旅物語 思い出の場所



<オープニング>


 近くの街からは幾分か離れた、小高い丘。
 そこでは、狐尻尾の青年を中心とした五人のストライダーが、街から遊びに来た子供たちの相手をしたり、時には、旅先で知り合った孤児を引き取り世話をしたりしながら、仲良く、暮らしていた。
 だが、それは突然現れた存在によって、成す術もなく突き崩されたのだ。

「グドンの群れを退治してほしいの」
 切り出したのは霊査士のリゼル。彼女は応じるように振り返った冒険者を見渡しながら、続けた。
「敵は豚グドンが30匹ほどと、ピルグリムグドンが一匹よ。ピルグリムグドンの方は、背中にハリネズミみたいな棘があって、それを飛ばしてくるみたい」
 なるほど。敵の情報を飲み込んでから、尋ねる。
 場所は、と。
 その問いに、リゼルは表情を曇らせる。
「とある洋館よ。結構大きな館だから、蓄えが多くあったみたい。庭に畑も作ってるみたいだし。グドンも、一先ずはそこで腹ごしらえって判断かしら」
 ただ。付け加えてから、リゼルは眉をひそめ、険しい顔をした。
「館の住人の内数人が、他の人たちを護ろうとして、酷い怪我を負ったみたい。辛うじて地下に逃げ込むことができたし、奴らも餌が目的だから、今は無事。でも、彼らの血の匂いに惹かれて襲われる可能性もあるわ」
 そうでなくとも、早く救助しなければ、大事に至るだろう。
 聞きとめて、セイレーンの冒険者・レンは席を立った。
「じゃあ、すぐ行かなきゃね。姐さん、俺行くよ!」
 だが、そのまま踵を返そうとしたレンを、リゼルは引き止めて。
「もし……もしも、ね。館の大広間で戦うようなことになったら……そこにあるはずの絵画だけは、できるだけ傷つけないようにしてあげてくれないかしら」
 それが、ずいぶんな無理であることだと、霊視したリゼルは理解しているのだろう。
 それでも、言っておきたかったのだと、レンは受け取って。
「うん、判った」
 力強く、頷いた。


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参加者
蒼の閃剣・シュウ(a00014)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
蜜色の光を擁く月・アンナ(a07431)
キツネコ・サガラ(a16412)
無愛想な女スパイ・リンダ(a41513)
白闇の月・ニーヴェス(a51515)
ソルレオンの牙狩人・ゼパルパ(a74569)
黒き幻惑・クロエ(a77419)
NPC:スマイリー・レン(a90276)



<リプレイ>

 大丈夫。大丈夫だから。少年が穏やかな笑顔を浮かべて諭す。すすり泣く幼子たちを。
 その傍らでは、蒼褪めた顔をした少女が、震える指で、傷を負った者の介抱をしていた。
 ――服を裂き、傷を覆い、それでも溢れてくる鮮血を、押えることしかできなかったけれど。
「しっかりしてよ、スズリ、シリン……っ、セイン……!」
「大丈夫だよ、ソフィ姉」
「サヤ……」
 やはり、穏やかに笑いながら。少年、サヤはついと、締め切られた扉を見つめる。
「絶対、大丈夫だから」
 期待にも似た、眼差しに。
 応えるのは、乱暴に扉を叩きつける、音――。

 館に辿り着いた冒険者たちは、一先ず、屋敷の周囲を窺い、グドン、特にピルグリムグドンの存在がないかを、確認した。
 だが、予想や期待に反し、それらしい姿は、見えない。
「全員、中にいるのか……?」
「かもな。畑は既に食い尽くした、って感じだし」
 眉を寄せて呟く闇の尖兵・サガラ(a16412)に、屋敷の裏手を確認してきた蒼の閃剣・シュウ(a00014)は返す。
 荒らされ、食べかすしか残っていない畑を一瞥だけして、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は視線を館へ移す。
 躊躇っている必要も、暇もない。
「中へ、行きましょう」
 ばん――!
 開かれた扉から覗いたのは、思わず眉を寄せたくなる光景だった。
 醜い体躯を持った豚グドンが、畑同様、食べかすやまだ形のある食材を抱え、あるいは咥えながら徘徊している。
 その、泥に塗れた足跡に。点々と血の滴ったような痕を、見つけて。蜜色の光を擁く月・アンナ(a07431)はそのあとを辿るように顔を上げる。
「地下室は、奥の方にあるのでございましょう……」
 発見し辛い状況でなかったことを、素直に安堵しながらも、奥――即ち現状最も救出し難い位置に地下室が存在していることに、ほんのかすかに不安を寄せて、願い出る。
「もしも、ピルグリムグドンを早期に倒すことができましたら、わたくしを先に地下へ向かわせてくださいませんか?」
 受けて、ソルレオンの牙狩人・ゼパルパ(a74569)は即座に頷くことはせず、一先ず、目の前で冒険者の侵入に応じようとしていたグドンを斬り伏せて、足元の血に触れた。
「……ここらの血は、乾き始めているようだ。量も、少なくはないぞ」
「とにかく、急ぐ必要があるということ、だな」
 無愛想な女スパイ・リンダ(a41513)の声に頷いて、冒険者は一階の索敵を始めた。
 突入した時点で一部のグドンらはこちらの存在に気付いたのだろう。餌場を奪われてなるものかと襲い掛かってくる数匹を順に斬り捨てながら、奥へ――大広間を、目指した。
 その、時だった。無数の針が、冒険者目掛けて飛んできたのは。
「っ……これは、ピルグリムグドンの……!」
 それに対し、焦燥にも似た声を上げる白闇の月・ニーヴェス(a51515)。
 攻撃自体を特別強力だとは感じていない。だが、攻撃を仕掛けてきた対象は、方向やタイミングからして、間違いなく、大広間に布陣しているのだ。
「まずい、絵が……」
 リンダによる鎧聖降臨で防御力を底上げしたサガラは、舌打ちして大広間に飛び込むや、タクティカルムーブを展開し、その場にいたグドンの注目を自らに掻き集めた。
 続けて突入した黒き幻惑・クロエ(a77419)は、広間の正面にかけられた大きな絵画を見止めると、ざっ、と、確かめるように上から下まで眺める。
「額が少し欠けているようですが……大きな破損は見受けられません!」
「それなら、これ以上傷つけさせないようにしないと、な――!」
 一瞬の安堵に、かすかに緩めた表情を引き締め、シュウは雄叫びをあげる。
 空気を震わせるそれに、その場にいた多くのグドン、そして、ピルグリムグドンはその動きを制され、止まる。
 その拘束から逃れた者、あるいは、二階や別の部屋から騒ぎを聞きつけて現れた者へ向けては、ラジスラヴァの眠りの歌が紡がれて。事実上の無力化は、一瞬だった。
「絵には、当てないようにしないとな」
 射線に絵が重ならないように。確かめながら弓を引き、動けないグドンを順次貫いていくゼパルパに頷き、ニーヴェスは土塊の下僕を召喚しては、ピルグリムグドンの周囲に布陣させる。
 その身を以って、ピルグリムグドンの攻撃から絵を護るよう、指示をして。
 そうやって、冒険者たちが広間の絵画を護ろうとしていることに、気付いているわけでもあるまいに。ピルグリムグドンは拘束から逃れるや、即座に逃げる姿勢を見せて――背に生えた棘を、あたり一面に、飛ばした。
 全周という広範囲に及ぶその攻撃は、下僕を一蹴し、冒険者を牽制する。
 交わすことは、難しくはないのだろう。けれど、彼らはあえて、その選択を捨てた。
「くっ、この……逃がすか!」
 もとより体を呈して受け止めることを考えていたシュウをはじめとする前衛面子が一様に攻撃を受けたのを認め、アンナは即座にヒーリングウェーブを展開し、その傷を癒した。
 支援に後押しされるように、リンダ、ゼパルパは周囲のグドンを足止め、あるいは屠る。
「ちっ……邪魔だ!」
「二階へ向かったな。追うぞ」
 行動の示唆に頷きを返し、サガラは、自らに怒りを向けていたグドンを、きっ、と睨みつけると。
「因果応報。この館の住人を傷つけた以上、自分たちだけ無事で済むなどとは思うなよ?」
 急所を的確に狙い、最後の一体までを、斬り捨てて。ぐるり、周囲を見渡す。
「他に、部屋は……」
「広間までに部屋は確認してきました。私たちもこのまま二階へ行きましょう」
 応えたラジスラヴァに促されるように二階へ向かうサガラを、アンナは、一瞬、追いかけようと踏み出したのだけれど。
 ぱっ、と、手のひらで制されて。驚いたように、立ち止まった。
「地下、行って」
 にこ、と、微笑みながら、アンナをくるりと振り向かせて。スマイリー・レン(a90276)は自らも二階へ向かう。
 それを、少し不安げに見つめたが、きゅ、と拳握り締め、頷いた。
「ニーヴェス様、クロエ様。地下へ、参りましょう」
 血の痕が、点々と続いている。それを追いかけていると、どん、どん、と、何かを叩きつける音がした。
 嫌な、予感。クロエは地下への道を先行すると、その先、扉を破ろうとしているグドンへ、両手で掴みかかる。
「その扉は、開かせません!」
 一年に満たない、ランドアースでの生活。その日々を顧ることが、今日、できると思っていた。
 守れるものは守り、救えるものは救う。
 噛み締め、誰にともなく、クロエは誓うのだ。
 守るために戦い、救うためにまた戦う、と。
 どう――! 力に、思いを込めて投げ落とされたグドンは、呆気なく絶命し、床に転がる。
 そのことを、追いかけてくる敵もいないことを十分に確かめてから、急いで、扉を開ければ。
 血の匂いに満たされた、薄暗い部屋の中、館の住人と思われる者らが、揃って、冒険者を見つめていた。
「大丈夫です、助けに、来ましたよ」
「怪我をしている方は、何人いらっしゃいますか」
 にこり、安心させるように微笑むニーヴェスに、幼い子供たちは一斉に泣き出して。
 倒れている者に駆け寄ったアンナが迅速に治療を施す姿に、ソフィは血塗れの手を握り締めて、やはり、泣いた。
「ありがとう……!」
 重症らしい者は、アンナの命の抱擁で一人ひとり、確実に治療していく。その間に、ニーヴェスは他の者の傷を確認し、特に幼い子供らには、大丈夫、怖かったでしょうとしきりに囁きかけていた。
「兄ちゃんたち、死なないよね?」
「えぇ、勿論。安心してくださいね」
 そんな彼女らを、見つめて。サヤは、ほっと安堵したように息をつくと、入り口で佇んでいるクロエを、見上げる。
「館を開放するまで、グドンは決して入れませんよ」
 そんな頼もしい、言葉にも。
「うん」
 少年は気丈に、微笑んだ。

 一方、二階へ上がった冒険者たちは、そう広くもない廊下上で、ピルグリムグドンを仕留めるべく、一気に攻撃を仕掛けていた。
 ここには、気にかけるものは、何もない。
 遠慮は、要らなかった。
「あの場所から離れなければ、良かっただろうにな」
 皮肉るようなリンダの蜘蛛糸が、周囲のグドンをも巻き込んで絡めとる。
 身動きの取れないグドンらを踏み越えるように、シュウは、振りかぶった武器より、闘気を叩き込んだ。
「こいつは倍返しでお返しだっ!!」
 その一撃で朽ちたピルグリムグドンの姿を確認すると、冒険者たちはそれぞれに、二階の索敵を開始した。
「レンさんは、そこで見張っててください」
「おっけ。任せてよ」
 ラジスラヴァの指示に、びしっと応え、階段付近をうろうろと警戒するレン。
 部屋が多数あるとは言え、大広間や先の廊下で駆除した分が殆どだったため、逐一敵に出くわすようなことは、なく。ゼパルパはきりきりと引き絞った矢と同じように、意識を張り詰め、些細な物音一つにも、反応した。
(「ここまで来て逃がす訳には行かないからな」)
 と、がたん、と、棚が揺れる音がして。はっとしたように意識を向けるや、棚の影から飛び出そうとしてきたグドンを、仕留めた。
「そいつで、最後のようだな」
 一階で、大広間で、廊下で、二階で。倒した数と霊査士の言葉を照らし合わせ、念のため、全員でもう一度館中を見回って。
 打ち漏らしがないことを確認した頃には、地下の住人たちの治療も、ほぼ、終わっていた。
「んー……また、世話になっちゃったね。ありがとう」
 頬を掻き、苦笑がちに言いながら。スズリは冒険者たちに握手を求めた。
 交わした手の、その暖かさを。彼らは確かに、護ることができたのだ。

「あ、あぁ、シリン様、まだお休みになっていてくださいませ」
「そうですよ、体に障ります」
 グドンの死体は素早く始末して。率先して後片付けを行っていた冒険者の傍ら、当たり前のように動き回るシリンを、慌てたように止めるアンナとニーヴェス。
 それでも聞く気がないだろうことをいち早く悟り、ひょい、と瓦礫を取り上げると、リンダは何も言わず、表情だけで諫めた。
 対し、シリンはばつが悪そうに肩を竦める。
「お任せするばかりでは申し訳ないと、思いまして。それに……」
 つい。視線を、やる。追いかけるように、ゼパルパが同じ方向を見やったのを横目に捉え、シリンは嬉しそうに微笑んだ。
「感謝、しているんです。本当に、本当に――」
 視線の先、大広間では、絵画を前に佇むセインの姿が、あった。
 その、少し後ろから。同じように佇み、絵を眺めて。シュウは、独り言のように告げる。
「絵は詳しく判らないけどね、守れて本当に良かったよ」
 言葉通り。絵画には、傷らしい傷は一つも見受けられなかった。
 そして、リゼルが無理を押して願ったそれは、とても、美しいものだと、サガラは思った。
「本当、良かったな……」
 そんな彼らの言葉に、セインは振り返ると。
「……何故、護ろうとしてくれたんだ?」
 問う。
 きょとん、とした目で顔を見合わせた二人は、少しだけ思案してから、それぞれに応える。
「大切、なんだろ?」
「それを護るのも、冒険者の意地、というやつか」
 受けて、セインは目を丸くしたが、すぐに、微笑んだ。
 ありがとう。
 泣き声に近い、掠れた声が、小さく、それでもはっきり、囁いた。

「絵本のおねーさん」
 誰もいない部屋で。ラジスラヴァに声をかけたサヤは、彼女が微笑むのを見つけるや、抱きついた。
「っ、怖かった……怖かったよ……!」
 誰の前でも微笑んで、大丈夫と繰り返した少年は、やっと、やっと、年相応の感情に、泣いた。
 そんな彼を、そっと、抱きしめて。ラジスラヴァは囁いた。
「もう、大丈夫ですから」
 泣かないでとは、言わないまま――。


マスター:聖京 紹介ページ
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作成日:2009/10/03
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