<リプレイ>
眩い青葉に夏の名残りを感じるけれど、風は爽やかな秋色を帯びてリシャンの川床を渡る。 「わぁ、美味しそうだな〜」 ギイナが土鍋の蓋を開ければ、白い湯気がほかほかと。エイビィは焼き鮎並ぶ炊き込みご飯に目を輝かせた。 「ありがとう……なぁ〜ん」 茶碗にたっぷりのご飯をエイビィは早速ぱくぱくもぐもぐ。筒切りの鯉こくにも箸を伸ばす。 (「美味しい……なぁ〜ん」) 汁気たっぷりの梨までお腹に収め、一息ついた彼女はハッとなる。 「食べるのに夢中で話すの忘れてた……なぁ〜ん」 そんな彼女がギイナは微笑ましい。 「じゃあ、お土産を見に行かない?」 「ギイナも美味しい物が大好き……なぁ〜ん?」 腹ごなしにそぞろ歩き。新鮮な食材が並ぶ光景は目にも楽しい。 「リシャッセもすっかり秋だね〜。あ、前に来た時はね――」 一杯食べたら、色んなお喋りをしよう。それが、お友達から始まる第一歩。
「栗のお菓子ってあるかな? 大好きなんだー♪」 綺麗な水と空気、素晴らしい景色、そして隣に大好きなミィコ――ヤーミィ。クレヒには何より贅沢な光景。 「よし、モンブランを探しながら、スイーツを巡るとしよう♪」 「ちゃんと栗が乗ってるやつだよ♪」 ヤーミィの足取りも浮き浮きと。 「お! この水饅頭、食べるのが勿体ないな」 特にクレヒは寒天の魚が泳ぐ水饅頭の金魚鉢が気に入ったらしい。 「可愛い金魚鉢と可愛いミィコを眺める方が至福というものだ!」 「そんな事言って」 (「やっぱり、クレピーと一緒が1番嬉しいよね」) 思わずクスリ。でも、ゆったり揺れる猫尻尾にヤーミィの表情が曇る。 (「ボクの羽根が尻尾に変わったら良いのに……」) ストライダーとエンジェル、種族の違いに切なくなるのも束の間。そっと繋がれた手に顔を上げると、目の前にクレヒの優しい笑顔。 「この穏やかな時を、ミィコとずっと共にありたい、な……」 カッコよく決める筈が、照れて赤面していたり。 「これからも思い出を増やしていこうな、ミィコ」 「……うん!」 きっと永遠は叶わない。だからこそ、居られる限り一緒に居よう――繋いだ手をぎゅーっと握る。 「ずーっと大好きだよ」
秋と言えば、食欲の秋。そして、ルルイとマッシロにはキノコの秋。 「私達のキノコへの愛は誰にも負けないな! ははははは!」 今日も心友のエリザベス(ただの毒キノコ)を頭に乗せ、ルルイの高笑いも絶好調。マッシロも笑顔でキノコの炊き込みご飯を味わう。 「そう言えば、初めて出会ったのはいつだったかな」 「さて、いつでしたかねぇ。昔は酒を酌み交わすなんて思ってもみなかったです」 楽しく談笑しながら、飲んだり食べたり。柄にもなく思い出に浸るのは、夏の終わりにシンミリとなるからか。でも、秋は嬉しい収穫の季節。 「これから美味しい物が沢山実る季節。また、キノコ狩りにでも行くか?」 「ええ、貴女となら何だってお付き合いしますですよー、なぁ〜ん」 気が付けば、あんまり「なぁ〜ん」と言わないマッシロだけど……ふとした拍子に零れるヒトノソリンの口癖に、ほんわか和む昼下がり。
川面が黄金に煌めく頃、山の向こうは橙に染まる。 (「今年のリシャッセはこれで見納めですか。少し寂しいですね……」) エィリスは川の畔に佇んでいた。 思い返せば、本当に色々あった1年。だが、体感した出来事も何れは川の流れのように往き過ぎて、歴史のほんのひと欠片に落ち着いてしまうだろう。 「エィリスちゃん、お待たせなぁん!」 物思いに沈んでいる所に明るい声。振り返れば、メルフィがブンブン手を振っている。 「楽しかったですか?」 「どれも可愛くて美味しかったなぁん♪」 聞けば、色んな川床でタルトやジュースを味見したとか。 「それで、葡萄のフレッシュタルトなんてどうかなぁん?」 憂いの表情の親友を元気付けたくて、笑顔で菓子を取り出すメルフィ。 一方、エィリスが用意したのは林檎のコンポート。 「平たく言うと赤ワイン煮ですね。試してみます?」 「大人の味なぁんか。美味しそうなぁん」 そうして親友との幸せな時間は、穏やかに流れ往く。 「あ、欠片がついていますなぁんよ〜……はっ! まだまだ淑女に遠いなぁん」 反射的にペロっと舐め取って、すぐ頭を抱えるメルフィ。エィリスは思わず唇を緩めた。
米酒を傾けながら、鮎の天ぷらや塩焼きに炊き立てご飯。締めは卵とキノコの雑炊。最後に珈琲味のアイスクリームも頼んだ。 「イルも食べますか?」 「うん……」 鮎の小骨に苦心したイルディスも、ハルカからの雑炊の「あーん」に嬉しそう。おねだりの膝枕といい、らぶらぶの雰囲気につい頬も緩む。 「今度は僕が膝枕してあげますね」 お腹に抱きついていたハルカだが、俄かに身体を起こす。お願いがあるです、と真剣な声音。 「大好きなこの世界で、大好きなイルとずっと居たいんです」 だから、一緒に暮らしてくれませんか?――不安な表情をすぐにでも消したくて、イルディスは小さく笑む。 「はい、喜んで」 幸福が過ぎると泣きたくなるのは何故だろう? 命果てるまで一緒に――交わされたキスを、約束に代えて。
「えへへ、ちょっと恥ずかしいけど。恋人らしく見える……よね?」 「何だか、照れるな」 腕を組んで頬を染めるフルーレット。寄り添うゼパルパの顔も熱い。 「この炊き込みご飯、評判通りの美味しさだ。フルーレットも半分食べてみないか?」 「うん。じゃあ、ボクも……はい、あ〜ん!」 やっぱりやってみたかった「あ〜ん」は嬉しかったけど。 「鮎の塩焼きじゃ、様にならないね」 「そんな事……うむ、これも絶品だ」 ゼパルパは幸せそうだから問題なし。 そうして食事の後は、鮎の甘露煮を肴に一献。未成年のフルーレットは、奥さん気分でお酌に専念だ。 「こんなに酒の肴があるんだから、楽しんでね」 「肴も絶品だが、それ以上に杯が進みそうだ」 見つめ合い、寄り添って……恋人達の時間はまだまだこれから。
いつしか川床のランプに火が灯り、東の空に仄白い月が昇る。 「お誕生日おめでとうございます。笑顔の絶えない年になると良いですね」 「おおきに。ディズルムさんも、楽しんでってな」 ネイネージュやリリルと、マロングラッセと珈琲囲んでのんびりと。お月見していた明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)に挨拶したディズルムは、急いで女性陣を追い掛けた。 本当なら落ち鮎でキュッと一杯したい所だが、未成年者もいるので甘味でお月見。 「黒蜜を絡めた餅菓子を戴いてきたのです」 「団子もいいけど、月見といえばあれだよな」 楽しそうに菓子詰めを広げるツバキ。シュウは器用に兎さん林檎を作っている。 「ひと月違うだけで、こんなにも季節は表情を変えるのですね」 残暑厳しいリシャッセを知るだけに、秋の風情にツバキの感慨も一塩。涼やかなせせらぎに聞き惚れながら、抹茶を立てる。 「月明りで抹茶を頂くとは中々オツですね……にガ…ッ」 「ディズルム〜?」 「言ってません! 苦いなんて言ってませんよ!」 シュウのしたり顔に、青年は慌てて頭を振る。 「秋風に綺麗な月に甘味に抹茶に……いいねえ、風流だねえ」 一方、彼女自身は澄まし顔で抹茶を飲み干した。ちょっぴり悔しいディズルムだが、長閑な時間に自然と笑みが浮かぶ。 「月を眺めて、自然の調べを聴く……幸せで嬉しい思い出がまた1つ増えました♪」 「ツバキさんが成人されたら、また皆でお月見したいですね。今度は月見酒を是非」 「ああ、辛い思い出の後は楽しい思い出を山ほど作らねえとな!」 気兼ねなくこれからが語れる事、それこそが平和の証。
「歩いただけでお腹空きました……えへへ。あーん、です」 鮎の香味焼きに炊き込みご飯、デザートの林檎も美味しかった。 食欲旺盛に夕飯を平らげ、ティトレットは思い出話に興じる。 育ててくれたじいさまや大切な皆の事。そして、年が明けたら旅に出ようと思っている事。 「あ、私だってリオネイさんのお話聞きたいです」 「私……じゃない、俺は大人しく家を継ぐよ」 旅にも出たいけれど、と青年は小さく肩を竦める。 「そうだ、お家を教えて戴ければ遊びに行けます!」 「ティトレットが来たら、パーティでも開こうか。その時は……1曲踊って頂けますか、姫?」 「わ……はい、頑張って踊りますね」 クスクスと弾ける笑い声も、いつしか真剣な声音に変わる。 「俺達は、ティトが好きだ。どんなに時と空が分け隔てようとも……永遠に」 「私も、あなたとあなたのお姉さんが大好きです」 この気持ちはずっとずっと大切に持っていく。たとえ全てが想い出に変わっても……きっと忘れない。
「あつっ……わぁ、美味しい!」 焼きたて鮎の塩焼きを、嬉々として頬張るキイトが微笑ましい。 「……っ!」 「あっ、ほら熱いって……」 真似してイセリカもかぶり付けば思わぬ熱さに、目を白黒。クスクスと笑んで、キイトは水を差し出した。 一段落つけば、互いに酌をして改めて乾杯。 「やっぱり来てよかった……酒も、鮎も美味いし」 「私、幸せです……」 見上げれば、綺麗な月。そして、隣には大切で大好きな人。 「イセリカさん、酔ってます? 大丈夫……?」 「あ、ああ……」 最愛の人の顔がすぐそこにある。頬に触れられると、酒で染まったイセリカの面が更に赤くなる。 「俺も、隣に君がいてくれて、とても幸せだよ……」 緊張で微かに震える手が、そっとキイトを抱き寄せる。月明かりを艶やかに弾く黒髪を撫でれば、満ち足りた吐息が零れた。 胸高鳴らせ、互いの手を絡ませて繋げば――今宵は幸せな月見酒。
「今回も美味そうな物ばっかで悩むぜ」 「川のせせらぎを聞きながらなら、やっぱりお魚かなぁ〜ん?」 「キノコの炊き込みご飯も食べておきたいな! 焼き鮎が乗ってんのが堪らん」 お品書きと首っ引きで悩む事暫し。シルヴァとエミルリィルは互いに料理を取り分け、リシャッセの味覚を堪能する。 「ほっぺが落ちそうなぁ〜ん」 「エミルちゃんは美味そうに食べるから、見てて幸せな気持ちになるなぁ」 夕飯の後はのんびり月見酒。 「もう秋かー。夏終わんの早かったなぁ……夏の終わりって妙に切ない気分になるよな」 寂しげな呟きに、お酌するエミルリィルは気遣わしげな表情。それで、シルヴァは安心させるようにカラリと笑みを浮かべた。 「今は大丈夫。好きな人が傍にいてくれ……る、から……」 (「お酒や雰囲気に酔ったかなぁ〜ん。よ、よくわかんないなぁ〜ん」) 初デートは、告白の時とはまた違ったドキドキがある。 改めて意識すると、照れて黙り込んでしまう2人だった。
落ち鮎の塩焼きで一献。今夜のミルッヒは、6月に成人したヴィカルと酒盛り。 「水面に掛かる月を眺めて酒盃を傾けるのも良い感じだねぇ」 飲兵衛の呟きにも楽しげなヴィカルだったけれど。不意にションボリ肩を落とす。 「何でか判らないけど、寂しい気持ちで胸が一杯なぁ〜ん……また夏は来るし、素敵な季節が沢山訪れるのに……」 「どの季節もまた巡ってくるけど、今年の夏はこれっきり。だから、いつでも悔いの無いよう過ごさないとね」 「うん……また次の夏も、一緒にリシャッセに来ようなぁ〜ん……」 「よしよし。さあ、お飲みお飲み」 ぐしぐしと鼻を啜る泣き上戸は酔い潰す事に決めて、ミルッヒはせっせと酒を注ぐ。 そうして、泣き疲れて眠った真っ直ぐで優しい友人に膝を貸して、片手に舞扇、片手に酒盃。ミルッヒはしみじみと独りごちる。 「過ぎれば色々あった夏の名残に感謝、かな」
酒の誘いはかねての約束。鮎の甘露煮と煮浸しを肴に月見酒と洒落込んだ。 「気に入りは見つかったかな?」 「ワインも果実酒も、どれも美味しそうだし、どれが来ても大歓迎っ!」 初めてが今年最後のリシャッセだけど、間に合って何だか嬉しい。 「んー……ローさんとの不思議な縁に?」 「そうだな、地獄での縁に乾杯というのもまた面白かろう」 始まりは護衛士団。今はこうして月下で杯を交わしている。不思議で素敵な縁だと思う。 「わぁ、すっごく美味しい。幸せ!」 感動仕切りの様子が微笑ましい。誰かとお酒を飲むのも初というカナタの笑顔に、ローも思わず目を細める。 「……あ、そうだ。素敵な蝶をありがとうございます」 「どういたしまして。此方こそ多々世話になった。ありがとう」 2人だけが合点のいく会話を交わし、後は静かに月見酒。 激闘の夏を経て――こうしていられる日々に感謝を。
足を向けたのは、水の気が満ち満ちた人気のない畔。 「綺麗だね、月……」 たなびく雲に月影が移ろう様をゆるりと眺め、言葉少なに梨と葡萄を味わう。 「ねぇ……剣を置いて、それから君はどんな道を歩むんだろう?」 ウィーの呟きは、淡い笑みが混じって聞こえた。 「どんな光景でも似合う気がするんだ。思いっきり笑ってるかな」 誰もが望む平和は、きっともうすぐ手が届く。 「でも……平和な世界で、俺は生きていけない。生きる事に飽きてしまうから」 どうしようもなく血が見たくなると、自嘲めいた呟きが耳朶を打つ。 嗚呼、戦うウィーはいつも綺麗でカッコよかった――とバーミリオンは思った。肩を並べて戦うのが楽しかったのは、きっと彼が生き生きとしていたからだ。 「俺もずっと剣を握ってて、別の生き方なんて今更……早く光の傍へ行きたかったのも少しあるし」 それでも、平和は願い続けてきたから……ウィーとは在り方からしてきっと違う。 「(1つずつ約束を果たして……全部終わったらお仕舞い)」 「ウィー?」 その独白はせせらぎの音に紛れてしまったけれど……。 「ウィーは、ドコに行ってしまうの?」 「……今までありがとう。君の歩く先に良い風が吹きますように……君に背を預けて戦うの、結構好きだったよ」 疑問に返ったのはこれまでの感謝。これからを語ろうとしない彼の眼差しは酷く遠くて――置いてかないで、という言葉をバーミリオンは呑み込んだ。
「どう、素敵でしょ?」 髪を楓華風に纏め薄紫の浴衣を粋に着こなすアムは、甘える仕草でグレイの胸にしなだれる。 月が出ている間だけの恋人――それが今夜の趣向。 鮎と鱒の塩焼き、山菜の炊き込みご飯に合わせる米酒は昨冬から夏を越した「ひやおろし」。酸味と切れの良い味わいが料理を引き立てる厳選の逸品だ。 山川の幸、酒、そして極上の男と女――口にも目にも心にも贅沢な一時は、月影の中だけの戯れ。 「ふふっ」 月が雲に隠れれば、すっと身を引き微笑を1つ。まるで大きな猫のような風情の女を、月が顔を出せば男は悠然と抱き寄せる。 「これは一夜の夢? それとも……?」 やがて月が山の向こうに消える頃――そっと額へキスを進呈するアムに、グレイは約束しませんかと囁く。 「次に会う時は、この時間の続きをしましょう」
今日もリシャンのせせらぎはシャンシャンと……数多の恵みをもたらしている。
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参加者:29人
作成日:2009/10/02
得票数:恋愛4
ほのぼの7
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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