<リプレイ>
●雪の街道筋で (「やっぱり、こういうのが性に合ってるんだよねぇ」) 綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)は1人、胸の内で呟いた。 ずっと根無し草の冒険者生活。色々な場所を旅して回って、そこそこの頻度で変異動物なんかとも戦ってきた。それは平和になったと言っても大きく変わっちゃいない。 「では、今回もきっちり討伐……頑張るとしましょう」 頷く仲間たちと一緒に防寒装備を整えると、3人は雪の街道筋へと向かうのだった……。
霊査士の告げた地点に近づくにつれ気温がみるみる下がる。壊れた弱者・リューディム(a00279)はそれを実感し、防寒着の効能を再認識していた。 そうして歩くうちに積雪に挟まれた狭間の道に出る。奥の村にとっては唯一の生命線とも言える場所。 「どうやら、この辺りのようだな」 他より雪が少なく踏み心地も幾分固い。ここで何かがあったのは明らか。さっそく業の刻印・ヴァイス(a06493)が辺りを調べ、獣の足跡と雪に隠れた血痕らしきものを見つけた。 「辿って……みるか?」 「この積雪です。辿って途中で見失うより、この辺りで日暮れを待つ方が賢明では?」 敢えて仲間の意向を伺ったヴァイスに、リューディムが期待通りの答えを返した。無論それに異議などはあろう筈もない。 日が沈み、一気に周囲が暗くなってきたところで手早く野営の支度をすませると、さっそく周辺に注意を払い敵の出現を待ち侘びる。 「ん? この音……?」 その時、スゥベルの感じていた音が変わった。自然の中に、雪を踏み締める微かな不協和音。 「来たかも!?」 他の2人も頷きながら自らの得物に手を掛ける。敵もそんな空気の変化を感じたのか、一気にに呻りをあげて冒険者たちに襲いかかってきた。 飛びかかってきたのは5匹のユキヒョウ。縦横に散開しての一斉攻撃は極めて統率が取れていた――それを受けて立つはリューディムとヴァイス。 それぞれ1匹、2匹と難無く躱し、リューディムのところに行った3匹目は手にした『贄呑』で捌いて脇に逸らす。 本来ならここで冒険者が攻勢に出る番だった。しかし眼前にいるのはすべて普通のユキヒョウたち。 「あいつらは傷つけるな……手負いの獣は人を襲う」 ヴァイスが短く告げる。残る2人も分かっているとばかりに無言で頷き、潜む変異ユキヒョウの姿を探す。 「居たわ、そっち!」 ユキヒョウに囲まれながらも1つだけ違う気が漂うのを感じたリューディムが叫ぶ。それは後方のスゥベルの更に後ろ。すかさず振り返ると其処には、一見ユキヒョウのボディながらも二足歩行する魔物の姿。 「うっわ、立派に立ちあがってらっしゃる……ある意味、実に見事に変異しちゃったねぇ」 スゥベルが先制として炎に包まれし木の葉で敵の周囲を覆う。その隙にヴァイスは蜘蛛の糸で、リューディムは雄叫びを挙げ、敵を止めた。 返す刀で2人が変異ユキヒョウの方へ向かうと、さらに後方から追加のユキヒョウが4匹あまり。それらが変異ユキヒョウの指揮の下、スゥベルを襲う。彼女はそれをギリギリで躱そうとするが、2匹は躱せずその手に牙が突き立てられる。 「咬ませてやるよ。でもね、狐だからって負けないよ! きしゃー!」 僅かな痛みを我慢しつつ振り払い、とりあえず威嚇で返してみるスゥベル。もちろんそれで怯んじゃくれなかったけれど……。そんな所へ容赦なく忍び寄る変異ユキヒョウの爪牙。 「仕方ない……」 その間に割り入るようにリューディムが細い身体を滑り込ませて再び雄叫び。爪牙を受けながらも魔氷は効を奏さず、4匹のユキヒョウたちだけを止めた。 受け切ったことで無防備となった変異ユキヒョウ。そこにヴァイスが螺旋を描きながら飛ぶ。 「終わりだ!」 無傷のヴァイスから放たれたそれは、通常よりも遥かに大きい力となって、変異ユキヒョウを貫く。戦いはその一撃で終焉を迎えたのだった。 そして……残されたユキヒョウたちにスゥベルが魅了の歌で語りかける。 「縄張りを荒らすつもりはないし、あたしらもすぐに退くからさ。そっちも退きな」 彼らとて、率いるモノが亡くなった以上、戦う理由はない。9匹は迷うことなく逃げ去っていった。 後に残るは、変異ユキヒョウの亡骸ただ1つ。それを見やりながらヴァイスは少し寂しげに呟いた。 「変異動物は相変わらず……か。こればっかりは俺たちにもどうにもできない、か」 そう。これもまた大いなる自然の一部なのだから。
●灰色の餓熊 「ふむ、この気候。久し振りにランドアースの大地を踏んだ気がするな」 戦闘執事・サキト(a38399)が懐かしそうに呟いた。 ランドアースからモンスターやグドンが居なくなり早3年、セイレーンの主と共にワイルドファイアに移り住んで、暇かと思いきや意外にも多忙な毎日を送っていた中での、久々の冒険者業であった。 「そっか〜、グドンやアンデッド、モンスターがいなくなって3年も経つんですね〜」 サキトの感慨深げな声に、疾く紅銀く煌き閃き戟つ翔剣士・レイス(a32532)もまた時の流れを感じ、思わず息をついた。 彼らと、猫又・リョウアン(a04794)を加えた3人の担当は村を襲うグリズリー。変異によって巨大さと凶暴さを増したそれは、たとえ勇敢な熊犬が居ても一般人の手には負えない。 「一般人の脅威はまだまだ消えたわけではないですもんね。冒険者として、キッチリ頑張らせていただきますよ!」 レイスは自らにそう言い聞かせ、仲間と共に村に向かうのだった。
村に着くや3人は、餓えたグリズリーを惹きつけるべく、用意してきた生羊肉や蜂蜜、果実などを、先に被害のあった鶏小屋近くに集めて待ち受ける。 「熊のような獣は1度美味しい思いをした場所を忘れない。故に必ずこの辺りに現れるはず……これがグドン相手なら調理した料理でも釣れるんだがな」 已む無しとは言え、ちょっとした散財にサキトが少しだけ眉を顰めた。これも仕事柄か? 「村にこれ以上被害を出さないためにも……水際で食い止めます。必ず」 そんなことを言ってる端から、巨大な咆哮が轟く。 「まだ少し離れてそうですね」 リョウアンが距離を測る。こういった相手の方が与し易い、と思いつつも些かの緊張に包まれる。こればっかりは久しぶりとは言え変わらないようだった。 次第に耳に届く咆哮が大きくなる。やがて木々を引っ掻いてるであろう音も鳴り響いてくる――生理的に受け付けにくい音が。 ガァァァァァッ! ついに冒険者たちの目の前にグリズリーが姿を現す。彼らの倍以上、4mを超す身の丈の灰色熊。 「対面すると、更に大きいですね」 一言だけ吐き捨てるように告げるも、迷うことなく懐に潜り込むリョウアン。如何なる攻撃も捌き切る自信があるのだろう。そのまま巨大ゆえの死角である顎の下から光の軌跡を迸らせた。が、巨熊の急所にまでは届かない。 その隙にレイスはステップで攻撃に備え、サキトは自身の防御を固める。そして脅威の爪が懐を抉るように疾るもリョウアンは更に深く沈んでそれを躱す。 そして再び迸る光の軌跡。狙い済ましたのは余裕からか、ほぼ同様の軌跡で巨熊の傷を更に抉る――だが、それでも熊はまだ倒れない。既に大量の血を流しているというのに。 「参の奥義、鳳凰光翼撃! 一気刀閃!」 小烏造光月重拵によるサキトの強打。小さな天使がその刃を更に押し込む。 「……とこの台詞を言うのも久し振りか」 この一撃はかなり消耗を強いたようで、熊は続くレイスの斬撃を認知できていない模様。 「熊は熊らしく、冬は穴倉で寝ていてください! でないと、その毛皮を剥いで手土産にしてやりますよ!」 白銀の刀身が無数の紅い軌跡を描く。その紅は敵の血の色に通ず。飛び散る鮮血は宙に真っ赤な薔薇を描き、無尽蔵にも思えた巨大熊の体力を根こそぎ奪ったのだった……。 冒険者たちは村にそのことを報告し終えると、離れたところに灰色熊の墓標を立てる。 (「うーん。ここまでボロボロだとちょっと毛皮としての価値は……難しいでしょうか」) レイスは少し残念そう。それでも無事に務めを果たしたことは、彼らにちょっとした充足感をもたらしたのだった。 「僕たち冒険者にも、できることはまだいっぱいありますね。小さな平和を守ることも、立派な冒険者の仕事ですから」 「ああ……。だが、楽なのは良いが少し物足りないな……それでも皆、この数年で良い顔をして笑うようになった。 報告を受けた村人たちの安堵の笑顔を思い出す。 「願わくばこの平穏が永久に続くように……だな」 この世界に彼ら冒険者が居る限り、平穏は束の間ではなく永遠たり得る。それは何より確かな予感だった。
●隠行南瓜 「星の世界に行く奴らが出ても、世はなべて事もなく。冒険者稼業も休む事はなさそうだな」 「ええ。ですが、そうは言っても依頼を受けるのも数年ぶり。もうあの頃も遠く感じますね……」 目的の畑へと向かう道すがら、焔風の・アガート(a01736)と一般冒険者・ゼロ(a60940)は、不謹慎と知りながらも、かつての争乱の時代を懐かしむ。 世が平和になり、せいぜいが年に数回といった程度の事件しかない以上、冒険者たちの多くは彼ら同様、平和を満喫しながらも昔を懐かしんでいることだろう。 それでも勿論、受けた以上はきっちり務める。それは今も昔も変わらない。久しぶりに味わう幾許かの緊張感を胸に、件の村に到着。 「さーて、久々に一暴れするか。と言っても、畑は壊さないようにしないと……か。善処しないとな」 「ええ。何にしろ、私たちは困っている方々のためにこそ、頑張らなければ」 2人の言葉に、楽しい事だけ考えて居たい・エリシア(a90005)は何度も深く頷く。詩人稼業を優先するあまり冒険からは彼ら以上に遠ざかっていただけに、今回の依頼は感慨もひとしおと言ったところか。 「困ってる人のため……か。そうだよね、それこそボクたちの本懐だもん」 そうして村に軽く挨拶を済ませてから、問題の畑へ。 「カボチャ野郎は畑に紛れてるんだよな、たしか」 「そうですね。先ずは畑でカボチャ釣りといきますか」 畑の端から数メートルほどの距離を置き、リングスラッシャーを召喚。囮として畑に踏み込ませる。 「さてと、罠にかかってくれるかなっと」 立て続けに数体ほど飛ばしてみるが、残念なことに反応はない。 「ダメ……ですか。ではお願いしますね」 アガートを促すゼロ。生身の餌が必要であるならば、その役割は当然……といった体だ。アガートの方もそれは十分に分かっており、迷うことなく『炎嵐』を手に畑へと足を踏み入れていった。 「さて、どう出てくるか……」 油断なく歩を進めるアガート。それを見つめるゼロとエリシアは、変異カボチャを見極めようと目を凝らす。養分を吸収ということは、他よりも肥大化しているハズ、と。 アガートの左右から辿る2人の視線が1点で交わる。それはアガートが通り過ぎた直後の後方。 「今、アレ動いたよね?」 「ええ。確かに……アガートさん、後ろ!!」 エリシアの一言で疑惑を確信へと変えたゼロが叫んだ。その途端、巨大カボチャが宙に舞う。が、仲間の声を聞き、振り返るより先に『炎嵐』で後方をなぎ払う。 その一閃で南瓜を叩き落すと、改めて構えを取る。 「ダメだよ、まだ他にもいる!」 その瞬間、構えた後方からも蠢く影。変異カボチャは1体だけではなかったらしい。エリシアが一声叫んでから竪琴を爪弾き衝撃波を放つ。鳴り響くファンファーレ。 だが、落ちた1体の周辺からも更に南瓜がボコッ、ボコッと2つ増殖。 「後ろは任せる!」 後方に構ってなど居られず、飛来するカボチャを流水の如き一刀で斬り捨てる。その間にゼロは銀狼で後方の個体を抑えてから、改めて巨大な火球がその身を焼き尽くした。 「んー、やり過ぎたか? ま、どのみち南瓜行列には使えない、か」 (「……なら今度は、変異生物発生の仕組みでも研究するか?」) 冒険者の仕事も研究者としての興味も、まだまだ尽きることはないようだった……。
●そして 小さな小さな冒険譚 かくして、冒険者たちは3箇所に発生した変異動植物の脅威をほぼ同時、かつ瞬く間に取り除き、それぞれの地に住まう人々の安寧を取り戻しました。 その脅威は、何れもかつてのモンスターなどとは違い、冒険者たちにとっては敵と呼べるほどの相手にもなり得ません。でも……誰かが言っていたように、多くの人々に取っては依然として生活を脅かす存在で、だからこそ冒険者は今も世界を巡って働いている。 ――それは、小さな小さな冒険譚。だけど、多くの人々の輝くような笑顔が見られるのなら。それがボクたち冒険者にとっての何よりの報酬なのだから。
冒険者の酒場へと戻ったエリシアは、さっそく各地の冒険を物語風に纏める。そして、子供たちの笑顔のために各地へ歌って聞かせに行くのだった。
〜終わり〜

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参加者:8人
作成日:2009/10/30
得票数:冒険活劇3
ほのぼの1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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