<リプレイ>
●密林を越えて 草原に茂る夏草をざぁとさざめかせ、夜明けの風がワイルドファイアの大地を駆け抜けていく。 風音で目覚めたリローダー・ペダル(a77398)がテントから出てみれば、朝露に濡れた夏草の彼方で瑠璃色の夜空が薔薇色に明るみ始める様が見えた。鮮やかな橙を帯びて昇り来た太陽はすぐさま目を射るような力強い光を投げかけてくる。さざめく夏草は金色の光の粒子を纏い、濃い草の香りが立ち昇る。 「師匠が言ってたぜ! 『天を屋根とし、大地を枕! これほど豪華なことは無い』ってな!」 「……とてもよく解る気がします」 眩しげに瞳を細めて笑ったのは、昨夜の見張り当番、熱い魂の歌い手・グラッド(a77838)だ。彼が作り出してくれた安眠空間の中からワイルドファイアの夜明けを見渡して、ペダルは感じ入ったように頷いた。極北のコルドフリードで暮らしていた身には、南国の夜明けは何度見ても飽きが来ない。 吹き抜けた風が掻き分けた夏草の彼方に、遠く緑に霞む密林らしきものが見出せた。 現在グレートツイスターがある大陸東部から一旦南下し、西に進路を取った冒険者達が草原に入ってから数日経った頃、霊査士が告げた第一のポイントである密林が彼らの前に姿を現した。ひとつひとつが塔とも思える巨大樹が鬱蒼と茂り、その根元を覆うシダ類すらも優に人間の2〜3倍はある、巨大植物達の密林だ。 「ランドアースの森とは全然違うのですね……」 「これでこそワイルドファイアですなぁ〜ん!」 凶暴なまでに鮮烈な緑が作る濃密な影に包まれた密林を見上げ、護風桂花・ティーシャ(a64602)が圧倒されたかのように呟いた。あちこちから感じられる色濃い生命の息吹に心も声も弾ませながら、森の小さな護り人・ミルフォート(a60764)が高く茂る梢を見回せば、眩い黄色のトパーズに鮮やかなブーゲンビレアのピンクを散らしたように華やかな翼と長い尾羽を持った鳥怪獣が目に入る。 『わたくしは亀なので飛べないのです! だから乗せて欲しいのです!』 『あー、そうだよね。うん、わかった』 ティーシャやミルフォートが用意していたラズベリーを啄ばみに舞い降りてきた鳥怪獣は、亀の甲羅そっくりのリュックを背負ったリザードマンの少女、つぶらな・ヒトミ(a79129)に歌いかけられて、何やら色々納得したように頷いた。道中で摘んできた人間の頭サイズのラズベリーはこの鳥怪獣達に受けが良く、彼らは次々舞い降りてきては冒険者達を快くその背に乗せてくれる。 「ここはお願いするね!」 「うん、任せて!」 世界を救う希望のひとしずく・ルシア(a35455)の眼差しに頷き、黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)も彼女と一緒に背に乗せてくれるよう鳥怪獣に歌で呼びかけた。仲間達が二人一組で鳥怪獣の背に乗り飛び立って行く様を見送って、最後に残ったワンワン尻尾の武道家・シルヴィア(a73331)も歌でお願いした鳥怪獣の背中によじ登る。 宝石に花を散らしたような美しい翼で風を打ち、小屋ひとつ分はありそうな巨大鳥が飛び立った。 「うわぁ〜! ホントに飛んで正解だよう……!」 鮮やかなサファイアブルーの青空目指して飛び立った鳥はたちまち巨大な密林の上へと至る。柔らかな羽毛に埋もれながら世界を見渡したシルヴィアの瞳に映ったのは、何処までも何処までも広がる鮮やかな密林の緑。青空から降る陽射しに艶やかな緑が煌いて、風にそよぐたび緑の上を光の細波が渡る。ひときわ色濃く落ちる緑は彼女を乗せた鳥怪獣の影だ。 巨大な鳥怪獣はその大きさに相応しい速度でぐんぐんと密林を越えていく。 「ひゃっほう! 進め進め!」 「風が気持ちいいですなぁ〜ん!」 効果が切れるたびに魅了の歌を歌い直すのが少し手間だったが、それも気にならないくらい空の旅は快適だった。グラッドが嬉しげに声をあげるたびに鳥怪獣は張り切って速度を上げ、吹きつける風の心地好さをミルフォートが喜べば、急旋回して更なる風を感じさせてくれる。 「この密林の終わり辺りに、美味しくて動かない植物はありませんか?」 『なかなかいける木の実があるよ。本当はその樹の中にいる芋虫の方が美味しいけど』 「そ、そっちも試してみるのです……!」 機転を利かせたヒトミが鳥怪獣とそんな会話を交わしているうちに、遥か彼方まで広がっているかに思えた密林の端が見えてきた。更にその遥か彼方を流れる川と、白く霞む地平が見える。霞が時折微かな銀に煌く様に、あれが砂漠なのだと確信できた。
魅了の歌の数に余裕があったお陰もあって、鳥怪獣は木の実採りまで手伝ってくれた。 大地を這う蔓と葉に目を留めたペダルとミルフォートが頷き合って根元から芋を掘り出し、それを葉っぱでくるんで蒸し焼きにしたものを鳥達と一緒に食べてから、皆は彼らに別れを告げる。 「ありがとうだよぉ〜!」 大きく手と尾を振るシルヴィアと皆で鳥達の姿が見えなくなるまで見送ってから、冒険者達は再び西を目指して歩き出した。 ちなみに――葉っぱでくるんで蒸し焼きにした芋虫も、なかなかいけた。
●砂漠の谷を越えて 鮮やかな真夏の空は雲ひとつなく晴れ渡る。 輝く太陽から投げかけられる苛烈な陽射しを受け、見渡す限り広がる砂の海は銀の色に煌いた。 何処までも広がる真っ青な空と白銀の砂の大地が成すコントラストはとても綺麗だ。 けれど此処は、大地を覆う砂が熱を孕み、乾いた風と共に水分を奪っていく厳しい土地でもある。 銀槍のお気楽娘・シルファ(a00251)は慎重に皆の様子に気を配り、時折見出せた潅木の影で休憩を取りつつ進むよう進言した。砂漠に入る前に川で水を補給したが、それも長くは保たない。 ここで重宝したのはヒトミが鳥怪獣に教えてもらった木の実だ。これはランドアースの西瓜程の大きさがあり、胡桃のような硬い殻の中にほんのり甘い果汁をたっぷり蓄えたものだった。殻のお陰でかなり日持ちしそうなのも心強い。 「マティちゃんや聖獣さん達元気かなぁ……。同盟に入ってもらえば、一緒に色々な場所で遊べるよねぇ?」 「うん。交流が途絶えちゃってた間の話もして、そしてまた遊べると嬉しいよね♪」 日陰で口に含んだ果汁を嚥下しシルファが呟けば、ルシアも口元を綻ばせて頷いた。ウィアトルノ護衛士としてマティエ達ワイルドファイアプーカと関わっていた頃から大分経つけれど、また以前のようにあの子達と遊ぶことができるならこんなに嬉しいことはない。 冒険者達は硬い殻の木の実とティーシャやグラッドの幸せの運び手で凌ぎながら砂漠を進み、幾日かをかけて第二のポイントである巨大な谷に到達する。 銀に煌く白砂はそこで一旦途切れ、岩肌を見せた大地の先に、深く巨大な亀裂が横たわっていた。 「ひ、広くて深いですなぁ〜ん!」 谷を覗き込んだミルフォートはあまりの幅と深さに眩暈を覚えて後退る。 危険な怪獣だけでなく砂嵐なども避けてこられたのは霊視どおりのルートを辿ってきたお陰だが、これを見てしまっては本当にこの谷を越えられるのか不安になってきた。だが、 「柘榴、弾けそうです……!」 谷の傍に聳える巨大な柘榴の樹に登って果実を観察していたティーシャの声に振り仰いで見れば、張り出した梢の先で赤く熟した柘榴の実が、ぽん、と音を立てて大きく弾ける。瞬間――弾けた実の中から飛び出した幾つもの種が、深紅のルビーやガーネットのように煌きながら巨大な谷を越え、遠く彼方まで飛んでいった。 「これなら行けるね……!」 大きな柘榴の葉の合間からその様子を見守っていたルシアがぐっと拳を握る。谷の手前に着いたらその日はそこで野営、と前もって皆で決めていたから、じっくり観察してよく弾けそうな実を選ぶこともできるだろう。そう思って幾つもの実を見て回るうち、熟すのにもう何日かかかりそうな柘榴がルシアの目に留まった。比較的小振りで、丁度プーカの森に到着する頃に熟しそうな実だ。 この柘榴が弾けるのを見たら――彼らは驚いてくれるだろうか。
柘榴の木陰で夜を明かした一行は、朝の光が柘榴の梢を透かして木漏れ日を落とす中、木登りに励みなるべく高いところに実っている果実を目指す。 巨大な柘榴の樹上、張り出した枝の先で遠く谷の先を見遣ってみれば、彼方にきらきらと輝く何かが見えた。逃げ水だったりしたら洒落にならないが、恐らくはあれが――。 「湖ですよね!」 「そのはずなのです! ではまずわたくしから!」 「フレー、フレー、頑張れ頑張れざ・く・ろ!」 嬉しげに声を弾ませたティーシャに応え、真っ赤に熟し今にも弾けそうな柘榴にヒトミがしがみつく。 『森羅点穴で柘榴の力を漲らせる作戦』が上手く行かなかったらしいルシアが声援を送りつつ柘榴の実を支え、ティーシャが角度を調整した。 「3、2、1、ゴー!!」 観察の結果見極めたタイミングに合わせてグラッドが実を叩けば、柘榴は大きく弾け――、 幾つもの種と共にヒトミも軽々と谷を越え、遠く彼方まで飛んでいった。 「向こうで水柱が上がったみたいなんだよう!」 湖着水に備え確りと水着に着替えたシルファが一段高い枝の上から皆に報告する。 見間違いでなければ、ヒトミが無事湖に着いたということだ。 高い場所に生っている柘榴を選ぶ、他の仲間が実を支えたり実の角度を調整したりしてサポートするといった作戦が奏功し、冒険者達は次々と谷を越えていく。烈地蹴の反動を利用しようとしたシルヴィアが逆に柘榴の弾ける力を殺してしまい、樹の下に落ちてしまうというアクシデントもあったが、彼女も二度目の挑戦で無事谷を越えた。 「きちんと飛べるか少々不安なのですが……」 「うん、ペダルさんには二個使ってみるね!」 比較的小柄な者が多い一行にあって、長身のペダルは一層大きく見えた。タロス特有の鋼の体の重量も不安要素であったが、二個の柘榴を寄せ合い二つ分の力を利用するというルシアの案が突破口を開く。黒く艶光る彼の身体が青空に美しい放物線を描く様を見送って、最後に残ったルシアは一番高い場所に実った柘榴に抱きついた。 仲間のサポートはないが、もう確りコツは掴んでいる。 「発射!」 ルシアをしがみつかせた柘榴が、遥か彼方の湖へ向け大きく弾けた。
●湖を越えて 真っ青な、吸い込まれそうなくらい青く澄み渡った空へ勢いよく放り出され、きらきらと深紅の宝石の如く輝く果肉を纏った柘榴の種と共に宙を舞う。谷を越えればその先に、青空をそのまま大地に映しとったかのような美しい湖の水面が見えてきた。 盛大な水飛沫をあげて、澄んだ水の中に落下する。 明るい青に透きとおる水の中は冷たく心地好く、何日も砂漠を渡ってきた心と身体を潤してくれた。 「ルシアさんこっちだよぅ〜」 「出来るだけ静かに、そーっとそーっと来てくださいね」 既に湖の島に上がっていたシルファが小声で声をかけ、水面に浮かびあってきたルシアを手招きする。自身の倍はありそうな草を掻き分け奥を覗きこんでいたティーシャも囁くような声で言い添えた。 草叢の奥では、明るい珊瑚色の羽毛を持った水鳥怪獣が巣を作っている最中だ。 ――とは言え、見たところ巣はほぼ完成している。最後の仕上げといったところか。 多少草がはみ出していたりするが、あの程度なら問題ないだろう。当然まだ卵もないし、その点は申し分ない。ティーシャとシルファは互いに目配せをして、土塊の下僕の召喚を始めた。 「そのままそのまま……お願いしますね」 「ゴメンね、巣のお代には全然足りないと思うけど……」 二人が作り出した下僕達はドライフルーツを持たされて、草叢の中を動き回ってがさごそと音を立てる。どうやら魚が好物らしい水鳥怪獣はドライフルーツには興味を示さなかったが、草の合間から見え隠れする見慣れない土人形達は何やら気になったらしい。 『キュイ?』 水鳥怪獣が草叢を覗き込めば、土塊の下僕達はティーシャの指示どおりにわたわたと逃げ回る。 『キュイ!』 下僕達の動きに興味を惹かれたらしい水鳥怪獣が、巣を離れて草叢の奥へと向かっていった。 珊瑚色の大きな鳥が草の向こうへ去った隙にヒトミとシルヴィアが巣へと近寄って、大きなそれを抱えあげる。仲間全員が乗れるほど大きな巣だったが、二人でも運べるほどにそれは軽い。 「今なのです!」 「水鳥さんごめんなさいだよぉっ!」 二人はそのまま一気に草叢を走り抜け、大きな鳥の巣を湖へ放り出した。 草で作られた鳥の巣は水飛沫をあげて着水し、ぷかぷかと湖面を漂い始める。 「皆急いで乗るんだよぅ!」 「わたくしが漕ぐのです!」 「これを使ってくださいなぁ〜ん!」 冒険者達はシルヴィアが叫ぶのと同時に島の岸から巣に飛び乗って、ペダルやグラッドと櫂代わりになるものを探していたミルフォートが、珊瑚色をした平べったい何かを漕ぎ手に立候補したヒトミに放り投げた。見ればそれは水鳥怪獣から抜け落ちたらしい羽根だった。大きさも硬さも充分なそれで水を掻き、ミルフォートとヒトミの二人で鳥の巣の舟を漕いでいく。 澄んだ湖面に柔らかな波紋を生みながら、大きな鳥の巣は湖の対岸へと向かっていった。
時折漕ぎ手を交代しながら湖を越えれば、そこには再び砂漠が広がっていた。 だが更にそのまま西へと進んでいけば、熱砂が起伏を連ねるばかりだった大地の彼方に、美しい緑の色が見え始めてくる。砂漠を越えればそこは、リザードマン達の国。 「ムムティルの国なんだよぅ……!」 言い尽くせない想いで胸をいっぱいにして、地平に見え始めた緑に向けてシルファが駆け出した。
霊査士が言ったとおり、そこから先は何の問題もなく進むことができた。 少しばかりの問題と言えば――、 「ウィアトルノ護衛士団の報告書を拝見した時から覚悟していましたが、やはり『青い道』はボクには窮屈でした……」 狭いトンネルを通るため、大柄なペダルがずっと身を屈めていなければならなかったことくらいだろうか。彼を気遣いつつ一行は『青い道』を通り抜け、更に山肌を進んでいって、遂に滴るように濃い森の緑を見出した。 そして世界が森の緑に覆われ、生い茂る木の葉が織り成す細やかなレースの合間から眩い木漏れ日が降り始めた頃――。 「うわ!?」 頭上の梢からいきなり大量の花が降ってきた。 くすくす、くすくすと子供の笑い声が幾つも聴こえ、森のあちこちからプーカ達が顔を出す。 「もー、遅いよ!」 「待ちくたびれちゃったよ!!」 「歓迎パーティーするからお土産話聴かせてよね!!」 どうやら物凄く待ちわびられていたらしい。 プーカ達に取り巻かれた冒険者達は辺りを見回して、何人かが「あ」と声をあげる。
「皆、来てくれるのを楽しみに待ってたです」 ウィアトルノ護衛士団に所属していた者には馴染みの少女――マティエが、皆を出迎えてくれた。

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参加者:8人
作成日:2009/09/29
得票数:ほのぼの11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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