お疲れBBQ〜また会う日まで〜



<オープニング>


 グヴェンドリン城塞の団長室に、この地で見つけた絵画――『グリモアと短剣符』と描きかけらしい『王の肖像』、そして、神鉄の聖域を護っていた東方ソルレオン時代の団長『峻しき雷神』の肖像画――3枚を壁に飾り付けた藍玉の霊査士・アリス(a90066)は、踏み台にしていた椅子の上で「ふぅ……」と息をついた。
「これでいいかしら?」
 椅子から降りてみて自問すると、「いいわね」と満足そうに笑みを零す。
 今度は、『移動』ではなくて、『解散』だから。やはり、これまでとは気分も違った。
 ここでの最後の1日。
 寂しいような気がするのは、住み慣れた場所を離れるから。
 冴え冴えしい気持ちになるのは、新たな出発になるとも言えるから。
 護衛士だった皆に、最後に伝える言葉は決まっている。さよならの代わりに、「また会う日まで」と。
「こちらでしたか。遅いので呼びに来ましたよ? もう始まります」
「あら、ごめんなさい。最後の仕上げをしていたの」
 呼びに来た護衛士に、アリスは絵画を指して応えると、もう1度だけその絵を見渡して団長室を出た。
「今日は楽しく過ごしましょう!」
 にっこり笑って言うと、彼女は先に立って、皆の集まる広場へと降りて行った。


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参加者
NPC:藍玉の霊査士・アリス(a90066)



<リプレイ>

(「しっかし、男が多いな」)
 テント設営された会場をぐるりと見回し、そんなことを思っていたニュー・ダグラス(a02103)に、「きゃーっ」と叫びながら女の子と犬が突進して来た。藍玉の霊査士・アリス(a90066)の養女・フェリシアと愛犬・ハウザーだ。
「フェリシア、走り回っては危ないぞ」
 アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)が注意しているが、まるで聞いちゃいない。
「お?」
 にっかと漢笑いで出迎えてやったダグラスの懐へ、そのまま突撃。
「ハム〜っ!」
 目的は、懐から顔を覗かせていたハムスターらしい。たっぷり撫でくりした後、フェリシアは今気付いたというように顔を上げ、「おじちゃん、誰?」とか聞いた。
「……」
 漢笑いがしばらく凍る。バルモルトなど、『バルおじちゃん』と呼ばれて久しい訳だが。
「ぶ……っ」
 堪えきれていない笑いは、氷輪の影・サンタナ(a03094)。
「『おじちゃん』だそうじゃ、『おじちゃん』っ」
 グヴェンドリンのノソリン・バニラのふにふに耳越しに大笑い。人参片手に別れを惜しんでいたはずなのに、そんな空気は消し飛んだ。
 バニラは問うようになぁ〜んと鳴く。いや、ノソリン車で月吼・ディーン(a03486)が到着したからか。
「何だか大荷物ですね」
 鉄板や野菜、ジュース用に用意して来た果物など、荷台に乗った物を見て言う美しい花を見守る白雲・フラレ(a42669)に、「ポイントはそこじゃない」とディーンは笑い返す。
 この地に来た当初を思い起こせば、乗り換えノソリンが調達出来ただけでも驚きだ。いずれは人を乗せて行き来できたら――と考えている。
「近いうちに、乗合ノソリン車も出来るか?」
「乗合ノソリン車?」
 鉄板の設置を始めたディーンの言葉に、フラレの尾羽がピクリと反応する。
「それは良案ですね。是非、グヴェンドINNに併設しましょう」
 隠居したら宿屋をやる予定なんですよ、と笑うフラレ。
「隠居ねぇ」
 ディーンはつい唸る。
 桜・フィリス(a18195)や忘却と喪失の狭間で揺れる狂気・バサラ(a36130)、心の震える歌を・ブリジット(a17981)、それに、何か一生懸命に描いている気ままに・エーテル(a18106)といった面々が目に付き、歳を取った自分の周りで、ぼんやり漂っているエーテルが思い浮かんでしまったのだ。
「……」
 否。今、目の前をブリジットが漂って行った……。
 いっそエンジェルも、聖鳩とかにクラスチェンジする奴がいれば面白いのに……とか思う。
「ダメですかね?」
 その様子を否定と受け取って、フラレは肩を落とす。
「そういう訳じゃ……」
「お前らが隠居って、何年先の話だ? チキンレッグの年齢はいまいち分からんが。フラレは俺より若いんじゃないのか?」
 2人の話を聞きつけた灰色の岩山・ワング(a48598)は豪快に笑う。
「それを言ったら、リザードマンもいまいち……」
 呟きに、再び「わははっ」と笑うワングの背負子には、『フォアグラーとギタギタバニーの詰め合わせ』がこんもりと積まれていた。
「野菜分が足りないと思って持って来たよ〜!」
 ワングにバトンタッチしに来たのはバサラ。ドカッ、ドスッと、地響きにも似た音が立ったのは、下ろした荷物があまりに重かったから。
「仕入れに、ワイルドファイアまでひとっ飛びして来たよ」
 中身は、朝採れ野菜とマンモー肉。それに、セイレーン領で仕入れたという酒。
 肉は他にも用意している者がいたし、変わりどころでは、血に餓えし者・ジェイコブ(a02128)の羊肉もあった。
 野菜は、バサラが用意した朝採れ野菜が幅をきかせ、米や焼きそばを用意した貪欲ナル闇・ショウ(a27215)や月にうさぎ月夜に黒猫・タンゴ(a36142)達の御陰で、主食までしっかり揃ったメニューになりそうだ。
 酒も、アリスの用意した分に、喰えない老人・ジュラン(a01956)のアイギス土産にも葡萄酒があり、フィリス達も追加していて、数は足り……ると思う。
「やはり、果物持参にして正解でした」
 揃った食材などを見回して、ニードルスピアフルバースト・ユーリ(a42503)は息をつく。
 ――と、業の刻印・ヴァイス(a06493)の持参した物が目に付いた。
「それは鍋ですか?」
 それもかなり大きい。
「ああ、これはほら……」
 中に詰め込んでいた干し肉や干し魚、干し芋をゴソゴソと取り出すと、ヴァイスは「ちょうど良いサイズだろ?」と言う。
 もちろん、人数分の鍋料理にだが。
「鍋用の肉はアレで足りるにゃ。もう非常食も必要ないにゃしね」
 ブラック化したタンゴが腕捲りすると、ディーン達と話し込んでいたフラレがビクリと周囲を見回した。
 フラレーっ 後ろ、後ろーっ!
「知らなかったぜ。フラレが非常食扱いだったなんて……。同じ釜の飯食ったからって、情が移らないようにしないといけなかったのか」
 ぷっと吹き出しそうなのを堪えながら、闇色の・モニカ(a46747)が言う。
「大丈夫。出汁が取れた頃には、ちゃんと命の抱擁で介抱してやるぜ?」
 医術士らしく微笑みなんか浮かべてみるが、こういうのを、悪魔の微笑みと言うのだろう。
 傍で聞いていて、思わずフッと笑ってしまったショウの笑みが、凄みに見えて、フラレは滂沱。一瞬、本気で仲間達との友情を疑った。
「私は具材ではないですっ!」
 大丈夫。何となく安全な方向は分かるから! 間違っても、捕まりそうなヴァイスとかディーンとかショウの方に逃げてはいけないってことだ!
 ――と、泣き脱兎したその先に。
「案外、気持ちいいかもしれないぜ? 鍋風呂」
 笑顔でそんなことを言う赫髪の・ゼイム(a11790)が居たのは計算違い。
 逃げてーっ 全力で逃げてーっ!

 で。散々からかわれた彼が、しばらく鉄鍋に籠もって拗ねていた頃。
 ディーンはお好み焼きを作り始め、ミルクプリン・フィフス(a26735)やワング達はバーベキューの下準備を進める。
 肉と野菜を串に刺して、タレに塩胡椒、香草風味を用意していく。
「あんまり料理は得意じゃないけど、切って串に刺すくらいはボクでも出来そうにゃ。鋼糸でスパッ! と……」
 やろうとしたタンゴの手を、瞳を潤ませ、はっしと止めるフィフス。
「え? ダメにゃ?」
「やるならこう、丁寧にサクサクと……」
 出来るフリして手伝っているサンタナの手元には、きれいに繋がった肉。こっちも残念な結果のようだ。
 2人とも、手伝っているのか邪魔しているのか分からない。サンタナに至っては、玉葱や南瓜をそのまま網にのせ出した。
「なぁ〜ん……」
 救いを求めて肉を焼き始めたワングを見つめていると、「ん?」と気付いたように視線を落とされた。
「……お前、それはねぇだろ?」
「はぅ?」
 言われてハッと隣りを見ると、既にサンタナの姿はどこにもない。ワングは丸ごと玉葱&南瓜焼きを、フィフスの仕業と思ったらしい。
「ち、違うなぁ〜んっ! これは、サンタナさんがやったなぁ〜んっ」
 いきなりの濡れ衣に、脱兎するヒトノソリン。
「泣かしたにゃ……」
 まだちょっとブラックなタンゴの呟きに、ワングは「えっ?」と視線を泳がせた。
「俺か? 俺が悪いのか?」
 いや違うから。ちっちゃいことは気にするな。うん。
「ところで。……お肉が焼けてるにゃ」
 ブラック・タンゴ、さすがに自分も食べる肉の焼き加減は見逃さない。
「おっと! 皆、ガンガン喰って、今日は楽しく行こうや!」
「よっしゃーっ!」
 据え膳待ちのゼイムが1番乗り。
「ゼイム! お前、食うだけかよっ」
 負けてなるものかとモニカが箸を出し、さっそく始まる肉争奪戦。
「これも焼いてくれよっ マンモー肉!」
「任せるなぁ〜ん!」
 マンモーと聞いて、濡れ衣ショックから立ち直ったらしいフィフスが、追加の皿を手にUターン。
「ケーキ焼いておいたなぁ〜ん」
 追加皿には、アップルパイに栗を使ったロールケーキ、紅茶のシフォンケーキ等が並んでいる。
 そして、バサラのリクエストに応え、フィフスはマンモー肉を炙り始めた。
「フィフス、おまえってばえらいっ!」
「はわぁ〜」
 感激しているのは、酒を飲んでみたいが飲めない年頃のモニカやブリジット達。ディーンが作ってくれたミックスジュースを片手に、ケーキを品定めしている。
「……肉の後に、それまで食べるのか?」
 尋ねるゼイムに、
「甘い物は別腹っ」
「別腹ですぅ〜」
 少女2人は、揃って同じことを言った。

「ぎゃーっ!」
「「「???」」」
 突然の悲鳴に、思い思いに肉やお好み焼きを突付いていた皆の箸が止まる。
「「「え?」」」
 見ると、火にかけられた鉄鍋の傍で、葱を片手にさめざめと泣いているフラレがいる。
「酷いですっ 具まで盛って、本当に火を入れるなんてっ」
「「「は?」」」
 さすがに、本当に煮るつもりはなかったから、誰も身に覚えが無い。
「具を入れたのはわたしですけどぉ〜」
 鉄鍋には干し芋や林檎まで入っていたが。とにかく、ブリジットは火までは点けていないようだ。
「……あのぅ」
 おずおずと言い挿したのは、集まる皆の視線にどぎまぎしているアリス。
「ごめんなさい。お鍋が掛かってるのに、火が点いてなかったから……その、さっき点けて置いたのよ」
「「「!!」」」
「……っ」
 暫く思考停止したフラレ。彼の流した滝の涙が、鍋の出汁になっているとかいないとか。
「アリスさん〜っ」
 ユーリが苦笑いしながらツッコみ、影縫いでも撃たれたかのように固まっている仲間を宥めていると、再びお祭騒ぎが戻って来る。
「らしいというか、何と言うか……」
 小さく笑ったフィリスは、まだおろおろしているアリスを手招いた。
 周りには、何とかフェリシアを大人しくさせたバルモルトと、ジェイコブやヴァイス、ショウ、護りの黒狼・ライナス(a90050)や護りの魔箭・クウガ(a90135)達が集まっていて、ゆっくり箸を進めている。
 ここは、さしずめ大人の飲み会テーブル。
「食後は果物をどうぞ」
 梨に林檎、蜜柑の盛り合わせを差し出したユーリにも、グラスが回ってくる。 
「お疲れ様じゃ。アリス嬢ちゃんも綺麗になったのぉ。おぉ、いつの間にか子供まで儲けておって。わしも歳を取るわけじゃ」
 ジュランの言い草に、アリスは頬を染める。
「この子は養い子よ。フェリシアというの」
「子供の前に、結婚だよなぁ?」
「いつ式を挙げるんだ?」
 耳聡いゼイムやダグラスが茶化しに来て、「いつでも準備は万端だが」とバルモルトまでが言うと、アリスはますます頬を赤くした。
「人のことを気にしておる場合かえ?」
 ふぅ、とサンタナの嘆息が聞こえたりもしたが。
「でも、忙しくて、デートとかあまりしてなかったから。先に、星凛祭とか約束の木とか、行ってみたいわ」
 きゃっ とか言って照れるアリスは、少し酔っている様子。聞いたその場の全員が、砂を吐きそうな顔をした。
「若いのぅ ふぉふぉっ」
 ジュランが受け流せるのは、年の功。

「……ま、とにかくお疲れ様だ。俺達が必要なくなるというのは良いことだろうが、寂しい気はするな。新たな始まりの為となれば仕方ないか」
 思い出話や酔い醒ましを始めていた場に響くショウの声には、ふと耳を打たれるようなものがあった。
 感慨深げに酒を煽る彼に、皆は同意するように小さくグラスを掲げて見せる。
「お疲れさん」
「お疲れ様でした」
「護衛士やれて良かった」
 ゼイムやフラレ、モニカが微笑む傍らで、「しかし」とジェイコブが言を継ぐ。
「戦に生きた冒険者が、変革を迎えた世界でどうあるべきか。正直、私は戸惑っている」
「平和は、これから維持して行く方が大変なんだと思うよ。だから、そのために……俺は誓いの儀式を決して忘れない」
 そう返すのはヴァイス。
 『ひとつ、自らの民を守り、助ける為の努力を怠らないこと。ひとつ、自らの力を高めるべく努力すること』――2つの誓いが、これからも冒険者である自分達を導く道標となるはずだった。
「星の世界の探索で、まだ暫くは倒すべき敵がいそうだがな」
「お、ジェイコブも行くのか?」
 遅れ馳せながら、肉を突っつくディーン。
「当分会えないかも知れないし、アリスにも今まで世話になった礼を言っておくよ」
 軽く言うと、「えええ?」と驚愕の声が上がった。クウガだ。
 師匠と仰いでいるジェイコブの選択にうろたえている。自分も行く、とは即答出来ない彼に、ジェイコブは「自分で選べ」と最後の試練? を与えていた。
「気をつけてね」
 星の海は果ての知れない世界。さすがに、アリスは心配そうな表情を浮かべたが。
「まあ、皆、どこへ行っても達者でな」
 餞にそれだけを贈るショウを見て、気を引き締め直した。
「また会えますよ」
 フィリスが微笑してアリスに告げると、ショウやヴァイス達も頷く。
「共に戦った日々は宝だよ。俺も、これから世界を見て回るつもりだが、またここに戻って来る」
「私もです。グヴェンドリンも、エルドールも、誰が忘れようと決して忘れません」
 今は永久の別れではないから。
 誰もが思う言葉は同じ。――また会う日まで、と。

 最後のシメは、キャンプファイヤー。
 マシュマロ焼きを配って回っていたモニカが、煌々とした灯りの中にアリスを見つけ、小走りにやって来た。
「はいっ アリスにはこれなっ」
 ぬっと差し出されたプリンに、こっそりフィリスの髪の桜を摘もうとしていたアリスは、大仰にビックリする。
「きゃっ」
「あれ? ビックリさせた?」
「何か悪さしてたにょ?」
 タンゴにも言われ誤魔化そうとしたけれど、アリスの手にはしっかり桜の花。
「おや? 花なら薔薇が摘み放題でしょうに」
 気付いたフィリスの揶揄に、「薔薇以外は頬擦り出来ないもの」とまた砂を吐かせるような台詞を返すアリス。
 本当はエーテルの羽も1本欲しいとか、ショウのオフ伊達眼鏡姿が見たいとか、バサラの髪に手櫛しとか……色々企んでいたのは秘密だ。
「あっ アリス様! お引越し先はどこですか? 会いに行ってもいい?」
 エンジェルの特権? で抱き付いて尋ねるエーテル。と、一緒に飛び込むモニカ。
「ずるいっ 俺もっ!」
 それでいいのかと、ツッコんでいるのは、当人達以外のほぼ全員だったが。
「えーと。1度は旧同盟領に戻って。その後は、やっぱりドリアッド領かしら」
 2人分の重さにちょっと困りながら、アリスは言う。が、何故ドリアッド領かは、もう誰も聞かない。
 それに、エーテルには大事な頼みごともあったから。
「(砦に、皆の集合絵とか……飾ってもいいですか?)」
 エーテルは小声でこそっと尋ねる。先ほどから描いていたのは、その絵なのだ。
 ここに素敵な人達がいたことを知って欲しい。仲間達が帰って来た時、何かあっても、ここで頑張った時を思い出せるように。
「もちろんよ」
 にっこり返されたエーテルは、小躍りして団長室へ向かったのだった。

 『また会う日まで』と、集合絵の額縁裏に小さく書き込んで……。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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参加者:19人
作成日:2009/10/18
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