ドラゴン掃討:音酔



<オープニング>


●ドラゴン掃討
 ゾフィラーガ・ヴァンダルから魔石のグリモアを託され、地獄の全てを統合して強大な力を得た王妃との戦いに、ドラゴンウォリアー達は勝利した。
 そして、全てを飲み込まんと迫り来る『絶望』を、溢れんばかりの『希望』と共に打ち破ったドラゴンウォリアー達は、インフィニティマインドと共に、地上へと帰還した。
 大きな脅威が過ぎ去り、戦いは終わったのだ。

「ですが、冒険者のなすべき事が、すべて片付いた訳ではありません」
 エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は、改まってそう冒険者達に告げた。
「円卓の間で話し合われた『解決すべき案件』は、まだ多くが未解決なのですから」と。

「最優先順位であった『魔石のグリモアの剣の探索』は完了しました。次に優先順位の高かった『地獄への対応』も、結果的に完了したと言って良いでしょう。つまり、我々が次にすべき事は、3番目に優先順位の高かった案件……つまり『ドラゴン、ドラグナーの発見と、その討伐』です」
 インフィニティマインドがあれば、擬似ドラゴン界を使うことなくドラゴンウォリアーになれる。
 つまり、大勢で一気にドラゴンやドラグナー達を掃討する事が可能なのだ。
「ドラゴンに関しては、すでにルラルさんの超霊視によって、すべての所在が判明しています」
 ドラグナーに関しては数が多いため、もう少し時間が掛かりそうとの事だが、そちらも全容が明らかになり次第、すぐに掃討作戦が決行されるとの事だ。

「あとは、倒すだけで良いのです。この世界からドラゴンの脅威を完全に払拭しましょう」
 その為の作戦に、どうか皆様の力をお貸しくださいと、ユリシアは深々と頭を下げた。

●音酔
「一先ずは端的に述べる」
 冒険者の酒場にて。切り出したのは沈黙の霊査士・フィル(a90017)。手にした紙と酒場とを見比べるように眺め、続けた。
「対象はかつてドラゴンロード・ヴァラケウスの配下だったドラゴン。所在地は火山。数は未知数。目立つ能力として、紅蓮の雄叫びに酷似した音波を発するようだ」
 一度に言い切り、質問は、とでも言うように顔を上げたフィルに、快活陽姫・サザ(a90015)が挙手で応えた。
「もう少し具体的にお願いします」
「……まず、場所についてだが、正確には火山内部。火口から突入し、地下へ降りればドラゴンが群れている。繰り返すが、数は未知数だ。とりあえず一体でないことだけは確かだ。だが、群れているといっても、奴らはあくまで個々に存在している。共闘することはない」
 ない、が。そう言って、フィルは一度言葉を止めた。
 そうして、紙を裏返したり捲ったりしてから、続きに入った。
「ここからはドラゴンの能力に関係することだが、群れ一団が全て、麻痺効果のある音波を発する。即ち立場的には個々であっても、効果範囲自体は超広大に及ぶ可能性が窮めて高いということだ」
 とはいえ、麻痺効果そのものは、特別強力ではないらしい。侮ることさえしなければ、十分に対応できるだろうと付け加えるフィルに、サザがもう一度挙手をした。
「他に攻撃能力はないの?」
「普通に火を吐く。あぁ、火と言えば先も言ったように火山内部が戦闘場所となる。当然、マグマが流れているが……ドラゴンウォリアーであれば問題ない。酷くても火傷で済む。ドラゴンの吐く炎の方が熱いだろうな」
 なるほど、と呟いたサザを、見つめ。もう一度全体を見渡したフィルは、他に質問がないようなのを見ると、テーブルの上で紙束を纏めた。
「世界の平和……軽くはない言葉だが、重荷とも思うな。お前たちならば叶えられると信じている」
 くれぐれも気をつけて。最後にそれだけを告げると、フィルは小さく微笑んだ。


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参加者
NPC:快活陽姫・サザ(a90015)



<リプレイ>

 ごぉ、と、音を立てて。火口に飛び込んだ冒険者らを、迎えたのは、複数のドラゴン達。
 殺意にぎらついた目が、赤々と流れるマグマの中、一際紅く、冒険者を見据えた――。

 見知った仲間内で組んだチーム、『朔月』の回復手として。冬眠医術士・マナル(a17573)は、真っ先に、周辺の冒険者に天使の守護を施すと、ふと、周囲を見渡す。
 そうして、同じ回復手である明けの唄・フルス(a79163)と視線を交わし、力強く、頷きあう。
「最優先は『皆を生きて帰す』事……」
 口許で呟く言葉を、胸中でもう一度反芻して。祈るように、仲間の背を見据えた。
「ドラゴンの残党か……哀れなもんだな、敗残兵なんてのは」
 巨大な体躯の傍らに位置し、無刃・エクサス(a01968)は、どこか皮肉を含んだ呟きを投げかける。
 胸中に過ぎる、ささやかな、同情。とは言え、自分たちがやることは何一つ変わりは無い。
「民に、安寧を」
 誰にでもない、己への誓いを捧げて。弥終・セリハ(a46146)が双剣を構えるのに合わせて。
「決着、だな」
 金色夜想・トート(a09725)もまた、ドラゴンを見上げ、見据えた。
「未来のために。不安の目は、ここで刈り取りましょう」
「掃除、ちゅうには、さすがに物々しいけどなぁ」
 ぼぅ、と。全身に黒炎を纏わせ、陽だまりの唄・エリンシア(a35565)、夢を贈る狐・ネイヴィ(a57376)はそれぞれに、一度だけ周囲を見渡した。
 だが、何を迷うこともない。前衛の彼らが目標と定めた敵へ、全力をぶつけるのみ。
 紋章の炎と漆黒の蛇が、それぞれの手中から、放たれて。
 轟くような咆哮が、対抗するように幾つも重なった。
「っ――さすがに、容赦ないな……」
 びり、と、四肢の先端が痺れるような感覚に、眉をひそめる蒼い護壁・テッド(a07940)。
 彼の後方に位置していた突撃型医術士・フィリア(a12504)によって、即座に回復に至ったが、さすがにこの数となると、回復した傍から麻痺させられかねない。
 だが、それを恐れることは、せず。テッドは果敢に切り込んでいく。
「とにかく、数を減らしませんと……」
「えぇ、厄介、ですね」
 不安じみたフィリアの呟き。に、気儘な矛先・クリュウ(a07682)は、武器より雷を迸らせながら、同意を返す。
 出来る限り迅速に。それでも、突出することは、せずに。自らに言い聞かせるように、クリュウは胸中で一度だけ、呟いて。
「この期は逃しません。憂いを断つために、ここで……!」
 誓いにも似た言葉は、力となり、ドラゴンへと打ち付けられた。
 続く姿勢を見せながら、黎燿・ロー(a13882)は一度視界を巡らせる。それにしても、十体ものドラゴンなど、壮観だとしか言いようがないものだ。
 ――この全てを討ち果たすことで、一つの決着となるのだろう。
 と、周囲に張り詰めた気配を飛ばしていたローは、対峙したものとは別のドラゴンの接近を気取り、声を張り上げた。
「気をつけろ、炎を吐くぞ!」
 そうして、自らも剣を手に、じゃら、深朱の鎖を鳴らして戦闘体制に、入った。
 刹那、地を這うように、炎が吐き出される。
「本当、暑苦しいったらありゃしない」
 炎をかわし、白鱗奏恍・ラトレイア(a63887)は、辟易したように肩をすくめる。
 個体ごとに最低限の人数を配置したとしても、連戦は必至。できる限りの温存は、必要だろう。
 ぎりぎりと耳を貫いてくるような、不愉快な咆哮を聞くと、それがどこまで通用するか、知れたものではないけれど。
「過剰回復だけは、避けないとね」
 言いながら、自らで回復を告げ、高らかな凱歌を紡ぎ上げるラトレイア。
 その麗らかな歌声を聴きとめながら、ぐるりと周囲をひとしきり眺めた銀の剣・ヨハン(a21564)は、一目で危険と把握できるポイントを幾つか脳内に叩き込み。
 そうして、目の前のドラゴンを見上げた。
「彼らも長い時を経て帰郷したのに、分かり合えなかったことは無念です」
 だが、同じ物、同じ場所を求めてしまった以上、この場所で未来を手にすることができるのは、どちらか一方だけなのだ。
 けたたましく響く方向を切り裂くように肉薄し、力の限り、攻撃を放つ。
 その言葉を、聞いていたわけではないのだけれど。ヨハンの武器より迸った雷を追うように、ホーリースマッシュを放つ法と真理の紅尖晶石騎士・ラシーダ(a77143)もまた、憂うでも嘆くでもない意志を、ぶつける。
「来世ではお友達だと良いですねっと!」
 憎しみあって、殺しあって。そんな縁を永遠に繰り返すなど真っ平だ。
 だからこそ加減はしない。せめて死力をぶつけ合って、そうして、そうして――。
「私たちが、勝たせてもらいます」
 きっ、と睨みあげた瞳はやはり紅く、彼女を見据えていた。

 耳朶を劈く、咆哮。
 全身に奔る戦慄に、蒼閃の医術士・グレイ(a09592)は、一度自身を強く抱きしめる。
 あちこちから聞こえてくる音に、『酔って』しまわぬよう、ふわり、毒消しの風を展開させた。
「仲間を傷つけさせないよ」
 護り、癒し、支える手となることが、己の、冒険者――医術士としての戦い方だ。
 情報をかき集めようとする瞳も、注意を伝え合う声も、聞きとめる耳も。全身をかけて、臨む。
 地味であると、思わないことはないけれど。
 華々しくある必要は、ない。
「成功させるんだ」
 きっと、最後になるだろうから。
「いよいよ、大詰めか」
 一種の感慨にも似た気持ちに、在散漂夢・レイク(a00873)は囁くように呟いた。
 その手から迸る紋章の光は、周囲のドラゴンを牽制し、あるいは的確な打撃を与えていく。
 後衛に位置した彼の眼前では、仲間の攻撃を浴びたドラゴンが、炎を吐き散らしていた。
 同じ口から迸るのは、麻痺の音波か、断末魔か。冷静に見定めて、レイクは頭上に巨大な火球を作り上げる。
「次へ行け。この一撃で、仕留められる」
 過信ではない、その言葉に。漆黒の焔蛇・フィズ(a28944)は周囲の仲間へ促す視線を送り。けれど自分は、レイクに背を合わせる程度の位置に、留まった。
「ご懸念なく。仕留めきる瞬間まで、この背は護りましょう」
 振り返ることなく、告げて。フィズは己の眼前へ向けて、紋章の雨を降らせる。
 それはやはり牽制となり、的確な打撃となり――背後で敵が朽ちるまでの、壁となった。
 ひらりと翻る黒衣は、冴え冴えと黒く。暗い色彩でありながら、何故だか輝いて見えた。
「そろそろこの舞台からご退場頂きましょう」
 この色さえも飲み込んでしまう、闇など。見据える未来にはひとかけらたりとも必要ではないのだから。
 地響きにも似た轟音に。ついと首を振り返らせれば、金糸が靡き。辺りの熱を払うかのように、ぱたり、大小二対の羽が、はためく。
 色無き世界を彷徨う片翼の天使・エリシエル(a18134)はその身に亡き恋人の姿を纏い、空気を切り裂く鋼糸を繰っていた。
「ラウレックよ……我らを導き給え……」
 祈りに、かすかに淡紫の瞳を眇めて。僅かに過ぎった憂いと憎しみを、強い決意へと、昇華させた。
 もう誰も、不条理な苦しみに嘆くことのないように。
 かつてのホワイトガーデンのような、そんな、平穏豊かな――。
「――世界を……作る!」
 ひらひらと舞う薔薇の花弁。その、幻想の香りに誘われるように、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は祈りを捧げていた顔を上げる。
 見渡せば、自分以外にも多くの回復手がいる、そんな状況。
 それでも、ラジスラヴァは自らが攻撃に転じることはしなかった。こうして回復に徹することが、攻撃手段を一つでも持ち合わせている仲間の一手を、作れるのだから。
「頼りに、してくれていいんですよ」
「はい!」
 にこ、と。微笑に笑顔を返し、内気な半人前看護士・ナミキ(a01952)は表情を引き締める。
 彼もまた回復専任。自己防衛手段に近い攻撃手段は、持ち合わせているが。
「大丈夫、です」
 誰に言うでもない、独り言。特定個人を追いかけがちな視線を、意図的に周囲へと巡らせながら、ナミキは率先して回復に走る。
 淡くぼんやりとした光を振りまく姿は、冒険者を守護する天使のそれに良く似ていた。
 と。はっとしたように顔を向けた、先で。兄萌妹・フルル(a05046)、快活陽姫・サザ(a90015)が、揃って炎に飲まれていた。
「ごめんなさい、迂闊だったわ」
「んんっ、平気だよっ!」
 不運にも麻痺攻撃を受けた直後に炎に見舞われたようだが、健在を示すように、ぱたりと黒翼をはためかせたフルルに、サザも笑みと共に大鎌を構えて応える。
 傍から見れば、彼女らは無事とは言い難い。それでも、地を蹴る彼女らに、臆する心は欠片とて無い。
「お兄ちゃんたちが回復してくれるから、まだ、戦えるよ!」
「えぇ、そうね」
 信じる仲間が後ろにいる。だからこそ何を憂うことなく戦えるし、抜かせはしないと踏み止まれるのだ。
 例えそれが、巨大で、強大で、あれ。
「――前方右斜め下方に負傷者在り」
「大丈夫です、その位置なら、すぐに――」
 心の声が、戦場を飛び交う。
 タスクリーダーによる銀閃の・ウルフェナイト(a04043)の指示に、同じアビリティを所持したキ・ナコ(a15542)が応え、円滑な行動を構成していた。
 自身から伝えることはできないながら、氷月の玻璃・シアン(a08409)は受け取った情報を元に、自分の立ち位置を適宜切り替え、立ち回る。
 己の力は決して強大ではない。それでも、竦まない足がある。考える頭がある。技を繰り出す、腕がある。
 与えられる情報に思考を織り交ぜ、行動して。シアンは、自分に出来る最高を、作り出すのだ。
「これが、私にできる精一杯です!」
 頭上に繰り出した火球が、思いと共にドラゴンの体躯を穿つ。
「私たちの『これから』を、つかむために……!」
 大きく傾いだその体に追い討ちをかけるのは、ナコの『精一杯の』意志、それを乗せた、雷光の矢。
 更にウルフェナイト、荷花紅・リウル(a00657)によって放たれた闇色の矢が、吸い込まれるように突き刺さって。
 す、と、白木の弓を下げる所作にあわせるように、倒れ伏した。
「俺達の世界の平和の為にお前達には滅んでもらう」
 相手にすれば実に勝手な話だろう。さぁ、と、己の鬣を撫でていく熱気は、まるで朽ちていく彼らの嘆きのようだとかすかに思う。
 それでも、己が護るべきもののために。情けは、とうに斬り捨てた。
「頑張って、勝つんだ」
 遠い昔、仲間と共にドラゴンを探した日々があった。
 リウルの中の思い出は、こんなにも血生臭いものでは、決して無い。
 それを思えば憂いもある。別の形で。そんな望みが欠片もなかったとは、言えない。
 それでも――。リウルは一度だけ深呼吸をして、矢を引き絞る。
「ちゃんと未来が幸せであるように」
 願う心と共に、矢は、放たれた。

 炎が振りまかれ、音波が入り乱れる、煩雑な戦場。
 その中で、柳緑・ツクモ(a58835)と花紅・イク(a60414)は、互いが手を伸ばせば触れ合える、そんな距離を保ちながら、戦っていた。
「大丈夫、か……」
「ぎりぎり、かな」
 回復手は、決して少なくはない。麻痺効果の影響でタイミングがずれることはあったが、突貫など、無理をしなければ十分回復しきれていた。
 だが、イクも、ツクモも、少しの無茶を自覚しながら、戦線を退きはしなかった。
 1ターン、保てるのなら。きっと、自分が倒れる前に、癒してくれる仲間がいるから。
「お二人とも、大丈夫ですか?」
 果たして。かけられた声に揃って振り返れば、雪華の祈り巫女・レイア(a64047)が、少しばかり不安げな目で見つめてくるのと、目が合った。
 そして、その刹那、体の傷が癒えるのを、確かに感じた。
「すまない」
「助かるよ」
 交わす言葉は少ないけれど。信頼を湛えた笑顔が、そこにあるから。レイアは、魔道書をしっかりと持ち直すと、彼らを援護するように、慈悲の聖槍を放った。
 永久を闇に生きた、者たちに。
「お逝きなさい…古より続く妄執に、終止符を打って」
 せめて、安らかな最後をと。
 彼らと同範囲内で行動しながら、綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)は額にかすかに滲んだ汗を拭う。
 熱気漂う火山の中など、なかなか似合いの墓標を選んだものだ。胸中で呟いて、傍らの湛盧之剣・アセレア(a50809)を振り返る。
 仮面の下の顔は、余裕こそないが、かすかな笑みに彩られている。けれど太刀を構えなおし、数を減らしつつあるドラゴンを見渡すと、やはりかすかに、眉を寄せた。
「さすがに、マグマの中まで追いかけることには……」
「させないよ。ここらで『仲間』と『群れてるだけ』の違いってやつ、見せ付けてやろーよ!」
 扇を開いた、褐色の少女に、頷き応え。
 今にも体躯を翻し逃げ出さんとしているドラゴンを、狙い済ました。
「あたしの炎で焼かれて落ちろッ!」
 スゥベルの手から放たれた黒炎の蛇が巨躯を焼く。悶える懐に飛び込み、素早く連撃を放ったアセレアは、くすり、微笑を零して。
「相手が悪かったですね」
 力なく倒れこむその体を、見下ろした。
 瞬く間に、と言えるほどの鮮やかさはないけれど、確実にその数を減らすドラゴンたち。
 だが、同様に、冒険者の顔にも、さすがに疲弊の色が見えてきた。アビリティが底を尽きた者も、少なくはない。
「これが、最後……!」
 エリンシアの指先から迸る紋章の雨が、降り注ぐ。牽制用にと幾らか温存していた範囲アビリティも、いよいよ絶えた。
 元より、対複数に応じたアビリティを持つ者が、あまりに少なかった。対個体を重視した結果が、この枯渇状態に繋がっている現実は、否めない。
 それでも。大事に至る者が出ていないのは、ひとえに、回復手の数と、冷静かつ機敏な立ち回りの賜物と言えよう。
「マナル、後方中心に回復頼むよ!」
「判った。フルスの毒消しに合わせる」
 声を掛け合い、タイミングを合わせることで成り立つ、無駄のない回復。
 そして、だからこそ。アビリティの喪失を恐れることなく、戦えるのだ。
「アビリティがなくっても、やることは変わらねーんだよな」
 ぽつり零す、エクサス。技などとうに尽きていたが、刃を振るう腕が、止まるはずもない。
 ただ、目の前の敵を駆逐する。それだけだ。
 同じように通常攻撃に切り替えたセリハは、ちらと、一瞬だけ後衛を見やった。
「とは言え、さすがに後ろの方に倒れられては辛いですね」
「……行かせはしないさ」
 同じ場所を見つめ、小さく返す、トート。火急の際、自分がとる行動は決めている。だが、それより以前に成せることを。
 そんな、前衛の姿が。後ろに立つ者にとっては何よりの、頼りで。
 ネイヴィはひそりと微笑んで、援護する攻撃を打ちつけた。
 どぉん、と、音を立てて。また一つ、巨躯が横たわる。
 幾つ目かの屍を見下ろした灰色の貴人・ハルト(a00681)は、滲みはじめた疲労を断ち切るように、小さな吐息を零して、顔を上げる。
「次は、どこへ――」
 すぃ。流れる視線は、戦場を巡る。あれだけいたドラゴンも、残すところ二体となっていた。
「もう、一息かな」
「そう願いたいな」
 肩を竦め、武器を握り直したアイギスの黒騎士・リネン(a01958)と共に、飛翔する。
 逃げようとするドラゴンには、氷河衝による足止めを仕掛け、止めを刺した。
 マグマや岩陰に潜むような敵も漏らさぬよう、隈なく探した。
「一匹たりと、取りこぼしはてはいない」
 それは願いではなく、リネンの確固たる自信として、告げる現実。
 だから、もう一息。心の中でもう一度だけ呟いて、ハルトは見下ろす位置に捉えたドラゴンに、冷たい、けれど決意に満ちた視線を捧げる。
「私達はお前達を倒して、平和な世界を築くよ」
 全ての人が幸せに暮らせる、新しい時代。
 そのためにも、最後まで油断はしない。
 そんな彼らの意志を後押しするかのように。ほのかな明かりが、ふわり、足元を照らす。
 仲間の行動範囲を逐一見止めながらヘブンズフィールドを展開していた紫晶の泪月・ヒヅキ(a00023)は、祈るように指先を絡め、真っ直ぐ、ドラゴンを見据えた。
 彼らとの戦いも、思えば永く続いたものだ。
 その過程で失ったものは、あまりにも多い。
「必ず、討ち果たしましょう……」
 声になった思いは、強く、ヒヅキを奮い立たせる。
「この世界を照らしてくれる仲間の分も、必ずこれで……終わりに」
 必ず、と。繰り返した彼女の言葉に、心を押される。
 光の元を飛びたった久遠槐・レイ(a07605)は、二体残ったドラゴンを見比べ、より負傷が激しいものを狙いとして定め、刃を振るう。
 さすがに殆どの冒険者の集中攻撃を浴びることとなれば、ドラゴンとてそうそう長くもつものではない。
 咆哮の代わりに絶叫を、炎の代わりに血をぶちまけて、ただ、抵抗に暴れた。
「悲しいくらい、無様だな」
 憐れと思うには、多くを奪われすぎたのだけれど。
「この終わりが、遠い未来への礎になりますわ……」
 その未来に自分が生きているとは限らない。
 けれど、きっと平和であると、信じるから。
 だから、ここで、確実に――お別れだ。
 ごぉ。と。マグマが音を立てて爆ぜる。
 それよりも激しい緑の業火が、敵を――最後のドラゴンを包み、焼き尽くす。
 今迄大切な人達を沢山やられてきた。
 悲しい思いを、した。
「これ以上そんな思いを増やさない為に……」
 決して、逃しはしない――!
 殲姫・アリシア(a13284)の、心の叫びに。応えるように迸ったのは、耳を裂くほどの、断末魔。
 横倒れに付し、そのまま動かなくなったドラゴンは、やがて、溢れるように流れたマグマに、飲み込まれていく。
 そんな、屍たちを見つめて。
 けれど、それきり。冒険者たちは振り返ることなく、火口を脱出した。


マスター:聖京 紹介ページ
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冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:36人
作成日:2009/09/18
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