【Goats Eyes】Forever 〜最後だよ、全員集合?〜



<オープニング>


●2019年の世界
 インフィニティマインドが星の世界への旅から帰還して4年が過ぎた。
 世界は相変わらず平和で、冒険者達は変異動物や怪獣と戦ったり、人助けをしたり、旅に出たり、第二の人生を歩み始めたりと、思い思いに暮らしている。
 そんな中、誰かが言った。
 魔石のグリモアとの最終決戦から10年。世界が平和になって10年。
 この節目の年に、久しぶりにみんなで集まるのはどうだろうか。
 互いの近況や思い出話など、話題には事欠かないはずだ。
 さあ、冒険者達の同窓会へ出かけよう!

●冒険者の酒場
 何時もの酒場の一番奥のカウンター席で、黄昏の霊査士・ユノ(a90341)は3人の客を前にしていた。
「こんにちわ、あら?」
 皆さんは………護りの天使・メイリィ(a90026)は軽く小首をかしげる。ごくありふれた私服をきていたから見間違いかと思った。
「久しぶりですわね、小娘その1」
 て、もう小娘っていう年でもないのかしら。割金の様に響く、だみ声は相変わらず。ユノ曰くオカまっちょ。はた迷惑な怪盗兄弟Goats Eyesの3人組の姿があった。
「はい、最後の仕事が終わりましたので、最後のご挨拶に来たんです」
「寂しくなるな……」
「お幸せになってくださいませねー」
 寿引退なんて……素敵な響き。
 結婚を機に冒険者を引退することになっていたメイリィを歌漢女無双・ラートリ(a90355)がはぎゅっと抱きしめる。
「で……そっちの阿呆ども、お前達が探していたのは多分これの事だろう」
 ユノが自分の所持していた仮面をどこからともなく取り出す。そいえば以前これも狙ってきたことがあったよなと、居合わせたメンバーが集まってくる。
 何が始まるのかと興味津々で全員が仮面を覗き込む。ユノの手の中、それはパカッと真っ二つに表と裏に割れた。
「!?」
 その中から、一枚の封書が出てくる。小さくプリティーなヤギのイラストが描かれた薄い封書。
「それはっ」
「それが、お婆様の最後のお言葉ですの!?」
「さあな。中まで霊視してみたわけじゃないから、お前達の望む答えが書いてあるかどうかは、知らん」
 見付けたのは本当に偶然、何気なく弄っていたら仮面が二層式になっていることに気がついたのはつい最近の事。
 俺には不必要なものだし、これをやるからもうこれ以上悪さをするんじゃないぞ。
 カウンターに置かれた封書を見下ろした3人から離れて、ユノは集まってきた冒険者達の元に歩み寄る。
「さて、今夜は無礼講だ、今までの思い出を語りつくしていくといい」
 今日の酒場はどうやら貸し切りになっているらしい。
「よっしゃ、久々にぱーっとやりますか」
「未成年の飲酒と喫煙は周りが止めろよ」
「わあってるって」
 ユノも堅いこといいなさんな。封書を囲み身動きしない3兄弟も気になるが、今回の目的は何よりも久々に顔を合わせた面子の同窓会。楽しまなければ損をする。
「おねえちゃんこっちにビール。ピッチャーで持ってきてー」
「後何かつまみもよろしくっ」
 集まった冒険者たちは、次々に店員を呼び、思い思いに注文をかけていくのであった。

●2109年の世界
 世界が平和になってから、100年の時が過ぎた。
 年老いた者もいれば、かつてと変わらない姿を保っている者もいるし、少しだけ年を取った者もいる。中には寿命を迎えた者も少なくない。
 そんなある日、冒険者達にある知らせが届く。
 100年前に行った、フラウウインド大陸のテラフォーミングが完了したというのだ!
 昔とは全く違う姿に生まれ変わったフラウウインドは、誰も立ち入った事の無い未知の場所。
 そうと聞いて、冒険者が黙っていられるはずがない。
 未知の大陸を冒険し、まだ何も書かれていないフラウウインドの地図を完成させよう!

●フラウウインド大陸温泉紀行
「温泉、温泉に行きたいですわー!」
「ユノさんだけ楓華列島の温泉巡りしてきたなんてずるいですわー」
「そうですわー」
 どこから聞きつけてきやがった、とユノが頭をかかえてカウンター席に突っ伏す。
「裸の付き合いは、心の距離を縮めるものですわん。お肌もすべすべもっちもちですわー☆」
 ねぇ、いいでしょ? シナを作りながら黒羽のチキンレッグがすり寄る。
「よるな、暑苦しいっ!」
 ドゲッ! オカまっちょ3兄弟+ラートリの4人を蹴り飛ばす。
「んー? 結局どういうこと?」
 なんでこいつらがここにいるんだ? と、酒場に入り浸るGoats Eyes3人組をみて事情を知らない冒険者の1人が首をかしげる。
「よくぞ聞いてくださいましたっ」
「私たちはお婆様の『自由に生き、青春を謳歌しなさい』の言葉を受けて生まれ変わったのですわ」
 失われた過去の栄光を望むよりも、今これからを自分らしく行く。そのために……。
「私達も冒険者になりましたのよ」
「これで、お仲間ですわ」
 何時でも、頼りにしてくださって宜しくってよ。
「……また、濃い面子が増えた………」
 各々にポーズを決める3人の気配に既に撃沈した、ユノが復活する気配すら見えない。
「楽しそうでいいんじゃね」
 で、もちろん俺達の行き先は決まってるんだろうな。
「ああ。さっきから温泉温泉と煩いからな、面白そうな場所があるからそこに行こう」
 幾つか異なる泉質の温泉が湧いている場所があるらしい。
「動きやすい服装じゃないと、山を登りきれないから、後各自タオルとコップを忘れずにな」
 温泉を探して高い山の中腹へ、弁当持参でピクニック気分で出かけることになった。

●3009年の世界
 世界は1000年の繁栄を極めていた。
 全てのグリモアを搭載した『世界首都インフィニティマインド』には無敵の冒険者が集い、地上の各地には英雄である冒険者によって幾百の国家が建設された。
 王や領主となって善政を敷いている者もいれば、それを支える為に力を尽くす者もいる。相変わらず世界を巡っている者もいたし、身分を隠して暮らしている者もいて、その暮らしは様々だ。
 1000年の長きを生きた英雄達は、民衆から神のように崇拝される事すらある。
 今、彼らはこの時代で、どのような暮らしを送っているのだろうか?

●1000年後の何時もの場所で会いましょう
 石畳の坂道を登りきった先に、目当ての扉が見えてきた。ほんの少し緊張で強張る頬を、両手で叩き大きく深呼吸。
「よしっ」
 うん、大丈夫。通りすがりの店の窓ガラスに映る自分自身に微笑みかけた。ふんわりとした前髪が風に広がる。
 新しいはじまり、旅立ちの日。今日から冒険者としてのわたしがはじまる。
「こんにちわっ!」
 カランカラン♪ 冒険者たちが多く利用する酒場の戸が、軽やかな音色と伴に大きく内側に開く。
 それはまるで、これから訪れる出会いと冒険の日々を祝福するかの様であった。
 きょろきょろと店内を見回すと、直ぐにその人が会うべき人だと分かった。
「最後の1人がきたようだな……!?」
 少しだけ暗い店内のカウンターの一番奥の席で、数人の年若い冒険者と思われる少年少女の前に座っていた青年が振り返り、新たに訪れた彼女の姿を見て目を見張る。
 シャラン……。
 両の腕を戒める鈍い煌めきを零す銀鎖が、澄んだ音色を奏でた。
「……メイ……?」
 そんなまさか。
「え?」
「いや何でもない」
 仕事を受けに来たのだろう。そこに座るといい。
「はい」
 促され、指示された傍らのテーブル席に腰をかけた。
「今回の仕事ここにるメンバーの大半が今回が初めての依頼だからな、心して聞けよ」
 念のため手慣れた連中も同行させるから、困ったことがあればそいつに聞くといい。役に立つかどうかは不安だが、腕は保障する。
 少しだけ、目線を遠くへ向けていた銀鎖の青年は、気を取り直したように、集まった若い冒険者たちに改めて向き直った。
「俺は、ユノ。見ての通り霊査士だ」
 まずは名を聞かせてもらおう。促され端から順に、名前とクラスを述べていく。
「わたしは………」
「おーっほっほっほっほ。随分可愛らしい皆さまですわ〜ん☆」
「随分集めたんじゃないのか、ユノ」
 少女の番になり、名乗ろうとした横から騒がしい声を伴いどやどやと人が集まってくる。
「ええい、お前らが出てくるのはまだ早い」
 お前らみたいな濃いのが急に出てきたら免疫のない人間は引くだろうが。その前に依頼の話をさせろ! 見事な体躯のチキンレッグや、自分の倍以上ウェイトもありそうな歴戦の戦士といった面子に容赦なく拳骨をおとした。
「……腰を折ってしまったな、続けてくれ」
「ユイリィです。医術士です。皆さんの足を引っ張らないようにがんばります」
 よろしくお願いします。ぺこりと勢いよく頭を下げる。
「……ユイリィ……そうか……そういうことか」
 彼女の名を聞いたとき、ユノと名乗った霊査士は得心がいったように何度も頷き嬉しそうに微笑んだ。数回の立て直し、幾度とない改装を経てきたなじみの酒場で変わらないのは、ユノが腰を下ろすカウンター席の丸い木の椅子ぐらいなものである。
 久遠に近い時の流れを、ここから霊視(み)てきた。これからも、ずっと命ある限り自分はここにいるだろう。そして、目の前を通り過ぎる誰かの記憶の片鱗を感じさせる魂との出会いを繰り返すのだ。今この時の様に……。
「さて、依頼の内容を説明しよう」
 何時もと変わらぬ、淡々とした調子で、緊張した顔やにやにやとおかしそうに笑う顔のすべてを見回し。依頼の内容を説明を始めるのであった。

●数万年後の世界
 永遠に続くかと思われた平和は、唐突に終わりを迎えた。
「あれ、海の向こうが消えた?」
 異変に驚いてインフィニティマインドに集まった冒険者達に、ストライダーの霊査士・ルラルは言った。
「あのね、これは過去で起こった異変のせいなの。過去の世界で……希望のグリモアが破壊されちゃったんだよ!」

 とある冒険者がキマイラになり、同盟諸国への復讐を試みた。
 彼は長い時間をかけて、かつて地獄と呼ばれた場所にある『絶望』の力を取り込むと、宇宙を目指した。
「えっと、これ見てくれる?」
 ルラルは星の世界を旅した時の記録を取り出した。
『2009年12月10日、奇妙な青い光に満ちた空間を発見。後日再訪したその場所で過去の光景を目撃。詳細は不明』
「この記録を利用できるかもって思ったみたいだね。そして、実際にできちゃったの」
 どうやら、この空間は過去に繋がっていたらしい。男はここから過去に向かい、希望のグリモアを破壊してしまったのだ!
「世界が平和になったのは、希望のグリモアがあったからだよね。だから希望のグリモアが無かったら、今の世界は存在しないって事になっちゃう。ルラル達、消えかかってるの!」
 今の世界は、希望のグリモアが存在しなければ有り得なかった。
 だから希望のグリモアが消えた事によって、今の世界も消えて無くなろうとしているのだ。
「これは世界の、ううん、宇宙の危機だよ! だって、みんながいなかったら、宇宙はプラネットブレイカーに破壊されてたはずだもん! だからね、絶対に何とかしなくちゃいけないんだよ!」
 ルラルにも方法は分からないが、事態を解決する鍵は、きっとこの場所にある。
「でも、この空間……えっと、タイムゲートって呼ぼうか。このタイムゲートの周囲には、絶望の影響で出現した敵がいるの。これはね、全部『この宇宙で絶望しながら死んでいった存在』なの」
 彼らが立ちはだかる限り、タイムゲートに近付く事は出来ない。
 彼らを倒し、タイムゲートへの道を切り開くのだ!

●狂える暴竜
「俺も、随分と耄碌したもんだ……」
 舌打ちをしてユノが霊視の腕輪の鎖を苛立たしげに、じゃらりと鳴らす。長きの平穏に、事が起こるまで全く気がつかなかった己が腹立たしい。
 息をするのを忘れるほどの、張りつめた緊張感をそのままに、見る。
 指し示す敵の姿を、その名を………。
 見えたのは、所々が結晶化した異質のドラゴン。
『URAAAA………!』
 その声が呼ぶのは終焉、既に自我らしい自我は感じられない。
 あるのは、生者に対する憎悪を通り越した怨念と純粋な破壊衝動。近づく者をすべて無に帰す。それだけがそれの存在意義といえた。
「………ブルーシャイン………?」
「そいつは……」
 以前、冒険者達に倒されたドラゴンの名。遠く飛ばしたユノの目は嘗て立ちはだかった時の、透き通る蒼い煌めきに輝いていた体躯は、冬の海の様に青黒く淀み細かい罅におおわれているのを見た。
 ボゴッ……グギィッ……。
 その翼が大きく撓み、その元からカギ爪がずるりと背を裂き現れる。これが絶望の影響なのだろうか……?
『GAAAAAAAッ!』
「!?」
「ユノ大丈夫か?」
 あまりのおぞましさに吐き気がして、思わず大きく息を吐いて椅子に深く座り込む。破裂しそうな自分の鼓動が煩い。
 数拍呼吸を整えるとユノは、自分を見つめる冒険者たちに強くうなずいた。
「お前達に倒してもらいたい的を説明する」
 相手は嘗て倒したドラゴンが1体。
「以前倒せたからといって、油断するなよ」
 奴は絶望の影響を受けている為に、以前よりも攻撃力が上がっているだろう。ただ滅びと破壊をもたらす為に、奴は舞い戻ってきた。
「またケチョンケチョンにしてさしあげますわっ」
 ラートリが鼻息荒く、手にしてた巨大なマラカスを担ぎあげる。
「微力ながら私くしたちもお手伝いいたしますわっ」
「ですわ」
「もちろんですわ」
 それぞれが思い思いにポーズを決めてうなづきあう。
「世界を……明日を頼む」
 そういうとユノは締めくくった。


マスター:青輝龍 紹介ページ
これにて閉幕。シリーズ継続の方はもちろん、最後にひと騒ぎしたいという方のご参加お待ちいたしております。
行動宣言はやったもん勝ちです。やり残す事がないように、悔いの残らないプレイングをお待ちいたしております。


【10年後】
冒険者の酒場で同窓会。メイリィの引退パーティーも兼ねています。
【100年後】
フラウウインド大陸の温泉探し。炭酸泉(冷泉)とか間欠泉とかいろいろな温泉がある場所までいってみましょう。
【1000年後】
1000年後の酒場で依頼を受けているというシチュエーション。永世を選んだ方は、新人(子孫の方)の良き先輩としてアドバイス(法螺話与太話可)、新人さんは子孫PCのお披露目にどうぞ。(実際の仕事にはいきません)
【数万年後】
ドラゴン『ブルーシャイン』の撃破。
ジ・エンド・オブ・ボイス(射程:100m全周・選択)
耳にしたものを狂わせ精神を破壊するような歌による攻撃です。耳をふさいでも防ぐ事はできません。
ファナティックソングと同じ様な追加バッドステータスを負う時があります。

ハウリングボイス(射程:50m一直線上)
凶暴な雄たけびが破壊を生みます。
使用者が大きく息を溜める事によって攻撃力をさらに上げる事ができます。
但し息を溜めている間は近接物理攻撃以外の行動はできません。

霊査士で戦闘では役立たずなのは気にしない。ネタ使うから連行していきたいという奇特な方がいましたら、プレイングで勝負してみてください。

【NPC】
メイリィは寿引退により10年後のパートにのみ出演いたします。
その後1000年後以降によく似たエルフの少女にその血が受け継がれていきます。

ユノとラートリ(&Goats Eyes)は全部通して登場可。
Goats Eyes3兄弟につきましては、今までのシナリオをご参照下さい。

【備考】
今回のシナリオでは手元に届くデータすべて参照いたします。使えるところはすべて使って下さいませ。

子孫PCの方は詳細が決まっているようであれば、PCデータもしくはプレイングの片隅にでも書いていただけると、出来る限り対応したいと思います。

参加者
砕喰兼備・オルド(a08197)
グランスティード爆走族・アシャンティ(a14189)
自由業・フォクサーヌ(a14767)
パタパタ中堅観察者・エリン(a18192)
ソニックハウンド・カリウス(a19832)
手のひらの鼓動・アールコート(a57343)
子供好きなグラップラー・ネレッセ(a66656)

NPC:黄昏の霊査士・ユノ(a90341)



<リプレイ>

●2019年の酒場の片隅。どうでもいいけど。年齢詐称な人々……?
 人々は言う。その娘何時までも幼い風貌に似合わず。やることがとっても極悪非道だったと。特に彼女の仕置の犠牲になったものは、自分が男に生まれてきた不幸を嘆き、夜な夜な枕を濡らすだけではすまないのだと……。ある意味伝説的なきぐるみ少女が本当のところ何歳なのか……。
「15さいなのね」
 尋ねられるたび本人はそう自称する。
「でも……ふぉっくすは、インフィニティマインドに乗ってかなかっただろ?」
 不用意に気がついたことを口に出した、黄昏の霊査士・ユノ(a90341)がゴスっと鈍い音と共に床に沈み込んだ。
「ぼくは、えいえんの、じゅーごさいなのね」
「……………」
 言葉が無い、霊査士は戦闘の気配に気絶したようだ。
「俺、俺も。25歳なぁ〜ん♪」
 この際だ言いたいことは言ってしまえとばかりに、グランスティード爆走族・アシャンティ(a14189)もハイハイと手を挙げて自己主張する。
 本当のところ、自由業・フォクサーヌ(a14767)公称ふぉっくすは21歳。アシャンティは33歳だったりするのだが……幸いなことに普段から誰にも疑われることはない。
 だって……アシャンティはやんちゃな見た目の見たまんまだし。
「いやーそれほどでもないなぁ〜ん」
 ふぉっくすの方は身長が140cmを超える事がなかったから。
「うっさい!」
 ふぉっくすのきぐるみの下から睨む瞳がぎらりと光り、八つ当たり気味にゲシゲシと、床に倒れこんでいるユノを踏みつけるのであった。

●2019年の酒場……その後の様子はどうでしょう?
 十年たっても、集まる顔ぶれはほとんど変わらない。多少年齢を重ねた外見の者もいれば、出会ったころとまったく変わらない者も多い。
「メイリィさんも結婚して引退だなんて……さみしくなるわねー」
 店に入ってくるなり、相変わらず小柄なメイリィをハグして再会を喜んだ砕喰兼備・オルド(a08197)がしんみりともらす。
「皆さんといられて、とっても楽しかったですの」
 少しだけ大人びた護りの天使・メイリィ(a90026)の頬笑みは、10年たっても変わらず柔らかくその場が和らぐ。
 10歳で初めて冒険に出た彼女も、今では大人になりそろそろ少女ではなく女性といった方がしっくりくる。是までは年上の冒険者に交じってジュースを飲んでいた少女と、酒を酌み交わせる日がくるなんて……時の経過は偉大である。
「今日は宴会よー! お兄さんお酒と食べ物。じゃんじゃんもってきて〜♪」
 嬉しいさよならに涙は似合わない。最後だから、悔いが残らないように思い切り楽しむのだ。
「寿引退とはめでたいこと……お祝いせずにはいられませんね」
 話を聞きつけ駆けつけた子供好きなグラップラー・ネレッセ(a66656)がエプロン姿で、酒場の調理場から顔を出すついでにトレーに飲み物や食べ物を、これでもかとのせて運んでくる。どうやら厨房の奥で皿洗いをさせられていたらしい。何故かとは余り突っ込んではいけない空気に皆がさり気無く目をそらす。客の筈なのに……多分、新しいバイトか何かと間違えられたな……と、思っても口にしてはいけない。間違いなくただ働きだろうネレッセに心の中で合掌しつつ、左程本人が気にしてない様子なので放っておくことにする。
「段々と世界の存亡を賭けた冒険者が身を引いていきますねぇ……何というか寂しいものです」
 是までご苦労様でしたと、ネレッセは一番最初に今日の主役の前にグラスを置いた。
「此方こそ、今までお世話になりました」
 本当に、本当に素敵な冒険の数々だったと是までの日々を思い出し少し瞳を潤ませる。
「まだわたくし達がおりますわーん☆」
「寂しいなんていわせませんわよ」
「ちょっ、なに顔をそむけてますのぅっ」
 と、騒ぐ集団を目を合わせないように顔を背け、調理場から運んできたものを次々にテーブルに並べていく。
「何も見えませんし、聞こえません」
 気のせい気のせい。ごつごつした、筋肉の塊のようなやつらがポーズを決めているのは全て錯覚だと決めつける。
「そういえば、メイリィさんの相手って……?」
「よくぞ聞いてくれたなぁ〜んっ!」
 その疑問にズバッと明快に答えてやるなぁ〜んっっ!! 手にした骨付き肉を高々と振り上げ、自称25歳が高らかに宣言した。
「メイリィの旦那は………俺だなぁ〜ん」
 衝撃の告白に。一瞬その場が氷点下のブリザードに襲われる。 嘘をつくなっ。冗談きつすぎるわよっ。
 次の瞬間、やり遂げた表情のアシャンティ向かって飲み終わったグラスや空いた皿が投げ付けられた。
「痛っ、ちょっとしたお茶目なジョークだなぁ〜ん」
 そんな恐い顔で見なくても。
「ふふ。相手は普通の方ですの」
 名前はヒミツだと、アシャンティの冗談に顔色変えず、メイリィは笑顔で答える。
「羨ましいです」
 メイリィが寿引退とは……まさに晴天の霹靂。
「ん? 何かいったか」
 ユノの隣で果汁の入ったグラスを傾けていたパタパタ中堅観察者・エリン(a18192)がポツリと呟いた。彼女が想いを伝えてから10年。二人の関係はもどかしい程にゆっくりとした進展であったが、長い分だけ分かりあえる事もある。そうとは言っても……エリン的にそろそろ最後の駄目押しが欲しいのも事実であった。
「……ユノさん……私、子供は三人ぐらいが良いです」
 さぁ、ここにサインを……母印でもいいです。どこからともなく取り出した、結婚誓約書を突き付ける。
「……へ?」
 突然の事に、ユノの声が裏返る。
「占いには『今日は恋愛運最高! 押して駄目なら押し倒せ!』とありました……だから……おとなしく押し倒されて下さい」
 今こそ人生の墓場に押し込めるべく。止め、刺させて頂きます。
「ちょ、ちょっと待てっ!」
 俺にも心の覚悟っていうものが……。
「問答無用です」
 うろたえるユノに取り合わず、腕をとったエリンがグイッとすばやく誓約書に母印を押させてしまう。悲しいかな霊査士の非力さでは、嫁の力に抗えなかった。短いやり取りの中でこの先の、二人の生活の一片が垣間見えた様な気がした。
「あ゛ぁぁぁ…………」
 ある意味で断末魔に近い悲鳴が賑やかな酒場に響く。
「あらー。ここにも一組夫婦が誕生ね〜」
 おめでと〜♪
「めいりぃも、ゆのも、えりんもみんなめでたいのね」
「おめでとうございますですの」
「それではわたくし、お二人のご結婚を祝して一曲歌わせて頂きますわー」
 祝福の言葉にエリンがブイっと指を二本立てて見せた。
「ご愁傷様です」
「ユノ……苦労するなぁ〜ん」
 がっくりと肩を落とす、霊査士の両肩を叩き、事の顛末をあまさず見届けたネレッセとアシャンティが目尻を拭った。
「飲むなら、付き合うなぁ〜ん」
「強く生きて下さい」
 但し、お前はジュースだけど。仲間の優しさが、心に沁みる。
「幸せの門出に、湿気た顔は似合いませんわっ」
「今こそ、わたくし達の華麗な肉体美で」
「あなたの笑顔を取り戻して差し上げますわっ!」
「……余計、幸先悪くなりそうだけどな……」
 多少、検討違いの者もいたりするが、今はありがたく受け取っておくことにする。
「それにしても……」
 さいごのたたかいからじゅーねん。こんなへいわなよのなかになるなんて……だれがそうぞうしたかしら?
「もんすたーもぐどんもいない、ぐりもあとーいつでせんそうもなし。ついでに、へんなかにじるのおかげで、ふろうになれるだなんて……」
「あの……ふぉっくすさん?」
 それとも、フォクサーヌさんでしょうか? 口調はふぉっくすなのに、内容は思慮に富んだもの。
「んー。こまかいことは、きにしない。あらためて、あめでとうなのね」
 しあわせに、なるのね。
「はい、ありがとうございます」
 ちょっとシリアス風だったふぉっくすの様子に戸惑ったメイリィがほっとした表情で頷く。
「そんなところで……こっちもじゅーすついかー! それとそこのまっするたち、ぬげー!!」
「了解ですわー」
「気合い入れてみていってくださいな」
「はなぢにご用心ですわよ」
「拙いながらもわたくしも、ご一緒いたしますわ〜ん☆」
「お姉さんも一肌脱いじゃうわよー」
「それって、俺も入ってるのかなぁ〜んっ?」
 空のグラスを突き出し、吠えるふぉっくすに肉体自慢たちが立ち上がる。
「いいから、お前ら少しテンション落とせっ!」
「結局……飲み物も持ってくるのは、俺の役目なんですね……」
「皆さん楽しそう」
「本当に……」
 年月を経ても……集う顔ぶれに多少変化があっても……冒険者の集まる酒場の様子は依然と変わらない。多分、是から先もずっと変わらない喧騒が繰り広げられていくことだろう。……きっと……。

●2109年のフラウウインド大陸……おいでませ嬉し恥ずかしフラウウインド温泉郷
 フラウウインド大陸まで足をのばして、温泉?
「んー、ぱす」
 筋肉達のめくるめく肉体の交差する、温泉地へ……話を聞いた当初、一番に食いついてきそうなふぉっくすは行くつもりがなかった。どうやら、次のイベントに出す原稿がせっぱつまっているらしい。
「あのオカマッチョが冒険者……」
 Goats Eyesという名で、世間を騒がせていた怪盗兄弟達が冒険者として、目の前にいる。信じられないというより、ネレッセとしては信じたくないという気持でいっぱいだった。
「冗談の様だが……現実だ」
 こちらも何処か重い空気をまとったユノが、ネレッセを引き留める。
『ランドアースの変態は長い闘争の経験を経て、遂に武力を獲得したのです』3人が3人とも褌一丁なので、職業をはその装備からなんとなく……推測するしかないが、長兄が霊査士なのはまず間違いないだろう。『彼の霊視の腕輪は推定10kg、ちょっつぃた漬物石代わりにもなりそうだ』とエリンは愛用のメモ帳に記入していく。
「後の二人は狂戦士、医術士でしょう……多分」
 なんとなく。雰囲気がそんな感じ。
「ごーつたちが、ぼうけんしゃ?」
 と、言うことは……一般人なら死にそうな労働量でも安心してこき使えるって事? 冒険者としても装備を身に付けた3兄弟を目にした、ふぉっくすの脳内で瞬間的に数百パターンの、原稿執筆のシミュレーションが組み替えられ、その達成率が計算される。ひょっとしなくても、好きなだけ無理言って酷使しても構わない、戦力が手に入る……かも? 少女は欲望に従順だった。
「あ、やっぱりいくことにしたのね」
 限界を気にせず好きなだけコキ使える人では、この時期捨てがたい。
「お兄様、なんだか今すっごく不穏な気配がしましたわ」
「ひょっとして、素敵な王子様がわたくし達をねらってますの」
「きゃー♪」
 わたくし達の貞操の危機!? 視線を感じて、悪寒を感じた3人組は、行く前から微妙ハイテンション。
「コップ? 温泉飲むのかなぁ〜ん?」
 一部持ち物に不思議な物があったのだが……。
「そのとおり、体の中からと外の両方から温泉を楽しもうと思ってな」
 どうせなら、水着必須と言ってくれればよかったのに……。
「『貞操の危機デス』の臭いがプンプンするするぜ、なぁ〜ん」
 男の俺達の貞操が危ないん気配がひしひしと……。
「う゛」
 いや、其処は逆に男の浪漫を奪うなとか行ってくる奴がいてもおかしくなかったから……。集まった顔ぶれを見て最初に言っておけばよかったと、痛感していたのは霊査士であるユノ自身だから余り強くはいえない。
「もう近くまできてるのかしら?」
 途中、一回食事休憩を挟み。後は目的地目指してひたすらに歩いているわけなのだが、オルドは冒険者の道を選んだ3兄弟を交えて、途中筋肉談義に花を咲かせ。行く手を遮る物は、巨石なら素手で粉砕し、川なら一抱えもある岩を投げ入れ道無き場所に道を切り開いていた。
 気がつけば、少し蒸し暑さを感じ辺りの空気に温泉独特の硫黄の香りが漂ってくる。
「そうだな、もう少し先に湧きだしてる所もあるようだが……多分掘れば温泉が出てくると思うぞ」
「温泉ですわ〜ん☆」
 掘りあてますわよー。
「わたくし達の、永遠の美容と健康の為にっ!!」
「まつのね」
 くわっと、何かの本気の気配に満ち満ちたおかマッチョ達が、我さきに温泉につかろうと、駆け出すものを止める手があった。
「おんせんをたのしむまえに……ひとしごとするのね」
「な、なんですのーっっ」
「やる、よね?」
 イベント目前、目指せ脱稿に燃える魂を止められる者はいない。一仕事の後の一っ風呂はきっと最高だからと、取ってつけた様な理由をつけて、体力自慢の人出を確保してふぉっくすは4人を連行していった。
「あらら……お仕事がある人には悪いけど……久しぶりのフラウウインド大陸……満喫させてもらうわよー♪」
 これが3代目となる愛用のワイルドファイア産の鮭の骨から作った巨大剣を力いっぱい振り下ろした。骨を加工した物だから、切るというよりも砕く方が向いているそれは地を割り、湯気が吹き出る。
「オルドそこ………」
 危ないぞと忠告する間もなく、ピシピシと広がった地面の皹は大きく広がり、熱いお湯が柱の様に天高く吹きあがった。
「あーれー……」
 ちょっとやりすぎちゃった? 湯柱にオルドの体も地上高く運ばれる。
「でも、これも………楽ーしーいーわー♪」
「大丈夫そうですね」
 立ち込める湯気に、時々姿が隠れつつあるが、どうやら本人が楽しそうなので、よしとしよう。
「それでは、残る男性の皆さんにはこれを……」
 そっと、エリンが其々の手にそっと褌を握らせた。
「自分は遠慮しておきます」
「俺も、向こうで入ってくるからいいなぁ〜ん」
 だから覗くなよ。
「こういうものは、旦那様が責任をとるべきでしょう」
「だ、なぁ〜ん」
 んじゃ。後よろしく! と、ばかりにユノの手に褌を押しつけるとネレッセとアシャンティは、逃げ出した。この場に残ると何か大切なものをなくしてしまいそうだから。面倒だから、是からいく場所の名前は『カマの湯』でいいんじゃねぇか、なぁ〜ん。とか適当な事を言う声が遠ざかっていく。
「…………」
「どうやっても、それを俺につけろというのか?」
 俺の体型で褌は似合わないと思うんだけどな……。訴えかけるような、エリンの視線にユノは高いフラウウインドの空を仰ぎ覚悟を決めるのだった。

●3009年の酒場……新人教育は先輩として当然の事ですから。ね?
「やっほー。遊びにきたわよー」
 ワイルドファイアに建設した自分の村で悠々自適な冒険者生活を送っている、オルドは偶にワイルドファイア土産を持参してランドアースの酒場に顔を出す。時々、Goats Eyes3兄弟とラートリの4人も、オルドの村を訪れて若手冒険者の育成の手伝いをしているらしい。
「何か、面白いお仕事あるかしら?」
 それと、誰か活きのいい新人はいるかしら?
「ちょうどいいところに来た」
 出がけに狩ってきたマンモーの肉を背負ってきたオルドに、ユノが顎を癪ってみせる。促された先。何処かで見た様な顔ぶれが並んでいるが、その中の一人が一際目を引いた。
「あら? あの子は」
 ひょっとして……。柔らかそうな金髪に明るい空色の瞳が、かつて共に過ごした少女の面影に重なった。
「たぶんあのこの……なのね」
 1000年前と変わらぬ外見だが、幾つもの消えぬ傷を重ね、風格を増したネレッセの話を緊張した顔で聞く、少年少女達をうかがっていたふぉっくすが、オルドにやほーと腕にぶら下がる。
「それじゃ、わたし達が冒険者のイロハを教えてあげないとね」
「……手加減してやれよ」
 できれば、新人教育は常識人のネレッセだけに任せた方が安心なのだけど……言いたい衝動をユノは全力で自制する。なぜなら、言ったが最後。余波で、自分が古参の冒険者達の手荒い弄りにあうと分かっていたから。流石に5000年も同じような事を繰り返していれば、多少は学習をする。
(「すまん。是も、冒険者の踏み越える道だから……)」
 俺のところに来た時点で、お前達にはちょっと普通でない素質に魅入られているのかもしれない。と、心の中で苦しい自己弁護をしてみながら。まだ見ぬ冒険の期待に瞳を輝かせて先輩冒険者達の話に聞き入る、新人たちに少しだけ、申し訳なさそうな眼差しを向けた。

「自分は千年前、楓華のある武門の次期当主でした」
 一族の夜襲、つまりは裏切りを受けて海に落ち、ランドアースに着いたのが淡々と話す彼の冒険者のはじまり。
「冒険者となった自分は機が訪れるのを待ち、裏切り者たちがキマイラとなったという情報を得て討伐しました」
 受けた仇はこの手討った。それでも、ネレッセの心は念願かなった喜びも積年の恨みを晴らした達成感もなかった。残ったのは重く苦い後悔。道を踏み外したとはいえ、元は自分に繋がる縁故の身内だったのだ……。彼らは自らの強欲によりグリモアを裏切り人外へと成り果てた。
「あなた達は、そうなってはいけません。欲望と折り合いをつけ人として冒険者として生きていくのが人生なのですから」
 こんな話が、あなた達の冒険の指針の一つになるかどうかはわからないのですけど……。
「いえ、すごくいいお話だったと思います」
「御教授ありがとうございました」
 頬を上気させ、少年少女達が一斉に頭を下げた。
「次は、俺が手取り足取り教えてやるぜ。なぁ〜ん♪」
 ここの酒場を利用する冒険者の基本てやつだから、覚えて損はないなぁ〜ん。
「あんななりだけど。オカマッチョは、実害はねぇと思うから安心しろなぁ〜ん」
 手持無沙汰で酒場のテーブルと椅子の一部を移動させその場で筋トレを始めていた黒羽のチキンレッグと限りなく全裸に近い3兄弟におそるおそる視線を向けた、新人たちがすがるような視線を断言した先輩に向けた。おねぇ言葉を話すマッチョな集団は、どう見ても近寄りがたいものがある。
「とりあえず、ユノには手ぇ出すななぁ〜ん」
 だって変態だから。
「ちょっとまて、変な事を吹き込むんじゃない」
 一瞬腫れものを触るような視線に晒された霊査士が抗議の声を上げる。
「みんな言ってるぜなぁ〜ん。変な依頼を態々選んだかのように持ってくるからなぁ〜ん」
 きっと本人も変態だからそういうのばかり、引き当てるんだなぁ〜ん。類は友を呼ぶっていうし、変態は変態を呼ぶんだなぁ〜ん。
「真理ですね」
 しみじみとエリンが頷く。
「其処は、否定するところだろう」
 その言葉にもういいやと、ユノは首を振ってみせた。
「あと最後に、フォクサーヌは『ふぉっくす』って呼ばないと殺されるぞなぁ〜ん」
 こそっと、アシャンティはふぉっくすの耳に届かぬように小声で付け足した。
「そんだけ覚えてりゃ大丈夫なぁ〜ん♪」
 これで、お前達も立派な冒険者の仲間入りだなぁ〜ん。
「そんじゃつぎは、ぼくがせんぱいとして、しどーするのね」
 ちょこちょこと、狐のきぐるみ……をきたふぉっくすと呼ばないと殺されると言われた少女が新人達の前に歩いてくる。その姿をみた先輩の何人かが『ゲッ』と、嫌そうな顔した事に新人達は首をかしげた。一見すると、きぐるみを着ている以外はごく普通の少女だったから。
「いらいであつまったぼーけんしゃのかくにんをするときのきほんは『まっする』なのね」
 例えば、ここには隆々とした肉体を誇る人物が6人いるから、この場合は『ろくまっする』となるのだと、大真面目に語る。
「つーは『まっそー』とかいうのね。それいがいのたいけいは『ほそっこいの』とか『ふつー』とかそのときのきぶんでえらぶといいのね」
 『まっする』は挨拶としても通用する、オールマイティーな言葉なのだと話すふぉっくすの背後で、霊査士を始め先ほど顔をしかめた数人がナイナイと手を振って見せているのが気になるが、新人達は先輩からのありがたい言葉として耳を傾けていた。
「わたしが教えることはは一つだけね」
 くすくす笑いながら仲間達が新人教育する様子を見守っていたオルドが椅子を移動させて新人達の前に座る。
「いい? 冒険者に必要な物は……まず『信じる』事よ」
 信ずる者は救われると言うでしょう?
「勝利、平和、成功、奇跡、無事……『信じる』っていうのはね、実は結構重要な事なのよ?』
 最初からあきらめちゃだめ、想いの力って結構すごいのよ。そうでしょ? と、幾多の死線を共にしてきた仲間達を振り返る。
「そうだな……」
 その通りだと、代表してユノが答えた。どうなる事かと心配していたけれど……。どうやら、真面目に新人の面倒を見てくれるらしいと安心する。
「メイリィさんの子孫は可愛い子ですね……」
 うちの子たちには負けますけど。妻として母として冒険者を半分くらい引退気味のエリンだが、時たまこうして酒場を訪れる。
「あぁ……」
 平和な毎日に、多忙と無縁の日々をおくる霊査士は、出会ったころのメイリィさながら興奮を孕むキラキラとした瞳で話に聞き入る少女の姿を見て、懐かしそうに目を細めた。あの子と別れてから、もうどの位なるのだろう……。こういう不意の出会いがあるから、霊査士という職業を是まで続けることができたのかもしれない。
「オルドさんが信じているものはなんなのですか?」
 興味深々で、おとなしく話を聞いていた一人が手を挙げて質問したのは、そんな事を考えていたときであった。
「私? 私も勿論あるわよ」
 冒険者として生きていく中で、信じ信望するものそれは……。
「唯一神デスフォーナでしょ、至高神ヘルズランララでしょ、あと全知全能神ブラックザウsゴハッ!!」
「持ち込みのマンモーの骨付き肉。焼きあがりましたよ」
 いつの間にか厨房に言っていたネレッセが、得意げに偏った神話体系を吹聴しようとしたオルドが最後まで言い切る前に、その頭に巨大な皿に乗せられた更に巨大な肉の塊を乗せた。ベキョッと、軽く嫌な音がした。
「……よくやった」
 何か投げる物はないかと、慌てて探していたユノが、その様子に小さく喝采を贈る。期待と希望に胸を膨らませている若人が、老骨の悪乗りに汚染されるのは心苦しい。
「……無駄なあがきのような気もしますけど」
 ここの酒場に出入りする限り。ラートリや三兄弟がしっかり変態教育をする事でしょう……と、呟いたエリンの言葉は幸いなことにユノの耳には届かなかった。
「それでは、次はわたくし達が」
「冒険者の心構えの基本を」
「教えて」
「さしあげますわ〜ん☆」
 一通り、話つくしたタイミングを見計らい、筋トレで程良く体を解し終えた、筋肉達が寄ってきてポージングを決めた。
「いらんわっ!」
 もう十分だ。と、是以上間違った知識や情報を話されてはたまらない。
「そんなことおっしゃらずにー」
 わたくし達本気ですのよっ!
「だから余計に、嫌なんだ」
 ほれ散れ、そろそろ仕事の話を始めるぞ。席に付けと、霊査士は犬猫でも追い払うように集まったおねぇ言葉のマッチョ達を追い払う。その様子が笑いを誘い、初仕事で緊張して強張っていた顔が少しだけ緩む。
「彼らなら、大丈夫そうですね」
 きっと、新たな冒険者の一員として上手くやっていけるだろう。
「新たな仲間の誕生なぁ〜ん」
 それは、実に喜ばしいこと。
「しっかりしごいてあげないとなのね」
「そうねー。一人前になるまで、面倒見てあげないとね」
 ついてくるのは大変だと思うけど。今から仕込んでおけば、きっといろんな意味で立派な冒険者となるだろう。
「多分、みんな大丈夫ですよ」
 だって……嘗て一緒に過ごした人物の血を魂を受け継いでいるのだから……。だから、幾星霜の時を超えても、ここのにくれば、あの時と変わらぬ毎日にあえるから。
 ちょっと『あれ』な依頼に軽く現実逃避しながら、依頼の内容を告げる霊査士も相変わらずなら、それを茶化して遊ぶメンバーの様子も何時も通りで……この平和が何時までも続くかのように皆が感じていた……。

●数万年後のインフィニティマインド……集う力と男の決心。
 是まで積み重ねてきた事が、たった一人の裏切りによって今奪い去られようとしている。数万年ぶりに流れる、絶体絶命の予感。そう、この緊迫した戦慄に満ちた戦いは、数万年前までは日常の中に当然の様に幾度となく降っては湧き。その度に死力を尽くして、辛くも振り払っていた。
「行ってくれるな」
「お任せ下さいユノさん。私も家庭を護る為に努力しますので……」
 帰ったら誕生祝、しましょうね。
「そうしてくれると、嬉しい」
 だから無事で帰ってきてくれと、久々に戦場に立つエリンを見守り送ることしかできなもどかしさすらユノにとっても随分と長いこと忘れていた感覚であった。
「久しいな、ユノ。前に会ったのは確か……違法薬物の密売組織を相手にした事件の時だから……」
 さてあれは何年前のことだったかな? 昔過ぎて判らんな、一つの国が産まれて消えるぐらいの時は経っているか……。
「それなら4000年程前だった筈だな」
 ランドアースの危機と聞きつけてインフィニティマインドには、ソニックハウンド・カリウス(a19832)が駆けつけていた。違法薬物の密売組織……なにそれ? そんなふつーで当たり前の仕事……ユノが持ってきたのか? 本人に聞かれれば、心外だと文句しか出てこないような、失礼な事で先客達は顔を見合わせる。
「脅威と呼べる存在を知らずに育った世代も多い……それを知る俺達が生命の書によって不老になったのは、或いはこの時の為だったのやも知れん」
 ドラゴンに絶望……久々に骨のありそうな相手だと、カリウスがしたり顔で頷く。
「ユノさん、ラートリさん、エリンさん、ふぉっくすさんも。何万年ぶりですね、覚えているでしょうか☆」
 カリウスと時を同じくして、説明の場に飛び込んできた真っ白な髪と真っ白な翼それに白い肌と純白の衣のエンジェルの少女がにっこりとほほ笑む。
「……もしかして……アールコートか?」
 数万年前の途方もない記憶の中から、一人の少女の名前が浮かんだ。
「はい、随分とお久しぶりです。終焉の狂声ブルーシャインを再び討つと聞いていてもたってもいられず、来てしまいました」
 是まで沢山の人に助けられてきたから。今度は自分が助ける番なのだ。と、精一杯の勇気を振り絞って初めて死地と呼べる過酷な戦いへ向かう決意をした。時の手のひらの鼓動・アールコート(a57343)の最初の切っ掛けとも言える仕事。その時以来の再会であった。
「見違えたぞ」
 あの当時の、何処か心細げな線の細い印象はまったくかんじられない。自信と慈愛に満ちた笑みがあった。
「遥か遥か遠い昔、私は彼女と戦いました☆ まだまだ力は小さくて、でも、踏み出したのは大切な一歩でした♪」
 あの時があったから、今の私があるのです。ブルーシャインが絶望となって蘇ったなら、今度こそ一人前に戦うときです☆
「頼んだぞ」
 今の彼女ならきっとやりとげてくれるはず。
「あ、そうそう……俺は行かねぇぜ、なぁ〜ん」
「なんだと?」
 臆したか? お前らしくない。アシャンティの突然の言葉にユノが眉をひそめる。違う違うとアシャンティは手を振る。
「なぜなら……、俺はこの戦いが終わったら霊査士に転職するつもりなんだぜ、なぁ〜ん♪」
 だから今回はその予行演習だ、なぁ〜ん。
「「「……え? えーーーーーーっ!?」」」
 なんですと……?
 いやー。一念発起して霊査士になろうとしたら……裏切り者の起こした騒ぎで肝心の希望のグリモアに誓う暇がなかったから……今回はなったつもりでお見送り。
「いいから総員出動。頑張りやがれ、なぁ〜ん♪」
 ユノ、おめーの後は、俺が継いでやるからありがたく思えなぁ〜ん♪ だから、心おきなく最後の戦いその目で確認してきやがれ。
「いや、絶対無理」
「しかたありませんわねー。漢は度胸、漢女は愛嬌ですわよ〜ん」
 戦闘中は気絶するから、俺は正真正銘戦力外。自分の目で皆の雄姿を見る事なんか到底無理だと、慌てて両手を振るユノをラートリが担ぎあげインフィニティマインドの出口へ足を向ける。衝撃の告白に何だか釈然としない思いを抱きつつ。冒険者たちは絶望の影響で出現したブルーシャインを討伐するためにタイムゲートへ向かった。
「吉報まってるなぁ〜ん」
「ちょっとまてー………」
 遠くに残響する悲鳴を聞きながら、アシャンティは連行されていったユノの代わりに戦いに向かう仲間達を送りだすのであった。

●タイムゲート最後の戦い……是が同盟のホンキだ覚悟しやがれ
 混沌とした時間の狭間……こんな場所があっただなんて。辺りに広がる深淵の闇を一言で説明するなら、虚無というのが相応しかろう。
「ちょっと洒落にならない事態ね……」
 その姿は普段とは異なりきぐるみから大人を思わせるドレスに深紅のピンヒールにかわり、妖艶さを漂わせる残忍な頬笑みはフォクサーヌとしての姿であった。
 以前相対した時よりも、より禍々しさを増した、ドラゴンのなれ果てが、敵意をむき出しに飛来する。
「ふむ、絶望を取り込んで力を増しているようだが、知性と理性が失われているなら、むしろ対処し易いというものだ」
 が……。理性を失った魂は、眼前の獲物に背中を割るようにして生えだした腕の爪を向け、怒りの咆哮がその場に降り立つ、冒険者の動きを鈍くしていた。
「とはいえ、迂闊に突っ込むわけにはいかんな」
 漆黒の犬頭人身となったカリウスが、強弓を構えた。
 相手で声の攻撃は、理性があったときと変わらない。いやそれ以上の威力で冒険者達を翻弄した。
「まっ・けっ・まっ・せっ・んッ! わよ〜♪」
 心をなくした歌声など、唯の耳障りな騒音でしかないと、ラートリが自慢の喉を震わせた。歯切れのよいスタッカートを刻む高らかなる心をかきたける凱歌に、景気良くマラカスのリズムが重なる。よりゴージャスな尾羽と鶏冠がキラキラしく眩しい。今、確かに彼女(?)はスターの風格を手に入れていた。タイムゲートに連れ込まれた瞬間に意識を手放したユノの体を踏んで、マラカスを振りまわしているのだが……のりのりの本鳥は気が付いていない。
「ラートリさん、相変わらず素敵な歌声ですね♪」
 思わず聞き惚れてしまいそうです。
「当たり前が当たり前であるために、勝たせてもらうぞ!」
 想いを絶対に打ち負かすという気持ちを狂える暴竜の叫びに負けぬ雄叫びに乗せ、腕に集めた強大な気をうちはなつ。尋常でないその気も、ただの牽制。ネレッセの狙いは巨大な体格の急所と思われる相手の眉間。全身の神経を極限まで指先に集中させ、鋭く突き出す。
『GAAAAAAAッ!』
 ゴアァとも、ぐあぁとも聞き取れる。劈く様な叫び。
「ちょっと、ずれましたか……」
 やはり、弱点の位置が読みにくい。振りまわされる、尾を両腕で庇い、直撃は避けれは見たが……。鈍い音がして、巨大な尾を受け止めた左腕は持ち上げる事すらできない激痛に襲われた。
「一旦下がりなさいっ」
 何処かカニを思わせる鎧を身にまとった、オルドが再度降り押される尾を手にした大剣を持って、ネレッセの盾となるべく飛び込む。
「うおぉぉぉぉっ!」
 自重を伴う、純粋な暴力を全力で受け止めた。剣を持つ腕の筋肉がボコッ盛り上がり悲鳴を上げる。ブチっ! と、何かが切れるような嫌な音が響くのも気にせず、下がりそうになる足を叱咤し、更に一歩前へ踏み出す。
「ぉぉぉぉ……らッッ!!」
 牙をむき出しにして、オルドが吠えた。此処で下がるわけにいかないッ! そんな、彼女の心が聞こえるような攻撃。
『GUGYAAAA………ッ』
 歌と呼べない怒りの怒声が、響く。
「……っ、こちらの歌声も相変わらずですけれど、負けません☆」
 護りの天使達の効力をもってしても耳を塞ぎたくなる声に、顔を顰めながら静謐の祈りを捧げる。
「さあチャンスですよ変態達、今こそ肉体を披露する時です」
 後方で只管仲間の援護にあたっていた、エリンが初めての死闘にややうろたえ気味だった3兄弟を叱咤した。
「今こそ同盟に古より伝わりし、技を使うとき……」
 鎧聖降臨もかけてあげるから、きっと大丈夫。
「ヒーリングウェーブも切らさないようにしてあげるから、多分大丈夫よ」
 前やった時大丈夫だったし。
「はい……?」
 それって……もしかしなくても。
「了解ですわっ! 名付けて漢女式奥義『えんじぇるとまほーく』!! ですわよー!」
 いち早く、エリンの言いたいことを察したのは経験者のラートリで……自分の足元に倒れていていた、ユノの体をむんずっとつかみ、前衛の2人が渾身の力を振り絞ってダメージを与えた敵にむかって投げつけた。
「さぁ、あなた達もご一緒に」
 丁度いい感じに、長兄の方が気絶している事ですし……。このときの完璧なまでのエリンの笑顔は、ドラゴンよりも危険な気配がした……と、後に帰還した3兄弟は語った。
「しょうがないわねー。ぐずぐずしてるなら全員まとめて投げちゃっていいかしら?」
 この際、相手に傷をつけられるものならば……仲間だってかまいやしない。痛みをひとまず無理やり意識の外に追いやって、ゆらりと立ち上がったオルドが両腕で一人ずつ手にかける。
「はいはい、タイミングはそちらに任せますわ」
 目標射程確認……OK。射角確認……OK。のたうちまわる相手めがけて3つの体が放物線を描く。
「いやぁぁぁ………」
「しんじられませんわーっ」
「……………」
「奥義二式……『おかマッチョトリプルたいふーん』……て、ところかしらねー?」
 とりあえずやることはやっただろうか……?
「まったく……無茶をしますね」
 とんでもないことを遣らかすメンバーがそろってるとは思っていたけれど……まさか霊査士まで犠牲にするだなんて……。
「でも、効いてはいるな……」
 信じられないことだけれど。この隙に行くぞ……。
『GURAAAA!』
「はい……。あなたももっと、以前は人間味があった気がしますけれど☆」
 絶望として現れるたの、今度こそ完全に倒しきります♪ だって、私たちは絶望の鏡面的存在……希望のグリモアの冒険者で……。
「私だって、あのときの私じゃないですから☆」
 理性を失った巨体でも、痛みを感じる事があるのだろうか。より一層、 口元を醜く歪め牙をむき出しにして敵意をあらわにする、かつてブルーシャインと呼ばれていた者に、アールコートが宣言した。
 それは、傷ついた箇所から、黒々とした体液を撒き散らし。闇雲に周囲に力を叩き続けるだけしかできない事実にどこか哀れさを感じる。
「過去の亡霊よ、速やかに歴史の彼方へ還れ!」
 是で終いだ……。カリウスの放った闇色に透き通った鋭い矢が、吸いこまれる様にドラゴンの額に突き刺さる。
 大きくしなった体が硬直して、次の瞬間霧散した。跡形もなく……其処にいたものがまるで幻だったように……。
 其々の体に刻みこまれた傷が、ここで倒さなくてはならない敵を倒しきった証明の様に思えた。消して軽くはない傷を負った者もいたけれど……。今少しだけ、目的を果たした達成感に身を任せていたかった……。


マスター:青輝龍 紹介ページ
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