<リプレイ>
(「しっかし、男が多いな」) テント設営された会場をぐるりと見回し、そんなことを思っていたニュー・ダグラス(a02103)に、「きゃーっ」と叫びながら女の子と犬が突進して来た。藍玉の霊査士・アリス(a90066)の養女・フェリシアと愛犬・ハウザーだ。 「フェリシア、走り回っては危ないぞ」 アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)が注意しているが、まるで聞いちゃいない。 「お?」 にっかと漢笑いで出迎えてやったダグラスの懐へ、そのまま突撃。 「ハム〜っ!」 目的は、懐から顔を覗かせていたハムスターらしい。たっぷり撫でくりした後、フェリシアは今気付いたというように顔を上げ、「おじちゃん、誰?」とか聞いた。 「……」 漢笑いがしばらく凍る。バルモルトなど、『バルおじちゃん』と呼ばれて久しい訳だが。 「ぶ……っ」 堪えきれていない笑いは、氷輪の影・サンタナ(a03094)。 「『おじちゃん』だそうじゃ、『おじちゃん』っ」 グヴェンドリンのノソリン・バニラのふにふに耳越しに大笑い。人参片手に別れを惜しんでいたはずなのに、そんな空気は消し飛んだ。 バニラは問うようになぁ〜んと鳴く。いや、ノソリン車で月吼・ディーン(a03486)が到着したからか。 「何だか大荷物ですね」 鉄板や野菜、ジュース用に用意して来た果物など、荷台に乗った物を見て言う美しい花を見守る白雲・フラレ(a42669)に、「ポイントはそこじゃない」とディーンは笑い返す。 この地に来た当初を思い起こせば、乗り換えノソリンが調達出来ただけでも驚きだ。いずれは人を乗せて行き来できたら――と考えている。 「近いうちに、乗合ノソリン車も出来るか?」 「乗合ノソリン車?」 鉄板の設置を始めたディーンの言葉に、フラレの尾羽がピクリと反応する。 「それは良案ですね。是非、グヴェンドINNに併設しましょう」 隠居したら宿屋をやる予定なんですよ、と笑うフラレ。 「隠居ねぇ」 ディーンはつい唸る。 桜・フィリス(a18195)や忘却と喪失の狭間で揺れる狂気・バサラ(a36130)、心の震える歌を・ブリジット(a17981)、それに、何か一生懸命に描いている気ままに・エーテル(a18106)といった面々が目に付き、歳を取った自分の周りで、ぼんやり漂っているエーテルが思い浮かんでしまったのだ。 「……」 否。今、目の前をブリジットが漂って行った……。 いっそエンジェルも、聖鳩とかにクラスチェンジする奴がいれば面白いのに……とか思う。 「ダメですかね?」 その様子を否定と受け取って、フラレは肩を落とす。 「そういう訳じゃ……」 「お前らが隠居って、何年先の話だ? チキンレッグの年齢はいまいち分からんが。フラレは俺より若いんじゃないのか?」 2人の話を聞きつけた灰色の岩山・ワング(a48598)は豪快に笑う。 「それを言ったら、リザードマンもいまいち……」 呟きに、再び「わははっ」と笑うワングの背負子には、『フォアグラーとギタギタバニーの詰め合わせ』がこんもりと積まれていた。 「野菜分が足りないと思って持って来たよ〜!」 ワングにバトンタッチしに来たのはバサラ。ドカッ、ドスッと、地響きにも似た音が立ったのは、下ろした荷物があまりに重かったから。 「仕入れに、ワイルドファイアまでひとっ飛びして来たよ」 中身は、朝採れ野菜とマンモー肉。それに、セイレーン領で仕入れたという酒。 肉は他にも用意している者がいたし、変わりどころでは、血に餓えし者・ジェイコブ(a02128)の羊肉もあった。 野菜は、バサラが用意した朝採れ野菜が幅をきかせ、米や焼きそばを用意した貪欲ナル闇・ショウ(a27215)や月にうさぎ月夜に黒猫・タンゴ(a36142)達の御陰で、主食までしっかり揃ったメニューになりそうだ。 酒も、アリスの用意した分に、喰えない老人・ジュラン(a01956)のアイギス土産にも葡萄酒があり、フィリス達も追加していて、数は足り……ると思う。 「やはり、果物持参にして正解でした」 揃った食材などを見回して、ニードルスピアフルバースト・ユーリ(a42503)は息をつく。 ――と、業の刻印・ヴァイス(a06493)の持参した物が目に付いた。 「それは鍋ですか?」 それもかなり大きい。 「ああ、これはほら……」 中に詰め込んでいた干し肉や干し魚、干し芋をゴソゴソと取り出すと、ヴァイスは「ちょうど良いサイズだろ?」と言う。 もちろん、人数分の鍋料理にだが。 「鍋用の肉はアレで足りるにゃ。もう非常食も必要ないにゃしね」 ブラック化したタンゴが腕捲りすると、ディーン達と話し込んでいたフラレがビクリと周囲を見回した。 フラレーっ 後ろ、後ろーっ! 「知らなかったぜ。フラレが非常食扱いだったなんて……。同じ釜の飯食ったからって、情が移らないようにしないといけなかったのか」 ぷっと吹き出しそうなのを堪えながら、闇色の・モニカ(a46747)が言う。 「大丈夫。出汁が取れた頃には、ちゃんと命の抱擁で介抱してやるぜ?」 医術士らしく微笑みなんか浮かべてみるが、こういうのを、悪魔の微笑みと言うのだろう。 傍で聞いていて、思わずフッと笑ってしまったショウの笑みが、凄みに見えて、フラレは滂沱。一瞬、本気で仲間達との友情を疑った。 「私は具材ではないですっ!」 大丈夫。何となく安全な方向は分かるから! 間違っても、捕まりそうなヴァイスとかディーンとかショウの方に逃げてはいけないってことだ! ――と、泣き脱兎したその先に。 「案外、気持ちいいかもしれないぜ? 鍋風呂」 笑顔でそんなことを言う赫髪の・ゼイム(a11790)が居たのは計算違い。 逃げてーっ 全力で逃げてーっ!
で。散々からかわれた彼が、しばらく鉄鍋に籠もって拗ねていた頃。 ディーンはお好み焼きを作り始め、ミルクプリン・フィフス(a26735)やワング達はバーベキューの下準備を進める。 肉と野菜を串に刺して、タレに塩胡椒、香草風味を用意していく。 「あんまり料理は得意じゃないけど、切って串に刺すくらいはボクでも出来そうにゃ。鋼糸でスパッ! と……」 やろうとしたタンゴの手を、瞳を潤ませ、はっしと止めるフィフス。 「え? ダメにゃ?」 「やるならこう、丁寧にサクサクと……」 出来るフリして手伝っているサンタナの手元には、きれいに繋がった肉。こっちも残念な結果のようだ。 2人とも、手伝っているのか邪魔しているのか分からない。サンタナに至っては、玉葱や南瓜をそのまま網にのせ出した。 「なぁ〜ん……」 救いを求めて肉を焼き始めたワングを見つめていると、「ん?」と気付いたように視線を落とされた。 「……お前、それはねぇだろ?」 「はぅ?」 言われてハッと隣りを見ると、既にサンタナの姿はどこにもない。ワングは丸ごと玉葱&南瓜焼きを、フィフスの仕業と思ったらしい。 「ち、違うなぁ〜んっ! これは、サンタナさんがやったなぁ〜んっ」 いきなりの濡れ衣に、脱兎するヒトノソリン。 「泣かしたにゃ……」 まだちょっとブラックなタンゴの呟きに、ワングは「えっ?」と視線を泳がせた。 「俺か? 俺が悪いのか?」 いや違うから。ちっちゃいことは気にするな。うん。 「ところで。……お肉が焼けてるにゃ」 ブラック・タンゴ、さすがに自分も食べる肉の焼き加減は見逃さない。 「おっと! 皆、ガンガン喰って、今日は楽しく行こうや!」 「よっしゃーっ!」 据え膳待ちのゼイムが1番乗り。 「ゼイム! お前、食うだけかよっ」 負けてなるものかとモニカが箸を出し、さっそく始まる肉争奪戦。 「これも焼いてくれよっ マンモー肉!」 「任せるなぁ〜ん!」 マンモーと聞いて、濡れ衣ショックから立ち直ったらしいフィフスが、追加の皿を手にUターン。 「ケーキ焼いておいたなぁ〜ん」 追加皿には、アップルパイに栗を使ったロールケーキ、紅茶のシフォンケーキ等が並んでいる。 そして、バサラのリクエストに応え、フィフスはマンモー肉を炙り始めた。 「フィフス、おまえってばえらいっ!」 「はわぁ〜」 感激しているのは、酒を飲んでみたいが飲めない年頃のモニカやブリジット達。ディーンが作ってくれたミックスジュースを片手に、ケーキを品定めしている。 「……肉の後に、それまで食べるのか?」 尋ねるゼイムに、 「甘い物は別腹っ」 「別腹ですぅ〜」 少女2人は、揃って同じことを言った。
「ぎゃーっ!」 「「「???」」」 突然の悲鳴に、思い思いに肉やお好み焼きを突付いていた皆の箸が止まる。 「「「え?」」」 見ると、火にかけられた鉄鍋の傍で、葱を片手にさめざめと泣いているフラレがいる。 「酷いですっ 具まで盛って、本当に火を入れるなんてっ」 「「「は?」」」 さすがに、本当に煮るつもりはなかったから、誰も身に覚えが無い。 「具を入れたのはわたしですけどぉ〜」 鉄鍋には干し芋や林檎まで入っていたが。とにかく、ブリジットは火までは点けていないようだ。 「……あのぅ」 おずおずと言い挿したのは、集まる皆の視線にどぎまぎしているアリス。 「ごめんなさい。お鍋が掛かってるのに、火が点いてなかったから……その、さっき点けて置いたのよ」 「「「!!」」」 「……っ」 暫く思考停止したフラレ。彼の流した滝の涙が、鍋の出汁になっているとかいないとか。 「アリスさん〜っ」 ユーリが苦笑いしながらツッコみ、影縫いでも撃たれたかのように固まっている仲間を宥めていると、再びお祭騒ぎが戻って来る。 「らしいというか、何と言うか……」 小さく笑ったフィリスは、まだおろおろしているアリスを手招いた。 周りには、何とかフェリシアを大人しくさせたバルモルトと、ジェイコブやヴァイス、ショウ、護りの黒狼・ライナス(a90050)や護りの魔箭・クウガ(a90135)達が集まっていて、ゆっくり箸を進めている。 ここは、さしずめ大人の飲み会テーブル。 「食後は果物をどうぞ」 梨に林檎、蜜柑の盛り合わせを差し出したユーリにも、グラスが回ってくる。 「お疲れ様じゃ。アリス嬢ちゃんも綺麗になったのぉ。おぉ、いつの間にか子供まで儲けておって。わしも歳を取るわけじゃ」 ジュランの言い草に、アリスは頬を染める。 「この子は養い子よ。フェリシアというの」 「子供の前に、結婚だよなぁ?」 「いつ式を挙げるんだ?」 耳聡いゼイムやダグラスが茶化しに来て、「いつでも準備は万端だが」とバルモルトまでが言うと、アリスはますます頬を赤くした。 「人のことを気にしておる場合かえ?」 ふぅ、とサンタナの嘆息が聞こえたりもしたが。 「でも、忙しくて、デートとかあまりしてなかったから。先に、星凛祭とか約束の木とか、行ってみたいわ」 きゃっ とか言って照れるアリスは、少し酔っている様子。聞いたその場の全員が、砂を吐きそうな顔をした。 「若いのぅ ふぉふぉっ」 ジュランが受け流せるのは、年の功。
「……ま、とにかくお疲れ様だ。俺達が必要なくなるというのは良いことだろうが、寂しい気はするな。新たな始まりの為となれば仕方ないか」 思い出話や酔い醒ましを始めていた場に響くショウの声には、ふと耳を打たれるようなものがあった。 感慨深げに酒を煽る彼に、皆は同意するように小さくグラスを掲げて見せる。 「お疲れさん」 「お疲れ様でした」 「護衛士やれて良かった」 ゼイムやフラレ、モニカが微笑む傍らで、「しかし」とジェイコブが言を継ぐ。 「戦に生きた冒険者が、変革を迎えた世界でどうあるべきか。正直、私は戸惑っている」 「平和は、これから維持して行く方が大変なんだと思うよ。だから、そのために……俺は誓いの儀式を決して忘れない」 そう返すのはヴァイス。 『ひとつ、自らの民を守り、助ける為の努力を怠らないこと。ひとつ、自らの力を高めるべく努力すること』――2つの誓いが、これからも冒険者である自分達を導く道標となるはずだった。 「星の世界の探索で、まだ暫くは倒すべき敵がいそうだがな」 「お、ジェイコブも行くのか?」 遅れ馳せながら、肉を突っつくディーン。 「当分会えないかも知れないし、アリスにも今まで世話になった礼を言っておくよ」 軽く言うと、「えええ?」と驚愕の声が上がった。クウガだ。 師匠と仰いでいるジェイコブの選択にうろたえている。自分も行く、とは即答出来ない彼に、ジェイコブは「自分で選べ」と最後の試練? を与えていた。 「気をつけてね」 星の海は果ての知れない世界。さすがに、アリスは心配そうな表情を浮かべたが。 「まあ、皆、どこへ行っても達者でな」 餞にそれだけを贈るショウを見て、気を引き締め直した。 「また会えますよ」 フィリスが微笑してアリスに告げると、ショウやヴァイス達も頷く。 「共に戦った日々は宝だよ。俺も、これから世界を見て回るつもりだが、またここに戻って来る」 「私もです。グヴェンドリンも、エルドールも、誰が忘れようと決して忘れません」 今は永久の別れではないから。 誰もが思う言葉は同じ。――また会う日まで、と。
最後のシメは、キャンプファイヤー。 マシュマロ焼きを配って回っていたモニカが、煌々とした灯りの中にアリスを見つけ、小走りにやって来た。 「はいっ アリスにはこれなっ」 ぬっと差し出されたプリンに、こっそりフィリスの髪の桜を摘もうとしていたアリスは、大仰にビックリする。 「きゃっ」 「あれ? ビックリさせた?」 「何か悪さしてたにょ?」 タンゴにも言われ誤魔化そうとしたけれど、アリスの手にはしっかり桜の花。 「おや? 花なら薔薇が摘み放題でしょうに」 気付いたフィリスの揶揄に、「薔薇以外は頬擦り出来ないもの」とまた砂を吐かせるような台詞を返すアリス。 本当はエーテルの羽も1本欲しいとか、ショウのオフ伊達眼鏡姿が見たいとか、バサラの髪に手櫛しとか……色々企んでいたのは秘密だ。 「あっ アリス様! お引越し先はどこですか? 会いに行ってもいい?」 エンジェルの特権? で抱き付いて尋ねるエーテル。と、一緒に飛び込むモニカ。 「ずるいっ 俺もっ!」 それでいいのかと、ツッコんでいるのは、当人達以外のほぼ全員だったが。 「えーと。1度は旧同盟領に戻って。その後は、やっぱりドリアッド領かしら」 2人分の重さにちょっと困りながら、アリスは言う。が、何故ドリアッド領かは、もう誰も聞かない。 それに、エーテルには大事な頼みごともあったから。 「(砦に、皆の集合絵とか……飾ってもいいですか?)」 エーテルは小声でこそっと尋ねる。先ほどから描いていたのは、その絵なのだ。 ここに素敵な人達がいたことを知って欲しい。仲間達が帰って来た時、何かあっても、ここで頑張った時を思い出せるように。 「もちろんよ」 にっこり返されたエーテルは、小躍りして団長室へ向かったのだった。
『また会う日まで』と、集合絵の額縁裏に小さく書き込んで……。
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参加者:19人
作成日:2009/10/18
得票数:ダーク1
ほのぼの11
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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