<リプレイ>
商店街の入り口には横断幕が張られ、セール日の開催を告げていた。 思い思いに飾られた店頭も、いつもよりも気合いが入っていると、訪れた事のある者ならば気付いただろう。 いつもと同じようで、いつもより少しだけ熱気がある、そんな商店街へと冒険者は足を運ぶ。
さて今日は何を探そうか? そんな小さな悩みすら、楽しみに変えて。
●君と、二人で。 普段より賑やかな通りを歩く。 それぞれが幸せな理由を抱いて、それを選び出す。 自分の為に、誰かの為に。 たった一つを選んで、それがまた思い出になるなんて、素敵ではないか。 「大事な人にもろうたから、大事なもんやさかい、大切にしまえるようにしたくて」 「そう」 幸せそうで何より……そう言いたいけれど、余りに幸せそうだとからかいたくなるのは何故だろう? フィルメイアはコサージュを探しながら、ネイヴィの照れ笑いを横目に頷いて見せた。 惚気かと、そうからかわれても本当の事だから仕様がない。ネイヴィは浮き立つような気分で誕生日にもらった簪を仕舞う為のジュエリーボックスを探す。
キニーネは、なぜかいつも鉄下駄を履いていた。足音が騒がしい事も、皆に笑われている事も気付いていたが、足腰の鍛錬の為だ。依頼用に持っているのも登山靴で、やはり実用一辺倒。可愛い服には似合いはしない。今まではそれでよかったが……。 (「エコーズさん、もしかして私と一緒に歩いていて恥ずかしいのかも知れない」) そう思ったら、お洒落な靴を探したくなった。 ああでもない、こうでもないと、真剣に悩む彼女の横で、それに付き合うエコーズは、変わったものを買うかも知らんなと内心思いつつも、未来に思いを馳せていた。 街道も出来、情勢も落ち着きつつある現在。ドラゴンズゲートを使わず、自分の足で大陸を旅してみたい。戦地の復興を助けたり、各地の伝統や風習を学んで歩くのも面白そうだ。 それは何年も掛かる事かも知れない。 そして、その旅には……。 「……! これだ!」 タップダンス用シューズの靴底を鳴らして喜ぶ彼女が、キニーネが隣にいて欲しい。 我が侭でも、それが今偽らざる気持ちである事をエコーズは再確認する。 その時はスキットルでも持って行こうか。彼はキニーネを伴って、雑貨屋へと向かうのだった。
アトリの身に着けるピアスは、全て大切な人からの贈り物だという。 それを贈って欲しいというから、泣きそうなくらい胸が熱くなって。大好きという言葉が、あふれてきた。 だから素敵なものを。そう思って、二人で並んでピアスを探す。 「キヤカさん、どんなピアス選んでくれんの?」 リボンのでもいいぜ、おどけてアトリが笑う。真剣に探すキヤカは、それに答える余裕もなかったけれど。 「アトリさん、そこに座ってくださいv」 じっと見上げるアトリの様子に気付きながらも、キヤカは普段通りの笑顔で椅子に座ったアトリの耳たぶに触れ、ピアスを通す。 「たくさんの人達がアトリさんを守ってくれてるんだね」 願いを込め、七色の輝きを新しく宿した耳に優しくキスをして。 「ごめんなさい、ついっ……私も、この一つになれたんだなって思って、嬉しくて」 あなたの側に居られて、嬉しくて。ありがとうと言うキヤカに、 「付けて欲しいって頼んだんだ、礼言うのは俺のほだろ」 ありがとなと笑い、そっと手を取るアトリ。キヤカの右手の薬指に、優しく通されたのはうさぎりんごのビーズの指輪。 「これで離れらんねえぞ〜?」 照れ隠しにおどけるアトリは、キヤカをまっすぐに瞳に映して微笑んだ。
「腹帯は、丈夫で長く使えるものがいいわね」 商品の棚を眺め、セラがどれがいいかしらと悩んでいる。素材や色や細かな装飾が違うから、結構悩み甲斐があるのだ。 「腹帯の他には、上に羽織るものも必要かな?」 夫婦で手を繋ぎながら腹帯を探す傍ら、ヨハンがそんな事を呟いた。膝掛けになったりポンチョに出来るようなものが便利だろうかとぼんやり考えていた時、誰かに呼ばれたのか、ちょうど姉妹が通りかかる。さっそく二人にアドバイスを求めると……。 「あら、そうねぇ。それならニット屋のロバートちゃんに頼んだらどうかしら。いい具合の作ってくれると思うわよ」 「それにしても、本当に幸せそうよねぇ」 ほう、などと溜息を吐いて姉妹がセラとヨハンの睦まじく並ぶ姿を眺める。どうやら、本気で羨ましく思っているようだ。 姉妹が去って、買い物も終えて。ほっと一息を吐いた喫茶店で。 「生まれたら、ソルレオン領に一度帰りたいな」 「そうね。今のあなたを作った大きな方たちにもお会いしたいわ」 幸せな気持ちでいられる存在を育ててくれた人に会いに行こうか。そんなしあわせな未来を、語り合って。
●君に捧げたいもの 「えーっと…、大事な子への贈り物を探しに来たんだ。でも何が喜んで貰えるか、わかんなくて……」 どこかぎこちない様子で、少年は薔薇姉妹という名の不思議生物にアドバイスを願った。 大切な子がいるけれど、まだ想いをちゃんと伝えていない。だから、伝える時が来たら一緒に贈りものをと思って。 そんな風に語るプルートに、持ち場を離れて相談を受けに来た姉妹達は何やらうっとり。 「あらぁ、可愛いわねぇ。小さな恋の始まりよぉ〜」 「初々しいわぁ〜。甘いわぁ〜」 きゃっきゃと野太くも黄色い声を上げる二人に挟まれて、ひくりとプルートの頬が引き攣る。何かをされている訳ではないが、こう、視線が痛いというか熱いというか。 (「ダメだ、心折れそうだ……。僕、君の為に頑張ってるよ……!」) 「まああれよ。女の子ならアクセサリーじゃない?」 「余り高価すぎない方がいいかも。遠慮する子はするしね」 「成程……一理あるかも」 態度はアレでも、アドバイスはきちんとする姉妹だった。
●紫石英の瞳と 「のう、ラクリマ殿。ちょっといいかえ?」 「ん、何だ、アルーンか」 ネクタイを探してか、店をうろついていたラクリマを呼び止めたアルーンは、弱り切ったような声で溜息を吐いた。 「一口にネクタイと言うても、こんなに種類があるとはのう……」 「ネクタイを探してるのか。何に合わせるんだ?」 タキシードを作ったのだとアルーンが言うと、ならばボウタイ……蝶ネクタイがいいだろうとラクリマが言う。他にもカマーバンドやサスペンダーなども必要だというから、それならと順に案内して回った。衣服だけでなく小物も揃えると、何となく自分の姿が想像出来て興味深い。 「やれやれ……少し心を入れ替えて、男物の服なども作るように致さねばならぬか。付き合ってくれて感謝じゃ」 「ま、着なれていく内に勝手が分かるもんさ。気軽にな」 アルーンの呟きに軽く笑みを添えてラクリマは答えた。
日記を書こう、そうフォーネが思いついて、日記帳とペンを求める時にアドバイスを貰おうと決めた相手はラクリマだった。意外と見つけるのは簡単だった。当人が文具店に足を運んでいたからだ。 日記と共にこれまでの回想を綴るつもりだが、初の冒険で世話になった霊査士としてラクリマは少しだけ馴染み深い存在であるし、何時も黒皮の手帳と使い込んだペンを持つ彼は、何となく文房具に詳しいイメージがあったからだ。 「昔の自分を思い出すなら……やはり、ラクリマさんは特別ですから」 「そうか。そう言って貰えると嬉しいな。俺達霊査士はお前さんや、他の奴らもそうだが……基本的冒険に送り出すだけで、冒険には加われないものだからな。仲間と言うには、少々おこがましいような気分がするもんなんだ。だが、不思議と送り出した相手は覚えていてな。勿論、フォーネの事も覚えている」 どこか懐かしそうに言うフォーネに、そんな風に言ってラクリマは笑みを浮かべた。 思い出を書いて、残すのだから丈夫に。そう考えて選んだのは、銀色のハードカバーの掛かった日記帳。 どこまで書けるかは分からないけれど……この激動の数年を、綴ってみよう。
「今、お姉様方のところでドレスを作ったのだけれどそれに合わせてネックレスを作ろうと思って」 「おいおい、俺のセンスに本当に任せる気か?」 お願いがあるのだけれど、そうペテネーラに呼び止められたラクリマは、デザインを考えて欲しいと言われて少しばかり悩んだ様子を見せる。その時、まじまじと見つめる少女にラクリマが視線を合わせるとにこりと微笑んで。 (「この方がペテネーラ様の……お優しいそうな方でよろしゅうございました」) 「ごきげんよう……初めまして」 セラフィンは楚々と挨拶を返す。聞けば、ペテネーラの義妹だという。 「好きな人が自分の為に考えてくれたアクセサリーを身に着けるって女にとって理想だと思うの……本当は、ドレスを決めて欲しかったのだけど」 そんな事を耳打ちされれば断れる訳がない。ラクリマは真面目に、今度はデザインを考える為に悩むのだった。 さて、セラフィンの方はというと、こちらもドレスに合わせてアクセサリーをと考えていた。 「少々大ぶりなものの方がよろしゅうございましょうか?」 何やら楽しそうな様子の義姉のアドバイスも取り入れ、アクセサリー店の店員にも聞くが、なかなか難しい。パーツの大きいものはまだ大人っぽ過ぎる気がするし。それはうきうきするような、嬉しい悩み。 「で、決まったの?」 ペテネーラの問いに、ああと答えたラクリマは、デザインはペテネーラのイメージを基本に、互いの瞳の色を身に着けてみたらどうだ、と提案した。ラクリマはそれを指輪にするつもりだそうだ。 「これで、何時でも一緒に居られるだろう?」
●微笑みを、あなたに なかなか顔を上げられないでいるのは、きまりの悪さを隠せないから。隠せないのは、隠す必要がない、全てを受け容れてくれる人達だからこそ。 旅団で話してくれる人、依頼で一緒になった人、ナビアで行方不明になってからずっと気にかけてくれていてくれた人、……お見合いの時に、支えになってくれた人。 ――そんな、いとしい人達に、感謝を込めて。 「なあんでも買ったげるよ。なにが欲しいー?」 ユーティスが顔を上げた時、そこにあったのは偽りのない晴れやかな笑顔。 それは合図だった。【青花】の、大好きな仲間達との楽しいお出かけの始まりだ。 「大勢でお出かけって……何気にはじめて……な気がします」 どきどきと胸を高鳴らせながらフィルフィスが呟く。素敵な仲間達とのお買い物。誰もが晴れやかで、幸せな気持ちで一杯の気持ちで秋の日を楽しんでいた。 「感謝するのは、儂の方だと思うの。いつもありがとう!」 シファは仲間達に向けて笑顔で大好きと屈託無く言って。 「ほ、ほんとーにいいのでしょか」 ケイカはおずおずと呟いたが、遠慮するのも悪いと、言葉に甘える事にして。 「うーん、どんなのがいいだろう」 「シファには長いスカートが似合うとおもいますよぅ。みなさまは探すモノ決まってらさりますか?」 シファが悩んでいるのに、お洒落着なので可愛くとケイカが強調しながら勧める傍ら(デート着だから、という言葉は必死で飲み込んだ)、仲間らの予定を聞く。それぞれ、手鏡、衣服、服飾品と、なかなかにバラエティーに富んでいた。 「ならば、折角だから皆で色々な場所を巡り、お気に入りを探そうか」 シファが提案する。もしも仲間が迷っていたら、探すのを手伝ってあげようと思いながら。 他愛のない時間が、ゆっくりと過ぎていく。けれど仲間が居れば七色の虹が心に掛かるかのように幸せ。自然に笑みがこぼれるのを、シファは厭わなかった。 「過度の節約は経済を悪くする、と言いますからね」 ラティメリアは姉からの聞きかじりの言葉をもっともらしく口にするが、姉や仲間達と穏やかに過ごせる時間を喜んでいるのは彼女も変わりない。 (「流石にもう奢りと言われて浮かれる少女じゃなくなったなぁ」) 妹のお守りにと付き添う姉のラティメリアは、己の成長に良くも悪くも達観の境地を覚え、視線の端に仲間らの姿を映しながら、のどかな秋の空を眺めた。 秋晴れ、という言葉が相応しい、綺麗に澄んだ青い空がそこにはあった。 「フィルフィスさんは何がよろしいですか?」 目にも楽しい品々を眺め、暖かな人達と時間を共有する幸福を噛み締めながら、イザはフィルフィスに尋ねる。 「ぅー。考え中……なのですよ。イザさんは……青い花の何かですか……?」 「ええ、青い花の模様が入った何かを頂きましょうか」 「じゃあ、一緒に探しましょう……?」 「ふふ、そうですね。一緒に探しましょうか」 イザは穏やかな笑みを浮かべながら頷いた。今日という一日を形に残したいと、そう強く思いながら。 ……出来ることならば、何年先、何万年経っても永遠に。
やがて街頭に火が灯る。 楽しい思い出と一緒に、それぞれ手に入れたお気に入りの品を持って、人々は家路へと急ぐ。
形に残っても、残らなくても。 今日、ここであった事は確かなかたちで心の中に刻まれるだろう。 しあわせを、感じたならば。

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参加者:20人
作成日:2009/10/02
得票数:恋愛5
ほのぼの9
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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