きっと、忘れない



<オープニング>


 三年と半分。
 短いといえば短いし、長いといえば長いような時間。泡箱・キヤカ(a37593)が冒険者として、最初の冒険に出てから経た日々、それが、三年と半分。
 三年と半分の日々は、キヤカにたくさんの思い出を与えてくれた。辛い記憶もないわけではないが、綺麗なもの、楽しいもの、そしてかけがえのないもの――真珠のような数多の記憶は、それを遙かに上回る。そして何より大切なのは、道程で得た友との絆だった。三年と半分、その愛しい日々を、キヤカは胸に抱きしめたいと思う。

 大きな戦いが終わった。神々を招いての祭りも締めくくられた。それと入れ替わるようにして、未知なる星の世界への探索行が、ランドアースの地より発つこととなった。
 往く者、残る者、さまざまだ。ひとたび探索に出れば、数年間は戻ってこられないという。すでに往くことを決めた者は、未知なるものの発見と無事の帰還を誓い、残ると決めた者は、彼らの帰還までこの世界の平和を保つと約した。出発まで数日、まだ意志を決められず迷っている者も少なくない。
 ただ、いずれにせよ、ひとつだけ明らかなことがある。
 旅立ちを境に、少なくとも数年は、別れ別れになってしまうということ。

 星への便の迫るある日、冒険者の酒場に親しい友を呼び集め、キヤカはある提案をした。
「みんなで一泊旅行をしませんか? 幻の秘湯の話を聞いてきたんです」
 話しながら、軽く外跳ねたプラチナの前髪を直す。かすかに緊張している。心の奥の寂しさの色は、うまく隠せているだろうか。
「幻の秘湯? それはどのようなものでしょうか」
 悠然と問い返すのは、春夏冬娘・ミヤコ(a70348)だ。
 うっすらと微笑してキヤカは答える。

 さいはて山脈その片隅の、紅葉ざかりの人無き山、その頂上付近にとうとうと、流れる小川があるという。小川の正体は山渓からこぼれ流れる天然温泉で、ほとりに腰掛けて脚をひたせば、ちょうど膝あたりまでの足湯となる。
 この地が幻と呼ばれるのは、途上、枯れ木のような変異植物が棲み着いており、枝の手足で害なすからだといわれている。ためにか人の往来はまずない。手つかずの自然が拡がっていることだろう。燃えるような紅葉は天蓋のように山を覆い、ずっしりと実った山の幸、早く収穫して、と、いわんばかりに揺れているはずだ。

「夜になっても一帯は、温泉のせいなのか秋にしては暖かなので、外でも眠れる様ですね」
 とキヤカが話し終えるなり、空謳いの・シファ(a40333)は目を輝かせた。
「足湯すきー。わくわくするのぅ」
「紅葉もきっとすっごく綺麗よね、お土産に持って帰ろうかしら」
 花織りの舞・ピアニー(a74215)の口調は歌うようだ。
 蒼翠弓・ハジ(a26881)は眼を細める。脳裏には、紅葉の合間よりのぞく星空が浮かんでいた。
「夜空の下で皆で眠るのも楽しそうです」
「外で寝られるってのはいいわね」
 たゆたう婀娜花・イシュ(a49714)はテーブルに肩肘をつき、艶冶とした微笑を浮かべた。
「夜は皆で語り合うのも素敵だと思う」 
「お、語り合うといえば、こいつは大切なことだ」
 金鵄・ギルベルト(a52326)の低くよく通る声は、短い言葉であっても注目を集める。
「酒、持ってってもいいんだろうか。俺のトークに酒は欠かせないぜ」
「勿論ですわ。一緒に飲み明かしましょう」
 ミヤコが片手を差し出す。ギルベルトはニヤリして握手をかわした。
 キヤカの頬には淡い薔薇色がさしていた。やっぱりこの仲間たちが大好きだ。なぜって彼らは、「うん」とも「いいよ」とも言わず、それどころか「いつ?」と訊くことすらせず、もう計画について話しはじめていたからだ。キヤカが提案するのを待ち望んでいたかのように。
「んじゃ決まりだな!」
 朱の蛇・アトリ(a29374)は自慢の扇子を、ぱっと開いてかく笑った。
「がっつり楽しみましょうぜー!」

 秋は深まり風は透き、黄金の実り、いよいよ近づく。少し早い落葉を、踏む足音は柔らかなものとなるだろう。星の世界に旅立つ前の、おそらくこれが、最後の旅行だ。
 珠玉の思い出をもう一つ、作ってその胸に抱いてゆこう。星海に往く者も、帰還の地を護る者も。

 


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参加者
蒼翠弓・ハジ(a26881)
朱の蛇・アトリ(a29374)
泡箱・キヤカ(a37593)
空謳いの・シファ(a40333)
たゆたう婀娜花・イシュ(a49714)
金鵄・ギルベルト(a52326)
春夏冬娘・ミヤコ(a70348)
花織りの舞・ピアニー(a74215)


<リプレイ>

●一
 空は涯てなく高く、澄みわたっていた。遮るものもなく慈愛の光を注いでくれる。
 両腕をあげて伸びをして、泡箱・キヤカ(a37593)は満面の笑みを浮かべた。
「晴れてよかった。空気も気持ちいいー!」
 爽やかな空気を胸に吸い込む。寒すぎず暑すぎず、秋らしく過ごしやすい。歩みを進めるごとに秋の山路は、しんしんと清涼度を増してゆく。
 小一時間も進んだだろうか。
「おっと」
 金鵄・ギルベルト(a52326)が、珍しい鳥でも見かけたような声を上げた。
「お出迎えのようだな」
 両切り煙草を指先で揉み消し、吸い殻を無造作にポケットに入れる。
 前方、一本道の両側から、かさかさと乾いた腕が伸びてきた。正確にはそれは木の枝だ。人に似た姿の枯れ木――変異植物が二体現れたのである。
「邪魔ですわ」
 退屈な相手を見たと、いわんばかりの表情をする春夏冬娘・ミヤコ(a70348)である。振り返れば一行の背後からも、同じものが出現していた。
 最後尾の蒼翠弓・ハジ(a26881)は、荷を中央寄りに置いてその安全を確保し、手早くチャクラムを取り出している。
「前後二体ずつの四体、これで全部のようですね」
「なんだか風情のある姿じゃない? 枯れっぱなしで。……動かなきゃもっと良かったのにね」
 空謳いの・シファ(a40333)も臨戦態勢にあった。
「これがホントの『枯れ木も山の賑わい』ってやつだなー?」
 へへっ、とやんちゃ坊主のような表情を朱の蛇・アトリ(a29374)は浮かべた。
 花織りの舞・ピアニー(a74215)は、木々に向かい一礼する。
「あら枯れ木さんこんにちは。あなたたちがいたから、山は自然のままなのよね」
 くすっと笑う、鉄の心さえ溶かしそうな優しい笑みだった。
「うん、でも」
 と彼女は一言付け足したのである。
「燃えちゃえ」
 ピアニーの手には黒炎、溶鉱炉の勢いで燃えたぎっている。
 四体の変異植物は、前後からわらわらと迫ってきた。枝の擦れ合う音がうるさい。
 たゆたう婀娜花・イシュ(a49714)は微苦笑して、
「動き出すと野暮ったいわね。ただ突っ込んでくるだけってのも芸がないし」
 喚ぶはリングスラッシャー、旋空する衝撃波だ。
「枯れ木に花を咲かせましょ♪」
 イシュは、すっと眼を細めた。
 枯れ木の張り手が空を切る。わずか半歩の後退で、ハジは巧みに避けていた。同時に放つは光の矢、全敵平等に降らしてみせる。光の雨が止むより早く、アトリとミヤコの放つ針、枯れ木をびっしり覆い尽くして、シファの一突き指天殺、たちまち一体を沈めていた。
 木っ端微塵、その言葉こそ、ギルベルトの攻撃にふさわしい。タックル激震して一体を、抗う間もなく粉砕している。キヤカが光の矢で援護し、続く猛攻ピアニーの炎、三体目を鬼籍に放り込む。
 そしてイシュの真空波が一閃、最後の標的を撃破したのである。
 イシュの言葉に偽りはなかった。砕け八方に散る枯れ木は刹那、大輪の蕾が開く姿を思わせたのだから。

●二
 枯れ木を土に還すと、彼らは山歩きを再開する。
 以後は楽な道が続き、一行は陽が落ちる前に河原へ到達したのだった。
「暖かい土地ですね、まるで春のようです。それでいて周囲は秋の色……」
 不思議です、とハジは微笑する。その笑みをさらに増したのは、
「薪集めて火をくべろぉ〜っと♪」
 小枝を拾いつつの、アトリが唄う鼻歌だった。彼はふと手を止め、
「なんだハジ、こっちじっと見て? 俺、顔になんか付いてるかー?」
「え?」
 そんなに見てましたっけ、と俯きながら、照れるようにハジは食材探しに発つ。
「なんだ気になるじゃん? なー、ギルベルトさん、俺、なんか変か?」
 同じく薪集めしていたギルベルトは、無造作に彼の顔を覗き込んだ。
「よく見せてみろ。いや、いつものアトリだがな?」
「ならギルベルトさん、あなたはわたしにそのお顔、よく見せちゃいなさい」
 二人の間にスルリと、猫のようにイシュが割り込んでいた。
「愛が足りてない相が出てるわよ〜。ここは乙女の私からサービスを♪」
 宝石のような瞳でイシュは、ギルベルトのサングラスの奥を見つめるのだ。
「有難うイシュ」
 ふ、と口元を歪めてギルベルト、
「だがあいにくと、そのサービスは間に合ってるッ」
 薪が足りないなもっと集めて来よう、と、イシュから逃れ風の早さで消えてしまう。
「つれないわね。でも互いの気持ちは通じてると思うの。そうよね?」
 残されたアトリは、頷くほかなかった。

「手伝えなくてごめん、石竈、もう組んじゃったかしら?」
 食材を手に戻ったイシュに、いえいえ、とミヤコは首を振った。
「大変なのはここからですもの。火をおこしたり、食の新境地を拓いたり」
 ピアニーは手を叩き目を輝かせている。
「食の新境地……いわば私たちは開拓者なのね」
「ええ、ピアニーさん、フロンティア精神ですわ♪」
 とまで言って、何気なくミヤコは視線を外した。
「開拓は命がけの冒険、犠牲はつきものですわね……食べる人の」
「道半ばにして斃れた人々の犠牲の上に、フロンティアは成り立っているってわけね」
 などと微妙にスリリングなミヤコとピアニーに、恐る恐るといった風にシファが言葉を挟んだ。
「えーと、隠し味は愛情だけってことで♪」
 イシュも応じる。
「そうねシファちゃん、愛情は料理最高のスパイスなんだから♪」
「じゃあ始めよっか? 食材は、『勘』で『安全そうなもの』を選ぼっ」
 自分の発言ながら(「これってやっぱりフロンティア精神かも……!」)と、いう考えがシファの脳裏をよぎったのだが、ツッコむ者はいなかった。

 持参の食料もあるけれど、やはり楽しみたい山の幸、食材集めは続いている。
「これ食べられるかな?」
 キヤカが摘んだ茸を手にして、ハジはその形状を調べている。
「ハタケシメジですね。美味しいですよ」
 類似の毒茸があるようなので、ハジはしっかりとこれを確認していた。
 ところがキヤカの狙いは別にある。彼が目を離している隙に、
(「チャンス到来っ」)
 と、明らかに怪しい蛍光ピンク色した木の実を、素早くポケットにしまっていた。フロンティア精神はキヤカの中にもふんだんにあるようだ。
 そんなことを繰り返しながら、大量の食材を抱え二人は野営地へ戻る。
 道すがらの会話は、他愛のない話からはじまり、やがて星海への旅のことに移っていた。
「一度旅立てば、何年も帰って来られないんですよね」
「ええ」
 しばし、言葉が途切れた。
「アトリのこと……」
「アトリさんのこと……」
 復した言葉は重なった。しかも、同じ内容で。
 顔を見合わせて笑う。だがすぐにハジは真面目な表情に戻り、頭を下げた。
「キヤカさん、彼のこと宜しくお願いします」
「ええ、任せて下さい」
 でも、とキヤカは告げるのだ。
「ハジさん……星の世界から帰ってきたら、ちゃんと自分の気持ちを言葉でアトリさんに伝えて下さいね。アトリさんのこと、私が絶対守るから」
 約束ですよ、と小指を立てると。
「はい」
 ハジは頷いて、その指に自身の指を絡ませた。
 同じ頃、
「ふぁ、クシャミ出そう」
「ちょっとちょっと、味見するのかクシャミするのかどっちかにして」
 味見に来たアトリは、突然鼻がむずかゆくなり、シファと押し問答になっていた。
「す、すまねぇ、よっしゃ俺は食欲を優先すンぜー! こらえたっ」
「よし、それに免じて味見を許しちゃおう。はいっ、炒めたて熱々の茸!」
「ありがとシファさん……って、熱っちーー!」
 ポンと投げられた茸を手にし、ウサギのように跳ね回るアトリなのである。
 その後も和気あいあい、食事作りは進むのだった。
 ミヤコとキヤカは協同して、フロンティア精神旺盛な栗きんとんを作製し、意味深な視線を交わしている。
 ギルベルトの薪集めにピアニーも加わり、二人は続けてテントの設営も行っていた。
「釘を打つから、ロープを引っ張ったままでいてくれ」
「テントに釘なんて使うの? 本格的ね」
「人間関係と同じだからな」
「え?」
 槌の一打ちで釘を地面に突き刺し、ギルベルトはニヤリとした。
「土台が強固なら、雨風困難にも決して倒れない」
「さっすが!」
 そのとき、シファが皆を呼ぶ声が聞こえてきたのである。
「みんな、ご飯の用意、できたよーっ♪」

●三
 夜が訪れるも座は明るい。あかあかと燃える火が各人と、手元の料理を照らし出す。
 キヤカの目にはこのすべてと、大空の星が映り込んでいた。
「シファとイシュさんに大感謝! 蒸しご飯、とっても美味しい〜♪」
 山菜、茸、タケノコ等々、収穫したての食材を、白米ともち米のブレンドに混ぜて蒸したものだ。砂糖にしょうゆ、隠し味の紹興酒が素材の味を盛り立て、持参の海苔をたっぷりまぶして風味も満点、いまこの場所、この時間でなければ出せない味だろう。美味なるはご飯だけではない。焼いた茸も、椀に入れたすまし汁も、心に染みるような香ばしさだった。
「素敵〜」
 ピアニーも感激のあまり、味付け担当の二人に抱きついていたりする。
 されども、この宴がこれほどに魅力的なのは、かけがえのないメンバーだからこそだろう。笑いが絶えることはない、思い出話にも花が咲く。
「あンときはネーちゃんが、さも当然みたいな顔して女の子テントに入ろうとして……」
「恋バナは乙女の特権じゃない? 乙女としてはそっちに行きたいわ〜」
 アトリの言葉に、イシュは頬を膨らませ、
「で結局、俺が女性テントの見張りをさせられました」
 ハジが肩をすくめると、皆どっと笑った。キヤカは笑いすぎて目に涙を浮かべているほどだ。
 話題はいくらでもある。タロス聖域攻略や地獄列強追撃の激闘、旅団OZで繰り広げられた男女対抗戦の顛末、それに、ずんだ葛餅を作った記憶や、はたまた布団巻きに関する熱い談義など。 
 傾ける酒杯もまた格別である。
「ダイエットは明日からですわ」
「そう、明日から明日から♪」
 ミヤコとシファ、相好を崩す二人とも、頬に紅がさしている。手には杯、注がれるは桜色の清酒、なんとも風雅なその飲み口よ。
「お注ぎしますわ」
 手慣れた仕草で、ミヤコはイシュに瓶を向けた。
「ありがと♪ ご返杯するわね。おっと、ミヤコちゃん豪快な飲みっぷりね」
「ありがとうございます。お酒だけはザルですので……」
 くすくすと笑って、ミヤコはイシュの隣、ギルベルトに目を向けた。
「ではギルベルトさんには、こちらの栗きんとんを」
「オイ待て、なんで俺は酒の注ぎ足しじゃなくてそれなんだよ?」
 ギルベルトは、手元に差し出された『ブツ』に目を落とした。彼は本能的に危険を感じている。この、見た目だけは完璧なお菓子には、なにか危険な気配が漂っているのだ。
「食うか?」
 自分に注目が集まっていることを察して、ギルベルトはハジに水を向けてみた。
「俺は小食なので」
 しかしハジは巧みにかわす。事実、彼の皿は、焼いた椎茸や野菜で満載である。
 そこでギルベルトは対象を変えた。
「よしアトリ、パスだ。行っとけ男の子!」
「俺?」
 逃げ口上を考えるアトリだが、そうはさせじとピアニーが合いの手を入れた。
「アトリさん、あたしも応援するわ!」
 阿吽の呼吸でミヤコも応じる。さっと一つを手にして、
「あ〜ん♪」
「私も! はい、あ〜ん」
 同時にキヤカも一つをつまんでいた。すると彼はのぼせてしまって、
「姫とキヤカさんにあ〜んってしてもらえるとか、こンな幸せいままでなかった!」
 謹んで食べさせてもらいやす! と大口開けて待ち構えるのである。
 ところが『ブツ』を頬張って二三回も咀嚼した途端、
「……○×☆$%!?」
 声にならない声上げて、アトリは昏倒したのだった。
 これを見て、本格的にヤバイ、と戦慄するギルベルトだが、その袖をミヤコ姫が掴んでいた。無言で彼を見上げている。憂いを帯びた瞳は、「食べて」と訴えていた。
「……その目は止めろ頼むから」
 観念したようにギルベルトは一つを掴むと、自身の口に押し込んで背中を向けた。小刻みに震えているのは、その毒が暴れ回っているからだろうか。
 ここでシファが大胆な行動に出た。
「折角のキヤカとミヤコさんの手作りだもの、ココで食べなきゃ女が廃る!」
 なんと、恐怖の栗きんとんを自主的に口に入れようとしたのだ。
「だめーっ! シファ」
 キヤカが叫んだ。制するのかと思いきや、
「食べるのなら私と一緒でしょ♪」
 死なば諸共、互いに「あ〜ん」を提案したのである。
 あ〜ん。
 ――仲良く一緒に、意識が飛んだ。

●四
「それでは座興を」
 すっくとピアニーが立ち上がると、得たりとばかりにアトリが二弦琴を奏でる。
 火の勢いは弱まって、満天の星空と薄明かり、これを背景にピアニーは舞いはじめた。
 さすが冒険者、全員回復しており、宴の締めくくりに手拍子で参加している。
 ピアニーは笑顔だが、その実、全身に『気』をみなぎらせ、一世一代の幻想的な舞いを披露した。彼女が四季に託し、表現したのは人間の一生だ。出会いの春、燃える夏、黄昏れの秋、そして別れの冬――しかしその先にはまた、春が待っていることを示唆している。
 毅然とした心で舞い続ける。そうしないと涙が零れそうだったから。ピアニーのみの話ではない、誰もが、同じ気持ちだったろう。それほどに切ない舞いだったのだ。
 キヤカはそっと、全員の顔を見回した。
(「紅葉と星空、大好きな人達……」)
 彼女は誓った。
(「きっと、忘れない」)

 火が消え、香炉をたく。
 語り明かそうよ、とシファは杯を回し提案する。皆、賛意を表した。
 まだ朝は先だ。されど、共に過ごせる時間はもう長くない。
 笑い合ったり、しんみりしたり、頬を赤らめたり……話は尽きないものの、やがて一日の疲れは、瞼に重くのしかかる。
 小一時間も経た頃には、多くの者の会話は夢の中に舞台を移していた。

●五
 翌朝も、清々しい好天であった。
「ひゃっほう!」
 足湯にひたって水飛沫、アトリは蹴り上げてはしゃいでいる。
「やりましたね〜、わたくしも負けませんわよ」
 ちゃぱちゃぱと湯をあげてミヤコが反撃した。
「程々にしとけよ」
 とは言い条、ギルベルトもしっかりこれに参加していたりする。
 温泉の流れる川はすぐ近くだった。一行はさっそくここでリフレッシュしているのだ。
「ね、虹が出てない?」
 イシュが声を上げた。
「本当に」
 ハジも頷く。彼らの水飛沫が、小さな虹を生み出しているのだ。
「綺麗……もっと大きくしようよ♪」
 シファは勢いよく水を跳ねた。
「見える? あの紅葉」
 ピアニーは一同の頭上を指した。
 ひらひらと、真っ赤な紅葉が一枚、舞い落ちてくるのだった。
「見えます……見えますよ」
 あふれそうな涙をこらえて、キヤカはもう一つ、大きな飛沫を上げる。
「星の世界に旅立つみんな、残るみんな、帰ってきたらまたここに来ましょうね……必ず!」
 頬を伝った温かな水は、きっと水飛沫なのだと思う。


マスター:桂木京介 紹介ページ
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作成日:2009/10/19
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春夏冬娘・ミヤコ(a70348)  2009年11月25日 10時  通報
……わたくし、お料理はしちゃダメだと思いますの。