<リプレイ>
●秋の賑わい 夏の間に青々とした葉を茂らせていた木々は、季節の移ろいと共に赤く鮮やかに色付く。日ごとに涼しくなっていく風、店に並ぶ食材の移り変わり、そのどれもが、秋が訪れたということを報せてくれた。 豊かな実りに恵まれたことを盛大に祝うべく開催された収穫祭。この日の為に呼ばれた楽士が広場の片隅で陽気な音楽を奏で、子どもらは握り締めたお小遣いを持って駆け抜ける。屋台で呼びこみをかける人の声も賑やかに、村は今、祭りの色一色に染まっていた。
●実りに感謝を 秋は美味しいものも、それに関わる祭りも沢山行われる。食べることが好きなリカレアにとっては、とても嬉しい季節だ。 「あっちからもこっちからも良い匂いがしますなぁ〜ん……」 美味しそうな香りに満ちた屋台村を歩く。ついつい目移りしながら、端から端までを巡った。使えるお小遣いは決めてあるので、そこから逸脱することなく、かつ、満足出来るものを選りすぐる為だ。 念入りに全てを周り、気に入ったものを手に入れる頃には、足もすっかり疲れていた。飲食用スペースに戦利品を並べ、一休憩。 「秋の味がしますなぁ〜ん。幸せですなぁ〜ん♪」 単純に砂糖や塩等で炒っただけ、素材の味を活かしたものから、少し凝ったナッツ入りパウンドケーキなど、美味しい秋の味わいに表情も綻ぶ。噛み締める度に広がる味は、幸せな味だ。この瞬間に、疲れなど全て飛んで行くような気もする。 賑わう村の中で、ラセンは重騎士の姿を探す。間もなく、所在無さげにしているギーゼルベルトを見つけた。屋台村を回らないかと誘いをかけると、相手は逡巡することもなく頷く。 踏み込めば、気合いの入ったかけ声も飛び交い始めた。気にかかった店の前で立ち止まってお勧めを尋ねると、店主が示したのは、ナッツに彩りも鮮やかな秋野菜と鳥肉を加えて炒めた料理。これに近しい料理は割とある気がするが、比べるとナッツの量が1.5倍ぐらいありそうなのが、この祭りらしい。 「それじゃそのお勧めと、焼きそば大盛で! 目玉焼きオマケしてねっ!」 「よしきた、味わってくれよ!」 思い切って頬張れば歯応えも楽しく、秋の実りに改めて深く感謝せざるを得ない。一方、重騎士の方は控えめ。食べ過ぎないように、と一言かかる。 「体が資本だもん、ギーさんも沢山食べなきゃ」 「うむ……そうだな、祭りの日ぐらい、好きなようにしてみるか」 何かと節約する癖があるんだと苦笑しながら、さてそれなら同じものにしてみようか、と同じ炒め料理を注文していた。 招待主の姿を探していたファンバス。人混みの中探すのは大変かと思いきや、テンション高めに屋台を回っている姿が簡単に見つかった。そちらへ行き、声をかける。 「誕生日おめでとうー♪ 良い1年を!」 「あぁ、ありがとう。……幾つになってもやっぱ、こうして祝って貰えるのは嬉しい」 にこにこと機嫌良さげに答えるマカロン。嬉しそうなその笑顔につられて、自分も笑顔になるような気がしながら、お互いに祭りも楽しもうと言葉を交わして、いざ立ち並ぶ出店の中へ。 選んだのはシンプル、故に素材の味がよく感じられる炒りナッツ。色々な種類がまとめて味わえてお得感もある。 (「ここまで育つ為に、どれだけの年月を経たんだろう……」) 植えてから十年以上も経って、やっと実がつくような種類もあると聞く。そこにかかった苦労を思いながら、この一口を大事に噛み締めた。
●季節を刻み 「お、マカロン見つけたなぁ〜ん。誕生日おめでとうなぁん!」 「おうサンキュー、タム! それから、いつも来てくれてありがとな」 混雑を少し離れた辺りで休憩を入れているマカロンに気付き、タムは歩み寄りつつ声をかけた。マカロンは嬉しそうにしながら礼を言う。手製のペンセットをプレゼントとして差し出すと、本当に器用だよなぁ、としみじみ呟いてから、事そうにそれを受け取った。 辺りを見れば各種ナッツの名前がずらり店先に並ぶ。それを見て思い出す昔のこと。少し手間をかけると、それだけで立派な主食にも成り得た。あれこれ加えるのもいいけれど、やっぱり塩で炒ったものが一番。 「マカロンはどんなの好きなぁん? ……あ、これなんかチーズに混ぜても旨いなぁんよ」 「んー、ピスタチオとか栗とか、ちまちま殻割るのが好きかも……え、お、おう」 アーモンドスライスを見つけて、にっこり笑顔で勧めてみる。相手は微妙に沈黙した後、今度試す、とやや重々しく答えた。少しは進歩している、らしい。 ナッツはそのままでも美味しく、加工しても良いし、何かに添えても良い引き立て役になる――。 「神様の食べ物なんじゃないでしょうか……」 主に菓子類の店が軒を連ねる区域で、甘い香りに誘われながら思わずぽつり、とレムは呟いた。くるみパンから定番のモンブランなどなど、好きなものは幾つも挙げられる。試食もどうぞと貰ったフロランタンの優しいキャラメル味も顔が綻ぶ美味しさで。 「マカロン、誕生日おめでとうでした!」 「! ……あ、えぇと、ありがとう」 ラセンが声をかけると、何故かマカロンは一瞬身構え、何も無いことを察すると、気恥かしそうに姿勢を直した。構えた時に限って普通なのか、とか何とか八つ当たり気味の呟きが聞こえる。けれど、表情は嬉しそうににやけていた。
――さて、そんな屋台村の喧騒から少し外れた所に工房はあった。案内係の村娘が、それぞれの特徴を説明し、参考品として幾つかを示して見せるのを、ファンバスは感心しながら見ていた。 (「一口に言っても、色んな種類があるんだね……」) こうしてずらりと並べられているのを見ると、自然の多彩さをつくづくと感じる。そんな中でも目を引いたのは、綺麗な球形をした木の実達。床に落として転がせば、そのまま何処までも止まらずに進みそうな。 「これ、お土産用に加工してもらえますか?」 「はいっ、こちらの実ですと――」 やがてファンバスの手に、職人手作りのストラップが届く。つるっとした表皮は触り心地もなかなか。
●秋色散歩道 青い空に負けじと言わんばかりに、紅葉の並ぶ道は美しく色づいていた。落ちる木の葉一枚とってみても、全体を見ても良い。持ち歩ける料理を持って、リカレアは広場でものんびりしていた。綺麗な風景と一緒に食べると、尚の事美味しく感じられるのも不思議だ。 (「こうやってのんびり出来るって、本当に素敵なことなんですなぁ〜ん」) 気持ちの良い風に吹かれて、美味しいものを食べて、穏やかな時間を過ごす。その贅沢さを、改めて知った。 ゆるやかなカーブを描く並木道を、ゆっくりとレムは歩く。そのお供は少しのお菓子。時折立ち止まっては、周りとのコントラストを楽しむのも良いもの。 「マカロン様、誕生日おめでとうございます。その、えっと……」 「うん、ありがとう、レム。……ところでなんで若干逃げそうな感じ?」 幸せそうに笑って礼を言った後、マカロンは軽く首を傾げた。気にすることじゃない、と言いつつ逃げられる準備は解かないまま、心を決めて言葉を紡ぐ。温かな記憶をたくさん、その笑顔と共に胸に留められることが嬉しいから――今年もそうであるように、会いに来たこと。秘密にするのは止めて、伝えてあげないこともない、と 「楽しそうに嬉しそうに笑う、貴方が好き…だから。……なんて、ね!」 言い切った後、脱兎のごとく走り出したその背中を優しい笑い混じりの声が追いかける。 「俺も、大好きだよ! レムのこと、全部!」 振り返ったなら、紅葉に勝るとも劣らない赤さに頬を染めて、いつものように笑う姿が見えたことだろう。夕焼けが村中を黄金に染めて、夕闇が訪れるまで祭りの一日は終わらない。穏やかで幸福が沢山溢れる世界は、まだ、始まったばかりだ。

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参加者:5人
作成日:2009/10/15
得票数:恋愛2
ほのぼの5
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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