アレの強さはLV1



<オープニング>


 くつくつと煮える鍋。
 和気藹々と、だが、時に容赦なく肉を奪い合い、箸と視線による牽制を繰り返しながら、それを囲む八人の人影。
 食材を巡り、突如訪れる静寂。
 じり……と見詰め合う最中、朱の蛇・アトリ(a29374)はそんな沈黙を破るように、おもむろに口を開いた。
「あのよ、旅団ショップに『アレ』入れたんだ」
「『アレ』? ……って、そのお野菜はわたくしのー!?」
 反応した瞬間、横合いから獲物を掻っ攫われる、春夏冬娘・ミヤコ(a70348)。蒼翠弓・ハジ(a26881)は何も言わず、だが、すまない、でも俺も食べたかったんだという顔をしている。
 そんな様子を微笑ましげに、野良団長・ナオ(a26636)は切ったばかりの野菜をどっさり持って自分の席に着く。
「まだ沢山あるから。ところで『アレ』って」
「……『アレ』のことか」
 何食わぬ顔で、せめぎあう箸の隙間を縫って程よく火の通った肉を回収した、金鵄・ギルベルト(a52326)が、何かにふと気付いてそんな一言を漏らす。アトリはそうだ、と頷いて。
「みんな試しに使ってみてくれねーか『アレ』」
「それは構いませんけれど」
「何処で使えばいいかしらねぇ?」
 泡箱・キヤカ(a37593)は柔らかくなって若干持て余されているきのこを回収しつつ、コラーゲン狙いを阻止されて少々箸をぷるぷる震えさせている、たゆたう婀娜花・イシュ(a49714)と顔を見合わせる。だが、アトリはそれすらも既に予定に入っていたかのように。
「っつーわけでワイルドファイア、行こう」
「確かにそれなら相手にも不自由しませんわね」
 そろそろ腹も膨れてきたので一足先に箸を置き、鍋に浮いていた灰汁を取りながら頷く、月笛の音色・エィリス(a26682)。一方で、野郎共はまだまだ肉を巡る牽制を続けている。
「『アレ』で怪獣倒して材料集めてでっけぇケーキ作るンだ」
 そんな合間に容赦なく割って入り……だが、撃退されてやむなく豆腐を摘んでうっかり崩壊させながら、その箸の先でケーキの輪郭を空中に描いて見せるアトリ。
「ローソク飾ってキャンプファイヤーしようそうしよう!」
「いいな! 賛成!」
「で……何故ケーキなんだ」
「常夏だからではなくて?」
「そういえばそうですね」
「それに、何しろ『アレ』使うんだもんなー」
「疲れたときは甘い物が恋しくなりますものね」
 そうと決まれば話は早い。
 具を食べつくした後の鍋に米を入れるかうどんを入れるかでまた牽制を始めつつ、結局両方入れるという炭水化物万歳鍋を食しながら、八人はどんなケーキを作ろうかといそいそ相談を始めるのだった。

 鍋の恋しいランドアースとは打って変わって。
 かっと照りつける常夏の日差しはやはり熱い。
 熱いが、勢いづいた皆はそんなことなど気にしない。
「材料は……ミルク、小麦粉、巨大卵に……巨大フルーツも忘れちゃなんねぇ」
「では、この果物から取りましょうか」
「……動いてますわねぇ……」
「早速『アレ』の出番か」
 見れば、たわわに巨大な苺の実をつけた蔓……の近くで、別の蔓がうねうねと動いている。動いている蔓さえ切り落としてしまえば、苺を摘むのはそう難しくないだろう。
 しかし……八人は何か、奇妙な感覚に見舞われていた。
「何か……この苺の近くだと、自職のアビリティ以外使っちゃ行けない気がする……」
「気のせい、ですわよね……?」
「ええ、気のせいのはずです……はずですけど……」
 気のせいにしろ、何故か使うと罪悪感に見舞われるような気がしてならない。それなら使わないほうがいいんだろうか……うねる蔓を前に、突如湧いた疑問に頭を悩ませる一行。
「じゃあさ、先にあっちの……大鶏の卵取りに行こうぜ!」
「そうだな……」
 悩むのは後にして、先に悩まずに済むものを取りに行こう!
 意気揚々と場所を変えた一行……だったのだが。
 ここでも何故か、ふっと浮かんでくる謎の感覚。
「なあ……」
「ええ、分かってますわ……」
「今度は、一番弱いアビリティしか使っちゃいけない気がしてきた……」
「何なのでしょうか」
「気のせいよねぇ……普通に使えるし……」
「でも使うとなんか……なんだろこの気持ち!」
 悩む一行を、鋭い眼光で睨み付けてくる親大鶏。地面を尖った爪でがりがり掻き毟り、今にも突進して嘴でこちらを攻撃してきそうである。
「えっと、つまり、両方取るには……」
「自職の、かつ、一番弱いアビリティだけで戦う、ってこと?」
 勿論、実際は気のせいである。
 気のせいとして押し通せば、無理にそうする必要はない。
 何故か良く分からない罪悪感のようなものは、感じるかも知れないが……それさえ我慢できるなら、何も問題は無い。
 しかし、アトリは。
「……しゃーねぇ、やるか!」
 やがて清々しい表情で、はっきりとそう言い放つのであった。


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参加者
野良団長・ナオ(a26636)
月笛の音色・エィリス(a26682)
蒼翠弓・ハジ(a26881)
朱の蛇・アトリ(a29374)
泡箱・キヤカ(a37593)
たゆたう婀娜花・イシュ(a49714)
金鵄・ギルベルト(a52326)
春夏冬娘・ミヤコ(a70348)


<リプレイ>

●あれっ?
 月笛の音色・エィリス(a26682)の眼差しは輝いていた。
 何故ならば。全員が『アレ』と『愛のエプロン』を装備しているからだ!
「とってもとっても素敵ですわ、可愛らしいですわ〜」
 そんな黄色い声援に、泡箱・キヤカ(a37593)も髪をポニーテールに、エプロンもきゅっと身に付け気合十分。
「ケーキ♪ とびっきり大きいの作って埋もれましょうー!!」
「なんたってアレがあっからな! 100本立てても大安心ケーキが作れっぞ!」
 同じくやる気満々で『アレ』を振り上げる、朱の蛇・アトリ(a29374)。
 春夏冬娘・ミヤコ(a70348)も「良いお天気ですわね♪」とお揃いエプロン姿でくるりと一回転、心は乙女な、たゆたう婀娜花・イシュ(a49714)も一緒になって一回転。
 一方の、野良団長・ナオ(a26636)の瞳の輝きは三十路に突入しても衰えることを知らない。
「んぁー。今日もワイルドファイアは冒険日和!」
「楽しい一日になりそうですね、宜しくお願いします」
 と、一礼しつつも、蒼翠弓・ハジ(a26881)は野郎共のエプロン姿に。
「……がんばりましょう」
 というか、皆の持つ『アレ』が調理器具なのに対し、金鵄・ギルベルト(a52326)の『アレ』だけはどうみても竹刀と黄色ヘルメット。だが、当人は「調理器具だ、問題ない」といった表情をしている。そんな状態で堂々とエプロン着用。流石、年輪を重ねた男は一味違う。

●苺と卵以外にも用意するものは沢山あるのだ
 荷車、布、ロープ……ハジの準備した荷物に頷き、工事現場監督状態のギルベルトが枝で地面に製作設計図を描く。これから、野郎共は石窯を製作に取り掛かるのだ。
「ん、力仕事なら任せておけ、な?」
「勿論。お願いするわね」
 ナオに促され、可憐な乙女は薪拾いにで出かけましょうと歩き出すイシュ。
 植物知識と、何よりも心強い現地ワイルドファイア生まれのキヤカを先導に、薪拾いの傍ら卵と苺以外の材料を探して回る。
「『バターの実』と、『こな』の実、先ずはこの二つを探しましょう」
 そんな話を聞く脳裏で、ミヤコは真っ赤な苺が『私を食べて♪』と誘っているのを思い出しつつ、大きな果物を見つけてはその時々に瞳を輝かせている。
「苺以外の果物もたっぷり欲しいですわ」
「チョコやカスタードのような物があれば是非押えたいですね」
 エィリスも不思議な植生に時折関心しながら周辺を見て回る。無論、毒物を採らないよう採取の前にキヤカに確認して貰うのも忘れない。
 採った薪と材料は、ミヤコとエィリスの召喚したフワリンに載せて……工事現場然としてきた臨時調理場へと運び込む。
 息を荒くしつつも、アトリは一生懸命石運び。
「監督ぅー、これこんな感じでおけ?」
「ああ。次はこっちだ」
 すっかり板についてる安全第一・ギルベルト。勿論、指示を出すだけでなく、自身も石材をソードラッシュで忙しなく成形している。
「荷車が使えれば、もう少し楽なんですけどね」
「フワリン持ってきて良かった」
 ナオの召喚したフワリンに荷車の荷台を無理矢理接続、そこに石材を積むと後ろから支え、時速8kmのフワリンに付き添って小走りに掛け回るハジとナオ。何しろ、舗装されていない大地で荷車なんて使おうものなら、あっという間に車輪がおしゃかだ。結果、荷台を御輿に見立てて担いで運ぶしか無くなり……皆に似せて作った等身大蝋燭を八本運んだ時には、アトリはもうそれだけで疲労で死ぬかと思ったものだ。
 とまれ、準備は滞りなく進み。
 ……それでも、窯が出来上がったのは昼を随分過ぎてからではあるが。
「おしゃ、じゃあメイン採りにいくぜ!」
 八人は二手に別れると、それぞれの成すべき場所へと向かって行った。

●一番弱い卵
 コツコツと地面を啄ばんでいた巨大鶏が五つの気配に鋭い視線を差し向ける。そんな鶏に『アレ』を両手に構え、エプロン姿の咥え煙草でメンチを切り返すナオ。
「……なあ、わかってくれ。卵が必要なんだ。主にケーキのために」
 ……あぁ、うん、言っても通じないとは思ってた、うん。
 ナオの脅しっぽい物言いに雄叫びを上げ、鋭い爪で地面を掻き毟って今にも突撃してきそうな姿勢をとる鶏。
 普段ならさしたる脅威も感じないところだ、が。
 今日の装備は『アレ』と『愛のエプロン』、加えて『一番弱いアビリティ』だ……!
「ネーちゃん、頼んだ。ちゃっちゃといただいちまいやしょお!」
「任せて頂戴♪」
 計量スプーン+計量カップな『アレ』を構えて告げるアトリにウィンクを一つ返すと、イシュはやる気満々な鶏に向け、
「まあ、おっきい卵! お味もきっとビッグな美味しさね♪」
 よく聞こえるようにわざと大きな声で言いながら、泡立て器+ボウルの『アレ』でこれ見よがしに卵を混ぜる仕草をして見せる。
 瞬間、地を蹴る鶏!
「今のうちです」
 真っ直ぐイシュに突撃するのを見届け、すかさずに卵へと駆け寄るハジ。その間に、イシュはおほほとエプロンの裾を翻し鶏の嘴アタック初撃を回避すると、手にした『アレ』で……幻惑の剣舞!
 平時から不可思議な舞いである剣舞も、泡立て器とボウルを手に繰り出すと更に謎めいて見える。しかも、ゴージャスオーラのせいで無駄に優雅。その有様たるや、貴族の踊りながら料理教室。だが、イシュの表情は浮かない。湧き上がる謎の罪悪感のせいだ。
 見た目はともあれ、剣舞にあてられ消沈する鶏。
 しかし、いつ怒って戻って来るかは解らない。十二分に気を払いつつ、卵を転がしても割れないようにとギルベルトが持ってきたウレタンを進行方向に素早く敷く。
 何しろ。
「割ったらナオさんのちゅーだからな……大事に大事にな」
「……絶対に割らない様に気をつけないとです」
 アトリが造作もなく告げる内容に、ハジは実に真剣な面持ちで卵をゆっくりとウレタン敷きの上へと転がし始める。ちなみに、ちゅーはちゅーでも、真の内容は『癒しの水滴口移し』だ。
 というか、何故、自分がそんな体を張った罰ゲームなのか。
「頼むから割らないように頑張れー」
 ナオも切実である。
 それよりも何だろうこの罪悪感。
 うう、これは夜に酒飲んで忘れよう。いや、いっそ自分で殴りに行けば……!?
 斯様な葛藤がナオの中を渦巻いているなどとは露知らず。アトリはここであえてハジの運ぶ卵に腐食の呪いを掛けるという悪戯を思いついたが……初めてのちゅー相手が三十路のおっちゃんは哀れ過ぎると思い、やめておくことにした。

●自職の苺
 うねうねと動く蔓。
 行きますよ、と目配せすると……キヤカが蠢く蔓へと距離を詰める!
 そんな頭上を、禍々しい気配と輝く白い槍が追い抜いていく。
「泡立て器とボールなアレの威力を味わって下さいませ」
 念じるようにミヤコが解き放つ腐食の呪い。召喚獣のガスを帯び赤く染まった負の力が蔓へ染み込み、表皮を無残に引っぺがす。
 無防備になった蔓へ続け様に突き刺さるのは、エィリスが『アレ』の棒状の方を差し向け解き放った慈悲の聖槍。
 そして、遂にそこへ辿り着くキヤカ。
 両の手に構えた『アレ』のうち、棒のほうに黒く浮かび上がる矢に向け、白蛇が緑のガスを吐きつける。
「ごめんねちょっと苺を取らせてね」
 振るわれた蔓をすんでで交わし、思い切り突き刺す影縫いの矢。召喚獣の力を得て強靭な拘束力を得たそれは、見事に蔓の動きを止め……あれれ、あれれれれ?
「……あぁもう絡まると解きたくなるっ!」
 後続の蔓がくねくね絡まっていく様に、思わずそんな事をいうキヤカ。エィリスは早々と次の聖槍を棒の先に生み出して。
「このまま早々に片付けて苺狩りをしたいですわ」
 まさに今のうちとばかり、容赦なく刺す。とにかく刺す。槍を刺す。
 キヤカも延々と近接で棒のほうを使ってぐいぐい矢をねじ込み……。
「えーっと……棒がなんとなくアレ(弓)に見えてきたような見えないような……アレだよねアレ! そう!」
 なんだか暗示に掛かってるような気もしないではない。
 だが、蔓も頑張る。
 時折、拘束を逃れてはキヤカを絡め取り、締め上げようと蠢く。その度に、エィリスが『アレ』の器の方を掲げ……何処かにありそうな彫像のような姿勢で、静謐の祈りを捧げる。
 しかし、流石に『アレ』のLVのせいか戦いは長引く。
 蠢く蔓。
 振り回される蔓。
 あまりの長期戦に、ミヤコが泡立て器でうっかり氷河衝!
「……これが謎の罪悪感というものですのね……っ!」
 なんという居心地の悪さだろう。
 でも、普通に攻撃するより、腐食を掛けたあとに氷河衝すると、魔氷の分少し早く倒せるはず。
「この居心地の悪さはケーキできっと忘れられますわ!」
 やがて蔓が砕けて動かなくなるまで。
 ミヤコは襲い掛かる罪悪感と戦い続けていたという。

●ケーキ!
 何だかんだと有りつつも、無事に回収さた卵と苺。
「それじゃ俺の得意分野行きますか」
 本領発揮とばかり、腕まくりをするナオ。何故か終始ふりふりエプロンを装着していることは気にしない。気にしたら負けだ。
「俺粉ふるいーーー!」
 勢いよく挙手して粉を篩いに掛けるアトリ。量が量だけに、篩えば篩う程真っ白になっていきながらも、ピンクエプロンをふりふり楽しそう。
 ハジは紙に写したレシピを皆が見える場所に掲げて逐一工程を確認しながら……粉篩いはアトリが楽しそうにやっているので、卵の攪拌と果物の切り分けを手伝うことに。
「苺はスライスとジャムにするといいでしょうか」
「そう、です、わね」
 自分が手を出すと、きっとカオスな味になる。故に差し障りのない作業をと、ミヤコは生クリームを作るべく、ひたすら山羊乳を瓶に詰め、ひたすら振り回していた。それはもうひたすら。ひたすらに。
 キヤカも果物をデコレーション用にカットしたり、採ってきた『カカオっぽい』を生成して、チョコレートを作ったりと大忙し。
「たくさん作りましょうー!」
「やっぱり混ぜるのが一番大変そうねぇ」
 力仕事になるだけに、卵と粉の攪拌は主に野郎共が担当してはいるのだが……相当量があるだけに大仕事だ。イシュはそんな人手の足りない所に回っては、ケーキ作りが滞りなく進むようにフォロー。
 そして、時折。
 そんな野郎共のふりふりエプロン姿を見て、思わず我に返るアトリ。
「よーし、流し込めー」
 組み立てた足場の上から指示を出す現場監督ギルベルトに従い、ごりごり流し込まれていく生地。勿論、監督もしっかり手伝っていたので粉だらけである。だが、それよりも更に色々大惨事なのがエィリス。
 粉と混ぜている最中に、うっかり手が滑ってボウルが空中浮遊、生地を頭から被ってしまったり。
 生地を流し込もうとした型の中に、今度は足が滑って倒れそうになったり。
 挙句には。
「よし、ひっくり返すぞ」
「せーのぉ!」
 アトリの号令一過、宙を舞うスポンジ。
 回転するスポンジ。
 落ちてくるスポンジ。
「きゃー!?」
 埋まるエィリス。
「ご、ごめんなさい、クリームの作りで腕が上手く動かなかったみたいなのですわ……!」
「ふふ。一人二人は生き埋めになると思ってたわ」
「大丈夫ですか?」
「……すみません」
 ほかほかになりながらも、無事に救出されるエィリス。
 その後、回数をこなすごとに生地の焼成も上達し。
 気がつけばそこには、巨大で美味しそうなケーキがばっちり出来上がっていた。
 綺麗にデコレートされた果物やクリーム。上部にはチョコレートで『キヤカ参上』……ではなく『OZ』の文字が、それはもう大きく大きく書き記され、その周囲には居並ぶ等身大の蝋燭八本。
 その様に思わず顔をほころばせるエィリス。
 本当に小屋のような大きさのケーキが目の前に鎮座しているのだから!
「果物が宝石みたいですの」
 日も暮れ、炎に揺らめく瑞々しい果物達に、ミヤコが思わず笑みをこぼした。

●ファイアすぎる
 蝋燭に灯される灯り。
 燃え上がる炎。
「蝋燭が……全員分あると壮観です……!!」
「自分の姿が溶けて……複雑ですの……」
「ああ……うわぁ、なんだろう、さっき回復したときと同じくらい切ない気持ち」
 キヤカ、ミヤコ、ナオがそんな感想を漏す一方、ハジは燃えゆく己に絶句し、エィリスは切なさに目を逸らし、イシュは胸の部分が溶けいく様子に密かに涙目になり。ギルベルトは割と気にせず自分の蝋燭から煙草に火を移して、全部食えるのかとケーキを見上げる。
 上部にはキャンプファイア並の火柱。キヤカは憧れの家サイズのお菓子を前に目を輝かせ。
「食べてもいい? もういい?? いっただっきまーす♪」
「美味しいですの! これなら商品として十分通用しますわ」
 トンネルを掘ったり部屋を作ったりし始めるキヤカを脇に、ミヤコも体力の続く限り食べ続ける所存で……あぁ、でも、お酒の香りも気になる。
 エィリスもはもはもとケーキを食べながら、甘いものばかりでは飽きるだろうと材料探しの折に調達しておいたお茶を、ナオに淹れて貰う。
 そんな中、自動的に行われる羽目になっているのは、誰の蝋燭が一番最後まで残るかバトル……!
 自分のだけは倒してなるものかと闘志を秘めつつ、ケーキは美味しく頂くイシュ。ハジもとにかく自分のは倒さないように取り分ける場所に気をつける。しかしなにより、アトリは一番倒れ辛そうな場所を選んで立てた蝋燭に、ケーキをもぐもぐしながら。
「おっしゃ、俺ローソクよ最後まで立て! そして姫に倒……!?」
 ……蝋燭は一番口の減らない子に当たるわよ、きっと。
 そんなイシュの心の声をまるで聞いていたかのように。
「……あ、しまった崩れ……」
「たす、ギャー!?」
 内側を食い荒らしたキヤカの功績により、ケーキは派手に陥没。蝋燭は見事アトリを直撃したという。しかも、複数個が。
 一方、埋もれたキヤカはクリームだらけでとても幸せそうな顔。
 ギルベルトも何だかんだといいつつも満足顔で……実は、誰よりも沢山食っていたりした。陥没に皆意識を取られがちだが、蝋燭倒壊の真の立役者はギルベルトだったのかも知れない。
「今度はアレ使ってアレしようね!」
「だな、アレしようぜ!」
 弾ける笑顔と、それを照らし瞬く星。
 いつもよりも沢山食べられる気がするのは、満天の星空やこんな皆の楽しそうな笑顔をみているせいだろうか。自分も思わず笑顔になりながら、ハジはそんな事を考えた。

 かくして、皆が腹一杯になった頃。
「ほい、お待ちどう」
 窯と蝋燭の残り火で暖めた熱燗と、ナオの作っておいた肉料理を肴に始まる大人の時間。
 やがてそれも終わる頃。
 次第に静まり返っていく宴の跡。
 ギルベルトだけは火酒を飲みながら寝ずに火の番をして……幸せそうに眠る皆の顔を一巡し、ふっと緩く笑みを浮かべるのだった。

 尚。
 形状はともかく。
 『アレ』の分類は、霊枝+聖杯である。


マスター:BOSS 紹介ページ
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作成日:2009/12/07
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