<リプレイ>
●華やかな夜 町を明るく照らしていた太陽が海の向こうに沈み、月と星が静かに空に現れる。 だが町の一角にたたずむダンスホールはそんな自然の営みとは無縁かの如く、建物の内側から煌々と光を放ち軽やかな楽曲を奏でていた。 「お嬢さん、私と一曲踊っていただけませんか」 小さなラウンドテーブルの席に腰かけながら壁の花となっている妙齢の女性に手を差し伸べるハヤテ(a77309)。50代をむかえながらも彼が放つ精気は齢を感じさせず、その青い瞳で女性の心を捉えて離さない。 女性が差し出された手をとると、ハヤテは慣れぬ故の若干硬さが残る足取りながらもそのままホール中央の反時計回りに回る踊りの中に溶け込む。 「お嬢さんは何か夢はありますかな?」 その問いかけに彼女は少し悩み、素敵な殿方と一緒になることかしらと答える。 「おじさまのような方ならよろしいのですけれど」 本気か社交辞令か惑うような魔性めいた頬笑みを返す女性。 「ふむ。それは光栄ですな。その笑顔もとても美しい。お世辞を本気で受け取りたくなる」 その言葉のやりとり自体に2人は軽く声をだして笑いながら、2人は踊りを続ける。 今宵は舞踏会。 艶やかに花開く女性たちと香気に誘われた男性たちの宴が始まる。
●光と共に踊り 中央で軽やかに踊る裕福そうな一般人の人たち。パーティー客の中には年若い男女もおり、壁のシミとなっている男性が特定の女性を視線で追いながらも誘いだせずにいる者もちらほら。そんな甘酸っぱい様子にミシェル(a78505)は口元を綻ばせる。 「どうかしたのです?」 連れのヴィーネ(a71769)がミシェルの様子を見て、クリームの乗ったクラッカーを手にしたまま問いかけた。 「うーん、はちみつ色の蕾を見つけたというか」 その答えにヴォーネは手を止め意味を考えだすが、ちょうどその時にヴィーネと同い年くらいの少年が彼女に踊ってよと声をかける。 「ほわ。ヴィーネでいいのです?」 初めてなので教えてくださいね、と言いながらヴィーネは少年に誘われてそのまま踊りの輪に入っていく。 「ミシェルさん、ここにいましたか」 声を掛けられミシェルが振り向くと、シルバーグレーのフロックコートを着たジリアン(a69406)が、普段着ない種類の服の為にぎこちない様子でこちらに向かっていた。緊張を悟られたという気持ちが益々彼をぎこちなくさせるが、ジリアンは吹っ切ってミシェルを誘う。 「あの、僕と踊っていただけますか」 喜んで、とミシェルは瞳と同じ青いドレスの裾を軽く摘まみ礼をした。 ヴィーネ、ミシェル、ジリアン。3人を目で捉え心の中でそれぞれ褒めていたエィリス(a26682)にも声がかかる。 「あ、アオイさん。……あら? ドレスじゃないんですか?」 「あはは、エィリスさんは冗談がお上手で……」 なぜかがっかりするエィリスに僕は男ですよ? というニュアンスを込めながら軽く流すアオイ(a68811)。 「エィリスさんはそのドレス、とても良く似合ってますよ」 背中の半ばまで伸びた髪をふわふわな感じになるように軽く巻き、白のフラワーチョーカーと軽い月のような銀色のドレスに身を包んだエィリス。アオイの言葉に彼女は少し頬を赤らめた。そしてそのままアオイの誘いにエィリスは頷き、2人も踊りに加わる。 「ジリアン君ももう立派な大人なんだね」 インフィニティマインドが旅立ったばかりのころはまだ未成年だったジリアンももう大人。2人は踊りながら彼の話に静かに盛り上がる。
「一緒に踊っていただけますか?」 「勿論です。是非に」 レイオール(a52500)の誘いを快諾して手をとるユリーシャ(a26814)。2人が永遠の愛を誓い2児の親となってからの久々のデート。2人は異国風のやりとりをしてワルツの曲に乗る。 「あなたと2人きりで出かけるなんて、久しぶりですわね」 「そうだね。こうして踊ったのはまだ恋人同士だった時かな」 半身を寄せ合い、その気になれば口づけすら容易な距離で互いの熱を伝えながら、恋人気分に戻って2人は波に揺られるかのようにただ静かに踊っていた。
(「この格好、変じゃないでしょうか」) シンプルな黒いドレスに青薔薇の髪飾り、ピンクパールリングで着飾ったキラ(a35166)は、初めての舞踏会に緊張した様子で人を待っている。 「姫」 聞き覚えがある待っていた声にキラは振り返った。 「一曲踊ってくださいますか?」 燕尾服を着て普段とは打って変わった大人びた落ち着きで彼女を誘うジィル(a39272)。周りの音も耳に入らず2人はお互いのみに意識を向ける。 差し出された手にキラは自身の手を重ねる。実際には瞬き程の時間の経過がやけに緩やかで、自身の鼓動の音が内側から聞こえて重ねた手から伝わってしまうのではないかと気になった。 時の流れを元に戻したのはジィルだった。自身の澄ました顔や緊張といった普段とはまったく異なるやり取り全てが何故か可笑しく、軽く噴出してしまう。それを見たキラもまたつられて笑う。 「いこう」 笑顔でリードするジィルにキラは頬笑みながら頷いた。
「それじゃあ一曲踊ろう、レイ♪」 アセルス(a74501)がそっと手を差し出す。彼女の手をレイ(a69323)は下から受け取り、2人は踊り出す。 (「ダンス、か」) レイは6年前のフォーナ感謝祭に2人で踊ったことを思い出す。雪降る庭園での愛の言葉。 「フフッ、そう言えば付き合って初めてのフォーナ祭もこうして踊ったっけ?」 軽やかなステップを踏みながら語りかけたアセルスの言葉。 「僕も同じことを思い出していた」 結婚して子供も4人授かり幸せな家庭を築いている。今の2人の関係は夫婦。だが当時のことを思い出し、レイはふと夫婦ではなく恋人の時に戻りたくなった。 「あの時のボクはまだ子供だったけど、あれから結婚もしたし子供にも恵まれて。ねぇレイ、ボクはイルガ達に恥じない大人になれたかな」 同じ思い出に浸るアセルスの視点はあくまでも母親としてのもの。そんな彼女にレイは指を唇に当てて言葉を封じる。そして彼女の首を支えて顔を引き寄せ、耳元でそっと囁いた。 「駄目だよ。今……今夜だけは俺だけのアセルスに戻らないと」 支えた腕から零れおちるアセルスのウェーブがかったロングヘアをレイは目で追う。 (「俺が長いのが好きって言ったから伸ばしてくれたのかな」) あれからずっと続いている幸せな日々。願うならこれからもずっとこのままで……。
「1曲、お相手願えますか?」 ユリウス(a76515)は紅色の大人しめなカクテルドレスを着たキスイ(a76517)を恭しく誘い、彼女もまた控えめな色のタキシードを着こんだ彼のエスコートに乗った。 「もう16だし、少しは、女性らしくなれた、かな」 「ドレス、すごく似合ってる。可愛いよ」 キスイの頬がドレスがシャンデリアの照明を照り返しを受けたようにほんのりと赤い。 (「惚れ直しても、問題ないよな?」) 頬が赤いのは照り返しのせいだけではないようだ。 キスイはセイレーンの彼の歳に追いつき、今ではほぼ同年代の2人。踊るにも丁度いい背格好になった。 「……足、踏んだらごめんな」 おぼつかない足取りで懸命に慣れぬステップを踏むキスイ。 「ゆっくりでいいよ」 ユリウスは優しく彼女をリードし、2人は初々しく踊る。
「ねえ、ラズ殿。踊ってくださる?」 紅薔薇の艶やかなチャイナドレスを纏いラズリアンテ(a66612)の腕に組みついているツルギ(a66087)は、すでに踊りは始まっているかのように流れる動きで腕を離し、自分から奥手な彼に誘いを掛ける。 向けられた手の甲に下から手のひらを合わせ、ラズリアンテはそれまでと打って変わってツルギをリードし、踊りの輪の中でワルツの曲に合わせて緩やかに回りながら綺麗な三角形を足で描く。 「早くはないか?」 彼のその問いかけにツルギは大丈夫ですと答え、黒いストールを軽く靡かせながら舞踊を嗜んだ者が持つ美しい姿勢で彼の動きにぴったりと合わせる。 優雅なワルツの一曲は指揮者の振るうタクトが宙に円を描いた後に大きく山形を描き、楽士達の音程が瞬間的に上下し、タクトが止まると共にそこで終わりを告げる。 舞踏を止め名残惜しそうに体を離すラズリアンテの視界にソルレオンの忍び・サイルス(a90394)が映ると、名前で彼に呼び掛けた。 「サイルス」 ラズリアンテの声に気がついたサイルスは2人の姿を探して見つけて挨拶を返す。 「ラズリアンテ殿、楽しんでおられるようでござるな」 「御久し振りで御座います、サイルス殿。ふふ、御元気そうで何よりじゃ」 「ツルギ殿もお元気そうでなによりでござる。ふむ……善哉、善哉」 2人を見ながら一人で何度も頷くサイルスに何がよきかななのかと聞くと、サイルスは何でもござらぬとしか言わない。そうしている間に次の曲が始まるとサイルスは一言、これからも仲良くなされよと告げて場を離れた。 「庭に出ようか」 ラズリアンテの提案にツルギは小さくはいと答え、2人は会場の外に出た。
●月の下で語る 舞曲が始まったころはまだ天の裾にいた月も、今は天頂に座り静かにあたりを照らしている。 偽りの陽光の下から抜け出した蝶たちは庭やテラスで各々恋と愛を語り合う。
庭に咲く黒と白の2輪の『花』。シラユキ(a24719)とカミュ(a49200)は虫の鳴き声に乗せてドレスを翻しワルツを踊る。 ダンスの真似事。2人はそういうことにして踊りまわるが、それはまさしく愛の舞踏。シラユキはカミュの腰にさりげなく腕を回し身を引き寄せ、白き花の導きに黒き花は素直に身を寄せ。胸の鼓動を感じ取ろうと白き花は力強く黒き花を抱きしめる。 「思い切り……抱き締めて下さい」 痛いくらいでも、その方が想いが伝わってくるようで嬉しいから。一時だけでも独り占めしてほしいから。 そんな黒き花の想いを感じ取ったのか、白き花は愛をささやく。 「愛してるよ、カミュ……昔からずっと、そしてこれから先も……」 ずっと傍に居て欲しい。そんな思いを込めて、白き花は黒き花に唇を重ねる。
「二人きりで出かけるなんて、久しぶりですわね」 テラスに出たユリーシャは風に吹かれる髪を軽く押さえながら、照明を背に街角を見つめ隣に立つレイオールに語りかける。 そんな彼女にレイオールは夜風で体が冷えないようにと身につけているマントを外し、そっと彼女の肩に羽織わせた。彼のマントから両手を出し、毛布で己の体を包むようにユリーシャは布地を腕に抱く。レイオールはユリーシャをマントの上から抱き寄せ、2人はゆっくりとキスをかわす。 長らく唇を合わせ、愛する気持ちを交換したのちに唇を離す2人。 「あの子達、ちゃんと寝たかしら?」 妻の心配に夫は軽く笑みを零し。 「俺達の子だからな、心配ないさ」 夫は妻の髪を優しく撫でた。
建物の中から聞こえるヴィオラの音色に背を向け、中庭を散策するキラとジィル。 世界平和から5年、一緒に暮らし始めて4年、大変な事、辛い事、幸せな事は2人の間に次々と押し寄せ時の流れはあっという間に過ぎ去った。 キラの隣にはジィルが。ジィルの隣にはキラがいる。 ふと秋の夜の冷気がキラを包み、彼女はが体を震わせる。腕にかけていたストールを羽織ろうとする手をジィルが止め、彼が彼女にそれを巻いてあげた。 「ありがとう」 その言葉を放った後に訪れる沈黙。ヴィオラの音も何もかもが沈黙している。 2人だけの空間。 2人は自然と風に乗った花びらのように軽く唇を重ねて離す。 先に言葉を放ったのはジィル。 「お互い年を重ねて、眠りつくその最後まで、俺のキラで居てください」 それはプロポーズの言葉。キラはすぐには答えず、彼の数歩先まで歩き、振り返った。 「言葉じゃ言い表せないくらい、愛してる!」
ユリウスとキスイは庭園に出て月を見上げる。 美しい月。優しく投げかける光に応援され、キスイはその手につがいの鳥の木彫りがしてある小さなオルゴールを乗せて彼に見せる。 「そういえばユーリ、まだ誕生日プレゼント渡してなかったな」 愛称で彼を呼び、その手を差し出すキスイ。ユリウスはそれを受け取ってタキシードの内側にしまう。 「ありがとう。……実はキスイが僕の歳に追いつくのを待ってた、って言ったら……笑う?」 一緒に同じ視線で時を刻みたいから。 だからずっと待ってた。ふたりが生きてる限り一緒に一歩ずつ歩みたい。 その想いに彼女は首を振り、笑わない、と素直に答える。 「それとプレゼントはもうひとつあるんだ」 なんだろう、と問いかけるユリウス。 「……ボクをプレゼント、とか」 真っ赤な顔は夜の幕に隠されて見えないはず。だがキスイには真っ赤な顔をしているであろう様子が昼の明かりの下よりも鮮明に見えた。 そしてそのプレゼントに彼は声をたてて笑う。 「ひどいな、ボクはユーリのこ……」 抗議は唇でふさがれた。軽いキスのをした後、ユリウスは彼女を抱きしめる。 そして2人は無言のまま、愛を感じながら深く唇を重ね合わせた。
紡がれる各々の愛の様子。 月は彼らを見守る。彼らに、彼らだけの世界を提供して。 今宵は舞踏会。 艶やかに花開く女性たちと香気に誘われた男性たちの宴はまだ始まったばかりなのだ。
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参加者:18人
作成日:2009/10/30
得票数:恋愛7
ほのぼの6
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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