ハシュエルの誕生日〜水鏡に歌を捧げ〜



<オープニング>


●水鏡に歌を捧げ
 それは酔狂だと自ら言うのだから、彼の人の趣味は推し量ることはできない。けれど、その分からない部分もまた彼の人らしさであるのだろう。遠く、過ぎた日々を懐かしむかのように届いた手紙には貴族であったという人からの酔狂な誘いとひとつの音叉であった。
 水鏡に歌を捧げ、ただ風と共に。
 湖のある庭園のピアノを置いたのだという。湖面に映る姿は確かに美しいだろうが、楽器はすぐに痛んでしまうだろう。酔狂と言うに相応しく、けれど景色ばかりは美しい。
 彼の人は音叉を扱う職人でもあった。貴族の三男坊というのはそんなものだよ、と言っていたのを憶えている。おとぎ話のように、彼は庭園をさして言う。ここは数多の音色で育つのだよ、と。
「……」
 手紙は祝いの日に、という言葉を最後にしめられた。祝い、祝いと言葉を転がしてあぁそうか僕の、と思ったのは吹き込んできた夜風が冷たかったかもしれない。久しぶりとか、そういう言葉もないままにただ一つ土産にするのも良いと思ってと綴られた手紙を置く。土産などと、何処に行くのかと問う事などできるはずもなく、ただ相変わらずに別れというものが苦手なのかと自嘲する。
「土産か……」
 そのまま、ベッドに転がればまた少し、伸びてきた髪が頬に触れた。たぶん伸びた背と成長しているはずの体。中身も少しは変わっただろうかと思って、窓に映る顔を見る。
「誕生日、か」
 波紋ばかり作る湖と、そこに満ちる音色。懐かしさよりも誰かに見てもらいたいような気がして、くっと起き上がった。

●ハシュエルの誕生日
「……月日ってのは恐ろしいな」
「それは貴方が30の道を歩んでいることかしら」
「……」
 違う、と言えばそれが嘘になることを分かっていて霊査士は口を開きはしなかった。ただ笑うようにしてリュシスはカップを置く。
「ハシュエルだ。あいつも順調に歳重ねて、27歳だからな」
「まぁ、良いことじゃない」
 リュシス相手に、何を言うべきか悩むように霊査士は言葉を探す。あぁ、だから。と結局うまい言葉も見つからないうちに、とんとん、とテーブルを叩く。
「見えねぇだろう、27」
 未だに童顔、とーーからかうように言われているそれには個人的な鉄槌を下しているらしいがーー言われる事も少なくはなく、言動が子供っぽいかと言えばまぁそうかもしれないというのも、性格と思ってしまえばまぁいいのかとも思いながら、霊査士は悩むようにカップを持つ。問題は、どう祝おうかというそれで。
「あいつ、人のは祝うくせに自分はさっぱりだろ」
「27歳の誕生日に、どんな事をしようかって話かしら?」
「……その前に人の年齢連呼するのやめない?」
 いつの間にか現れた庭園の守護者・ハシュエル(a90154)が言う。その姿に、初めて気がついたかのようにリュシスが「あら」と声を上げる。
「で、何が年齢相応に見えなくて子供っぽいって?」
「……そこまで言っちゃいねーだろ」
「そんな気配がしたんだけど……気のせい?」
「気配なのか……」
 言い返すのも面倒になってフォルテはやってきたハシュエルを見る。どうせ本人がいるんだし、と本題に入ろうとした所で「そういえば」と先にハシュエルが口を開いた。
「行きたい場所があるんだ。……誰かと。誕生日だったし、わがままって、言ってみてもいいもんなんでしょ?」
「……」
「フォルテ?」
「いや、別に何か悪いってわけじゃぁねぇからその不味いことしたな、みたいな顔はやめといてくれ。そこ、お前さんも笑ってるなリュシス」
 リュシスを軽く睨んで、ハシュエルへと向き直れば「ならいいんだけど」と悩むような声が響く。
「行きたい所って言っても……まぁ知り合いの所なんだけれど。貴族の避暑地らしくって、湖もあってゆっくり過ごすにはいい場所だよ。その湖に傍にピアノを置いたって話でね」
 勿論、楽器に悪いとは僕も思うんだけど。
 そう続けてハシュエルはもらった手紙と、その中に入っていたという音叉を出す。これの職人でもある三男坊の誘いなのだという。
「ついでに、本人は館でゆっくりしてるみたい。好きにしていいよって話なんだけど、代わりに歌をうたったり、楽器を奏でたりしないと駄目なんだよね。庭にある草木が、あの場所は数多の音色で育つんだ」
「音色で……?」
「そう。嘘か本当かは知らないけれど……でも、そうなんだって言うから。まったり過ごす場所の確保ついでに、行くのもいいかなって思って」
 それで、と一つ区切り、ハシュエルは顔を上げた。
「一緒に、来てくれたら嬉しいなって」


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参加者
NPC:庭園の守護者・ハシュエル(a90154)



<リプレイ>

●水鏡に歌をささげ
 風が吹けば水紋が描かれる。木々の触れ合う音が潮騒に似た。木々を揺らし、花を揺らす風は柔らかく、ひらひらと舞った花びらが一枚湖の近くに置かれたピアノへと降り立った。
「ハシュエルさん」
 振り返ればちょうど目が合い「ウィヴさん」とハシュエルは笑みを見せた。
「おめでとうございます、この年も実り豊かなものとなりますように。童顔などいざ齢を重ねて行けば大して関係ないものですよ。きっと」
 その言葉にハシュエルが吹き出すようにして笑った。きっと、きっとかぁ。と転がして一つ頷く。
「ありがとう、ウィヴさん」
 それと、童顔については長い目で見ることにする。と笑った。
 色とりどりの花を見、やってきたデューンはハシュエルを見つけた。
「喉は歌い手の命だから、喉飴、ハーブティー、ノンアルコールカクテル。好きな物を選んで潤してくれ」
「そうだな……喉飴で」
 受け取ったそれを口に含んで、ハシュエルは歌い出した。歌詞の無い、旋律を奏でる曲。その旋律を耳に、デューンは調律された楽器を手にとり、適当に場所を取った。
「滅多に弾かないが、興が乗った」
 手にしたギターを軽く、つま弾けば柔らかな音色が歌う声にあわさっていく。
 小さく咲いた花に視線を向け、ハイルは足を止めた。
「こっちの青い花なんてハシュエルに似合いそうじゃない?」
 探していたのは花冠用の花だった。庭園には、彩り鮮やかな花が沢山咲いている。ハイルが触れたひとつに膝を折り、一つ頷いてミンリーシャンは手に持っていた花を見る。器用に花を組み合わせながら、花冠を作っていく彼女の指先を見ながら、ハイルは見つけた白い花に体を伸ばす。振り返れば動いた衝撃でか、花が舞った。ミンリーシャンが腰から下げていたバックが、花びらを被る。ハイルは少しだけ手を伸ばし、摘んだ白い花を彼女の耳の上に差した。
 「フォルテを引っ張って行くよ」とウィンクをしたシスに、霊査士は笑みを見せた。からかいの混じった言葉を一つ、口に乗せて返してきた彼に、シスは「嘘」と自分の言葉に一つ重ねた。
「僕が一緒に居たいだけなんだー」
 こうやって話しをしたりするのもいいもんだな、と背を伸ばしフォルテは笑った。
「何をしないでまったりってのも悪かぁねぇんだがな」
「折角来てるのだし、一緒にお祝いに行かない?」
「ハシュエルか」
「うん。金の髪が湖の光に反射して、きっと綺麗だって思うのー」
 よく晴れた日には、似合いの風が吹く。湖面の反射に、眩しそうに目を細めた後にフォルテはふ、と笑った。

●幸せの音色
 リューさんとのお出かけはほんと久しぶりですっとソウェルは顔を綻ばせた。足を踏み入れた庭園には甘い香の花から、常緑の葉を繁らせる木もある。リュシスを演奏に誘ったリューは笑みを見せた。
「さて、植物が育つのにも音が必要らしいという事だし腕の見せ所という事か」
「リューさんのそばにはいつもきれいな音があるから、お庭の草花もきっと嬉しいと思うのです」
 庭園の中央、湖の傍にハシュエルの姿があった。横笛を持ったソウェルと、ヴァイオリンを持ったリューを見て気がついたのか「演奏するんだね」と笑みを見せる。ヴァイオリンを構え、リューは誕生日おめでとう、とハシュエルに言った。
「気に入ってもらえれば幸い」
 ハシュエルが、目をぱちくりとさせた後に嬉しそうに笑う。
 横笛を構え、ソウェルはリューと目を合わすようにして、息を吸う。奏でるのはいろいろな命が生まれてくる季節、深呼吸してぐーんと背を伸ばす季節のうた。
(「生まれてきてくれてありがとうです、これからもずぅっとしあわせな音色が聴けますようにって」)
 気持ちが音にのって、ハシュエルにもリューにも、草花にも届くように奏でたい。
「すごい……ほんとに、うん」
 拍手をしながら、ハシュエルは「ありがとう」と微笑んだ。ほんわりするんだと、ハシュエルは言葉を探す。
「ピアノずいぶん上手くなった」
 リューはリュシスに笑顔を向けた。リュシスはそっと、鍵盤から手を放し微笑む。ソウェルは、リューを見た。
「リューさんの音、これからも聴きたいです。わたしももっともっと上手になるのでまた音をあわせてください、ですよー」
 瞳の奥、確かなものと言葉、そして先ほどの旋律を思い出すようにリューは言った。
「ソウェルもまた機会があったら歌ったり演奏したりして遊べるといいな」
 
「謳姫の事を思い出すねー」
「そうだな」
 霊査で見るだけだったが、と霊査士は静かに言う。滲む感覚を隠す事も無いまま、吹く風に揺れる木々を見る。
「この場所……大気のどこかで謳ってる様な気がする」
 果実の木の香りがシスの前、ふわりと舞っていった。
「やー。綺麗な処だねー。改めて、お誕生日おめでとうハシュエル。ハシュの響きも可愛いけどー。君の名前は君への想いが沢山詰まってて好きだよ」
 ありがとう、と笑ったハシュエルに素敵な1年になるといいねー! とシスは笑みを見せた。柔らかな草の上、一歩進めた足が舞い降りた花びらに触れる。
「ハシュエルと音叉の贈り主は友達なの?」
「友達……かな。うん、昔はよくお客さんだったけど」
「彼も今日を楽しむだろうね。君も沢山甘えるんだよー」
 肩にぽむりと手を置いて、シスは笑みを見せた。
 湖に響き渡るのは、ゆったりとした曲だった。誕生日の祝いに心を込めて、ミンリーシャンは歌う。歌声は優しく、最後に一つ高く響かせてミンリーシャンは目を開いた。
「ハシュエルくん♪」
 ミンリーシャンが呼びかけたのに続けて「おめでとう!」とハイルは声を上げた。
 プレゼントの花冠は、紫や黄色、青い花が飾られている。ハシュエルは少し照れるようにして花冠をのせた。

●旋律
 青のスーツで身なりを整えて、庭園にやってきたランダートは見つけたハシュエルに声をかけた。
「ハッシュ、27歳おめでとさーん! ……実は同い年だったとゆー落ちか。俺のほーが20日くれー弟だ」
 今更の話に、二人して笑う。だったら、少しだけでも頼りになるように頑張るとハシュエルは笑った。
「ひとまず……20日分くらいは」
 
「ハシュエル様、お誕生日おめでとうございますー っ」
 ラブをいっぱい飛ばしたいと思います、とゼアミは笑みを浮かべた。「じゃぁ、僕は恋の歌でも」ハシュエルは笑う。ありがとう、と言って。
 湖の近くには、確かにピアノがあった。演奏するのも構わないのだというピアノに、ゼアミは綺麗ですね……、と零した。
「湖のある庭園にピアノを置くなんて……。確かに、ピアノにはちょっと悪いかもですけど、素敵な風景、です」
 ゼアミは静かに息を吸う。私も一曲。と静かに紡いだ。
「母から教わった、というか……小さい頃、繰り返し聞かされた子守唄のような優しい曲を……」
 近くに場所をとって、二胡の弦を弾く。
 生まれてきてくれたことに感謝を。出会えた奇跡に感謝を。貴方の幸せを祈ります。でも幸せは、自分の手で。
 ふいに、風が吹く。強いというほどのものではなく、けれど弦を弾く手を、体を柔らかに撫でていく優しい風。
 頑張って。
 世界はほら、あんなにも君の命を祝福してくれているのだから…!
 ゼアミは僅かに顔を上げる。ふわりっと舞ったのは、さっき蕾だった花の甘い香りだった。
 
 ミンリーシャンはハイルと一緒にその光景を少し離れた場所で見ていた。甘い香りを感じながらミンリーシャンは少しだけ体を乗り出していった。
「ハイル、目、瞑って?」
「ん? うん」
 不思議そうに、それでも頷いて目を瞑ったハイルにミンリーシャンはさっき作っておいたもう一つの花冠を取り出して、ハイルの頭に乗せた。
「ぇへへ……♪ 大好きっ♪
 目を開いたハイルにキスを一つ、一緒にプレゼントしてミンリーシャンは笑った。 
 変なテンションが上がって、ランダートはふいに立ち上がり歌い出した。軽快なそのリズムで奏でられる歌は、ワイルドファイアのヒトノソリンの集落で習った歌だ。まんもー骨を鳴らし、アップテンポで踊り、歌う。わぁ、と声を上げていたのはハシュエルだった。一曲、無事に終えれば、場違いかなぁ〜と照れながらランダートは、場を離れる。
「僕は結構すきだけどなぁ。花も強く育ちそうな気がする」
 そう言って笑うハシュエルに、ランダートはふいに口を開く。
「花もそうだが、植物はいいなぁハッシュ。荒野にゃそんなに無いんでな、心が洗われるんだ。俺はワイルドファイアに緑を多くするのが夢なんだがーハッシュの夢ってなんだい?」
「ゆ、め……」
 考えた事無かったな、とハシュエルは呟いた。大切な人が幸せで居て欲しいとか、そういう我が儘はあったんだけど。と一つ零す。
「今は夢を見つけることを夢に、しようかな」
 その事に気がつけた事が、何だか少し嬉しかった。ほんのりと灯る温かさに手をぎゅっと握り、ハシュエルはランダートを見上げた。
「ありがとう、兄さん」
 
●幸せ
 誕生日のお祝いを唇に乗せて、テイルズがハシュエルと話をしていたところで、風が吹いた、甘い香りは花だろうか。歌で花が育つなんて素敵ですね、とテイルズは顔を上げる。
「花は人に力をくれるそうですよ。だから花にも私達の歌で力をあげられたらいいですね♪」
「うん」
「ハシュエルさんにも喜んで貰えたら私は幸せです」
「僕?」
「エンジェルである私とエルフのハシュエルさんとは流れる時間の長さが違うけれども、ずっとずっと友達ですから。喜びも悲しみも全て分かち合いたいです」
 テイルズは続けるように口を開いた。
「一瞬でも長い時でも、一緒に居られる時間が幸せなんです」
 一緒に歌いましょう。そう言ったテイルズに、ハシュエルはうん、と大きく頷いた。
「それと……すごい嬉しいよ。嬉しいんだ。一緒に歌えて、此処に来れて」
 一人で来ようと思って、でも誰かと一緒に来たくて。酒場に立った時は自信がなかったんだ、とハシュエルは告白でもするように言った。
「でも、今は言って良かっって思うし、みんなと来れたことも、テイルズさんと話せた事もすごい嬉しい」
 一緒にいたり、話したり歌ったり。嬉しいんだ。そう言って、ハシュエルは少しだけ照れくさそうに言った。
「幸せだよ。あったかくて、すごく」
 そう言って、ハシュエルは微笑んだ。
「音色を紡いで繋いだ旋律。空へ伝うように届いたなら」
 幸せが舞い降りる。
 息を吸い、高く、柔らかにテイルズは歌う。伝えたい思いは全部歌声に籠めて、歌も思いも永遠に残るから。
 
 湖の周りを歩きまわれば、蕾の花がゆっくりと開く、その瞬間がメローの目に入った。優し花の香りと出会い、茂る木々の中を抜け、歩いてゆけばメローはハシュエルの姿を湖の傍で見つけることができた。目を見て、笑顔で挨拶をする。祝いの言葉と一緒に、庭園に連れて来てくれた事の礼も言えば、ハシュエルは来てくれた事も嬉しかったのだと言った。湖のある大きな庭園。湖面に映るのは、傍にあるピアノ。幻想的で美しくーー少し寂しくもあり、柔らかな雰囲気がある場所にメローには思えた。
 皆の歌を聞きながら、メローは少し照れるようにメルデに出掛けた時の話をした。
「あの時、肩を貸してくれて……ありがと。ハシュエル自身の言葉で……答えてくれただろ?」
 カップを置いて、顔を上げるハシュエルにメローは続けた。あの時の言葉をなぞるように。
「『また、一緒に歌いたい』ってヤツ、すっげー嬉しかった」
「メローさん」
「オレも歌が好きだ。ハシュエルと一緒だと、もっとずっと……好きになる」
 メローは笑顔でハシュエルに言った。
「だから、一緒に歌ってくれるか?」
「……うん。うん、僕も、一緒に歌いたいから」
 想いは旋律となり、空間を満たすように、風に漂うように、人の元へと……心へと届く。
「大切な人がいれば尚更……それは幸福に響くだろう」
 大切に、紡ぎ歌う旋律が庭園に響く。風は優しく頬を撫で、遊びにきた小鳥たちが羽根を休め、囀りが聞こえる。
「リュシスさん連弾しよう!」
 ハシュさんは歌を下さいな♪ とチェリートは笑みを見せた。花を軽く跨いで持ってきたカスタネットをフォルテに渡す。
「ぱぱも演奏するなのですよっ」
「あぁ」
 カスタネットを受け取って、フォルテは頷いた。
 ぽーん、と触れれば水面に波ができる。音楽にあわせて生まれるそれに、チェリートはふわり笑みを見せた。水鏡は音叉に似ている。幾つも、出来た波は気紛れに舞い降りた花びらと戯れる。音色で草木が育つなら人も育つかもしれない。
「声はこころが奏でる音だから歌はいっぱい効きそうですね」
 そう言って、チェリートは顔を上げた。
「庭園のためにお歌をください、守護者さん。ハシュさんが素敵に心育てられるようにも願いをこめて演奏するよ」
 へたっぴだけど今日は歌もうたうね。
 そう言って、すぅっと息を吸う。顔を上げて見た先に、ふっと笑うフォルテと目があい、リュシスがにっこりと笑う。
「お誕生日おめでとうです」
 皆せーので、言ったお祝いの言葉にハシュエルは驚いたように目を開いた。くしゃ、と一度泣くような顔をして「ありがとう」と声を上げた。
 ウィヴは響く旋律に耳を傾けながら聞き手にまわる。草木にも良い肥料で育ってほしいですしね。そう、思いながら、音も立てずにじっくりと、聞いていれば風の音や、花の揺れる小さな音まで聞こえてくる。
 用意しておいたお茶と、クッキーは好評だった。食べ過ぎないように気をつけないと、とハシュエルは笑う。
 ハシュエルさんのことはとても好ましく思っていますから、とウィヴはハシュエルの姿を視界にいれる。幸せな日々を歩んで欲しいと思うのだ。今日響く、この楽のように。
 
 優しく、響いた歌が終わったところで、デューンはフォルテに視線をやった。頷いた彼が持っていたのはブランデーが効いたバースデーケーキだった。デューンからフォルテに頼まれていたケーキを切り分け、デューンは持ってきていたワインを開ける。他に希望者がいれば、とグラスを手に持った。
「落ち着いた酒場で良い酒を嗜むような酒飲みになると、雰囲気は年相応に見えるらしいぞ?」
「課題が多そうだなぁ……。あ、でもこのワイン美味しい」
 芳醇な香りに、ハシュエルは目を細める。ほう、とついた吐息は柔らかく、草を撫でる。努力してみる、と一つあまりたてることの無かった目標をたてた。
 そうしてハシュエルは一つ礼をした。ありがとう、と大切にその言葉を紡いで、高く、高く歌をうたう。沢山の感謝と、想いを込めて。
 ふわり、と風が吹く。沢山の、旋律と歌をうけ一つ、二つ開いた花の甘い香りが夕刻を前に庭園に舞い降りた。


マスター:秋月諒 紹介ページ
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作成日:2009/10/03
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