それは時を越えて



<オープニング>


●2019年の世界
 インフィニティマインドが星の世界への旅から帰還して4年が過ぎた。
 世界は相変わらず平和で、冒険者達は変異動物や怪獣と戦ったり、人助けをしたり、旅に出たり、第二の人生を歩み始めたりと、思い思いに暮らしている。
 そんな中、誰かが言った。
 魔石のグリモアとの最終決戦から10年。世界が平和になって10年。
 この節目の年に、久しぶりにみんなで集まるのはどうだろうか。
 互いの近況や思い出話など、話題には事欠かないはずだ。
 さあ、冒険者達の同窓会へ出かけよう!
 
「暑い……ほんとここはいつ来ても夏だな……」
 ぐったりとした様子のエルフの霊査士・セルフィ(a90389)。珍しく遠出をしてワイルドファイアまで来たものの、既に暑さに参っているのかすぐさま日陰へと退避する。
「いやー、霊査士辞めて骨董品店開いたのはいいんだがなー。仕入れのときとかぐらいしか外に出なくなったもんで、もうすっかり日の光に弱くなった感じがするなあ」
 それ単に歳のせいじゃ、と言おうとした冒険者のほうにどすを利かせるセルフィ。生命の書で不老になることも可能だったのであるが、そこまで長生きしたいとも思えないし、との理由で今までどおり加齢を続けていた彼女であるが、それでも歳のことだけは言われたくない様子である。
「そろそろお肉を焼き始めますよー!」
 山盛りの肉を掲げながら、宴会の中央に居るのは今日も一日・ランティ(a90391)である。その姿は大体20代前半……セルフィが不老を拒んだ一方で、冒険者をまだ続けたいからと不老となることを選択したのだった。
「さあっ! 皆も何時までも日陰に居ないで、早く宴会を始めましょう!」
 
●2109年の世界
 世界が平和になってから、100年の時が過ぎた。
 年老いた者もいれば、かつてと変わらない姿を保っている者もいるし、少しだけ年を取った者もいる。中には寿命を迎えた者も少なくない。
 そんなある日、冒険者達にある知らせが届く。
 100年前に行った、フラウウインド大陸のテラフォーミングが完了したというのだ!
 昔とは全く違う姿に生まれ変わったフラウウインドは、誰も立ち入った事の無い未知の場所。
 そうと聞いて、冒険者が黙っていられるはずがない。
 未知の大陸を冒険し、まだ何も書かれていないフラウウインドの地図を完成させよう!
 
「うーん……なかなか釣れないですね」
 竿を引き寄せ針を手元に戻すランティ。残念ながら先についている餌は突付かれた様子すらなく、思わず肩もがくりと落ちてしまうというものだ。水が澄んでいて多くの魚の影が克明に見える分、余計にだろう。
「皆さんも頑張って釣ってくださいね! ……ろくに食料を持ってきてないので、釣れなければ晩御飯は美味しい水だけになっちゃいます」
 力任せに竿を振るい、遠くのほうまで釣り針を飛ばすランティ。フラウウインド大陸に地図作りに来たものの、途中で旅糧を忘れてしまったことが発覚。丁度近くにいい感じの泉があったため、現地調達で凌ごうという結論に至ったのであった。
「あっ、そういえばこの泉の名前も決めちゃいましょうか。何がいいですかねー……」
 そうしてただ待つのも暇、と仲間達と共に泉の名前を考える事となったのだった。
 
●3009年の世界
 世界は1000年の繁栄を極めていた。
 全てのグリモアを搭載した『世界首都インフィニティマインド』には無敵の冒険者が集い、地上の各地には英雄である冒険者によって幾百の国家が建設された。
 王や領主となって善政を敷いている者もいれば、それを支える為に力を尽くす者もいる。相変わらず世界を巡っている者もいたし、身分を隠して暮らしている者もいて、その暮らしは様々だ。
 1000年の長きを生きた英雄達は、民衆から神のように崇拝される事すらある。
 今、彼らはこの時代で、どのような暮らしを送っているのだろうか?
 
「ああ、もう……全然売れねえなあ」
 ぼやく様に言う青髪の少女。老舗の骨董品というと聞こえはいいが、そこに置かれた商品に価値を見出せない者からしてみればただのガラクタ屋である。先祖の道楽から始められたという店のカウンターで、セルフィという名の少女は疲れたようにへばっている。客が来なくて――実際は客は来るのだが、購入に至る人が少ないのだ――非常に暇なのである。
 とはいうものの、実はこの店1000年近くも続いているせいもあってか、通からすれば垂涎ものの品が平然とその辺に置かれていたり、初代の店主の知り合いであったという冒険者達が訪れたり、とで通常の骨董品店とは一線を画していたりするのだが。
 そんな店の戸がギィと音をたてて開かれる。
「……ん? ああ、お客さんか。埃被ったような品の紹介と、埃被ったような話しか出来ないが、ゆっくりして行きなよ」
 
●数万年後の世界
 永遠に続くかと思われた平和は、唐突に終わりを迎えた。
「あれ、海の向こうが消えた?」
 異変に驚いてインフィニティマインドに集まった冒険者達に、ストライダーの霊査士・ルラルは言った。
「あのね、これは過去で起こった異変のせいなの。過去の世界で……希望のグリモアが破壊されちゃったんだよ!」

 とある冒険者がキマイラになり、同盟諸国への復讐を試みた。
 彼は長い時間をかけて、かつて地獄と呼ばれた場所にある『絶望』の力を取り込むと、宇宙を目指した。
「えっと、これ見てくれる?」
 ルラルは星の世界を旅した時の記録を取り出した。
『2009年12月10日、奇妙な青い光に満ちた空間を発見。後日再訪したその場所で過去の光景を目撃。詳細は不明』
「この記録を利用できるかもって思ったみたいだね。そして、実際にできちゃったの」
 どうやら、この空間は過去に繋がっていたらしい。男はここから過去に向かい、希望のグリモアを破壊してしまったのだ!
「世界が平和になったのは、希望のグリモアがあったからだよね。だから希望のグリモアが無かったら、今の世界は存在しないって事になっちゃう。ルラル達、消えかかってるの!」
 今の世界は、希望のグリモアが存在しなければ有り得なかった。
 だから希望のグリモアが消えた事によって、今の世界も消えて無くなろうとしているのだ。
「これは世界の、ううん、宇宙の危機だよ! だって、みんながいなかったら、宇宙はプラネットブレイカーに破壊されてたはずだもん! だからね、絶対に何とかしなくちゃいけないんだよ!」
 ルラルにも方法は分からないが、事態を解決する鍵は、きっとこの場所にある。
「でも、この空間……えっと、タイムゲートって呼ぼうか。このタイムゲートの周囲には、絶望の影響で出現した敵がいるの。これはね、全部『この宇宙で絶望しながら死んでいった存在』なの」
 彼らが立ちはだかる限り、タイムゲートに近付く事は出来ない。
 彼らを倒し、タイムゲートへの道を切り開くのだ!
 
 鋼の体を軋ませ、それは頭をもたげる。その巨体にかき抱くは、自らの体と同様に巨大な隕石である。鈍い金属光沢を放つ顎を歪ませそれは哂う。
 ――我を止めれるものなら止めてみよ。出来るならば、な。
 まるでそう言っているかのように大きく翼を広げたそれは、タイムゲートにて冒険者達の来襲をただ待つのであった。
「皆に戦ってもらうことになるのは、鋼みたいな体を持つドラゴンだ。見た目通りとっても頑丈で、力も強いらしいな」
 セルフィ曰く、恐らく大昔にプラネットブレイカーが尖兵として放ったドラゴンのうちの1体なのだという。隕石自体には今回は意味がないが、その名残なのだそうだ。
 昔骨董品店で燻っていた少女は、何時しか霊査士となり長い年月を生きる存在となっていた。セルフィは知る由もないが……彼女の説明するドラゴンは、嘗て同一の名と姿を持った先祖が担当した相手であった。
「このドラゴンのブレスには、相手の守りを崩す効果と正常な判断を出来なくさせる効果がある。上手く回復役の人を確保することが、勝利のカギだろう」
 そう言い冒険者達を送り出すセルフィ。例えどのような存在であっても、嘗て多くの戦いを経てもぎ取った平和を乱すというのならば打ち破るのみである。
「なかなかの強敵で辛い戦いになるだろうが……絶対に勝ってくれると、信じているぞ」
 数万という時を超えて、今再び戦いの火蓋が切られた。


マスターからのコメントを見る

参加者
蒼の閃剣・シュウ(a00014)
浄火の紋章術師・グレイ(a04597)
降りそそぐ木漏れ日・スタイン(a04948)
狩人・ルスト(a10900)
山猫・クレイ(a19535)
奇爵・レーニッシュ(a35906)
冬凪・ユーリー(a38586)
星槎の航路・ウサギ(a47579)
瑠璃色の魂抱く大地の守護者・ペルレ(a48825)
慈愛の聖母騎士・ニーナ(a48946)
金鵄・ギルベルト(a52326)
蒼き炎・アーリス(a58055)
黄昏の幻光・リュミナ(a58750)
断章・グリフォス(a60537)
緑仙・リッケ(a66408)
蒼氷と共に歌う白翼・ライナ(a66736)
白月・ミネルバ(a73698)
耀う祈跡・エニル(a74899)
NPC:今日も一日・ランティ(a90391)



<リプレイ>

●同窓会
「それにしても……皆さん本当にお久しぶりですね」
 焼けた肉を片手にしみじみと呟く今日も一日・ランティ(a90391)。既に肉の争奪戦が始まっているからか、鉄板の上の獲物めがけて箸を奔らせる姿が全くしみじみとしていないところはご愛嬌である。
 最後の戦いから10年という年月が経過した今も、灼熱常夏のワイルドファイアは変わらずその広い懐で冒険者達を迎え入れている。それこそ今日のように宴会の舞台になることも少なくない。
「まるで冒険者の酒場に来たときのようですね。自分は冒険者は引退してしまいましたので……今日は色々な方のお話を聞きたいですね」
 そんなランティの様子に苦笑を浮かべる山猫・クレイ(a19535)。実は近くで怪獣狩りをしていたらしいのだが、こういった催しがあると聞き駆けつけてきたのだった。勿論というように怪獣肉を持参してきており、それは現在降りそそぐ木漏れ日・スタイン(a04948)の手によって調理されている真っ最中であった。……もっともかなりのサイズがあるため、切り分けていくだけでも大仕事らしく今も必死に調理場で包丁――というか鉈に近いものを振るっている最中である。
「やあ、ランティさんお久しぶりです。よろしければ一杯お作りしますよ?」
 態々着替えてきたのだろう、バーテンダー風の衣装に身を包んだ浄火の紋章術師・グレイ(a04597)が、シェーカーを片手に即席の机に並べられた大量の酒を指し示す。
「う〜ん、今は食べるのに集中しようと思うので、食後辺りに何か作ってもらえると嬉しいかなーです。――ところで」
「おっと、何を言わんとしているかは大体予想できますが、ご心配いただいている生え際は、後退せずに戦線を維持していますよ。……皆様に鍛えていただいた結果でしょう」
 にこりと穏やかな笑みを浮かべるグレイであるが、右頬辺りがピクピクと痙攣しておりそれがなんともいえない圧力感を見る者に与える。この10年間で多くの人々に相当鍛えられたらしい生え際の方は、確かに以前見たラインを維持している。
 ――が。
(「蝋燭は燃え尽きるときほど強く輝く、って言いますよね」)
 あえて言葉にしないのは優しさか、それともそのほうが面白いからか。それが最後の輝きであると考えたランティは、どこか労わるような目でじっと生え際を見つめる。……その姿は、まるで最後の姿を目に焼き付けようとでもするかのようであった。
「ふぅ、ウサギ鍋は良いね。ウサギ鍋は心を潤してくれる。人類の生み出した文化の極みだよ」
「あっ、シュウさん。……でも、10年も経ったのにまだありつけてないんですよね」
「じゃあ10年記念ってことで――」
「あ、あう、どうしてさっきからチラチラとウサギの方を見てるのですかー!」
 チラチラ、と言わずガン見していた蒼の閃剣・シュウ(a00014)とランティに、『ちょっとは成長したんですよ。ぷちせくしー!』を自称する星槎の航路・ウサギ(a47579)が抗議の声をあげる。またウサギ鍋か! 10年もそのネタ引っ張るのか! と言いたげなウサギをスルーし、話し合いは進められていく。ほら、食材はそこにあるんだし――とでもいうように。
「そ、そう、お土産! お土産です! 矢鱈美味しいお魚が居るって聞いたので、今日のために頑張って戦ってきましたです……!」
「……尻尾ですか」
「……あ、揚げれば美味しいと思います」
 話を逸らそうとお土産を差し出すウサギであったが、差し出されたのは小振りな魚の尾びれのみであり、キョトンとそれを見つめたランティとシュウは、一度大きく頷くと何事もなかったかのようにウサギ鍋談義へと戻っていく。
「ま、待ってください! わんもあチャンス! わんもあチャンスをウサギに……!」
 既に泣きが入りつつあるウサギは、あの手この手で話題逸らしをする羽目になるのであった。10年というラインが、まだ序の口であるとは知らずに。

「……ホント、元気だなあいつ等」
「そういうセルフィさんは、元気がなさ過ぎるような気もしますけど」
 お久しぶりです、とそっと告げる断章・グリフォス(a60537)。そんなグリフォスが思わず苦笑を浮かべてしまう程に、日陰でのびているエルフの霊査士・セルフィ(a90389)の姿からは気力が感じられない。
「セルフィさん、霊査士を辞められていたんですね」
 たまに酒場を覗いたりしてみていたんですけどね、と頬をかくグリフォスの顔を、物好きなやつも居たもんだ、とでも言いたげに眺めるセルフィ。
「んー……まあ仕事も以前に比べれば減ったしな。ある程度の蓄えも出来たし隠遁隠遁」
 要は好き勝手にのんびり暮らしてるよ、とセルフィは笑う。
「俺は読み書きの勉強を2、3年したあと、各地を巡り書物を読み漁りました。……何れにせよ、まだまだだと実感するばかりです」
「向上心あるなあ。……不老になることを選んだんだろ? その調子なら当分は大丈夫そうだな」
 精神の老いこそが肉体の滅びへと繋がる不老という状態であるが、少なくとも自らを未熟と感じ生きる限りは滅びを迎えることはないだろう。
「それにしても、あんまり日陰ばかりに居ると体に苔が生えるぞ?」
「太陽に焼かれて死ぬよりマシだ」
 からかい混じりの緑樹の精霊・リッケ(a66408)の言葉に、半ば本気というようにもぞもぞ寝返りをうつセルフィ。よっぽどのことでもない限りは、日陰からは出たくないらしい。
「そうまで言われると、無理やりにでも日向に出してみたくなるな……」
 宴会で出されていた料理を、喫茶店でも流用できないかと味見していた蒼き炎・アーリス(a58055)が、手をわきわきと動かしながら迫るが、こういうときに限って無駄に迅速にささっと別の日陰へと逃げ去っていくセルフィであった。そんな様子を見て、リッケとアーリスは顔を見合わせて『普通に動けるんじゃないか』と苦笑を浮かべるのだった。

「おひさしぶりです」
「ああ、今度はライナか。今日は懐かしい顔が多いな。……まあ隠遁生活のせいで、殆どのやつは懐かしい顔なんだが」
 エンジェルらしく相も変わらず若々しい姿を保っている蒼氷と共に歌う白翼・ライナ(a66736)を、どこか眩しいものでも見るかのように目を細め見つめるセルフィ。自分がこの世から消え去ったとしても、ライナ達のように不老の力を持つ者達はおそらく殆ど変わることなくあり続けるのだろう。未来の世界で、仲間達の輪の中に自分は居ない……それを少し、ほんの少しだけセルフィは寂しくも感じてしまうのだった。
(「今のまま生き続けるってのを選んだのは私自身のはずなんだがな」)
 ガリガリと頭を掻き思考を中断するセルフィ。最近は年のせいか一度物思いに耽ると抜け出せなくなりつつあるから困るのだ。
「大丈夫ですか? ……そうそう、子孫に昔行った焚火の事でも伝えていきましょうかね」
「おいおい、人の子孫に先祖の恥を伝えるのだけは勘弁してくれよ」
 急に頭を掻くセルフィを不思議そうに見つめながらも、特に意味はないのだろうと感じたライナが、奇しくもその未来のことを話し笑うのだった。
「ふふ、じゃあセルフィさんはその子孫を残せるように頑張らないといけませんね。大切な人は見つかりましたか?」
「ぐっ……」
 痛いところをついてくるのは瑠璃色の魂抱く大地の守護者・ペルレ(a48825)である。未だに独身のセルフィとは違い、既に子持ちとなっているペルレがこの場で圧倒的に有利なことは火を見るより明らかなことであり、セルフィはといえばそっと目を逸らして他の話に切り替えねばと策を練るのだった。
「はいっ、とりあえず今日は飲みましょう♪」
「……お前、そういや酒」
「大分強くなったんですよ!」
 10年前の惨劇を忘れるものか、と内心思うセルフィ。お土産にとペルレが持参した楓華の地酒は確かに美味そうなのだが、果たしてこのまま安易にペルレの言葉を鵜呑みにしていいのかどうか……。
『ギャー! 親分煙管は駄目、煙管はゆりりんだけの特権――』
『はっはっは……主も変わりない様で』
 突如横合いから聞こえる何かで殴り飛ばすような殴打音と、地面を転がり這いずるような摩擦音。何事かと顔を向けたセルフィは、今度はあいつ等か……と苦笑を浮かべるのだった。

「我輩ピンポイント迎撃とか酷いっ! ちょっと茶目っ気出して、子供達と一緒に悪戯しようとしただけなのにっ!」
「煩え! いつも茶目っ気だけで生きてるようなくせしやがって……」
 頬を押さえながら抗議の声をあげる奇爵・レーニッシュ(a35906)。よっぽど殴られた箇所が痛かったのか、半泣きでハンカチを噛み締め金鵄・ギルベルト(a52326)を見あげている。ちなみにどれだけの威力で殴られたかというと、悪戯に協力したヒトノソリンのマサさん(34歳独身)のノソリン変身が解けてイヤーンなハプニングが起こる程度である。
「もうろくでもしたんじゃないかと思っていましたが、まだまだしぶといようで」
「相変わらずしれっと容赦ねえなあ……あの兄ちゃんには気をつけろよ」
 優雅に椅子に腰掛けながら、色鉛筆をはしらせる耀う祈跡・エニル(a74899)。描かれる内容はといえば、10年前は日常的とも言えた仲間達の掛け合いの姿である。いざ描いてみると……人間10年やそこらで本質は変わらないものだ、とエニルは静かに微笑む。
 さらっと吐かれる毒に、変わってないなと安堵の気持ちはあるものの、だからこそ油断はしてはいけない、と連れてきた子供達に教える冬凪・ユーリー(a38586)。養子の子供達の世話に終われる毎日のせいか、すっかりと『オカン』が板についてきた彼は、久しぶりの再会だというのに気苦労に振り回される運命にあるようだ。
「ゆりりん! ゆりりん! 親分が酷いのっ。ちょっと51歳独身の負け犬とかヒトノソの人に頼んで追い回そうとしただけなのに! 久しぶりに会ったっていうのにあんまりだと思う次第であるよ!」
「ああもう、いいから少し落ち着け」
「相変わらず賑やかだな、お前等は」
 足に纏わりついてくるレーニッシュを蹴っているユーリーの様子をみて苦笑を浮かべるのは、先ほどまでペルレに絡まれていたセルフィである。どうやらこの騒ぎを抜け出す口実に使ったらしい。
「ああ、セルフィさん。セルフィさんも思いませんか? レーニッシュ君は良いお嫁さんをゲットしたな、と」
「駄目亭主に世話焼き女房、だよな」
 ユーリーを指差しながら嫁、嫁と笑うエニル。思わず嫁じゃねえ! と手を振ってアピールするユーリーであるが、足元に駆け寄ってきた子供達の世話をついついしまってるせいで台無しである。
「そうそうユーリー、これ頼むわ」
「っとと、刀ぐらい何時でも打ち直してやるが、お前さんも子供扱うぐらい優しく丁重に扱えよー」
 ギルベルトが無造作に放った刀を受け取り、刃を確認したユーリーが顔をしかめ言う。しかし当の本人はといえば、ユーリーの言葉などどこ吹く風といった様子で子供達に焼き菓子を配っている。
「エニルは最近コレはどうよ」
 にぃ、といやらしく口元を歪めたギルベルトが、小指を立てて問う。
「僕ですか? 長期戦の様相を呈してますが……最低でもギルベルト君には負けないようにしたいな、とは」
「はン、言ってろ。お前が何時音を上げるか楽しみにしておくぜ」
 最近白髪が混ざり始めた髪を掻き笑うギルベルト。そんな反応も予想の上だったのだろう、エニルは浮かべていた笑みをより一層深いものへと変化させる。
「さぁ、マイサン&ドーター達。親分に傷付けられ、ブロークンハートな我輩のハートを慰めておくれっ!」
『…………』
 両手を広げ待ち構えるレーニッシュの脇を素通りして、ユーリーお母さんのもとへと駆け寄る子供達。挙句レーニッシュを怪訝そうな目で、ユーリーの後ろから覗き込んでいるのだった。
「……そんな、我輩……こんな、仕打ち?」
 あまりにもあんまりな出来事に、思わずレーニッシュの時が止まる。4年間の愛情たっぷりな日々はなんだったのだろう、そう自問せずにいられないレーニッシュであった。
「……懐いてない、です?」
「コイツ、いつもこんなのだからなぁ」
 子供達用にお肉を、と思い運んできたランティがその光景を見て呟く。思わず哀れみの目を自称紳士に送ってしまうのも仕方のないことだろう。暴走紳士は両手を広げたポーズのまま、ぷるぷると震え心の中で泣いていた。
 尚この後紳士は子供達にお菓子――元はギルベルトが与えたもの――を貰い早々に復活していた。

「結局私も日向に出る羽目になってるな……」
「ほらっ、何時までも文句ばっかり言わないの。それに……たまには良いでしょ?」
 嫌そうに上空で輝く太陽を睨み付けるセルフィ。そんなセルフィを、ランティがたしなめるように言う。
「ん……まあ10年に1回ぐらいなら、いいかもな」
 酒がまわり始め一層喧騒が大きくなったように思う周囲を見渡し、頭を掻くセルフィ。そして徐に杯一杯に注がれた酒を飲み干すと、大きな声で誰にともなしに御代わり要求する。
 宴会は、まだまだ始まったばかりである。

●魚釣り
「こんだけなんも釣れんかったら、なんか眠なって……んぐぅ」
 釣り針を垂らしながら眠りへと突入していくマーズ。白月・ミネルバ(a73698)の子孫である彼は、トロウル特有の節くれ立った手の中には、ゆらりゆらりと水に揺れる釣り竿があり、その緩やかな振動がさらなる眠りへとマーズを誘っていく。
「マーズさん、マーズさん! 引いてますよ、マーズさん!」
「……んぁ?」
 ――魚が釣り糸を引いていることに気付かないぐらいに。
 思わず手を伸ばしたランティが、代わりに揺れる竿を引っ張りあげる。
「うーん、餌が悪いのかねぇ?」
 魚に姿が見えないよう寝ころびながら竿を動かすシュウであるが、不満そうに動かされる釣り針には魚がつつくような感触すらない。餌、餌……と周囲を見渡すシュウの目に止まるのは――ウサギ。
「あ、あうっ? 何か不穏な視線を感じるような……」
 マーズと同様に眠りに落ちようとしていたウサギは、ビクリ、と体を震わせ周囲を見渡す。素手で数匹魚を捕まえたウサギだったのだが、周りで釣っている人達に魚が逃げると怒られたため、今は釣り竿へとチェンジしている。それでも釣果は好調なのか、傍らに置かれたバケツの中には多くの魚が優雅に泳いでいる。
「ほら、ランティ。やっぱり『餌』って大事なんだよ良質な餌には魚がすすんで食いついて――例えばウサギ鍋とかいい餌に」
「あうっ……! 100年たってもそれを引っ張るんですね!」
 シュウのウサギ鍋への執念ともいえるものを直に感じ、恐怖に身を震わせるウサギ。つっこむまい、つっこむまいと今までは思っていたが、その『ウサギ鍋』のウサギって動物の方なんだろうか、それとも――。
「大きな具材ゲットです」
 ぎゅっ。じゅるり。
 胴にまわされる腕がしっかりとウサギを確保する。そして続く涎をすするような音。
「あ、あうーー! ウサギは食べられないのですよー!」
 食われるっ!
 背後からランティに抱きすくめられたウサギは、あまりの恐怖に絶叫し泡を吹きながら気絶する。
「……や、やりすぎましたかね」
 予想以上の反応に目を白黒とさせるランティ。ちょっとした悪戯のつもりだったのだが、その腕の中でうめき声を上げうなされる羽目になるウサギであった。
「キャッチ! ……アンドリリースですぅ」
「ちょ、ちょっとリュミナさん。折角釣れたのに勿体ない……」
 釣れた魚をさっさと放流してしまう黄昏の幻光・リュミナ(a58750)の行動に、驚きの声を上げるランティ。何せご飯がかかっているのである。
「ご飯がなくても、心温まるエンジェルの名言があれば大丈夫!」
「……!!」
 嫌な予感がした冒険者達がとっさに耳を塞ぐ。それは歴戦の冒険者としての勘がなせる技か、その直後に響く楽しげなリュミナの声。
「野菜をもっと食べヤサイ〜〜っ」
 空気が、凍った。

「おや、ランティさん。奇遇ですね」
 湖の側にある茂みから、ぬっと顔を出すグリフォス。
「奇遇……って、途中まで一緒にきてたのに、急に居なくなってびっくりしたんですよ! 迷子ですか?」
「迷子? いえいえ、迷子じゃありませんよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……すいません、迷子です」
 体中に葉っぱやらをくっつけたグリフォスが、まるで偶然であったかのようなシチュエーションを装うが、元々途中まで一緒にきていた時点で無理がある。泉に着く寸前で一行を見失ったグリフォスは、1人寂しく仲間達の姿を探し森をさまよっていたのだった。
「釣りですか……餌はちゃんとついてますか?」
「きゃあ!? 何事もなかったかのように、急にミミズを目の前に突き出さないでください! ついてます、ついてますから!」
 餌としてつける際に触るのすら我慢してやっているというのに、それを眼前に突き出されたらたまったものではない。必死に逃げようとするランティと、それを追いかけるグリフォスという奇妙な奇妙な光景がしばらく繰り広げられた。

「そろそろいい感じに煮えんでー。皆遠慮なく食いやー」
 厳つい顔をくしゃくしゃの笑みに変え、よく煮えた鍋を運んでくるマーズ。温かな湯気が立ち上り、香辛料の香りが空腹の冒険者達の胃をしたたかに刺激する。
「実はとっておきの具も入ってるんですよー♪」
「とっておき?」
 不思議そうに首を傾げる仲間達に、頭の上に両手を添えるジェスチャーをするランティ。それが意味するのは――。
「おお……遂にウサギ鍋を」
 感慨深げなシュウ。100年も続いたウサギ鍋への執念が、遂に今成就するのだ……!
「あう、あう……」
 青い顔をしたウサギが、自らの体を両手で抱きしめるようにして後ずさる。何というか、来るべき時がきてしまった、といった感じである。
「そういえば湖の名前ってどうしましょお?」
「……そういえば忘れてました」
 ウサギ肉を頬張っていたランティが、呆然とした表情で顔を上げる。
「何かいい案ありますか?」
「ん〜、あたいは特にないかな」
 ウサギの前でこれ見よがしにウサギ肉をかじっていたシュウは特にこれといった案はないらしく、肩をすくめてお任せの意を伝える。
「『食卓の湖』、っつーのはどうやろ。魚多いし、美味いしなー」
 はふはふ、と熱々に煮込まれた魚を口に放り込むマーズ。確かにこの湖に住んでいる魚は食用にできるものばかりで、近くの林からは食用可能な野草が豊富に育っており、その名前はピッタリなようにも思える。
「え〜、わたしは『ペッタン湖』とか『ランティ湖』とかの方が――い、いえいえいえ、冗談ですよぉ!」
「……自分だって似たようなものなのに」
 ギロリ、とリュミナを睨みつけるランティ。100年経っても変わらなかった大平原を手で庇いながら、リュミナの大平原と見比べる。
「う、うーん、水がすごく綺麗だから、クリスタルレイクとかどーでしょお」
 気を取り直して――話を逸らすようにともいう――提案するリュミナ。昼間見た湖の水は透き通っており、中に住んでいる魚の姿までハッキリと確認することができた。
 どちらの命名も湖の特徴をよく示した名前であり、甲乙つけがたいものがある。となると――。
「しゃーない、やるかぁ」
「負けませんよぅ!」
 突き出される拳と拳。
 そして。
「っしゃあ! んじゃ『食卓の湖』に決定やな」
「うぅ……負けちゃいましたぁ」
 マーズの手は堅い拳を、リュミナは人差し指と中指を伸ばした状態で。
 こうしてフラウウインド大陸に『食卓の湖』という地名が誕生したのである。

●骨董品屋にて
「ま、ちょっと散らかってるけど気にせず見ていってくれ。それとも昔世界を救った冒険者の話か? 今頃インフィニティマインドの中で迷子になってる、って話もあるぜ。あう、あう、ってな」
「ふむ……」
 セルフィの話を聞いているのかいないのか、その顔をじろじろとのぞき込んでいるライナに、セルフィが怪訝そうな表情を浮かべる。
「あー、なんだ。……私の顔に何かついてるか?」
「あ、いえいえ、申し訳ありません。貴女がとてもセルフィさんに似ていたもので」
「セルフィは私だが……って、ああ。初代のことか」
 得心したというように腕を組むセルフィ。
「てことは、アンタは1000年前から居る冒険者か」
「ええ、よくわかりましたね」
「たまにいるんだよ。初代の知り合いだった、って訪ねてくる冒険者がさ」
 傍らに置かれた壷をひょいと手に取ったセルフィが、手拭いで適当に磨き始める。あまりにも無造作な動作の為、見ているほうが落として割ってしまわないかと冷や冷やするような様子である。
「骨董品屋とは、セルフィさんらしいですね。……貴女を見ていると、セルフィさんとした焚き火のこととかを思い出しますよ」
「ほー、焚き火ねえ」
 少し興味が湧いたのか、ライナの方に向きなおるセルフィ。その姿はかつて霊査士をしていたセルフィそのものと言っていいほどに酷似しており、本当に別人なのだろうかという疑惑すらライナは抱いてしまう。
「焚き火でお芋を焼いたりしたんですよ。……人に言えないものを、燃料にしてね」
「……私の先祖は何やってるんだ?」
 頬をひきつらせるセルフィ。そんな様子を楽しむように、ライナはにこやかな笑みを浮かべ眺めていた。
「本当に、昔霊査士をしていたセルフィによく似ているな、キミは」
「……思わず千年ぶりと思ったが、本人じゃないのか」
 いつの間にかやってきていたのか、ガラクタを抱えたリッケとアーリスが先ほどのライナ同様にじろじろとセルフィを見つめる。
「いやー、アレでよく旦那が見つかったもんだ」
「……それって、私も旦那を見つけるのに苦労する、って言いたいのか?」
 日頃から初代に似ている似ていると言われるセルフィとしては、正直その評価は受け入れがたいものがある。頬を引きつらせるセルフィの内心を知ってか知らずか、アーリスは抱えていた荷物をカウンターに置くと一息をついた。
「あ、うちで見つけた千年前の裁縫道具、置いていっていいか?」
「廃品回収やってるわけじゃないんだがなあ……まあ千年前の、ってことなら良いだろう」
「へぇ、これが千年前の品か。――他にも1000年前の品ってあるのかい? 出来れば戦争のあった頃の物とかあれば嬉しいのだけれど」
 アーリスが置いた裁縫道具をじっくりと眺めたユノ――ミネルバの子孫である――は、嘗て最も戦いが多かったといわれる時代の物をもっと見てみたいとセルフィに言う。
「そうだな……そこの端からその棚までのが表に出してる千年前の品々だな。やっぱり時代が時代なのかね、武器や防具が多い」
「なるほどね。……ほう、これはすごいな。少し錆びてしまっているが、今でも十分使えそうな品が多いのだな」
「それだけ確りした物を使わないと命に関わるから、じゃないか? 武器や防具の良し悪しは戦いの命運を左右する、という話も聞いたことがあるしな」
 立て掛けられた斧を手にとって構えてみるユノ。見た目はただの斧なのだが、手にじっくりと馴染むような感覚があり、すぐにでも使いこなせそうな印象をユノに与えた。嬉しそうに次々と武器を手にとっていくユノに、苦笑交じりで店の物は壊さないでくれよ、と言うセルフィ。
「すいません、店主さん。探しているものがあるんですけど」
 瑠璃色の瞳をした気の強そうな少女が、ぼーっと退屈そうにユノを眺めていたセルフィを呼ぶ。すると一応は商売人としての心得は備えているのか、すぐにその退屈そうな表情を隠し、少女の方へと向き直り話の続きを促す。
「弓の形をしたペンダントを知りませんか? 代々家に受け継がれてきた一品なのですが、母がお金に困り売ってしまい行方が分からなくなってしまったんです」
「弓形のペンダントか。……少し待っていてくれ」
 店の奥へと引っ込むセルフィ。その背を期待と不安の混ざった瞳で見つめる少女。程なくして戻ってきたセルフィの手には、なにやら小さなペンダントが握られている。
「運が良かったな。うちの店が冒険者達縁の物が集まりやすいとはいえ、限界があるが――これだろ?」
 セルフィが差し出すペンダント。狩人の弓を模したそのペンダントを手にした少女は、目を見開いて喜びを顕にする。
「これ、これです! 昔冒険者だったご先祖様が愛用していた弓を模したペンダント! ようやく見つけた……これが」
 何かの動物の皮が巻かれているような様子さえも精巧に模してあるそれを、ゆっくりと手でなぞる少女。その様子が、ペンダントを探すためにした苦労を窺わせる。
「あの、御代は」
「いらんよ。店の奥のは、売り物にならないような品ばかりなんでな。大体が嘗ての冒険者達の残したものばかりだが」
「で、でも――」
 探し物が見つかったのならもういいだろう? といった様子のセルフィに、お金を払わないのは……と律儀にも食い下がる少女。どうしたものか、と頭を掻くセルフィだったが、ふと何かを思いついたような表情を浮かべる。
「それじゃあそうだな、名前を聞いておこうか。それが御代ってことで」
「……ラピス。私の名前はラピスです」
 その瞳同じ色を冠した名前を名乗る少女ラピス。そしてラピスは一度お辞儀をすると、彼女の先祖である瑠璃色の魂抱く大地の守護者・ペルレ(a48825)と同じ紫の髪を揺らし駆け去っていく。
「……さてさて今日も十分に働いたし、店仕舞いにでもするとするかな」
 ぐっ、と伸びをしたセルフィが、店先にcloseの札を提げる。これ以上客が来ないように、という策であり、店内に居る客が全員帰った時点で完全に閉めるのだろう。
 この店の開店時間は、セルフィの気分次第なのだった――。

●それは時を越えて
「ふぅ、死んでまで絶望するものではないですよ、君」
 呆れたように言いながら黒炎を纏うエニルの前には、身じろぎをするように翼を広げた鋼の竜が、ようやく来たかというように鋼鉄の顎を開き歓喜の咆哮をあげる姿があった。あちらも既に準備万端、ということなのだろう、今にも飛びださんばかりの様子である。
「今度こそ止めてやるさ。俺達を誰だと思ってやがる!」
 叫び飛ぶシュウ。竜の頭上へと移動し、ブレスへと備えるつもりなのだろう。油断なく刀を構えると、その一挙一動に注意をはらう。
「既に意識がないのかしら……? 殺気しか感じられなくて不気味ね」
 自らの武器たる術手袋に異常がないかを確認し、軽く手を突き出すようにしながらグラウは黒炎を纏っていく。嘗てグレイが残したジュツ=カタの技術を再現、継承した彼女は竜からつかず離れずといった距離を保つべく移動する。
「……以前のようには、いきませんよ」
 大体前衛と後衛との中間辺りで止まった狩人・ルスト(a10900)が、苦渋を嘗めさせられた竜を睨み付ける。するとそれに呼応するように戦場が淡い光に包まれていき……それを不快そうに吼えた竜が――飛ぶ。
「来るぞっ!」
「おっ、とと……危ない危ない」
 高速で振りぬかれた鋼の豪腕を間一髪というところでかわすアーリスに、リッケが肝を冷やす。当たりこそしなかったものの、一撃でも食らえば致命傷にもなりかねない程の威力を秘めていることを、冒険者達は悟り表情を引き締める。
「あ、あう……新しく出来たお菓子の街に行く予定が……!」
 半ば駄々をこねるようにぶんぶんと槍を振りまわされたウサギの槍から、衝撃波が一直線に竜へと飛ぶ。硬質な肉体に弾かれるかと思われたその一撃は……易々と鋼の肉体を傷つけることに成功する。
「!?」
 自らの肉体に付けられた傷跡を、認め難いものであるかのように驚愕を顕にし見つめる竜。そんな竜の隙を、冒険者達は逃しはしない。無数の矢が鋼の肉体に降り注ぎ、雷撃が鈍い輝きを持つ体を焼く。……勿論その大半は竜の誇る守りによって防がれはしたが、この戦いがどちらに優勢であるかを示すには十分なものであった。
「絶対に、負けません!」
「……ご先祖様の為せなかった事、必ず果たします」
 弦を弾いた体勢で宣言するラピスと、嘗て竜と対峙した先祖と同様の名を持ったミネルバを苛立たしげに睨み据える竜。
「さて、2度目の幕引きは我輩達の愛を以って迎えさせて差し上げ――」
「なんか珍しく真面目な顔してるな」
「……ごめんやっぱシリアス無理!」
「……おい」
 キリッ、と紳士は決めるときは決めるんですよ! と気合を入れたレーニッシュであるが、人間慣れないことをしようとするとボロが出てしまうものである。台詞一つを言い終わらないうちに脱力したレーニッシュは、いつもと変わらない気楽な様子で虚無の手を竜へと差し向ける。
「ったく……今更絶望なんざこの世界に必要ねぇよ!」
 それに追従するように雷撃が飛来し、竜の体を蹂躙していく。しかし竜もただやられているだけではない。周りに纏わりつく冒険者達に、尾を叩きつけ弾き飛ばし、拳を振るい傷を負わせていく。
「ちっ……一撃一撃が重い」
 舌打ちをした後、気を取り直すかのように歌声をあげるリッケ。高らかに歌い上げられるその勇猛な歌は、仲間達が負った傷をたちまちのうちに癒していく。――それを見た竜が、哂う。この時を待っていたのだ、そう言うかのように。
 それは一瞬のことだった。強く噛み締められた牙の間から黒炎が洩れたと思った途端、口腔の奥底から吐き出された黒き業火が、避ける間すら与えずリッケの体を飲み込む。
 鋼鉄の守りを持つが故に有効な戦い方、相手の癒し手を倒すことで純粋な体力勝負とし、自らが倒れるか相手が倒れるかという消耗戦へと持ち込むことを得意としていた竜は、勝利を確信する。少なくともこれで倒せていようが倒せていまいが……。
「大丈夫ですか? 今回復します!」
 次の標的は、自ら名乗りを上げてくれるのだから!
 リッケの負傷を癒そうと凱歌を歌い始めたライナの体を狙い、竜がその大質量の体を躍動させながら迫る。
「しまっ――」
 ライナが気付いたときには既に遅く、押し止めようとしたシュウやユーリーを弾き飛ばし眼前にまで迫っていた。容赦なく振り下ろされる尾の一撃に、体中の骨は軋み、拉げ、一気に意識を刈り取ってしまいそうな激痛が全身を駆け巡る。
 だが……致命傷かと思えたその一撃を受けて尚、ライナは脱落することなくその場にあった。
「……大丈夫、間に合わせました」
「誰一人、死なせるわけにはいきません……!」
 際どいタイミングだったのだろう、頬を流れる汗を拭うエニルと、苦悶の声をあげながらも強い意志を感じさせる阿修羅すら凌駕する破壊者・ニーナ(a48946)。力なく痙攣しているライナの肩から羽毛のような守護天使が消え去り、ライナのダメージの半分を肩代わりしたニーナ――嘗て冒険者として数万年前に生きた少女の同名の子孫である――のお陰で、ギリギリまで負傷を減らすことが出来たのである。
「ご自慢の防御力。どこまで耐え切れるか我慢比べと行こうじゃないか」
 頭上から降る声。一撃でライナを落とすことだけに集中していた無防備な竜の脳天に、一振りの刀が突き込まれる。竜の守りすら物ともせず加えられたその一撃に、竜が啼く。――冒険者達の反撃が始まったのである。

「我が指先は断罪の式!」
 横薙ぎに振るわれた尾をあえて受けながら、グラウが火球を飛ばす。つい数瞬前にグラウを弾き飛ばした尾の根元が、巨大な炎に焼かれ燃え落ち、血反吐を吐きながらもグラウが会心の笑みを浮かべる。
 癒し手を切り崩そうとした竜の攻撃を耐え切った冒険者達の反撃に、全身からドス黒い血を流しながら耐える竜。しかし上手く体力勝負に持ち込むことが出来なかった竜の消耗は激しく、逆に竜の堅牢さを物ともしない冒険者達の士気は否応にも上がっていく。
「そこですっ!」
 数本の矢が、前で戦う者達に掛かりきりになっている竜へと飛来する。避ける余裕すら存在しなかった竜の両眼に、ルストの放った矢は突き刺さり、そして貫き潰す。
 轟、と耳を劈くような啼き声を上げ暴れ始める竜の姿に、哀れみすら篭った目を向けるルスト。強大な力を持っていた竜が、今ではただ手足を振りまわし暴れることしか出来ない赤子の様にすら見えたのである。
「わたしだって、なにもしてこなかった訳じゃないですぅ!」
 数万年前の無力感を忘れたことなどない。黒き炎に焼かれ、満足に戦うことすら出来ずに敗れ去ったあの時の悔しさを! 当時とは全く逆の立場構図で、リュミナによって打ち出された黒炎が竜の体を炭化させていく。
「これで、終わりだっ!」
 太刀を体全身を使い振り下ろしたニーナの一撃が、戦闘によって付いていた傷跡をなぞり、竜の太い首を断ち割っていく。
「お、おお、おおおぉぉぉぉ!」
 信じられぬ、というように叫び、全身を硬直させる竜。そうしている間にも、ニーナの太刀によって首と胴が乖離していく!
 歯を食いしばり、全神経を腕に集中させながら、最後の抵抗をする竜の肉体を滅するニーナ。そして一瞬とも無限とも思える攻防が終わったとき、哀れに目を見開き最後まで敗北を認めず死んでいった竜の亡骸と、返り血に濡れ荒い息をつきながらも、満足気に笑むニーナの姿があった。

「ようやく、終わりましたね」
「ええ、今度こそ……勝てました」
「相変わらず相性は悪かったですけど……」
 以前も竜と戦ったルストとライナ、そしてリュミナ。数万年という時を超え、嘗ての敗北を叩き返し健闘をたたえる3人は、一体どのような心情でここに在るのだろうか。それは3人の浮かべる笑みからのみ、窺うことが出来た。
「ご先祖様、やりました……やりましたよ!」
 自らと同じ名を持ったという先祖に、勝利を報告するように祈りを上げるミネルバ。その隣では、ニーナもまたなにやら先祖へと報告をしている様子であった。
「確かに強かった……でもね、二度目は通じないのさ」
「シュウさん……」
「さて戦いも無事終えたし、とりあえずウサギ鍋でも――」
「あうっ!? 数万年もそれ引っ張るんですか!?」
 有無を言わせぬ様子でウサギを確保するシュウ。ウサギにとって第2の戦いの幕が、今上がった。
「炎に飲まれたときはどうなることかと思ったぞ」
「いやー、結構やばかったかな」
 初っ端に炎に飲み込まれたリッケを見たとき、内心では焦りを覚えていたアーリス。無事だったから良かったものの、心臓に悪いことこの上ない。
「……ふぅ」
 ちゃりちゃり、と無言で弓のペンダントを弄るラピス。緊張していた体が、ペンダントに触れていると解きほぐれて来るようで心地よい。無事に戦いを終えることが出来たことを、そっとペンダント越しに報告するラピスであった。
「ジュツ=カタの技術があったからこそ、私は戦うことが出来た」
 竜との戦闘を省みるグラウ。この技術がなければ、自分は今こうして戦いの場に臨むことすら出来なかっただろう。浄火の紋章術士と嘗て呼ばれた男に、グラウは感謝の意を抱くのだった。
「久々の戦闘後の一服一服、と。お前も吸うか?」
「勿論いただくであるよ! ……あれ、ゆりりん火は?」
「あー、悪い。自分の付けた時点で消しちまった」
 嬉しそうに煙草を受け取るレーニッシュであるが、肝心の火がなければ吸うことなど出来ない。肩を落として残念そうにするレーニッシュの前に、煙草を咥えたユーリーの顔がせまる。
「ほれ」
「えっ? ゆりりん?」
「火なんざ俺のから直接移しゃいいだろうが。さっさと吸えよ」
 慌てて煙草を咥え、嬉しそうに相棒の煙草へと近づけるレーニッシュ。紅く燃える火が寄り移り、やがてレーニッシュの煙草からも紫煙があがる。
「全く、2人は何時になっても仲良しですね」
 思わず毒舌を忘れ、微笑ましいものでも見るように2人を眺めるエニル。
 こうして時を越えて出現した嘗ての亡霊は、冒険者達の手によって本当の終焉を迎えることとなったのである。


マスター:原人 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:18人
作成日:2009/12/22
得票数:冒険活劇6  戦闘1  恋愛2  ほのぼの15 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
 
白月・ミネルバ(a73698)  2011年06月30日 23時  通報
100年後のマーズはまったりゆったり。
実は生命の書を飲んでいたり……数万年後も飽きずに釣りをやっていそう。

1000年後のユノは時代が時代なら戦闘狂。
でも時代があまりに平和なので色々もてあまし気味。
戦を感じられる古物の蒐集を切欠に蒐集に目覚めたり。

数万年後。
私が成し遂げられなかったことを押し付けてしまう形になりましたが、
今度は倒せたようでよかったです。

原人MSには感謝を……本当にありがとうございました。