きたるべき未来の為に:その翼を風標に



<オープニング>


●きたるべき未来の為に
「皆様、ドラゴン掃討とランドアース街道の整備、お疲れさまでした」
 エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は、そこで一呼吸置いて、本題に入った。
「皆さんの活躍で、円卓で提案されていた『やるべき事』も残り僅かとなりました。
 残る課題の中で、今回皆さんにお願いしたいのは、ランドアース大陸に残る、モンスター、ピルグリムグドン、ドラグナーを発見して倒すという仕事です。
 同盟諸国により、ランドアース大陸の列強同士の戦争はなくなりましたので、今存在するモンスターを倒してしまえば、新たなモンスターが現れる事はありません。
 ピルグリムマザーとギガンティックピルグリムが滅び、ピルグリムトロウルも存在しない今、全てのピルグリムグドンを滅ぼしてしまえば、もう二度とピルグリムが現れる事はありません。
 七体のドラゴンロードを倒し、ドラゴンの掃討も完了していますので、現在存在するドラグナーを倒してしまえば、新たなドラグナーが発生する事はありません。
 つまり、この仕事を完遂することができれば、未来永劫、同盟諸国の人々は、モンスターにもピルグリムグドンにもドラグナーにも生活を脅かされないという事なのです」
 これは、同盟諸国の未来のために、とても意義のある事なのだとユリシアは説明を続けた。
「ルラルさんの超霊視によって、ランドアースに存在する全てのモンスター、ピルグリムグドン、ドラグナーの居場所の特定が既に完了しています。つまり、インフィニティマインドでランドアース上空を巡り、ドラゴンウォリアーの力で、その全てを撃破することができるのです」
 そう言うと、ユリシアは、長大な手書きのリストを冒険者に示した。
 それは、ルラルの超霊視を元に、霊査士達が協力して完成させた、モンスター、ピルグリムグドン、ドラグナーの居場所のリストであった。
「今回は数名ずつでチームを組み、それぞれに数十箇所の敵の居場所を担当して頂きます。それぞれのチームの担当については、後ほど説明しますので、確認してくださいね」
 そう言うと、ユリシアは微笑みながら、冒険者達に一礼したのだった。

●その翼を風標に
「まず森林地帯にピルグリムグドンに率いられたグドンの群れが、四」
 どの群れも総数は五十程度の様です、と。
 淡々と。
「森に埋没し半ば崩落した遺跡内にモンスターが、百弱。心・技・体それぞれに長けた個体がほぼ同数ずつ揃っているそうです。更に……」
 エルフの霊査士・ラクウェル(a90339)が連ねる言葉はいずれも、ランドアース大陸西方の辺境地域で残存が確認された敵に関するものだ。
「……遺跡は水没した地下洞窟の入口に通じておりその奥底にはドラグナーの存在が、十。そのうち2体は他のドラグナーよりも僅かに戦闘能力が高く、能力以外に個体名も視えたそうです」
 それはおそらくドラゴン時代の通り名であろう。
 ルラルの脳裏に浮かんだのは『研ぎ鳴らす鉄粧イルンザグザ』『さざめき嗤う譚詩ガラヤベルク』。
 二つの呼称を口の端に乗せた際にだけ、かすかに、金髪の霊査士の眉根が寄せられたがそれも一瞬のこと。

「連戦ではありますが、人の足の途絶えた奥地での戦闘。ドラゴンウォリアーとしての力を存分に発揮できる状態で戦え得る皆様の敵では無いでしょう。油断だけが大敵。ですが皆様にはそのような忠告も不要のようですね」
 居並ぶ冒険者達、ひとりひとりと眼を合わせた後。
 この日はじめて、ラクウェルはふわりと微笑を見せた。
 あるいは彼女自身がまず永き争乱の終焉という歴史の節目を目前にして、緩まぬよう己を律していたのだろうか。

 世界を脅かすような脅威も大乱も、あと僅かで根すら残さずに滅び去る。
 多くの流血と落涙を呑み込みながら翔け馳せた戦いの軌跡も、あと僅かで終結を見る。
 ……その先にあるのは完璧な理想郷などでは無いだろう。だが、それでも。
 この地に息づく命たちの夢と未来が、抗う事すら叶わぬ理不尽な暴力に怯えずにすむ世界。
 それは決して無意味ではないはずだ。

「貴方がたの誓いこそがすべての、はじまり。だから……ひとつの終わりを、その手で成し遂げて来てください。その眼で余さず見届けてきて下さい」
 御武運を、と。
 風とともにこの祈りをおくるのも、きっともう、これが最後だから。


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参加者
蒼翠弓・ハジ(a26881)
鈴花雪・ソア(a32648)
落陽を纏う朱剣・レイラン(a34780)
青の焔・セイエン(a36681)
守護と慈愛の拳闘淑女・クレア(a37112)
睡郷・ユル(a46502)
紫眼の緑鱗・ボルチュ(a47504)
ペトルーシュカと三つの断章・ラグゼルヴ(a51704)


<リプレイ>

●はばたきは未来めざして
 眼下、広がる森の葉先は徐々に秋の色へと染まり始めていた。
 常ならば絶景。
 だが彼らがこの地に赴いた理由である災厄の芽はいまだ樹陰のそこかしこに潜んでいる。

「さてさて最後の大仕事。気負わずいっちょがんばりましょっかー」
 艶然と黒紗を翻して飛翔する睡郷・ユル(a46502)のゆるりとした声は朗らかですらあった。
 だが注意深く敵の姿を求める同族の金瞳の眼差しには一分の隙も無いのを、ペトルーシュカと三つの断章・ラグゼルヴ(a51704)の紅瞳は捉えていた。   
「愛する世界が、生きる人々が、望む侭、穏やかであれるよう……力を、尽くすよ」
 念入りに消音の処置が施された蔓薔薇の意匠の黒衣に外見変化は無いが、主の意図に応じて衣擦れの音すら小さく潜み、吹き抜ける風へと呑まれてゆく。
「全ては、来るべき未来のために」
 紫眼の緑鱗・ボルチュ(a47504)が唱和するかの如く自他を鼓舞する。
「明日の私達、そして未来の人々の為に、ですね」
 よりいっそう力強く守護と慈愛の拳闘淑女・クレア(a37112)が空を蹴り跳ばす。

 この方面での完全掃討作戦に集った戦士は八名。
 まずは森林地帯に点在して生息するグドンやピルグリムグドンを残らず速やかに狩り出すべく彼等は南と北の二手に分かれそれぞれが目指す地点を目指しているところだった。
「さ、翔けましょうか」
 前を往く鈴花雪・ソア(a32648)が仲間達を振り返り、笑いながら効き腕を高く、掲げた。
「オレ達の後に、安らぎを運ぶ良い風が吹きますように」

●樹上樹下の殲線
「このあたりは森が深く地上の見晴らしが効きにくいみたいですね。空中から一斉掃射した後、降下して叩くことにしましょう」
「森を傷つけず射線を確保するのにも好都合でしょうね。了解しました」
 ソアが下した判断にボルチュら他の3人が頷いた。
 蒼翠弓・ハジ(a26881)の眼が十倍の射程と威力を無駄撃ちせぬ為の配置を即座に弾き出す。こちらも心得てるとばかりラグゼルヴは既にするりと空を滑り一斉掃射に備えていた。 

「感謝を。そして……」
 翠なす風。
 深呼吸。頭布を揺らす風を身体中を満たし巡らすように吸いこみ、吐いた。
「……武運を」
 ハジの手に馴染む弓に番われた鏃が日輪の輝きを発したと同時、無数の光条が天空から地へと降り注いだ。灼き貫かれた犬グドン達は何が我が身に起こったかを知る間もなく消失してゆく。
 広大な射程の外で突然の異変を目撃した他のグドン達にも混乱や恐慌のいとまは与えられない。
「絶対に、逃がしません」
 両腕を構えた態勢からソアが繰り出した闘気の竜巻は圧倒的な破壊力でグドン達に牙を剥き、その身を千々粉々にと潰しながら蹂躙してゆく。敵の遥か射程外からの一方的な攻勢。
 この力量差の前には前衛も後衛もない。
 術士のラグゼルヴもボルチュも、ただ、一体でも多くの敵影を射程に収める点だけに心を砕いた。
 虚無と摂理の狭間から引き出した魔力の黒針が別の群れへと降り注げばそこにはもうグドンもピルグリムグドンもあったものでは無い。すべての獣頭の敵に久しく死は振り撒かれてゆく。
「撃ち漏らしだけは出さないように……行こうか」
 空から見えるグドンはあらかた絶命している。そう見て取ったラグゼルヴはRouge Meillandに覆われた指先を僅かに小さく振る動作だけで仲間を促した。地上戦へ。
 殲滅の仕上げを完璧に成し遂げる為に。

 ほぼ同時刻。
 南方面へ飛んだ4人の下の森には葉の少ない低木が広がる。これならば現在の高度を保ったまま討伐を続けてもグドンの姿を見落とす心配はないだろう。
 索敵を引き受けていたユルは仲間に高度を保ったままの一斉攻撃を指示する。
「……最後の戦か」
 引き寄せた魔炎がのたうつ黒蛇のごとく纏わり蠢きながら青の焔・セイエン(a36681)の全身を覆い、力で満たしてゆく。
「ならば往こう、翼の赴くまま」
 まずは前哨戦。危険は皆無だがそれは自分達だけの話。グドンの繁殖力と一般人への脅威を思えば、一体でも取り逃したらそれは自分達の敗北だ。
「弱いもの虐めは嫌いだけど……こればっかりは、ね」
「ええ、見逃す訳には参りません。私達の護りたいものを脅かす存在であるならば」 
 この剣を取り、戦おう。最後まで。
 凛と迷いの無い女戦士の横顔。クレアの呟きに同調しながら落陽を纏う朱剣・レイラン(a34780)は鞘を握る手に一瞬力を篭めた後、すらりと白刃を抜き放った。
 ユルが猿頭のグドンの群れを捉え仲間に告げれば、ドラゴンすら討ち果たす戦士達の力が一斉に火を噴く。哀れな豚頭グドン達の抵抗も逃亡もかなう筈が無い。

 二班ともに森を縦横に駆けての二連戦。
 だがまったく危なげない戦いで戦士達は勝利し、この森からはグドンもピルグリムグドンの姿も完全に絶えたのであった。

●朽ちはてゆくもの
「あれが遺跡……」
 今やモンスターの巣窟。かつて如何なる種族の手になる何の為の施設だったのか。
 幼少よりリザードマンの戦士として列強戦争に身を置き続けたボルチュはその怜悧な紫の双眸の奥に微量、巧く説明の出来ぬ熱が宿るのを感じながら飛翔を続けた。
 朽ちかけた廃遺跡はグドン戦途中の移動の合間にも空を駆ける彼らの目の端に時折映っていた。
 石造りの建造物は存外に広く重厚だったが半ば砂利や苔に覆われ、内部も荒れ放題。
 物見塔だったらしき箇所に至っては完全に崩落している様子だった。
「さて、ここから先は一人10体がノルマですね」
 さらりと明るくクレアが言ってのけたのは無論モンスター討伐についてだ。
 遺跡内を三班に分かれて探索を行い、各班それぞれモンスター約30体討った時点でいったん水路入口を目指す。
「……妥当な数字だな。再合流の目安にも、為る……」
 ぽつり、ぽつりと噛みしめる様に一言ずつ。
 至極堅真面目な面持ちで思案した後にセイエンが頷いて答えた。

 紡がれたのは、揺籃歌。
 戦場には場違いな歌声はこの墓標の様な遺跡を無秩序な暴力から守る為。
「まぁ天井がちょっと心もとない事になってますからね、この部屋」
 ユルの眠りの歌が巨大な生首のようなモンスター3体の動きを抑え、床へと沈めた。
「ご配慮、感謝しますユルさん。 ……今の内に一気に仕留めてしまいましょう」
 レイランが律儀に小さくお辞儀した後に容赦なく敵に刃を突きたてる。眼球の無い蛇竜の両手杖を無言で翳し、セイランがほぼ同時にの炎を浴びせると同時、巨大生首は跡形もなく消え失せた。
 杖飾りの蛇頭の眼窩で紫光が冥く仄光る。

 崩れかかった回廊を縦に挟んで遥か向こうで蠢くモンスターの影がひとつ。
 見敵必殺。ハジの射撃は狙い違わずその胸を射抜いて仕留めた。
「通路の狭さも瓦礫の山もこういう時には大助かりですね♪」
「……確かに」
 ハジとクレアの組は三班の中で唯一の2名編成。
 だが身軽な素手戦闘を得意とし遠近自在の武道家と300m射程を自在に射貫く牙狩人の組み合わせの前に人数ハンディなど有って無いようなもの。
「これなら俺達の回復アビリティはそのまま温存できそうですね」
 ハジの言葉通り彼の静謐の祈りもクレアのガッツソングもここ迄一度たりとも使用されていない。
 極めて順調に探索は進んでいた。

「……32」
「我々の持ち場はこれでほぼ廻り切った筈ですね」
 仕留めた敵の数を数えながら探索と討伐を繰り返すラグゼルヴの肩を叩いてボルチュが声を掛けた。彼らとソアは、狭処で遭遇した敵はひらけた大広間のような空間におびき出しては確実に討ってきた。ただ三十二体目の巨大芋虫のような姿のモンスターは最初に出会った場所から離れようとはせず最終的にはソアが殴り臥せて倒した処だった。
「何か、思い入れのある場所だったんでしょうか……」
 ソアが幾ら見回してもそこにあるのは石壁と石床だけ。だが立ち止まっては居られない。
 最後の仕上げ、水路入口で集合する手筈になっている仲間達と共にドラグナーを倒す大仕事がまだ残っているのだから。

●いやはての戦
「人間ドモ! こんナところにマデ!?」
 全身に紅蓮の炎を纏う灰外套の老婆がウォリアー達の接近に気付いたが、遅い。
 稲妻を纏う斬撃が、有無を言わさぬ拳圧が、破壊の摂理を封じた紋章印が。
 ただ最も近い場所にまどろんでいただけの運の悪いドラグナーを一体、早々に葬り去った。
 残り、9体。
 水中活動も暗所もドラゴンウォリアーの苦とは全くならず。彼等は遂に討つべき敵達と対峙した。

「バッカみたい〜♪」
 それは不運な仲間に向けてか遠路はるばる討伐に赴いた戦士達の足労に対してか。
 一糸纏わぬ可憐な美少女ドラグナー・ガラヤベルクは黙ってさえいればさながら薄桃の水中花。だが唄うが如く、と表現すれば嘘では無いがやや美化にあたる妙な節回しに乗せての喋りがすべてを台無しにしている。それでもこの場に潜伏していたドラグナー達のリーダー格のひとりだ。
 ゆらりと水晶薔薇を揺蕩わせ、舞うような動作で弦の束を揺らせばそれはそのまま心身を侵す甘き禍曲へ。だがピラーの加護を受けるハジがすぐさま祈りを捧げ致命的な戦線崩壊には繋がらない。

 赤銅色の蜘蛛足が蠢く都度、がしゃりがしゃりと甲冑音が鳴り響く。
 もう一体のリーダー格であるイルンザグザは特に体躯に優れたドラグナー3体を引き連れ、大盾を押し立てるようにして前を引き受けウォリアー達と斬り結んでいた。
「……貴様らは、解せぬ」
「え?」
 飛びかかったソアの指天殺を漆黒の完全防御で凌ぎながらイルンザグザは言葉を続けた。自身の鉄壁を更に強固なものとする能力に長けるようだが幸い、他の味方へと付与できるものでは無い様だ。
「貴様らが弱敵である内に滅ぼし切れなんだは我らが失策であった。故に残党の徒を根こそぎ狩り尽くすべしという考えは、解る。しかし……」
「随分と窮屈な首輪付きで力を得たてめぇらだ。俺たちみてぇな『脅威』はとりあえず残しておいた方が後々まで安心なんじゃねぇのか?」
「いつ掌返されて走狗煮られるかって怯えながら顔色窺いせずに済むわよ……フフ」
 イルンザグザの問いに割って入ったのは漆黒の巨大クラゲの中央に金髪の青年の首を据えた外見の個体と、紅狼の上半身と蠍の下半身を持つ女性体らしき個体のドラグナー。
 純粋な疑問をぶつけてきているらしきイルンザグザとは違いこちらはただ命乞いの芽に喰いついてきただけだろう。
 笑止そもそも既に脅威ですらないと明王剣を振るい、ボルチュは回復術の使い手であるクラゲ型に銀狼の牙を噛み浴びせた。

(「俺は元来邪竜導士、敵を屠ることこそ任なのだろうが……」)
 多数対多数の乱戦下、味方に蓄積しつつある傷を癒しの光で取り除くセイエン。
 一体化した片身の青蛇は、確かにこの胸の内にわだつみの焔を灯し、後押ししてくれている。
「回復は任せろ。だから存分に敵を倒してくれ」
 常は表情に乏しい印象の褐色蒼髪の青年。
 だがこの時、仲間の誰もが鼓舞の台詞にこめられた彼の想いを熱く受け止めた。

「生殺与奪を握られているならばともかく他者の為に戦うなど愚者の行い。だが貴様らが愚者とも思えぬのだ。何故だ」
「……理解に苦しむのはお互い様ですわね」
 歪んだ知恵と力はそんな簡単な事すら視えなくしてしまうのか。
 レイランは剣を真一文字、横に薙ぎ払った。水ごと断ち斬る流水の一閃は、ダメージの半ばを無効化されはするが効果的な全体牽制として度々威力を発揮していた。
 呼吸を合わせ仲間達が渾身の術と剣で畳みかければ体力に劣るドラグナーが4体次々に討ち取られ水底へと消える。
「今が大事。遠い未来もまた輝かしくあればとは思いますけれど。それ以上に、今、大好きな皆さんと幸せで居たいです」
「そんなの脆弱さの言い訳でしょ! 塵芥同士馴れ合ってなきゃロクに生きてゆけもしないくせに」
 必死の逃亡もクレアの豪快な投げ技に阻まれ満身創痍。自棄気味に狼頭蠍尾のドラグナーは喚いた。
「御尤も御尤も。馴れ合いまくってますよぉー私たちー」
 でも塵芥同士馴れ合う事すらできなかった脆弱さに比べればマシなんじゃないでしょうかねぇと。
 ユルはこの上なく典雅な微笑で横合いから燃え盛る黒炎弾を叩きつけた。

「世の争乱も終幕だよ。君達も祝福すれば良い」
 風を断ち、未来を遮る存在は……今此処で潰えるんだから。
 纏う薄桃に朱を滲ませ肩で息する『少女』にラグゼルヴがたむけた言葉と引導の一撃。
 魅了の弦が戦士達には有効打たり得ないと悟って以降は後ろに下がり回復役に専念していたガラヤベルクだったがドラゴンウォリアーの射程の前には手下達の壁も殆ど意味を成さなかった。
「『自分』と『自分以外』が在るかぎり、戦いも敵も悪も、失くなるワケないじゃない〜?」
 漆黒の魔手がどれ程手酷く薔薇を散らそうとも異形はクスクス笑いを絶やさず悪態を囀る。だが防護を奪われた華奢な白い喉をハジのホーミングアローが深々と射貫いた。
「……バカ……ねぇ〜……♪」
 その一言と水晶の破片をばら撒きながら薄桃の娘は静かに深淵へと沈んでいった。
 
 前衛ドラグナー3体も既に討ち取られ、残る敵はイルンザグザのみ。
 高い体力と防御力、元ドラゴンの意地をもって単騎ながら数合踏み留まりはしたが既に勝敗は決していた。ソアとクレア、武道家二人の左右からの同時攻撃が『研ぎ鳴らす鉄粧』の命を砕いた。
「風を、呼ぶために」
「貴方達を放置しておくわけには行きません!」
 たとえ今は無害でもと続いたクレアの言葉に甲冑から思わず洩れた最期の笑いは、自嘲だろうか。

●風
 戦い終えた戦士達は水路を引き返し、廃遺跡の屋根の大穴を抜けて外へと到る。
「もはや地上にモンスターの姿なく、新たに生まれることもない。長き戦いの日々よ……さらば!」
 道中横たわる遺骸を眼に留めたボルチュは高らかに平和を謳いあげた。
 帰還の為に再び大地から大空へと舞い上がればなつかしい陽の光と風が頬の上に戻る。
「お疲れ様でした」
 冒険者となってから常に共に戦い抜いてきた一振りの剣を抱くようにしてレイランはそう口にした。
 この剣の名とかつての使い手にかけて誓った、護る強さ。
(「護れたでしょうか、私も……」)

「私たちの仕事は、これで終わりかな」
 ぽつんと呟かれたクレアの言葉にハジもこれからに想い馳せ、沈思せずにはいられなかった。
(「俺に出来ることは……何があるだろう? 」)
 はてなくまっさらに広がる前途を見つめ始めた少年を包む風はただ、優しい。
「今日でサヨナラですよ。未来に風を、通してくださいね 」
 誇らしげにぴぃんと。ソアの白虎尾が秋の風を受けて躍る。

 世界は光に満ちている。そして風も、決して止むことはないだろう。
 貴方たち自身の飛翔しつづける魂の翼こそが、無限に拡がる想いだけが。
 貴方達の行く末の風しるべとなるのだから。


マスター:銀條彦 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2009/10/10
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