ひみつのひみつのどうぶつのくに。



<オープニング>


●ひみつのひみつのどうぶつのくに。
 優しい金色の木漏れ日が降る水楢と白樺の森に、のんびりとした風情で伸びる道ひとつ。
 柔らかな陽射しに照らされた、長閑に散歩を楽しみたくなるような道をてくてく歩いて行けば、森の真ん中にぽっかり開けた、広場のような場所へと辿りつくでしょう。ふんわり暖かな陽だまりに満ちたその場所は、小さな村くらいの広さを持った秘密の場所。胡桃色をした木で作られた可愛いアーチの門を見あげれば、あなたはこの場所の名前を知ることができるはず。
 円いアーチに沿って書かれた名前は――ひみつのひみつのどうぶつのくに。
 そう。
 ここは、動物たちとたっぷり遊ぶために作られた、秘密の秘密の場所なのです。

 明るい色合いの木で作られたぽってりとした可愛いログハウスが並び、陽射しにきらきらと輝く綺麗な小川や、桜色の花を風にふわふわ揺らすペチュニアやバーベナに、虹みたいに色々な色の花を咲かせたベゴニアの花畑、そして、小さいけれどもよく手入れされた果樹園が見て取れるその場所は、ぱっと見では長閑な普通の村に見えるでしょう。
 けれどゆっくりその光景を眺めてみれば、すぐに違いに気づくことができるはず。

 可愛らしい布で飾られたログハウスのお店で売られているのは犬用のブラシや猫の玩具で、香ばしい匂いを漂わせるクッキーの傍にはひまわりの種や採れたてのにんじんが並べられています。ふんわりとした午後の陽射しに包まれたカフェのテラスでは、金色の髪のお嬢さんが隣の椅子に行儀よくおすわりをした小さな犬と仲良くチーズケーキを分け合っていて、香り高い珈琲を楽しみつつ読書に耽る眼鏡の青年のテーブルでは、硝子の花瓶に飾られたダリアに水色の小鳥がとまり、花の周りを飾るぽわぽわの粟の穂を嬉しそうにつついていたり。
 綺麗な水が流れる小川では、艶やかな栗色の髪をひとまとめにしたおねえさんが楽しげにはしゃぐ大きな犬と水遊びをしていて、少し離れた場所ではお父さんと一緒に釣りをしていた男の子が銀色の小魚を釣り上げて、茶色い梟の名を呼び甘えた声で鳴く梟に小魚をあげています。
 優しい陽だまりに置かれた揺り椅子で編み物をしている老婦人の足元ではふくふくの白猫が気持ち良さそうに眠っていて、なんと、その上をハムスターがぽてぽて走っていったりなんかして。やんちゃなハムスターを追いかけてきた女の子はどんぐりのクッキーをハムスターに食べさせて、一緒に果樹園へと向かいます。そこで甘く熟した葡萄を摘んで、今度は一緒にその葡萄を食べるのです。

 ひみつのひみつのどうぶつのくに。
 動物大好きなひとたちが動物たちと楽しい休日をすごすために作ったその場所は、野生の動物たちではなく、大切な家族の一員である可愛いペットと気兼ねなく遊ぶための場所なのです。

 可愛いペットと一緒に、貴方も楽しい休日を過ごしにきませんか?

●このこといっしょ。
 珊瑚珠を思わせる実をほんのり色づかせ始めた花水木の庭で、藍深き霊査士・テフィン(a90155)は思いきり水まみれになりながら遊んで――いや、可愛いペットの身体を洗っていた。
 優しいぬるま湯で洗われてから丁寧にブラッシングされ、御機嫌な様子でとことこ歩き出したのは、可愛いピンク色をしたミニブタだ。桶に残った水でぱしゃぱしゃ遊んでいるのは、柔らかなアーモンド色の産毛をほわほわさせた小さな仔鴨。
「水遊びができるなら……やっぱり、この子?」
 知り合いにもらった招待状を思い浮かべ、彼女は束の間思案してからそっと仔鴨の頭を撫でる。
 取りあえず仔鴨とミニブタに留守番させて、その後テフィンはすぐに酒場へと向かった。

「――と言う訳で、ひみつのひみつのどうぶつのくにへ……遊びに行きません?」
 酒場を訪れたテフィンが冒険者たちを誘ったのは、少しばかり珍しい保養地だ。
 ひみつのひみつのどうぶつのくに。
 そんな名前で呼ばれるその場所は、誰に気兼ねすることなく可愛いペットと遊ぶことができる場所。

 素敵なカフェにペットと一緒に行くなんてなかなかできないけれど、ここでは可愛いわんこもにゃんこも大歓迎、バナナでほんのり甘味をつけたチーズケーキに南瓜の甘味を活かしたかぼちゃプリン、小麦の甘味だけでも素朴に美味しい木の実のクッキーといった、動物たちも安心して食べることができるメニューだって揃ってる。
 柔らかなブラシや目の細かなコームなんかも可愛いペットの毛並みを撫でつつ選べるし、蚤取り用のシャンプーや質の良い鋼で作られた動物用の爪切りを選ぶのに迷った時は、店員が直接あなたのペットを見ながら適切なアドバイスをしてくれるはず。
 綺麗な小川で大きな犬と思いきり遊び回ってもいいし、果樹園でもいだ梨や葡萄を悪戯なオウムと一緒に食べたって、誰も怒ったりなんかしない。花畑で花冠を編みつつ食いしん坊なうさぎに花を食べさせてもいいし、猫と一緒にログハウスの屋根に登ってお昼寝なんかも自由にできる。
 可愛いペットと一緒に遊びたいひとも、動物が遊んでいるのを見るのが好きなひとも大歓迎だ。

「他のひとや他のペットに迷惑をかけないよう躾けているなら、どんなペットでも連れて行くことができるそうですの。ただ少し遠方になりますから……ノソリンは、無理かと」
 巣から遠く離れることを嫌うため、ノソリンを遠出させるのはまず無理だ。
 けれど、一緒に連れて行けなかった家族のためにお土産を買うのも楽しいだろう。
 野菜ビスケットのような、うさぎやモルモットのために作られたペットおやつならノソリンだって喜ぶだろうし、ノソリンの負担を極限まで軽くするよう工夫された、熟練の職人技が光る最高級の鞍なんてものも手に入る。勿論、ノソリン以外のペットのためのおやつや小物だって選り取りみどり。

「それから……新しい家族に出会うこともできるのですって」
 動物が大好きなひとたちが集まる場所だから、それはとても自然なことだった。
 可愛いさかりの子犬や子猫の貰い手を探すひともいれば、可愛がっている金糸雀をつがいにしてみたいというひともいる。貰い貰われ、新しい家族にめぐりあうことができる、そんな場所。

「過ごしやすい季節になってきましたもの。可愛いペットと一緒に休日を過ごしたいという方も、動物たちが遊んでるのを眺めるのが好きという方も、新しい家族に出会いたいという方も……宜しければ、ひみつのひみつのどうぶつのくにへ、行きましょう?」
 可愛らしい挿絵と案内文が綴られた招待状を広げ、テフィンは穏やかな笑みを浮かべてみせた。


マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:藍深き霊査士・テフィン(a90155)



<リプレイ>

●水
 優しい彩りさざめく白樺と水楢の森に降るのは薄ら金色を帯びた木漏れ日だ。軽やかに楽しげに光踊る道を辿っていけば、胡桃色をした木で作られた可愛いアーチの門が見えてくる。
 円いアーチに沿って書かれた名前は――ひみつのひみつのどうぶつのくに。
 羽を伸ばしておいでと歌いかければ、存分に翼を広げた大鷲が飛び立った。
 澄んだ青空を自由に翔ける姿を仰げば心浮き立って、ヨハンも思う様草の上を駆けていく。草の上に清流の上に落ちる影を追い、おなかを空かせた彼が魚をねだりに舞い降りてくる、その時まで。
「どっちが……ペ……やっぱり――いや、なんでもない」
「何故っ!? 何故そこで目を逸らすんですかー!?」
 誰かの肩から意味ありげに視線を逸らせば、今度は小脇に抱えた柴わんこと目が合った。円らな黒瞳をくりくりさせるわんこを撫でてやれば、次は巻き尾がしぱぱぱと大回転してシュウの背を叩く。あれだけ駆けっこしたのにやっぱりまだ足りないらしい。
「よっし、いけ!」
 思いきりロイがボールを投げてやれば、精悍な狼の面差しを残した大型犬が嬉しげに小川のほとりを駆けていった。皆幸せそうですねと頬を緩め、ライアは草の上でじゃれる子犬達の傍に屈み込む。
「おいでおいでって呼びかけて近寄ってくる子は、人懐っこくて付き合い易いんだよ〜」
 遊びたそうにうずうずしているテリアを抱いたエルの助言どおりに呼びかけてみれば、ぴょこんと顔をあげた綺麗な小麦色の毛並みの子犬が、ぱたぱたと尾を振りながらライアに寄ってきた。
 顔を綻ばせこの子にしますねと抱きあげて、早速エルのクレオと初めましてのご挨拶。
 月色をしたふさふさの穂を揺らせば、すかさずしゅたっと黒猫の手が伸びた。
 可愛いと声を弾ませたルルイに取っておきの狗尾草を貸してやり、大いにはしゃぐ彼女と愛猫の様子に小さく口元を綻ばせ、ハンゾーは竹筒から二人分のお茶を注ぐ。茶請けはルルイお手製の、少し歪だけれど味は確り美味なお団子だ。せせらぎを聴きつつお茶を楽しんだその後は。
「そうだのぉ……ルルイ殿もご一緒に昼寝でも如何かな?」
 彼女は耳まで真っ赤になって、何度もこくこくと頷いた。
「こういう時は思いきり羽目を外しちゃうのよね」
「あ、儂も儂もー!」
 澄んだ水飛沫を跳ねあげ思う存分遊び回ってから、アイラとシファは小川のほとりに仲良く並んで腰をおろす。ぷるぷると水を飛ばす仔鴨達をタオルで包んでやって、生姜の紅茶に蜂蜜をたっぷりと。
「お腹すいた?」
 仔鴨のリースにクッキーを差し出すアイラと一緒に、シファも仔鴨の翠に差し出してみれば、小さな嘴がはむはむっと二人の指先を啄ばんだ。
「わぁもう可愛いんだからー!」
 この感触が堪らない。
 機嫌よく羽ばたいていく薄紫の小鳥を追えば、仔鴨と遊ぶ藍深き霊査士・テフィン(a90155)の姿が見出せた。ネム、と呼びよせた小鳥にカナエは「あの人を誘ってもいい?」と囁きかける。
 澄んだ囀りに破顔して、鳥の心がよくわかるに違いない誰かに手を振った。
 特製のオムレツサンドに紫芋のタルト。鳥達には取っておきのお米と木の実で、幸せな昼食を。

●憩
「……あ、そのおみくじまだ気になってたんだ?」
 大吉ならぬ『犬古』の籤を眺めていたのをファンバスに気づかれて、賑わっているなと誤魔化すように呟きながら、ポーラリスは陽だまりの優しさに満ちた光景を見渡してみる。
 途端、貰い手募集中の犬が目に入って思わず己の尻尾が大きく揺れた。
 酒樽付き首輪が似合いそうな大型犬を撫でる彼の姿に口元を綻ばせ、ファンバスはふさふさ尻尾を振りつつ頬をすり寄せてくる犬をぽふぽふ撫でて「命名、頼んで良いかな?」と振ってみる。
「待て、何で俺が!」
「だって犬関係だと張り切るじゃんかー」
 慣れた手つきで骨型ビスケットを構えた男が思いきり絶句した。
 俺はこの子を貰おうかなとレイが抱きあげたのは、長い茶色の毛並みと首周りのふさふさした白い毛が愛らしい牧羊犬の子供。甘えるように鼻を鳴らす子犬を撫でながら、恋人と遊びに行ってしまった愛猫を思い息子が欲しかったんだよなと笑う。和やかな光景にほんのり胸が温かくなっていくのを感じつつ、ルドは遥かな空を振り仰いだ。
 澄んだ風吹く青空を、高く高く鳥が往く。
「……そなたら、わらわが可愛いもの好きで何がおかしいかっ!」
「いやなんつーか、年相応に可愛くて……なあ?」
 真白な子猫を抱きあげほわほわと笑み崩れるルナの様子に、フールは肩を震わせランベルトに目配せを送る。すかさず繰り出された少女の蹴りをかわして、逃げるぜ! とフールは白地に茶のぶちが入った子犬と一緒に駆け出した。このままお土産も買いに行くのじゃーと後に続いたルナの背中に笑みを零しつつ、ランベルトは辺りへゆるりと視線をめぐらせる。
 はてさて、可愛いリスが欲しいのだけれど。
「姫、どんな玩具がお気に入りですかな?」
 店先で黒い子猫をひょいと抱きあげてやれば、アセルスの腕の中に収まったキノはふわふわの毛を揺らす猫じゃらしをじっと見つめて身構える。
 可愛いピンクのそれを買い求めた彼女を目に留めて、黒猫にはどんな色も似合いますもんね、と相好を崩してエリスも黒猫うにちゃんに様々な色のハーネスを当ててみた。「うざいにゃ」と言わんばかりの眼差しに心で謝りながら、それでも一緒の買い物は楽しくて仕方がない。
 選び取ったのは可愛らしい赤のリード付き。
 早速これで散歩に行きたくなるくらい、今日はとっても素敵な陽気。

●花
「ふかづめちゃん、ご挨拶! お手! お代わり! ね、凄いでしょ〜♪」
 優しい色に咲く花々の中、ユユの弟分・ミニブタのふかづめちゃんは、お辞儀にお手にお代わりと次々にその賢さを披露する。編んでいた花冠を膝に置き、バノッサは尊敬の眼差しで拍手を贈った。
 仲良くチーズケーキを分け合って、ふかづめちゃんを間にころんと横になる。
 戦えないこの子達を護りたくて強くなれたのかなぁとユユが呟けば、すごいですとバノッサが瞳を瞬かせた。何だかその瞳に寂しげな色が過ぎった気がして、ユユはぎゅっと彼女の手を握りしめる。
「ユユちゃんさん、小さいのに……大きいなって」
 小さな手を握り返し、ゆっくりと微睡の海へ漂っていった。
「ボギーさんもブラッシングしてあげますねー♪」
「はーい、ってそれ違ー!」
 フェイントを仕掛けたテルミエールにクマを取り上げられたボギーはばふりと尾を揺らし、更に彼女が連れてきたわんこに飛びつかれて悶絶する。何だかんだで楽しそうな彼とわんこの様子にくすくすと笑いつつ、テルミエールは手元のクマにまじまじと見入ってみた。
 流石に手入れは完璧っぽい。
「今日は一緒どすえ〜♪」
 久々に大きな翼を広げた鷲木菟を見あげ、ツバメも嬉しげに羽毛を震わせる。羽角を揺らし生肉をねだりに降りてきた彼をもふりと抱きしめれば陽なたの匂い。源さんはお父さんみたいな存在なんどすと語る彼女にふわりと笑みを返して、セレは肩に止まった小鳥の喉を指先でくすぐってみる。彼女に源さんがいたように、自分にはこのリゼルがいた。昔と違って、今はひとりではないけれど。
 これからも宜しくと弦を爪弾けば、繊細な音色と共に金の小鳥が楽しげに歌った。
 陽だまりに響くリュートの音に瞳を細め、アークは肩に乗せた子猫と一緒に辺りを散策する。
 お昼を食べる場所を探しているらしい彼と子猫の様子に口元を綻ばせ、ルレイアは柔らかな桜色の花弁を揺らすペチュニアの中に転がった。真白でふわふわなうさぎの綿雪にはこべを食べさせながら、月夜の出逢いを思い起こす。家族が増えた瞬間を。
 これからも、ずっと、ずっと一緒。
 黒革の首輪をつけた虎柄の子猫は男前で、藍のリボンを結んだ銀の子猫は可愛い淑女。
 子猫達の鼻先をちゅっと合わせれば赤銅色と金色の鈴がりんと鳴り、飼い主たる恋人達は顔を見合わせ笑い合う。小皿のミルクを飲む二匹の姿に瞳を和ませ、ジンさんにはこっちと胡桃のクッキーを差し出せば、温かな腕の中に抱き込まれたリレィシァの額に彼の唇が落とされた。
 幸せそうに笑みを咲かせた彼女から頬にお返しを貰い、ジンも至福の心地でクッキーを口にする。
 大樹のように暖かで優しい色の毛布に二人と二匹で包まれば、きっともっと、幸せな心地。

●空
 遥かな空からログハウスの屋根に舞い降りてきたのは、綺麗な水色の翼を持つ小さなインコ。
 屋根に並べた枕に寝そべり愛嬌溢れる小鳥と梨を分け合って、もう傍にいない互いの家族を語る。
 旅立つ時に譲った猫や泳ぎの得意なモップ犬。語って聴いて暖かな陽に目元を和ませて、本当に世界が平和になったらと続ければ、彼女は啄ばむようにハルトのこめかみに口づけて「ね、にゃんこ」と囁き柔らかに抱き寄せた。
「……どんな子が欲しい?」
 優しい色の屋根には暖かな陽だまりができていて、風にそよぐ梢の歌がすぐ傍に聴こえてくる。
 ころりと寝そべり見あげれば、高く澄んだ青空も少しだけ近くなったような心地。
 機嫌よく体をすりよせてくる黒猫を撫でてやり、カエサルは気持ち良いなと口元を綻ばせる。すぐ隣に寝そべるソウェルに寄り添う茶トラの猫は小さなあくびをして丸くなった。ブラシで丁寧に毛を梳かれ、ほわほわ猫じゃらしで遊んでもらって、どちらの猫も満足気。
 暖かな微睡の海にゆらゆらと。これからはきっと、こんな幸せな時間ももっと増えるはず。
「いっぱい遊んでおいで〜。後でファリアスがお腹でお昼寝させてくれるってさ」
「うむ、ティトもヴァレリーもどんと来なさい」
「じゃあ、うちの鴨っこも」
 陽なたの匂いがする白ふわと茶トラの子猫を屋根の上で遊ばせて、茉莉花茶と木の実のクッキーでのんびりお茶の時間。小首を傾げるテフィンの仔鴨に首を傾げ返したファリアスは、僕も昼寝したくなっちゃうなぁと呟くイーグルに破顔して、戻ってきた白猫と一緒くたに恋人の頭を撫でくり回した。むぅと唇を尖らせたイーグルは膝によじ登ってきた茶トラ猫を彼の頭に乗せて撫でくり返す。
 屋根から聴こえてくる楽しげな声に笑みを零し、ログハウスの居間のソファに沈んだアスティアは、小皿に取ったヨーグルトを幸せそうに舐める愛猫の様子にひときわ瞳を和らげた。
 優しく首筋を撫でてやり、命の温もりを感じ取る。
「美味しいの食べようね、ユミル!」
「うなー!」
 暖かな陽射しを浴びて、イオが頼んだケーキのラズベリーは艶々と輝いた。テーブルに行儀よく座った仔猫のユミルの前には南瓜で色をつけたチーズケーキ。オレンジ色の子猫が綺麗に皿を舐めとる様にさぞかし美味しいのでしょうねと微笑んで、家族を連れて来られなかったミシェルは更にカフェを見回し瞳を瞠る。
 秋刀魚だ。
 秋刀魚がいる。
 深い香りと味わいを持った秋摘み紅茶を楽しみながら、カンティアーモはテーブルの金魚鉢で優美に煌く秋刀魚を眺め、ふ、と口元に笑みを刻んだ。此処でならきっと、彼に相応しい水槽を作ってくれる素敵な職人に出逢えるはずだ。
「3食昼寝付に、虹望む庭付きの家……何より、私と過ごしてもらえるかしら?」
 羽繕い中の金糸雀を誘えば、小首を傾げた雪蒼の小鳥がカフェの柵から肩に飛び乗ってくれる。
 揺れるリス尻尾を捕まえひっそり願えば、真面目に考えこんだ彼にひとつの名前を贈られて、幸せな心地でメイフィルフィは笑みを咲かせた。
 きっとこの子は、誰よりも早く春を教えてくれる。
 柵で寄り添い透きとおるような声で歌う小鳥達を見出して、リチェアティスは瞳を輝かせた。
 真白な二羽の小鳥はきっと番い鳥。優しく撫でてみればふんわりした羽毛は綿飴を思わせて、可愛いねと瞳を細めたロゼイユの口元も自然と綻んだ。きっとリチェの唄もすぐに覚えちゃうねと笑いつつ、手の甲に飛び乗った小鳥の嘴をそっとつついた。
 何だか嬉しくて手を差し伸べれば、もう一羽の小鳥がリチェアティスの掌にやって来る。
 素敵な名前を贈りあおうねと結ぶ、幸せな約束。

●実
 梨の梢の彼方に広がる空は、ひときわ澄んだ秋の色。
 傍に居続けてくれてありがとうと大きな鴉に頬擦りをして、アリシアは腕を使って艶やかな漆黒の鳥を思い切り飛ばせてやった。今ならちゃんと、陽の光が降る中で待つことができる。
 疲れたら戻っておいで。君のために梨をもいであげるから。
「今日も良い日だなぁ……ってお前人のモン食うなよ! ってか俺のもか!」
「あはは、前途多難だね」
 厳選された摘みたて葡萄をユングヴェの白梟と取り合う白鷲を叱ってみれば、八つ当たり気味に弁当をつつかれ額もつつかれ、敗北感たっぷりでナオはがくりと膝をついた。梨と葡萄ならたくさんあるからと彼を慰めてやるユングヴェの姿にほんのり笑みを浮かべつつ、ユルは梨もぎ係の白梟がばさりと羽ばたくのを追って梨の梢の下にスタンバイする。だが彼の掌に落ちてきたのは、
「……あらら」
 温かくてにゃあと鳴く、小さなほわほわ毛玉。
 樹から降りられずに震えていたところを救われたらしい子猫の様子にくつくつと肩を揺らして、皆を描いた絵にリールは白縞子猫を描き足した。さて俺も弁当食うかと伸ばした手に触れたのは、弁当ではなくふわふわの毛並み。口元に弁当の食べかすをつけたままぶんぶんと尾を振る子狼の姿に思わず噴き出して、真白な毛並みをわしわしと撫でてやった。
 大きな水楢の樹に背を凭せ、レドは読みかけの本を静かに開く。彼の傍らにある紙袋から妙に可愛いねずみ人形が覗くのをちょっぴり気にしつつ、ハルカは林檎の香る紅茶を木製のマグカップに注いでいった。皆にはマドレーヌとマシュマロを添え、おやつの気配にそわそわしている垂れ耳わんこには林檎入りの犬用マフィン。
「そうだ、マナのその子……名前はどうするんだ?」
 紅茶の香りに顔をあげたレドに訊かれ、貰ったばかりの子猫を彼の猫と遊ばせていたマナミリアはふんわり嬉しげに笑みを浮かべた。
「……トト。……これから、よろしくね」
 桜色に揺れる花の波をゆるりと眺めれば、白い犬の尾が揺れフィードの尾も一緒に揺れた。
 今日はずっと一緒だぞと頭を撫でて、買ったばかりのブラシをかけてやる。可愛い子にモテるかも知れないぞと囁けばそれより遊ぼうと言わんばかりに一声鳴かれ、全く誰に似たんだかなと苦笑した。

 出逢った瞬間つぶらな瞳に心奪われて、ヒヅキは元気なうりっこの家族になった。
 花畑を駆け果樹園を走り抜け、小川に落ちては大騒ぎの、本当に元気いっぱいのうりっこだ。
 後を追ううちへとへとになったけど、思えば依頼も戦争も関係なく走り回ったのは久し振り。
 心地好い疲労感に笑みを零し、うとうとし始めたうりっこを抱きあげた。
「そろそろ、帰りましょうか」

 これから家族として暮らす、暖かなおうちへと。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:50人
作成日:2009/09/26
得票数:ほのぼの31 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。