デュンエンの起動記念日



<オープニング>


 タロスの重騎士・デュンエン(a90399)はすっかり失念していた。今日がどういう日であったのか。

 コルドフリード大陸でひっそりと暮らしていたタロス達が同盟諸国に参入したのは、今から1年と少しだけ前の事だった。そして事の起こりは海を漂流していた1人のタロスが同盟諸国の冒険者達と出会った事からだった。その出会いによって、冒険者達は本当にタロスという種族がいて、彼らがコルドフリード大陸という場所で生きている事を知った。タロス達は実直で生真面目で、誠実で信頼に足る種族だった。幾多の苦難を越えて、タロスは同盟の一員となり多くのタロス達がランドアース大陸へと移住した。

「デュンエンさんのお誕生日を祝って差し上げたいと思いますの。何か良いアイデアはありませんか?」
「……うーん、さっぱり」
 エルフの霊査士・マデリン(a90181)の言葉に蒼水流転の翔剣士・タルウィス(a90273)は即答した。その全く考える様子のない様子にマデリンは軽くタルウィスを睨む。
「だって、だってさ。私はタロスって種族の事もよくわからないし、デュンエンは何が好きなのかもわからないんだから。こういうのは当事者の好みを考慮すべきでしょ?」
「それはそうですけれど……」
 マデリンは首を傾げる。マデリンにしても、デュンエンが何を好もしいと感じるのかわからない。
「ここはデュンエンと親しい人にまるまるお任せしちゃったらいいんじゃない? 企画から準備、進行、後かたづけまで。野原でピクニックだってデュンエンならきっと喜ぶと思うよ、ね」
 やや顔をひきつらせながらも、タルウィスは熱弁した。ここで力説してマデリンを納得させないと全ての仕事が自分に押しつけられそうな気がするからだ。
「そうですわね、それしかありませんかしら……?」
 マデリンも不承不承、タルウィスの言葉にうなずく。
「あ、それから誕生日じゃなくて起動記念日、かな?」
 事情通ぶってタルウィスは言った。


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参加者
NPC:タロスの重騎士・デュンエン(a90399)



<リプレイ>

●東奔西走
「シオン殿? いかがされたか?」
 いつの間にか立ち止まっていた死の恐怖・シオン(a16982)に、一緒に大きな荷を両手に抱え歩いていた暴風警報・ウラカン(a77853)が振り返って声を掛けた。深い緑の装甲に灯る陽光色の瞳は穏やかで、ウラカンが過ごしてきた長い年月をそっとかいま見ることが出来る。
「いいえ……なんでもありません。急ぎましょう」
 ぎこちなく笑みを浮かべシオンは小走りしてウラカンに並んだ。世界には恒久的な平和が訪れようとしている。戦いの日々はいずれ遠く記憶に埋もれていくだろう。それは少し寂しくもあり、嬉しくもある。
 厨房ではもう何人かが宴の支度にとりかかっていた。
「料理をする際はこれを着けるのが同盟の定番なんですよ」
「これがこの大陸で料理をする際の定番……なのか? なにやら動き難いのは気のせいであろうか?」
 鮭の切り身の色よりももっと淡く繊細な色、無駄に布地を畳んで縫いつけ、布地をだぶつかせた飾りが主に身体の前面、胸と腹を覆っている防具にウラカンは首をひねる。
「とっても由緒ある、ものです」
 バキッと何故かシオンが手にした菜箸が折れる。そこはかとなく鬼気迫る不思議な雰囲気にウラカンはそれ以上多くを尋ねなかった。

 空気は読まない・レジィ(a18041)は悩んでいた。理由はデュンエンの記念日をどうやって祝ったらいいのか妙案が思いつかないからだ。
「……よし! ちょっくらホワイトガーデン行って食材取ってくるか!」
 デュンエンの好みはわからないけど、いろいろ作ってけばどれか当たるはず! 果物野菜鳥魚牛豚……思い立ったが吉日とばかりにレジィはその日の内にドラゴンズゲートへと旅立った。

 青碧の百合姫・ユリカ(a47596)は籐で編んだ籠を持ち、足取りも軽く歩いていた。以前にデュンエンから招待されたので、丁度良い折りだとデュンエンの家に向かっているのだ。家には何もないかもしれないので、ユリカは色々とお祝い為の品を籠に入れている。
「きっと楽しく過ごせるはずですわ」
 出迎えたデュンエンはきっと驚くだろう。それから散らかっていますけど、と恥ずかしそうに笑って通してくれるかもしれない。
「そういえば、殿方のお部屋にお邪魔するのですわ。な、なんだか緊張するような気持ち、になるかもしれませんわ」
 ユリカは片頬に手を添え、小首を傾げた。

●小さなお出掛け
 泡箱・キヤカ(a37593)は小さな店の中を駆け回っていた。木目の壁にはアザラシやシロクマ、アイスキングボスの切り絵が飾られ、白、銀、青の長いリボンは雪の結晶の飾りで留めつけられている。柔らかい真綿は雪の代わりだろう。
「随分と感じが出て来ましたね」
 カランと音を立てて扉が開き、白氷の細剣・ヘルムウィーゲ(a43608)が入ってきた。庭には放し飼いにされた鶏達が5羽、のんびりと歩き回っている。名前はかたゆで、はんじゅく、なま、おんせん、すくらんぶる。よく頭に乗せて鶏を可愛がっていた人の思い出が浮かぶ。
「さっそく作りましょう」
「はい」
 2人は沢山の卵料理を作り、最後のオムレツにケチャップで『おめでとう!』と記した。

「デュンエン様は誕生日おめでとうございます。御逢いして……もう一年以上でしょうか?」
「もうそんなに?」
 デュンエンは聞き返す。3人は卵料理を食べテーブルを片づけると、懐かしい当時の航海日誌を紐解いていた。読み返せばあの時の事がまざまざと浮かぶ。
「一昨年の年明けにコルドフリードに我々が出発して、途中の海上でデュンエン様を発見して……本当に色々ありました」
「懐かしいですねぇ……救命艇から出てきたデュンエンさんを最初に見た時は、びっくりしたなぁ」
「私は驚く余裕もありませんでした」
 思い出話は尽きることはない。

 静かな森の奥にひっそりと水をたたえた湖がある。デュンエンと空の夢・セト(a47397)は湖畔に張り出すように伸びた倒木に並んで座り、釣り糸を垂らしていた。
「デュンエンさん、退屈じゃない?」
 不意に不安になったのか、セトは問いかける。
「私はこうして緑に囲まれてぼんやり釣りをする時間が好きなんだけど……」
「私も楽しいです。ここは綺麗な場所ですね」
 セトが大好きなこの場所にタロスがいる。光沢のある身体が森と湖の中にいるのはなんとも不思議な光景だ。沢山の出会いと試練と奇跡があって、ここにこうしているのかと思うと、その巡り合わせを大事にしたいという想いがこみ上げてくる。
「起動日おめでとう。これからも仲良くして貰えると嬉しいな、なんて」
「ありがとうござ……って、あああ、引きました、これ、引いてます」
「わわっ、急いで糸、巻き上げて!」
 バランスを崩しそうになりながらも、2人は1本の竿にかじりついた。

「これも狩り……なのですか?」
 青い身体に森の赤を映し、普段とは少し違う彩りを加えたデュンエンは先導する瑠璃色の魂抱く大地の守護者・ペルレ(a48825)に尋ねる。
「勿論です。あ、起動記念日おめでとうございます。デュンエンさんはコルドフリードでは狩りをして暮らしていたのですよね。今日はランドアース式の狩りをしてみませんか? 狩りは狩りでも山菜狩りですけれど」
 クスッと笑いながらペルレが説明する。
「ようやく籠の意味がわかりました」
 デュンエンは背負った大きな籠を示す。出発前にペルレが背負わせた大きな籠にはそれだけの山の恵みを持ち帰る自信の現れだ。
「じゃ、さっそくこのキノコを取りましょう。これ、美味しいんですよ」
 ペルレは朽ち木の陰にひっそりと生えていたキノコを示した。

「ここなんだよう!」
 ワンワン尻尾の武道家・シルヴィア(a73331)は最後の上り坂を駆け上がった。どこまでも続く大地と、どこまでも広がる空が並んでいる。その空は少しずつ赤く色づき、たなびく雲は更に朱い。
「すげー綺麗でしょう?」
「はい、こんな夕暮れは初めてです」
 デュンエンからの讃辞にシルヴィアは嬉しそうに微笑む。その顔も夕焼けに赤く染まっている。
「すげー綺麗だけど、きっと1人より一緒だから綺麗に見えると思うんだよう! だから来てくれてありがとうだよう!」
「こちらこそ」
 空の赤は炎の様に揺らぎ、やがて薄れて暮れていく。
「俺、デュンエンさんの起動記念日なのにプレゼントとか……」
「いえ、素敵な贈り物をありがとうございます」
「起動記念日おめでとうだよう」
 シルヴィアの微笑みは輝いて見えた。

●酒場にて
「デュンエンさん21ねんめのきどーび、おめでと〜〜〜リョダンでもいったけど、もういっかいっこっちでもいうの」
 少したどたどしい口調だが、若葉マークが付いてます・パルト(a78085)はしっかりと祝いの言葉を言った。
「ありがとうございます、パルトさん。わざわざお越し下さってありがとうございます」

「あの……はじ、はじめまして……ラトネ、です……」
 と、どこかもじもじしながらイチゴの狂戦士・ラトネ(a77639)は自己紹介をした。白い装甲が美しい、可愛らしい感じのタロスだ。赤い瞳には憧れと尊敬の念が宿り、うっとりとデュンエンを見上げている。
「はじめまして。私はデュンエンです。今回は来てくださってありがとうございます」
「再起動日、おめでとうございます」
 どうぞ、とラトネが差し出したのは立派で扁平な木箱で、中には真っ赤に熟したイチゴがあった。
「この時期にイチゴですか。これは珍しい……ご苦労なさったのですはないですか? ありがとうございます」
「いえ、あの……その、これ、甘くて美味しいん……です」
 イチゴの様に初々しいそぶりでラトネは更に木箱を差し出した。

「デュンエン殿は再起動日おめでとうございまする」
「デュンエンさんはお誕生日…いえ、再起動日おめでとうございます」
 テーブルにはウラカン渾身のキッシュが並ぶ。祝いの言葉と共に、清浄なる白い光がシオンの頭上に輝く。その光をピカピカに磨きあげられたウラカンとデュンエンのボディが弾く。
「ありがとうございます」
「これからも共に冒険を続けたいものでありますな。ははは」

「デュンエン! 誕生日おめで……」
 酒場の扉を乱暴に開け入ってきたレジィはいきなり叫んだ。
「え? 正確には起動起動記念だって? そんな細かいこたぁいいんだよ! とりあえずめでたいからお祝いだよ! 料理とか作るからちょっと待ってな!」
 言いながらも身体は厨房にすっ飛んでいる。だが、ひょこっと顔だけ覗かせる。
「おめでと!」

「起動記念日おめでとうございます」
 祝いの言葉を他の者達と唱和した黒き幻惑・クロエ(a77419)は、急いで厨房に引き返すと沢山の料理を運んできた。瞬く間に何もなかったテーブルが料理で埋め尽くされてゆく。
「すごいお料理ですね。これは全部クロエさんが作ったのですか?」
 デュンエンは目の前に出された皿の数々に目を丸くしている。北の温かい煮込み料理、南方の香辛料を効かせた炒め物、葉野菜を酢漬けにした物や大豆加工品、葛のお菓子まである。
「はい。これは私がこの9ヶ月の間、各地を渡り歩いて修得した料理の全てです。僅か9ヶ月程度とは言っても会得した献立は結構な量になってしまいました。まだ厨房にある分もありますから、デュンエン殿お一人では食べきるのに3日はかかってしまいます」
「3日ですか?」
「ですから皆さんでご賞味下さい」
 クロエは笑って皆にナイフやフォークを渡す。

「デュンエン殿は再起動日おめでとうございます。いえ、起動記念日と呼んだ方が良いのでしょうか? 呼び方は色々とあるのかも知れませんが……」
 重武装主戦型高機動タロス・ゼロ(a77439)は言葉を一瞬、途切れさせる。そもそも同盟に加入する前、多くのタロス達は誕生日を祝うことを知らなかった様だ。けれど同盟諸国の慣習にタロス達はすぐに慣れた。もうコルドフリード大陸はない。あの凍てつく大地でまどろむように生きていた時代にはもう戻れない。これからもタロス達は否応なく変わっていくだろう。そして変わらないモノもあるはずだ。
「デュンエン殿は如何でしたでしょうか? どうか次の一年も良い一年でありますように」
「ありがとうございま……おお、それはもしかしたら?」
 デュンエンはゼロの持つ肉に目を奪われる。
「アザラシの肉です」
「……懐かしい!」
「さぁ、宜しければ、皆さんも試して下さい」

「あ、デュンエンさん。おそくなったけどボクのプレゼントなの」
 パルトのてのひらには氷の塊……に似た水晶があった。内容物の少ない本当に氷の様な水晶だ。
「これを、私にですか?」
 パルトの手からデュンエンの手に移った水晶は、光を透かして小さな虹色の影を落とす。
「とけないこおりなの。なんかね、いろとかね、かたちとかコルドフリードのリュウヒョウっぽいよね? なつかしくってきれいだなぁっておもったの」
「えぇ、懐かしいですね。これを見ればいつもコルドフリード大陸の事を思い出せます。ありがとうございます」
 パルトは照れた様に笑った。

「デュンエンさん、おかえりなさい。起動記念日おめでとうございます」
 降りそそぐ木漏れ日・スタイン(a04948)はランドアース大陸で初めての記念日を迎えたデュンエンに祝福の言葉を贈った。テーブルの上には普段とは違い、目新しい料理の皿が並ぶ。それは酒場の厨房を借り、スタインが腕を振るったものだった。海で捕れた魚をふんだんに使った料理の数々はどことなくコルドフリードでの食事を連想させる。
「ありがとうございます、スタインさん。居住区での食事を思い出します」
「そう言っていただけると嬉しいですよ。そういえば、コルドフリードにいましたドラゴンは全て倒すことができましたよ。あの時に失った多くの命に報いることができたでしょうか……」
「えぇ、きっと」
 しんみりとした沈黙をスタインは笑顔で破る。
「しっかり食べてゆっくり休んで、明日からも頑張って生きていきましょう」
 それが多くの戦いを生き抜き、生き残った者の責務なのだから。

 その小さな紙片にはなにやら大小様々な文字が踊っていた。樹霊・シフィル(a64372)の手からエルフの霊査士・マデリン(a90181)に渡った紙片は戻る様子がない。
「これをデュンエンさんに?」
 マデリンの問いにシフィルは上品な所作でうなずいた。
「えぇ。タロスの皆様は、機械の体をお持ちだと聞き及んでございます。なればこそ、起動記念日という節目に定期点検は似合いと存じますわ」
 シフィルが持参してきたのは、行きつけのサロンへの招待券だった。タロスの事はきちんと説明してあるので、デュンエンがふらりと現れても心配はない。
「よろしければマデリン様もご一緒に如何でございましょう? お肌の張りが、3歳は若返ると評判でございますの」
「ま、まぁ……」
 当然ながらシフィルに悪意はない。純然たる親切心からの一言だったが、マデリンの微笑みはやや複雑なものであった。

 ジャカジャーンと弦をかき鳴らすと扇情的な音が広がる。音の余韻が消えぬ間に、白花天・リン(a50852)。
「やぁデュンエン、犬じゃよ」
 本当はお友達と2人で演奏するつもりだったのだが、諸事理由で来られなくなってしまったらしい。苦労の多い人生なのだろう。
「なので、今日はこの犬が2人分の愛を君に捧げようと思う!」
 またしてもリンは弦をかき鳴らす。

 タロスータロスーヘイタロスー
 胸のでかい装甲は〜
 色々入って便利だね〜
 熱く滾る信念と〜
 弁当入って便利だね〜
 タロスータロスーヘイタロスー
 再起動と最近どう? は良く似ている
 お鼻の平らな装甲は〜
 花粉が入らず素敵だね〜
 タロスータロスーヘイタロスー

 締めの弦がまたしても響き、リンは旅芸人の様に礼をした。

●小さな宣言
 帰り道、聖痕少女・イコン(a45744)はデュンエンに小さな包みを渡した。それは動物の形を模したクッキーで、以前のよりずっと上出来だった。
「……君達が来て、もう半年以上も過ぎたんだよ」
 並んで歩く聖痕少女・イコン(a45744)の、深い声音にデュンエンは顔を向けた。すっかり背丈が伸びたイコンはもうデュンエンの左腕に腰を降ろしてはいない。何か言おうとして、でもデュンエンからは言葉が出ない。
「……少し驚いたかな? でも……どうしても大きくなりたかった」
「すみません。目線が違いすぎて……それにイオンさんはつぼみが開花する様に、蝶が羽化する様に変わってしまって、とまどってしまいます」
 視線を合わせないデュンエンにイコンはクスッと笑う。
「君達タロスには恋とかまだ解らないかも知れないけど……あたしは君が好きだから……さ」
「イコンさん?」
「帰ろう」
 イコンはデュンエンの手を握り、大きく振った。


マスター:蒼紅深 紹介ページ
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参加者:17人
作成日:2009/09/30
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イチゴの狂戦士・ラトネ(a77639)  2009年10月10日 11時  通報
(背後)『白い装甲が美しい、可愛らしい感じのタロスだ』MSさんグッジョブ!(ぐっ)