<リプレイ>
●遠い旅の記憶 縁側から庭にある池の水面をじっと見つめている語らずの・ゾアネック(a90300)。 ふと稚気に駆られた遠い音楽・サリエット(a51460)は、ゆっくり近づくと外気で冷えた指を彼の首に当ててみた。 「――――!」 指先から人並みの体温が伝わってくる。 びくりと身体を強張らせたゾアネックが、ばつが悪そうに首を解す。 「お久しぶりです……すみません、少しはしゃいでみたかったのです」 「…………」 久しぶりというにはゾアネックにはつい先日も会ったばかりではあるが、彼が穏やかな時を過ごしているらしいのは、きっとサリエットの力添えによるものだろう。 後で温泉に行きましょうと賺し、ゾアネックの背中を押して部屋の中へと導く。 「皆さんもお久しぶりです」 「サリエットさん、お久しぶりです〜。 これ、お土産なんですけど、良かったら。お口に合うと良いのですが……」 手籠の中から水鏡の不香花・ヴェノム(a00411)は皿に乗ったケーキを取り出した。 ふんだんに蜜林檎を使ったホールのアップルパイは、ツヤの出た焼き色がいかにも美味しそうだ。 チョコレートリキュールで味を調えた黒褐色のココアパウンドケーキは、大人の味を連想させる。 「アップルパイはお酒飲めない人用で、パウンドケーキは甘いの苦手な人用ですっ♪ ……毒見はちゃんと済ませてきましたので大丈夫ですよー?」 「いや、その、もちろんだとも。ありがたく戴こうかな」 にっこり微笑むヴェノムに、斜陽の霊査士・モルテ(a90043)は不自然な笑みを返す。 何か表情に出していただろうか。以前、毒を盛られた経験があるとはいえ、別に手作りの食べ物に対して恐怖があるわけではないのだが……。 混じり気のない好意に疚しく感じたりするのは、穢れきった心の表れであろう。 「うん……中のドライフルーツもいいですね」 「んむ、んまいのじゃ」 パウンドケーキを口にしたサリエットと、アップルパイを口一杯に頬張る彩雲の天鳥・スピナス(a90123) から、堪能の言葉が漏れた。 「本当ですか、良かったー。今度みなさんで是非、お店にも食べに来てくださいね♪」 腕に縒りを掛けますから。ヴェノムは拳をぐっと握る。 冒険者として仕事が一段落してからヴェノムは酒場で働いているらしく、最近では調理場を任せられるようにもなったらしい。 パイやケーキの味が確かなのも、その経験が物を言わせているのだろう。 「スピさん、お変わり無いようで嬉しいのですよー♪」 スピナスの頭を撫で回しながら、感触の違いを敏感に感じたヴェノムは首を傾げる。 「また少し背が伸びましたか?」 「本当か? だったら嬉しいがのぅ」 実際のところ、同年代と比べればスピナスは明らかに背丈が低い部類に入る。 まだまだこれからが成長期とは言っても、将来、ヴェノムを追い抜くことはないかもしれない。 本人も少しは気にしているようだが、成長とは身体だけに起こる事ではない。きっと内面は彼女の期待以上に頼もしく育っていくに違いない。 「私もちょっとだけ年取っちゃいましたけど、まだまだ大丈夫ですよ〜」 控えめに胸を反らして、ヴェノムはにっこりと微笑んだ。 一方、随分年を取ったモルテは、安楽椅子に寄りかかって微睡んでいる。 「霊査のお仕事、お疲れ様でした。存分に安眠できるようになって何よりです」 「そうだねぇ。あれで結構、体力が要る仕事だったんだよ」 労いの言葉を掛けるサリエットに斯く語るが、果たして実際に戦闘するのと比べてどれ程のものだろうか。 「スピさんは最近、どんなところを冒険されているのでしょう?」 「じっくり時間をかけてランドアースをくまなく周りきったところでのぅ。 次はワイルドファイアに行ってみようと思っておる」 「そうですか……またしばらくは会えなくなってしまいますね」 みなさんも、これからどんな道を行かれるのでしょうね〜。 過ぎ去りし日日を、ヴェノムは頭の中にふわふわと思い浮かべる。 「お別れするのはちょっと寂しいですけど……」 それは自分達一人一人が選んだ道だ。 たとえ往く道は分かれても、心が通い合った人とは思い出の中で繋がっている。 そう思えば、何も寂しがることはない。大切な人は、いつでも傍にいるのだから。 「いつも我侭言ってますけど、最後の我侭聞いてもらってもいいですか? ……絶対絶対、幸せになって下さい、ね?」 母と死に別れ、姉の堕落を止める事も出来ず、悲境に置かれたスピナスが、ヴェノムのような女性に母性を感じていたのは間違いないだろう。 どこまでも優しいその言葉に、とても寂しそうな、懸命に瞳から零れ出すものを堪えているような、複雑な表情を浮かべていたスピナスだったが。 「あらあら、男の子は簡単に泣いたら駄目ですよ」 遂には椅子に座るヴェノムに駆け寄ると、スピナスは彼女に懐抱されるのだった。 そんな二人の邪魔はすまいと、サリエット達は遠巻きに眺めていたのだが。 モルテはごく自然に近づくと、不意にヴェノムの首筋へ吐息のような、彼女にしか聴こえない呟きを残した。 贈られたのは、意外な言葉。その軽薄の中にどれだけの深淵を潜ませていたのか。 「……ありがとうございます」 どう受け止めるべきか迷ったが、とりあえずヴェノムはそう応える事にした。 本当に、最後まで意地悪だった。
紅葉の庭で、知己は久方ぶりの鼎坐を果たす。 蒼翠弓・ハジ(a26881)と朱の蛇・アトリ(a29374)の二人は時折顔を合わせていたが、一人楓華に宿替えしていた金鵄・ギルベルト(a52326)と会うのは実に久方ぶりのことだった。 「お元気そうでなによりです」 楓華風の旅装と腰に刀を二本挿し、長く伸びた髪を柘榴色の紐で結った総髪という、すっかり楓華風に収まったギルベルトの態にハジは目を惹かれる。 「白いモンが目立ってきたなぁ。ハジは若いままだし、並ぶとじーちゃんと孫じゃねえか」 憎まれ口を敲いてはハジが持ち込んだ土産の銀杏の殻を割り、アトリは七輪の炭火で炒り始める。 三者三様、世代は異なるが、それぞれが未だ冒険者らしい活力に満ちていた。 「楓華は今、どんな状況ですか?暮らし易いですか?」 「最初こそそれなりに努力も要したが、今は楽しんでるぜ」 ギルベルトのような新しい風を吹き入れて、彼の地も変わりつつあるという。 「しっかしまたなんで楓華に居構えたんだ?」 「開国したばっかだから未開拓な部分が多いだろうってのと、各地方の武士団の残存状況が気になってな。武士団なんて鍛錬にもって来いだろ?」 いかにもギルベルトらしい答えだと笑いながら、アトリは銀杏を摘まんで米酒をぐいっと呷る。 炙った干物に齧り取り、ギルベルトもまた米酒を口に流す。 旨そうに酒を酌み交わす二人を、ハジは羨ましいような、ほっとするような気分で眺めていた。 「アトリのパン屋の方は上手くいってるのか?」 「ん? がんばり屋な嫁サンのお陰で上手くいってっぜ。今度、移動販売も始めてみよかって話してんだ」 「順調そうで何よりですね」 楽しく暮らしているらしいアトリの話が、ハジには我が事のように嬉しかった。 「そうそう! 2人が星の世界に行った時に作ってみたパン。あれも商品化して好評販売中だぜ」 うひひ、とアトリは悪戯好きの少年のような顔をした。 あれ、とはハジとギルベルトの容姿を模したパンのことだ。 「えっ! そんなものを売り出してるんですか!?」 世間に自分達のパンが広められていることにハジは驚く。買う方も恐らく当の本人達とは結びつけていないだろうが、少し複雑だ。 煙管の紫煙を燻らせ、ギルベルトは口角を僅かに上げるような笑みを浮かべていた。 「ハジは旅をしてたんだったな。何か面白いものは見られたか」 こんっ、と煙草盆の灰吹きに煙管の吸殻を落とす。 「そうですね……一面のスイカ畑が印象的でした」 実の大きさに対して控えめな黄色い花も、一面に咲くとあらばその存在を主張するに足りる。 あれだけの実りがあったのは、土地が豊かになった証拠だとハジは実感していた。 「これからも、ずっと楓華にいるんですか?」 微酔いの二人を少しだけ羨ましく思いながら、ハジは一人素面でつまみを食べる。 「今の住居を譲る相手を見つけたら、更に北を目指してみるつもりだ」 「また引っ越すのか?」 「次が終の住まいとなる予定だ。決まったら連絡する」 そうかそうか、とアトリはギルベルトの猪口に酒を注ぐ。口を挟むつもりはまるでないらしい。 「俺も手紙、書きますね」 多少の年月を経てもその本質は変わらない二人に、ハジは心のどこかで安心するのだった。
●もっと近くで 冒険者にとって、老いとは肉体の衰えではなく、精神の衰えであった。 サリエットもまた幾らか齢を重ねていたが、ゾアネックの生き甲斐はやはり戦場にあったのだろう。 百年の間も心友として頻繁に親交を結んでいたが、いつからその波が寄せていたのかは定かではなかった。 「さいはて山脈ほどの規模では勿論ありませんが、フラウウインドの中ではかなり高い山ですね」 「…………」 先程まで吹雪いていた雪山の風色は、過去のゾアネックのイメージに近いものを感じた。 尤も、長い付き合いで本質を知った今では、サリエットはそこまでの冷たさと激しさを感じることはない。 存外優しい――とさえ思うのは、贔屓目かもしれないが。 「…………何だ」 こそばゆい視線を感じ、白く濁る息を吐くゾアネック。 「いえ、何でも」 サリエットは口を押さえて笑い声を忍ぶ。 「改めて、有難うございます……これだけは言っておきたくて。時折くれた言葉が、どれほど力を与えてくれたか。 あなたとお会いして無ければ、今の私はここに居なかったでしょうから」 「………………我の方こそ、な」 足許の雪を踏み締めて、ゾアネックもまた謝意を示した。 山の天候は変わりやすい。冬天を覆っていた雪雲はあっという間に流され、見事なまでの晴天を姿を現していた。 日光が地表の雪、枯木の氷に反射して辺り一面が眩しい中、雪上を移動する影がちらちらと二人の目に入る。 「あれは……」 また一匹、何かが雪の中から飛び出してきた。 広げた翼で雪面すれずれを滑空する。そしてまた、柔らかい新雪の中へと潜る。 「まるで、雪を泳ぐ飛魚ですね」 息を殺して生物の群れに近づいたサリエット達は、どうにか傷つけずに捕獲することに成功した。 後に銀星鱗と称されるこの生物は、鳥の一種のようではあるが、魚のようにも蜥蜴のようでもある。 背には光沢のある銀の鱗、表皮は白を通り越して、薄ら内臓が透き通っていた。見ようによっては、生まれたての竜のようにも見える。 「冒険という程ではなかったかもしれませんが、久しぶりにご一緒できて今日は嬉しかったですよ」 「…………ああ」 最後まで、ゾアネックは多くを語らない。 人跡未踏のこの雪山は、サリエットによって銀星山と名付けられた。
●千年の夜明け 「…………どうしたものかのぅ」 その少女は眠っていた。朝から晩まで寝倒していた。 ベッドの上でではない。世界首都インフィニティマインドの内部を定期的に物色するように移動しながら、収まりがいい場所を見つけるとおもむろに横になる。 そのくせ警戒心は強く、気配を敏感に察知してぱっちりと目を覚ましてはそのままの体勢で近づく者を威圧するのだ。 「まるでネコですね……本当にモルテさんのご子孫なんですか?」 また難儀な人に関わってしまったとサリエットは苦笑する。 「らしいのじゃ。ぱぁぱも病的とは思っておったが、この子も異常じゃのぅ」 この少女との有効な接触を取るまでに、二人は実に一週間もの時を要したのだった。
●怨望の果て その体表はぶよぶよとした水ぶくれの肉塊だった。 七つの肉瘤からは鋭く硬い棘がびっしりと生え、それを大樹の幹より太い肉紐が繋いで肉の輪を形成している。 まんまと地上へ紛れ込み、人人の絶望を糧に高みへと変成を遂げた者。 密かにじっと、その高みへと昇る最適な時機を待ち続けていた者。 ランドアースに撒き散らされた暴力の種は、あの日、それを上回る更なる力によって駆逐された。 そして望みすら叶わず、ドラゴン界で死んでいった者達もいた。 邪悪の怨嗟は渦を巻き、やがて一つの形を成すに至る。 それが、タイムゲートの前に現れた不気味な異形の正体であった。
ギルベルトは、この時を待ち望んでいた。 いつしかその髪が白髪に塗れようとも、万年の毎日をただこの日のために研鑽してきた。 湧き上がる感情を抑えつつ、和装の老武者は昔日の雄姿へと己の容を変えた。 戦場に在るギルベルトの姿を認め、こちらも老齢となったサリエットは一人の男を思い起こしていた。 もしこの時が訪れる事を知っていたならば、或いは彼もまたそうしただろうか……。 「貰った――!」 野太い肉の紐が、魔炎を纏ったアトリの影手に引き裂かれた。 輪形が断ち切れたかに見えたが、直ぐに再生を始めて元の形へ復する。 「っと、こりゃあ限がねぇかな」 どこか弱点となる核のような物が無いだろうか。アトリはじっと目を凝らす。 「手前にある瘤を全員で叩きましょう」 その核と目されるのは、針の生えた瘤だろうとハジは踏んだ。霊査では強化ドラグナーの成れの果てという事だったが、間違いなく特徴的で目を惹く部分だ。 ハジは一瞬、遠き日を想うかのような表情を浮かべる。 「……なんだよ? ンな見られっと手元狂っちまうじゃねえかっ!」 彼だけではなかった。黄金のハルバードを振るう金眼の狂戦士にもまた、アトリは視線を注がれているような気がした。 (「どっかで会ったっけ?」) 記憶の底を浚ってみるが、どうにも思い出せない。 己が、嘗て彼らと知己の間柄であった祖先と瓜二つである事など、今は知る由も無い。 初めこそアトリはその視線の痒さに調子が狂わせたが、何故か次第に悪い気はしなくなっていた。 射出され巨大な針の一本一本が、意思を持つ突撃槍となってハジへと襲い掛かる。真面に食らえば只では済まないだろう。 その動きは直線的ではあるが冒険者の速度をも凌ぎ、遮る物の無いこの戦場では全方位からの攻撃に注意をしなければならない。 「それでも、近づかなければどうということは無いのですが……」 躱した突撃槍を、ハジの放ったホーミングアローが追尾する。狙い違わず柄の部分を垂直に貫くと、槍は弾け飛んだ。 「十把一絡げが、しつこいのじゃ!」 ぐるぐると回した腕を眼前に突き出すスピナス。創り出された闘気の渦は、瘤から射出されようとする槍の角度を捻じ曲げる。 「道を切り開くぜ……続け!」 降り注ぐ槍の雨を弾きつつ、ギルベルトは猛進する。途中、裁き切れなかった穂先が強固な鎧に護られた脚を貫くも、そんな些事に構うことはなかった。 己の間合いまで辿り着いたギルベルトは、気勢に乗じて威吹を振るう。斧頭の刃が肉瘤を裂くと同時に闘気が爆ぜた。 「いただき!」 寸暇を与えず、後詰めを務めたアトリと、後衛からはハジの追撃が加わる。 それはまるで、ずっとそうして来たかのように呼吸の合った連携であった。 許容を超過する打撃を負った肉瘤は、乾いた破裂音と共に肉片を飛び散らせて弾け飛んだ。 「――良し、次の瘤を潰すぞ」 核の一つを失った異形は、再び輪状へ戻ろうと蠕動する。 「……?」 微かな違和感。先程までとは瘤の数が違う、それ以外にも別の何か。 サリエットの紋章の力が産み出した衝撃波が、また別の瘤を歪に拉げる。 そうして三つ目の瘤を破壊した後には、明確に違いが出始めた。 「今までよりも瘤が膨らんでいる……」 体積の増加に比例して一つ一つの瘤にある棘の数も増加していた。 それは、瘤に接近する際の危険度も増したことを意味する。
●明日からの風 デンジャラスタイフーンがスピナスの視界内に飛び交う有象無象を叩き落す。 「ようやく、あと一つなのじゃ……」 一つ一つを確実に叩く作戦で、冒険者達はこれまでに合わせて六つの瘤を消滅させた。 全員が回復手段を持ち合わせていたことも幸いし、どうにか誰かが致命傷を負う事態は避けられていた。 「形を保てないのか……?」 七つあった時の瘤と比べて二倍程の直径となった最後の瘤は、最早その体積を制御しきれず、表面が不定形なウーズのようになっていた。 冒険者達を取り込もうと伸ばす八本指の手は巨大であるにも関わらず速く、且つ重い。 「っ……やるのぅ」 攻撃が掠っただけのはずのスピナスの背中から、勢い良く鮮血が噴出した。 「ネチっこいヤツだなぁ、おい。悪ぃが、ここでお引き取り願うぜ!」 術扇を翳して強がるアトリではあったが、黒炎覚醒の力で温存してきた攻め手もそろそろ心許無い。 できればさっさと片付けたいというのが本音だった。 アトリに伸びようとする魔の手に、三本の矢が続けて命中する。 「気を抜かずに、」 ハジは攻め手を複数用意して効果を確かめていたが、結論から言えば特筆すべき差は無かった。 逆を言えば、どれもが相応の効果があったということだ。 「攻撃の手を休めてはいけません、これが最後ですよ」 言わずとも解ると得物を振り回し、ギルベルトは再び盾となって先陣を切る。 「――――何だと?」 それまで球体だった敵影は、近付いたギルベルト達を包み込むようにぼっこりと凹んだ。 反撃とばかりに肉塊から太く長く伸びた棘の壁に、ギルベルトの視界が囲まれた。 全力で飛び退り、辛うじて急所を刺し貫かれるのを防ぐ。と同時に、ありったけの精気を籠めて得物を振るった。 爆発が聴こえるが、四肢の神経は断たれたかのように動かない。 「まだじゃ。まだなのじゃ!」 裂帛の気弾がスピナスの掌から撃ち込まれ、直撃を受けた棘がぼろぼろと崩れ落ちた。 「そうはさせませんよ――!」 それでも動き出す素振りを見せた棘の山を、今度はハジの放った鋭い矢が貫き通す。 「下手な歌だが、勘弁な」 その隙を突いて、アトリは動けないギルベルトを肩に担いで離脱すると、凱歌で彼の傷を癒してゆく。 側面へ回り込んだサリエットが、コキュトスを構えた。 「もし私達が負けて、世界が消えれば何もかもが無に帰すのでしょうね。 ……沢山の出逢いも、想い出も」 だが、そんなのは嫌だ。 「共に闘って来た皆の、あの人の想いを――無駄にするものですか!」 再生する傍から、サリエットは紋章の力をぶつけた。棘の針先が皮膚を肉を裂いていくのも、最早気にならない。 負けるわけにはいかない。その想いの力は、誰もが持ち合わせていた。 「わしだってヴェノムのためにも、負けられないのじゃ!」 極限まで気力を高め、スピナスは蓄えた力を解放する。押し戻されていく、肉と棘の塊。。 「今この時のために、俺達は――」 狙い澄ましたハジの曲射と、アトリの影爪の薙ぎ払い。 二人の連携が大小のアーチを描き、肉塊を十字に断つ。 それは、万年の時をずっとそうしてきたかのような呼吸の顕現だった。 「やったのか?」 悪声の合唱のような耳障りな音色が戦場に響き渡り、肉塊はゆっくりと霧散してゆく。 澱んだ絶望を吹き飛ばす風となった冒険者達によって、障害は消え去ったのだ。 「まだ、ここは俺の死地じゃないようだな……」 ならば、次なる場所へと向かわなければならない。 手足の感覚を確かめ、ギルベルトは内なる炎を燃やすのだった。

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参加者:5人
作成日:2009/12/31
得票数:冒険活劇1
戦闘3
ほのぼの3
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冒険結果:成功!
重傷者:金鵄・ギルベルト(a52326)
死亡者:なし
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