つ。沼の中でも地上と同じように翔け、敵と戦う事ができる。泳げない者だろうと、何の心配もいらない。
「君達が担当する場所には、どうやら、碎輝に似た電流を操るドラゴンが集まっているようだね。もちろん、その力は碎輝には遠く及ばないけど……あと、どうも、性格も碎輝に割と近い感じらしい」
「……熱血ドラゴン?」
「まあ、そんな感じ。もちろんドラゴンだから、邪悪なのは間違いないけど」
「わかったわ。……ドラゴンが残ったままじゃ、みんなが安心して暮らせる世界にはならないものね。1体残らず、全部倒さなくっちゃ。ね、頑張りましょうね、みんな!」
 世界中に暮らすみんなの為。……これから生まれてくる、大勢の子供達の為。遠い遠い未来に生きる人々の為にも、ここですべてのドラゴンを討ち滅ぼさなければならない。
 その為に頑張りましょうねと、エルルは仲間達を振り返って、笑うのだった。


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参加者
NPC:リボンの紋章術士・エルル(a90019)



<リプレイ>

●光の種が芽吹く時
 冒険者達を乗せたインフィニティマインドは、隠れ潜んでいるドラゴン達を掃討するべく、フラウウインド大陸に向かっていた。
「この戦いが終わったら……」
 笑劇の伝道師・オメガ(a00366)は神妙な顔で口を開いた。
「俺、エルルをアイドルにプロデュースしようと思うんだ」
 今なら世界一、いや宇宙一のアイドルだって夢じゃない。
 そう語るオメガの言葉に、色々な意味で危険な気がするのを感じるエルル。そんな中、ふと視線を感じて振り返れば。
「あ、その……」
 そこにいたのは、いくつものリボンを身に着けた、タロスの紋章術士・エルルー(a77992)だ。ちょっと緊張した面持ちで、意を決した様子で口を開く。
「初めてエルルさんを見た時から、ずっと憧れていたんです。……お姉様、って呼んでも良いですか?」
「私を?」
 驚きつつも「いいわよ」と頷くエルルに、エルルーは嬉しそうに笑う。
 2人がリボンの事などを話しているうちに、インフィニティマインドはフラウウインド上空へ到達する。
 毒沼の近くで停止する頃には、この戦いに加わる冒険者達はバトルデッキに集まっていた。
「まずは、これだな」
 黎燿・ロー(a13882)は光の種を取ると飛び上がった。漆黒の瞳は金に染まり、朱の鎖を揺らしながら毒沼の上まで到達すると、そっと、それを投げ込む。
 種を持ったドラゴンウォリアーの手元から、次々と落ちていく光の種。小さな波紋を描いて、それが沈み行くのを待って――祈る。
 この地が再び清らかな姿を取り戻す事を。
 ローは碎輝との戦いを、この地に眠る者達への敬意を胸に祈った。彼以外にも、かつての出来事を回顧している者は少なくない。蒼鴉旋帝・ソロ(a40367)は、無言で祈る黒鴉韻帝・ルワ(a37117)の背を見つめながら、祈った。この地が豊かになって、また新しい命を育めるように。……この場所を想うルワの為にも。
「全ての人が、幸せを享受できる世界になりますように」
 紅い魔女・ババロア(a09938)は、隣のノエルと手を繋ぎながら祈っていた。
 人間の世界には苦難も多い。けれど、それは、人々の日々に満ちた幸福の力で乗り越えられはず。この地も、それを感じられる場所であって欲しい。
「そうなったら素敵ですね。ううん、そうしないといけないのですね、僕達が」
 隣のノエルがにこやかに頷く。遠い昔から今まで、いつも、いつだって、それが冒険者の役目なのだから。
「あ!」
 見て、と誰かが促した。全員の視線が降り注ぐ中、あれだけ濁っていた沼の毒が薄れていく。それは、不思議な光景だった。
 みるみる毒沼は浄化され、その水が沼の底を確認できそうな程に透き通っていく。
「この様子だと、ホーリーライトはいらないね」
 太陽の光だけで十分そうだと、書きかけのカルテを脇に抱え・ハインツ(a76828)が評するほど、今や毒沼は美しい湖沼へと姿を変えていた。
「行こう」
 久遠槐・レイ(a07605)は短い言葉と共に沼へ飛び込んだ。心の内を表すかのように色を変えた髪が、水に濡れて揺れる。
 目指すは、ドラゴンのみ。
 その双眸は今やあらわとなった、ドラゴン達の姿を完全に捉えていた。

●そして火蓋が切って落とされる
『なんだ、これは』
 周囲の変化に、ドラゴン達は何が起こったのかを掴めずにいた。
『ドラゴンロードか?』
『じゃなけりゃ、奴らに違いねぇ』
 それでも、彼らはすぐ原因に思い至る。何らかの敵が迫っているに違いないと、そう見上げるドラゴン達。だが、それが一瞬であったとしても……急襲するドラゴンウォリアー達には十分。
「ドラゴン達よ! 君達の主が死んだからといって、見逃す訳にはいかない!」
 真っ先に降り注いだのは、記憶の演奏者・カズハ(a01019)のニードルスピアだった。無数の針に続けて、儚幻の対旋律・ゼナン(a54056)が一点を指し示す。
「まずは、あいつだ」
 黒炎に身を包んだゼナンから飛んだ木の葉は、業火となってドラゴンを包む。
 先手を取る。そして一気に叩く。
 攻撃を集中させ、敵の数を減らす。
 即座に飛び込んだドラゴンウォリアー達は、その重要性を良く理解していた。だからこそ、誰もがそのドラゴンへと攻撃を集中させる。
「行くぞぉぉぉっ!」
 水を切って飛んでいくのは、ワンワン尻尾の武道家・シルヴィア(a73331)のワイルドキャノン。レイの飛燕連撃は立て続けに3度突き刺さり、ドラゴンの表皮に傷を刻む。
「一緒に行こう、エルル」
「ええ」
 頷いたエルルの頭上から火球が飛ぶと同時に、紅い城塞・カーディス(a26625)は渾身の力を柄に込めて、兜割りを叩き込んだ。
「時を待つ……そんなの、つまらないでしょう?」
 さあ、遊ぼう。
 薄く笑みを浮かべて、淙滔赫灼・オキ(a34580)は飛燕連撃を飛ばす。
「それにね、どれだけ待っても駄目だよ。未来にだってわたし達はいるんだから!」
 泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)が指天殺と共に囁く。ドラゴンがいる限り、ドラゴンウォリアーは戦い続ける。
 今戦おうと、今ここで倒れようと、同じだ。
「わたしたちの未来はね、とても明るいの」
 決して負けられない。その決意を瞳に宿して、月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)はドラゴンを見据えた。
 それは、今ここにいる皆が、命を賭けて守るからこそ約束された未来。
 だからこそ、自分達は戦うのだ。
『相変わらずよく回る口だな、ドラゴンウォリアー。まあいい、碎輝様を倒したお前らなら、敵として不足はねぇ!』
 立て続けに猛攻を受けながらも、ドラゴンは不敵に笑ってそう切り返す。
 次の瞬間、荒れ狂う雷電がドラゴンウォリアー達へ叩き込まれた。

●想いを瞳に宿して
 ドラゴンウォリアー達は、それぞれに攻撃への対処を考えていた。鎧進化や鎧聖降臨、無風の構えやライクアフェザーを使用していた者もいたし、盾を構えて威力を削いだ者、咄嗟に身を翻して間一髪避けた者もいた。
 だが、完全に防ぎきった者は少なく、多くは傷を受け、更に一部は身の自由を失ってしまう。
「お任せください」
 水面の上にいて、攻撃から逃れた深き海と森の詠唱者・エウリューシア(a44181)は、すぐさま仲間達へ届くように位置取り、高らかな凱歌を響かせた。その力は、黎旦の背徳者・ディオ(a35238)が使ったヘブンズフィールドの効果もあって、多くの者達をマヒから回復させていく。
「すまないな、感謝する」
 短く礼を告げて、そうだ釣りをしに行こう・セルゲイ(a72567)は指天殺を繰り出した。彼をはじめ、身の自由を取り戻した冒険者達が次々と攻撃を再開し、標的と定めたドラゴンへ次々と傷を刻む。
 ドラゴンウォリアー10人で互角と言われるドラゴン。それに今、50人もの冒険者が一斉に攻撃を仕掛けていた。流石のドラゴンも、これにはみるみる劣勢へと追い込まれていく。
『なんだい。随分とボロボロじゃないか』
 そこに、旋回して来た別のドラゴンがブレスを放つ。
 助けに来た、というのとは少し違う。哄笑するような口ぶりで、傷付いた同胞には目もくれず、ただただドラゴンウォリアーだけを視界に捉える。
『君達って、こういうの好きだよねぇ。弱い物イジメ、かわいそう。かわいそうなグランヴァスタ! くすくす。……ああ、でも、もっと弱いのがそこにいるね。あっはは、君達も同じ目に合わせてあげるよ!』
 小柄なドラゴンは口元を緩めると、寸分違わず同じ場所へ稲妻を走らせた。
『碎輝様が認め、そして碎輝様を倒した連中だ。人間だからと手心を加えず、全力で当たるが礼儀であろうよ!』
 急降下したドラゴンの周囲に雷の弾が浮かぶ。それは次の瞬間、一気に破裂して暴風の巻き起こす水流と共にドラゴンウォリアー達を呑み込む。
「エニル、動ける!?」
「何とか」
 高らかな凱歌と共に呼びかける青の天秤・ティン(a01467)に、耀う祈跡・エニル(a74899)は電流を振り払って頷いた。そのまま、捧げるのは静謐の祈り。それは立て続けに痺れた仲間達が復帰するのを支援する。
「動ける人は一気に行くよ!」
「了解!」
 灰色の貴人・ハルト(a00681)はここまでの手応えから、最も効果の高かったチェインシュートを飛ばす。続く殲姫・アリシア(a13284)は、身に纏った黒炎の力を上乗せしたエンブレムノヴァを撃った。
「これで最後に致しましょう。……悪しき因縁など、これで終わり。未来に禍根を残さぬように」
 ドラゴンとの決着。その為に、出来得る限りの支援を仲間達へ。
 そう胸にして、紫晶の泪月・ヒヅキ(a00023)は護りの天使達を呼び出す。ブレスの苦痛を和らげ、仲間を救う盾になるよう、そう願うヒヅキの想いは、守護天使となって皆を護る。
「ふむ……ならば」
 獣哭の弦音・シバ(a74900)は敵の動向を見定めると、光り輝く正義の矢をつがえた。放たれた矢は頭上で分裂すると、ドラゴン達に降り注いで牽制する。
(「……この手で、終わらせる」)
 一瞬、脳裏に蘇る過日の出来事……。ヒトの武人・ヨハン(a62570)は、ドラゴンの真正面からサンダークラッシュを撃った。
 ――理由は、あった。それでも逃げたという事実に変わりは無い。それが今もヨハンの胸を苛み続けている。
 だからこそ勝つ。そしてこの手で終わらせる。
 ……前へ、歩き出す為に。

●譲れない矜持があるから
 集中攻撃を受け続けていたドラゴンは、度重なる傷に耐えかねて、とうとう、力尽き果てた。
「残るは貴方達だけです。一体残らず、死んでもらいますよ!」
 戦場の黒き魔鳥・リサ(a16945)は海中にありながらも、まるで大空を翔る鳥のように翼を羽ばたかせた。目指すは新たなドラゴン。次なる標的に、その刃を突き立てる。
『痛ぇな、おい』
 ドラゴンは不機嫌そうに零すと、雷を溜め込んだ牙を繰り出した。骨が、噛み砕かれる音がする。けれど、それで倒れるほどヤワじゃない。
「三下ごとき、私の敵ではありません! ……とノエルさんが言っていました。さすがノエルさん、自信満々ですね」
「ええっ!?」
 自分の後ろであらぬ事を叫ぶパタパタ中堅観察者・エリン(a18192)にノエルは慌てふためく。……その言葉は、見事にドラゴンの意識を惹きつけたようだ。
「エリンさん、そのまま後ろにいてくださいですよっ」
 突進するドラゴンを、鎧進化を纏ったノエルが受け止める。更に押し寄せようとする敵を散らすべく、エリンはエンブレムシャワーを放つ。
「これだからエリンさんはしょーもないですなぁ〜ん」
 後で尻尾ビンタですなぁ〜んと肩をすくめて、会葬者・フラワ(a32086)は癒しの光を広げた。その合間に、躍り出たババロアがサンダークラッシュを撃つ。
「右翼、もう1体来るよー、気をつけて!」
 ヒーリングウェーブを広げながら、医術士・サハラ(a22503)が警告する。次の瞬間、辺り一面を雷電が覆った。
『グランヴァスタを殺すなんて……やるじゃない。けど、随分と息切れしてるみたいね。まさかこれが全力だなんて、ふざけた事を言う訳じゃないでしょう? もっと見せてみなさいよ、あなた達の本気。私が、それを粉々に叩き潰してあげるから!』
 ドラゴンの咆哮が、ブレスと化して襲い掛かる。その衝撃を、泡箱・キヤカ(a37593)はグッと堪えて呟いた。
「熱い……。でも、熱さなら私達も負けませんよ!」
 つがえた弓からジャスティスレインを降らす。その隙間を飛んだ金鵄・ギルベルト(a52326)は、金色のハルバードに破壊の衝動を上乗せし、
「最後くらい、派手な舞台で散らせてやるよ!」
 思いっきりデストロイブレードを叩き込む。
「――貰った」
 そこに、蒼翠弓・ハジ(a26881)の貫き通す矢が飛んだ。深緑のスカーフを揺らして弾かれる弦。
 真っ直ぐに飛んだそれは、一瞬の隙を突くように、すっと、深くドラゴンの眉間に突き立てられる。

「重騎士の本分は守りにあり!」
 黒影の聖騎士・ジョルディ(a58611)は、盾を構える腕に力を込めた。雷を纏って突進するドラゴンを、真正面から受け止める。
 そんな相棒への傷を、黒鴉韻帝・ルワ(a37117)は高らかな凱歌で癒す。辺りに響くテノールの歌声を耳に、血の海に咲く黒薔薇・アイノ(a60601)は小さく笑う。
「やってくれたわね? 今日はすごく気分がいいから……跡形も無く滅ぼしてあげる」
 漆黒の翼の影から、暗き闇の腕が伸びる。虚無の爪先が翻ると、後はそのまま一気にドラゴンを切り刻んだ。
「結構、痛むでしょう?」
 笑むアイノの前で、ドラゴンの顔が歪む。結構、では留まらない程の打撃が、その身に降りかかっているはずだ。
「リュカ、行くぜ!」
「りょーかいっ!」
 緋閃・クレス(a35740)と青藍の漣音・リュカ(a73290)は、肩を並べて飛び出す。リュカの手元からサンダークラッシュが飛び、その前に進み出たクレスが、超高速の動きと共にミラージュアタックを繰り出す。
『……やるな。見事なものだ。しかしそれだけの力量があらば、ドラゴンに至る事も出来るだろうに。お前達は何故、更なる力を目指そうとせんのだ』
「簡単な事だぜ。俺達には守りたい明日がある。それにドラゴンの力は必要ない」
 それこそが、ドラゴンウォリアー達が戦う理由。彼らのように力だけが欲しいのではない。手にしたい物は、これからも続いていく永久の未来。平穏で幸福な無限の時間。
 それにドラゴンが入り込む隙間は、一分たりとも、無い。
『そうか』
 クレスの答えに、ドラゴンは目を鋭く細めた。
『愚かな。向上を止めた生き物は家畜も同じ。家畜共に、そのような安寧を与えてやるものか』
 攻撃の、言葉の返礼は、激しい紫電となって現れた。

●未来を繋ぐ為の戦い
「……邪魔だから、どいて」
 黒檀の扇を翻しながら黒炎を飛ばし、燬沃紡唄・ウィー(a18981)は囁いた。浮かぶのは笑み。たった一つの目的の為、ただただ純粋な殺意を抱いてドラゴンに対峙する。
『いいなぁ、そういうの。分かりやすくて好きだぜ!』
 咆哮と共に走る閃光。それを厭わず、伐剣者・コウ(a38524)は一気に飛び上がる。
 同時に、振りかぶるのは巨大な剣。まるでコウの力が流れ込んで巨大化したかのように、彼の願いを具現化したかのように、強靭な刃を持つそれを、コウは極限まで凝縮した闘気と共に叩き込んだ。
 爆発によろける体を立て直す暇すら与えない。夜を染める白・フリッツ(a66410)の大岩斬が、ドラゴンの体内へダイレクトに衝撃を叩き込む。
「碎輝に性格だけは似ちまったようだが、実力はとても及ばないな!」
『ほざけ!』
 息を詰まらせるドラゴンに、蒼の閃剣・シュウ(a00014)は狂戦士の極意を上乗せさせた刃を叩き込む。ドラゴンは吼えると、喉元にブレスを溜め込んだ。
『我は長い時を経てここに至った。そして未だ終着は遠い。碎輝様がそうであったように、我は更なる高みを目指すのだ!』
 昨日より今日、今日より明日。
 かつて碎輝が、そしてその配下達が、幾度となく唱え続けた言葉。それは今も彼らにとって、意味を持つ言葉であるのだろう。
 だが、
「ならば掴み取りましょう。僕達も……ドラゴンなど無い、平和という名の明日を!」
 深い青に染まった、弥終・セリハ(a46146)の瞳に力が宿る。彼らに負けない程、それ以上に求める未来が自分達にはある。
 結い上げた髪と陣羽織をはためかせてドラゴンに肉薄したセリハは、その急所を寸分違わず指天殺で突き刺す。
『グリゴリ。あの辺り、さくっと落としちゃわない?』
『いいぜ。奴らばかり無傷ってのも気に喰わねぇ!』
 ドラゴンが頷けば、稲妻が雨のように降り注いだ。そこへ間髪置かず、雷を束ねた奔流が、どっとドラゴンウォリアー達へ押し寄せる。
「っ――!」
 衝撃に、自らも力尽きかけながら、それでも月笛の音色・エィリス(a26682)は己を奮い立たせた。全身から溢れる光が漣となって、周囲の傷付いた仲間達を照らす。押し寄せる波に包み込まれれば、傷が、痛みが引いていく。
 でも、足りない。
「どなたか、お願いしますわ!」
「よし。僕が引き受けよう」
 完全に癒しきれなかったそれを、ハインツのヒーリングウェーブが補う。
 回復アビリティを持つ冒険者達が苦心したのは、いかに回復を効率よく行うかだった。アビリティを浪費する訳にはいかないし、さりとて、回復が不足してもいけない。だからこそ、彼らはの声は頻繁に行き交い、その連携を密にする。
『ちえっ。ざーんねん』
『次は今以上の威力で落としてやるぜ。俺達の勢いは、何者にも阻めない!』
「……やれやれ」
 ドラゴン達の声に、翠影の木漏れ陽・ラズリオ(a26685)は苦笑する。胸がさざめくのは何故だろう。こんなにも苛立つ理由は……考えるまでも無い。あれが原因に決まっている。
「是が非でも負けたくないな」
 無意識のうちに、希望への祈りを込めたコンパスの鎖に指を絡めていたラズリオは、ふっと笑うと愛刀を構えた。
 回復は十分。ならば……。
 一息に、サンダークラッシュを叩き込む。
「仲のいいことだ。恋人か?」
 茶化すように、ドラゴン達へ黒炎を飛ばすのは、色喰みの獅子・ガルガドール(a79164)だ。
『はぁ?』
『残念ながら、男同士で睦まじくする趣味は無い』
「おや、そうか。ドラゴンにしては随分と仲が良いので、てっきり」
 哄笑するドラゴン達の声に、しれっと返すガルガドール。その言葉に、2体のドラゴンの間に走る空気が、僅かに変わったのを見逃さない。
「隙あり、ですよ。……さ、そろそろご退場願いましょうか」
 その瞬間、暁の幻影・ネフェル(a09342)のブラッディエッジが繰り出された。刃は鋭い切れ味を伴って敵を捉え、深い傷を刻み、鮮血を散らす。
「あなた達に明日は来ません」
 黒翼を羽ばたかせて回り込んだ黄昏の翼・リディア(a18105)は静かに告げる。それはまるで、死の宣告かのような響きすら伴う。
「今まで、多くの人達の明日を奪った報いを受けろ、ドラゴン」
 生み出されるのは異形の炎。一直線に飛んだデモニックフレイムがドラゴンを焼き尽くした次の瞬間、屍の傍らにクローンが生まれた。

●安寧を掴み取る為に
 戦えと命じられたクローンは、即座にそれに応えた。荒れ狂う稲妻を操りながら旋回すると、一気にドラゴン達へ襲い掛かる。
『アデルの奴……これが生きてる時なら正々堂々と戦りあってやるってのに……!』
 同程度の力量を持つ敵を無視する事は難しく、その対処に追われるドラゴン。それは、ドラゴンウォリアーにとって、これ以上無い好機だ。回復を重ね、万全の体勢を整えると、ここぞとばかりに集中攻撃を仕掛ける。
「ドラゴンとの因縁、ここで断ち切らせてもらう!」
 風来の冒険者・ルーク(a06668)が撃つサンダークラッシュは、次々とドラゴンに衝撃を与え続けた。その苦痛に悶えながら、ドラゴンは沼の底へと墜落する。
「この歌を聴け!」
 辺りに響き渡るのは、オメガのファナティックソングだ。その表情は恍惚に染まるが……それは、仲間達を癒す為に高らかな凱歌を紡ぐ、翠風奏者・ベリル(a25650)の力で正気に引き戻される。
「お相手いただこう」
『――いいだろう。来い!』
 威風堂々と進み出たローの一撃を、ドラゴンは真正面から受け止める。爛々とした瞳が戦いに躍る。どこまでも高揚する。
 果てしなく力を望み、強さを追い求め続けたドラゴンの姿が、そこにある。
 そして――その、終焉も。

『俺は死ぬ。それはただ、俺が弱かっただけの事だ』
 ドラゴンの世界は強者が上に立ち、弱者は搾取されてドラグナーに堕ち、そして果てるのが定め。今回は、相手がドラゴンウォリアーであった、それだけの事だと呟いて、また1体のドラゴンが果てる。
 あれほど飛び回っていたドラゴンも多くが倒れ、残りは僅かに過ぎない。
『……逃げるって手もあるんだろうな。だが、それは俺の性には合わねぇ!』
「そうか……アンタが勝つか、俺達が勝つか、勝負といこうぜ!」
 気勢をあげるドラゴンに、朱の蛇・アトリ(a29374)がニヤリと笑う。
 突進するドラゴンを、アトリは受け止めた。避けきれず受け止めざるを得なかった。その熱さに、アトリもまた応える。
 全力で放つヴォイドスクラッチによって。
「吼えろっ、わおぉぉぉぉんっ!」
 シルヴィアのワイルドキャノンが一直線に伸びる。光り輝く矢が行き交う中、幾筋もの攻撃の軌跡が叩き込まれる。
 沼の中にあっても決して消えない炎は、まるでドラゴンウォリアー達の心を象徴するかのよう。どれだけの反撃を受けようとも、ドラゴンウォリアー達の動きは決して鈍る事は無い。
 それは、誰もが強い決意を、大切な想いを抱いているからだ。
「今度こそ終わりにさせる。俺たち希望のグリモアの冒険者の手で!」

 この世界の未来(あした)に禍根を残さない為に。
 未来に、平和を繋いでいく為に。
 この力を振るわずに済む、安寧に満ちた日々を掴み取る為に。
 真の希望に満ちた、新しい時代へと踏み出していく為に。
 すべては……その為に!

「これで終わりだ!」
 目まぐるしく叩き込まれた攻撃の最後、轟音がドラゴンの表面で弾ける。その一撃にドラゴンは笑った。ただ無言で笑いながら、沼底に沈む。
 後には、静寂だけ。
 ……勝利したのだと、その喜びに彼らが沸くのは、その一瞬後の事だった。

●愛しき静寂に包まれて
「きれいなぁ〜ん」
 フラワは水面を眺めていた。浄化された沼は本当に綺麗で、思わず笑みが零れる。
 ……後ろでエリンが倒れているのは、どうやらちょっかいを出そうとして強烈な尻尾ビンタを喰らったせいらしい。
「大昔には、色々な魚が釣れたんだろうな」
 その光景を思い浮かべてセルゲイも笑う。浄化されたばかりの沼に生き物の気配は乏しい。
 いつか、この場所に多くの魚が暮らすようになったら。その時はまた、釣りの為に訪れてみるのも悪くないだろう。
「碎輝のあの性格、嫌いではなかったんですけどね……」
「そうだね。お高くとまってるよりは、熱血な方が親近感は沸くし」
 ネフェルの言葉にベリルが頷く。
 だが、ドラゴンはドラゴンだ。あのような力は……やはり、自分達には必要の無い物だと、ベリルは改めてそう思う。
「……君達の魂もいつか浄化されるよう、せめて、鎮魂歌を捧げましょう」
 彼らの存在は自分達にとって大きな戒め。忌避すべき存在には違いないが、それでも、と、カズハは竪琴を奏で、歌った。

「見つからない、か」
 一部の者達は沼の中にいた。丹念に底を攫う。今も脳裏に残る、あの姿を捜し求めて。
 だが、彼の亡骸はおろか、遺品らしき品すら見つける事は出来なかった。おそらく、あの毒沼に沈み、跡形も残らずに溶け消えてしまったのだろう。それ程に、この沼を覆っていた毒は強かった。
「……せめて」
 ヒヅキは周囲にランドアースから持ってきた花の種を撒いた。いつかは、この地が緑に溢れるような場所になるように、そう願いを込めて。
「プリムローズの花言葉には『希望』と『運命を開く』があるのですよ」
 きっと、この場に相応しい。エニルはそう献花する。
「あれから9ヶ月しか経っていないのに、世界は随分と大きく動いたよ」
 そっちに逝った奴も多いけど、とシュウは呟いて……しっかり叱ってやってくれ、と目を伏せた。
(「なんて思ってるかしらね、彼」)
 どんな顔をするだろう。想像して、ディオは苦笑する。沼のほとりに立ちながら、そっと携えてきた仮面の先に触れて……フリッツと目があった。
 その手は、様々なアイマスクや仮面を抱えている。
「……考える事は同じようで」
「ほんと」
 くすっと笑って、彼らはそれを沼に浮かべた。
「これは、そちらでお使いください」
「これだけあれば、困る事は無さそうね。……ねぇ、シャイボーイ?」
 今頃きっと、呆れたように笑っている事だろう。彼岸の向こうで。
「おやすみなさい、エドワウ」
「仮面の霊査士殿に敬礼!」
 囁くディオの隣で、フリッツが敬礼する。かつて、彼が飲み込まれたその場所を見つめながら。
「昨日より今日、今日より明日……か」
 この場所が、そうあるようにとティンは思う。ここで眠る者達の為に、明日はもっと安らかな場所になりますように。
 いつまでも、彼が静かに眠り続けていけるようにと、ウィーもそっと祈り、願う。
「戦いを諦めるな、とあんたは言ったな」
 諦めずにここまで来れたのは、数多くの同胞のおかげ。もちろん、エドワウもそのひとり。だからこそルワは、ここまで取っておいた、最後の高らかな凱歌を響かせる。
 有難うと、お別れと……万感を込めて。

 ひとつの戦いに終止符が打たれ、そして、この世界を脅かしたドラゴンという未曾有の脅威は、今、完全に取り除かれた。
 そこまでに歩んできた道のり、失われたもの……そして、それらを積み重ねて手にした輝かしい未来に想いを馳せて、ドラゴンウォリアー達は帰還するのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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参加者:50人
作成日:2009/09/18
得票数:戦闘21 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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