Never Say Goodbye〜永遠のファンタジア



   


<オープニング>


●2019年の世界
 インフィニティマインドが星の世界への旅から帰還して4年が過ぎた。
 世界は相変わらず平和で、冒険者達は変異動物や怪獣と戦ったり、人助けをしたり、旅に出たり、第二の人生を歩み始めたりと、思い思いに暮らしている。
 そんな中、誰かが言った。
 魔石のグリモアとの最終決戦から10年。世界が平和になって10年。
 この節目の年に、久しぶりにみんなで集まるのはどうだろうか。
 互いの近況や思い出話など、話題には事欠かないはずだ。
 さあ、冒険者達の同窓会へ出かけよう!

●繚乱の春
 春夜の園は夕暮れより、眩いほどの花々を咲かせるという。
「うわ〜、ここは、いつ来ても綺麗ですね〜♪」
 柔らかな風が、彼女の栗色の髪を吹き上げた。風に舞うは早咲きの桜、ほのかに甘い香りも漂う。
 ころは春、はじまりは・プルミエール(a90091)が立っているのは、そびえ立つ洋館の前だった。館は多数の部屋を有する宿であり、これを広大な花園が囲んでいる。
 かつてこの園で、あるいは宿の一室で、愛し合う者たちは醒めぬ夢のような一夜を過ごしたものだ。恋の芽生え、告白、あるいは心の確かめ合い……数え切れない程のドラマがこの地で生まれた。
 そして、今夜もその一頁に加えられるのだろう。
 この場所で、十年目を祝う冒険者たちの同窓会が開かれる。
「皆さん、お久しぶりですっ」
 プルミエールは満面の笑顔だった。集まりはじめた来場者たちと挨拶をかわしている。さすがに昔日の『丸見え』な衣装はやめてしまったらしい。桜色のモチーフは同じながら、裾の長いワンピースに身を包んでいた。
 なぜってあの日から、ちょうど十年が経過したのだから。
 プルミーは不死を選ばなかった。歳経て自然に、この地に骨を埋める気でいるという。もともと童顔だったためか、驚くほど見た目は変わっていない。しかしそれでも、いくらか落ち着きが出てきたようには見える。
「やあ、プルミー」
 葵桂の霊査士・アイ(a90289)が、彼女の夫とともに姿を見せる。礼装としてスーツ姿を選んでいるあたり、服装の趣味は変わっていないようだ。ただしアイには、目に見える変化があった。
「プルミーおばちゃん♪」
「げんきでしたかー?」
 アイの両脇から子どもが二人、プルミーに駆け寄ったのである。そう、アイの子どもたちだ。
「こら、プルミーは若いのだから『おばちゃん』と呼ぶなとあれほど……」
 二人をたしなめるアイなのだが、プルミーはいたって気にしていないらしい。
「おばちゃんでよろしくてよ♪ だって私も……私にも……」
 ぽーん、と音を上げて、プルミーのスカートの下から何かが飛び出す!
「私にも、二人の子どもがいるのですからーっ♪」
 わーっ、と丸顔の子らが声を上げた。こちらも男女二人、特に女の子のほうは、面白いくらいプルミーに似ている。アイのところよりはいくらか幼い。双子なのだという。
 この『奇襲』にはアイの子どもたちも仰天したが、やがて四人で追いかけっこをはじめている。
「騒ぐでない! もうすぐ人が集まってくるから……待てー!」
 アイが四人を追いかけていく。その後ろをプルミーもひょこひょことついて行った。
 セイレーンの重騎士・ユウキ(a90384)はプルミーの夫と話していたのだが、騒動を見て苦笑した。
「みんな……変わってませんね……」
 眩しいような、くすぐったいような気持ちになる。今日はどんな懐かしい顔と会えるだろうか。

●2109年の世界
 世界が平和になってから、100年の時が過ぎた。
 年老いた者もいれば、かつてと変わらない姿を保っている者もいるし、少しだけ年を取った者もいる。中には寿命を迎えた者も少なくない。
 そんなある日、冒険者達にある知らせが届く。
 100年前に行った、フラウウインド大陸のテラフォーミングが完了したというのだ!
 昔とは全く違う姿に生まれ変わったフラウウインドは、誰も立ち入った事の無い未知の場所。
 そうと聞いて、冒険者が黙っていられるはずがない。
 未知の大陸を冒険し、まだ何も書かれていないフラウウインドの地図を完成させよう!

●ファンタスティック! 竹林調査に乗りだそう
 冒険の酒場。
「えっ……」
 ユウキは絶句した。
 なぜならその少女は、彼がかつてよく知っていたあの人に生き写しだったから。『彼女』については、ユウキばかりでなく彼の妻もよく知っている。『彼女』を看取る場に駆けつけ、その葬儀に参列したのも随分前のことだ。
「私の名はプルミア、世界を平定した冒険者の一人『プルミエール』の直系の子孫よ。よろしくね」
 少女は、あまりにもプルミエールに似ていた。栗色の髪、濃い紫の瞳、そして服装……そう、オリジナルの『丸見え』なアレ!
「この服? 曾々お婆ちゃんの代から受け継がれてるの。この丈どうにかならないかなぁ? どうにもこうにも短くって……。え? これ? し、下着なわけないでしょ! アンダースコートよ、アンダースコートっ!」
 口調が多少違うが、声にしたって本人さながらといっていい。
 しかし彼らの驚きはこれにとどまらなかった。
「ぽよーん、今日は一族の正装で決めてきました。あたし、アイの子孫のアンナ! プルミアちゃん、ご先祖様の服装、よく似合ってるよー☆ ね、あたしはどう? あたしは?」
「似合ってない。怖い」
「そ、そんなー!」
「ええい、嘘よ嘘! 嘘だから泣くなっ!」
 おろおろとプルミアにすがりつくのは、これまたアイに生き写しの子孫だった。こちらは性格からして、先祖とは随分へだたりがあるようだ。ユウキたちはホワイトガーデンに暮らしていたのでよく知らなかったが、二人の子孫は先祖同様に親しいらしい。
「それでね、フラウウインド大陸での冒険というのはー」
 アンナが説明をはじめる。アイを知る冒険者にとっては、そっくりの顔と服装で幼い口調ゆえ少々調子が狂うかもしれない。しかしその違和感を封じ込めて聞くとしよう。
「不思議な竹林が、大陸の一部に出現してるの。竹林っていったって、村の一つや二つ、すっぽりと入ってしまうくらい広いんだよ。びっしりと茂ってまるで迷路みたいなんだって! ここを調査して、未知の生物がいないか調べてほしいのー☆」
「未知の生物……? 見つけたら敵とみなし、問答無用で退治したらいいわけ?」
 プルミアが腕の剣を抜く。
「よくなーい! テラフォーミングの結果、危険な敵は滅んじゃったんだから、そこに何かいても、あぶない動物じゃないの。生態調査だけにしてねっ♪」
 アンナは片目をつぶり、プルミアは「むーん」と不服そうに腕を組んでいる。
「そうそう、竹林の探索が終わったら、その一帯に地名をつけてね。新しいフラウウインド大陸の地図を作るんだってー」
「変竹林(ヘンチクリン)とか? アンナみたいな……」
「そ、そんなー!」
 仲が良いのか悪いのか、終わらぬ言い合いをしているアンナとプルミアだ。
 ま、それはそれとして、と、集った冒険者たちは思う。
 フラウウインドを舞台にした久々の探索行だ。しっかりと踏破しよう。

●3009年の世界
 世界は1000年の繁栄を極めていた。
 全てのグリモアを搭載した『世界首都インフィニティマインド』には無敵の冒険者が集い、地上の各地には英雄である冒険者によって幾百の国家が建設された。
 王や領主となって善政を敷いている者もいれば、それを支える為に力を尽くす者もいる。相変わらず世界を巡っている者もいたし、身分を隠して暮らしている者もいて、その暮らしは様々だ。
 1000年の長きを生きた英雄達は、民衆から神のように崇拝される事すらある。
 今、彼らはこの時代で、どのような暮らしを送っているのだろうか?

●千年過ぎても絆は生きる
 一千年、それは気が遠くなる程の年月だった。
 されど、気がつけば経過していたように思えてならない。
「明日から千年目……ですね」
 王は王妃に問う。
「ええ、長いようで、短い千年でした」
 王妃は緩やかに微笑みを返した。
「まさか僕が王様になるなんて思いませんでした」
「八百年以上、そう言っていますね」
 王がまだ王ではなく、一介の冒険者であった頃から、彼女は彼と共にあった。
「そのたびに、私はこう応えてきました。それがあなたの、運命だったのですと……」
 国王は名を、ユウキという。永遠の少年王、千年公などと民に称され慕われていた。王妃はその黄金の髪ゆえ、金色妃と称されることが多い。
 長い旅の果て、不毛の地に居を定めた二人は、その地を開墾し人の住める土地を作った。建国は長く、また根気の要る作業だった。だが努力は結実し、やがて彼らはその国の王に選ばれたのだった。
 彼らの国は、それから長い繁栄を誇った。
「明日、また旅に出られるんですよね」
 少年王は心からの笑みを浮かべた。世界が平和を取り戻して、丁度千年目となるこの節目の年、彼は退位し、旅に出ると国民に宣言していたのである。
「ああ……ようやく玉座から降りられる! 窮屈でした。やっぱり僕は、冒険者の方がいい」
 王杓も冠も、すべて後任者に与える手はずは整っている。内政についてやり残したこともない。さあ、あとは背嚢に荷を詰め込むだけだ。
 彼らは手始めに、かつて冒険者であった者、あるいはその子孫を訪ねたいと思っている。旧交を温めよう、あるいは、その暮らしぶりを教えてもらおう。一千年の時間が過ぎても、かつての絆は生きている――そう信じているから。

●数万年後の世界
 永遠に続くかと思われた平和は、唐突に終わりを迎えた。
「あれ、海の向こうが消えた?」
 異変に驚いてインフィニティマインドに集まった冒険者達に、ストライダーの霊査士・ルラルは言った。
「あのね、これは過去で起こった異変のせいなの。過去の世界で……希望のグリモアが破壊されちゃったんだよ!」

 とある冒険者がキマイラになり、同盟諸国への復讐を試みた。
 彼は長い時間をかけて、かつて地獄と呼ばれた場所にある『絶望』の力を取り込むと、宇宙を目指した。
「えっと、これ見てくれる?」
 ルラルは星の世界を旅した時の記録を取り出した。
『2009年12月10日、奇妙な青い光に満ちた空間を発見。後日再訪したその場所で過去の光景を目撃。詳細は不明』
「この記録を利用できるかもって思ったみたいだね。そして、実際にできちゃったの」
 どうやら、この空間は過去に繋がっていたらしい。男はここから過去に向かい、希望のグリモアを破壊してしまったのだ!
「世界が平和になったのは、希望のグリモアがあったからだよね。だから希望のグリモアが無かったら、今の世界は存在しないって事になっちゃう。ルラル達、消えかかってるの!」
 今の世界は、希望のグリモアが存在しなければ有り得なかった。
 だから希望のグリモアが消えた事によって、今の世界も消えて無くなろうとしているのだ。
「これは世界の、ううん、宇宙の危機だよ! だって、みんながいなかったら、宇宙はプラネットブレイカーに破壊されてたはずだもん! だからね、絶対に何とかしなくちゃいけないんだよ!」
 ルラルにも方法は分からないが、事態を解決する鍵は、きっとこの場所にある。
「でも、この空間……えっと、タイムゲートって呼ぼうか。このタイムゲートの周囲には、絶望の影響で出現した敵がいるの。これはね、全部『この宇宙で絶望しながら死んでいった存在』なの」
 彼らが立ちはだかる限り、タイムゲートに近付く事は出来ない。
 彼らを倒し、タイムゲートへの道を切り開くのだ!

●絶望を打ち砕け
「長き年月をかけ築きあげたものも、破壊するは一瞬……ということか」
 その女性は、軍装に似た灰色の服に身を包んでいる。頭には帽子、腰には儀礼用のサーベル、長い黒髪を編んで背に垂らしていた。
「うん、そうなの、アイちゃん」
 ルラルはうんうんとうなずいた。
「宇宙のピンチ、というわけですねっ! 消えちゃうなんて嫌ですもん、絶対に勝ちますよー!」
 桃色の衣装を着た少女がいう。なんとまあ危険な服であることか。スカートの丈は限界まで短く、自称アンダースコートが『丸見え』である。
「がんばってね、頼んだよプルミーちゃん!」
 ルラルはぐっと握りこぶしを固めた。
 しかし両者に互いに目を向け、「ん……?」と唐突にルラルは口を閉じた。ややあって、
「生きてたの二人ともーっ!」
 と飛び上がってしまう。なぜって彼女の両側に、アイ、プルミエールの両者がいたからだ。
「生きてた……? まあ、生きてはおりますのがのう。ひょひょひょ」
 くねくねしたダンスとともにプルミーは応じ、アイはポンと手を打った。
「ああ、わかった。ルラル殿は我々と、遠いご先祖様を混同しているのだろう。たしかに我らは先祖の名を受け継いでいる。数世代ごとに一人、受け継ぐことにしたらしいのだ」
「はいです。私は数百代目の『プルミエール』ですよーん」
「うん、私も何代目かわからないほどの『アイ』だ。ご先祖様は、我らとそんなに似ていたのか?」
 似てるもなにも丸っきり本人みたい……、とルラルは眼をぱちくりとした。そのとき、話を聞いている冒険者の一人に気づいて問いかける。
「とすると、もしかしてそこのユウキちゃんも、『ユウキ』ちゃんの子孫?」
「いえいえ、本人です」
 かくいうユウキも、『アイ』『プルミエール』の酷似ぶりには驚いているようだ。
 集まった面々は皆、どこか先祖を彷彿とさせる姿をしていた。瓜二つの者も珍しくないし、伝説の英雄本人もあるに違いない。どの冒険者にも共通しているのは、彼らがこの巨大な危機に対し、命をかけて戦うという意志を見せているということだ。
 彼らの心の強さを感じ取り、ルラルは頼もしく思いながら述べた。
「敵はね……この宇宙で『絶望』しながら死んだ存在なんだって。すごい数がいるよ」
 様々な姿をした者の連合軍のようだ。めいわくなほど巨大化した動物たちがいる。フルーツをモチーフとした衣装の少女型モンスターがいる。人形のようなモンスター、古典玩具のようなモンスター、あるいは、悲惨な姿に堕した元人間もあるようだ。お菓子のような姿や、醜いドラグナーのような姿も見いだせるかもしれない。
「どの姿も、絶望の影響からか黒くゆがんでて、はっきりいって強くはないみたい。こちらを包み込もうとするけど、攻撃すれば簡単に消えちゃうよ。でもね、あとからあとから沸いて出てくるんだって。そうやってみんなを『絶望』に呑みこもうとしてるの!」
 心を折られるような事態だけは絶対に避けて、とルラルは言った。
「大丈夫だ。霊視できたわけではないが、私にも断言はできる」
 アイはきっぱりと言う。
「彼らは『絶望』に負けたりはしない」
「はい。約束します。この危機を必ず乗り越えてみせると」
 ユウキは誓った。
「そうですとも! 伝説の英雄たちが勝ち取り、大切に守ってきたこの世界です。こんな簡単に『さよなら』するなんてこと、ありえないのです!」
 プルミーも力強く声を上げたのだった。
「私たちの世界は……永遠です!」
 結集した冒険者たちは、一斉に拳を突き上げた。
 世界が無限のものとなるか。それともここで潰えるか。それはこの一戦にかかっている。
 英雄よ、あるいはその子孫たちよ。力を貸して欲しい!


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参加者
吟遊詩人・カズハ(a01019)
界廻る選定の志・エルス(a01321)
ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)
月吼・ディーン(a03486)
狩人・ルスト(a10900)
白銀の山嶺・フォーネ(a11250)
蒼く揺れる月・エクセル(a12276)
紅蓮の獅子・ディラン(a17462)
帰ってきてしまった・イッキュウ(a17887)
雪鈴鳴らす蒼き閃光・クロノ(a19669)
おしまいは・テルミエール(a20171)
護りの蒼き風・アスティア(a24175)
月夜に咲く希望の花・エリザベート(a24594)
月笛の音色・エィリス(a26682)
黒猫の花嫁・ユリーシャ(a26814)
闇騎士・アドミニ(a27994)
あったか戦法にこにこの術・コトナ(a28487)
漆黒の黄金忍者・ケンハ(a29915)
貴方を永遠に愛する甘い・チョコ(a30214)
隠遁者・アリエノール(a30361)
薄明月下・スズ(a30515)
紫月姫・シュビレ(a31087)
全開・バリバリ(a33903)
黒鋼の竜騎士・ゼファード(a35106)
嵐を呼ぶ蒼き雨・レイニー(a35909)
牡丹色の舞闘華・ヤシロ(a37005)
煌く蒼の軌跡・ミオナ(a38150)
濡れ羽色の閃光・ビューネ(a38207)
戦闘執事・サキト(a38399)
天秤の淑女・アリシア(a38400)
煌めきを追う者・ネーヴェ(a40386)
玲瓏なる萩華・ユヅキ(a41453)
悪の妖術師・クーカ(a42976)
天に抗う誓約者・トワイライト(a43304)
月の姫を抱く者・ミレイラル(a43722)
夢見鶏空を仰ぐ・ピナタン(a44156)
剣の天使人形・マサト(a47419)
春風に舞う鈴の音・アンジェリカ(a48991)
ヒトのヒトノソリン・リル(a49244)
愛こそ力・アイーシャ(a50245)
金色の閃光・フェイト(a50291)
黒百合の魔女・リリム(a50830)
突撃鉄壁重戦車・モイモイ(a51948)
金鵄・ギルベルト(a52326)
星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)
黒猫・レイオール(a52500)
ぶどう科・リルル(a52901)
深緑の風に舞う舞闘家・シャリオ(a53552)
朱刃・アコナイト(a56329)
鱗の乙女・リサ(a57094)
手のひらの鼓動・アールコート(a57343)
風浪の蒼き人・レナート(a57461)
我は破滅を断つツルギなり・ルビナス(a57547)
瑠璃の太公望・アリア(a57701)
白銀の誤字っ子術士・マリー(a57776)
灰色の守護騎士・ヴィクス(a58552)
祖前霊止・アスト(a58645)
ピースメーカー・ナサローク(a58851)
空と風のコンチェルト・クライス(a59001)
せせらぐ琴線・リナリー(a59785)
青雪の狂花・ローザマリア(a60096)
危険な恋のカリスマ・ソニア(a60222)
藍薔薇の・ロゼリア(a60370)
白と黒の探求者・ゼロ(a60940)
夢見る雫姫・セイカ(a61244)
火炎六花・ルーシェン(a61735)
夜鳴鳥・カルロ(a61747)
槍を持って進む者・ベディヴィア(a63439)
綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)
白薔薇の紋章術士・ベルローズ(a64429)
銀之刀匠・クオン(a65674)
朧銀の破魔矢・ユキト(a65770)
太陽と大地の狭間に・ミシャエラ(a66246)
子供好きなグラップラー・ネレッセ(a66656)
月下黎明の・アオイ(a68811)
合金紳士・アロイ(a68853)
紅炎炎舞・エル(a69304)
汚れた手のひら・レイ(a69323)
久遠なる湖晶・ジリアン(a69406)
享楽の失愛姫・レイム(a70257)
春夏冬娘・ミヤコ(a70348)
蒼嵐の・アス(a70540)
時の流れに任せる流水・レラ(a70801)
全力狂想曲・ティム(a71002)
静心の吟遊詩人・ヴィーネ(a71769)
歌姫修行中・マナヤ(a72408)
射通す白羽・ミスティ(a72785)
星空渡る風の翅・レティリウス(a72807)
蒼焔・フォンティウス(a72821)
ワイルドファーマー・ビュネル(a73520)
赤眼の紋章術剣士・アセルス(a74501)
朱華・オーム(a74565)
天然超乳拳士・ミネルバ(a75627)
世界の果てを描く風・ルーテシア(a76251)
カゼノトオリミチの店主・マスター(a76706)
集中一閃・シェムハザーダ(a77535)
闇夜の刃・シーズ(a77689)
繰り返される無限の誤り・トモヤ(a77980)
迷子の辻ヒール天使・アイリーン(a78658)
星竜騎士・ウェイン(a79076)
NPC:セイレーンの重騎士・ユウキ(a90384)



<リプレイ>

●2019年〜繚乱の春
 風が吹く。
 春のやわらかな風が。
 緋色の髪がはたはたと揺れた。黒百合の魔女・リリム(a50830)は前髪を手で押さえ、運ばれてくる春の香を胸に吸いこむ。
「お姉ちゃ〜ん。早く早くぅ〜♪」
 春夜の園が見えた途端、いてもたってもいられなくなったらしい。リリムの妹、春風に舞う鈴の音・アンジェリカ(a48991)は駆け出して、門のところで振り返り声を上げていた。
「ほらーっ、もうみんな来てるよ〜っ」
「ぇ、えっ? も、もう始まって……?」
「急ごうよ〜♪」
 アンジェリカは駆け戻ると、姉の手を取って会場に向けて引っ張るのだ。
「ァ、アンジェちゃん、そ、そんなに、い、急がさないで……」
「でも〜っ」
 今宵のアンジェリカは、十年前と変わらぬ姿をしている。服装は、踊り子向けの煌びやかな鎧、頭の両側で結う髪型も、年齢だってまったく同じだ。いや、それを言うならリリムにも変化はない。遠慮がちに着た漆黒のローブも、手にした箒もそっくりそのままに、十八歳当時の姿を保持しているのだった。姉妹はそろって不老の道を選択し、今日の日を迎えたのである。
 なんとか会場入りし、ふぅ、と息をついたリリムは、さっそく懐かしい顔と再会していた。
「ぉ、お久しぶりです、ル、ルビナスさんっ」
 あら、と声を上げて、我は破滅を断つツルギなり・ルビナス(a57547)が振り返った。夜会服は、トレードカラーのライトグリーン、リボンのオレンジ色もかつてと同じく鮮やかだ。ルビナスもまた、まったく歳を取っていない。
「お久しぶりですね、リリムさん。どうしたの、そんなに息を切らせて」
「ぁ、危うく、ち、遅刻するところでしたので……」
「そう? まだ半時間くらい余裕があるみたいだけど?」
「は、はわ! ァ、アンジェちゃんたら……」
 だがそれも仕方ないかと考え直す。アンジェリカだって、できるだけ早く皆と会いたい一心で急いでいたのだろう。
「まあ、せっかくだし会場を回ってみたらどうでしょう? 本当に綺麗ですよ、この場所」
 ルビナスは眼を細めた。頭上には桜の大樹、彼方には石楠花が咲き乱れ、すぐ近くにはチューリップが整然と植わっている。菜の花畑、春紫苑の庭も目に入った。確かに、散策するには最良の場所といえよう。花々の間を歩くのは、それだけで心洗われるような気持ちになる。
 しかし、この何千何万年も前から続くかのような太平は、座して待つことで自然に成立したものではない。他でもない彼ら冒険者たちが、文字通り命を賭けて戦うことで勝ち得たものなのだ。
「この美しさが、あとわずかなところで永遠に失われるところだったのか……」
 ひらりと舞い降りた桜の花弁、それを掌に乗せ、繰り返される無限の誤り・トモヤ(a77980)は詠嘆するように言った。
「俺たち冒険者が守ったものの大切さを、改めて感じるよ」
 そして、とトモヤは、愛する妻に微笑みかける。
「最後の戦いから十年目の記念に、告げたいことこがあるんだ。チョコとは今までずっと一緒だったが、改めて言わせてほしい」
「何かな、トモなぁ〜ん?」
 トモヤの妻、マーブル・チョコ(a30214)はにっこりと笑った。あれから十年が過ぎたというのに、やはり彼女には、トモヤを包んでくれるような優しさが満ちている。
「チョコ、いつも有難う。これからも宜しく頼む」
 こちらこそ、とチョコは言った。切れ長の瞳のトモヤを見つめて思う。十年が過ぎたが、彼は渋さすら加えて、今も断然格好いい。チョコにとってたった一人の、世界一の旦那様だと思う。
「いつもありがとなぁん。困らせてばっかりなぁ〜んけどこれからもよろしくなぁん」
「チョコが俺を困らせて? そんなことは……」
 とまで言ったところで、トモヤとチョコの間を、わーっ、と二人の子どもが駆け抜けていった。いや、駆け抜けていくばかりか、ぐるぐると休みなく追いかけっこを繰り返しているではないか。二人はトモヤとチョコの子どもたち、名はミルクとビターで、夫妻の長男と次女になる。
「……カンナ、カムイ。ミルクとビターを見張っててくれ」
「うんっ」
「二人とも、静かにしてーっ」
 カンナ、カムイは長女と末っ子だ。二人は飛び出して、元気盛りのミルクとビターを追っていった。トモヤとチョコの間には、四人の子どもがすくすくと育っていたのだ。四人が四人とも個性的で日々退屈しない反面、少々賑やかすぎる家庭となった。
「それで、チョコ……」
 妻の姿が消えている。
「チョコ……?」
 トモヤはぺたっ、と掌を自分の額に当てた。
「競争なら負けないなぁ〜ん」
 なんと母親のチョコ自身、追いかけっこに加わっているではないか。追うカンナとカムイの側ならまだしも、逃げるミルクとビターに混じって。
「……やはり困らされているかもしれないな……」
 トモヤは苦笑した。
 でも、と思う。
 チョコへの感謝の気持ちと、子どもたち全員への愛情、それは本物だ。
 いま、感じている幸せも。

 透き通るような水色の髪の少年が、プレートアーマー姿で会場を回っている。
「もうじき開会式ですが、受付が終わっていない人はいませんか?」
 セイレーンの重騎士・ユウキ(a90384)だ。手にあるのは参加者名簿らしい。
 不老種族のユウキには、十年の歳月は影響を与えていない。女の子のような外見は同じだし、優しげな表情も変わっていなかった。
 だが、ユウキにまったく成長がなかったといえば、嘘になるだろう。
「まだの方は、こちらで受付をしています。お早めにご記名をお願いします」
 と、ユウキとともに巡っているのは彼の恋人なのだ。金色の閃光・フェイト(a50291)、金色の髪、黒真珠のような瞳、背中に白い翼を生やした美しい少女である。
「すいません、フェイトさん、手伝ってもらって……」
「ユウキのお願いですもの、断れませんよ。……それに、貴方とこうやって一緒に仕事をするのは楽しいですし」
「僕もです」
 ユウキは、はにかんだように笑った。かつて女性恐怖症で、女性と接触するはおろか、口を利くのだって困難だったユウキに、こんな日が訪れると誰が思っただろう。
「少年、受付を済ませていなかった。二人分頼む」
 声の主を見て、あっ、とユウキは小さな声を上げた。
「ディーンさん、ソニアさんも!」
「何年ぶりになるか。時の経つのは早いものだな」
 月吼・ディーン(a03486)は片手を挙げて、渡された帳面にさらさらと名を記した。
「おー、ユウキくんだ。おひさー♪ 何年ぶりになるかなー」
 危険な恋のカリスマ・ソニア(a60222)も破顔一笑して、同じく帳面にサインするのだった。
「何年ぶり……って、先日も『覇取琉撞武(バトルドウム)』予選の抽選会で会ったばかりじゃないですか」
「それは気にするなっ♪」
 ソニアとユウキは同じ旅団、その名も『帰ってきた安国寺』の所属であり、旅団で毎年行われる格闘球技に参加している。そのため、少なくとも年一回は顔を合わせる間柄なのだ。
 ディーンとユウキが旧交を温めている間に、
「ねぇねぇフェイトさん、ユウキくん、浮気とかしてない?」
 ソニアはフェイトににじり寄る。
「浮気……想像もしたことがありませんでした。ユウキがそれをするようになったら、今度こそ世界の滅亡の日かもしれません」
 くす、とフェイトは笑った。
「二人とも、仲睦まじいようで何よりだ」
 ディーンの声は深みが増したように思える。髪にも白いものが目立ち始めていた。
「ディーンさん、不老化を選んだはずでは?」
 すると彼は、からからと笑ったのである。
「あまりそのままなのもつまらないのでな、少しずつ歳を重ねることにした。少年、老いるのもいいものだぞ」
 このところディーンは、ランドアース大街道にノソリンを利用した交通ネットワークを敷くべく、大陸中を旅する日々を送っているという。
「なので一年に一回ほどしか悠幻館に帰らなくなってしまった。それなのに、館付近の老領主に後継者を押し付けられそうになって困っているのだ……」
「継げばよろしいのに」
 と、一声あげて、天秤の淑女・アリシア(a38400)がやって来る。サファイア色の髪を優雅にまとめており、夜会服姿で一礼する。
「わたくしも領主ですわ。シェフィールド家の当主として忙しい毎日を送っておりましたから、ご無沙汰しておりました。何年ぶりですかしら? ……ところで、最初に一言申し上げておきます」
 ぴたっ、と魔女ッ子風ステッキを杓のようにまっすぐ立て、アリシアは宣言するのである。
「おばさんって言うなですわー!」
「言ってないってば〜」
 苦笑いするソニアの前に、戦闘執事・サキト(a38399)が現れるなり告げた。
「いや、予言しよう。もうじき言うことになる、と」
 サキトは不老を選ばなかった。十年の年を経て、ますます執事として磨きをかけたようだ。サキトは音もなく歩み、腕に抱えたものを皆に見せる。
「赤ちゃん……!」
 青い髪の赤ん坊だ。顔つきからして女の子らしい。
「娘だ。カグヤ、そう名付けた」
「まさかアリシアさんとの……?」
 という声に、サキトは静かに首を振って、
「いや、先日、主人であるアリシアの姉上と結婚したのだ」
 意外な展開、かもしれない。
「だから、カグヤから見ればこれは」
 と、サキトはすっとアリシアに視線を流す。
「叔母さん、だね♪」
 ソニアが手を打った。その瞬間、
「だから、『おばさん』って言うなですわー!」
 アリシアはますます強く主張するのだった。
 ふっ、とサキトが笑うのが見えた。この主従も奇妙な関係ではあるが、それなりに上手くやっているのだろう。シェフィールド家の家宰としてサキトが辣腕を揮い、アリシアが次々と英断を下す――そんな光景が想像できた。
 さて、そろそろ開会時間だ。

 丘を降りてしばらく歩くと、格調高い洋館が見えてくる。
「春のこの時期にこの場所。いい同窓会ですね」
 狩人・ルスト(a10900)は穏やかな笑みを見せた。
 甘い花の香りに混じって、どっと会場が沸くのが聞こえたのだ。
「どうやらちょうど、開会式のようですね」
 良いタイミングだとルストは思う。鉄門を開いて会場に足を踏み入れると、スカートの裾を持って、はじまりは・プルミエール(a90091)が壇上に昇るのが見えた。
 その落ち着いた風貌を見て、ルストは時の流れを実感する。
「私もまだ旅の途中ですが、少しゆっくりしていきますか」
 彼は足を速め、冒険者の集団に加わった。
 プルミーはシャンパングラスを渡される。これを左手に持ち、右手には銀のフォークを手にした。
「みなさーん、よろしいですかー♪」
 と言ってフォークを軽やかにグラスに打ち付け、鈴のような音を響かせたのである。
「ご来場ありがとうございました〜。私も皆さんにお会いできてとっても嬉しいです♪」
 多くの参加者より賛同の拍手が上がった。手を叩くは懐かしい顔の数々だ。まったく変わっていない者あり、少し歳月を重ねた者あり、幼子を連れているものもあれば、結ばれたカップルもある。
「ご存じと思いますが、改めて宣言します。今年は、世界に平和が戻って十年目、今宵、これを祝す同窓会をここに開催しまーす!」
 壇上のプルミーは、桃色のワンピースを着ている。髪に挿した花飾りがよく似合っていた。
「たっぷりと楽しんでいって下さい! それでは皆様のますますのご活躍をお祈りして、乾杯といきたいと思います。よろしいですか?」
 一同、プルミーの呼びかけに応じて杯を掲げた。ランドアースの英雄たちがこれだけ多数一同に会し、かく杯を掲げる瞬間は、空前にして絶後であろう。
「それでは、乾杯!」
 杯が持ちあげられる。
 たくさんの顔を見て、プルミーは胸が詰まった。世界が危機に瀕したとき、もう駄目だと思えたあの瞬間……このような素晴らしい未来が待っているなんて想像もつかなかった。
 いや、そんなことはない――プルミーは考えを改める。素晴らしい未来が待っていると信じていたから、自分たちは命をかけて戦うことができたのだ。九死に一生を得るような戦場に、幾度遭遇したことか。事実、道半ばにして斃れた仲間も少なくない。それでも自分たちは涙を払い戦い続け、ついに勝利をつかむことができた。それは、輝かしい未来という夢を、捨てずに抱き続けたからだ。
 プルミエールは確信する。
 自分たちは……喪われた仲間たちを含めたすべての冒険者たちは、夢を実現したのだと。

「お疲れっ、いい挨拶だったよ」
 界廻る選定の志・エルス(a01321)、すなわちプルミエールの夫が、壇から降りた彼女の肩をポンと叩いた。そして彼は、白いハンカチを差し出してくれる。
「ありがとうございます……なんか、胸が詰まって泣けてきちゃって……」
 両眼にあふれたものをプルミーは拭った。
「それは決して、悪いことでも恥ずかしいことでもない。むしろプルミーの良いところだよ」
 プルミーはにっこりと笑った。この人と結婚できた幸運を噛みしめている。
「ところで、カインドとエールは……?」
 カインド、エールの双子は、プルミーとエルスが成した子どもたちである。良く笑い良く食べ、良く遊ぶ。プルミーをそのまま小型化したような二人だ。
「大丈夫、ちゃーんとここに……あれ」
 エルスはキョロキョロする。きっちりと捕まえて自分の傍にいさせたのに、一瞬目を離したスキに二人はいなくなっていたのだ。
「えーと……探してくるっ!」
「探さずとも良い。二人とも、またもうちの小さいのと鬼ごっこをしていた。いやはや」
 迷惑かけてすまん、と、葵桂の霊査士・アイ(a90289)が出てきて頭を下げた。もちろんアイは最愛の夫、祖前霊止・アスト(a58645)と一緒だ。アストとアイがずらずらと連れているのは、彼らの子カインドとエール、それに、アイとアストの二人の子、アランとマナである。いずれも食べ物を与えられて、大人しくついてきていた。ただ、四人が大人しくしているのは食べている間だけ、という予感もひしひしとしている。
「いや、こちらこそ……。お互い苦労が絶えないよなぁ」
 エルスは苦笑いする。まったく、とアストは応じて、
「なんかさ、子どもができてからオレ、現役で戦ってた頃なみの体力が戻った気がするよ」
「あ、それ俺もだ。小さなドラゴンウォリアーと生活してるようなもんだからなぁ」
 父親は父親の苦労があるらしい。
「みんなお久しゅう!」
 元気な挨拶をしてくれるのは、蒼嵐の・アス(a70540)だ。
「アスさん、お久しゅう、です♪」
 プルミーは両手を挙げ、彼女とハイタッチする。
「プルミーも、アイも、それぞれ二人の子の親かぁ」
 四人の子どもたちを見回して、アスは感慨深げだ。
「あの時の擬似妊婦袋は伏線やったんやなぁ」
 かつて妊婦袋を提げて、マタニティドレスを試着するという催しがあった。あの日のことをアスは回想しているのだ。
「はいです、あのときのドレスはしっかり役立ちました」
「あら、嬉しいわ〜」
 ひょっこり。
 そのとき群集の中から出てきたのは、巻きヒゲでおかっぱ、心だけ乙女の変なオジサンである。オジサンはデザイナーのジャンポール氏だ、氏は今宵も健在で、プルミーやアイの一家とは親交が続いているという。
「てなわけで乾ぱ〜い」
 オジサンはシャンパンのグラスを、プルミー、アスのグラスと軽く当てた。
 そこへ同じく子連れの、蒼く揺れる月・エクセル(a12276)が合流する。
「お久しぶりー! みんな、元気してたっ!?」
「エクセルさーん……と、お子さんたちっ♪」
 エクセルは、自身とよく似た娘一人と、夫似の息子一人、この双子を紹介した。
「この子が姉のエクセレン、弟はレードンよ。ほら二人とも、ご挨拶ご挨拶っ」
 それと、と言ってさらに子どもを連れてくる。
「すごいです☆」
 プルミーが目を輝かせたのも無理はない。なぜってエクセルは八歳の子一名、六歳の双子、三歳一名を次々と紹介したからだ。全部実子、エクセレンとレードンを加えて合計六名! しかも、
「実は最近私、また妊娠したのがわかったのよね……子ども達だけでノケットチームの夢、叶うかしら。主に愛の力で」
「それは是非、叶えて下さいと言いたいですっ☆」
 愛の力の偉大さを知るプルミーなのである。両目を星でいっぱいにして、彼女は夫を振り返る。
「ねえエルスさん、私たちもこうなったら、どーんと子作りしませんか? ねえ? エルスさん、寝たふりしちゃだめっ!」
 子だくさんといえば、雪鈴鳴らす蒼き閃光・クロノ(a19669)、薄明月下・スズ(a30515)の夫妻も負けてはいない。
「一番上の双子が、『ユウキ』と『ミア』、それから三歳の女の子が二人と男の子が一人な。女の子はアイとプルミーから名前をもらって『アルミー』『ルイ』とさせてもらった。男の子は自分とスズから取った『クロス』だ」
「皆よろしく。そうか、貴殿がアルミー殿だな」
「あなたはルイちゃんですね♪ 自分の名前が関わっているかと思うと照れくさいです」
 アイとプルミーは、クロノとスズの五人の子、そのそれぞれと握手した。
「あ……皆さん、よろしければ……私の……お腹にも触って……下さい……実は……六人目……が……います……ので」
 気恥ずかしそうにスズは申し出た。確かに、よく見るとスズのお腹は膨らんでいる。
 クロノとスズは、廃れた神社を復興してそこに暮らしているということだ。現在はまだ小さな社にすぎないが、いずれは名の通った大社にしたいという。
「近くに……きたら……寄っていって……下さい。お茶……とか出しますので」
 丁寧にお辞儀してスズは告げるのである。神社を大きくしたいという、スズとクロノの願いは叶うだろうか。
 深緑の風に舞う舞闘家・シャリオ(a53552)が進み出て、アイとプルミーに挨拶する。
「そうですか……お二人とも、子どもが生まれたのですか。やあ、どの子もとても元気ですね。将来は冒険者に育てるのでしょうか?」
 アイとプルミーは顔を見合わせ、それは考えたことがなかった、と言った。このあたり考え方は同じらしい。
「本人の意志に任せるよ。なりたいのならば応援するし、別の人生もまた良いとは思う」
「はいです。私も考えてませんでした。あ、でも私のいつも着ていたあの服は、娘に譲りたいな〜って思ってます。代々受け継がれたらいいんですけど……無理かしら」
「そうなればいいですよね。ご先祖様の素敵な記憶が籠もっている衣装でしょうから」
 でも、とシャリオはふと気づいて告げる。
「男の子しかいない世代ができたらどうするのでしょう?」
「おっと……」
 プルミーは言い淀んだ。それは考えたことがなかった……らしい。
 花壇の茂みががさごそと揺れて、ラベンダー色の髪をした少女がぽすっと顔をのぞかせる。
「あれ? なんだろ、人がいっぱい集まってるけど?」
 大きな目をぱちくりして、迷子の辻ヒール天使・アイリーン(a78658)は周囲を見回し、プルミエールの姿に気づいた。
「あーっ、もしかしてプルミーちゃん? 十年ぶりー。なんだか人がいっぱいいるけど、ここでなにやってるの?」
「冒険者の同窓会ですよ、世界平和を獲得して十年目の年のお祝いです♪」
「へぇ、同窓会なんてやってるんだ。ボクも混ぜてーっ」
 ぴょん、とアイリーンは飛び込んだ。噂を聞いてきたのではない、まったくの偶然、気が向いて散策していた途上だったという。アイリーンはラッキーガールなのだ。

 宵の蒼い暗がりが、やがて黒いカーテンへと変わりはじめているが、篝火が焚かれ見渡す限り明るい。冒険者が集うのは、この広大な園の中央広場となる。テーブルが並べられ、立食パーティの形式で食事が並んでいた。
 集中一閃・シェムハザーダ(a77535)の胸に光るのは、チーム『Higher Ground』の認識票(ドッグタグ)だ。統一票と記念票の両方、いずれも銀製ゆえ、変わらぬ輝きを湛えていた。
 シェムハザーダはこの十年、一日たりともこの認識票を外したことはない。今となっては認識票も不要だが、これは挑戦の日々の象徴だ。かつて理想を共に、団結して高みを目指した仲間たち……その想い出が色あせることはないだろう。
 ユウキもまた、同じ輝きを胸に下げる者の一人だ。
「そうですか、シェムハザーダさんはワイルドファイアに移り住む予定なんですね」
「ええ、あの風土がどうも性に合うようです。まだ自宅予定地があるばかりですが、完成のあかつきにはユウキさんも是非遊びに来て下さい」
 そのとき、二人に呼びかける懐かしい声があった。
「お久しぶりね。ユウキとは時々会ってるけど、シェムとは本当……何年ぶりかしら?」
 二人は同時に振り向いて、そこに世界の果てを描く風・ルーテシア(a76251)の姿を見る。もちろん彼女の首にも、銀の認識票が光っていた。
「ここはなんだか、『Higher Ground』のプチ同窓会といった感じね」
「ああ、ルーティさん!」
「お変わりはありませんか?」
 ユウキもシェムハザーダも歓迎の意を表した。あの戦いを乗り越えた面々が三人も集まれば、懐かしい話を沢山やりとりできるだろう。
「さあ……ちょっと老けたかも」
 ルーテシアの爽やかな口調には何の変化もない。ただし彼女は不老を選択しなかったため、年齢は着実に重ねている。といっても無為に年輪を増やしたのではなかった。特にここ数年は、多くの実りがあったといっていい。両親に反発し実家から飛び出してきたルーテシアではあったが、現在は和解し、折々に帰省しているという。
「……もう、十年経ったのか……」
 無骨な鎧、頼もしい威容は、黒鋼の竜騎士・ゼファード(a35106)のものだ。
「久しぶりだ。今日は会えて嬉しい」
 ゼファードが手を差し出したので、ユウキはしっかりと握った。
「僕もです。ゼファードさんは、生命の書を……?」
「ああ、使った。といっても四十五歳だ。微妙な年齢で固定化しちまったなぁ……と今更思う」
 永遠のオッサンさ、と苦笑気味に告げる。しかしまんざらでもない様子だ。
「そうそう、Higher Groundの仲間たちが来るって聞いて用意したの。受け取ってくれたら嬉しいわ」
 お恥ずかしながら、と言ってルーテシアが各人に手渡してくれたものがあった。スケッチブックを破り取ったものだ。ペンで絵が描かれている。自分の分を受け取って、シェムハザーダは嬉しそうな声を上げた。
「私の肖像画を描いてくれたんですね? ありがとうございます。こんなに格好良く描いてくれて」
「僕のもありますね! これ、部屋に飾りますよ」
「俺のもあるのか、はは、渋く描けている。これ本当に俺か」
 ユウキも、ゼファードも、それぞれの絵を受け取ったのである。
 この十年ルーテシアは絵を続け、来月には小さいながら個展を開くまでに至ったという。
「ところで、もう一枚肖像画があるんだけど……」
 これ、と彼女が見せたのは、闇夜の刃・シーズ(a77689)を描いた絵だった。
「シーズさん? そういえばお姿を見ていないですね」
「彼のことだから『こういう華やかな場所はあまり得意ではない』とか言って隅の方にいるのかも」
「ならば逆転の発想です」
 とシェムハザーダは提案した。
 ややあって、
 中央広場から離れ、小さな桜の木の下に四人は座る。ここは無人だ。パーティ会場の音や光もあまり伝わってこない。
「閑かな場所に一席設けたか……これなら、出ないわけにはいかないな」
 シーズが音もなく現れ、無造作に腰を下ろした。彼の外見には変化がない。シーズも不老を選択したのだ。
「最近か? 平和になっても多少の困り事や人同士の小競り合いくらいはあると言うもの。それを解決するのが主な仕事だ。まだまだ冒険者は忙しい」
 と語る彼の首にも、やはり銀の認識票があった。

 月日は人を変える。この十年で、汚れた手のひら・レイ(a69323)は、すっかり子煩悩なパパへと変貌していた。彼の子どもたちは、暗殺刀のようであったかつてのレイを知らぬだろう。暗がりに光る猛獣の目のような、彼に隠された恐ろしさを知らぬだろう。
 レイは、そうなろうとして子煩悩になったわけではない。すべて、子どもたちの影響でそう変わったのだ。ならば最強なのは子どもといえないこともない……だろうか。
 彼は、アイのところに二人の子を伴って来ていた。
「アイ君、この二人はクリアとオニキス。アセルスと俺の子だ」
 さあ、挨拶挨拶、とレイは子どもたちに言いきかせている。
 クリアはすでに十五歳、オニキスは六歳、二人ともしっかりした子どもだった。丁重すぎるくらい丁重に挨拶をしてくれた。
「立派なお子さんたちだな。子どもはこの二人……?」
「いや、あと二人と……アセルスのお腹にもう一人」
「それはそれは、おめでたいことだ」
 アイは言祝ぐ、ありがとう、とレイは頭を下げて、
「アイ君がよければ俺自身もかかわった『HELLION』と呼ばれた出来事や、その他の四方山話を、冒険に興味津々のクリアに聞かせてあげてくれないか」
「『HELLION』か……懐かしい話だな……。それは、喜んで」
「まあ、俺自身も聞きたいんだけどな。未来の冒険の参考にしようと思って」
 と言って、レイは将来の予定を語った。
「子どもたちがみんな成長したらアセルスと二人、未だ行った事の無い地へと旅をしようと決めているんだ」
 何年後になるかはわからないがな、とレイは涼しげに笑む。
 同時にその頃、プルミエールとその子どもたちのところに、赤眼の紋章術剣士・アセルス(a74501)が双子をつれて訪れている。
「こんばんは、キミのママのお友達だよ。ヴェル、セヴィ、ご挨拶は?」
「こんばんはー」
 二人同時に口を開くのが可愛らしい。
「はい、こんばんは〜♪」
 子どもたちを交えつつ、しばし母親同士歓談する。
「ボクはずっと子育てに奮闘する毎日さ。夫とは相変わらず♪」
「私も相変わらず、ですね−。しばらくはこのままかな」

 吟遊詩人・カズハ(a01019)は少し遅れて会場入りし、顔をほころばせている。
「おやおや、賑やかですねぇ」
 インフィニティマインド帰還から四年、カズハはずっと平和になった世界を巡っていた。世界中どこであろうとも、冒険者が成し遂げた偉業は感謝されており、また、平和がしっかりと根を下ろしているのをその目で確認した。
 かつて、冒険者たちの使命は戦いにあった。イベント等でくつろいでいても、恋愛に身を焦がしていても、規模の大小を問わず戦争の危険は常在し、いつ死ぬともしれなかった。
(「その軛から解かれても、私たちの人生は充実している……。むしろ平和になったことで、結婚や出産など、新たな充実を得ている人も増えたようです。やはり平和な世界とは良いものですね」)
 それにしても、とカズハは苦笑気味に思った。目の当たりにしたところで、結婚したプルミエールというのはどうも慣れない。
 白銀の山嶺・フォーネ(a11250)が、アイとプルミーの元を訪れた。
「ご無沙汰しておりました。……不老化、ですか? いえ、私は、昔友人と素敵なおばあちゃんになれるだろうか、というような話をしてたこともあって、自然のままを選択しました」
「全然年取っているように見えないです〜」
「いえいえ、そんなことはないですよ。お二人とも可愛らしいお子さんができたようで、おめでとうございます」
 しばし冒険の想い出を語り合う。死と隣り合わせの危険な任務もあれば、思い返すたび苦笑してしまうような変な相手との戦いもあった。いずれもフォーネの歩んできた道だ。いずれの道も、現在の彼女へと繋がっている。
「アイさんは、私の事で何か印象のある思い出等はあるでしょうか?」
「私が霊視した中では、血塗れの花嫁は最も不気味な怪物の一つだったな。あとはやはり、華道師範セイ殿の話だろうか」
 思い出話は尽きないが、やがてフォーネは、自分のことを語った。
「今日で、お二人に会うのは最後になるかもしれません」
 冒険者の活動を続け、各地の問題に対処していた彼女ではあるが、そろそろ身の振り方を考えるようになったという。
「ですので、もう数年したら故郷の村に戻ろうかと思っています」
 寂しくもあるが、フォーネは晴れやかな表情だった。彼女の中には、やり遂げたという達成感こそあれ、なんら悔いはない。
「そうか……ならば、我々はフォーネ殿の前途に、幸多からんことを祈るとしよう」
「お達者で……」
「はい」
 アイ、プルミーと互いに握手し、一礼してフォーネは立ち去る……いや、立ち去ろうとしたところで、そういえば、と足を止めて問うた。
「セイさんは今どうしてるのでしょう、それを教えていただけませんか?」
「毎年華祭りの時期に呼ばれているから、今でも親交があるよ。そうだ、セイ殿は今日もこの会場に来ているから、後で話してみるといい」
 それを聞いて、フォーネは顔をほころばせるのだった。
 懐かしい顔、のみならず懐かしい……胸?
 ぷるっ、と揺らしてプルミーに挨拶したのは、天然超乳拳士・ミネルバ(a75627)だった。
「プルミーさんは結婚したのね。それに子どもまでいるなんて!」
「はいな。ミネルバさんはご結婚は?」
「うーん、私には、それより先に達成したい目的があるの。百年、いや、千年くらいかかっちゃうかもしれないなぁ……だから、まずはそっちを優先、ね」
「がんばってくださいね」
「もちろん! でも……」
 ミネルバは、しげしげとプルミーの扮装を観察した。一方で、マイクロミニのスカートに、タンクトップというミネルバの格好は変わらない。それゆえに、ロングスカートになったプルミーには感慨深げだ。
「私もプルミーさんみたくイメチェンしたほうがいいのかしら。いつまでもこの格好はないのかも」
「そんなことないですよぅ。いつまでも若いままなら、ずっと自分に似合う服装をしていていいと思います☆」
「えっ本当?」
「はい、私が断言しますっ!」
 その断言、ありがたくいただいておくわね、とミネルバはうなずいた。
「プルミーさんの子孫との再会、楽しみにしてるわ」
 ミネルバは手を振り去っていく。
 彼女と入れ替わるように、
「流石に結婚されてあの服は止められたのですのねっ!」
 と声をかけられて、プルミーは驚いて軽く飛び上がってしまった。
 その声は、感激と喜びに充ち満ちている。けれど決して崩れず上品な口調を保っているのは、厳しい鍛錬と自制のたまものといえよう。美白べとべと液をかけられても、彼女は淑女たらんとしていた。ミュントス乙女組にあっても、常に上品さが群を抜いていた。パジャマパーティでも楚々たる自分を失わなかったのは伝説的といっていい。
 そう、その人は、黒猫の花嫁・ユリーシャ(a26814)である。
「ラヴィンス様、お久しうございます」
「久しぶり、元気そうでなによりだな」
 ユリーシャの夫、黒猫・レイオール(a52500)も一緒だ。彼ら夫妻は生命の書を使っていないのだが、鍛錬のたまものか若々しさを保っている。
 そこにアイとアストも加わる。
「ユリーシャ殿、レイオール殿もお久しぶり、息災であったか?」
「おっと、お二人さんばかりじゃなくて、小さいお客人もいるようだな」
 アストが言う通りだ。レイオールとユリーシャの後ろに隠れるようにして、可愛らしい子どもが二人、興味津々の様子でこちらを窺っている。
「こっちが長女のミリアで八つだ、その弟のアルバは先日七つになったばかり。アイもプルミーも方々に挨拶に行かなきゃならないだろう。良かったら、子どもはうちで一緒に預かるぞ」
「本当か? なら頼んでいいかな……ありがとう」
 アストは好意に甘えることにする。年齢が近いだけあって、アストたちの子もプルミーキッズも、ミリア、アルバと遊びたそうだ。
「なあに、困ったときはお互い様だ」
 頼れる男レイオールなのである。こうした彼の度量の広さが、ユリーシャの心を射止めたのかもしれない。
 ユリーシャは懐かしげに何度もまばたきした。
「こうして皆様と顔を合わせますと、どうしても思い出しますわね……」
 彼女がプルミ−、アイと出会ったのは、花嫁略奪を企む不埒ものを成敗する依頼だった。以来、公私にわたる様々で、彼らとは親交を深めていったものだ。
「ユリーシャ殿も、生命の書は使わないのだな」
「はい、夫と一緒に自然に老いて行こうと思います。子供達にこれまでの知識や経験を伝えていく、それがこれからの仕事なのかもしれませんわね」
 そう、ユリーシャにはまだまだ、壮大な仕事が残されているのである。
 テーブルの方々で、再会のドラマが生まれている。
 超笑顔! そして超ダッシュで登場! 語られるは蒼焔花の伝説・フォンティウス(a72821)だ!
「やぁディランッ! 元気だったかい? それより見てくれ、僕の娘だッ!」
 とう、と一声叫んで、前回り受け身してフォンティウスは、娘のアリシアを紹介するのだった。
 大きな瞳をした娘はまだ八歳、興味深げに紅蓮の獅子・ディラン(a17462)を見上げている。
「……えっと、よろしく」
 さすがフォンティウス、無茶振りだなっ……と思いつつディランは挨拶した。
「懐かしいと思わないか? ……あの長い戦いから十年も経った。……時は……不思議だね」
「ああ。同感だ」
「しかしディランは変わってないね。キミも生命の書を使ったのかなッ!?」
「いや、実は俺、そいつの恩恵を受ける気はねェんだ。アスティアもな」
 ちょうどそこに、プルミエールが通りかかったのでディランは声をかけた。
「よう、あれから十年も経つのに、お互いあまり変わッてねェな」
「あ、ディランさん。そちらは奥さんですか?」
 護りの蒼き風・アスティア(a24175)が、進み出て一礼した。
「はい。花咲く季節にお会いできて光栄です」
 ディランは、連れてきた子どもたちを紹介しつつ語った。
「最近さァ、子どもたちが口を揃えて言うンだよ。『大きくなったらお父さんお母さんみたいになりたい』ッて。……だけど、本当はオレ達が要らない世の中が一番だ。そう思わねェか?」
「それはそうかもしれませんが……憧れというのは大切かと」
 というプルミーの言葉を、彼女以上に上手く、アスティアが補足してくれた。
「確かに、力を振るう存在なら必要ないのかもしれないし、もう力を振るうような世の中にしちゃいけないんだと思います。でも、人々を守る、誰かの力になるということなら、私たちを目標にしてくれるのはとても嬉しいことなんじゃないかな」
 冒険者が不要になったわけではないのだ。アスティアはそう考えている。
「ただ、仕事が変わっただけです。戦い守る存在から、『伝える』存在になったのですよ。たくさんの仲間たちが守ってきたこの世界、それを次の世代へ、子どもたちへ伝えてゆくという仕事があるのだから、今までのどんな仕事より、大変かもしれませんよ?」
 ディランはもちろん、フォンティウスとプルミーも、その言葉には感銘を受けた。

 会場を経巡りつつ、子供好きなグラップラー・ネレッセ(a66656)はたくさんの友人たちの『その後』を知った。
(「変わった人もいれば、変わってない人もいる。けれどみんな……一生懸命頑張ってる」)
 それがわかっただけでも、来た甲斐があるというものだ。
「おっと、気がつけばなんだか子どもが増えてますねぇ……」
 増えているのはいいのだが、子守役の手が足りていない。親たちもできるだけ子どもを追っているが、遊びたい盛りの年齢が中心なので、とてもとどめてはおけないようだ。
 ここは腕の見せ所、『子供好きな』グラップラーと名乗っているネレッセである。保父役は得意中の得意だ。
「参加させてもらいますね」
 ネレッセは、自身の特技を活かすべく世話役を名乗りでる。
「泣いている子はいませんか? 困っている子がいたら、自分のところまで来て下さい」
 と、上げたネレッセの片腕には、鉤爪で引っかかれたような傷がついていた。戦の古傷だろうか。

 朧銀の破魔矢・ユキト(a65770)と白銀の誤字っ子術士・マリー(a57776)は、会場を歩き回って、できるだけたくさんの知己と挨拶をかわすよう努めた。
「ユウキ君は、パートナーができて幸せそうだったね。あ、あれはプルミーさんだ」
 ユキトはプルミーに手を振る。プルミーも駆け寄ってきて、二人と挨拶を交わした。
「……そういえばプルミーさんとはむか〜しお会いしましたね♪ お久しぶりです……」
 というマリーに、プルミーは「もちろん!」と返事した。
「誕生会に来てくれましたよね。マリーさんは私に、ボールブーケを送ってくれたはず」
「そうです。よく覚えていてくれましたね♪」
「あのブーケ、ドライフラワーにして部屋に保存していたんですよ。『恋人ができるまで飾ろう』って、願掛けにして……えへへ、随分長いこと飾るはめになってしまいましたけど」
 プルミーは気恥ずかしげに笑った。彼女が、晴れてエルスと恋人同士になった日、帰宅して最初に行ったのは、ブーケに感謝して壁から降ろすことだったという。
 そしてマリーにも、嬉しい報告がある。
「その……ユキトさんと夫婦になりました」
「はい、おかげさんで……」
 照れくさそうにユキトも告げた。おめでとうございます、とプルミーは祝福の言葉を投げかける。

(「この手の行事には縁がないものと思っていたが……」)
 その声は、元一般冒険者・ゼロ(a60940)のものであって、ゼロそのものではない。強いて言えば、彼の心の中にいる『もう一人』の声だ。
「近頃、同窓会の話をよく聞くので、私もこの機会に皆さんの近況を知りたいなと」
 ゼロは『もう一人』に向かって呟く。このところ、彼とは意見が一致するようになってきた。
(「まあ来た以上、挨拶位していくか」)
「当然です。まだマリーさんとユキトさんに祝辞を述べてませんでしたし……他にも色々……」
(「わかった。もういい」)
「わかってくれましたか」
(「今まで多くの人の世話になってきたんだよな」)
「ええ。未だあなたがいるのが不思議な程ですよ」
 フン、と『もう一人』が皮肉に笑うのが聞こえたように思う。
(「自分で生み出しておいて随分な言い草だな。どうせ独りに戻るなら、話し相手がいたほうが良いだろ?」)
「それも一理では……、あ、待って下さい」
 ゼロは足を止めた。
(「丁度良かったな」)
 そのマリーとユキトが、すぐ目の前にいたのだ。
「聞きましたよ。マリーさん、ユキトさん」
 プルミーと話していた二人は、中断して振り向いた。
「ゼロ君っ」
「あ、ゼロさ〜ん、ここであうなんて奇遇ですね♪」
 プルミーに別れを告げ、マリーとユキトは、ゼロを加えた三人で歓談する。
「ゼロ君もしばらく見ないうちに随分貫禄が増して……」
 とまでユキトが述べたところで、背後から指摘する声が聞こえた。
「などと言っているその二人はっ、しばらく見ないうちに随分ラブが増して……あーもう、羨ましいなー!」
 綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)である。しゃん、と紫扇を開いて一振りし、スゥベルは弄り気分全開で主張する!
「さあ、まずはプロポーズの言葉を聞かせなさーい! できればそのときの姿勢も込みでっ!」
「こ、ここでですかー!?」
「もちろん! ほらほら、ゼロさんも訊きたいことをぶつけていかなきゃ! 学者さんなら探求心探求心!」
「いやあ、スゥベルさんは相変わらずのようで頼もしい……学者の探求とは違う気がしますが、考えてみます」
 途端、彼らの一角は、真昼のように賑やかになるのだった。

 玲瓏なる萩華・ユヅキ(a41453)の右手を握るは、ストライダーの男の子、左手には、ヒトの女の子、いずれも二歳、まだ歩く姿もよちよちと頼りないが、日々進歩していた。二人は双子だ。母親によく懐いている。ユヅキにとってはかけがえのない宝物だ。
「ユヅキねーさま、二人とも、すっごくそわそわしているよ。さすがに冒険者の子だね〜。初めて見る様々な人やものに、目をキラキラさせて見入ってる〜」
 子どもたちをあやしつつ、「あの人たちはリザードマンっていうんだよ〜。格好いいね〜」といった風に、牡丹色の舞闘華・ヤシロ(a37005)が楽しく解説をしてあげていた。
 ユヅキは生命の書を使わなかった。子どもたちの成長にあわせて自分も年輪を重ね、願わくば子らに最期を看取られたいと思っている。平和な世界を遺せるのだ、このまま二人の子どもが成人するところまで見届けられるのであれば、自分には思い残すことはもう無い。
(「けれど」)
 とユヅキは妹、つまりヤシロのことを思った。
 ヤシロはユヅキと違い、不老となって生き続けると宣言している。
(「不老となって生きる事はあの子が決めた事なのだから応援するべきなのですが……」)
 姉として、心配するのは致し方ないところだ。これから平和になるとはいえ、この先ヤシロが一人で生きていけるのか、それだけが気がかりだった。
「皆の変化とかを見てるとやっぱり時間が過ぎてるんだな〜って思うよ。ねーさまだって2児の母だもんね」
「ねえヤシロ、あなた、不安はない? 私たちはこの先、あなたを置いて逝くことになります。あなた一人、時間に取り残されてしまうのですよ……」
「うん、ねーさま。心配してくれるのは嬉しいけど大丈夫だよ。遊び半分でそうすることにしたんじゃないの。この世界がどうなっていくのか見ていこう、そう決めたんだ」
 まっすぐにユヅキを見つめるヤシロの目は、とても無邪気だけど、芯の強さを感じさせた。
「成長、しましたね……。その言葉、信じましょう」
 ふと、ユヅキは胸が一杯になるのを感じた。いつまでもヤシロは子どもではない。ヤシロもまた、戦いの日々を乗り越え、そして世界を護りきった英雄の一人なのだ。
「けれど寂しい思いはさせたくありません。後世の子孫があなたを見つけてくれるよう、何か書き残しておきますね」
「ありがとう。ねーさま」
 あ、そうだと、ヤシロは付け足した。
「できれば子孫には、『ヤシロちゃんはずっと胸のサイズは変わってません』って書いておいてね。生命の書の気まぐれで『まな板』状態から脱却できたけれど、最初っからこうだったということにしたいから〜!」
 唐突にそんなことを言われたものだから、ユヅキはくすっと笑ってしまった。

 アイは驚いた。
「結婚……してたのか」
 とにかく、驚いた。
「あれ? 俺、結婚してるって話、した事なかったなぁ〜ん?」
 今日もグラサン、そして特攻服、全開・バリバリ(a33903)は今日も漢(おとこ)の道を行く。十年経とうが現役なのだ。
「ないない。初めて聞いたぞ」
「一番上の子は十七ん時にできたなぁ〜ん」
 バリバリは現在三十八歳、つまり、冒険者として数多の怪物と戦っていたときには、とうに妻帯者だったということになる!
「こいつらは、あの最後の戦いの年に産まれた奴なぁ〜ん。十歳になったから冒険者になりたいってんで、希望のグリモア行くついでに連れて来たなぁ〜ん」
 彼が連れている子どもたちは、なんと男女二人ずつの四つ子だ。
「何番目の子らになるのかな?」
「十番目から十三番目なぁ〜ん」
「すごいな、十三人の子持ちとは……今日の参加者でもトップかもしれん」
「十三? 違うなぁん」
 アイは目を丸くしているが、対するバリバリは「何に驚いてるの?」とでも言いたげな表情だ。
「俺の子はもっといるなぁ〜ん。なぜか双子や三つ子ばっかりで、先月も三人増えて……ん〜と今の所、全部で二十五人だったかなぁ〜ん?」
 指折り数えているが、もうバリバリ自身、数えるのが困難になってきたようだ。凄い。あらゆる意味で、凄い。
 その向かい側のテーブルには、旅団『月詠奏鳴曲』の面々が一堂に会している。
「皆さん元気そうで嬉しく思います」
 輪の中心にいるのは団長、月下黎明の・アオイ(a68811)だ。不老を選択したアオイは、かつて寸分変わらぬ青年の姿をしている。時間は流れ、旅に出て長い者も少なくはないけれど、集いし仲間たちと『月詠奏鳴曲』で、過ごした日々の価値は変わらない。いや、年月と共に高まっているとすらアオイは思う。
「皆さんとの再会……心待ちにしていました……。こうして久々にお会いできるのが……とても嬉しいです……」
 月夜に咲く希望の花・エリザベート(a24594)も感激のあまり声を震わせている。このことを発表できる日がついにきたのだ。
「私……近々結婚することに……なりました……」
 おめでとうございます、とアオイが口火を切り、すべてのメンバーから祝福が捧げられる。
 月笛の音色・エィリス(a26682)は運んでいた大皿をテーブルに置き、喝采に加わった。
「祝宴の席でさらに祝福すべき事実を教えてもらえるなんて、幸福の二乗ですわね」
「エィリスさん、そのお皿は?」
 久遠なる湖晶・ジリアン(a69406)が問うた。成長したジリアンは二十七歳、劇的な年齢の変化はないものの、経験を積んだことによる風格のようなものが身についている。
「お料理……です。とてもとても苦手でしたけど、今日のためにたくさん練習して、納得のいくものを作ってきました」
 さっとエィリスが覆いを取ると、大皿にはサンドイッチが現れる。
 十年の間にエィリスは、料理の腕を上げていたのだ。プロの作ったものと遜色ないできばえだった。具もミートローフ、ベーコン&レタス、卵、フルーツ……と豊富だ。しかもその背には『月詠奏鳴曲』を象徴する三日月型の玉子焼きを乗せている。
「私が作ったと言うと、誰も彼も逃げようとするんですけど……。でも今日は本当にちゃんとできましたからっ!」
「わかっていますよ。最初に出してくれた紅茶、これもエィリスさんが淹れてくれたものですよね」
 アオイは優しく微笑む。
「うんっ、美味しいよこれ、本当に!」
 さっそく一つ頬張って、スゥベルは笑顔を見せるのだった。そういえばスゥベルは少し、年齢を増した雰囲気があった。女性として大人っぽくなったように見える。
「エリザベートさんは結婚、エィリスさんは料理の腕を上げたかー……私も残りの人生、充実させないとねっ」
「残りの人生?」
 とアオイが問うた。
「スゥベルさんは、不老を選んだのではありませんでしたか?」
 すると、スゥベルは軽く舌を出したのである。
「実はね、少しの間不老になってみたけど、性に合わないからやっぱり、年を取ることにしたよ。太く短く、そして何一つ悔いの無い人生にしよう、ってね」
 現在、彼女は変異動物を追うなどして各地を旅して回ってるという。
「これまでは目の前の敵しか見てなかったけど、これからは、世の中がどう変わってこうとしてるのかを知りたいと思ってさ」
 年月がスゥベルの視野を、広いものへと育てていたのだ。
 煌く蒼の軌跡・ミオナ(a38150)は、背にある洋館を振り返って呟いた。
「このお屋敷、たしか十年前はカップル限定の場所でしたけど……今日は独り身でも大丈夫、ですよね?」
 なんだか遠い目になってしまう。そんな彼女に、エリザベートが声をかける。
「……ミオナさんは……まだ……お独りということですが……」
「あ、聞かれてしまいましたか……お恥ずかしながら」
 ミオナは恥ずかしそうに両手の指をつきあわせている。
「焦らなくとも……いいと……思います……。ミオナさんは……お綺麗なのですから……必ず……いい人が現れます……」
「そうです。あこがれの美人さんなのです」
 きらきらと目に星を浮かべ、静心の吟遊詩人・ヴィーネ(a71769)も言い添えた。
「憧れですか? そ、そんな立派なものでは……」
 ヴィーネは「立派ですよ〜」と言い、この言葉を捧げる。
「何年もしないうちに、きっとミオナ様への求婚者が後を絶たなくなると思うのですよ〜」
 ユウキはジリアンと話しこんでいた。
「かつてはジリアンさんと僕、同年齢だったのに、すっかり先に行かれてしまいましたね。大人っぽくなったジリアンさんは格好いいです」
 ジリアンはユウキと、その横にいるフェイトを見て静かに微笑んだ。
「さて……それほど大人になったかどうか。恋愛面では、ユウキさんのほうが先行していますし」
 彼はまだ独身、恋愛面はかなり疎いので、と肩をすくめた。
 それでもジリアンに出逢いがないわけではなさそうだ。少なくとも、人と触れあう機会はとても多い。彼は現在、故郷に帰って付近の復興の手伝いをしているという。
「町や村の皆さんが少しずつ笑顔を、元気を取り戻して下さるのが嬉しくて」
「一度会いに行きますね、ジリアンさんの故郷へ」
 フェイトが言った。
「ええ、お二人とも歓迎しますよ。故郷は観光にも力を入れていて、ちょうど新設の宿が完成するところです。せっかくできた縁ですし、またこうして、『月詠奏鳴曲』のみんなで時々集まれると良いですよね」
 小皿を持ってヴィーネが回ってくる。
「それはいいアイデアです〜。ヴィーネも、ヴィーネも行っていいですか?」
「ええ、もちろんです」
 ところでそのヴィーネが持ってきた皿の上には、可愛らしい菓子が載っている。
「これですか? オリジナルのお花のお菓子です。以前作ったものより上達していると思います。ユウキ様もフェイト様もジリアン様も、ぜひぜひ召し上がって下さい」
 にっこり差し出してくれたその菓子は、食べるのが勿体ないくらい精巧、味も甘くて素晴らしい。

「少し学者の真似事なぞ。あくまで個人的な趣味ですけどね」
 ゼロはまた、懐かしい顔と再会していた。近況を語っている相手は、ワイルドファーマー・ビュネル(a73520)だ。
「学者さんなのなぁ〜ん。ボクは蟹さんのお鍋をいっぱい食べたら、なぜか若いままなぁ〜ん。きっと美容に凄く良いなぁ〜んね。おかげで奥様たちからもうらやましがられるなぁ〜んよ。だけど、なんか年も取らないみたいだから、いつまでもオトナになれないなぁ〜んね」
「それは……」
 と真実を告げようとしたゼロだが、あまりに屈託のないビュネルの笑みに躊躇した。細かく説明するのは野暮だろう。ビュネルは『現在』を満喫しているのだから。
 アイも立ち話に加わっている。彼女もまた、無理に説明をしたりせずビュネルに尋ねた。
「ビュネル殿は、近頃どのようにして暮らしているのだ?」 
「ワイルドファイアやランドアースで相変わらず冒険者なぁ〜んね。生涯現役ってやつなぁ〜んよ」
 ぐっ、とビュネルは腕を曲げ、力コブを作って見せた。
「まだまだ世界には冒険がいっぱい、楽しいなぁ〜ん」
「幸せそうで良かった」
「同感です」
「ゼロもアイも、しあわせそうなぁ〜んね。しあわせは良いことなぁ〜んよ」
 ビュネルは現状をもって良しとはしない。もっともっと『しあわせ』を探すつもりだ。

 少しパーティから離れ、しんと静まる春夜の園を歩むのもまた楽し。
「春夜の園は、二度目じゃのぅ」
 あったか戦法にこにこの術・コトナ(a28487)は、愛する夫に身をもたれさせる。
「うん、そうだったね」
 夜鳴鳥・カルロ(a61747)は、愛する妻のぬくもりを感じていた。
 すでに夜だが、ほうぼうに灯りがあり、月も照らしているので明るさはある。
 少なくとも、お互いの顔が見える程度には。
 二人とも生命の書を使わず、順当に年齢を重ねていた。子も既に二人授かっている。
 子どもができてからは目が回るような日々だった。それでもようやくいずれの子もいくらか手が離れるようになったので、今宵は預け、夫婦のみで参加していた。
「覚えておるか、この場所」
 懐かしい場所に辿り着いた。二人きりで夜のお茶会をした花畑だ。
「忘れるはずがないよ」
 ここからすべてが始まったとすら、言っても過言ではないだろう。
「……初めての口付けもここだったのじゃ」
 ぽつり、とコトナが言ったので、カルロはなんとも気恥ずかしそうに応える。
「あの時の口付けは、感極まってというか、何というか……」
 夢中だった。一瞬、何も考えられない状態になったものだ。自身の未熟さを痛感し、カルロは何ともいえない気分になる。
「お陰で、お菓子の味を気にする余裕もなかった」
 美味しかったのは覚えてるけれど――と笑い返しながら彼は、自分ばかり気恥ずかしいので、何とか一矢報いようと思った。
「マドレーヌより甘かったよ、コトナさん」
「……!」
 効いた。
 自分ではセンス不足かと思ったカルロだが、この思いがけない言葉は、コトナの心を鷲づかみにしていた。
 コトナはみるみる顔が紅潮するのを感じる。あまりに気恥ずかしくなったので、彼の腕にぎゅっと頬を寄せていた。
「じゃあ今度作る時は、もっともっと甘いマドレーヌを作らなくてはのぅ」
 照れ隠しに呟いた。
 結婚してずっと一緒なのに、子どもも二人できたというのに、それでも今、彼女はあの頃と、変わらぬ胸の鼓動を感じていた。
 そんなコトナの頭を、カルロは優しく撫でる。髪が乱れないよう気遣いながら。
「そ、それでは今度は、妾が驚かせる番じゃぞ。耳を寄せるがよい」
 とっておきの報告だった。
 コトナは告白する――お腹に新しい命が宿った、と。
 カルロは驚きのあまり、幾秒か硬直した。その間は呼吸も忘れていたと思う。
 確かめるように彼女の目を見つめ、そして……、
「コトナさん、ありがとう……またひとつ宝物が増えたね」
 彼女を、そっと優しく抱き締めたのだ。
「……えへへ、妾もびっくりしたのじゃ」
 コトナは彼の背に腕を回す。
 ずっと変わらないままの、ぎこちないような初々しい仕草で、ほんの少し背伸びをする。
 そしてカルロの頬に、子どもがするような可愛い口付けを与えた。
「妾からも、ありがとじゃよぅ……」
 カルロの心は、コトナへの愛に満たされる。
 彼は彼女を抱きしめた。
 感謝と愛情を込めて、いつまでも変わらない心が伝わるように。
「君が与えてくれるもの全てが僕の宝物……」
 いま頬に触れた微かな温もりも、きっと大切に覚えておく。

 月光に照らされつつ、二人、園を散策する。
 月の姫を抱く者・ミレイラル(a43722)と紫月姫・シュビレ(a31087)、結ばれたあの日から、二人は片時も離れず共にある。
「プルミーさんもアイさんも、元気なようでなによりでしたね」
「ええ、お子さんができたとはいっても、変わらずに接してくれました」
 微笑みあいながら、ミレイラルとシュビレは想い出を語り合う。春夜の園は、かつての日々を思い出させてくれた。
「ここにくるとあの夜のことを思い出しますわね。ふふっ、なんだか気恥ずかしいですわ♪」
 シュビレが、夢見るように月を見上げると、
「あのころが懐かしいですね……でも、シュビレのことが大好きな気持ちは変わっていませんよ」
 ミレイラルは柔らかく返す。
 二人は手を握りあった。絡み合った指先から、お互いの体温が伝わってくる。

 手のひらの鼓動・アールコート(a57343)が駆け寄って、ぽーん、と全力狂想曲・ティム(a71002)の肩を叩く。
「ティムさんっ☆ 探しましたよ♪」
「うわわっ、探さないで」
 いきなりティムは逃げようとしている。
「なに言ってるんです☆ 今日は、ティムさんのその後を聞こうと楽しみにしてたんですよ♪」
「いや、もう僕のことは日陰に生える雑草のように忘れてくれれば……」
「そんなの無理です☆ ずばり、恋愛関係はその後どうなりました?」
「やっぱりその話だよねーっ!」
「やっぱりその話ですよ〜★」
 そのとき、ちりーん、という鈴の音が聞こえた。
 その音にティムは逆らえない。小走りで駆ける。無論、アールコートはわくわく顔でついて行く。
「これティムよ、勝手に持ち場を離れるでない。妾の怠惰な明るい未来の為、コネ作りという大切な仕事をしておるのじゃ」
 鈴を片手にふんぞり返っているのは、十年経ってもまったく変わらないあの人……そう、嵐を呼ぶ蒼き雨・レイニー(a35909)だった。
「あーっ、ティムちゃんにレイニーちゃん、アールコートさんもお久しぶり〜♪」
 そこにアンジェリカがやってきて、
「やっほー♪」
「挨拶が遅くなった。おお、皆そろっているな」
 プルミーとアイたちも加わり、
「なんかティムの公開処刑があるというから来てみた」
 天に抗う誓約者・トワイライト(a43304)もやってくる。
「公開処刑じゃなくて告白大会だと聞いたぞ、俺は」
 ある意味同じか? と星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)も姿を見せた。
「ほら、シュビレ、あの子がティムといって、三角関係の一旦を担っている子ですよ」
 ミレイラルとシュビレまで顔を見せているではないか。
「うわー! なんでこんなにタイミングよくみんな集結するんだよ〜!」
「それだけティムさんには注目が集まっているということです☆」
 アールコートは慰めにもならないことを言ってみる。
 今ひとつ事情のわかっていないレイニーは、ティムをじろりと一瞥して問うた。
「なんじゃ告白だのなんだのと? ティム、妾になんぞ不満でもあるのかえ?」
 ティムは、ちょっと追い詰められた気分だ。今ここで「レイニーのことが好きだ!」と言っても却下されそうな気がしてならない。たまたまここには来ていないが、リルルのことも気になるし……。
 ゆえに彼は強硬手段に出た!
「こ……答は、百年後にっ! レイニーごめんっ」
 とう! 風のいたずらを発動し、こともあろうにレイニーのスカートを思いっきりめくって、騒然となる会場からティムは疾風のように逃げ出したのである。
「何するかティムー! 成敗してくれるわー!」
 くわわ! レイニーは大剣を振り上げてそれを追っていく。
「やれやれ、いつの世も、恋する男は悩むってことか……」
 アストが肩をすくめると、その背後からモノトーンの声がした。
「恋できなくても、悩むんだぞ……」
「えっ? あ、ラス」
 ティム騒ぎで一瞬元気だったラスだが、今日はなにやら沈みっぱなしなのである。
 そのラスの隣から、風浪の蒼き人・レナート(a57461)が出てくる。
「やあアスト、アイさんも、お久しぶり」
 レナートは単身ではなかった。最愛の妻こと、夢見る雫姫・セイカ(a61244)が一緒なのは言うまでもないことだが、そればかりか可愛い女の子の手を引いている。
「もしかしてその子」
「うん。その辺にいた子どもを誘拐してきた……って、セイカさん冗談だから! 冗談!」
 セイカに首を絞められそうになり、レナートは慌てて紹介した。
「娘のセリカだよ。五歳」
 そのセリカは、「ねえパパ、あれなーに? あれだーれ?」と周囲のものに興味津々だ。
 人を指さしたら駄目、とセイカは、自分とよく似た娘に言いきかせながら言う。
「好奇心でいっぱいの子で……」
 親子三人、仲睦まじいようだ。可愛い〜、といってプルミーはセリカの頭をなでてあげている。
 そのとき、
「うわー!」
 とラスが頭を抱えた。
「あ、ラス」
「ごめん、そこにいるの忘れてた」
 アストとレナートが振り向くと、ラスはこれ以上ないほどの真顔で告げる。
「アストもレナートも奥さんがいて、ミレイラルも結婚してて……なのに俺は……俺は色んな意味で全く変わってない事に気付いたよ!」
 要するに、独り身だということ。
「うん、ラスのようにホンットーになぁんにも変わってない人も珍しいよね」
 レナートは感心したように言う。その一言が火をつけたというのか、
「幸せを分けてくれっ、ギブミー幸せー!」 
 血迷ったかのように、ラスはアストにつかみかかり、ヘッドロックをかけたのだ。
「いきなり幸せ分けろとか言われてもっ」
「なら、マナちゃんを俺の嫁にしてOKかっ? いや、レナートからもセリカちゃんをもらって、プルミーからもエールちゃんをもらってハーレムOKっ!?」
「鎮まれ」
 ツッコミという名の掌底を入れ、トワイライトはラスをひっぺがす。
「……このバカは無視していいぞ。つか、子どもの教育に悪い」
 さすが『ダイシンユー(大親友?)』のトワだ。ラスにはまったく容赦がない。
「なんというかその……悲観してはいかんぞ……」
 地面に落ちてぐったりとなるラスを、アイが立ち上がらせていた。
「寒いよ……お義母さん、さっきの話、ハーレムは嘘だから前半部分だけ考慮してくれないか」
「いきなり『お義母さん』とな?」
「突っ走ってるなぁ……」
 アストは苦笑いしつつも、
(「……まあ、将来マナがそれを望んで、マナを幸せにしてくれるならいいけどな」)
 と、ふと思うのだった。
「それでさ、ここにいるみんな」
 トワイライトが提案する。
「ほんのちょっとでいいんだが集まってくれないか。今まで同じ依頼で一緒になった仲間達を、絵にして留めておこうと思うんだ。これだけ集まる機会はもうないと思うからな」
「それは名案です♪」
 アールコートがさっそく声を上げて、
「そこの可愛い女の子も一緒にイラストに収まりませんか?」
 と声をかける。
「はわわー! 気づかれてるー! 遅刻しそうだから急いで着た服がこれだっただけですよ……女の子じゃないです〜!」
 槍を持って進む者・ベディヴィア(a63439)は、恥ずかしいので木陰からのぞいていたのだが、ちゃっかり見つかって引っ張り出されてしまった。
 もうすっかりお馴染み(?)、ベディヴィアの服装は、チアリーダーのユニフォームであった。
「待て、待て、絵を描くんなら妾も入るぞ! 妾が真ん中なのじゃー!」
 いつの間にやらレイニーが戻ってきて、ちょうど開いていた中央部に滑り込んだ。

 宴は賑やかにつづく。
 その賑やかな理由の一つは、集まった沢山の子どもたちにあるといっていいだろう。冒険者の子どもたち、彼らの父母が世界を救わなければ、生まれることがなかったであろう世代も数多い。
「みんな、ボクと一緒に歌おうよ♪」
 歌姫修行中・マナヤ(a72408)が歌のお姉さん役を買って出て、子どもたちに歌を教えている。
「さあ、これはボクたち、マナヤ音楽隊のオリジナルテーマ曲だよ。楽しい歌だから覚えて帰ってね。いくよー『♪ケンカしても仲直りすればもう友達。みんな一緒に歌おうよ〜』」
 この『友達』のところを強調して歌うとうまく歌えるよ、と楽しく指導している。
 愛こそ力・アイーシャ(a50245)も子連れで現れた。
「ふむ、プルミーもアイも子どもができておったのか……妾もなのじゃがね」
 アイーシャはセイレーンということもあり、見た目はまるで変わらない。
「妾の旦那は留守番なのじゃが……連れてくれば良かったかのう……」
 アイーシャの子はヒト族だ。父から多くを受け継いだのだろう。されど、目元はアイーシャにそっくりだった。
「賢そうなお子さんでなによりだな」
 アイは、ふふ、と笑った。
「アイの子は二人とも、歳が近いようじゃの?」
「子どもができるまでは少々かかったのだが、一人目ができると、すぐに二人目を授かったよ」
 二人とも難産だったらしい、アイーシャも産みの苦しみは知っているから、大変だったのう、といたわるようにアイの背をなでた。
「それでアイ、何かのろけ話を聞かせるのじゃ」
「い、いや、私はそんなにのろけるような話は……アイーシャ殿こそ」
「うーむ、では、お互いに一番恥ずかしいのろけ話をこっそりと交換しよう」
 こそこそ、女二人は隅で、紅潮しながら秘密の会話をかわすのだ。
 突撃鉄壁重戦車・モイモイ(a51948)と悪の妖術師・クーカ(a42976)が、手を繋いで並んで歩いている。いや、モイモイとクーカ自身だとすると、小さすぎやしないか?
「あら、モイモイさんとクーカさんは縮んでしまったのかしら?」
 しゃがみ込んでプルミーが、二人に挨拶している。
「お元気でしたか? クーカさんの妖術実験が暴走して若返ったとか?」
「ふふふ、ひっかかったようですね!」
 クーカ・クア・レルカはプルミーの背後からやってくる!
 彼は妖術を広めようと企む悪の妖術師だ。
 彼は数年前、強力な呪(のろ)いをモイモイにかけたという。
 それも、神の力でも解けない程の!
 その呪いの名は!
「『婚姻届』を出して渡したのです……うっかりサインしてしまったモイモイさんは、『妻』にクラスチェンジしてしまったのですよ」
「うっかりサインなんてしてないなぁん、愛情込めてサインしたのなぁ〜ん」
 にっこりとモイモイは笑ってモイモイの肩に体を寄せた。
「うわっ、ということは、このちっちゃいクーカさんとモイモイさんはっ!?」
「ボクらの子なぁ〜ん♪ 女の子はメイメイ、男の子はノムカっていうなぁ〜ん」
 ミニチュアサイズのモイモイ、いや、メイメイは、父親たるクーカの足元にすがりつき、クーカもといノムカは、母親のモイモイの背中に隠れた。
「本当にそっくりで可愛いです♪ ノムカちゃんは、クーカさんと同じように顔を隠しているのですね〜」
「モイモイさん曰く、息子は僕と瓜二つらしいのです。でも凄い人見知りなので、ノムカは僕にも顔を見せてくれないのですよ」
 というクーカの頭には、雌鶏コリーが乗っている。ところがそのコリーを持ちあげて、メイメイがクーカに肩車状態となり、コリーを自分の頭に乗せた。
「メイメイは、なぜかパパに運んでもうのが好きなのなぁ〜ん」
「ぶっちゃけ、重い、のです」
 一方でノムカは甘えん坊らしく、ずっとモイモイにくっついたままだ。
「楽しい家庭みたいでいいですね〜♪」
「重いのは事実……ですけど、楽しいのも事実なのです」
「なんだかとっても満ち足りた気分なぁ〜ん。こんな幸せがずっとずーっと続くといいなぁ〜ん」
 子どもといえば、タロスが珍しいとこともあって、シェムハザーダはたくさんの子どもたちに懐かれていた。今日の参加者でタロスはシェムハザーダ一人なのである。触らせてとやってくる子どもたち、食べ物を勧めてくれる子どもたち――あっという間にシェムハザーダは人気者になっている。
「……ふむ、子どもという物は何とも愛らしい物ですね」
 将来、子どもに関わる仕事をしてみるのも良いかもしれない、とシェムハザーダは思った。
 さてここに一人の子どもがいる。七歳くらいの少年だ。
 少年は他の子どもたちと違い、遊ぶことをせず、まっすぐにプルミーとアイの元にやってきた。
 ただの少年ではなさそうだ。空色の髪、深い青の目を有し、鎧に身を包み、小剣を佩いている。
「アイさんとプルミエールさんですか? シオン・アヤノミヤと申します」
「シオン……さん……?」
 プルミーには見覚えのない名だ。アイも知らないという。
 だがプルミーは、少年の姿に見覚えがあった。いや、それはある人にあまりにも似ていた。
「もしかして、マサトさんの……」
「はい。マサト・ライシュウェイの代理で来ました」
 恭しく一礼した彼の姿は、剣の天使人形・マサト(a47419)を彷彿とさせたのだ。
「今日、ご本人は?」
 アイが問うと、シオンはよどみなく応えた。
「先生……マサトは今、自分が住んでいた廃墟の街を孤児院に変えてる最中なんです。同窓会にとても参加したがっていましたが……代わりにこれを、と俺に託してくれました」
 手渡してくれたのは手紙だ、マサトの自筆によるものである。同窓会に参加できない事への謝罪と現在の自分についての報告、見知った人々への挨拶が便箋三枚に渡ってびっしり書いてある。
 手紙を読み終えると、プルミーは清々しい表情で呟いた。
「マサトさんが先生なんですね〜。がんばっていらっしゃるようです……」
「失礼致しました。それでは、これで還ります」
 シオンが立ち去ろうとするので、プルミーは慌てて引き留めた。
「せっかくですからパーティを楽しんでいって下さいな。それに、今から還るのは大変ですよ。よければ今夜は、私たちの家に泊まっていきません? 私も聞きたいことがありますし……ね?」
「ああ、プルミエールさん、あなたは、先生が仰っていた通りの方だ」
「え?」
「先生は仰いました。プルミエールさんはとても親切で、そして美しい方だと」

 甲冑の騎士たちが向かい合う。かつて『円卓の紳士』のメンバーだった者たち、轟金紳士・アロイ(a68853)とユウキだ。フェイトも一緒だ。
「ああ、本当に久しぶりの対面になります……ユウキ君。見た目は変わらずとも、逞しく成長したようですね」
 アロイは、ずっしりとした手をユウキの肩に置いた。ユウキは忘れない、この手が、自分を何度も励ましてくれたということを。
「逞しく、かどうかはわかりませんが、成長できたとしたら、それはアロイさんのおかげです」
「そう言われてしまうと照れますなあ」
「ところでアロイさんは、今は随分忙しくされているとか?」
「ああ、フェイトさん、お聞き及びでしたか。私は今、実家の商工会を継ぎ、せわしない日々を過ごしております。今日は友や弟に事業を任せ、久々に長いお休みを取れました」
 ステライト商工会の名は、ユウキたちの暮らす土地にも伝わっている。良心的な経営で評判が高く、多数の従業員を雇い入れているという。
「ご無沙汰しております。皆さん」
 そこにまた一人、甲冑騎士が加わった。彼もまた、威風堂々たる姿、闇騎士・アドミニ(a27994)である。薔薇色したワインのボトルを手にしていた。
「ユウキさんは、お酒を飲めるようになりましたか?」
「いやあ、駄目なんです僕、十八歳のままで……それに、実はお酒は、甘酒でも眠ってしまうくらい弱いので、多分二十歳になっても飲めないと思います」
「残念、ではアロイさんとだけ楽しむとしましょうか。ささ」
 アロイにグラスを渡し、自身もフルフェイスをしたままで優雅に飲むアドミニなのだった。
 会話は自然、四人とも参加した洗濯の話や、我楽多草紙の思い出へと向かう。
「あのときちょうど、色々な戦闘や依頼で汚れたマントが多すぎて手付かず状態でした。だから一斉洗濯があったのは良いタイミングでしたね……」
 アドミニが言うと、
「私もそんなところでした。そういえば、鎧の内側に着る服というのは、丈夫なばかりでも駄目、通気性が良いばかりでも動きづらく、最初のうちは特に、色々試したものですなあ」
 アロイも述懐する。既に騎士としての一線を退いている現在のアロイだが、礼服がわりに飾り彫りの鎧を着ることは多いという。今日も彼はその白銀の鎧だ。
「そういえばユウキさんは女性が苦手でしたから、恋人が作れるか大丈夫かなと思いましたが、心配無用でしたね。しかも、驚くほど近いところに運命の方がいらっしゃったとは……」
 アドミニは、ユウキとフェイトを互いに見て、満足そうに頷いた。
 恐縮です、と若い恋人たちは頬を赤らめつつ、そうだ、とかねてからの計画を打ち明けてみた。
「近いうち、昔の依頼で掘った温泉へ旅行に出かける予定があるんですが、アロイさん、アドミニさんも、良ければ一緒に行きませんか?」

 おしまいは・テルミエール(a20171)は、プルミエールから二人の子どもを紹介された。
「テルミーさん、お手紙したうちの子です。もうこんなに大きくなったんですよ〜」
「はじめまして、カインド君とエールちゃんね。まん丸なお顔でプルミーさんそっくり……。この子たちが新しい『はじまり』なのね」
 テルミエールの姿は、プルミーと旅に出ていた頃と変わらない。これが彼女の選択だった。
 かつて、プルミエールに宛てた手紙で、テルミエールは自身の心情をかく語った。
「はじまりを続ける世界を本当の意味で見届けるには、私はおしまいになっちゃいけない気がするの。だから全部『おしまい』まで見届けて、書き記して行くつもり」
 事実、テルミエールは既に、歴史記述者としての道を歩み始めている。彼女は各地に取材するなどして、ランドアースの記録を史書へ編纂する作業に入っていた。あまりに膨大な歴史をまとめ上げるのは容易な作業ではないが、永遠の時間を手に入れた今であれば、少しずつ着実に進めることができる。先日は、十年に及ぶ調査を本として出版したばかりだ。
「テルミーさんは結婚しないんですか」
「私は……このままかな。でも、それを後悔してはいません。子孫を見る喜びなら、プルミーさんの一族を追っていけばいいのだし」
「私の子孫……どれだけ続くかはわかりませんが、よろしくお願いしますね。テルミーさん♪」
 少し寂しく思うプルミーだったが、自分の一族を見守ってくれるという、テルミエールの言葉は嬉しかった。

 レナートとセイカは、娘の手を引いて春夜の園を散策する。
 美しい花々が、月に照らされ美を競う――娘セリカも、その華やかさに見とれていた。
「ほーら、セリカ見てごらん。ここはお父さんとお母さんの思い出の地だよ〜」
 とまで言ったところで、ハッとレナートは気づいた。
「って、ここには二人で来た事はなかったよ。間違い間違い。色々ありすぎて少しボケちゃったよ」
 慌てて言い加えるも既に遅し、
「ふーん、どなたとの思い出デショウネー」
 と、氷のように冷たいセイカの声がする。
「違う、違うっ! そもそも誰とも来てないから!」
「この期に及んでまだそのような世迷い言を……」
 セイカは指の骨をバキバキと鳴らした。
「セイカさん、子どもが見てるしストップストップ〜!」
 まったく、とセイカは溜息する。
「……まあ記憶ごっちゃになってもおかしくないくらい、色々ありましたもんね」
 なお、レナートの名誉のために、彼は本当に来たことはないとここに記しておく。

 濡れ羽色の閃光・ビューネ(a38207)は静かにグラスを傾ける。
 本来ビューネは、酒豪という言葉もおっつかないほどの酒好きなのだが、今日は少し控えめにしてほろ酔いを楽しんでいた。
 楽しい夜だ。たくさんの知人友人と旧交を温めた。
「アイさんはともかく、プルミーさんがお母さんになっているなんて、信じられませんね」
 今、彼女はそのプルミエール夫妻と杯を交えているのだ。
「えへへ、意外でしたか」
「いえいえ、お相手が素敵なエルスさんなんですもの。それは素直に祝福したいです」
「いやぁ、俺、そんなに素敵じゃないと思うよ。なんか抜けてるし」
 エルスは恥ずかしげに頭をかくのだが、ビューネは静かに首を振った。
「見てましたよ、エルスさんは、子どもさんが追いかけっこしている間、ずっと転ばないよう注意していましたね。素敵なお父さんです」
「うわ、気づいてたの?」
 恥ずかしげにエルスはまた頭をかいた。
 微笑してビューネは続ける。
「信じられないのは、時間の流れる速さですね。とりわけ、不老になった今ではそう思います」
 ビューネは目を閉じて、もう一つの未来を想像してみる。
 相手を見つけて、普通の人生を歩む。
 子どもを産み、育て、孫ができ、皆に囲まれて逝く。
 そんな人生も良い、とは思う。
「でも私は……世界を見てみたかったんですよね。緩やかに変わりゆくこの世界を」
 そのとき、長い髪をしたセイレーンの女性が、酒瓶を手に歩み寄ってきた。
「お注ぎしましょうか? ビューネさん、グラスが空ですよ」
「ありがとうございます……」
「私も私もー」
 プルミーが、さっとグラスを出した。
「プルミーはほどほどにしとけよー……昔、酔いつぶれたプルミーを背負って帰ったことがある」
 エルスは少々心配顔である。
「あれ、あなたは……?」
 ビューネは目を上げて意外そうな顔をした。
「ネーヴェさん……?」
「あら、気づきました?」
 セイレーンの女性は、煌めきを追う者・ネーヴェ(a40386)だったのだ。鎧をドレスに換え、メイクした姿は麗人と呼ぶにふさわしい。長い睫毛の下の目が、微笑していた。
 するとたちまち、そのテーブルに、
「ネーヴェ殿、そこにいたか」
「お〜、前職に復帰したのかな?」
 アイとアスト、
「ネーヴェさん、そこでしたか」
「いま、前に話していた温泉旅行の相談をしていたんですよ」
 ユウキとフェイトもやってくる。
「ビューネさん、取材させて下さい……あら、ネーヴェさん? 皆さんもお揃いで?」
 テルミエールも丁度のタイミングで居合わせることになった。
「ぇ、ぇと、め、『めいわく動物』で一緒だった人が、た、たくさん、集まりましたね」
 リリムもいる。
「せっかくだから私も入れてもらっていいかしら?」
 ルビナスも加わってみた。
 なんだか包囲されるかたちになって、ネーヴェは苦笑してしまう。
「そんな珍しいものを見るような顔をしないで下さい……いや、しないでよ」
 ネーヴェはその後、結婚と出産を経験、そのまま騎士を引退したという。
「それで結局、かつての職業だった歌姫に復帰したの。でもそんな変わった気はしないのよ。意外なことにね」
 冒険者となる以前に復しただけだ。ゆえに本人にとっての違和感は少ないらしい。
 口調も女性調になっている。これも、変えたのではなく、戻したというのが近い。
「私もそれほど驚きませんよ、ネーヴェ。昔、フォークダンスの折、一緒にメイドの扮装をしたこともあるのだし……懐かしいですね」
 フェイトはネーヴェの長い友人だ。はっきりと言葉にして思ったことはないが、ネーヴェがいずれ歌姫に復すと、心のどこかで感じていた。
「ええ、本当に」
 ネーヴェは嬉しく思う。自分以上に自分を識るものがいるとすれば、それはフェイトではないか。
「それでは皆、再会を祝し、一曲歌うことを許してね」
 ネーヴェは手を組み、透き通るような歌声を響かせるのだった。

 ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)は、黙々と熟成ハムをナイフで切っている。このハムは、初冬のうちにとった獲物を岩塩やハーブ、香辛料等に漬け、熟成させて作ったものだ。
 平和を取り戻して後、ジースリーは森に帰り、この十年、狩人として暮らしてきた。目覚めるのは山小屋、眠るのも山小屋。生命の書を使うことなど、考えもしなかった。ただし少し白髪が増えた程度で、それほど老け込んではいない。得物を加工し町に売りに行くときを除けば人に会うこともなく、従って、言葉を口にする機会はますます減ってしまった。
「……」
 考えてみれば、元々ジースリーは、こういう生き方を徹底してきたのだ。むしろ、冒険者として依頼をこなしていた時期の方が特殊だったといえよう。あの頃は、元気すぎた。……けれど、そんな自分を元気にしてくれた仲間たちには、今でも感謝している。
 ハムを切り終えてテーブルに運ぶと、後は席に戻って一人静かにグラスを傾ける。
 春の花々はとても美しかった。夜空も、星がはっきりと見える。
 ジースリーは静かに息を吐き出す。今日持ってきたハムは、殆ど提供できた。もう、自分に出来ることはないだろう。
 そろそろ消えるとしよう。自分にはそれが似合いだと、ジースリーは思っている。
 音を立てずに席を立った。
 ところが、
「あっ、ジースリーさん、いましたっ♪」
 プルミエールの声がする。
「探しましたよ。せっかくですし少し話しません? いえ、話すのが苦手なら、聞くだけでも」
 テルミエールも声をかけてくれる。
「ジースリーさんがいないと、なんとなく締まらないんですよね。重鎮というか」
 ビューネが声をかけてくれた。
 彼女たちだけではない。エルス、ネーヴェ、リリム、ユウキとフェイト、アイとアスト、ルビナスの姿も見えた。めいわく動物退治で、ともに戦い、ともに宴を張った仲間たちが。
 ジースリーは一言も発さない。それが、ジースリーという男だからだ。
 しかしジースリーは席に戻った。
 少しだけ表情を緩めて、仲間の輪に加わり思い出話を聞く。ジースリーはそれだけしかしないのだが、彼がいることが仲間を安心させるところがある。それもまた、ジースリーの『らしさ』だった。
 この夜が、プルミーたちがジースリーを見た最後となった。

 彼はコップを拭いている。
 客としてきているはずなのに、習い性なのかついやってしまうのだ。拭いたコップを並べ、暇を見ては汚れ物を洗っている。
(「まあ、こうやってるほうが落ち着くんだから良いってことしてもらおうか。性分だしな」)
 そもそも、喫茶店のエプロンをつけたまま来ているのも、ずぼら半分、習い性半分のなせるわざだ。カゼノトオリミチの店主・マスター(a76706)、現在五十四歳、本人曰く「多少ガタがきてる」そうだがまだまだ現役、やはり根っからの喫茶店店主のようである。
「いらっしゃい……じゃないな、久々っ」
 マスターは、懐かしい顔を見て片手を挙げた。
「あまりにも自然におっしゃるから、本当に『カゼノトオリミチ』に来てしまったのかと勘違いしましたわ」
 鱗の乙女・リサ(a57094)はくすくすと笑った。
「お久しぶりです、マスターさん。ますますダンディになられましたね」
「ダンディって言うよりはジジイだな。でも褒めてくれてありがとよ。リサとは去年の年末以来になるかな、元気そうで嬉しいぜ。珈琲でも淹れるか? ……といってもここ、自分の店じゃないから、勝手がいまいちわかんらんが」
「あはは、お構いなく。春夜の園、わたくしには些かハードルの高い場所でしたわね……でも、今日は同窓会の会場なのでそのような心配は無用ですね。仲間が集まるならなおさらです」
 他の皆さんは? と訊くリサに、マスターは首を巡らせた。
「ルーティが食べ物を取りに行っているはずだが……お、来た来た。おっと、横はユウキか」
 ルーテシア、ユウキも合流して再会を喜び合う。といっても彼らは、最低でも年一回は忘年会と称して顔を合わせているので、それほどの久々感はない。それでも会えば話は弾む、互いの近況報告から始まって、今後の予定や、共通の知人の話など、話題は尽きないのだ。
「今日はいい日だわ。ユウキの恋人さんとも話せたし、懐かしい顔も沢山見ることができたし」
「いつまでもこうして、カゼノトオリミチのメンバーで会うことができたらいいですね」
「いつまでも……か。このご老体にはそろそろ厳しいな」
 マスターは自嘲気味に笑った。ところが、そこにルーテシアが爆弾発言を行ったのである。
「何がご老体よ。聞いたわよ。最近、ちょっといい女性(ひと)がいるそうじゃないの」
「おや、マスターさんも隅に置けませんわね」
 詳しく知りたいところですわ、とリサが身を乗り出す。
「違う、違うって、おめたち何言ってるだべ! あの人はそういうのんじゃなくて!」
「あ、マスターさん、焦って訛りが出てます」
 初めて見るマスターの動揺に、一同はますます追及を行うのだった。
 ちなみに実際の所は……秘密だ。

 空と風のコンチェルト・クライス(a59001)は、飄々とパーティを楽しんでいた。
「おー、プルミーもアイさんもお母さんですかー。お子さん方も親に似て、可愛らしいですねぇ」
 プルミーやアイと、過去の冒険譚に花を咲かせてみたりする。
 しかしそのうち、子どもたちが気になってきたのか、
「ちょっと、お子さんたちと接してきてよろしいですかね?」
 と訊いてみると、むしろ意外なほどに喜ばれた。
「助かる、クライス殿。我々の子だけではなく、とかくたくさん来ているのでな。皆冒険者の子だから元気で……元気すぎるくらいに」
「なるほど、なるほど。とすればクライスおにーさんの出番となるわけですねぇ」
 軽やかにクライスは、子どもの集まりに飛び込んでいく。
「どれどれ、おにーさんがちょっと遊んであげるとしましょうか。さぁ、かかってくるといいさー……うわーっ!」
 本当に子どもが、それも、十数人の子どもが大喜びで一斉に飛びかかってきて、クライスは、ちょっと大変なことになった。

 春夜の園は、恋人たちの場所だったと聞く。
 ゆえに自分には縁のない場所だと、ヒトのヒトノソリン・リル(a49244)は固くそう思っていた。
(「ここはとっても綺麗だけど、以前と変わらずに綺麗なのなぁ〜ん?」)
 風が吹くと桜吹雪が舞う。ほうぼうに、春の花が美を競っている。
(「来るの初めてだから、わかんないや……」)
 めでたい席なのに、本当はここに来るのを楽しみにしていたはずなのに、つい切なくなってしまうリルだった。
 ちらっと会場を巡って、見知った顔を見て、それで帰ろうかと彼は思っていた。
 ところが、
「リル殿、そこにいたか」
「やっと会えたな。元気だったか?」
 アイとアストに声をかけられ、リルは足を止めたのだ。
「あっ……アイさん、アストさん、お久しぶりなぁ〜ん」
「そんな木陰の下にいないで、ここで何か食べながら話さないか。ほら、このイカのミイラとか……まあ、スルメだが」
 アストが色々と勧めてくれるので、リルはテーブルに着くことにした。
「結局一人で来たなぁ〜ん。できれば二人ないし家族で来れればよかったのだけれど……。そういえば以前、フォークダンスの折、『来年は、大切な人と一緒に来るよ!』なんて言ってた気がするけど……」
 辛いことを言いかけたリルに、アイはうなずいてそっと告げた。
「わかっているさ。もう、言わなくてもいいよ」
「う、うん……」
「むしろ私は、リル殿のその後を知りたいな」
「素敵な人は……いたりいなかったり、だけど、皆恋人がいたり、妹だったりで……まぁ、まだ人生半分もいってないから大丈夫なぁ〜ん!」
「その意気だ」
 まだ人生半分もいっていない、それはふと口をついて出た言葉なのだけれど、そう考えてみると、それほど悪い気はしない。
「それにしても、アラン君とマナちゃんだっけ? 大きくなったのなぁ〜ん?」
「ああ、ほら、あそこで遊んでいるよ。おっと、子どもの数がずいぶん増えているな。ふふ、なんとなく親に似ている子もいて、見ていて楽しい」
「子どもの面倒を見る人が大変そうだから、ちょっと手伝わせてもらっていいかなぁ〜ん」
 実際、子守を買って出たメンバーはなかなか大変なことになっているようだ。レイオールやネレッセは対処できているが、クライスは沢山の子どもに乗られて、楽しげにとはいえ悪戦苦闘している。
「そういうことなら喜んで。リル殿は学校の先生なのだろう? 子どもの世話は慣れていると思う」
「えっ……ちょっと待って、なんでアイさん、そのことを知っているのなぁ〜ん!?」
「リル殿は私の大切な友達だ。折に触れ、噂は聞いていたからな」
 アストも言い添える。
「そういうことさ。初等教育の先生なんだろう? もしかしたらアランとマナも、近い将来『リル先生』に面倒をみてもらうことになるかもしれないな」
「えっと……その……」
 リルは少し、言葉に詰まった。もう武器を取って巨悪と戦うことはないかもしれないけれど、リルはリルのできることで世界に貢献できるのだ。そして世界も、そんなリルを求めているのだ。
 ありがとう、と手を振って、リルは子どもたちの集まっているところに駆け出した。
「じゃあ、行ってくるなぁ〜ん。ほーらアラン君、マナちゃん、それにプルミーさんの子どものカインド君に、エールちゃん、それとそれと、ここにいるみんなっ。ボクと遊ぶなぁ〜ん」
「あなただぁれ?」
 小さな女の子が問うた。よくぞ聞いてくれました、とリルは胸を張って答える。
「ふふふ……ボクは学校の先生なのなぁ〜ん! というわけで、『リル先生』と呼ぶのなぁ〜ん!」
 優しそうなリルの笑み、それに朗らかな口調に、子どもたちは素直に従った。
「リルせんせー」
 よろしい、と、リルは言って、背を屈めて問うのである。
「それじゃ、何して遊ぼうか!」

 ここは麗しのフローリア学園……ではないのだが、フローリア学園に関連したメンバーが一つのテーブルに結集している。
 夜桜の元、一同は丸テーブルに陣取った。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……うん、とりあえず、今日来てる学園メンバーは全員集まったようね」
 ルビナス学園長は点呼を完了し、改めて宣言した。
「今夜この場所で学園のみんなと再会できたことを、とても嬉しく思います」
 一同、喝采を送った。
 世界が平和となり、その役割を終えたということで、フローリア学園は数年前、その名前だけを残して、一般の子女を教育する学校として生まれ変わった。それと同時にルビナスも学園長の座を降り、自ら選んだ後任者にその座を譲ったのである。ゆえに現在では彼女のことを『元・学園長』と呼ぶ方が正しいのだが、かつてを偲び、卒業生たちは彼女を学園長と呼んでいるのだ。(なお、本稿もそれに倣うものとした)
「みんな久しぶり! 元気そうでよかった♪」
 瑠璃の太公望・アリア(a57701)も仲間たちの顔を見回す。歳経た者もある、音信がなくなって久しい者も少なくない。それでもここにこうして再会を遂げたことは、これ以上ない喜びだ。
「さっき紹介してもらったけど、エルスさんとプルミーさんには二人も子どもがいるんだね。いいなー、ボクも素敵な恋していつか結婚を……なんてね☆」
 つまりアリアはまだ独身、なんの、これからまだまだ数え切れないくらいチャンスはあるだろう。なぜって彼女は、生命の書を使うことを選択したからだ。
「ヴィクスさんは元気にしてた?」
「ああ、充実した日々だとは思う」
 灰色の守護騎士・ヴィクス(a58552)、彼は星の世界からの帰還後、世界各地を旅しながら様々なものを見聞しているという。
「不思議なもので、星海を見て以来、自分の住んでいるこの世界について、もっと知りたいと思うようになったんだ。旅先で人に教えられる事は教えて、教えてもらえる事は教えてもらって……そんな事を毎日繰り返している。日々勉強、だな。そんな精神が培われたのは、やはり学園にいたおかげだと思う」
 ヴィクスは静かに笑った。かつて自分たちの属していた学園は、ありのままの姿ではもう存在しない。しかし、そこで身につけた『フローリア精神』ともいうべきものは不滅なのだ。
「ヴィクスは不老じゃないんだよねぇ、プルミーも……でも、皆、意外に変わってないねぇ」
 紅炎炎舞・エル(a69304)は満面の笑みを見せた。ペットのクレオもちゃんと健在だ。
「みんなはどういう生活を送ってるの? たとえば、レティリウスは?」
「我か……?」
 急に話を振られ、星空渡る風の翅・レティリウス(a72807)はいささか言葉に迷ったが、結局肩をすくめるにとどまった。
「風の向くまま気の向くまま、世界各地を旅して廻っている。ただ、生憎と我自身はさして面白い話題を持ち合わせていないな……次会うときまでには何か仕入れておきたい。ところで、そういうエルはどうなのだ?」
「ボク? ボクもクレオを連れて旅また旅の旅ワンコってとこだね。目的は首輪集め! 珍しい首輪の噂を聞く度に、色んなトコを冒険してるんだよー」
 レティリウス、エル、ともに外見も年齢も不変だ。同じ若さを保持している。それゆえに、記憶もまた同じ形で留まっていた。
「こうして話しているとエルス殿とプルミエール殿が結婚式を挙げたのが昨日のように思い起こされる。それなのに今では、プルミエール殿も立派な母親か……月日の経つのは早いものだ」
 レティリウスが目を閉じて回想すると、
「うんっ、ほんとほんと、まるで昨日あった出来事みたく思い出しちゃう♪ 学園生活にはいっぱいクライマックスがあったと思うけど、プルミーとエルスの結婚式は間違いなくその一つだったね♪」
 エルも応じる。華やかな一日だったことをよく覚えていた。
 逆に、プルミーとエルスのほうが記憶はあやふやらしい。
「いやあ、そんな、クライマックスというほどでもー……実は私、あのとき頭がまっ白になっちゃって、あまり細かいところまで覚えていません」
「プルミーもかっ。もちろん、皆に祝福されたことは覚えているが、やたら緊張したので結構色々飛んでしまった気がする」
 夫婦は顔を見合わせて苦笑いした。
 星竜騎士・ウェイン(a79076)が彼らと会うのは四年ぶりになる。不老を選んだ彼ではあるが、時間の流れ方は変わっていない。
(「丸4年……か。短くは無く、長すぎでも無い期間だが……ひどく懐かしく感じるな」)
 今回、最も遠い距離をたどって参加したのはウェインだった。風の噂で同窓会の話を聞いて、前日にようやくこの地に着いたのだった。危うく参加しそびれるところだったが、それでも皆と会うことができたのは、やはり学園の持つ絆のおかげだと感じている。
「エルスさんとプルミエールさん、それにヴィクスさんは不老を選ばれなかったのですね。その選択も、きっと価値あることだと思います。そしてルビナス学園長、エルさんは私と同様、不老の道を選ばれたのですか。ドリアッドのアリアさんとレティリウスさん、エンジェルのアールコートさんは、元より同じ姿で……」
 ウェインはこれを言うべきか迷った。すなわち、不老を選ばなかった三人とは、今日の日が今生の別れとなるかもしれない、ということを。
 さようなら――その言葉を口にするのは、どうしてもできそうもなかった。
 なのでウェインは決めた。
 今宵、別れるときは、その言葉ではなく、「また、何処かで」と告げようと。

 かく盛大なる同窓会を支えるのは、裏方仕事に尽力する冒険者たちの貢献だ。
 裏方仕事をするメンバーも、ちょくちょく会場に戻って、参加者として旧交を温め合っているのだが、火炎六花・ルーシェン(a61735)だけは独り、洋館にて料理や洗い物の仕事に埋没している。
「行かないの?」
 と誘われても、彼は黙って首を振るだけだった。めいわく動物メンバーの呼び出しがあっても、表に出ることはしなかった。
(「私は……これでいいんです。正直な話、彼女と会うのは辛い」)
 それでもルーシェンは、彼女の幸せを祈っている。影ながら応援している。
 ただ、正面から彼女の顔を見ることはできないと思う。少なくとも、まだ今は。

 竪琴をつま弾くその音を、アイは記憶していた。
「アイさん、お久しぶりです」
 記憶の通りだった。立っていたのはせせらぐ琴線・リナリー(a59785)、竪琴の名手である。
「母親になられたそうですね。母性が増したようにお見受けします」
 リナリーは微笑んだ。
「このところ噂も聞かなかったが、リナリー殿はどうされていたのだ」
「遠い国のお話なので、確かに伝わっていなくても仕方がないですね。実は私、現在は祖国の北方セイレーン領に戻って暮らしています」
 しかも、ただ暮らしているのではない。夭逝した兄の代わりに、北方領北端の都市を預かる身になってしまったのだという。
「一気に権力者となったというわけか、それを切望する者も少なくはないが……リナリー殿は違ったようだな」
「ふふ、よくご存じで……ええ、もう不承不承、でした」
 権力を継承するということは、課せられた山のような義務を継承することでもある。猛烈に忙しい日々がリナリーを待っていた。今日だって、無理を言ってようやくここまで来ることができたのだ。戻ればまた大量の職務が待っているらしい。
「継ぐ気はまったくなかったのです。私は冒険者になる前は、トロウル領に人質に出されていたので、もう居ない者と一族には思われていたらしいのですよ。これ幸いと気ままな生活を送っていたのですが、それが、いつのまにか存在がばれたようで……」
 跡目が居ないと泣き付かれ、とうとう継ぐことを了承させられてしまったというわけだ。
「渋々退屈な生活を満喫してますよ。機会があれば遊びに来て下さいね。最果ての軍港都市、レミントンという国です」
 思いっきり竪琴をかき鳴らすことも、滅多にできなくなったという。
「せめて今日は、好きなだけ弾かせてくださいね」
 といってリナリーは流麗な音をこだまさせる。
「あ、リナリーさん。アイさんも。みんな久しぶりよね」
 太陽と大地の狭間に・ミシャエラ(a66246)がすっくと立つ。すらりとした体型になんら変化はないが、彼女は不老の路を選んだわけではなかった。
「私は普通に年を取って、もう三十超えたおばさんよ」
「大丈夫、私も三十路だから」
 アイが手を伸ばしたので、ミシャエラは笑ってその手を握った。
「子どもも何人か居るけど、今日は旦那に預けて来たわ。ああ、旦那は……酒場の依頼が縁で知り合ったのよね。頼りない普通の職人だけど、優しいいい人よ」
 そしてミシャエラも、そう、弓の名手にして歴戦の勇士、異形のキマイラにも敢然と立ち向かった彼女も、今は普通の主婦をしているという。
「今でも強大な敵と戦ってるわよ。それは子どもと旦那の世話! 毎日大変! もう、冒険者の方が気楽で良かったわぁ……」
 トントンと肩を叩いた。戦う相手は変わったけれど、それでもミシャエラは毎日奮闘しているというわけだ。
「私とはまた違う意味で忙しくしているのですね」
 お互い頑張りましょう、とリナリーは笑った。

「とんちーーーー波動拳っっ!!」
 ずどーん、という効果音も自分の口で発音して、一人の怪僧がのっしのっしと現れる。とんち波動拳なる怪技を連発しながら、コミカルに踊るようにしてやってくる。彼が踊れば泣く子も笑う……かもしれない。
 彼は僧、荒ぶる僧、正確には小坊主、史上希に見る荒ぶる小坊主!
 そう彼こそ、帰ってきてしまった・イッキュウ(a17887)である!
「プルミー殿!」
 イッキュウは尋ね人を見つけ、二カッ、と爽やかな笑みを浮かべた。
「師匠ー!」
 プルミーは嬉しげに駆け寄る。
「そして、ユウ子ちん!」
「誰がユウ子ちんですかっ……!」
 ユウ子もといユウキも応じる。
「わしは生命の書を使いませぬゆえ、順調に歳経ております。されど」
 ニカニカッ、とイッキュウは爽やかすぎる笑みを浮かべて告げた。
「百年経ったらまた会おうや」
 そして、うわっはっはっは、と豪快な笑い声を上げながら駆けていったのである。

「まさかそれはロゼリア殿の子……!?」
 アイは目を丸くする。
 だってまだ外見年齢七歳の藍薔薇の・ロゼリア(a60370)なのに、ずらずらと子どもたちを連れているからだ。
「うふふ……知られてしまいましたか。その通り、子どもができたのです……こんなにたくさん」
 なんて、と破顔して、ロゼリアは真相を話した。
「まぁ、わたくしの子じゃないのですけどね」
「つまり?」
「今のわたくしは希望のグリモアの街に孤児院を設立し、孤児たちが独り立ちできるようになるまで面倒を見ているのですわー」
 いわば子どもたちはすべてロゼリアの養子だ。
「面倒見てるっていっても、わたくし自身、ほとんど子どもに混ざっている状態なのですけどね」
 と謙遜する彼女だが、慈愛と行動力がなければこれほどのことはなしえないだろう。なお、宣伝も兼ねて弟のゼフィリアに世界中を走り回らせ、身寄りのない孤児を集めているという。
 ロゼリアの来訪によってますます面倒を見るべき子どもは増えたが、心配は要らない。
 ピースメーカー・ナサローク(a58851)、しばしユウキと歓談していた彼も、子どもの世話をすべく名乗り出たのだ。
「ナサロークさん、僕も……」
 ユウキが手伝おうとするも、ナサロークは静かに首を振った。
「ユウキには、挨拶をすべき相手が多数いるだろう。回ってくるが良い。私のことなら気にするな。これもまた軍事教練の一種と思えば容易い」
「そうですか……すいません」
 ユウキは一礼して去った。
 そのとき一人の子どもが、
「ぐんじきょーれん、ってなに?」
 と、ナサロークの顔を見上げて問うた。
「よくぞ訊いた。教練というものはな……」
 とうとうと語って聞かせるナサロークである。

「ユウキさん」
 お久しぶりです、と、白薔薇の紋章術士・ベルローズ(a64429)がユウキに声をかけた。
「アイ様やプルミエール様は少しお変わりですが、ユウキ様は変わらないんですね。それがいつのまにか……いい人も居るようで」
「あ、はい……幸運にも、です」
「最初にお会いしたときが嘘みたいです。さすがセイレーンの豪傑ですね」
「ご、豪傑は違うと思いますっ」
「そうですか。外柔内剛、私はユウキさんの中に、逞しいものを見たことが何度かありますよ」
「そういうもの……でしょうか」
「そういうものです。自信を持ってくれたら嬉しいです」
 ベルローズは柔らかに微笑む。
 ところでベルローズは、冒険者としての経験を活かし、忙しく働く日々だという。
「七年程前から、義父が拝領したキシュディムの近くの湿地で、ほんの最近まで干拓事業やら治水、土地改良事業を指揮していました。バーレルで学んだ知識を役立てることができ、人々の役に立てて嬉しいですね」
 今日、ベルローズがここに来ることができたのも、タイミングが良かったかららしい。
「領内の作物の取れ高も増えてきました。大水も減ったので、民心も安定して次の事業に移れそうです。このあたりで、土地改良のプロジェクトは一旦休止となったのです。今はちょうど、次のプロジェクトの準備期間なのですよ」
 もし次のプロジェクトが始まっていたら、やはりめまぐるしい忙しさになり、とてもではないが出てこられなかったようだ。
「次のプロジェクトとは、何をされるのですか?」
「衣食満ちれば、次は礼節です。学院を創設して、優秀な人材を育成したく思っています」
「優秀な人材ですか」
「ええ、ちょうど、ユウキさんのように」
「ま、またまたっ、そんなおだてないでください……」
 ふふっ、とベルローズは笑ったけれど、決して誇張でも嘘でもないと言った。
「ユウキさん、あなたは、王者の気風があります。一朝一夕とはいきませんが、真面目にコツコツと努力すれば、いつの日か一国を領する王になることができるでしょう」
「僕が王様に!? まさか」
「ふふ、ユウキさん自身がなりたくなくても、戴冠するよう、多数の民衆から請われるかもしれませんよ……なんて、聞き流してくれてもいいのですが」
 去り際、ベルローズは緑色の目に、謎めいた笑みを浮かべて告げた。
「意外と私の勘、当たるんです」

 そろそろおねむになったらしく、プルミーの双子は、腰掛けたプルミーに身を寄せてうつらうつらしはじめた。
「プルミーちゃんがすっかりお母さんですわね」
 二人を起こさないよう、春夏冬娘・ミヤコ(a70348)がそっと近づいてきて告げる。
「はい。お母さんです♪」
 プルミーも小声で応じた。その横顔が立派な母親なので、ミヤコは少し、胸を打たれるのだった。
「……さわってよろしいですか?」
「はい、ふにふにしてあげてください」
 そーっと指を出して、ふにふに、子どもの頬をつついてみるミヤコだ。
 二人ともそろそろ本当に眠ったらしく、「うーん」というような声で応じた。
 そんな反応が楽しくて、もうしばらくふにふに。プルミーといっしょに、ふにふにふに。
「ミヤコ殿、プルミー殿、お久しう」
 足音を忍ばせて、時の流れに任せる流水・レラ(a70801)がやってくる。
「プルミー殿は、もろ見えな衣装をやめたのじゃなあ……」
 少し寂しく思うレラだった。
「ところで二人して、なにをやっておるのじゃ?」
「プルミーさんの子どもたちを、ふにふにしているのです」
「よければレラさんも、ごいっしょに」
「うむ、それでは……」
 ふにふに、ふに。

 花に囲まれたベンチに、ユキトとマリーは腰掛けた。
 かわすのは、二人きりの睦言、囁くように、吐息のように。
「忙しい日々も落ち着いて、今では二人、落ち着いた時間を過ごすゆとりもできるようになったね」
 という夫に、マリーは身をすり寄せた。
「やっと……ですよね」
 せっかくなので、正直に吐露する。
「結婚しても最初の頃はなかなかかまってくれなくて……寂しかったんですよ? 知らないでしょ……私は何時だって貴方に抱きしめて居て欲しいのに……」
 ユキトはマリーに腕を回した。
「そうだったのか……ごめんね。でも、これからはいつだって、マリーさんの求めに応えるよ」

 どれくらいの時間が過ぎただろう。
 エルスが見つけたとき、二人の子を抱きながらプルミーは目を閉じていた。
 大きな桜の木にもたれて座っているが、軽い寝息を立てている。
「二人とも、すっかり眠ってしまったな……いや、ママもか」
 エルスはふっと口元を緩め、彼女の肩に自分の上着を掛けてやる。
 できるだけそっと腰を下ろしたつもりだが、ここでプルミーは瞼を半ばほど開けて、エルスの顔を見上げた。
「ふぁ……エルスさん……?」
「どうした?」
「私、夢を見ていました。冒険者として、グリモアの加護を受けたばかりの頃の夢を……はじまりの日々を」
「そうか……その頃のプルミーは、どんな感じだったのかな」
「幸せでした。毎日が楽しくて、どんどん新しいことが起こって……」
「今は?」
「もっと幸せです。あなたが、子どもたちが、そして……」
 会場に集まった愛する仲間たちを眺め、プルミエールは言った。
「あの頃はいなかったみんなが、いるから」
 エルスの肩に頭を預け、プルミエールはふたたび目を閉じ、まどろみの世界へと旅立っていった。

 またひとつ懐かしい顔を見て、ユウキとフェイトは嬉しそうに手を振った。
「すっかり遅くなってしまいましたっ! お得意さまのおばあさんのところにお届け物に行きましたら、お話にお花が咲いてツタが伸びてしまいましたっ」
 息を切らせて駆け込んできたのは、夢見鶏空を仰ぐ・ピナタン(a44156)なのである。
「そういうわけでしてっ、着替えられなくて以前の服装のままで申し訳ないですっ」
「いえ、構わないですよ。お元気そうで何よりです」
 ユウキは、ピナタンをしげしげと見つめて言った。
「身長、伸びましたか?」
「いえいえ、お恥ずかしながら変わっていないですっ。強いて言えば、ちょっぴりトサカは大きくなりましたけどねっ」
 現在のピナタンは、冒険者になる前に就いていた配達の仕事に、さらに精を出しているようだ。
「チキンレッグ領にもときどきは戻るんですがっ、いま、住んでいる地域では様々なものを配達をするようになったので、お年寄りにはとくに必要とされているのですよっ。地域の皆さんとも家族みたいに仲良くなっているので、どうしても離れられなくて……っ。だからこのまま、現在の第二の故郷に骨を埋めるつもりでいますっ」
「それは良いですね。必要としてくれる人のいるところに暮らすのが一番ですよ」
「そういえばユウキさん、姿はお変わりないですけど、お話をしていると、なんだか落ち着いてオトナな雰囲気ですよっ」
「え、そうですか……?」
 そんなに変わっている気はしないのですが、とユウキは頭をかいた。
「やあ、ピナタン」
「元気であったか?」
 アストもアイも、やってきて彼を迎える。
「あっ、皆さんもお久しぶりですっ。ああ、十年ぶりになるんですね……っ」
 ピナタンは満足げに一同を見回す。
「そうでした、辺境遊撃隊として戦ったのですよねっ。あのときご一緒した皆さんも、いっぱいいらっしゃってますねっ。あっ、忘れるところでしたっ」
 と、ピナタンは背の包みを解いた。
「おばあさんのお家で焼きたてのオレンジパイをいただいたのですよっ。みなさんで召し上がれ、って……ですから、いかがですかっ? せっかくだからお紅茶もいれましょうかねっ?」
 甲斐甲斐しく働くピナタンだ。現在生活している地域でも、こうやって人々の世話を焼いているのだろう。
 お茶を飲みながら、ふとピナタンは眼を細めた。
 会場を見回すと、見知った顔がたくさんある。
 皆笑っている。皆、充実した日々を送っているように見えた。
 ああ――彼は思う。でも、ここに集っているのは、見えている人たちだけではないはずだ。
(「地面の下から帰ってこられなかった方も……最後の戦いにぜんぶを預けてきた方も……今日は来ていらっしゃいますかねっ? この会場のどこかに……っ」)
 ピナタンは空を見上げた。ふと涙が、零れそうになったから。
「……いい夜ですねっ、ねっ……?」
 誰に言うともなく呟く。
 皆、この場にいて見守ってくれている。そんな気がした。尊敬していたシャスタという名の戦士の魂魄も、ここに混じっているだろうか。
(「皆さん、もうしばらくそこで待っててくださいっ、忘れないでいてくださいねっ……」)
「いずれわたしも、皆さんのもとに行きますから……っ」
 ピナタン・パルペジット、彼はこの夜を最後に、歴史の表舞台から姿を消した。
 ただ、幸せな生涯を送ったとの伝が、ある地方に残っている。

●2109年〜ファンタスティック! 竹林調査に乗りだそう
 緑の大地が見える。広大で不思議に満ちた新世界、それが、フラウウインド大陸だ。テラフォーミングが完了し、この土地は、まったく違う世界として生まれ変わったのだ。
 一行は、この処女地を拓く最初の探検隊のひとつ、意気揚々と新緑の地を踏むのである。
 いくらか緊張しつつ、春夏冬娘・ミヤコ(a70348)がプルミアに話しかける。
「あの、プルミアさん……聞いて下さいまし」
「あなた、ご先祖様の知り合い?」
 プルミエールそっくり、服装も髪型も、ほとんど同じプルミアなのに、口調はいささかつっけんどんだ。断られたらどうしよう……でも、とミヤコは意を決して語った。
「はい。ミヤコ・ヒナマツリと申します。プルミアさんのご先祖様、初代プルミエールさんと、わたくし仲良しさんでしたの」
 ちょうどいいタイミングで、時の流れに任せる流水・レラ(a70801)もやってきて口添えした。
「妾もじゃ。妾はレラ・サイギ、我らはかつてプルミー殿らと共に、旧フラウウインドで様々な新種動物を発見し、名づけていったものじゃよ」
「そうなの?」
「そうなのです。わたくしたち、フラウウインドに上陸したときは必ず、冒険の安全を祈り生命に感謝する神聖な儀式を行っていましたの。ご先祖のプルミーさんも、いつもしておられましたわ」
「うむ、儀式と言っても難しいものではない。声を合わせて叫ぶだけで良いのじゃ」
 プルミアの耳に、レラは秘密の言葉を囁いた。
「え、それ本当にやるの? どういう意味がっ?」
「山に登ったときにヤッホーとか叫ぶじゃろ。あれと近いものじゃ。あれもまた、登山の無事と安全を祈る言葉ゆえにのぅ」
 もちろんウソだが、すらすらと言葉が出た。
「さあ、それではご一緒に♪」
 ミヤコが呼びかける。
 三人、ここで声あわせ、緑の大地に向かって叫んだのである。
「フライドさーーん♪」
 と。
「ふおっ!? 後方より謎の声が聞こえたのう。あれはどういう意味じゃろう?」
 先行部隊のアイーシャは、既に竹林の奥深くに進んでいる。竹林の迷路は想像以上に厄介で、ともすれば道を見失いそうになるが、正確な地図を作製しつつ進んでいた。
「ああ、あれはきっと、かつて君臨したフライド王の偉業を称える声なのでしょう。『フライドさん』……その短い言葉に、深い敬愛の念を感じます」
 同じく先行部隊のシャリオが、振り返って答えている。
「それにしても入り組んだ竹林ですね。変竹林(ヘンチクリン)という名称は良いと思ったのは私だけでしょうか……?」
 ぽつりと呟くシャリオだった。
 そのシャリオのすぐ後を、黒髪の青年が歩いている。
「この竹は、ランドアースでは滅多に見られない種類の亜種だ。それがこの地ではこんなに繁茂している……これはすごいことだぞ」
 青年は黒い髪、碧眼。華奢な体つきで、歩きながら手にした図鑑と竹をしきりと見比べていた。彼の背嚢にも、同じような図鑑が数冊ぎっしりと詰まっている。
「動物図鑑に鳥類図鑑、菌類の図鑑も持ってきておいて良かった。くっ、それにしても、重い。だが知識のためならば……」
 ぶつぶつ独言している彼が、あのヴィクスの子孫とはにわかには信じられないだろう。彼は名をヴィルという。
 そのとき、アイーシャが頓狂な声を上げた。
「見よ、あの生物を! あれはこの大陸独自のノソリンか!?」
 声に驚いたのか、黄色くてノソリンに似た生物が、竹藪に飛び込んで姿をくらます。その際、リンリンと鈴が鳴るような音がした。
「追ってみましょう」
「待ってくれ、俺も……っ」
 ヴィルは走るが、アイーシャとシャリオには追いつけない。
「……皆、何であんなに元気なんだよ」
 途中で息が切れ、足を止めてぜえぜえと荒い息をするのだった。
 数十歩ほどむこうから二人の声が聞こえた。
「新動物とみて間違いなさそうですね」
「ならば名は、鈴みたいな音を出して歩くからスズリンとかどうじゃ?」
「なにっ、新動物と聞いてはじっとしていられないっ……!」
 たちまちヴィルは走り出す。たとえ姿は変わっても、百年が経過しても、かつてヴィクスがその胸に有していた冒険者魂は、着実に彼のなかにも宿っているのだった。

 風の噂で聞いただけだが、朱刃・アコナイト(a56329)はすぐに駆けつけていた。なぜって、かつてテラフォーミング獣を動かした冒険者集団に自分も加わっていたからだ。
「テラフォーミング完了……なぁん」
 噂は事実だった。感慨深げに見回してしまう。動かした当時は、自分の目で終了後のフラウウインドを見に来れるとは夢にも思わなかった。しかしこれは紛れもない現実、アコナイトは確かに、新生フラウウインドの地を踏んでいる。
 何かの間違いでわたしの像が建ってたりしないかなぁ……と、淡い期待も胸に秘め、アコナイトは竹林の探索を開始する。

 今回、冒険者はいくつもの小部隊に別れて探検を行っている。
 すべての部隊が快調……というわけでもない。この部隊は出発早々、波乱の予感に包まれていた!
「探しましたよ♪ ティムさんっ☆」
「うわわっ、探さないで……ってこのやりとり前にやらなかった!?」
 アールコートはわくわくてかてかと、顔を輝かせティムを見守っている。
 ティムはアールコートに言葉を返す一方、進退窮まる我が身を悟っていた!
 思春期十二歳のティムは、レイニー、そして、ぶどう科・リルル(a52901)の両者に挟まれる格好となっている。百年続いた三角関係、その決着を付けてほしいとリルルは請うた。
「ねぇティムちゃん、結局ティムちゃんはリルとレイニーちゃん、どっちを選ぶの?」
 リルルは、その愛らしい瞳を、水面に浮かぶ月のように潤ませている。この百年、一途に、本当に一途に、ティムを追い続けてきたリルルである。
 ずっと好きだった。ティムの無邪気な笑顔、いたずらに隠した優しさ、本当は紳士なところ……そのすべてがリルルは好きだった。
「ぼ、僕は……」
 ティムはしきりと汗を拭く。この百年、時に遠回しに時にストレートに、レイニーの気を惹こうとしてきたティムである。
 ずっと好きだった。レイニーの傍若無人なところ、わがままかつ目立ちたがり屋のところ、急に発揮される凶暴性、そのすべてが……あれ? 良いところ無いような……でも、すべてが好きだった。
「なんじゃ、選ぶとかなんとか? わ、妾は選ばれる側ではのうて選ぶ側じゃ!」
 レイニーは、ふん、とティムに背を向けた。現在のレイニーは十二歳の外見、あの頃より背が伸び、ずっと女らしくなっている。この百年、レイニーはいいようにティムを下僕扱いし、楽しい毎日を送っていた。以上、終わり――――で、ないところが男女関係の妙。
(「困った。妾がこんな奴のことを好きだなんて……死んでも言えんぞ」)
 情けない目で必死についてくるティム、見え見えのアプローチをしようとしては空回りするティム、そんな彼のことが、レイニーは気になるようになっていたのだ。いや、もうここ数年は、ベタ惚れだったと白状しよう! リルルという明確なライバルの存在が、ますますその気持ちを炎上させていたのも事実だ。
 でも今さら素直になんてなれない。大きく深呼吸して、レイニーは高圧的に告げる。
「リルルよ、そんなちっぽけな男、欲しかったらさっさと持ってゆけい!」
 ところがティムは、レイニーの言葉の真意に気づく。伊達に百年、一緒にいたわけではない。
(「ああ、どうしよう……レイニーがああ言っているってのは、『実はお前が好きじゃコンチクショウ』って意味だよね? さすがに付き合い長いからわかるよ。でも、ずっと追ってくれた健気なリルルにだって、僕、だんだん心が動いてきたし……」)
 ぽんぴーん。
 ティムは、ひらめいた。
「……僕、一生懸命働くからさ。どっちも僕のお嫁さんってんじゃ、ダメ?」
 するとリルルはたちまち、目に涙をあふれさせたのだった。
(「ティムちゃん、それは、無理だよ。……リル……リルだけのティムちゃんでないと……我慢できない……」)
 その真意は告げず、リルルは涙声で言う。
「ティムちゃん、リルルを傷つけないようにそう言ってくれたんだね……わかってるよ。ほんとうはティムちゃん、レイニーちゃんを選びたいんだよね……。百年間、ずっと優しくしてくれてありがとう。だから『ダメ』って言うよ」
 さよなら、と言い残し、リルルは振り返らずに走り去ってしまった。
「いや、そういうわけじゃなくて……あーっ」
 しかしこれも一つの解決だろう。ティムは、レイニーの肩に手を触れた。
「こうなったから言うわけじゃないんだけど……好きだよ、レイニー」
「き、気易く触るでないわーっ!」
 だがレイニーは、くわわと目を見開くやいなや、大剣の一撃をティムの頭に叩き込んだのである。
「そんな安っぽい言い方があるか、このたわけ者っ! 妾と結婚したければこの竹林で、妾に見合う財宝を見つけて、それを捧げつつ全身全霊で請い願うのじゃ! さもなくばお預けとする! わかったらさっさと探してくるのじゃー!」
 きゅう、と地面にめり込みながらも、
「え……結婚?」
 とティムはつぶやくのである。なにこの超展開!?
「凄い、凄いです。思った以上に凄いものを見せてもらいましたっ」
 アールコートは無心に拍手し、ふと足元の筍に気づいてこれを引っこ抜く。
「おや、このタケノコ、柔らかで、このままでも食べられそうですよ? これを『財宝』ということにしてはどうでしょうティムさん? 名前は、『デザートタケノコ』とか☆」
 あ、私が見つけたんならレイニーさんの条件満たせないですね、と今さらながら気づいてアールコートは桃色の舌を出した。

 さて視点を戻して、プルミア、ミヤコ、レラの部隊を見よう。クライスも加わっている。
「うーん、プルミアさん、懐かしい服装ですねぇ。ご先祖様に負けない活躍を期待してますよー」
 かくいうクライス自身もまた懐かしい装束……すなわち、騎士としての姿をとっていた。
「あなたも、ご先祖様を知っているのね?」
 プルミアが怪訝な顔をした。
「ええ、そうです」
「なら、この恥ずかしい服装を、初代プルミエールはどう思っていたか教えて」
「気に入っていました。とてもね」
「ウソーっ!」
「ウソじゃないですよ。その服装は動きやすくまた戦いやすい機能的な服装なのです……多分」
 まだ半信半疑気味のプルミアから、上手く視線を逃すクライスだった。
 そのとき、後ろから追ってくる人影があった。
「なあ、うち一人やねん。ここのグループ入れてもらってええ?」
「構わないけど、あなたは?」
「うち? アスっていうねん」
 と、顔を見せたアスは、プルミアを見てにっこりと笑った。
「お〜、プルミアって、若い頃のプルミーそっくりやねんな。時の経つのって本当に早いな〜」
 ちなみにアスは、柔らかいタケノコをぽりぽり食べながら歩いている。
「これ結構いけるで。なんかな、若い竹の根元を掘ってみたら植わってるみたいや」
「面白そう。ちょっと掘ってみるわ」
 とプルミアが屈んだその頭の上に、ぽとりと蛇が落ちてきた。
「ひゃあーーっ! なにこれ、なに! 取って! 取って!」
「落ち着いて下さいまし。無害な蛇ですわ」
 ミヤコが声をかけるも、
「ヘビーっ! 蛇に無害も有害もないわっ! 取って! いやあああー!」
「なるほど、蛇がプルミアの弱点なのじゃな……と、感心している場合ではないか」
 杖をのばしてレラが蛇を取りのけた。蛇にとっても落ちたのは意外なことだったらしい。蛇は杖を伝って竹に戻ると、するするとその上に登っていく。
「竹上生活する蛇、かぁ……ほな、バンブー・スネークって名前はどうやろ?」
 人差し指立ててアスは提案した。しかしそんなことはおかまいない様子で、
「新種動物でも蛇は蛇っ、退治するわ!」
 と、刃を閃かしてプルミアが、竹を揺さぶって蛇を落とそうとしている。相当蛇が嫌いらしい。
「こらこらプルミアさん、むやみやたらと退治しちゃダメですよ」
 そのとき、どこか見たことのあるような戦士が飛び出して、プルミアの腕をつかんだ。
「ロベリア?」
「来るのが遅くなったら案の定この騒ぎ……。さっそく大暴れしてますねプルミアさん、無害な動物をいじめたらだめ、って、霊査士のアンナさんも言っていたでしょう?」
「だって……ロベリア……」
 ロベリアという女性に、プルミアは頭が上がらないらしい。やがて、しゅんとなって腕を下ろした。ロベリアは彼女にとって、剣の師匠であるという。
「あの……あなた、本当にロベリアさんとおっしゃいますの? もしかして……」
 ミヤコはその人を、何度か見たことがあった。名前も知っている。
「いえ、私はロベリアです。その方とは多分別人ですよ」
 ライトグリーンのヴァルキリードレス、アクセントはオレンジのリボン、銀色の髪をした彼女は、かつてルビナスと呼ばれていた人物に、あまりにも似ているのだった。
(「亡くなったプーミンさんと約束しましたからね、『子孫に何かあったときは助ける』って」)
 真実のところ『ロベリア』は偽名であり、彼女はルビナス本人なのである。今のところ約束は果たしているが、やたらとピンチに首を突っ込みたがるプルミアには、少々手を焼いているのも事実だ。
(「でも約束、きっと果たすからね」)
 天国のプルミエールに、ルビナスは誓っている。

 こちらは、ユウキとフェイトのいる隊だ。
 集合地点に現れた老人が、ユウキに向かって片手を挙げた。
「どうした少年? 初めて会ったような顔をしているが」
「その口調、そして服装……あなたは、まさか!?」
「そのまさかだ。久しいな」
 ディーンだった。彼は服装こそ同じではあるが、遅いペースながら年を重ね、現在、通常の状態でいう七十歳前後となっていたのだ。皺も増えているとはいえ、竹の如く背筋は伸び、サングラスの奥に光る眼差しの鋭さも変わっていない。
「老いてますます盛ん、といったところかな?」
 彼に付き従ったソニアがにこりと笑う。ソニアはまるで年を取っていないため、ディーンの老化だけが目立っていた。しかし、技量も精神も、彼は一切老け込んではいない。
「それにしても、竹林っていうより竹森(ちくしん)だよね、これ?」
 というソニアの喩えに、からからと笑って、
「なかなか上手いことを言う。さて、ではその竹森に潜るとするか」
 先頭をきって歩き出したのである。

 真っ赤な髪のヒトノソリンが、ざっくざくと竹林を切り拓いていく。
「竹が邪魔ならぶった斬って進めばいいなぁ〜ん」
 巨大斧を振り回すたび、すっぱりと道が生まれていった。
 豪快痛快、その姿は曾祖父譲りだ。彼の名はバキバキ、あのバリバリの曾孫となる。
 といっても、切り拓くばかりがこの探索行の目的ではない。
 居住に適した環境か調べるという目的もあった。ゆえに、ここで一泊できるか調査するメンバーがいてもおかしくはない。いわば旅行だ。なにが出るかわからぬ土地ゆえ、ミステリー・ツアーと呼んでもいいだろう。
 そのミステリー・ツアーを行うカップルが、一組。
「このあたりで……お弁当に……しませんか」
 竹林のひらけた一帯に腰を下ろし、スズは持参のバスケットを開けた。
「ああ、そうしよう。森林浴ならぬ竹林浴か、青竹のいい香がする」
 敷物を拡げてクロノは腰を下ろした。
「こんな……デート気分で……いいのでしょうか……」
「構わない。これも立派な調査だ。さあ、つぎはそのバスケットの中身を調査するとしようか」

 息を潜め、ルーシェンは同じ部隊の仲間たちに告げる。
「おや、なにかいますよ……?」
 ルーシェンは、百年経っても変わらない。肌は白磁の艶やかさで、睫毛は少女のように長いままだ。むしろその可憐さは、時間と共に増したようにすら見うけられる。
「どれどれ……なにか一生懸命に食べてるな。筍か……」
 ゼファードもこれを観察して興味深げな声を上げた。彼もまた、同窓会の夜より同じ姿のままだ。赤い鱗は一枚とて落ちず、目元に寄った思慮の皺、その一本とてあの日から増減していない。
 さすが新大陸、とゼファードは思う。
(「色々と珍しい動物がいるものだぜ。そういえば久しぶりだな、全く未知の領域を探索するのも。空の果てまで行ってきたとき以来になるのか」)
 動物は、手鞠ほどの大きさがあった。もふもふした毛に覆われており、つぶらな瞳をしている。強いて言えば狸に似たカラーリングだ。長い尻尾を胴に巻き付けていた。
「危険はないみたいだが、もう少し近づいてみるか?」
 とゼファードが言ったとき、反射的にシュニー2世(セカンド)が佩剣に手をかけた。
「よーし! だいじょーぶ! 私に任せて!」
「おいおい、戦うわけじゃねえんだぞ」
 しかしそれをゼファードが止めた。正直、危なっかしいと彼は感じている。
 シュニー2世、やんちゃなセイレーン女子である。彼女はネーヴェの直系の子孫にあたる。大きな瞳が鏡のように光っていた。代々伝わってきた聖剣『オートクレール』を先日母親から継承したそうで、使いたくて仕方ないようだ。
「でもー」
 十六歳にしてはあどけない顔で、シュニーは剣の柄をぐっと握っている。
「流血沙汰はなしにしましょう。あの動物、無害に見えますから」
 ルーシェンは、シュニーの先祖であるネーヴェを知っている。思慮深いネーヴェと違い、彼女は血気にはやるところがあるようだ。しかし、
「なら、道を作るね」
 言うなり、シュニーは剣を閃かせたのだ。居合い――抜かれたと同時に、剣は鞘に収まっている。音もなく竹が両断されていた。切れた竹を、しかとシュニーは握っていた。
「これで通りやすくなったでしょ?」
「やるな嬢ちゃん、気に入ったぜ」
 ところが若さゆえか、ゼファードに褒められて、少女は詰めの甘いところを露呈した。
「えへへ? そう?」
 誇らしげな顔をして剣を、パチンと音を立てて鞘にしまったのだ。抜くときも切るときも無音だっただけに、その冷たい音は高く竹林に反響した。同時に、周囲の竹もバラバラと崩れ落ちる。
「あれ……ちょっとやりすぎた?」
 これを聞くなり、動物はびくっとして、筍を放り投げ逃げ出そうとした。
「こういうときは、慌てず奥の手、ですよ」
 しかしルーシェン落ち着いた様子で、よく熟れたメロンを手に進み出た。
「いかがですか? 甘いもの、好きなら嬉しいのですが」
 動物は、くんくんと鼻を鳴らして、ルーシェンの渡したメロンを見る。彼がこれを転がして渡すと、おっかなびっくり口にした。しかしすぐに気に入ったのか、その場を動かず食べ始めた。
「これで、ゆっくり観察できそうです。やはり新種動物ですね。どうでしょう、名前を付けてみませんか?」
「じゃあ、ルーシェンさん考えてー」
「そうだな、殊勲賞はルーシェンだ。頼むぜ」
 ルーシェンは照れくさそうに告げた。
「でしたらたとえば、『タケタテカケタ』とか……私のネーミングセンスに期待しないでください」

 今日は姉妹にとって、久々の再会になった。
 リリムとアンジェリカは、道すがら互いの近況を報告しあう。
「ァ、アンジェちゃん、た、旅は順調……?」
「うん、楽しくやってるよ〜♪ お姉ちゃんこそ、家庭のほうは?」
「こ、子どもたちは……元気よ」
 リリムは思い返す。同窓会以後の人生を。
 二十年ほど前、大恋愛の末、リリムはついに結婚を果たしたのだ。子も得て、冒険者からは半ば引退することになったのである。同時にそれは、旅を続けるアンジェリカとの別れをも意味していた。
 でも、この選択をリリムは後悔していない。はじめて我が子を抱いたときの感激は、どんな言葉でも言い尽くせないほどだった。子どもたちはいずれもエンジェル、ゆっくりすこやかに育っている。
「こ、子どもたちはあの人に任せてきたけど、こ、今度は家族で来られると良いなぁ……あれ?」
 はたとリリムは立ち止まる。すぐ横にいたはずの、アンジェリカの姿がない。
「ぁ、あぅう……」
 心細くて涙が出てきそうになった、そのとき、
「そこにいるのはリリムさんだよねー♪」
 嬉しい顔に遭遇する。フローリア学園の学友、アリアだった。
「……ァ、アリアさんも、げ、元気そうで」
 アリアは、大亀によく似た動物の背にまたがっている。亀は普通の亀ではなく、背中にヒョウタンのような出っ張りを生やしていた。アリアはこれに掴まって歩んでいたのだ。
「どうしたの、泣きそうな顔してたけど」
「ぃ、妹の、ァ、アンジェちゃんと、は、はぐれちゃって……」
「そう? でもきっと近くにいるよ。ね、この亀に乗らない? 一緒に冒険しよう!」
 久々の冒険に、アリアは胸のドキドキを感じている。すぐにリリムも笑顔を取り戻していた。
 それから何分もしないうちに、二人はまた、懐かしい人物に遭遇していた。
「ふむ、竹林のこの一帯は、どうも一定時間毎に内部構造が変化するようだな……何とも不思議なことだ……」
 と、腕組してうなっているのはレティリウスではないか。振り返って笑みを浮かべる。
「おお、二人とも、再会できて嬉しい。一人で先行したはいいが、いささか難渋していたのだ。罠のようなものがほうぼうに仕掛けられているようでな」
「罠? おっと!」
 アリアは身をすくめ、しなった竹が顔を打とうとするのを回避した。
「お見事。どうもな、小さなウサギのような動物が先々に回って、悪戯程度のトラップを仕掛けているようのだだ」
「ぁ、あのウサギさんが、そ、そうですか? ち、ちらっと見えました」
「そのようだ。また罠を作っているな」
 レティリウスは苦笑した。視界の隅にちらちら動いていた野ウサギが、小さな手で一生懸命竹製の罠を設置している。あんな小動物のしわざなら、怒るに怒れないではないか。
「あやつは『トリックバニー』とでも呼ぶとするか。そちらの亀は?」
「紹介するよ。新しい仲間……というのは冗談だけど、とっても大人しい亀なんだ。このヒョウタンに体重をかけると、その方向に歩いてくれるよ。『ヒョウタンガメ』とでも呼べばいいのかな?」
「そ、それでは参りましょう」
「ああ、フローリア学園の仲間が、三人もいれば心強い」
 迷路状の竹林だが、レティリウスがほぼ地図を完成させていたので脱出は用意だった。例のトリックバニーがなんとなく名残惜しそうに追ってきたものの、彼らがある程度進むと、そこで引き返していった。

 一方、アンジェリカは姉を捜して竹林を歩んでいる。
「もう、お姉ちゃんったら変わらないんだから〜♪ どこ行ったのかな〜?」
 あれぇ、とそこで足を止める。
「エルスちゃん?」
 物陰に潜み、じっとしている少年を見かけたのだ。エルスと見間違えたのも仕方がないだろう。少年は在りし日のエルスを忍ばせる面影をしていた。
「お前は誰だ!」
 少年は弾かれたように飛びだし、背中から大斧を取る。エルスに似てはいるが、本人ならずっと昔に天寿を全うしたはずだ。ならば彼は、エルスとプルミーの血を受け継いだ子孫なのだろう。髪はツンツンに立てており、剥き出しの腕にドクロのシールをしている。十五、六歳かと思われた。
「俺はラック、エルスというのは先祖の名前だ。それを知るということは……お前、見た目より婆さんだな」
「あはは、婆さんねぇ〜♪ でもたしかに、エルスちゃん、プルミーちゃんとは大の友達だったよ〜。私、アンジェリカ、よろしくね〜♪ こんなところで何してるの〜?」
 口は悪いが、割合に素直にラックは言う。
「何って……我が生涯のライバル、従姉のプルミアを待ち伏せしているんだぜ。この新天地で叩きのめしてやる!」
「なるほど、いとこさんなんだね〜♪ あっ、来たみたいだよ」
 ちょうどそこに、竹をかきわけてプルミア一行が到着した。
「プルミア! 今日こそ決着を付ける!」
 ラックが駆け出すと、
「決着って、いつも私が勝ってるじゃない! この小僧!」
 プルミアも、武器を払って応戦の構えをとった。
「お待ちなさい!」
 ルビナスが一喝する。
「プルミア、ラック、いつも言っているでしょう。戦うんなら、平和的な手段で、って」
「う……」
「ロベリアもいたのか……」
 プルミアもラックも争うのをやめた。『ロベリア』ことルビナスは、プルミアのみならずラックにとっても師匠格なのである。
「さっすが、ルビナ……じゃなくて、確か今はロベリアちゃん……♪」
 アンジェリカは手を叩く。
 かくてプルミアとラックは、『新種動物をどちらが多く見つけられるか』という競争をすることになったのである。

 漆黒の黄金忍者・ケンハ(a29915)、彼は世界に平和が戻った後、東方流格闘術の規模拡大に尽力した。道場を開き、多数の弟子を教育したという。ケンハ自身は天寿を全うし、安らかにこの世を去ったものの『ケンハ・センオウ』という名は、その後も代々受け継がれることになる。
 すなわち、東方流格闘術、その師範を継ぐ者が、その名と、ケンハのトレードマークだった彼の金色した忍装束を引き受けることになったのだ。
 ここに紹介しよう、三代目『ケンハ・センオウ』を。
 学ラン、学帽、鉄下駄、熱血番長風たたずまい。なんとこれが普段着だ。三代目ケンハは、忍び装束は式典のときしか纏わない。
「わしがマスター番長・ガナッシュ・ラン……、じゃないケンハ・センオウじゃ!」
 しかもこのケンハは、なんと女性であった。されど『漢』と書いて『おとこ』と読むバンカラっぷりだ。また、彼女は豪快な性格ながら、動物を愛する優しい心もあった。
「ふーむ、あの動物……小さくした人間みたいな姿じゃのう。片手にドリルがついているのはなんのためかのう……」
 今もケンハは、自身『カオラ2』と名づけた小動物を、しゃがみこんで観察しているのだ。
 そのとき、
「バッキーン! 道を拓くなぁ〜ん!」
 真っ赤な髪に特攻服、バリバリの子孫バキバキが騒々しくその眼前に出現した。しかも竹を薙ぎ倒して、である。驚いた拍子に動物は、穴を掘ってそこに飛び込んでしまった。
「なるほど、驚くとこうやって地下に隠れるためのドリルか……などと言っている場合かっ! なにさらすんじゃコラア!! 動物が逃げてもうたわっ!!」
 ギラリ、立ち上がってケンハは相手を睨む。
「コラァ、って俺に言ったなぁ〜んか?」
 ギラリ、しかしバキバキも睨み返す。
 ビキビキビキッッ! 青筋が浮かぶ音だ。たちまち眼(ガン)のくれあいに発展した。
 番長とヤンキー、ともに『漢』なれど、決定的に相容れないものがそこにある。

 銀髪に紫の瞳、くりっとした目の、可愛らしいストライダーの少女がいる。
 彼女はチョコ、といっても、かつて存在したチョコではなく、その名を受け継ぐ五代目のチョコだった。好奇心の強さは先祖譲り、いまも一人で、竹林の奥へ奥へと進んでいる。ちなみに装備は、初代チョコのものをそっくりそのまま継承していた。
「初代の戦闘服ってかわったかたちしてるんだよね〜」
 と言いながらも、結構気に入っているチョコである。そのとき、ぴん、と音が聞こえた。
「わっと!? なにこれ!?」
 反射的に彼女は、足をすくう罠を飛び越えている。身のこなしはさ、さすがトモヤと初代チョコの血を引くだけある。反射的に危険を回避したのだ。
 くるんと白い彼女の尻尾は、毛先だけ桃色になっていた。これをぴこぴこと左右に動かし、チョコは周囲を油断無くうかがった。
「どうもなにかいるなぁ……悪戯ッ子は誰かな〜」
 視界の隅に小さなウサギを見つけ、チョコはこれを追う。
「キミだな〜、転ばそうとしたのは〜」
 レティリウスが『トリックバニー』と呼んでいた動物だ。チョコは笑顔で追いかけていく。
 チョコがうろうろしている地点から数十歩ほど離れた場所。ここでは、ヤシロが単身、竹の世界を探索していた。
 ヤシロの姉、ユヅキが亡くなって、もう随分年月が過ぎている。ユヅキの葬儀以後は、しばし泣き続ける日々が続いたものだが、姉の幸せな生涯を思い、ヤシロはもう、悲しむのはやめることにした。ユヅキはユヅキにとって最良の選択をしたのだし、満足して逝ったのだから、自分も同窓会の夜に語ったように、心ゆくまで『この世界がどうなっていくのか』を見ていくべきだろう。それは姉を安心させることにもなると、ヤシロは思っている。
「また変な鳥見っけ〜」
 ヤシロは次々と新発見をしていた。見たこともない果実、聞いたこともない鳥を発見しては、しきりとメモを取っている。
「新大陸って本当、不思議だな〜。でも、いかにも『竹林』って感じの生き物とか植物があればもっといいのに」
 歩むにつれてだんだん日が差さなくなってきた。竹の茂る密度が上がってきたのだ。薄気味悪いといえないこともないが、ヤシロは構わず、ずんずんと進んでいく。なんとなく、面白いものがありそうな予感がしたのだ。
 そして予感は……的中した。
「おとぎ話みたい……? いやいや、これがおとぎ話のモデルになったとか!?」
 夜のように暗い竹林のなか、ヤシロは一本だけ、節の一部が眩く光る竹を見つけたのだ。
 中に何か入っているわけでもないのが残念(?)ではあるものの、大発見には違いない。
「面白いな〜、これ、名前の候補は『月光竹』、なんてのはどうかな?」

 サキトが生命の書を使わなかったのは前章に記した通りだ。
 それを即断したときの理由はふるっている。彼はたった一言、
「あの主人に数万年も仕える? 何の罰ゲームだそれは」
 と述べたという。
 だがサキトが没したとしても、一族代々アリシアに使えるという約定は果たされていた。
 そう、同窓会のとき彼が連れていた赤子――いまや立派に成長したカグヤによって。
「はじめまして〜、カグヤと申します〜」
 と、サキトの跡を継いだカグヤが出仕してきた日、その姿はサキトほど厳しく思えず、アリシアは内心(「これから楽ちんになりそうですわね」)とニヤリとしたものだ。外見年齢は二十歳、サキトにあまり似ずおっとりした顔つき、簡単に騙せそうに見えた。
 ところが、楽ちんなんてとんでもない! むしろ正反対だった。サキト存命中と何ら変わらず、アリシアは忙しい日々を背負うことになったのである。
「父伝来のウレタンブレード!」
「ごはっ!」
 後頭部をフルスイングされ、アリシアは竹藪に顔面から突っ込んでいた。
「カ、カグヤ! いくらなんでも予告なく殴るものではありませんわ!」
 這い出てきて告げるものの、カグヤは容赦がない。
「いいえ、亡き父さまにはくれぐれも言われておりますもの〜」
 満面の笑顔でカグヤは言うのである。
「家宰を勤めるつもりなら、アリシア叔母さまの暴走を実力で止められるようになれ、と」
「実力行使のタイミングが早過ぎますわっ!」
 一事が万事この調子だ。容赦のなさは父親譲りもいいところ、いや、いきなり手が出る分、サキトよりも厳しいかもしれない。
 ちなみに今回殴られたのは、野生動物に驚いたアリシアが、反射的にヴォイドスクラッチを使おうとしたことに理由がある。
「動物にいきなり攻撃するな、と霊査士のアンナさまにも言われておりましたでしょう?」
「たしかにそうでしたけども……」
 後頭部をさすりつつ、自分を驚かせた動物をアリシアは観察する。
「あら、よく見れば可愛らしい動物でしたのね?」
 猫そっくりの動物である。黄色と黒の縞模様、もしかして本当にただの猫だろうか。
 撫でようと手を出して、
「きゃあっ!」
 いきなり前脚で引っかかれそうになり、アリシアは尻餅をつく。
「い、一度ならず二度までも……わたくしを驚かすとはいい度胸ですわ!」
 ヴォイドスクラッチの体勢に入った彼女を、
「ウレタンブレードアゲイン!」
 再びカグヤがカッ飛ばす! なんという実力行使!
「痛たた……どうやらこれは、猫サイズの虎のようですわね……言わば『リンクスタイガー』ってところかしら?」
 竹藪から這い出しつつ、アリシアは呟いた。見た目可愛くてその実は獰猛……まるでカグヤのことみたいだ。

 ミネルバは冒険者に復帰し、探索行に従事している。
 彼女が九十年前宣言した『仕事』は、手応えがあったものの、まだ一部でしか実現していない。だが、可能であることだけは判った。これからもっと発展させていきたいとミネルバは思っている。
 それはそうとして現在、彼女はみだらな触手生物に襲われているのであった!
「きゃああ……と、言ってみたいところだけど、これじゃあ、ねえ」
 手のひらより少々大きい程度の、網みたいな触手生物にすぎなかった。その触手も全部ひょろひょろ、毒もないし力も弱くて、とてもではないがミネルバを絡め取るにはいたらない。
「お約束を実現するのも、難しいものね……」
 ミネルバはふっと笑うと、ぺり、と生物を引っぺがす。
 生物は簡単に外れた。

 さてバキバキとケンハ、その対決はどうなったかというと。
「て、てめぇ、やるじゃねぇか……」
「てめぇこそ、なぁ〜ん……」
 思う存分殴り合った二人はともに力尽きて、地面に大の字になって寝そべっていた。武器無し、素手にて全力でやり合った。ゆえに二人とも、顔中青アザですごい面相になっている。ちなみに最後は、クロスカウンターの格好となって両者ノックアウトに至ったのだった。
「てめぇ、名前、聞かせてみぃ……」
「バキバキなぁ〜ん……てめぇこそ何ていうなぁ〜ん」
「俺はケンハ、三代目ケンハ・センオウじゃ」
「女のくせに強くて気に入ったなぁ〜ん。あとで飯でも食いに行くかなぁ〜ん」
「ええじゃろ、今度はどっちが大食らいか勝負だ」
 ケンハ、バキバキ、ともにガハハと笑う。不思議な友情が生まれていた。

 朱華・オーム(a74565)の末期は、縁ある仲間たちに見守られる穏やかなものであった。危篤の知らせを聞いて、霊査士を含む多数の冒険者がその枕元に集まったのだ。
「楽しかったね」
 と、ティムの手を握ったままオームは、微かな笑みを浮かべながら事切れた。何十年か昔のことだけど、ティムはその瞬間をよく覚えている。オーム本人が認める満足な生涯だったのだから、泣いてはいけないとわかってはいたものの、ティムは少し、泣いた。
「えっと、財宝財宝〜」
 現在、レイニーに急かされて財宝を捜しながら、ふとティムはそのことを思い出した。同時に、ずっと感じていた違和感の正体も判明する。
「そうだよ。僕が探すなら、『財宝』なんていう白々しい言い方より、『OTAKARA』のほうがずっといい!」
 なので、
「OTAKARA、OTAKARA〜♪」
 と言いながら探っていると、
「OTAKARA、だって!」
 どこかで聞いたような声がした。竹林をかきわけ現れたのは、ソルレオンの少年だ。
「ただの『お宝』じゃなくて『OTAKARA』と、明白に発音されては聞き逃せないな。もしかしてキミは、僕の先祖を知っている人かい?」
「先祖って……あっ! つまり、オームの子孫っ!? 僕、ティムっていうんだよ」
 ティムは少年の眼差しに見覚えがあった。少年らしい風貌で、ティムと旅をしていたころのオームの半分以下の年齢のようだが、彼を偲ばせる要素は存分にある。
 その返事を聞くなり、ソルレオンの少年は感極まってティムの足元にひれ伏した。
「お会いできて光栄です!」
 少年は、尊敬の眼差しでティムを見上げている。
「何度も聞いたお話の登場人物……『レイニー様の下僕ティム』さんとお目にかかれるとは!」
「どんな二つ名だよう、それ。まあ、事実だけど……ところで、僕に敬語は使わなくて良いよ」
「え? じゃ、じゃあ普通に話すね。僕はリグ、トレジャーハンター見習いの吟遊詩人なんだ」
「トレジャーハンターだって! じゃあ、OTAKARA捜しは得意なんだよねっ? 僕、いま、どうしてもOTAKARAを探しださなきゃならないんだ!」
「レイニー様の命令で、だね?」
「そうその通りっ。しかも……そのレイニーとの結婚がかかってるんだよー!」
「えーっ!」
 というわけで二人、肩を並べて竹林の奥へと向かう。
「噂の域を出ないけど、『宝石を全身に散りばめたような動物』が竹林にいるようだよ」
「おー、いいねいいね、それ行こう、それ!」
 見つかるかOTAKARA!? できるのか結婚!? リグとティムは竹林に挑む!

 ネレッセは独り、生物のスケッチを行っていた。
 フラウウインドの竹林にも、美しい花は多数見られた。その花弁のひとつひとつ、細部に至るまで、緻密にスケッチブックに描き写す。
「花の命は短いけれど」
 ふとそんな言葉が口をついて出ている。
 花は咲き、そして散るのが定めだ。
 伝説の英雄とて、不老種族ばかりではないのだ。生命の書を使わなかった者も少なくない。そのことごとくが天に召された現在、ネレッセは去りし人々を回想していた。
「世代交代は早いものですねぇ……」
 今日、プルミエールに酷似した子孫を見たせいもあって、ネレッセの思いは彼女の葬儀の日に飛んだ。そういえばあの日も、今日のように空の青い、新緑あふれる春だった。
 静かに涙が、流れた。
 同窓会の夜、片腕に瑕があったネレッセだが、今では両腕の至るところが消えぬ擦過傷に覆われている。そのためこのところでは、袖のない服を着ることは少ない。

 エクセル本人は不老を選んだゆえ健在ではあるが、夫に先立たれて以来、意気阻喪の日々が続いているという。代理として本日は、娘のエクセレンがフラウウインド探索に参加していた。そう、同窓会の夜に赤子だった娘だ。不老を選び、彼女も二十歳で年齢を固定させている。
「せっかくだから、と、母がフラウウインド探索の折に着たという衣装を仕立て直してみたのですが……なぜ、親子なのにこの差が」
 エクセレン言うところの『差』とは、主に胸の部分の余裕である。はっきりいって、ぶかぶかだ。顔は母親譲りの美貌、ブロンドの髪をショートに切りそろえている以外は、エクセルによく似た彼女なのに、なぜに体型だけは似なかったのか。運命の悪戯としか言いようがない。
 そんな彼女の眼前を、ころころと生首が転がっていく。しかもただの生首にあらず、パンダの生首である。その大きさは握り拳に満たない。
「白黒の熊……パンダ?」
 目を丸くしてその背を見送っていると、プルミエールそっくりの娘が飛び出してきた。
「そこの、妙にぶかぶかの服着た人!」
 プルミアである。
「ぶ……ぶかぶかじゃないです! 元着ていた人が大きすぎるんです!」
「じゃあ、元着ていた人と体型が一致しない人! パンダみたいな首が転がっていかなかった?」
「いちいちなんか傷つく言い方……っ! それで、首がどうかしたんですか」
「新種の動物を見つけたのよ。つかまえて確認しないとラックに証明できないのっ! どっち行ったか教えてっ!」
「ええと……あっちですかね」
「ありがとっ」
 プルミアはそちらに走り出そうとして、振り返ってエクセレンに言った。
「何してんの! あなたも一緒に追うのよ! ええと……」
「エクセレンです、エクセルの娘エクセレン」
「そう。私はプルミア。じゃあ行くわよエクセレンっ!」

 モイモイの娘メイメイは今年十歳……いや、ずっと年齢固定でこのまま十歳。
 だからもう何十年も、父母をてこずらせるわんぱく盛りだ。
 今日だって、竹林から飛び出した最も背の高い竹によじ登り、大声で宣言している。
「この竹林はボクたちが乗っ取ったなぁ〜ん!」
「その心意気は褒めたいけれど、危ないから降りてくるのですよー」
 父親が下から、心配そうな声で呼びかけてくる。
「暗黒妖術師領とするのなぁ〜ん!」

 その頃ユウキたちは、新種の熊を発見していた。
「うーん、あれ、笹食べてる熊だけど真っ黒でパンダじゃなさそうだね。とりあえず『笹喰熊(さくくま)』って名付けておくか」
 ソニアが告げる。
「ですよね。パンダといえば、もっとこう、ツートンカラーで色分けされているというか……」
 うなずくフェイトの眼前を、小さな首がころっころっと転がっていく。
「ちょうど、ああいう感じですよね……え、生首?」
 目を丸くするフェイトのところに、プルミア、エクセレンが駆けつける。
「あっ、プルミアさん」
 ユウキが呼びかけると、
「……あなた、ユウキって名前だったっけ? 転がるパンダの首、見なかった!?」
 あっちの方角に行きました、とユウキが告げるや、二人はまっしぐらに追っていった。
「お久しぶりですの、ユウキさん」
 やや遅れて、ミヤコが姿を見せる。
「昔々、私たちがプルミーさんと見つけたローリングパンダという動物と、よく似ているけどずっと小さいのが見つかったのですわ。よければご一緒に追いません?」
「えっ、さっきの動物だったんですか? オモチャかと思いました」
 あっけにとられるユウキだが、ディーンの行動は迅い。
「さすがフラウウインド、新生後も不思議の大陸であることは不変、というわけだな。我らも追走に参加するとするか」
 言い残すやディーンは真っ先に駆け出した。慌ててユウキたちも彼に続く。
「ほぇー、フラウウインド大陸は、壱の剣探索隊で参加して以来です。なつかしーのです」
「えっ、フェイトさん、なにか言いました?」
 ユウキが横を向くと、フェイトがいたはずの地点を、青龍戟を手にしたベディヴィアが併走しているではないか。
「あっ、ベディヴィアさん!?」
「はわわ、フェイトさんは後ろですよ〜。僕もぱんだーを追っているのです。赤い色をしてて光っていたです〜」
 ベディヴィアだけではなかった。走るにつれ、次々と冒険者が合流する。いずれも口を揃えて、首だけのパンダを追っていると言っていた。ただ、大きさや形状は一致しているが、それぞれが主張する色が異なっているのが奇妙ではあった。
「ユウキさん、走りながらだけどこんにちは〜。首だけのパンダ、見なかった?」
 元気に声をかけてくるのは、変わらぬ若さのマナヤだ。
「最初は白黒だったのに、転がりながら青い光を出したんだよ。変なパンダだね?」
 射通す白羽・ミスティ(a72785)も別の色を主張した。
「パンダですよパンダ。カラフルパンダがいたのです。首だけなのに赤青黄色、色々に色を変えて」
 ミスティの発言により謎が解けた。つまり、色を変えることのできる首だけパンダなのだ。
 ところが、これで解決、と思いきや、ビュネルからまた謎の情報が伝わってくる。
「パンダなぁ〜ん、でも、豚さんなぁ〜ん。豚模様のパンダ、じゃなくて、パンダ模様の豚さんがいたなぁ〜ん」
 ほらあそこ、とビュネルが指さす方向を見れば、確かに白黒模様の豚がブーブー鳴いているのであった。(後に、『ピッグ』+『パンダ』で『ピンダ』と命名した)
 それはともかく今は首だけパンダだ、と、一行が辿り着いたその場所は、ぽっかり開いた広場であった。周辺の竹はいちだんと背が高く、ゆえにここは夕方のように薄暗い。
「……誰かいるわ!」
 足を止めたプルミアの眼前に、ヌラーっと巨躯の男が立ちふさがった。
 男は仁王立ち、しばし不動だったが、プルミアの姿を認めるや、ぴく、と動いた。
「敵かっ!?」
 ラックが斧を下ろす。さりげなくプルミアの身を守るように前に立っていた。
「ほぇ? な、なんですか〜?」
 ベディヴィアはたじろぎ、
「何者です!」
 エクセレンも巨大剣を振りかざす。
「おっきい人だね……パンダ……じゃないよね?」
 マナヤも献身アコーディオンを開きかけたが、ふとその手を止めた。
「でも、敵じゃなさそうだよ」
「ああ、そのようだ。『彼』には邪気がないからな」
 ディーンは槍を構えることすらなかった。
「ソニアはよく知っているはずだ、あの御仁を」
「あの御仁……って、あっ!」
 ソニアは目を輝かせていた。
 そのとき怪人物は、大股で光の下に姿を現したのである。
 破鐘のような声で、男は吼えるが如く告げた。
「フラウウインドのみなさ〜〜ん!!」
「うわ声、大きっ! って、その格好はー!!」
 プルミアが一番驚いていた。男は口の両側に手を当て、揃えた足でつま先立ちという様式美すら感じさせるポーズを決めている。
「プルミエールですよ〜〜!!」
 襟元が、ぴっちぴち弾け飛びそうなほどの筋肉質! 頭は丸刈り! 丸太のような腕と足!
 なのに男は、嗚呼、プルミエールの……つまり、現在のプルミアと同じ、桃色のミニスカートなのだ。当然、まったく嬉しくないパンチラ全開、いや、全壊っ!
「今年で百と二十三歳ですよ〜〜!!」
 プルミエールと名乗っているがもちろん嘘! 彼は僧、荒ぶる僧、正確には小坊主、伝説の荒ぶる小坊主! 信じられないくらい長生きしているが、生命の書を使わないままのヒト族!
 彼こそ、イッキュウ・ゼンジーその人であった!
「な、なにこの人……怖い」
 ぺたっ、とプルミアは尻餅ついて座り込んでしまう。その一方で、ユウキは駆け寄ってイッキュウの手を取った。ユウキは目に涙まで浮かべている。
「イ、イッキュウさん……本当に、本当にイッキュウさんですか!?」
「左様、本人ですぞ。ユウキちゃん……まぎれもない、わし自身です。安国寺名物『覇取琉撞武』の競技場をフラウウインドに造る為、わしも調査に加わる事にしました。仲間に加えて下され」
 しばし病と称して姿をくらませていたイッキュウだが、静養し英気を養っていたという。とはいえ実際、彼は凄まじい高齢だった。鍛えた筋肉はまだ形をとどめているが、肌は皺だらけ、あれほど威圧感のあった目も、皺の海に埋没してしまっている。足も小刻みに震えているではないか。
「さっきはプルミー殿にあわせサバを読みましたが、真実は、齢百と二十八ッッ! 立っていることがもう奇蹟ッッ! といったところです。でもそんなの関係ねぇ、ですぞ」
 この場所は、例の生首パンダの巣であったらしい。このとき頭上から、バラバラっ、と大量の首だけパンダが落ちてくる。スタンダードな白黒のみならず赤、橙、黄色、緑も青も、藍色も紫もいる。たしかにカラフルパンダだ。数もたくさんいるではないか。全部で三十はあろうか、いずれも、手に乗るサイズではあった。
「そのご老人、『立っているのが奇蹟』と言っていたが、謙遜もいいところだ。むしろその年齢を活かした武術の高みに到達しているようだな」
 声の主はシーズだった。彼は語りながら中央に歩を進めた。
「最小の動きで彼は、すべてのパンダをかわしていたぞ。食えない爺さんだ」
「とんちの勝ち、ということです」
 ニヤリ、とイッキュウが笑っていた。
 シーズはパンダを拾いあげて、自分の手に乗せる。
「さっきからここで調べていた。彼らは博物誌にあるローリングパンダによく似ているが、ずっと温厚な性格で、サイズもこれが最大のようだな。いわば『ニュー・ローリング・パンダ』といったところか」
 そのとき茂みの奥から、少女の独言が聞こえてくる。
「うぅ、もうどれくらいこの竹林にいるんだろー?」
 がさがさとかき分けていたところから、ぽん、と花が咲くようにしてアイリーンの顔がのぞいた。
「あ、ヒトはっけーん。……って、プルミーちゃん? ではないか」
 アイリーンはイッキュウを見て苦笑し、首を巡らせてプルミアを見つけた。
「今度こそプルミーちゃんはっけーん? え、また違うの? 子孫だって?」
 まぁ、ここで逢ったのも縁だし、と言いながら、アイリーンは竹の間から抜け出てくる。
「竹林の外まで連れてってー」
「でも」
 と、プルミアはアイリーンの背を指さした。
「そこ、出口だよ」
 実際、アイリーンが出てきた場所から向こうは、広々とした平原なのだった。ポールが二本立っており、その間に『踏破おめでとう』という横断幕がかかっているのも見えた。テーブルが並んでいる。しかもそこには様々な料理が並んでいる……慰労会の準備が進んでいるのだ。
「あ、本当だー。なんだ、自力で脱出していたのか−」
 まあそれもいいんじゃない、とラッキーガールのアイリーンは屈託のない笑みを見せるのである。

「おめでとうございます。お疲れ様っ」
 横断幕の下をくぐったプルミアに、黒髪の少女が手を差し伸べる。
「ありがとう。……あなたは?」
 プルミアは少女の手を握った。初めて会うはずなのに、とても懐かしい感じがする。
「誰だっけ、知っているような……」
 プルミアは重ねて述べた。
 黒目がちな瞳をした少女だ。漆黒のつややかな髪、白いブラウスの上に、品の良い黒いエプロンをしている。背は自分よりずっと低いし、年齢も自分とそう変わらぬように見えるが、聖女のような気品があった。
「私はテルミエール。今年は、世界が平和を樹立してから百年目……きっと始まる新しいはじまりに向けて、プルミーさんたちからの言葉を伝える為にきました」
「やっぱり聞いたことがあるわ……つまり、あなたは」
「ええ、プルミエールさんの、お友達」
 テルミエールは、プルミエール最後の日々を思い返していた。
 二十数年前、死期を悟ったプルミエールは、最後の盛大な花見を催した。エルスをその前年に亡くしたこともあって、彼女は随分老け込んでいたけれど、暗いところはなく、可愛らしいお婆ちゃんといった雰囲気だった。杖をつきながらとはいえ、きちんと自分の足で歩き、参加者の一人一人に挨拶をしていたのが忘れられない。数多くの子や孫、ひ孫に囲まれ、ずっと幸せそうな笑顔を浮かべていたのも印象的だった。その頃にはアイもアストも、いや、プルミーの知人で不老を選ばなかった者の多くは、安らかに天寿を全うしている。
「私の番がきましたね、テルミーさん」
 満開の桜の下、プルミエールは生涯の親友にそう呼びかけた。
「もうしばらくだけ、ここに滞在してもらえますか」
 最期を看取ってほしい、そう言外に告げているのがわかった。
 やがて、桜が散るよりもいくらか早く、プルミエール・ラヴィンスは眠るように息を引き取ったのである。最後まで彼女は、「ありがとう、ありがとう」と繰り返していた。
 テルミエールにとって、プルミエールの一族に会うのは、彼女の最後の言葉を書き記して以来のことだった。
 テルミーの前に、プルミア、ラックが集まる。テルミエールとともに準備をしていたアンナも、神妙な顔をしてその場に控えた。
「三人とも、それぞれご先祖さんたちの良いところを受け継いでいるようですね。でも、ご先祖さんたちはもっともっと凄かったわよ、みんな、これからも頑張ってね」
 テルミエールは、アストとアイが遺した言葉をアンナに授ける。『たとえ百度負けても、百と一度立ち上がればいい。辛いことがあっても挫けるな』というものだった。
 エルスの言葉も伝える。『何事も楽しんでやろうぜ』、完結ながら彼らしい言葉だ。
 そして、プルミエールの言葉を贈った。
「彼女は言いました。『あなたたちをずっと見守っています。ずっと愛しています』って……」
 言葉を詰まらせる。涙腺にこみ上げてくるものがあったが、これをこらえ、テルミーは微笑んだ。
「みんな、覚えておいてね、この言葉を……」
 三人は三人とも、伝えられた言葉を復唱するように顔を伏せた。
 テルミーは腰にエプロンを巻き直すと、「さあ」と呼びかける。
「厳粛な話はこれでおしまい、今日は慰労会の準備をしておきました。たくさん料理、作りましたからね。あの竹の花、食べられるの気づいていました? 花を使った料理もあるんですよ」
 かくて始まるは盛大な宴だ。この祝宴は、本日の慰労ばかりではなく、平和樹立百周年を祝うものでもあった。
「たけのこ美味しいなぁ〜んね。でね、ボク、かわいいパンダ模様の豚さんも見たなぁ〜ん」
 やわらかい筍をほおばり、ビュネルは笑顔を振りまいている。
 ミシャエラの姿もあった。しかしそのミシャエラは、かつてのミシャエラ本人ではない。名を継いだ子孫である。
「みんなはじめまして。霊査士のミシャエラよ。といってもまだ、霊査士の見習いだけどね。だからまだ、先輩のアンナさんの助手をしているだけなの」
 彼女は、両腕に霊査士の腕輪をはめているのだった。
「あ、私のご先祖様も冒険者だったのよ。だから、何だかみんなには親近感湧いちゃうな。さあ、今日の成果を聞かせてくれない? 誰から聞かせてくれるのかしら?」
 今日発見された動物の情報を、ミシャエラは熱心に集めるのだ。ゼファードたちから『タケタテカケタ』の情報を得、アスから『バンブー・スネーク』の話を聞く。アリシアとカグヤより『リンクスタイガー』について教えてもらう一方、ソニアとディーンの言う『笹喰熊(さくくま)』の想像図を描いてみたりした。アリアの『ヒョウタンガメ』、レティリウスの『トリックバニー』も興味深い発見である。また、抜いてすぐ食べられるあの筍は、アールコートの命名に従って『デザートタケノコ』を正式名称と定めた。
「かつてのローリングパンダに近いのですけれど、とっても友好的ですのー♪」
 手に乗せた藍色のパンダ頭を、ころころとミヤコは手に転がしていた。
「転がって逃げたように思えたのも、歓迎するために仲間を呼びに行っただけのようだな」
 シーズの手の上にも親子のパンダがいた。
「名前は『NRP(ニュー・ローリング・パンダ)』で頼む。ひねりがないかな?」
 これにとどまらずまだまだ沢山、数え切れない程の成果があるようだ。ミシャエラの用意した台帳は、冒険者のもたらした情報により、あっという間に埋め尽くされてしまう。
「ところで、この竹林の名称だけど……」
 ミシャエラは宣言する。
「賛成多数で『変竹林(ヘンチクリン)』に決定よ!」
 笑い声と歓声が沸き起こった。

 その会場隅の林檎の木から、するする下りてくる男が一人。
「あんまり早く着いたもんだからすっかり寝ちまったよ……ふぁ」
 欠伸かみ殺してラスは、「おや?」と身を隠した。誰かやってくる。
(「しまった! 隠れてどうするっ! これじゃまるで不審者じゃないか!」)
 とはいえ今さら飛び出せないので、木の陰から見ていると、それはプルミアとアンナの二人連れであった。
「プルミアちゃん、そんなに泣いちゃだめなの☆ ご先祖様たちだって、テルミエールさんだって、泣かせるつもりで言ったんじゃないんだから。ねっ? ねっ?」
「……でも、でもなんだか………泣けてきちゃって……このことバラしたら駄目だからね、とくにあのラックには」
「わかってるって♪ そろそろ泣きやもうよ。そうでないとあたしも、もらい泣きしちゃう……」
(「アイとプルミー……じゃなくて、子孫の方か。むぅ、二人とも可愛いじゃないか……」)
 不老継続中の現在のラスは、ありがたくないことに独身も継続中だった。
 ラスは困った。このまま隠れっぱなしでも不審者全開だし、かといって「ハロー、ガールズ♪」とか言ってしらじらしく出て行くのも第一印象が悪すぎる気がする。
(「ど、どうすりゃいいんだ〜!」)
 と頭をかきむしったその瞬間、ぱき、と小枝を踏んでしまった。
「誰かいるのー?」
 アンナが気づいた。舌足らずな口調が、アイそのままの顔にミスマッチしている。
 こうなったら――ラスは心を決めた。あの手しかない!
「クックック……見つかってしまったか。勘の良い嬢さんたちだ」
 含み笑いしながらゆっくりと、木の陰より姿を現す。これが一番自然なはず。でも、
(「あるぇ? 思いっきり悪役っぽくね、俺?」)
 という気がして仕方なかった。気のせいじゃないよ!
「あー、不審者発見、彼女たちに近づくんじゃな〜い」
 そのとき、スライディングキックでラスを排除する好青年があった。
「やあ、オレ、レナート。今来たところだよ。危なかったね、あれは盟友……じゃなくて、非モテ獣ラスといって、女の子と見ると声をかけようとする悲しいお化けなのさ」
「お化け!?」
「そうそう、だからアイちゃんもプルミーちゃんも……、でなくてアンナちゃんもプルミアちゃんも、あれを振り返っちゃいけないよー」
「はーい☆」
 言いながらレナートは、するりとアンナ、プルミアを両脇に抱くようにして、それぞれの肩に手を乗せる。アンナは素直なのでにこにこしているし、プルミアはさっきまで涙を流していたので、気恥ずかしさのあまり抵抗しなかった。
「……言うに事欠いて非モテ獣だとぉ……」
 地に伏せていたラスだが、がばと起き上がって三人を追う。
「レナート、おまえーっ! 妊娠中で留守番してる奥さん差し置いてなにやってるー!」
「えっ、奥さん? 妊娠中? それはなんの話……はうっ!」
 つっこみドロップキックを受け前のめりに倒れたレナートの鞄から、白い紙がひらっと落ちた。
 これをキャッチしたのはラスだ。
「おっと、ナイスタイミング、これはセイカからの手紙だな? 彼女の筆跡だぞ」
「い、いつのまにそんなものが忍ばせてあったんだ。図ったな……セイカさんっ」
 取り戻そうとするレナートを避けながら、誇らしげにラスはそのメッセージを読み上げた。
「ええと……『浮気したらレナータさんにあることないこと全部言っちゃうから』とあるぞ。くぅ〜、ハートマークまで書いちゃって、可愛いなあ〜!」
「くっ、読まれてしまった……でもこれ、浮気じゃないんだ、夫だから! さっきのもただの、女の子観賞という名の護衛だから!」
「物凄く苦しい言い訳してんじゃないの! 非モテ獣の恨み、思い知れっ!」
 ラスはジャンプしてレナートに襲いかかる。
「うわー、自分で『非モテ獣』言うか〜」
 ポカポカ、微笑ましい(?)とっくみあいを開始したラスとレナートを、アンナ、プルミアはあ然と見つめている。
「よくわからないけど……行こうか?」
「は〜い♪」
 プルミアはアンナの手を取り、二人、手を繋いだまま会場へと戻っていくのだった。

 ティムとリグが、なにやら大事そうに包みを運んでいる。レイニーに渡す『OTAKARA』と見てよさそうだ。二人してホクホク顔なのは、素晴らしい発見があった証拠だろうか。大いなる勘違いでないことを祈るばかりである。
 シーズとゼファードは語り合い、互いの近況や見つけたものについて、活発に情報を交換している。ゼファードの身振りが大きいのは、遭遇した竹林のちょっとした騒ぎを表現しているらしい。
 ユウキが通りかかるのを見て、ゼファードは彼の肩を、パン、と叩いた。
「よう、重装甲勇士ユウキ、そっちのほうはどうだった?」
 懐かしいこの感覚、ユウキは顔をほころばせる。
「ええ、なんだか色々ありまして……」
 一方、フェイトはシュニー2世に声をかける。
「あなたがネーヴェの子孫……ですね?」
「うんっ!」
 シュニーは元気に返事して、だしぬけに聖剣オートクレールを抜きはなった。
「この剣を受け継いだばかりなんだ!」
 見せたくて仕方ないらしい。いきなり抜刀されたのでフェイトはいささかたじろいだものの、あまりに嬉しそうなシュニーにつられるように、
「それは……良かった」
 と頬を緩めた。きっとこの子も、ネーヴェのように立派な騎士に成長する、そう思った。
(「あ、でも『この子』なんて思っちゃいましたね……なんだか娘を見る気分?」)
 百年の歳月を感じるフェイトなのである。
 アンジェリカが手を振っていた。
「いたいた、お姉ちゃ〜ん♪ やっほ〜♪」
「ァ、アンジェちゃん」
 良かった、とリリムは妹の手を取った。
「いきなりお姉ちゃん、どっかいっちゃうんだもん、びっくりしたよ〜♪」
「ご、ごめんね。でも、わ、わたしも、楽しい発見を、ぃ、いっぱいしたよ」
 一時はどうなることかと思ったが、これとていい思い出になることだろう。
 ヒョウタンガメに乗ったまま、アリアもプルミアと挨拶を交わしている。
「プルミーさんの子孫なんだ! そっくりでびっくりしちゃった。プルミーさんよりしっかりしてそうだね」
 それに比べて、と、アリアはラックを見て、
「彼はエルスさんみたいだけど……ボクたちが出会う数年前のエルスさん、って感じかな?」
 と楽しそうな顔をした。
「それはどういう意味だっ!」
 一瞬ラックはムッとするのだが、続くアリアの、
「ここからの成長が楽しみだ、ってことだよ」
 という言葉に、けろりと態度を軟化させた。
「ああ、そうか。それはいいな。これからもガンガン伸びるぜー!」
 突っ張ってはいるが、わりと根は素直な少年、それがラックなのである。
 アールコートとベディヴィアも再会を喜び合う。
「最初はベディヴィアさんのこと、子孫さんかと思っちゃいました♪ 男性の鎧を着ているので★」
「はわわ、僕は本来、男の子の格好をしているですよー。……そもそも男の子ですから〜っ」
「でしたっけ? でも私の想い出の中のベディヴィアさんは、いつも女の子の服を着ています★」
「とほほ……想い出の修正を要求しますぅ〜」
 ベディヴィアはパタパタと、両手を振ってささやかな抗議をするのだった。
「……」
 少し離れたテーブルで、ルーシェンはプルミアを見つめている。
 あまりにも生き写しの、プルミエールの子孫。
 声をかけようか、それとも……。ルーシェンは心を決めかねていた。

「長寿の秘訣は?」
「体はもちろんですが、頭もよく使うことですかなあ、とんちは健康にいいということが、わし自身の身をもって証明されたわけですな」
 と、ユウキたちとイッキュウの囲む卓に、呼びかける声があった。
「ああ、こちらにおられましたかー!」
 竹林じゅうを探しましたよ、と黒いマントの人物が駆け寄ってくる。黒いフードを目深に被り、その間より赤い目を光らせていた。
 クーカ・クア・レルカは、頼もしく成長した娘とともにやってくる!
 彼は妖術を広めようと企む悪の妖術師だ。
 自称『悪』とはいえ、友情に厚い妖術師でもある。
 だから今日、イッキュウ再臨の噂を聞いて飛んできたのだ!
「メイメイ、パパとママがお世話になった人なのです」
 クーカが呼びかけたのは彼の娘、モイモイそっくりのメイメイである。彼女は十歳、ユウキやフェイトとは長い付き合いがあるが、イッキュウを見るのは同窓会以来だ。
 たーっ、と駆け出して、メイメイはイッキュウにぺこりとお辞儀した。
「パパとママがお世話になってますなぁ〜ん」
「おお、すくすく育ってくれましたな。ノムカちゃんは元気にしておられますか?」
 イッキュウは大きな掌で、メイメイの頭を撫でた。クーカが答える。
「ええ、息子のノムカは、こもって研究するのが専門で……学究肌なのですね」
 そのときまた、別の声がする。
「本当に……イッキュウさん本人なの!?」
 なぁ〜ん、という語尾とともに、アコナイトは呆然と立ち尽くしている。
「よくもまぁ、『とんち力で百年後に』とか言ってたけど、当たってたし……なぁん」
 彼女は駆け寄り、イッキュウの手を取った。
「アコナイト殿ですか……わしも懐かしくて、ついフラウウインドまで来てしまいましたよ」
「イッキュウさん、この会場の端に苔むした石像があったけど見たなぁ〜ん? 八体あって……」
 どうもそれは、犬猫小人たちが建てた英雄群像らしいのだ。イッキュウとアコナイトを含む、テラフォーミング獣を起動した冒険者たちを模したもののようだ。
「どれ、参りましょうか。それは是非、見たいものですなぁ……この世の別れに……」
「この世の……って、イッキュウさん」
 ユウキが青ざめる。
「イッキュウさん……そんな……もうお別れなんですか……寂しいのです」
 思わずクーカも涙声になる。フードの奥の赤い目がゆらいでいた。
「イッキュウさんだけに、百九十三歳まで生きるんだよね? ね?」
 ソニアも駆け寄ろうとした。だが、無用とばかりにイッキュウは彼らを遠ざける。
 立ち上がったイッキュウは――珍妙なプルミー扮装のままだがイッキュウは、ふっと口元に笑みを浮かべていた。
「さすがのとんちでも百九十三歳は無理でしょうな……わしもまた天に、戦友たちのもとへ還ろう」
 最後のとんち力か、このとき、イッキュウの全身が神々しい光に包まれた。
 ぐっ、と右の拳を天に突き上げ、イッキュウ・ゼンジーは絶叫する!
「我が生涯に……一片の悔い無し!! ぬあああああ!!」
 イッキュウ、イッキュウ……。
「イッキュウさーーーん……!」
 ややあって(約三秒)。
「あわてないあわてない、一休み一休み」
 けろり、とイッキュウは拳を下ろして歩き始めた。
「さすがにまだ死ねませんな。そもそも、石像見てないし」
 高齢を感じさせぬ足取りで、すたすたとゆく。
「アコナイト殿、どこですかな、その像は……?」
 お約束として、みんなコケた。
「面白かった? じゃあね〜い!」
 荒ぶる小坊主イッキュウ、なんとこの日より、さらに十年余を生きたという。

●3009年〜千年過ぎても絆は生きる
 荷造りを終えた国王夫妻、すなわち、ユウキとフェイトの傍らに、銀の鎧を着た女騎士が控えている。涼やかな瞳、凛々しき口元、少年王より若干若めの外見だが、思慮深い様子が年長者のようでもあり、本当の年齢は判らない。
「陛下、千年の約束ではありますが、必ずしも賛成しているわけではないのですよ?」
 彼女はにこりともせず、マントを王に手渡した。腰に帯びるは蒼の聖剣、これは代々、彼女の一族に受け継がれし銘刀だ。千年前の冒険者、ネーヴェからずっと、引き継がれているという。
 ビアンカとその一族の忠義、そして献身に、王は感謝を込めて言った。
「今までご苦労でしたね。これからは騎士団長として、職務に励んでください」
 王国に仕える女騎士ビアンカ、その正式な名はビアンカネーヴェ、『白雪』という意味そのままに、透き通るような白い肌を持つ美しい女性である。四百年ほど前、ほうぼう手を尽くしてようやくネーヴェの子孫を捜し出したユウキは、請うてその一族を国に招聘したのだ。実は王の座を譲るつもりだったのが、ネーヴェの子孫はそれを固辞し、代々侍従として仕えると約した。
 ネーヴェの子孫は何度か入れ替わったが、いずれも忠義心に厚く、いささか堅物なところは共通している。なかでも、ビアンカは突出してその傾向が強い。
「王妃……いえ、フェイト様も行ってらっしゃいませ。ご不在の間、必ずリバーフィールドを守ってご覧にいれます!」
 彼女の肩に、フェイトは優しく手を乗せた。
「ありがとう、ビアンカ。でも、もう私たちは王と王妃ではなくなるのですから、もっと柔らかく話して下さいね」
「ご命令とあらば」
 と言いながらも、ビアンカはふっと表情を緩めた。ユウキもフェイトも、彼女の笑顔を初めて見たように思う。笑っているほうが、ずっと美人だとフェイトは感じた。
「ビアンカさん、これまでありがとうございました。では、旅立ちます」
「ビアンカ、騎士として職務に励むばかりではなく、一人の女性としても幸せになってください」
 ユウキとフェイトは身を寄せ合って歩み、扉のところで振り向いた。
 ビアンカの瞳が潤んでいた。感極まったのか、声を詰まらせながら彼女は別れを述べた。
「これまで有り難うございました千年公……冒険者ユウキとして、またこの国に来てくださいね」
「はい、いつか……必ず」
 そして彼らは、王宮の外に消えたのである。

 ユウキが設立した国は、彼の姓をもじって、『リバーフィールド』と名づけられていた。
 青いグランスティードは、リバーフィールド王宮をだく足で出て行く。
 少年王と呼ばれたユウキ、金色妃(こんじきひ)と呼ばれたフェイト、その二人を乗せて。
 まだ陽の昇らぬうちに、二人はそっと裏門から出た。別れを惜しむ番兵と最後の挨拶をかわして、スティードは最初の一歩を踏み出したのである。
「終わりましたね」
「終わりました……」
 フェイトは振り返って、ユウキの頬に口づけた。ユウキもキスを返す。
 この瞬間をもって、ユウキもフェイトも、ただの冒険者へと復したのだ。このときをどれほど待ったことか。
 門を出たところにルストが待っていた。ルストも周囲に配慮して、囁くような声で話す。
「お疲れ様でした。長い間の努力が窺える。良い国ですね」
「ルストさん、お久しぶりです……千年ぶりくらいになりますか」
 駒から滑り降りて再会を祝した。心は弾むがまだ早朝だ。なるだけ声を抑えて語り合う。
「ルストさんはどのように過ごされていましたか? 教えて下さい」
「私は山奥で、人知れず狩人として暮らしていましたよ。冒険者ですが、狩人でもありますからね」
 しかし彼も、その生活を終える決意をしたという。晴れ晴れとした顔で告げる。
「今日は挨拶だけに伺ったつもりでしたが、ユウキさんたちを見たら、私も旅に出ようかという気持ちになってきましたよ。隠居生活もいいものですが、そろそろ刺激もほしいところでしたし」
 ルストは一礼し、爽やかな笑みを浮かべた。
「なので、早速仕度をしてきましょう。では、旅のご無事を祈っていますよ!」
「ルストさんこそ、ご無事で。縁があったらまたお会いしましょう」
 互いにエールを交換し、ルストとユウキ一行は左右に別れた。
 別れたが猶、互いに幾度か振り向きあった。

「さぁ、まずはこの国に暮らす、お世話になった皆さんに挨拶をしていきましょうか?」
 とのフェイトの提案で、まずはリバーフィールド領内の旧友、ならびにその子孫を訪ねるべく、ユウキは轡を城下町に向けたのである。ある程度進んだところで、目立たぬよう徒歩に変える。
 今日は休日ということもあり、大通りも人は少なかった。
 二人ともマントとフードで身を覆ってはいるが、彼らに気づく国民も希にある。とはいえ誰もが、二人の気持ちを考え、声をかけずそっと見送るにとどめるのだった。約千年、王国のために粉骨砕身してくれた二人だ。せめて今くらい、そっとしておいてあげたい――そう彼らは思っている。
 まだ早い時間だが、訓練所の庭では鬼教官が騎士候補生たちを指導している。
「どうした! 腰が入っておらんぞ、腰が! そんなんで騎士と言えるか! ビシっとせい!」
 お、と振り向いた男はリザードマンだった。ユウキがフラウウインドで再会したときから、僅かに年齢を増したように思える。懸命に槍の素振りをしている若者たちの誰よりも、背筋はまっすぐに伸びていた。
「おや……陛下。こんなところに何用で?」
 振り返った彼はゼファードだった。王国設立直後、ユウキの呼びかけに応じて彼はこの国を訪れたのである。長く王国の騎士団長として国防を一手に引き受けた後は、引退して若き騎士候補生の教官となっているのだった。
 人目をはばかって、ユウキは低い声で告げた。
「陛下じゃないですよ、ゼファードさん。もう、僕はただのユウキです」
「おっと、陛下は引退されたんでしたな」
 振り返るとゼファードは、雷鳴のような声で十数人の若い騎士に怒鳴った。
「よし、そのまま素振り二百回! 手を抜くヤツは朝飯抜きだからな!」
 三人は教練所の隅で、再度言葉を交わす。
「だからもう敬語はやめて、昔みたいに『ユウキ』と呼び捨てにして下さい」
「そうかい? 最初のうちは、身内の集まりのときは口調を素に戻していたんだがな……何百年ぶりかに『ユウキ』って呼ぼうか。しかし、リザードマン王国以外に仕えることになるとは、千年前だと思いもしなかったよ」
「ゼファードさん、これから僕らは旅立ちますが、もう少しこの国に残って、後進指導をお願いしてよろしいですか?」
「よろしいもなにも、当然そのつもりだ。今の生活? 未来を紡いでいく新たな騎士たちを育てられるんだ。充実しているに決まっている!!」
 豪快に笑うゼファードだ。彼の指導は厳しいが、多数の騎士に敬愛されていることでも知られている。いざとなれば命を張ってでも、部下を庇うことができる人だと、皆知っているのだ。
「またな。元陛下に元王妃……いつかまた会える日を楽しみにしている!」
 明けゆく街を、二人はただの冒険者夫婦として歩いた。フラウウインドの時点ではまだ入籍していなかったが、即位を機に正式な夫婦となったのである。
「貴方と出会った時は、まさか自分がお妃様になるだなんて思ってもいませんでした」
 フェイトは彼の手を握りながら呟いた。
「僕もです。王になるなんて……」
「忙しくて、子をもうける時間もありませんでしたね」
「まだまだ、これからですよ。これから」
 ところで、とユウキは言う。
「千年も前に、僕が王様になる、って予言していた人がいます」
 今から会いに行くのはその人だ。無論、フェイトもその人のことはよく知っている。
 街の中央を外れしばらく歩むと、多くの有能な学者を育成した王立アカデミーの塔へと辿り着く。
 まだ時間が早いから、いらっしゃらないかも……というユウキの懸念はあっさりと晴れた。
「ユウキ王! ……いえ、『元』王ですね。お二人とも、ようこそおいで下さいました」
 白い法衣をまとったベルローズが、じきじきに出迎えてくれる。彼女は自ら茶を淹れ、「ゆっくりしていってね」と歓待してくれた。
 千年前、ベルローズが干拓した湿地帯は、今やリバーフィールド王国の首都に生まれ変わっていた。一般的に、この国の建国者はユウキとみなされているが、ユウキは史書にきっちりと残させている。千年王国の土台を作り上げたのは、自分ではなく『ベルローズ』という指導者なのだと。ベルローズによる地域復興がなければ、そして、設立したアカデミーがなければ、決して王国の現在の繁栄はなかっただろう。
 当然、ユウキは彼女に女王になってもらうことを切望したが、ベルローズはそれをどうしても受けてくれなかった。
「同窓会の夜、言ったでしょう? 私の役目は、『優秀な人材を育成する』ことですって。ですのでアカデミーの学長にとどまり、卒業生から王を支える社稷の臣を輩出したく思います」
 その言葉通り、ベルローズの下からは多数の宰相、研究者、あるいは発明家が誕生している。
「私はずっと、『力あるものは、その力を民のために振るうべし』という言葉を、アカデミーのモットーとしてきました。これからも、王の右腕を育てていきましょう」
 お茶を手に、ベルローズは窓から王都を見渡す。休日の都はゆっくりと目覚め、徐々に賑わいはじめている。平和と繁栄、それを象徴するかのような町並みだった。
 毎日忙しいが充実している、とベルローズは笑う。
「開校当初からの学長なうえに、外見が変わってないのでびっくりされたり、はたまた安心されたり……ですがね」
 ところで、とベルローズは冗談めかして言う。
「今日は二人、学生を紹介したく思っております。あまり我が儘をいうものですから、二人とも罰として無期休学を申しつけました。まったく、困った話です。二人ともアカデミーのリーダー格だというのに……アシュトン、エミール、お入りなさい」
 呼ばれて現れたのは二人の青年だ。二十歳前後、とはいえまだ少年の風貌を残している。
「アシュトンと申します。陛下にはご機嫌麗しう」
「エミールです! 去年の新年以来ですよね〜!」
 アシュトン……拝謁の礼を一部も間違えず執り行った青年は、茶色の髪に黒い瞳を持つ青年、アストとアイの直系の子孫にあたる。きりっとした目元はアイ、涼やかな唇と体格はアストを彷彿とさせた。紋章術士にしてアカデミーきっての秀才で、将来の大臣と囁かれている青年だ。
 エミール……彼は親しげな笑顔をずっと浮かべている。黒い髪に黒い瞳、エルフで忍びだが、エルスとプルミエールの直系の子孫だ。彼はアシュトンほど成績が優秀なわけではないものの、やけに人を惹きつける才能があり、黙っていてもすぐにリーダー格にもちあげられてしまうという。
 二人は親友同士、親元を離れ、王都の同じ部屋で暮らしており、ユウキとフェイトとも無論面識があった。つぎにユウキたちが訪れようと思っていた二人だ。
「お願いです。我々を陛下の旅のお供にして下さい!」
「夫婦水入らずのところ……えー、悪いんですが、オイラたち、何かと役に立ちますよ」
 ベルローズは穏やかに、「ね、我が儘を言うでしょう?」と告げた。
「退位されたとはいえ、お二人は国にとって大切な方々です。命に換えてもお守りしたく」
「いやいやいや、オイラたち、諸国漫遊したいとか全然思ってないですから。あと、ここにいるとたくさんの女の子が、ミョーにつきまとってくるので逃げたいとか……全然思って」
 ガッ、と音がしてエミールは脇を押さえた。アシュトンが肘鉄を入れたのである。
「それはエミールが誰彼構わず女性に声をかけるからだ!」
「オイラはアシュトンみたいに、黙っていてもモテるタイプと違うの! それに可愛い子を見かけたら声をかけるのが礼儀……痛っ、だから肘はよせ!」
 ベルローズは苦笑いしている。
「このような子らですが、確かに役には立つはずです。どうか連れていってあげて下さい」
 ユウキとフェイトは顔を見合わせた。

 かくて四人連れとなったユウキ一行が、最初に訪問したのは領内山中の麓だった。
「あら? 陛下……、退位されたんでしたわね」
 膝をつこうとする彼女を、ユウキは慌てて立ち上がらせた。
「ユーリアさん、もう退位したのですから、そんな礼は無用です。そもそもリバーフィールドでは、そんな礼はもう絶えて久しいんですから」
 ユーリア、外見年齢二十八歳のセイレーンの女性である。ユリーシャの何代か後の子孫にあたる。種族は違うというのに、彼女の外見、立ち居振る舞いは千年前のユリーシャに酷似していた。反射的に、この国ではとうに廃れた最敬礼(王族に対する礼)を行おうとした古風なところも、かつてのユリーシャを偲ばせる。
「そうですか……やはり旅に出かけられるのですわね。なれど、顔を見せれば喜ばれるかたが、多数おられると思いますわ。それは素晴らしいことだと思います」
 ユーリアは現在、ユリーシャの代より続く武道の後見人を務めている。彼女自身は不死の身ゆえ、後継者を辞退した。強いばかりでなく、流麗にして礼儀作法の要素を重んじた彼女の流派は、この国にとどまらず、多くの地域より門下生を集めているようだ。
「先祖は、定命の者として、技術や知識を子孫に伝え、今もそれが繋がっております。私は、不老の者として、陰ながら子孫達を見守って生きたいと思うのですよ」
 この武道を修めれば、普通のスカートで戦おうとも、決して下着を見せることはないという。
「ですが、伝説のプルミエール・ラヴィンス様の衣装でこれを成す技術だけは、千年経った今でも開発されておりませんの。そういえば、後継者のエミール様、ご先祖様の服は?」
「さすがにオイラは着ないよ。でも、受け継いではいるんだ。結婚相手に渡すことになってる。まあ、まだその相手は見つかってないんだけどねー」
「……本当かな」
 アシュトンがぽつりと言った途端、エミールは決まり悪げに口笛を吹いた。
 一行はユーリアの道場で一泊することになった。
 道場にて、また、ユウキは英雄の子孫と出会ったのである。
「……?」
 何か、という視線を、ストライダー女性は返した。
 すらりとした長身だ。掃き掃除の最中、黒髪を無造作に束ね、武道着を着込んでいる。
「あの、あなたは失礼ながら、レイオールさんに縁のあるかたでは……?」
 ユウキが問うと、ああ、と彼女はうなずいて、
「なるほど、あの時代からの冒険者の方ですか。私はレイミア、あなたは?」
 すると、とたとたと戸板を走って、ユーリアが現れて告げる。
「レイミア! こちらの方は、畏れ多くもこの国の先王陛下ですわっ、そのような口の利き方は」
「いや、いいですよ。もう引退したんですし。あまり畏まられても……」
「そうは申されましても……レイミアは、私の姪にあたる娘です。遠方に暮らしていたのですが、最近ここに住み込みをはじめたばかりで陛下のことも存じ上げず……」
 無骨者でしょう、とユーリアは恥ずかしげに言う。
「いつもあんな武道着だけで生活しているのですわ。周囲からは『もっと女性らしく着飾れば良いのに』と心配されることもしばしばですのに」
「いえ、結構だと思いますよ。僕の知っている人でも、好きな服装のままで幸せになった人がたくさんいます。初代のプルミーさんだって、そもそもそうですからね」
「ユウキさん、大変理解のある方のようで感謝します」
 このときはじめてレイミアは笑った。笑うと、十分すぎるほどに魅力的だ。
 三人は話し込んだが、名も知らぬ美少女の存在に感づいたのか、エミールが『紹介して下さい視線』をユウキの背に発し、ここに加わることになった。
「大変有意義な時間を過ごせました。私も祖先達に負けていられませんね、何時如何なる時の事も想定して、これからも修練を積みます」
 レイオールとはまたタイプが違うが、とても好感の持てる子孫である。レイオールもユリーシャも、もう天に召されてしまったが、これを知れば肩寄せ合って微笑むことだろう。

 リリムとの再会は、思わぬタイミングで訪れた。
 いや、正しくは、リリムの長女リリスとの再会だ。桃色の髪をした、愛らしいエンジェルの少女である。山道の途中に彼女はいた。
「あ、ユウキ王様〜〜じゃ無かった、ユウキさん、この辺でお母さん見ませんでしたか?」
 リリスは母に似て大変聡明な子で、外見年齢は十歳にもかかわらず、かつてアンジェリカがそうしていたように、リリムをしっかりとささえてくれている。
 リリムは結局、最初の夫とは離婚してしまった。何度か再婚したが、やはり今は独身だ。母子ともにリバーフィールドの国民となり、ユウキやフェイトとは、家族ぐるみの付き合いがある。
「リリムさんがどうかされましたか?」
「三日位前に風に流されちゃって家族みんなで探してるんです。もし、見つけたら、動き回らないでその場で待っててって、伝えて下さい」
「それはいけない、一緒に探しますよ」
 彼らは旅を中断し、半日かけて、一本杉のてっぺんにひっかかっていたリリムを発見した。

 旅は続く。
「ユウキ様、とするとやはり、隣国も訪ねねばなりませんか」
 自分のスティードの背から、アシュトンが問うた。同じ鞍のエミールが応える。
「それはそうだろうな。オイラ、あそこは好きだよ」
「……私は苦手だ」
 隣国、そこはリバーフィールドと長きに渡って友好関係を維持している国だ。近隣の交易の中心地なのだが、近年異常なほど景気が良くなり、ために国王が成金趣味丸出しの道楽をしている。
 門をくぐり大路を歩むと、目の前を近衛兵の集団が隊列を組んで歩みゆく。
「さっそく……あれだ……」
 嘆かわしい、とばかりにアシュトンは目を覆った。
 近衛兵部隊、その隊員は全員が、金髪碧眼の少女である。五十人はあろうというのに、選りすぐりの美少女ばかりであり、尚かつその得物は、全て二刀の長剣なのだった。『ブロンド近衛隊』などとあだ名されており、この国の名物になっている。
「あの中に……あの人がいるんですよねえ……」
 ユウキも少々苦手なようで、気の進まない様子でブロンド近衛隊の行進を追った。
「よし、本日はここで解散!」
 という声と共に、少女たちは散らばる、それを見計らって、
「ローザマリアさん!」
 ユウキは呼びかけた。
 ところが、あろうことか!
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」「はい」「はい」「はい」「はい」「はい」「はい」「はい」「はい」……!
 五十人が五十人とも振り返って返事したのである。
「わーっ!」
 結構、怖い。
「はい、そこまで――さて、ここで問題です。貴方の探し人はだーれだ?」
 一人の隊員が、悪戯っぽい目で問うた。
 誰あろう、それこそが本物、青雪の狂花・ローザマリア(a60096)であった。
「あ、バレちゃった? 実はここに集められた近衛兵はみんな、『ローザ』ないし『マリア』って名前なの。尋ねてきた人、みんなこれにびっくりするわねえ」
 隊長公室に案内し、そこで思い出話に花を咲かせる。
「奧さんをうちの隊に入れるために来たんじゃないとすれば、やっぱ、引退に際して会いに来てくれたのかな? しかもアイ、プルミーの子孫まで連れてきてくれて。ありがとね」
 近衛兵のぴったりした制服は、なかなかローザマリアに似合っていた。すでに本人は巨万の富をなし、世界中に屋敷があるので仕事をする必要もないのだが、ローザマリア自身、趣味半分で近衛隊の隊長を続けているという。
「あんたが国を興してから、ずっと陰ながらその治世を見つめ続けていたけれども――本当に、善い国を作ったわね、ユウ坊。変わる時代の中で変わらない物も在って然るべきだと思うの」
 ローザマリアは立ち上がり、ユウキ、フェイト、エミール、アシュトンと順番に握手を交わした。
「だから――これからも、変わらぬ優しいユウ坊でいて頂戴ね」
 陽が落ちてから、同じ街の片隅に入る。
 不夜城のような繁華街、その一角に、とびきり大きな彼女の店がある。
 名は、『ミネルバ・キャッツ』、世界じゅうにチェーンのある、大人の男性の社交場である。
「ね? オイラをこの旅に連れてきて良かったでしょ、ユウキ様? ほら、ここですよ」
「……はい、どうもです」
 今夜は、ユウキとエミールだけで人探した。
 行き場所の名を口にした途端、アシュトンは真っ赤になって首を振り、「私は宿でフェイト様を護衛します!」と言い張った。フェイトは別に行っても良かったのだが、むしろアシュトンの為に残ることにした。ただ、フェイトも出がけに、ユウキに釘を刺すのを忘れなかった。
「信じていますよ、ユウキ?」
 と。
 というわけで二人して、娼館のドアをくぐったのである。
「いらっしゃいユウキ君。ええここが『本店』よ。私もここに住んでいるの。ちょっとしたお城ぐらい大きいでしょう?」
 なんら老いず瑞々しいままの外見をした、オーナーのミネルバ自身が二人を出迎えてくれた。大きく胸の開いたタンクトップ、すぐに下着が見えそうなマイクロミニのスカートも同じだ。桃色のスイートルームに案内して、自身はベッドに、長い脚を投げ出して座る。
 ミネルバは冒険者引退後、ひどい条件で働かされている娼婦たちを救いたいと思っていた。衛生面や生活面でのケア、引退後の生活を考えてお金を積み立てておくシステム……こうしたものの整備を単身行っていたのだ。最初は誰も、笑い話のように扱ってまともに取り合ってくれなかった。しかし百年、二百年、やがて千年経つ頃には、地道な努力が実を結び、彼女たちの社会的地位や待遇は、かつての劣悪なそれとは、比べものにならないほどのものとなっている。とりわけ彼女の店、『ミネルバ・キャッツ』は優れていることで名高い。
 会えて嬉しいわ、と彼女はユウキの耳に唇を寄せた。
「ここには選りすぐりの女の子達が集まっているのよ。容姿、技術、教養も一流のね。値段はちょっと張るけど。よかったら遊んでいかない? ……あ、何だったら私を指名する?」
 ふっ、と熱い息を吹きかける。
「い、いえ結構です! お話をしに来ただけですからっ!」
「あら、今でも私を指名するお客は多いのよ。私と一夜を共にするのは一種のステータスらしいわ。でなきゃ、プルミーさんの子孫の……」
「エ、エミールですっ!」
 エミールはなぜか直立不動だ。
「そう、エミール君、あなた……どう? 私ね、同性だけどプルミーさんにはちょっと興味あったのよねー。いまも同じ格好をしているのも、プルミーさんが勇気づけてくれたおかげだし。お礼の意味も兼ねてたっぷりサービスするわ」
「い、い、いえもう帰らないといけませんので、お、お気持ちは嬉しいのですが!」
 ユウキはそそくさと後退して、エミールの袖をグイグイ引っ張る。
「いやでもユウキ様、こんな機会そうそう……」
「いけません! ではミネルバさん、またいずれ……」
 逃げるようにしてユウキは階段を駆け下りていった。途中で執事が止めようとしたが、手を振って立ち去る。
「刺激が強すぎたかしら……」
 バルコニーから姿を見せて、ミネルバはしばし、二人に手を振っていた。

 リバーフィールドから近い国家の一つに、ブラフォード領がある。英雄冒険者ディーン・ブラフォードが治めていた地域だ。
 結局の所、ディーンは『悠幻館』周辺の領土を継ぎ、その拡充に務めながらも、ゆっくりと年齢を重ねて没した。国葬にはユウキもフェイトも参列し、近隣の冒険者が集まったものである。
「ようこそ少年王殿、貴公まで御先祖の知人とは知りませんでした」
 迎えてくれたのはシオン、『悠幻館』の現当主、すなわち、この周辺を治める青年領主だ。
「そういえば、ディーンさんが亡くなったのは数百年前ですもんね。ご存じなくても当然かもしれません。とても立派な人でした……僕にとって、人生の師の一人です」
 友好国ゆえか、それともシオンの律儀な性格のためか、彼はわずかな侍従とともに、わざわざ領土外までユウキ一行を出迎えに来てくれていた。
 二人の歓談は、しかし唐突に破られる。
「シオンくん、現れたよ変異動物だー!」
 目の前を横切り、身を屈めて疾駆する少女はソニアではないか。
 ロッドを構え、向き合うソニアの眼前から、巨大なミミズが地を食い破り飛び出してきた!
「アシュトン、フェイト様をお守りしろ! オイラもこいつと戦う!」
「引き受けた。頼むぞ」
 エミールが忍者刀を構え飛びだし、アシュトンはグランスティードを呼びだしてフェイトを引っ張り上げた。
「少年王、私も参ります!」
「ええ、シオンさん、一緒に戦いましょう!」
 温厚なシオンだが、ひとたび剣を抜くやその戦いぶりは、ディーンの血筋を感じさせる激越なものだった。アシュトンも紋章の力を駆使し、フェイトも加勢して、たちまちミミズは退治される。
 ふっと振り向いたソニアは、ようやくユウキに気づいた。
「あれ、ユウキくんだ。何百年振りかな?」
 ソニアはたまたま、シオンのところに滞在中だったという。
「ここがわたしの故郷みたいなものだからね。ユウキくん、少し王様風の威厳がついたかな?」
「あまり変わってないですよ。そういえばソニアさんは、綺麗になりましたね?」
「やだー、もう、二歳成長しただけだよ〜。ユウキくんがそんなお世辞言えるようになったなんて、こりゃ事件だね?」
 再会を約して、一行はブラフォード領を離れた。

 近隣友好国の一つ、代々ソルレオンが即位するという小国へ、ユウキ一行は到着した。
「陛下、ご機嫌うるわしゅう」
 礼を取るユウキに、玉座から降りて国王――こと重騎士サーマは告げた。
「なんと勿体ない、ユウキ王……いや、今は引退されたユウキさん、楽にしてよ。楽にね」
 銀の鬣はとてもつややかだ。彼はオームの子孫だという。
 王といっても、いささかも尊大ぶるところはない。宮殿も簡素で風通しが良い。小さな白い犬が玉座のそばに寝そべっていた
「この犬? 父、つまり先代国王が数年前突然退位したときに、白い犬を道連れに旅に出てしまったんだ。彼はその息子犬だよ。こうやって飼っていれば、父が無事という気がするんでね。実際、たまには帰ってくるから」
 国王自ら、国を案内してくれると言うことだ。サーマはマントを脱ぎ、杓を持って歩き出した。
 国は、方針として大いに芸術を奨励している。とりわけ先代の王は熱心で『芸術王』と呼ばれているほどだ。周辺から画家や彫刻家が集まり、活況を呈しているようだ。
「あの建物は第二美術館さ。全部で四つあるんだ。ユウキさんも滞在中に見ていってほしい」
 歩きながらの話題は、サーマ王自身のことへと移った。
「ユウキさんは……十数年前にお会いしたことがあったかな。まだ俺が子供の頃だったから見覚えがないかもしれないけど」
「もちろん覚えていますよ。あの『芸術王』が、自分が作った最高の芸術だと、冗談めかして言っていましたっけ。最近の生活はどうですか?」
「結構色々あったけど皆幸せにやっているよ。これからも皆の幸福を、笑顔を護っていきたい」
 というサーマ自身が、やわらかな笑顔を見せるのだった。

 アシュトンは大きく息を吸う。
「懐かしい……私は五歳まで、アッシュ辺境伯領で育ったのですよ」
 彼にとってここは、忘れられぬ土地だ。
「秋はこの地を訪れるに最良です。なんといっても収穫祭のシーズンなのですから!」
 冷静を主とするアシュトンの声が、珍しくうわずっている。
「オイラも何度もここに来てるからな〜、ユウキ様、フェイト様、案内は任せて下さい」
 エミールにとっても良い記憶のある場所である。
 ここはそもそも、古の冒険者オブライエン卿が辺境伯となり開いた土地で、冒険者たちによって開拓され、豊穣の地へと作り上げられたという歴史を持つ。三つの街道が交わるという地の利もあって、東西の文化交流や商業も盛んに行われている。ユウキのいたリバーフィールドにとっても、最大の取引先といってよかった。穀物、葡萄をはじめとする農業生産では、大陸全土でも上位に食い込むことだろう。
 領主の家系は、基本的に長子相続を旨としていた。つい先日も、初代の奥方と同じ『アリエノール』という、まだ二十歳になったばかりのうら若き女性が領主に就任したばかりである。
 まず一行は領の片隅にある、クーカとモイモイの家を訪ねた。
 もう彼らが来ることは予想していたと見え、クーカは家の前で一行を待ち受けていた。
「遂に玉座を降りましたか、ユウキさん。お待ちしていたのです」
「あれ、どうやって知ったんですか?」
「ボクが見つけたのなぁ〜ん!」
 ぴょんぴょん跳んでアピールするのは、モイモイ瓜二つの娘メイメイだ。
「御二方の功績を特別に祝して〜、横断幕を作ったのです。さ、メイメイ、片方を持ちなさい♪」
 それではおなじみコールに乗って、彼の行動を紹介しよう。
 クーカ・クア・レルカは、娘メイメイと左右に分かれ横断幕を拡げる!
 彼は妖術を広めようと企む悪の妖術師だ。
 でも友達思いの妖術師だ。
 心こもった横断幕のメッセージは!
「『お勤め ご苦労様♪』ですか……なんだか出所してきたみたいですが、嬉しいです」
 クーカ父娘は、誇らしげにポールの両端を持ったまま、しかとこのメッセージを伝えるのだった。
 メイメイがユウキたちを家に誘う。
「ユウキ王様、ママが、王様たちのために夕飯を作ったなぁ〜んよ。食べていって欲しいなぁん」
「ええ、ノムカにも会ってほしいのです。さあどうぞどうぞ」
「いいんですか?」
「遠慮はいりませんよ。僕らとユウキさんの仲ではないですか。ほら、アシュトンさんも、エミールさんも。お二人とも立派に成長されましたねー」
 夕食後、アシュトンはそっと家を抜け出し、エミールも何気ない振りを装って出て行った。

 夜道を一人、工具箱を抱えて歩く少女がいる。
 セミロングの黒髪、眼鏡をかけて、ほがらかに鼻歌を歌いながらゆく。
「ヴィエルさん、夜道は物騒ですよ。『剣』のところまで行くのでしょう? お供しますよ」
 と、彼女に声をかける姿があった。アシュトンだった。
「アシュトンさん、お手紙で知らせてくれていたより、早いお着きですね♪」
 彼女の笑顔にはどことなく、プルミエールを彷彿とさせるものがあった。さもあろう、ヴィエルはプルミーとエルスの子孫の一人である。髪の色にはエルスの要素が、朗らかな性格と、年齢よりやや幼い可愛らしさにはプルミーの要素が感じられる。
「荷物、お持ちしますよ。その代わりあなたには、これを」
 アシュトンは工具箱を受け取って、さっと花束を差し出す。
「昼のうちに買っておきました。喜んでいただければいいのですが……」
「はい♪ ありがとうございます、『剣』にお供えしますね」
「いえ、あの、そうではなく、これはあなたに……」
 とアシュトンが言い終えるより早く、
「よぅヴィエル、オイラ参上! 家で聞いたら、ここだって言ったんでな〜」
 だれあろう、その声の主はエミールだ。
「あ〜、エミールさんまで〜♪ 来るときは前もって知らせて、っていってるじゃないですか」
「まで……って、あっ、アシュトン、お前もいたのか」
「ま、まあな、散歩してたら偶然通りかかって、な」
 一瞬、アシュトンとエミールの視線がぶつかり、バチッ、と火花を立てた。
 エミールにとっては、ヴィエルは従妹だ。一方アシュトンにとっては、彼女は幼年期をともに過ごした幼なじみである。たまにケンカはすれど親友同士、そのアシュトンとエミールが、同じ女性を好きになってしまったのは、運命の皮肉と言えようか。
「どうしたんです、二人とも?」
 微妙な雰囲気になったのだが、ヴィエルはその理由をまったくわかっていない。
 そこに運良く、ユウキとフェイトが姿を見せる。
「エルスさんとプルミーさんの『剣』のところへ行くんですよね」
「ご一緒してよろしいですか?」
「お久しぶりです、ユウキさん、フェイトさん。ええ、明日から収穫祭なので、手入れしておこうと思って」
 ヴィエルが言うのは、二人の終焉の地についてだった。
 エルスとプルミーは晩年、アッシュ辺境伯領に身を落ち着けた。引退を決意した二人は、巨岩にそれぞれの武器を突き刺したのだ。
「まったく、抜けないように岩に刺すなんて、どうやったのか……『二人』の武を繋ぎ続けて、千年……必要になる日が、来なければいいのですが」
 ヴィエルはこの地に暮らし、先祖の武器を守る役割を担っていた。時々磨いたりしていざという時に備えているのだ。
 伝承によれば、世界に再び滅亡の危機が訪れたとき、自然と二組の剣は抜けるという。

 翌日、領内挙げての収穫祭がはじまった。
 本日、市街では、広場での葡萄踏みは勿論、女神&騎士を選ぶコンテストや、競技会としての武術大会、ダンスパーティーなどが盛大に行われる。すでに大道芸人がショーを行っていたり、屋台や青空市なども開かれていて、午前中から大きな賑わいに包まれている。
 そんななか、蜂蜜色の髪をした麗人が祭りを楽しんでいた。屋台で軽食を買い求めたり、バザーで皿や壺を品定めしたりしている。端正で気品あふれるその顔は、まさしく領主、隠遁者・アリエノール(a30361)の名を継ぐ者に違いない。
 領民生活を知るための『視察』ゆえ、質素な服装をしてはいるが、領主の象徴たるオセロット(豹の一種)を連れているので、領内の人にはバレバレだったりする。といっても、領民はあえて気づかないふりをしているし、本人は気づかれていないと確信して一般人の振りをしている。楽しい共犯関係であった。
 国王時代のユウキは、参加者として収穫祭を訪れたことがない。また、現在のアリエノールも代替わりしたばかりなので、ユウキと直接の面識はなかった。きょろきょろしている少年を見て、
「あらあなた、可愛らしい顔をしていますわね」
 と、袖をひく。
「午後から、女神&騎士を選ぶコンテストがありますの。飛び入り参加も歓迎でしてよ。あなた、出場してみませんこと?」
「はじめまして、領主のアリエノール様、ですね。リバーフィールドのユウキと申します」
「え……ええっ!?」
 当代のアリエノールはまだ若い。驚きをうまく隠す腹芸は身につけていなかった。
「なぜわかりました……の?」
 と問うた。
 クーカとメイメイも含め、一同は外のテーブルに着いた。
「あなたが千年公、ユウキ様。そしてあなたは金色妃、フェイト様」
「元、が頭につきますけどね」
 二人はそろって頭を下げた。
「そして、プルミエール様の子孫、エミール様ですね」
「自分で言いますがこんなに立派に育ちました。領主様とは幼い頃、一度だけ拝謁したことがあります♪ あのころからお綺麗でしたが、断然美人になられましたね」
 偉い人を前にしても、エミールは屈託がない。
 アリエノールはくすくすと笑って、長きに渡る友人に声をかける。
「アイ様の子孫、アシュトン様、公式の使者として、お目にかかれて光栄ですわ」
「勿体ないお言葉です……。幼い頃、ともに遊んだものですね。立派な領主になられたようで、私も嬉しく思います」
 アシュトンは深々と一礼した。
「ヴィエル様、クーカ様、メイメイ様は、これからもよろしくお願いしますわ」
「はいですー」
「どーんとお任せアレ。……何を?」
「領主様ばんざいですなぁ〜ん」
 アリエノールは目を閉じた。
「なんだか今日は……とても充実した気持ちがしますわ。なんでしょう、いっぺんに願いが叶ってしまったかのような……」
 オセロットを撫でながら、感慨深く息を吐く。
「皆様、今日は、一日いらっしゃるのでしょう? 収穫祭、私と一緒に楽しもうではありませんか。そうそう」
 人差し指を立て唇に当てて、アリエノールは言ったのだった。
「私が領民のふりをして参加していることは、どうかご内密に」

 道中、一行はたくさんの旅人と出会った。面白いことに、高い確率で冒険者の子孫や、本人と遭遇する。まるで運命が、彼らを導いてくれたかのように。
 トワイライトとの再会は、突然の驟雨を避けて岩陰に隠れたときに発生した。
「ひでぇ雨だな」
 と声をかけられ、振り向いたところにいた先客が彼だったのだ。
「トワイライトさん!」
「よう、ユウキ王」
「お元気でしたか?」
「まあな、ぶらぶらと、この世界を絵に描きながら旅を続けてるさ。千年公ユウキが引退して旅に出たってのは聞いてたが、捜し出して拝謁願う手間がこれで省けたってもんだな」
 トワイライトは笑い、膝を屈して彼の前に跪いたのである。
「よう、ユウキ王。偉大なる国王陛下におかれましては長の無沙汰にも拘らず、私などにご拝謁頂きまして恐悦至極でございます……ってな?」
 前半は真面目に、後半は茶目っけたっぷりに、彼らしい挨拶を捧げたのである。
「そこの二人が、アイの子孫にプルミーの子孫か。二人とも、なかなかの若武者ぶり、先祖も鼻が高いだろうぜ。……プルミーは鼻が低かったっけ、まあそれはともかく」
 じゃあまたいつか! と簡単に言い残して、雨が止むなり、トワイライトはまたどこかへ、矢のように消えていったのである。
 劇団カルミアの移動にも出くわした。カズハが設立したこの旅団は、現在では旅の一座として各地をまわっている。
 応対に出てくれたカレルという青年と意気投合したが、その彼が、カズハの子孫その人だった。まだ年若いカレルゆえ、芝居の中ではまだ端役、切られ役や使いっ走りに近い役割しか与えられていない。しかしその爽やかな物腰、そして高い人望は、風貌を含めカズハによく似ており、既に内外に信奉者が数多いようだ。
 そういえば、とユウキは思う。
(「小屋の外に女性の一団が、花束やプレゼントを抱えて待ち構えていましたね……『カレル様』と書いたカードを添えて……」)
 そうした人気に奢ることはなく、団長候補という旅団内の噂も特に意識せず、カレルは日々、楽しく暮らしているようだ。そういったところもカズハの血を引いていると言えた。
「そうだ、折角ですから公演を見て行きませんか? 千年前に本当に起こったという出来事を劇にしたものなんですよ。もしかしたら、ユウキ様にとっても懐かしい話かもしれません」
 その夜は、近くの村で開かれた公演を、四人そろって鑑賞したのだった。脇役のはずのカレルが舞台に上がる度、黄色い声援が飛んでいた。
 小さな町のレストランでは、まだメニューも読み終わっていないのに、どかどかと大量の食事や飲み物が、ユウキ一行のテーブルに置かれた。
「え……まだ頼んでいませんが?」
 フェイトが怪訝な顔をすると、ウェイターは丁寧に答えたのである。
「はい、あちらのお客様から、です」
 ウェイターが指すはカウンター、そこに美しい女性が二人、肩を並べて座っている。
「ユウキさん、フェイトさん、お久しぶりです〜♪ そちらのお二人はもしかして、エルスさんとプルミーさん、アストさんとアイさんの子孫ですか〜?」
 手を振る彼女はミレイラル、
「こんなところでお会いできるなんて、奇遇ですわね♪」
 もう一人はシュビレだった。
 二人はここ百年ばかり、都市部を中心に冒険しているという。
「人口の多いところは色々とありますからねえ」
 というシュビレにミレイラルはうなずき、
「おかげでいつも、適度に裕福です。あ、もちろん、今日はすべておごりとさせていただきますわ」
 と宣言する。
「千年経ったところで、お二人の愛情になんら揺るぎはないのですね」
 というフェイトに、ミレイラルとシュビレは、鏡像のように、ぴったり声を合わせて応えた。
「いつまでも大好きです〜♪」
 その晩宿を発つ二人と、今日着いたばかりの一行は短時間で別れることになったが、やはり再会を約束しあった。

 さいはて山脈をユウキは目指した。
「この場所に、毎年僕らの結婚記念日に小さな青い花を贈ってくれる人が住んでいるそうなんです」
 アシュトンが驚いたように言った。
「ユウキ様もですか、私とエミールも、毎年誕生日に花を受け取っています。どなたか存じませんが、ずっと気になっていました」
 たどりついたその場所には、一面の青い花畑が広がっていた。息を呑むような光景だ。青空がそのまま、地上に現出したかのように彼らは感じた。
「あっはっは、訪ねてきてくれましたねー。会いたいなー、なんて、思ってたんです」
 その人は、眼鏡を軽く、持ちあげて微笑んだ。
「花を育てながらの隠居生活も、なかなかいいもんですよ」
 クライスだった。彼が丹念に育てた花は、今年も満開の模様である。
 さいはて山脈の麓には、辺境に似合わぬ立派な山寺があった。立派すぎるほどの門構えで、ユウキの記憶にある場所とは印象がまるで違った。
 門を叩くと、八歳くらいの利発そうな小坊主が走り出てくる。
「はーい。ようこそ、とんち総本山安国寺へ。『覇取琉撞武(バトルドウム)』大会なら、今年の分はもう、ランドアース予選は終わってしまいましたよ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「ならば『ドルルナガーの塔』詣でですか? あれも冬の年中行事でして……」
「そういうわけでもないです」
「はて、『超・黒瑪瑙大祭』は十年に一回しかやらないし、『貯古齢糖(ちよこれいと)騎士供養』は二百年前に絶えたままだし……。あ、わかった。されば初代イッキュウの教えを求め、『とんち力(ちから)』の修行にいらした方ですね?」
「そういうわけでもないです。僕もかつて、この寺に籍を置いていたことがあるんですが……」
「ふうむ、お待ちなさい」
 ぽくぽくぽく、くりくり頭の小坊主はいきなり座禅を組むと、目を閉じて瞑想をはじめた。
 ちなみにこの「ぽくぽく」は本人が口で言っている。
「ちーん」
 とまた言って、小坊主は結論する。
「あなた、ずばりナハトさんでしょう! そうでしょう」
「違います」
 何にせよ、安国寺は立派に活動継続中のようだ。
 寺の次は神社、というわけでもないが、神社から発展した国家、すなわち、クロノとスズの治める国に一行は足を踏み入れていた。着物姿の国民が多く、かつまた、皆信仰心が厚いようだ。楓華の神マル・ケイリィも、主神のひとつとして崇められている。
 だが国王――この地域では、神主転じて『神王』と呼ぶ――となったところで、クロノが偏狭になったりはしなかった。温かくユウキたちを迎え入れてくれたのである。
「久しぶりだな。俺が王になるなんて考えもしなかったよ。……皆言ってる? 考える事は皆同じか。はははっ」
 王であろうと、彼は贅沢な暮らしをしているわけではない。『恍惚の天使団』の看板が下がる紅い館は、楓華風の質素な造りである。
「お久しぶりです。あの……神社、頑張って……大きくしました。……でも……巫女神様って……崇められるのは予定外ですけど……」
 温かい茶を点てながら、スズがこれまでの経緯を語った。小さな神社を家族の皆で再興していくうち、子供が沢山増え、更に子供達も結婚して近くに家を建てることで集落ができた。そうやって子作り繁栄をしていくと、気が付いたら神社は大神宮となり、さらに一つの国へと発展していたのだ。すなわちこの国全体が、いわばクロノとスズの家族なのだった。
 スズは『巫女神』と呼ばれ、国民の崇敬を集めているという。
「神社……は……安産祈願で……有名……です。よければ……お祈り……していきませんか……」
 ユウキとフェイトは、喜んでスズの言葉に従った。

 馴染みの町近づくユウキを、訪ねてくる青年があった。
「千年公、ユウキ陛下ですね」
「いえ、もう退位しましたからただのユウキですよ……あなたは?」
「お手紙を託かって参りました」
 彼は手紙を渡しただけで、くるりと踵を返して去った。その後ろ姿にユウキは見覚えがあったのだが、声をかけるタイミングを逸してしまった。
 羊皮紙をひろげると、差出人の名は懐かしき『彼女』のものだ。
(「でもあの人は、もう……」)
 日付を目にして納得し、その反面、寂しくも思う。
 千年前の日付だった。
 この手紙は、あまりに長い時間を超え、ようやく届けられた招待状だったのだ。
『「セイレーンの重騎士」ユウキ様
 突然の手紙で驚いたかもね。
 喫茶「カゼノトオリミチ」より招待状よ。
 かつて仲間と共に集いしあの場所に、もう一度来て頂戴。
 美味しい珈琲を淹れて待ってるわ!』
 署名は、『世界の果てを描く風・ルーテシア』であった。
「千年前の喫茶店がまだあるか……確かめに行かなくてはなりませんね」
 この話をするとフェイトは、そう言ってユウキを送り出してくれた。
 その日の午後、ユウキは単身、懐かしい道を行った。いくらか様相は変わっているが、基本となるものは何ら変化していない。だから店への道は、迷わなかった。
 とある古い建物の階段を登った先、扉を開くと、懐かしい薫りがひろがる。
 まるで骨董品のような古い佇まい、珈琲の湯気、窓から指す柔らかな光、そして優しく吹く風。
「ユウキさん! ようこそ『カゼノトオリミチ』へ!!」
 カウンターの向こうで待っていたのは、あの青年だった。
「僕が当店のマスターです。可能な限り当時の内装を再現したんですけど、いかがですか?」
「違和感が……まったくありません……なにもかも」
 感激にユウキは震えてしまう。テーブルの瑕ひとつまでもが再現されていた。
「あら、いらっしゃいまし。お久しゅうございます」
 カウンター席から振り返ったのは、淡い緑の鱗もつリサだった。
「すごいでしょう? このお店、まるで時間の流れがここだけ違うみたいですわ。マスターさんは、少し若いですけども」
 くすくすと笑う彼女の前には、あったかココアと、マスター特製ミートスパゲティの皿があった。
「マスターの基本はそのままに、この時代の味を楽しめますわ」
 昔ほど頻繁にとはいかないものの、リサは現在も、喫茶『カゼノトオリミチ』常連だという。
 スパゲティは簡単な料理かもしれないが、初代から連綿とつづく創意と工夫がそこにある。ここでしか食べられない味、ここでしか味わえない幸せが、この皿には盛られているのだ。
「この為に生きていると言っても過言ではありませんのよ」
 リサは誇らしげに言う。
「僕も特製ミートスパを。あと、珈琲をお願いします」
 ユウキが席に着くのと同時に、もう一人の『常連』がドアを開けた。
「今日は賑やかだな。誰か……」
 黒衣黒髪、まっすぐ背を伸ばした彼は、永遠の二十代だ。
「誰か懐かしい顔でも来ているのか、と聞くつもりだった。久しぶりだ、ユウキ」
 そう、彼はシーズ、同窓会の夜、新生フラウウインド探索、そのいずれのときとも外見は変わらない。ただしこの長い年月で、彼は無数の経験を経てきた。
「国を治めていたとの話は聞いていたが、実際に見ると確かに王の貫禄はあるようだな」
 ぶっきらぼうに、しかし喜びを込めてシーズは言う。
「あるとすれば、それは皆さんに鍛えていただいたおかげです」
 シーズが差し出した手を、ユウキはしっかりと握った。
 そして、たてつづけに来客があった。
「こんにちは、いつものものを……あっ」
 ユウキに気づき、シェムハザーダは嬉しそうな声を上げている。
「お久しぶりです。本当にお久しぶり……!」
 シェムハザーダはこのところ、とても忙しくしているそうだ。彼は孤児院を経営し、数え切れないほどの子どもたちの親となっているという。
「生物的な意味での『親』ではないかもしれませんが、どの子も私の『息子』『娘』ですよ」
 同窓会の夜、たくさんの子どもに懐かれてシェムハザーダはこの仕事を思いついたという。すでに長い歴史があり、そこを巣立って、世界のために活躍している子らも沢山ある。
「さて、私の話ばかりするのはバランスが悪いですね。ユウキさんのお話も聞かせて下さい。王となるまでのことや、王として君臨していた年月について……」
 半時間ほど夢中で話し込んでいたが、ふとユウキは、壁に掛かる一枚の絵に気づいた。
「マスターさん、この絵は?」
「ええ、それは……」
 とマスターが口を開こうとしたとき、
「ごめん、遅くなっちゃって、今日お客さんいっぱいね……すぐ準備するから」
 ドアが勢いよく開かれ、若い女性が姿を見せた。黄金の髪をポニーテールに束ねており、澄みわたった空色の瞳を輝かせている。
「あなたは……」
 ユウキはすぐに、彼女が誰かを思わせることに気づいた。髪の色も顔も同じではないが、彼女は確かに……。
 しかし彼女のほうが先に、ユウキを認識したようだ。
「ユウキさん……かしら? お話はずっと聞いていたわ。初めまして、私はルミナ。千年前の冒険者ルーテシア・サーゲイトの子孫よ」
「やっぱり、ルーティさんの子孫でしたか!」
 彼女の声、口調はまるで生き写しだ。
「英雄ルーテシアさんといえば、ちょうどこの絵の話をしていたんですよ」
 マスターが穏やかに切り出す。
「覚えてらっしゃいますか? 千年前、当時この店にいた英雄の一人が描き続けた作品を」
 ユウキはもう理解している。理解しているが、それでも続きを聞かずにはおれなかった。
「そう、貴方がた『Higher Ground』の英雄達の活躍を描いた絵画です」
 同窓会の夜、ルーテシアが渡してくれたラフスケッチ、あれは、この絵のための準備だったのだろう。マスターが奥から、複数枚の絵を取り出してくれた。どの絵にも、どの絵にも、ユウキの見覚えのある光景が描かれていた。
「……最後の絵の舞台は雛鷲山、このモデルはそう、ユウキさん、貴方ですよ」
 ユウキは絵の中の自分と対面した。思わず涙があふれてきて、じっくりと鑑賞することはできなかった。
 あの日はもう、遠い過去の出来事だけど、あの日の思い出は、確かにここに生きている。

「きゃっ」
「しっかり掴まっていて下さい」
 ユウキとフェイトを乗せたスティードは、迷わず、危険な峡谷を跳ねてゆく。人一人が通るのがやっとのような橋でも、まるで躊躇せず駆け渡るのだ。足元を見れば千尋の谷、深い霧に囲まれていて底が見えない。
 フェイトはユウキの背中をしっかりと抱きしめている。彼の背中の広さを感じた。
 同じくエミールも、アシュトンの背中にしがみついた。二人を乗せたスティードも、主を追って走りつづける。
「きゃっ」
 思わずエミールが声を上げても、 
「変な声出すな」
 手綱を取るアシュトンは、エミールには冷たいのであった。
 ようやく二騎は、霧深い峡谷の山小屋に辿り着いた。
「まあ、こんなところへようこそ。まさか訪ねてこられるなんて思ってもみませんでした」
 山小屋の前で薪を割っていた女性が、鉈を置いて駆け寄ってきた。
「お久しぶりです、ビューネさん」
 三百年ほど世界を放浪した後、ビューネはこの山小屋に居を定めていた。隠遁したに等しい。不老の友や、助けを求めに来る者が数十年に一度あるかないかという仙人生活である。
「国王になられていたんですよね。良き王として、噂は聞き及んでいましたが……」
 と言いながら、ビューネは連れの二人にも気づく。
「プルミーさんエルスさんの子孫さんと、アイさんアストさんの子孫さんでしょう?」
「わかりますか?」
「わかりますよ。その風貌、あの二人の血を、はっきりと受け継いでおりますもの……共に冒険した頃が昨日のように思い出せます」
 ビューネは、感慨に胸を詰まらせながら、一行を山小屋へいざなう。
「こんな僻地で大したものも用意できませんが……昔語りをしていきませんか?」
 翌日、ユウキたちはビューネと別れ、山を下る途上で、道に迷う旅人と知り合った。
「ふぅ……参った……ここは何処だ……? 冒険者になったはいいが……迷った……。ああ、そこの人々、すまないが麓への道を教えてくれまいか」
 彼は名をスペックという。トモヤの末裔の一人だ。
「僕らも下山途上なんです。よければ一緒に行きませんか?」
「それは助かる……しかし、とすると、俺をずっと尾行しているのは、あなたたちではなかったようだな……」
 ずっとつけられているのだ、と言いざま、スペックは長剣の鞘を払い背後の茂みに向かい叫んだ。
「誰だ! つけているのはわかっている。出てこい!」
「ぅ〜、そ、そんなつもりはなかったんですけどぉ……どうしましょぅ」
 泣きそうな顔で両手を挙げ、エルフの少女が現れた。銀髪に紫の瞳、装備品を見るとやはり武人のようだ。
「わ、わたし、アヤっていいますぅ〜、前の宿場町でスペックさんのこと見かけて……その」
 いくらか拍子抜けした表情になって、スペックは構えを解きつつも問いただす。
「それで、なぜ俺を尾行した?」
「そ、それは……私が……」
「お前が、何だ?」
「スペックさんがあんまり格好いいので、ひ、一目惚してしまったんですぅ!」
「……」
「ぅ〜……」
 ユウキたちは気を利かせて、少し距離を取っている。
「世迷い言を……。さっさと家に帰るんだな」
「武者修行の旅の途中ですぅ〜、帰れないですぅ……それならスペックさん、連れてってください」
「なぜ俺が」
「夫になる人を連れて、帰るという約束だったですぅ」
「だから、なぜ俺が!」
 と言いながらもスペックは、アヤという娘に強く惹かれるものを感じていた。
 実は二人は遠い親戚なのである。アヤの先祖チョコと、スペックの先祖トモヤは恋人同士だったのだが、二人がそれを知るのは、結局アヤの実家に二人して帰参する数年後のことであった。

 北方に進むにつれ、雪に覆われた凍土が続くようになる。猛烈な吹雪が襲ってきて、四人はそれぞれの騎上で身を寄せ合って進んだ。
 その途上、全身甲冑の戦士が一行の前に立ちはだかる。
 妨害しようと出てきたのではない。親切に教えに来たのだ。
「この先は駄目だ。雪崩が発生して踏破できそうもない。迂回路を取るほかあるまい」
 そのとき、ふっ、と、それまで荒れ狂っていた吹雪が止んだのである。すると、相手の姿がはっきりと見える。その甲冑、兜の形状にはたしかに見覚えがあった。
「アドミニさん……アドミニさんですよね!」
 スティードから降りて、ユウキは甲冑戦士の手を取ったのである。
「お久しぶりです。こんなところで出会えるなんて、僕は……」
「アドミニ? 我はアドミニではない。その子孫、重騎士のゼロム・フェイドだ。……あ、ああ、この全身鎧と素顔の見えない兜では、祖先と間違えても仕方ないな。すまん」
 甲冑騎士は兜を脱いだ。
 獅子の顔である。稲穂色の鬣が風になびき、頼もしい眼差しがこちらを向いている。
 迂回路そばの空地に設営し、焚き火で暖を取った。
「そうか、貴殿らは我が先祖をご存じか。やはりアドミニを知る者には、我もまた、性格が生真面目で一直線……祖先に似ているとよく言われる」
「そうですね……でも、それって、誇っていいことですよ」
 ゼロムの生活は、人々を陰ながら守る日々である。最前の道のように危険な場所があれば知らせ、盗賊を捕獲するなど犯罪の取り締まりもしているという。時には、変異動物を追い払う役目も買って出ていた。実際、ゼロムは迂回路に入る前に、旅人のために案内板を設置していた。
「一見すれば地味な事だが、俺は誇りに思う」
「立派だと思います。アドミ……ごめんなさい、ゼロムさんのような冒険者が、多くの人々の安全と財産を守っているんです」
「『力は誇示や過信せず常に精進し、力無き者を護る為にある』――我ら一族は代々、この言葉を守り、全身鎧と共に次代へと受け継いでいる。力に溺れ無い為の戒めだ」
 あらゆる脅威が去り、冒険者こそが地上最強となったがゆえ、この戒めは重要な意味を持つだろう。若いアシュトン、エミールにも、覚えておいてもらいたい言葉といえよう。

 さらに北、もはや寒さは絶対零度に達しようとしている。
 風雪に埋もれ、寒さで涙まで凍らせ、それでも乗り越えたクレバスの向こう、そこには、これまでが嘘に思えるほど温暖な世界が待っていた。
「まさかこんな遠いところまで来て下さるとは」
 ようこそ、とレミントンの太守、リナリーが出迎えてくれた。
「温かいでしょう。ここは別名、春の都ともいわれております」
 たどりついた四人を眺め、リナリーは満足げに言う。
「ユウキさんとフェイトさんは変わらないままですね。アシュトンさん、エミールさんのように、先祖とは姿が変わっても、懐かしい方の面影を残す方もいらっしゃいます。私も千年間生きましたが、おかげさまで何度かの危機を迎えつつも、この千年、国を守り発展させることができました」
 巷じゃ私の方が化け物だとか言われますが、とリナリーは自嘲気味に告げた。
「忙しすぎておばあちゃんになる暇が無いんですよね」
 冗談めかしてはいたが、「連れ添った方も先に逝きましたし……」と言ったときの彼女は、いくらか寂しそうな横顔をしていた。
「あのクレバスはもう越えなくても宜しいですよ。ここからは軍艦で、近場の港まで、みなさんをお送りさせましょう」
 申し上げましたでしょう、とリナリーは微笑した。
「ここは最果ての『軍港都市』レミントンです、って。さあ、ご遠慮なく」

 船は一旦、軍港ではなくプレアデス群島に停泊した。
 ここも立ち寄りたい場所だった。この島の領主は、レティリウスなのだ。
「惜しいな、もう少し早ければ結婚式を見せられたのだがな……まあ何にせよ歓迎するよユウキ殿」
 レティリウスはほんの少し前に結婚したばかりだという。船着き場まで、一行を迎えに出てくれた。レティリウスの放浪は、数年前唐突に終わりを告げた。
 出逢いは、ある遺跡の最深部にあった。
「紹介する。我の伴侶、ミシェレアナだ」
 そのときレティリウスは、いくらか気恥ずかしげに、されど堂々と言った。
「汝の妻にも負けない、優しく嫋やかな自慢の嫁だ」 
 ドリアッドの少女が照れくさそうに頭を下げる。
 まるで運命の導きと、レティリウスは思ったものだ。ミシェレアナ・リフレイン、遺跡で知り合った少女はやがて、彼の旅のパートナーとなる。紆余曲折はあったものの、それがいつか、生涯のパートナーへと変わるのに、それほど時間は必要としなかった。
「フェイト殿もお変わりなく。おお、そちらは、プルミエール殿、アイ殿の血を引く者とな。お会いできて光栄至極だ」
 好きなだけ滞在してくれ、すぐに祝宴を用意させよう、とレティリウスは嬉しそうに告げる。
「後はゆるりと、互いの過ごした百年間を語らおうではないか」

 北方の高原に広がる王国は、エクセルの一族が作り上げたものだ。
 百年前も同行したエクセレンが、一行を出迎えてくれる。
「一時的に住むだけのつもりだったんですよ。最初は。なのに、いつの間にか私の兄弟や子沢山にあやかった人々が集まって、王国になっちゃいました」
 凍土に近い土地だが、春夏の実りは豊かで、冬も海産物に恵まれているという。エクセレンは、心づくしの海産物で一行を歓待してくれたのだ。
「母ですか? 他国との縁談が嫌でどこかに隠れているみたいです。千年たっても父を想い続けているんですね。羨ましいな」
 エクセレンは、国境付近まで一行を見送ってくれた。
 そこから一週間ほどかけて、フォーネの出身地へ辿り着く。
 決して大きくないが、牧畜が手広く行われ、家々からは暖かな湯気がのぼる穏やかな村のようだ。
 村の背後に横たわる、万年雪積もる山嶺が蒼く美しい。
「英雄フォーネの実家……そりゃー、ラインブルグさんの話だべか?」
 道を尋ねた子どもが、小高い丘を指さす。丸太造りの木造住宅があった。
「あすこだべよ。ディーク・ラインブルグ、って兄ちゃんが住んでんだぁ。でも、誰も本名じゃ呼ばねぇよ。『学者先生』っていうのが通り名だべ」
 呼んでくる、といって子どもは丘を駆け上っていくが、すぐに戻ってくる。
「あー、だんめだべ、学者先生、また研究モードだべ」
「研究モードとは、どういう意味です?」
 フェイトが問うと、
「うん……なんてぇか、行ってみりゃ判ると思うだがや」
 小屋のドアを開けると、雷鳴のような叫びが一行を迎えた。
「だらっしゃぁぁ! どーにも上手くいかん!」
「あ、あのー」
 と奥に向かって声をかけると、ややあって、恥ずかしげな声が聞こえてきた。
「ああ、お客さんかい? すまない、研究が煮詰まってて」
 眼鏡をかけた青年だった。白衣を羽織っており、さっきまでかきむしっていたのか頭は少々くしゃくしゃだが、凛とした目を持つ理知的な風貌の若者である。
 昔取った杵柄でフェイトが珈琲を淹れ、これを飲みながら打ち解ける。
「すまない。ユウキさん、皆さん、ちょうど研究が煮詰まっていてね。むしゃくしゃするとつい、大声を出してしまうんだ」
 フォーネの尽力で、村は慢性的な飢えから開放された。トナカイの牧畜や、寒さに強い品種の小麦などによって、安定した食料生産が可能になったのだ。また、フォーネは花の栽培業にも成功し、いまではこれが、夏の主要産業になっているという。この地域にしか咲かぬ、清らかで青い花は『星華(セイカ)』と名づけられた。これはかつて、フォーネが関わった華道に関連した名前らしい。
「彼女は本当に、眠る間も惜しんで村のために働いたというよ。おかげでこの村は救われたけど、まだまだ、地域全体で見ると生活が楽な人は少ない。だから僕も、いざというときは重騎士として戦う一方、普段は作物や土地の研究にとりかかっているんだ。各地の貧しい土地を救うためにね」
 フォーネの魂は、ディークのなかにも宿っているのだ。それを知って、ユウキもフェイトも頼もしい気分になった。彼らは短期間滞在し、主にアシュトンが知識を総動員してディークの研究に協力した後、南方へと戻ったのである。
 別れ際、学者先生……ディークの語った言葉を、ユウキは胸に反芻していた。
「平和になって幾年が過ぎても、暮らしの為の戦いは続くものでね。なに、辛くは無いさ、人の喜びの為なのだから」

 一行は今度は南下の道をとる。いつしか季節は春になっていた。
 山中、草庵のような場所に、その人は一人で暮らしていた。
 まったく歳を取らず。美しいままで暮らしていた。
「私の時間は『あの時』に止まってしまったのですから」
 小さく口元を歪めて、ルーシェンは微笑した。
「ユウキさん、フェイトさん、アシュトンさん、そして……エミールさん。こうして会いに来てくれたことを感謝しますよ」
 ルーシェンは、熱いお茶を出してくれた。
 四人が去ったのち、ルーシェンは一人、板張りの部屋に座り、じっと天井を眺めた。
(「不思議です。彼らとお会いして、私の中で何かが、再び動き出そうとしているような……」)
 いつの間にか彼は、旅支度を始めていた。
 草庵を捨てるときが来たらしい。

 ようやく探し当てたマサトの孤児院だが、残念ながらマサト本人は留守とのことだった。
「ユウキさんですね? 先生は今出かけていらして。是非ともお話したかったらしいんですが……」
 玄関先に出てきたのはマサトではなく、同窓会にも姿を見せた少年シオンだった。
「せっかく来たんです。一日二日くらいならお待ちしますよ」
 アシュトンが告げたが、
「申し上げにくいのですが……」
 シオンはやはり、残念そうに首を振るのだった。
「物資の買い出しなのです。この孤児院もそろそろ百人規模になろうとしています。これだけ児童が多いと、どうしても、大量の物資が必要になるのです。毎年春頃、先生は買い出しに奥様とお出かけになるのですが、一旦出られると一ヶ月近く戻ってきません。ときには二ヶ月になることも……」
 ちょうど先週マサトは出たばかりらしいので、それだけ長く、ユウキたちを引き留めるのは心苦しいとシオンは深く謝した。
「それなら仕方がありません。シオンさん、かわりにマサトさんの近況をお聞かせ願えますか」
「はい。先生の夢は相変わらずですよ。『出会えて良かった』って思われる人になりたいって」
 最近のマサトは、それが口癖らしい。
「そうか、じゃあ、くれぐれもオイラたちの来訪を、先生によろしく伝えてくれよな!」
 と言って去るエミールの背を、シオンはずっと見つめていた。

 アンジェリカと再会したのは、花咲乱れる湖畔だった。
 湖を眺めていた一行の元に現れて、
「ユウキちゃんと奥さん、ヤッホ〜♪」
 真っ赤なグランスティードの背からくるっと飛び降り、彼女は着地した。
「やっぱり、世界は広いね♪ 千年、旅して回っても、全然、覚えきれないモン♪」
 どうしてここへ、と問うユウキに、アンジェリカはにこにこと応えた。
「なんか南の方で新しいお祭りが始まったんだって♪ そういう所で、また新しい踊りや歌が出来てたりしてるんだよ〜♪ 楽しみ〜♪ 行ってくるね〜♪」
 手を振るともう、彼女はスティードに飛び乗っている。
 またね♪ という言葉が消えたときには、アンジェリカの姿も消えていた。
 一行は湖畔でテントを張ったのだが、翌朝早々、元気な声と水音に起こされることになった。
 投げ飛ばされた少女は、水に落ちたかと思いきや、同じ勢いで飛び出してくる。
「今度こそ、もらったぁー!」
 少女は狐尻尾のストライダーだ。ユウキたちの知らない娘だが、あの身のこなしは常人のものではない。大鷲のように空を翔け、湖岸に立つ相手に、岩をも砕きそうな蹴りを見舞った。
「踏み込みが甘いっ!」
 しかし一撃は、ごくあっさりと防がれていた。しかも相手は、ただ片腕を無造作に上げただけなのだ。されどその反動で、蹴りを見舞った少女は再びボールのように弾かれて水に落ちる。天にも届きそうな高い水柱が上がった。
「まだまだ、このくらいでやられるヤシロさんじゃないんだよ〜」
 ヤシロはパンパンと手をはたいて笑っている。ここで、テントから出てきたユウキに気づいて、
「あ、ごめんなさ〜い。朝から騒いで起こしちゃった〜? そちらは確か……ユウキさんだね〜」
 同窓会で会ったきりだが、彼女――ヤシロは、ユウキのことを記憶していたらしい。
「あ……危ないっ! さっきの刺客が!」
 ユウキは湖面を指した。大量の水滴を落としながら、襲撃者がまたも上がってきたのだ。
 抜刀しようとするユウキとアシュトンを、
「待って、ユウキさん、刺客じゃないから〜」
 とヤシロは制する。
 事実その通りだった。襲撃者……ツクノ・ヒジリは、びしょ濡れの状態に構わず、ヤシロの眼前に正座したのである。
「う〜、やっぱダメか〜。そろそろお師さんに一撃入れられないもんですかね」
「隙があったらいつでも襲ってきなさい、って言ったけど、まだまだツクノちゃんは遠慮があると思うな〜」
 どうやらヤシロは現在、ツクノという名の弟子とともに修行の旅をしているらしい。
「なんだか知らないが面白いものが見れた気がするな〜、お二人さん、朝飯ぐらいご一緒していかないかい?」
 エミールが二人に声をかけ、
「そう思って、まずは人数分、珈琲を沸かしています。タオルもありますので」
 フェイトもまた、誘ってくれる。
 珈琲カップを傾けながら、ツクノは事情を語った。
「私はこれまで武道家として活動していたのですが、周囲に自分より強い相手がいなくなって、少々退屈していました。ところがある日、私の遠い遠い祖先のユヅキ様が、残してくれた手記を発見したのですよ〜。手記には、ユヅキ様の妹であるヤシロ様という名の武道家が、世界平定時のままに不老となって生きていること、しかも最初から胸が大きかったことが克明に記されておりました。何ヶ月もかけ、ついに本人を捜し出した私は、以後、押しかけ弟子のかたちで弟子入りさせてもらっているのです〜」
 ツクノの発言のうち『しかも最初から胸が大きかったこと』という部分は初めて聞いたので、ヤシロは飲んでいた珈琲を吹きだしそうになったが……こらえた。
「世界平定時の冒険者ということがばれてしまったのは残念だけど、旅は道連れっていうしね、ツクノちゃんを鍛えつつ、これからも漫遊していくつもりだよ〜」
 また縁があったら、といって、子弟は立ち去った。次会うときまでに、ツクノはヤシロに一撃でも与えられるようになっているだろうか。

 マサトに限らず、孤児院の設立という形で、社会貢献する冒険者は少なくないようだ。戦争で数多くの孤児を見てきた悲しみが、その根底にあるのかもしれない。
 朱い孤児院、という名の建物は、風光明媚な高台にあった。
「まあまあ、よくおいで下しました」
 その院長ことロゼリアは、一行をあたたかく迎えてくれた。
「え、名前の由来ですか? 由来はまぁ、色々お世話になったとある方にちなんで」
 そこまで言って、ロゼリアは軽く溜息をつく。
「一度旅に出ると全っ然帰ってこないんですわよね。今、何してるのかしらあのピンクのなまもの」
 ピンクのなまもの(?)を見つけたら、戻るよう伝える、とユウキは確約した。
 予期せぬ出会い、というものはある。
 途上、冒険者に好意的な富豪に一夜の宿を求めた一行であるが、なんとその家の執事が、冒険者の子孫だという。ぴしっとした執事服に、一点の曇りもない動作、聞けば、彼の直系の先祖はあのヴィクスだというのだ。
「アルスと申します。放浪執事とでもお呼び下さい」
 なんでも、ヴィクスの子孫には何代かに一人、執事の才能に卓越した者が現れるという。
「そうした者はすべて、『アルス』と名乗りどこかへお仕えするのでございます。一カ所に生涯お仕えするということはあまり例がないようです。実際、私もここが三件目の奉公先でございますし、一時期はその手の喫茶店で仕事をしていたこともございますよ。そういえばユウキ様とは、一度お会いしたことがあるような……?」
「いえ、僕は記憶がありませんが……」
「左様ですか。ああ、そうだ、『ミネルバ・キャッツ』なる高級娼館で、ほんの一時期、レディをエスコートする係をしていたことがありますが、そこでお目にかかったような……?」
「ユウキ、娼館って?」
 ひた、とフェイトが顔を間近に寄せてきたのでユウキは大慌てで否定することになった。
「ち、ち、違います! 確かに行きましたけど、あれは冒険者のミネルバさんに話を聞きに行っただけで……! ちょっと、エミールさん口添えして下さいよ」
「ユウキ様? そんなことありましたっけ?」
「うわー、ちょっと、そういう意地悪言わないで下さいよ。ほら、僕がエミールさんの邪魔をしたとき……え、なにを邪魔したのかって? えーと……」
 ユウキが色々大変になってきたので、フェイトもエミールも吹きだしてしまった。
「なんだ、二人ともわかってたんじゃないですかー!」

 冒険者たちの慰霊塔が、墓地の中央に建っている。
「ボクもだけど、ユウキさんもフェイトさんも変わらないね」
 ユウキはここでマナヤと会っていた。今日のマナヤは、思うところが多いのか言葉少なだ。
 たしかにユウキも、ここでは言葉少なくならざるを得ない。
 この地には、散っていった冒険者の慰霊塔があるのだ。戦いで喪われた命、世界平定を達成したものの、その後天寿を全うした者達の命――それらを祀る象徴が。だからユウキも、ここへはフェイトだけを伴い、子孫の二人は置いてきた。
「いなくなっちゃった人もいて、さみしいけれど、その子孫の人たちが頑張ってるから一緒に応援して行こうよ」
 この場所に葬られている冒険者はまれだ。それぞれの遺骨は、それぞれの故郷や終焉の地にあるだろう。それでもこの場所には、象徴としての意味がある。
「みんなに今の平和を報告だね」
 マナヤは手を合わせた。
「みんなの思いはボクらが受け継いで広めていくよ」
 その翌日。
 ロゼリアが言っていた『ピンクのなまもの』とは、ロゼリアとの再会から数週間後に出会うこととなった。小さな町の定食屋で食事中、偶然同席になったのだ。
「世界を見るのも疲れたし、しばらくいろんな人を見ることにしようと思って」
 なぁ〜ん、とフォークを使いながらアコナイトは言った。彼女は世界見物を休止し、現在は人間見物の旅を行っているらしい。結局、各地を歩くという内容は同じかもしれないが、出会いを大切にするという意味では異なるといえよう。
「なので、ユウキさんの話を聞かせてほしいなぁ〜ん」
 好奇心いっぱいの目で、アコナイトは彼を見る。
「いくらでも教えますけど、近いうち一度、ロゼリアさんのところに帰ってあげてくれませんか」
「あ、忘れてたなぁん」
 アコナイトはどうやら、本当に忘れていたらしい。

 桜が散る頃、ユウキ一行はシェフィールド辺境伯領へ到着した。
 八百五十年ほど前に、突如アリシアたちが名乗って起こした領土であるが、果断の人アリシアと、その果断を鉄のツッコミで裁定する歴代執事という、別名『漫才主従』のコンビネーションは素晴らしく、もともと乾燥帯でなにもなかったこの場所を、職人の街として、焼き物や刀剣といった工芸品にて名高い土地へと改造することに成功していた。
「ようこそユウキ様フェイト様、当家の主人アリシア様はこちらでお待ちですなぁ〜ん」
 というヒトノソリンの老執事に案内され、ユウキとフェイトは領主アリシアの元に通された。
「ようこそシェフィールド辺境伯領へ、何も無いところですがゆっくりしていって下さいませ」
 アリシアは、かつての日々と何ら変化はない。ユウキたちを心から歓迎してくれた。
「工芸品を山ほど買ってくれなんて言いませんが、場合によってはお引き留め致しますわ」
 ……心から(?)歓迎してくれた。
「それは買えと言っているのと同じですなぁ〜ん」
 ずびし! 痛いばかりの直線的なカグヤ(昔の執事)のツッコミと違い、ヒトノソリン執事ハヤト六十歳のツッコミは、いつも軽い脳震盪を起こすほどにテクニカルだ!
「はわはわ、はわ」
 一時的に朦朧状態となり、アリシアは短い時間ふらふらと踊ったが、やがて意識を取り戻し、
「ええと、最初にいくらもってるかご予算をお聞かせ下さると嬉しいですわ」
「だからそういう下品なことは言うなですなぁ〜ん」
 ずびし! ヒトノソリン執事ハヤト六十歳のツッコミはテクニカルだ!
「はわはわ、はわわ」
(「こんな頻繁に脳震盪起こして大丈夫でしょうか……アリシアさん」)
 ユウキとフェイトは、心配そうに顔を見合わせた。
 なのに、シェフィールド辺境伯領を出る頃には、なぜか一行は山のように工芸品を買っていたのである。(実際、高品質だったということもあるが)

 ところが、さっそくシェフィールドで購入した工芸品が役立つことになった。
 長い時間をかけて、血も乾くような灼熱の乾燥帯を越え、ようやく次の商業都市に到着したユウキたちは、邪魔になってきた工芸品をこの都市の商人に見せてみた。すると、驚くほどの利益率で買い取られたのである。下手をすると倍以上の価値で飛ぶように売れた。一時的にだが、旅費が潤った。
「確かこの町には……」
 ユウキは看板を探す。
「あった!」
 宝石商だ。店主の名は、ミヤコ・ヒナマツリ。
 退屈そうにしていたミヤコだが、ドアが開くなり反射的に立ち上がった。その相手が長年の友人だったときの喜びは、通常に何倍もする。
「ユウキさん、お久しぶりですの」
「ミヤコさん、本当にお久しぶりです!」
「お揃いのドレスまだ持ってますのよ〜」
「ええっ、あれまだあるんですかっ!?」
 ちなみにユウキの分は、リバーフィールドの王立宝物殿に飾られている。
「さてさて、今日は奥様もようこそ。そちらのお二人はご子息ですかしら? ……えっ、プルミーさんとアイさんの? でしたらお値段のほうも、うんと勉強させていただきますわ。奥さまにこちらのブレスレットなんていかがです?」
 店を出るとユウキ一行は、元王侯らしく華美になっていた。
 ただし、今日にわかに稼いだ分はあらかた消えている。
「まあ、いいんじゃないですか。所詮は濡れ手に粟、だったのですから」
 フェイトは微笑んだ。腕を持ちあげ、翡翠のブレスレットにうっとりする。
 旅費がにわかに増えた直後は、「今夜は豪華ディナーですなーっ♪」と浮かれていたエミールだが、まあこれはこれで、と屋台を提案することにした。
「じゃあ、どこかお願いします」
 と日が暮れてきた街を歩む一行に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「な〜そこの兄さんたちー……やっぱり! ユウキ一行やんか!」
「アスさん!?」
 屋台の内側に白いエプロン姿でいるのは、たしかにアスだ。ちなみにその屋台には、『こなもん』という大雑把な看板が掛かっている。(要するに『粉もの』。焼きそば、お好み焼き、たこ焼きの類の総称)
「どうしたんですか、そんなところで?」
「労働や、労働少女してんねん。一皿やったら驕るよって、食べてってや〜」
 屋台の席なんかたかが知れているから、一行が座るとそれで貸し切り状態となる。
「まーねー、儲けたくてやっとんのとちゃうねん。趣味兼冒険の旅費稼ぎって感じかなぁ、成功したらその資金で冒険に出るし、失敗したらやっぱり資金のために冒険に出とる」
 慣れた手つきでアスは、人数分の焼きそばを豪快に焼いてくれる。
「そう言えば結婚したんやって? 銀婚式はとっくに過ぎたようけど、おめでとさんやね。サービスで大盛りや」
 楽しい屋台ディナーの夜が過ぎていった。

 さらに南方に進むと、もはや熱帯といっていい状況となる。鬱蒼と茂る植物をかきわけ、湿地帯や昼夜問わず襲ってくるスコールに閉口しつつ、それでも一行は進んだ。
 ある夜、眠っていたユウキは、エミールの言葉で飛び起きるはめになった。
「うわー! ユウキ様、巨大な蛙が!」
「今行きます!」
 ユウキが剣を掴んで飛び出すと、
「巨大な蛙が、なんか紅い髪をしたヤツに一撃で倒されました!」
「え……?」
 ニヤッ、と不敵な笑みを浮かべて、蛙を倒した漢(おとこ)が振り返った。
「漢なら拳で真っ向勝負なぁ〜ん!」
 スコールで前髪がべったりと額に貼り付き、自慢の特攻服もぐしゃぐしゃだったが、それは確かに、バリバリに酷似した姿だった。恐らくは直系の子孫のボカボカだと思われた。
 かくも困難な密林の旅だが、その奥地に小屋があり、しかもそこに『御茶屋』と描いた看板が下がっているのを見て、一同は安堵の吐息を漏らした。
「いらっしゃい♪」
 立ち上がって迎えてくれたのは、二十代前半にまで成長したアリアだった。
「ユウキさん? おひさしぶり。そちらの人はプルミーさんの子孫だね♪」
「あれ? なんでわかったのかな? そういやみんな、結構一発で見抜くよね、同じ格好をしているわけでもないのに……ほら、オイラ男だし」
「なぜかなあ、雰囲気かしら? なんかね、プルミーさんにそっくりの、一緒にいて安心できる雰囲気みたいなのがあるんだよ」
 と言いながら、アリアはいそいそと茶を入れてくれる。
「はい、銀栗鼠(ぎんりす)伯領産の高級品よ。隠居生活が長くて人恋しかったのよ。今日は尋ねて来てくれて嬉しいわ」
 アリアはふと、プルミエールのことを思い出したらしい、エミールに語る。
「あなたのご先祖のプルミーさんね、とても羨ましかったの。たくさんの人々に愛された冒険者で、とても魅力的な人だった。私も彼女のこと大好きだったのよ」
 アリアは思った。プルミーさんはとうに、お空に召されてしまったけれど――
(「それでもほら、あなたの子孫は元気に冒険をしているみたいよ♪」)

 南方にはまた、常夏の島のようなところもあった。
 ボートを漕いで一行は、そこに住むという『彼女』に会いに行った。
 椰子の木陰でハンモック、ゆらゆら揺らしてまどろむ少女は、アールコートその人だ。
「わ、お久しぶりですユウキさん☆ こちらは、プーミンさんとアイさんの子孫ですか?」
「ええ、エミールさんと、アシュトンさんです。アールコートさんは最近どんな具合ですか」
「具合は良いですね〜。相変わらず、ただのんびりと過ごしています。ユウキさんも、みなさんも、お近づきのしるしにハンモックでお昼寝でもどうですか? 人数分ありますよ☆」
「いやそれは……」
 と、ユウキが振り向くと、とうにエミールはハンモックで熟睡しており、アシュトンも不安そうな顔をしながらこれに乗っていた。
「ユウキ、せっかくだから……試しません?」
「フェイトさんまで!? ……じゃあ、やります」
 なんとそのまま約一週間も、一行はとりたててなにもせず、のんべんだらりと揺られて過ごした。
「時間を無駄にしてるって言われるかもしれません★ でも、時間を無駄にできる自由を勝ち取ったのが、あの頃の戦いだったんですよね♪」
 というアールコートの言も、一理ある。
 温暖な丘陵地帯に、ユキトの治める一帯がある。
 ごく小さな領地だが、ユキトにとっては自分の王国だ。王妃マリーとともに穏やかな統治を行っており、領民からは『銀栗鼠伯』と呼ばれ慕われている。
 銀栗鼠伯領の名産である茶畑を散策しながら、ユウキはユキトならびにマリーと久闊を叙した。
「こうやって散歩しながら領内を見回るのが一日一度の楽しみですね。そして」
 話しながらユキトは、出し抜けにひょい、と茶畑の柵を跳び越えた。
「仕事に飽きて脱走して従者に追い回されるのもまた、ときどきやる楽しみっ!」
「ちょ、ちょっと……!」
 いきなりのことなのでユウキには止めようがなく、ユキトはまた風のように消えてしまった。
「もっと纏まった休暇を寄越せ!」
 という捨て台詞を残して。
 だが従者たちも手慣れたもので、わっと四方から領主を包囲にかかるのだった。
 ところでその従者のなかに、執事アルスが混じっているような気がするが気のせいか……?

 東南部の工業都市に辿り着く。
 工業、といったところで、ランドアースの工業力の発展は微々たるものではあるが、それでもこの町では、鉄器の生産や鋳造技術などが幅広く行われているのだ。
「この都市そのものが、ほぼステライト・コーポレーションの所有する建物らしいですね」
 フェイトが感心したように言う。
 そう、かつてアロイが発展に尽力していた商工会、その名も『ステライト商工会』は、アロイ亡き後も順調な発展を続け、ついには『ステライト・コーポレーション』という名の大きなグループに発展していたのだった。
「しかしこのところのコーポレーションはイメージが悪いですね。利益重視すぎて、かなり強引な手法も使っていると言います。とある歴史家の史書にもあるのですが、発足時の理想と現在とでは大きな隔たりがあるようですよ」
 アシュトンがそう語っている数十歩後ろを、まさしくそのコーポレーションの跡取り息子が歩いているのだが、本人も、彼らも、まだお互いには気づいていなかった。
(「英雄・合金紳士アロイの子孫? 大企業ステライト・コーポレーションの跡取り? んなこと知ったことじゃない! 俺は俺! ブランシャル! ステライトの姓は関係がない!」)
 彼の名は、ブランシャル・ステライト、十七歳になったばかり。彼は、総領の跡取りとして育てられたこれまでの人生に嫌気がさし、家を飛び出したところなのだ。彼は先祖の武器庫から、全身甲冑と兜、剣を持ち出していた。
(「この身、この鎧、この兜、この剣があればきっと大丈夫! さぁ、俺の物語のはじまりだ!」)
 兜をすっぽり被り、育ちきっていない彼の体格には少々ゆるい鎧兜で、金属音立てながら歩く。
「ん……あの人……?」
 ふと、ユウキが振り向いた。
(「ん……アイツ……なんだろ、ヤケに懐かしい感じがする……」)
 ブランシャルも視線を止めた。
「あの、もしかして、アロイさんの子孫の方ですか?」
「アロイ、そんなヤツは知らないな。俺はブランシャル、ただのブランシャルだ。ところでアンタらも旅人かい?」
「はい。この広い世界のほうぼうを諸国を巡っています」
 なら、とブランシャルは言った。まだ名前も知らない相手なのに、彼ら一行には素直になれる気がしたからだ。
「良かったらさ、途中まで一緒しねーか?」
 そのとき、すぐそばに積まれた瓦礫の山を、ガラガラと崩して小さな少女が現れた。
「瓦礫と一緒に捨てられちゃった……う〜、ここどこだろ〜? 街? こんなところに街なんてあったっけ〜?」
 少女はひょっこり身を起こし、
「さすがに知らない街に知り合いなんて……あれ、いた?! お〜い、そこにいるのはアロイちゃんとユウキちゃんだよねー」
 そう、アイリーンの登場だ。
「まさかこんな知らない街で千年前の知り合いに会えるなんて思わなかったよー。懐かしいなー」
 やはりアイリーンのラッキーは健在のようである。
「お久しぶりです。でもこの方は、違うそうですよ……」
「俺はブランシャルだ」
「アロイちゃんじゃないの? 鎧なのに?」
 アイリーンはきょとんとするが、深く気にしないのが彼女の長所である。
「ん〜、ま、いいや。ボクの知ってるトコに出るまで、しばらく一緒させてー」
 その後約一ヶ月、ブランシャルとアイリーンはユウキ一行に加わって各地を旅した。
 最後までブランシャルは正体を明かすことはなかった。しかしいつか彼の、先祖への誤解も解けることだろう。そうして、彼自身が先頭に立ち、コーポレーションの改革に乗り出すに違いない。その頃には、ユウキがアロイの弟子というべき存在だったことも知るはずだ。されどそれを学ぶより前に、ブランシャルが学ぶべきことは山のようにあるのだった。
「じゃあな、ユウキ、フェイトも達者で! アシュトン、エミール、またな!」
「僕はもうしばらくブランシャルちゃんといるよー。じゃあねー!」
 手を振って離れていくブランシャルとアイリーン、その後二人は、波瀾万丈の冒険に巻き込まれることになるのだが……それはまた、別の話である。

 小さな宿屋でユウキがドアを開けると、正面のドアから出てきたレラと鉢合わせになった。
「あっ、レラさん!? 奇遇ですね」
「奇遇も奇遇の大奇遇じゃのう。妾は旅行中なのじゃ」
 ドアに顔を入れ、中にいる恋人に「ちょっと出てくる」と言い残し、レラはユウキと連れだって外に出る。
「そうか、ユウキ殿は王を退位したとは聞いておったが、その後はずっと旅をしておるのか……」
「ええ、妻……つまりフェイトさんと、プルミーさんの子孫、アイさんの子孫と一緒です」
「あとで紹介してくれんかのう?」
「もちろんです。ところでレラさんはお変わりありませんね」
 するとレラは、壁に手を付いた後、ごんっ、と自らの額を当てた。
「変わっておる。変わっておるぞ!」
「えーっと、さっきの方は恋人さんですよね……あ、千年の間にお相手が変わりましたか」
 レラはもう一度壁に手を付き、ごんっ、と自らの額を当てた。
「気づけ! 外見年齢じゃ! 二十歳くらいになっとるじゃろう! 背はあんまり変わってないかもしれんが……ほれ、どこか成長している場所があるじゃろうて!」
「え、えーっと……」
 ここでレラはふと気づいた。確かに、バストは大きくなった。しかし千年前の自分は、ジャンポール氏の店で購入した胸パッド(通称「ぱっつんぱっつんだべ」)を入れていたと言うことを! つまり見た目は同じ、その正体が「補強」から「天然」へと変化したに過ぎないのだ。
「うむ、さっきの無し、じゃ」
「はい?」

 とある寂れた墓地で、ユウキはネレッセと再会した。
「あなたは……」
 最初、ユウキは彼を彼と認識し得なかった。なぜならネレッセは、体を白いローブで足元まで覆っていたからだ。
「傷が増えたものでしてね。……大丈夫です。健康ではありますから」
 彼は墓地をめぐる旅をしているという。シュナイダー家の墓守と、時間が経ち子孫から忘れられた冒険者たちの墓を訪れては、清めて花を供えるという旅だ。マナヤが手を合わせていた供養塔にも、無論毎年のように参詣している。
「その途中でいろいろな厄介に巻き込まれるのですけどね」
 冒険者としての日々が恋しくないといえば、嘘になるだろう。ですが、と彼は言う。
「墓を守る者がいないのは寂しすぎませんか」
 ネレッセは穏やかに微笑んだ。

 ユウキ一行の旅先はランドアースばかりではない。
 ときにはワイルドファイアへ足をのばすこともあった。
「ユウキ、ここだよー♪ フェイトも、プルミーの子孫もアイの子孫も、こっちこっち♪」
 道中、彼らを誘う手紙を受けた一行は、エルの暮らすワイルドファイアの大地へと上陸していた。
 ユウキとフェイトは平気だが、アシュトン、エミールは初のワイルドファイアに戸惑うことしきりである。巨大すぎる植物、巨大すぎる動物が待つ常夏の国、しかしそこは、エルにとっては名実ともに心の故郷なのだった。
 彼は屈託なく笑う。
「色んなトコを巡ったけど、やっぱりココが安心するんだ♪ よく来てくれたねっ♪」
「ワイルドファイアにも久々に来てみたかったですから。それに、なんといってもエルさん直々のお呼びですし」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」
「趣味の首輪集めの具合はどうですか」
「そそ、いっぱいたまったんだ! この調子なら首輪マスターも近いんだよっ。そうだ、ユウキにお土産として、とっておきの首輪を上げよっか?」
「いや、いいですよ。僕、そもそも首輪がいるような動物飼ってないし、エルさんの大事なコレクションだし……」
 と遠慮するユウキであるが、エルはお構いなしに運んできてくれた。
「はいっ、ワイルドファイアサイズの首輪っ♪」
 擬音は『ぱおーん』がいいだろうか。象向けとしか思えぬサイズの首輪だ。
「え……どうしましょうか……」
 フェイトも困ったように言葉を濁す。
「やっぱいらないかなー?」
「え、ええ、ちょっとこれは……」
「じゃあ、象をつけてプレゼント♪ 大丈夫、象はランドアースサイズだから♪」
 本当にエルは出してきた! 大丈夫じゃないぞ!
 擬音はやはり『ぱおーん』がいいだろうか。

 再び、ランドアース。
 ユウキはいくらか気分が重くなった。
 もうじき、リルルの現在の住居に着く。ユウキは直接目にしていないのだが、平和樹立百周年のフラウウインド探索で、泣きながらティムとレイニーの元より走り去っていくリルルが目撃されている。いくらなんでもあれから九百年も経過しているのだから、リルルもいつまでも落ち込んではいないと思うが、やはりこのあたりは禁句にしたい。
「フェイトさん、『レイニー』さんとか『ティム』さんの話はしない方向で……」
「別に構いませんが、それほど気を回さなくても大丈夫と私は思いますよ」
「いえ、やはりデリケートな問題ですから……」
 ところが。
「なんじゃ、ユウキではないか? 久しいのう」
 ノックに応えドアを開けたのは、そのレイニーだったのだ。
(「家、間違えましたっけ……?」)
 否。その家には、リルル本人もいたのだから。
「あー、ユウキちゃんなのね? そちらは奧さん? え? アイちゃんとプルミーちゃんの子孫もいるの? 入って入って〜」
 部屋にはハーブティーとお茶菓子の用意がしてある。綺麗に片付いており、リルルの几帳面な性格を現しているようだった。
「ちょうどレイニーちゃんも遊びに来てたの。なんかね、レイニーちゃん、またティムちゃんと離婚したみたいなの。もうよりは戻さないって……それって前もその前もその前も言ってたよね?」
「また?? その前??」
 事情通のアールコートさんにわかりやすく説明してもらいたいっ、とユウキは思った。
「そうじゃ、この千年、もうかれこれ十二回も、あやつとの離婚と再婚を繰り返したが、今度という今度は頭に来た! もうよりなど戻してやらぬのじゃ!」
 見れば、レイニーも背が随分伸びたものだ。口調こそ同じだが、すっかり大人の女性である。
「ティムちゃんとレイニーちゃんの間にはねー、子どもだって十二人もいるんだよ。子どもたちはみんな、ティムちゃんのところみたい。いくじほーき、っていうのかな? だから多分、ティムちゃん今、過労死しそうなの」
 ちなみに他の夫と再婚することもあったので、父親がティムでない子どもも三人いるそうだ。
(「さすが千年……ずっとフェイトさんと一緒でケンカもしたことない僕らのほうが変わっているんでしょうか……」)
「恋は盲目と言うが、妾とした事が不覚であった……。なぜにあやつ一人で良いと血迷うたのか」
「そんなこと言いながら、また結婚するんだよ〜」
 なお、離婚期にリルルは、ティムに何度か求婚されたそうだが、一度も受けたことはないという。
 まだ独身、おまけに女性にはかなり理想を抱いているアシュトンは、このやりとりを聞いて物凄く暗い顔をしている。
(「こ、これが男女の現実というものなのですかーっ!」)
 そして、さほど遠くないところにあるティムの家に着き、さらにアシュトンは暗い顔になった。
「結婚は人生の墓場と申しますが……」
 アシュトンの目に映るティムは、十二人もの子どもに押し潰されそうになっている悲惨な父親であった。子ども二人を背に負ぶって、庭でざくざく畑を耕している。
 しかもその子どもというのが、男の子は「ママー、ママー」と泣くばかりだが、女の子は全部レイニーそっくりで、
「父上がいつになっても聖獣になれないような『カイショーナシ』だから、母上にふらふら遊び回られるのじゃ」
 などと声を合わせてティムを非難している。
「待つんだ、ちみっこたち。パパだって昔は、ふたりの女の子が取り合いになるぐらいモテモテだったんだぞ?」
「そういう戯言は夕餉のデザートにメロンをつけてから言えなのじゃー!」
「メロンなんて無理だよぅ〜、きゅうりだってやばいかも……ううぅ〜」
 その合間合間に、「ママー、ママー」という男の子陣の合唱が入る。
「あっ、ユウキ……の幻影かな……」
 げっそりとした顔で、ティムはこちらを見つめている。
「本物ですよ本物っ!」
「手伝いますね」
 ユウキ夫妻は畑と子守を手伝いに行き、
「まあ、ここの家庭が特殊すぎるだけだとオイラは思うぜ?」
 ぽん、とアシュトンの肩を叩いて、エミールも駆け出す。
「ほーら、プルミエールの子孫、エミール様が遊んでやるぞー、子どもたちっ!」
 それでもティムは幸せらしい。なんだかんだいってレイニーは最後には戻ってくるのだし、子どものことはやっぱり愛しているから、という。
「こうなったらね、百回でも二百回でも離婚と結婚を繰り返すよ。だって、そういうのが本当の愛だと思うから。なんてねっ」
(「本当の愛がわからない……私にはわかりませーん!」)
 アシュトンはそれを聞きながら、懊悩の境地に達していた。

 旅の途上、休息した小規模な町で、不思議な雰囲気をもつ青年と知り合った。
「君、知ってる気がする。どこかで会った? 君は誰?」
 パンジーの花を持つ、ドリアッドの青年だった。思慮深い目をしている。
「僕はユウキ、彼女はフェイト、こちらの二人は、アシュトンとエミールと言います」
 青年は暫し、唇に手を当てて考えていたが、やがて雲が晴れたように顔を明るくした。
「ああ、そうか。千年前の同窓会、ってわかる? ゼロが記録していた人に似てる。君は、ゼロを知ってる?」
「ゼロ……地質学や医学、生命学から工学、果ては人物評伝まで、さまざまな知識の体系化に務めた先駆者ですね。彼がいなかったら、現在の我々の学問はもっと未整理で、もっと遅れていたかもしれません」
 お会いできて光栄です、とアシュトンは青年に手を差し出した。青年は顔を輝かした。
「僕はボノク。旅をしている。世界を見る旅を。そして書くんだ。彼の『研究書』に」
 アイの子孫の手を、しっかりと握って青年は告げた。
「君のことも書いていい?」
 正確には、ゼロの研究書はゼロ一人の所行ではなかった、彼の意志を継ぐ者達が、何代にも渡って書きつづけてきたのだ。そして現在は、ボノクがその任に当たっているというわけだ。生前のゼロは、己の研究もどこかで消えると思っていたようだが、いまではゼロの名とその成果は、多くの国の教科書にも採用されているのだった。
(「彼は何を思うだろう」)
 ボノクは思った。ゼロが今の世界を見たら、と。
(「彼は何と言うだろう」)
 まだ自分の成したものが、生き続けていると知ったら。

 山に面した小さな村で、水汲みをしている母娘に出会う。母はエルフ、娘はエンジェルだ。
 顔つきのよく似た二人だった。大きなバケツを母が持ち、小さな、それこそおもちゃのようなバケツを、三歳ほどの娘が一生懸命に運んでいる姿はほほえましい。
「お久しぶり、ですね」
 母親は、ミスティだった。バケツを下ろして、彼女は娘を紹介する。
「エンジェルのいい人と出会って、子宝も授かりました。今ではこの子に、少しずつ、狩りの仕方を教えているんですよ」
 抱き上げた娘はユウキに小さな手を伸ばした。ユウキが手を伸ばすと、しっかりと握ってくれる。幼いのになかなか握力がある。狩人として頼もしい。
「もしまた世界に危機があったら……と有事の際に備えていますが、もしかしたら戦列に加わるのはこの子、いや、もっと後の世代かもしれませんね」
 優しく娘をあやしながら、ミスティはそう言って眼を細めた。
 村からさほど行かない峠に、小さな珈琲店が立っている。
 先行して周辺の捜索を行っていたエミールは、立ち寄ったこの店の店主が、伝説の英雄フォンティウスだということを知った。
「君がプルミーの子孫か……ふふ、性別も違うのに、雰囲気や物腰が、確かに彼女に瓜二つだ……時とは、不思議なものだ」
「そうですか? とすると、ご先祖プルミー様も、けっこう間の抜けた人だったんですねえ〜」
「大らかな人だったよ。海みたいに広い……キミにも同じものを感じるね」
 現在、フォンティウスはここで、伝説の語り手として生きているという。世界を平定した英雄譚は、多くの人々に喜ばれる。こうやって語りながら過ごすもの悪くないと、彼は思うようになった。
 笑いながら立ち上がり、窓の外を見つめながら、フォンティウスは呟いた。
「……命と歴史は無限に受け継がれる……エミール、君も自らが望む道を見つけるといい……未来は何処までも広く、無限に続いているから……」
 一方その頃、アシュトンは道に迷い、大樹の影にグランスティードを止めていた。
「参ったな……ここはどこだろう? ユウキ様、フェイト様を待たせているのに……」
 鞍から降りて地図をひろげる。といっても山道、しかも大雑把な地図でしかない。これで果たして無事、人里までたどり着けるだろうか。
「そこな人、道に迷っておいでかのう?」
 やわらかな声がして、アシュトンは周囲を見回した。
 着物姿の艶やかな女性が一人、セイレーンだが、標準的なセイレーンよりずっと色っぽい。アシュトンのスティードに背をもたれかけさせていた。
「すみません……実は……」
「ふむ、それは妾が来た方角じゃな。こっちにいけば、小規模な宿場に着くじゃろう」
 彼女は道を教えながら、アシュトンに、どこか懐かしい匂いを感じた。
 一方でアシュトンは、女性の美しさに少し身を緊張させている。
「おぬし……」
「はいっ」
「もしかして、霊査士アイ殿との由縁がありはせぬか」
「そうです。アイは私の遠い先祖です。申し遅れました私……アシュトンと申します!」
「ふむ、なるほど、確かにアイ殿の面影があるのう」
 彼女はアイーシャと名乗った。アイとは親しい友人だったという。
 アイーシャはもう千年近く、ずっと酒場を経営している。子どもたちも手がかからなくなったので、たまにお忍びで諸国漫遊の旅をするのが、ここ百年ばかりの楽しみだ。
「思いがけぬ出会いがあるゆえのう……せっかくじゃ、アイ殿、いや、アシュトン殿、人里まで案内してやろうかの」
「ありがとうございます。ここで貴女とお会いできたことを、きっと先祖のアイも喜んでいることでしょう」
 アシュトンは鞍の上に上がり、スティードを屈ませてアイーシャに手を差し伸べた。
「その口ぶり、アイ殿そっくりじゃな。いかにもアイ殿が言いそうなことじゃ」
 笑顔でアイーシャはその手を取った。
「では参るか」
 スティードの背に揺られながらアイーシャは思う。
(「皆、先に逝ってしまったが……皆が遺したものを見守ることが今の生きがいかのう」)

 その場所が近づくにつれ、ユウキとフェイトの胸は高鳴った。
「なるほどその旅団は、お二人が愛を育んだ場所なのですね」
 アシュトンは微笑みとともにうなずいた。
「ええ……ちょっと、気恥ずかしいですけどね。今では、旅団から発展して一大交易都市へと発展しているそうです。まともな移動手段では軽く一年はかかるという、あまりにも遠い距離にあるので、我々の国リバーフィールドとは、交流らしい交流がありませんでした」
「王様の名前はなんていうんです?」
 エミールが問う。
「ストレイハイム大公です。アオイ王、あるいは、『黎明公』とお呼びしたほうがいいでしょうか」
「え、あの!? オイラ、子守歌にも聞きましたよ。♪さばく〜の、れいめ〜い、しらじらと〜」
「そうです。その方です。あの地域の芸術、学問、あらゆる文化の中心ですからね。さぞかし立派な都でしょう」
 実際、都市国家『月詠奏鳴曲』、またの名をストレイハイム公領は、さぞかし、という言葉では追いつかないほど高度な文明国なのだった。壮麗な建築物が建ち並び、リバーフィールドのアカデミーに匹敵する塔が複数確認できる。昼夜を問わず多数の人間が行き来しており、その種族も多種多様を極めている。
 王宮がどこか知りたくて、尋ねた相手はエンジェルの旅行者だった。喜ばしい出会いとなった。その少女は、『月詠奏鳴曲』の盟友の娘なのだ。
「初めまして、エリザベートの娘のリディアです」
「エリザベートさんの……」
「初めまして」
 ユウキとフェイトが喜ばないはずがない。千年ほど前、結婚報告をしてくれたエリザベートに、こんな素敵な娘が誕生していたとは。青く透き通る瞳に、赤いウェーブのかかった腰までのロングヘア、母親の面影をもつ顔つきも印象深い。
「しかし本当に大都市ですね……どこに行けばいいのか……」
 迷っていると、アシュトンが駆け戻ってきた。
「ユウキ様、フェイト様、お二人をご存じという宝石商の方にお会いしました!」
「せっかくです。リディアさんも一緒に行きませんか」
「はい、こうしてお会いできたのもなにかの縁でしょう」
 リディアを加えた一行が辿り着いた場所はなんと、この街最大の宝石販売店であった。
 天下のストレイハイム、その宝石販売店である。まるで博物館のような大きさであり、人の出入りも凄まじい。
「さきほどのご婦人に、ここに入って下さい、と言われたのですが……」
「販売店で働いている人でしょうか?」
 とフェイトが言ったところで、正装の従業員が数人がかりでやってきて、恭しく一行を案内する。
 店内をつききり、『VIP専用』のドアも開いて、それでもどんどん進むと、やがて『総支配人室』と描かれた分厚いドアに突き当たる。
「ユウキさん、フェイトさんお久しぶりです。お噂はこの国にも届いていますよ」
 ドアを開けてくれたのは、ミオナだった。ストレイハイムの宝石女王と称される大商人、それがミオナの現在の姿なのだ。実際、この一帯は『月詠奏鳴曲』の一部でありながら、彼女の自治領として認められている。
「ごめんなさいね、仕事中だったので、呼びつける格好になってしまって……。でも丁度よかった」
 ミオナは、自分によく似た少女を連れてきて「娘ですの」と紹介してくれた。はにかみながら挨拶した娘は十五歳、ミオナが三十歳の年齢を保っているせいか、親子というより姉妹のようだ。
 ミオナはリディアの手を取った。
「それにあなたは、エリザベートさんの娘さんですね。娘と仲良くして下さい」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 リディアは感激のあまり立ちくらみしそうなほどだ。ユウキもフェイトもミオナも、彼女にとっては神話や伝承の登場人物に等しい。名前はよく聞いているが、実物も、想像以上に素敵な人ばかりであった。
 そしてリディアは翌日、さらなる感激を味わうことになる。
 ミオナに伴われ、ユウキ、フェイト、そしてリディアはついに、大公に面会したのである。
「ユウキ君、フェイトさんお久し振りですよ〜!」
 真っ赤なカーペットを走らんばかりにして、ストレイハイム大公、ことアオイが彼らを謁見の間に迎えてくれた。古今の芸術の粋を集めた目も眩むばかりの一室で、豪勢だが決して過剰な感じはない。それは部屋の主、アオイの見識の高さ故だろうか。
「千年公と金色妃、お二人の二つ名と善政は此処でも耳にしてますよ♪」
 ユウキも喜びをあらわにして述べる。
「こちらこそ、アオイ陛下……いえ昔みたいにアオイさんと呼ばせてもらいます……アオイさんのお話を伝え聞くことしきりです。歌にだってなっているんです。リバーフィールドの子どもたちは、アオイさんの物語を聞きながら眠るんですよ」
「それは照れくさいですね〜。リディアさんもよくおいで下さいました」
「母が生前交流のあった方たちに、こうしてお会いいただけるだけで感謝にたえません……」
 リディアはしっかりと、生前の母が尊敬していた人の手を握るのだった。
 待っていたのはアオイだけではない。
 旅の画家として名を馳せるエィリスも、ユウキとフェイトの手を取った。
「お久しぶりです、お二人のご活躍は旅の空の下でもよく耳にしました。お変わりなく仲睦まじいようで、何よりですわ。『千年公』『金色妃』の肖像画を描かせて頂けたらと思ったのですけど……少しだけ遅かった、でしょうか」
「引退後の姿でいいのでしたら……」
 頬を染めつつ、フェイトは応じた。
「王の貫禄で並び立つお二人はさぞ絵になったでしょうに……ですが、落ち着いたお二人を描くのも喜びですわ。後で是非、お願いしますね。ああ、こちらの方も紹介しましょう」
 エィリスが目を向けたのは、すっくと立つ凛々しい少年だった。
 ユウキもフェイトも、彼の先祖をよく知っている。
「名前は『ジル・カムイ』、ジリアンの子孫になります。医術士として暮らしています」
 ジルはユウキたちより数日早く到着した。ジリアン以後、代々故郷で暮らしているという。
「ご先祖様がお世話になった皆さんにお会いしたくて来てしまいました」
 それにしても、とジルは改めてアオイに述べる。
「今日までつぶさに、この都市を拝見させていただきました。活気があって明るい、素敵な街ですね……。先祖の日記にあったアオイさんたちが都市を建設しているとは……さすが、英雄の皆さんです。そ、そして、ユウキさん」
 緊張気味の表情で、ジルはユウキの手を握る。
「こ、今日は、先祖が記していた『ユウキ』という人が、まさかあの、有名な千年公だったなんて」
「そんなに恐縮しないでください。もう引退したのですから……。お会いできて嬉しいです。ジリアンさんとは、僕、仲の良い友達でした。何日か滞在させてもらう予定なので、ジルさんも、ジリアンさん同様に仲良くしてください」
 ジルは長い髪を背で結わえているが、それ以外はほとんどジリアン本人といっていい。ユウキは本当に嬉しかった。ジリアンの清らかな心は、しっかりと子孫に継承されていると悟ったからだ。
「ヴィーネ様、ご到着です」
 侍従が知らせに来る。すぐに通されたヴィーネは、この都市に暮らしているという。
「ゆ……ユウキ様ではありませんか?」
 違ったらごめんなさい、という様子で話しかける。
「はい、ユウキです。ヴィーネさんもお変わりなく」
「よかった〜、ということはフェイト様も同じご本人ですね? お元気そうでなによりです。二日前は、ジリアン様とジル様を勘違いしてしまいまして」
 このところ、よく似た子孫と本人とを見間違えることが多いので気をつけているという。
「最近はどうお過ごしですか?」
「はい、カフェ兼お菓子屋さんでお手伝いです。ごくたまーにですけど、ハープ片手に店内で演奏をすることもあるんですよ。でも、冒険者引退はしていません、冒険の話があれば飛び出していっちゃいます」
 といって目をキラキラさせるところも、良い意味でかつての彼女となんら変わっていない。
「ベルハルト様、ご来場されました」
 さらに侍従が告げる。
「ベルハルト……?」
 聞き覚えのない名にユウキは怪訝な顔をするが、現れたセイレーンの狂戦士は、ある人を彷彿とさせるに十分であった。
「千年公ユウキ殿、金色妃フェイト殿、お二人とも、その名はかねがね。申し遅れた。これなるはベルハルト、スゥベルの孫にあたる者」
 決してへりくだらず、されど尊大にもならず、戦士らしい爽快な挨拶をして、初対面の人々にも同じように口上してゆく。屈強な戦士、年齢は三十代半ばといったところだろう。この国の専属ではないものの、永眠したスゥベルの衣鉢を継ぎ、各地に足跡を残しているらしい。
 ベルハルトは、ユウキに向き直って告げた。
「ユウキ殿、長きに渡る統治を終え、ついに冒険者として復したとの報、それがしも聞いた。また冒険者して復帰したとは喜ばしい」
「はい、ようやく自由の身です。今日まで、ほぼ二年にわたって各地を巡り、様々な冒険者、その子孫たちとお会いしました」
「世界平定千年期とてなお、冒険者には依頼があることはご存じか?」
「そうですね。平和と言っても、小さな事件はありますから」
 ここでベルハルトは、さっきまでのどこか他人行儀な口調をやめて、肩でも組むように強気な微笑を浮かべていった。
「そこでだ、ユウキ殿。良ければ今度、一緒に何か依頼を受けてみないか? その腕前、興味がある……どうだい?」
「はは、お手柔らかに」
 懐かしい顔、初対面でも、つい過去を想わずにはいられない面々……ここにいると、アオイは千年の時間を忘れてしまいそうだった。彼は宣言した。
「さあ、今日はお祝いの準備をしていますからね。楽しく語り明かしましょう! 明日はこの都市国家の、一般の人は入れないようなところまで案内しますよ」
 歓声が上がる。アオイに案内され、一行は隣接する迎賓館へと移動するのだった。
「今日をきっかけに、千年ほど中断していた親交を、ふたたび深めたいですね♪」
 アオイの声に、反対するものなどあろうはずがない。
 心から歓迎してくれる人たち、心に広がる暖かい気持ち……リディアは感謝を捧げたかった。
(「ここで過ごしていた母が幸せだった事が、改めてわかる気がします」)
 感謝を捧げたい相手はエリザベート、いまは亡き母。
 少し離れた場所から動かず、エィリスは静かに目を閉じている。
(「自分のこれから……を語るのは、もう少し後にしておきましょうか。何日かしてから……」)
 エィリスはこの千年で、たまに微笑む以外はほぼ無表情になった。冷たくなったというのではなく、常に穏やかな気持ちでいられるようになったためだろう。外見こそ変化せずとも、彼女は大いに老成していたのだ。今のエィリスは、どのようなことであれ落ち着いて迎えることができる。おそらく、自分の死が訪れようとも……。
 寿命の死を求めて旅をしたものの、千年を彷徨った今でさえ、それは見つからなかった。
 ならば、とエィリスは決めたのである。
 さらなる時の彼方に答えを探そう、と。
(「少し、疲れてしまいましたしね……」)
 音もなく目を開ける。願わくばこの日のこの光景も、記憶にとどめ持っていきたい。

 別室に控えていたアシュトンとエミールだが、アシュトンが報を持ってきた。
「我々も、ストレイハイム大公アオイ様の宴に招いて下さるらしい。勿体ないことだ……エミール、失礼のないようにするのだぞ。ん? エミール?」
 ついさっきまでそこにいたエミールの姿がない。
 夕暮れの都市をエミールは歩く。好奇心に釣られたのではなかった。
(「誰かが、オイラを呼んだ……」)
 そんな気がしたのだ。これは初めての感覚だった。
 大都市だけあって雑踏がすごい。忙しげに行き交う人々に何度も肩をぶつけそうになった。
 しかし求めているのは彼らではない。
 たった一人だ。
(「あの人だ……!」)
 いくつかの曲がり角の先、黒い髪の少女が、微笑みながら立っていた。
「あの……あんた、いや、あなたは、誰?」
「記録者、です。あちこちの終わりと始まりを書き記す」
 つまり彼女は、永遠の時を生きる冒険者ということ。
「ということはオイラの先祖の……?」
 少女はうなずいた。なぜだろう、エミールはこの人に、母親のような、あるいは姉のような親しみを感じるのだった。
「あなたは、現在のプルミーさんですね」
「及ばぬこと千里を超えますが、自分はプルミエール直系の子孫であります! 名はエミール」
 思わずエミールは直立不動の姿勢を取っていた。この人に対し、なれなれしい態度は見せてはいけないと思った。
「そう固くならないで……私はプルミーさんの、親友だっただけ。楽にしてね」
「は、はあ……それでは、ふにゅふにゅふにゅ〜」
 エミールはヒョイヒョイと踊った。自分でも多少わけがわからないのだがやってしまう。
「ふふ、そんなところが、まったくもってプルミーさん本人を見ているようです」
「たはは……そうですか……?」
「それではお伝えしましょう。あなたの先祖の足跡を」
 テルミエールは、プルミエール『たち』の言葉を授けた。

 数日後。
「いいですか、この変異動物の特徴は……」
 ミシャエラと言う名の霊査士(ずっとその名を継承している一族らしい)が、依頼の説明をしている。変異動物を退治するという依頼だ。さして凶悪な敵ではないが、冒険者でなければ解決は不可能だろう。
「エミール、もうちょっとしゃきっとしないか!」
 小声でアシュトンがエミールを叱る。 
「……お、おぅ」
 ユウキとフェイトの滞在が延びたので、二人は時間つぶしをかねてこの地域の冒険者の酒場にて、依頼に参加したのだった。
 しかし折悪く、参加者は彼らとあと一人しか集まっていない。
(「さすがにこの人数で処理するのは難しすぎる……せめてあと五人、来てくれまいか」)
 アシュトンは内心焦りを感じている。数日前から、エミールはなにか考えごとをしがちだし、話しかけても上の空であることが多い。さらに、もう一人の参加者、ジャンポール三十三世とかいう変なオジサンは、クネクネしているばかりであまり頼りになりそうもない。下手をすると、実質一人でこなさなければならなくなるかもしれない。
 そのとき、
「ここ、まだ空きがありますか?」
「二名追加だ!」
 二人の冒険者がテーブルにつく。
「ユウキ様! それに、あなたは確か、ベルハルト殿……!」
「あまり大きな声を出さないで。結局、本当に参加することになってしまいました」
 ユウキは小声で苦笑気味に告げた。フェイトに後のことを任せてしまったので申し訳ない、とも言っていた。なお、ベルハルトは腕組みしてニヤリと笑うのみだった。
 そのとき、テーブルにさらなる参加者が現れる。
「もう一人追加でお願いします」
 光沢のある緑の髪、健康そうな褐色の肌、彼はユウキの正面に跪くと、
「少年王、それとも千年公とお呼び致しましょうか? こんなところにいらっしゃるとは」
 と感極まったように告げた。
「シャリオさんではないですか。ところで、そんな大層な礼はやめてください。僕はもう、ただの冒険者です」
「はは、そうでしたね。冗談ですよ。またお会いできて嬉しいです」
 シャリオはこの酒場で英雄叙情詩を歌う仕事をしていたのだが、ユウキの姿を見て参加を決めたのだという。
「貴方の冒険に、同行させてください。それに、貴方の英雄譚を私の手で作り上げたいと思うのですが如何でしょうか?」
「い、いや、英雄譚なんて立派なものでは……」
 それに、とシャリオは一言添えた。
「もちろん私は、回復役としても優秀ですよ」
「それではメンバーが増えたので」
 と霊査士が改めて説明を始めようとしたとき、新たな声がした。
「まだ間に合いますか……? 二名追加で」
 少女の声だ。二人連れ。
 その一人の姿を見て、アシュトンは仰天する。エミールもさすがにこれには目を丸くし、ユウキも少なからず驚いた。
「ヴィエル!?」
 黒髪、セミロング、眼鏡をかけた小柄な少女だった。邪竜導士らしくローブを着ている。
 そう、彼女はヴィエル、エルスとプルミーの終焉の地で『剣』を守っていた少女だ。エミールにとっては従妹、アシュトンにとっては幼なじみにあたる。
「アリエノール様のお許しを得て、私も冒険者として旅をすることにしました。私が不在の間、二つの『剣』はクーカさんとモイモイさんが護ってくれるそうです。……ユウキ様、エミールさん、アシュトンさん、よろしくお願いします」
「でも、どうしてここが?」
 という疑問が出るのは当然だろう。
「この人が、連れてきて下さったんです」
 ライトグリーンのヴァルキリードレス、アクセントはオレンジのリボン、そして銀色の髪。
「ルビナ……」
 と言いかけたユウキに、ルビナスもとい『ロベリア』は「しーっ」というように唇の前に人差し指を立てた。そして、ユウキにだけ聞こえるように言う。
「フラウウインドでも言ったでしょう? 今の私は『ロベリア』よ。あの子がプーミンの一族というなら、私にとっても一族のようなもの、鍛えてあげないとね。それとユウキ、とうとう冒険者に戻ったのね。昔ほど危険な事は無くなったって報告は毎回してるけど、お互い気をつけましょ」
 かくて人数は八人となる。これにて依頼は出発準備に入った。
「……以上、質問がなければ相談をはじめてね。それでは、次は報告の時にお会いしましょう。ミシャエラでした」
 霊査士が去ると、かくてこのメンバーは、一つのテーブルを囲んだのである。座席の位置から右回りに自己紹介を始める。
「一番、紋章術士のアシュトンです。どうぞ宜しく」
「二番、いきなり従妹が来て驚いているオイラは、忍びのエミールってんだ。頑張ろうな!」
「三番、エミールの従妹で、初の依頼参加となる邪竜導士のヴィエルです。よろしくお願いします」
「四番、吟遊詩人のシャリオ、普段は英雄の歌を作ってます。回復なら任せて下さい」
「五番、武人兼ファッションデザイナーのジャンポール三十三世よ〜。よろしくぅ(はぁと)」
「六番、この人『はぁと』って口で言ったぞ……。狂戦士のベルハルトだ。軽く片付けようぜ」
「七番、翔剣士のロベリアよ。面白そうなメンバーが集まって嬉しいわ」
「八番、千年ぶりの依頼参加となります。重騎士のユウキです! よろしくお願いします!」
 今回はどのような冒険が、一行を待っているのだろうか。

●数万年後〜絶望を打ち砕け
 まさしく壮観である。
 かつて世界を平定せし冒険者、それが再び、かくも大規模な師団を形成する日が来ようとは。
 これぞこの世に数万年、絶えて久しき光景であった。その中には、まさにその平定の瞬間に臨んだ英雄自身も少なくない。また、英雄の血を色濃く受け継ぎ、祖先に負けぬ勲功を目指す若き世代も数多い。しかもそのすべてが、それまで抑えていた大いなる力、ドラゴンウォリアー化を発現させているのだ。散っていった魂魄、地に眠る骸とて、この眺望には感涙を禁じ得ぬであろう。
 しかしそれでも猶、敵は強大である。雲霞のごとく湧き起こった『絶望』は、過去に連なる門――タイムゲートを覆い尽くし、しかもその増大を止めない。その数、もはや幾万幾億に達さんとしている。これを破ることは、たとえこれだけの数の冒険者たちであれ、不可能に近い業に思えた。
 ここで諦める、あるいは、座して滅亡を待つ、これは楽な道であろう。亡びの瞬間は苦痛なく、速やかに訪れよう。だが、彼らはそれを良しとしなかった。そもそも楽な道を選ぶ気であれば、冒険者になるはずがないのだ。もしも消えゆく定めなら、せめて、戦って消えるまで。あらゆる過去と未来が喪われるというのなら、現在を全力で生きるまで……そう考えるのが彼らだ。
 希望のグリモアが消えたのは、残念ながら事実のようだ。されどまだ、活路はある。タイムゲートに入り書き換えられたものを再度書き換えることができれば、状況の逆転はあり得る。
 残って住民の混乱を抑える役を、リナリーが一手に引き受けた。
「由々しき事態です。だからこそ、後方の護りは不可欠。各都市に連絡を送り、市民の混乱は抑えておきます」
 心苦しい役割のはずだ。冒険者が敗れれば、覚悟する間もなくリナリーは消滅することになるだろう。しかし彼女は笑顔でこの役割を申し出たのである。
「避難についてもお任せを。あなた達の戦いがあるように、私にも私の役目があるのですから」
 さすが北方の盟主と名高きリナリー、その口調は終始落ち着いたものだった。
 師団はリナリーと別れを告げ、タイムゲート目指し飛翔する。
 集まる顔、そのすべてが決然たる意志の力を感じさせるものだ。
 この日の敗北はすなわち、この日につながるすべての否定となる。未来のために尽くしてきたあらゆる冒険者の努力、生命、そして夢……そのすべてが奪われることになるのだ。
 そんなことを認めるわけにはいかない。
 断じて、認めない!

「見えましたよっ! あれですね……うわっ!」
 プルミエールが身じろぎするのも無理はなかった。
 あまりにも大量、見渡すばかりという言葉すら生やさしいほどの『絶望』が、そこに溢れかえっていた。見たことのある姿もあるはずだ。変異動物、モンスター、ドラグナー、グドンやピルグリム、あるはドラゴン……いずれも激しく落胆し、絶望に包まれた姿を晒している。黒ずんだ暗い目には、まるで光が籠もっていない。この大宇宙にあっても、腹の底から寒くなりそうな光景だ。
「ほら、びびってる暇はないぜ。持ってきたぞ!」
 と声をかけるのはプルミーの従兄エルスだ。なにを持ってきたのか、プルミーは聞きもしない。
 彼らは守ってきた。初代『プルミエール』と初代『エルス』、彼らが臨終の地で岩に突き刺したものを。『そのとき』が来るまで、決して抜けないと予言した武器を。
「受け取れ!」
 ぱっと投げられたのはポールアーム、初代プルミエールが使っていたという『Drake zamber』だ。それまで握っていた飾りのような武器を捨て、現プルミエールはこれをしかと握る。彼女がこれを握るのは無論初めて、なのに、まるで体の一部であったかのようによく馴染んだ。聞けば遠い昔、この剣は初代の親友『終わりと始まりを書き記す』者が授けてくれたものだという。
 エルスは言う。
「俺の『リライアンス・ハーツ』もそいつも、まるで自分から抜けるみたいにして手の中に落ちてきた。まさか生きてるうちに、こいつを手にできる日が来るとはな」
「ええ、それに、ついさっき誕生したばかりみたいに輝いています」 
「永久にこの武器が使われなければいい、そう『彼ら』は願っていただろうに……しかし、結局こうなってしまったか」
 エルスは速度を増し、プルミエールと並走する。夜空のように黒い髪、深海を思わせる青い眼……同じ名を継ぐ子孫の中では、彼が最も『エルス』に似ているといえよう。
「そうですね……。でも、この戦いが今度こそ最後であってほしい。そう思います」
「違いない」
 プルミー、とエルスは呼びかけた。かつての『エルス』が、恋する相手にそう呼びかけたように。
「どうしたんですか、改まって」
「もう敵はすぐそこだ……これも、言っておくべきかと思ってな」
「なんでしょう?」
「この戦いが終わったら……。いや、やっぱり、言ったところで意味はない、か」
「も〜、なんなんですか、そんなところでやめられたら余計気になりますっ」
 エルス、おお、数万年後のエルス、『エルス』の魂がいま、ここに在るとしたら、きっとこう言ったことだろう。
『俺の子孫の意気地なし〜〜!! 誰に似たんだーっ!!』
 手紙は用意してある――現エルスは思った。
 二人とも生きて戻れたら、あれを投函しよう。彼の想いを、『……プルミー。俺は、お前が好きだ』としたためた手紙を。決戦前のどさくさで、急に思いついた考えじゃない。ずっと何年も温めていた気持ちだ。こんなときに軽々しく口にしたくなかった。
(「だからなんとしても、この戦いに勝たなくちゃな。生きて戻るんだ!」)
 いよいよ敵は間近だ。もう何秒もせぬうちに、最初の攻撃が届くようになる。
 ゆえにエルス、今はただ、未来を守る者として双剣リライアンスを執る!
「さぁ、行こうかプルミー? 大切な総てを、護るために!」
「はい!」
 二人は戦場に飛び込んでいく。数え切れない『絶望』の待つ淵へ。

 何万年の旅であったろう?
 もはや数えることすら不可能となった。あの同窓会の夜から、連綿と続く希求の旅は。
 彼――ウェインが求めつづけたのは、たった一つの問いに対するたった一つの答だった。
 あの夜、同窓会の席で幸せそうにする友人を見て、ふと感じた疑問がきっかけだった。
 ウェインは己に問うたのだ。
(「……僕はどんな道を歩んでいきたいのか」)
 それを模索して、ずっと旅を続けてきた。
 気付いたらあまりに長い年月が経過していた。なのに未だ、答えは見つけられない。
(「それはつまり……」)
 その結論には落ち着きたくなかった。なかったが、弱った心、疲れた魂は、ときとしてその結論に飛びつこうとする。
(『………我が生涯に、意味は不要ず……?」)
 否! ウェインは首を振る。認めるわけにはいかない。もう遠い過去になってしまうが、仲間達と笑いあったあの日々は決して無駄ではないはずだ。
(「だから、それを無かったことにするなど……許すわけには行かない!」)
 いま、星竜騎士の称号とともに戦場に舞い戻った彼は、先陣を切って敵群に突入していた。
 彼の第一声は、心に活を入れ、魂に高潔さを取り戻す戦士のものであった。
「過去の改竄なんて、認めない」
 大剣を薙ぎ払うと同時に、想いを言葉に変えて叫ぶ。
「そんなものは……この僕が全て斬り捨てる!」
 伊達に数万年間も過ごしてきたわけじゃない。名も知らぬ冒険者……その野望、阻止してみせる。
「危ないっ!」
 切り込んでくる少女があった。ウェインに飛来した鋭い槍を、長い刃で叩き落とした。
「突出しすぎてはだめです、一緒に戦いましょう」
 二人は協力して、迫り来る集団を相当した。
 ……ウェインの心に咲く一輪の花があるとすれば、それは彼女の面影であろう。
「あなたは一人じゃない。忘れないで」
 面影は、寸分違わぬ姿で彼の前に再び現れていた。
「私はプルミエール、プルミエール・ラヴィンスと言います。あなたは?」
「ウェイン、ウェイン・アルマリーク……僕はあなたを知っています。正確には、あなたの祖先を」
「そうですか……ならば私は、あなたを知りたいです」
 プルミエールは微笑んだ。
 二人の会話はそこで中断された。悪夢のように黒い生物が、一団を成して迫りつつあったのだ。一団は一時停止し、虎視眈々とこちらの様子を窺っている。強烈な存在感……ドラゴンだ。この世界から永遠に絶えたと思われた彼らは、『絶望』となって帰還を果たしたのだ。
「こいつは拙いな……一旦下がるか?」
 近場にエルスが着陸して告げる。
「そうですね……いまは」
 しかし、それを諭すように止める声があった。
「いいえ、私たちは、負の感情に背を見せたりはしません。彼らの好物は私たちの恐怖、ここで退けば、彼らを強大にするだけ……」
 ウェイン、プルミー、エルス、三人の頭上から女性の声がしたのである。
 強靱である一方、深い慈愛を感じさせる声だった。
「私が育ててきた子ら、その子孫であれば、知っているでしょう。体を構成する細胞のレベルで記憶しているはずです。私が造った『学園』は、こんなときにも恐れない冒険者を育ててきました。思い出して下さい、麗しのフローリア学園を……」
 ヴァルキリードレスが翻る。長いオレンジのリボンが、炎の尖端部のように空を泳ぐ。背には巨大な白い翼、手には魔術大剣『エルダーアーク』、舞い降りてきた彼女は、かつて『ロベリア』と名乗っていた女性だ。
「お久しぶりですね、ウェインさん。初めまして、現代のプルミエールさんとエルスさん。私はルビナス、フローリア学園の創設者です」
 彼女はついに名前を元に戻した。再び世界の危機が起こらない限り、永遠に『ロベリア』と名乗る決意だった。されどその日々は終わった。再度戦乙女となる日が来たのだ。彼女は言う。
「この事態を予感して生き残ったのだけど……。正直、起こってほしくはなかったわね」
「ルビナスさんが一緒なら心強いです」
 ウェインは剣を握った手を、自身の胸にぴたりとつけ、変わらぬ敬慕の念を示した。
「三人より四人、でも……四人より五人ですよね♪」
 と言ってルビナスは振り返り、さらなる盟友の手を取った。
「お久しぶり、アリアさん」
「うん。ルビナスさん……ルビナスさん……またこの名前を呼べるなんて、嬉しいよ」
「ありがとう。私も、数万年ぶりにそう呼ばれて気持ちがいいわ」
 アリアは髪をかき上げた。アリアもここまで、多数の敵を焼いて辿り着いたのだ。もう戦い方など忘れたと思っていたのに、すぐに体は自然に動き、存分に力を揮った。これぞ不滅のフローリア魂といえよう。
 そのとき、竜の集団が動くのが見えた。
 先頭の邪竜が、前脚を振って何か命じている。
「なに……? いきなりやるつもりはないのか。先遣隊を差し向けて来やがった。こっちの実力を測る気かよ」
 舐められたものだぜ、とエルスは双剣を構える。怪物の一群が笑いさざめきながら近寄ってくる。
「あれあれ、あれって?」
 アリアは、懐かしさと気恥ずかしさが入り交じったような声を上げた。
「やっぱり! キス魔の美形姉弟モンスターだよ……うわ、それもあんなに沢山!」
「懐かしすぎますね。あのモンスターとの戦いで、初代のプルミーさんと知り合ったんでしたっけ」
 ルビナスは白い歯を見せた。その敵に再び、現代のプルミエールと組んで挑む。それもまた、楽しからずや。

 なんという数!
 絶望にこれだけの種類があるということも、冒険者たちを驚かさずにはおれない。
 もはや大量という言葉すら虚しい。見渡す限りのすべてが敵、だが彼は恐れない。彼の名はトモヤ、どのような力が働いたか、再び一巡して名はトモヤ。
「ホラホラ! 出て来い! もっとだ! いつからかは知らんが受け継がれてきたこの双剣、断じて折れんぞ! 折らせてたまるか!」
 荒々しく叫ぶその姿は、かつてのトモヤとよく似ている。受け継いだ長剣の握り方も、怖れを知らぬ戦いぶりも。トモヤは切り刻む。突き進もうとも、彼は一人ではない。
「なぁ、チョコ!?」
 傍らのパートナーに呼びかけた。なんという偶然か、現在の『トモヤ』と結ばれた美しい娘は、数万年前の彼らと同じく、名を『チョコ』というのだ。
「もっちろんなぁん!」
 と元気に返事して、双つの刀を両腕のように操る。剣の名はグレートシザース、右を揮えば右手に閃光が走り、左で凪げば、左の魔が打ち破られる。
 チョコの一撃で、立ちはだかろうとした黒い巨人が両断された。その背を狙う昆虫怪物は、トモヤが軽く触れただけで縦に裂けてしまう。
 だが『絶望』の軍団は次々新手を送り込んでくる。
「絶望ねぇ。なかなかの勢いだが」
 トモヤは笑った。その笑顔は2019年の彼とそっくりだったが、3009年のスペックを偲ばせるものもあった。
「俺達の希望とこいつらの絶望、どっちが上回るかな?」
「そんなの、訊くまでもないなぁん!」
 トモヤ、チョコ、二人は背中合わせに立ち、まるで四つの腕と四つの脚を持つ一つの生き物のように、戦場に嵐を巻き起こすのだ。
「あらら、絶望軍団が、わたしたちを遠巻きに取り囲んでいるなぁん? 恐れをなしたかなぁん?」
 チョコが快活に笑う。その声は2019年のチョコと、2109年の五代目チョコ、それに3009年のアヤのすべてとよく似た響きだった。敵は姑息に矢を放ってくるが、簡単に弾き返している。
「やりあうならもっと近寄ってこいよ。そんなヘナチョコ矢なんて、かすり傷だって負わせられないぜ。……そうか、嫌か。なら……」
 トモヤは一旦言葉を切り、チョコと共に叫んだのである。
「こっちからいくぜ!」
「こっちからいくなぁん!」
 敵を一体でも多く切る。斬る! トモヤとチョコに、勝てる絶望なんてありはしない!

「さすがに今回ばかりは迷子にならず、まっすぐこれたもんね!」
 アイリーンは誇らしげに胸を張った。
「まさか今更世界の危機なんてねー」
 数万年におよぶ旅も、アイリーンをなんら疲弊させていない。それどころかむしろこの先を、もっと見たいと思わせるものだった。こんなに楽しいこの旅を『絶望』だのなんだのいう連中が、途中でやめろと言うのである。そんな一方的な話もないだろう。そんな勝手なこという人は、ちょっとばかりお仕置きしてあげる必要がある。
 猛獣怪獣、冒険者を襲い手傷を与えるが、そんなときこそアイリーンは頑張る。
「久々に癒しの天使の本領発揮だよ。ボクがここにいる限り、誰も倒させはしないからねっ!」
 癒しの天使アイリーンは、ヒーリングウェーブで仲間を支えた。
「みんな、いっぱいサポートするから遠慮なく言ってねっ!」
 迷子の天使がアイリーンの二つ名、だけど今日は、千に一つも迷わなかった。
 そんなアイリーンの眼下で阿修羅、戦う甲冑騎士をご覧あれ!
「後から後からどんどん出るな。こいつはまさにグレイトだぜっ!」
 この「グレイト」が彼の口癖、そして「グレイト」は彼の名前! 
 その名は『グレイト・ステライト』、若干二十六歳にして、災害救助や悪の駆逐に活動する世界平和調律軍『G・R・E・A・T』のリーダーを務める熱血漢だ。激しやすく涙もろく、優しく逞しいこの男は、直系の先祖アロイ、あるいはステライト家を正道に戻した中興の祖ブランシャル、その両者に共通するものを継承している。このたび世界の危機に、その身に流れる英雄の血を熱く紅く、滾らせるのであった。
 白銀の全身鎧を纏い、重厚無比の武器防具を持ち、たしかに彼はここにいる!
「うおお!」
 籠手に全体重を乗せ、ベーゴマ怪物を木っ端微塵にした。
「精が出ますねアロイさん! いや、グレイトさん、でしたね!」
 少年王あるいは千年公と呼ばれたのも遠い昔、重騎士ユウキがグレイトに並ぶ。彼のガーディアンズブレードは、ダルマ怪物を両断していた。
「ユウキ、上に注意して!」
 ユウキにとって生涯唯一の女性、かつて金色妃と称えられた美しきフェイトが、その名にふさわしき光り輝く紋章エネルギーの塊を落下させる。
「集え光……撃ち抜け極光!!」
 ユウキとアロイを狙っていた奴凧怪物が、これを受けて一瞬で消滅した。
 久々のエンブレムノヴァ放出に、フェイトは清々しい気持ちを覚えていた。
「貴方と一緒に戦うのはいつ以来でしょう? ふふ、不謹慎ですけどあの頃を思い出して少しワクワクしてしまいます」
 二人は微笑みあった。初めてあったあの頃の気持ちを、まだ二人は忘れていない。
「おお、ユウキにフェイト、来てくれたのか! 二人が現役復帰してくれて心強い!」
 現在、ユウキとフェイトは『G・R・E・A・T』に参加しているのだ。といっても、主に活動しているのは二人の子どもたちで、彼らはオブザーバー的立場ではあるのだが。
「共に戦い抜こうぞ、この平和を脅かすものであれば如何なるものであっても打ち砕くのみ!」
 迫る『絶望』を次々、グレイト・ステライトは叩いて砕く!
「誓おう! この命尽き果てるまで戦い続けると!! そして、この平和を永久なるものへ!!」
 彼の力、まさに無尽蔵!
 自分の力、それがどれほどのものかわからないが、ケネス少年は先祖の勇名にふさわしき戦いを見せたいと思っている。まだ英雄志願の身に過ぎぬ十五歳、先祖カズハとはいくらか面影が似ている程度であり、したがって、ユウキ一行が出会ったカレルにもそこそこ似ているに過ぎない。
 だがその腕前は、彼らに並ぶものがあろう。
「折角ご先祖様達が築いた平和を守るため……そして封印した絶望に呑まれないために!」
 ケネスは後方から、高らかな凱歌で援護する。その美声は、人気舞台役者だったカレルさながらで、仲間の傷口を見る間にふさぎ、確かな活力を与えていった。
 膝を屈した者も、毒や麻痺を受けた者も、ケネスの声に励まされ、再び武器を取って立ち上がる。
「ご先祖様……僕に力を貸してください! 絶望を希望に塗り替える歌を! 永遠の未来の為に!」
 ケネスが歌うは、未来を目指す歌だ。
「佳い歌だな。ふふん、敵も味方もなかなか懐かしい顔ぶれ揃いではないか」
 ソニアもまた、ケネスの歌に励まされる一人だ。ソニアは変わらずソニア本人だが、ドラゴンウォリアーとなった今は、獣人のように体に毛を生やしている。それでも愛らしい目は同じ、とはいえこれを、戦闘に備え厳しくして、
「行くぞ、ディーン殿!」
 と呼びかける。
「こちらの準備は整っている、いざ敵を滅ぼすとしよう!」
 ヒトの狂戦士ディーンも、魔槍イヴィルブラッド・ラグナを凪いで、群がる怪物を一掃する。一振りして前進し、前進するなりまた一振りする。そのたびに『絶望』の化身は消し飛んでいく。
 敵は混合部隊だ。やや左方にいるユウキたちが剣を交える我楽多系モンスターに加え、無秩序に変化したピルグリムグドン、それに大量のグドンが参加している。
「御先祖様達の時代ってのは色んな敵が居たんだな」
 名はディーンだが、彼は数万年前の彼と同一人物ではない。ディーンの跡を継いだブラフォード領主シオン、さらにそのずっとあとの子孫である。
 先祖の槍を受け継いだばかりでなく、初代に姿も性格も瓜二つ、つまり、自称不良青年だが、彼の心には正義の炎が宿っているということだ。敵に囲まれようが、彼はニヒルな笑みを崩さない。
「竜巻よ全て薙ぎ払え、コードワールウインド!」
 邪魔する雑魚を、強力なレイジングサイクロンで粉砕する。
 ピルグリムグドンの集団も、彼を攻めあぐねじりじりと後退している。
「ふん、後退する気なら、こちらにも相応の考えがあるぞ」
 ソニアが蝶のように舞い、敵を追って叫んだ。
「ハリネズミになるが良い! コード飛燕!」
 飛燕連撃、ただしドラゴンウォリアーによる十倍威力の連撃だ。宣言通り、最前列の敵たちはハリネズミのようになって崩れ落ちた。

 その老武者は、ここまで一言も口をきかなかった。
 大小二本差し。全身を黒い長襦袢で包んでおり、顔は僅か一部しか現れていない。それとて、影が差しており何者か判然としなかった。ただ、眼光は岩を貫く程に鋭く、顔に刻まれた深い年輪は、彼の人生が決して、順調であったわけではないと知らしむに足るものである。
 老武者は閑かに息を吸い込んだ。
 体に溜め込んだ闘気、それを胸の内で増幅させるかのように。
 ぴりぴりとした戦場の風が吹きつける。乾いた風は老武者の肌を引っ掻くが、彼はそれを、生涯一途に想い続けた女性の吐息のように甘く感じた。
(「……遂に来やがった。来やがったぜ」)
 血がふつふつと沸き立ち、全身をせわしなく駆け巡る。
 だがまだだ、まだ爆発させるには至らない。
 敵の威容が全貌を見せたとき、ようやく彼は時機到来を悟ったのである。
「この時の為に俺は生きて来た!」
 襦袢を翻せば、彼の姿は瞬時にして帰す。
 かつて、彼がかくあった姿へ。
 七尺に届かんばかりの堂々たる体躯だ。幾度もの戦場を乗り越え、汚れ破れていない場所の見いだせぬ軍用ジャケット『赫影』。手にはがっしりと、重々しき戦斧『威吹』。宇宙の虚空に、腰に提げし古びた角灯が煌めいていた。その旭日に似た光は、『絶望』どもを畏れさせる眩さを放つ。
「宇宙の存亡もそうならば、己が人生の集大成もこの一戦に有りッ!」
 力の限り戦斧を握れば、戦の気配に応えるが如く、得物は金色のハルバードに変貌を遂げた。
 グリモア、たとえ潰えようとも、希望は常に彼と共に。
 彼は金鵄・ギルベルト(a52326)、戦鬼となり、再び戦場に舞い戻った。

 怪物の黒い群れにあって、その黄金の装束はあまりにも目立った。
 だがそれは自信と誇りの現れ、集中攻撃を浴びようが巧みに逃れる。
 そう、あいつは忍者、それも黄金忍者!
「総勢数万? いいぜ、いくら敵が出てこようとも、その『絶望』をぶちのめす!」
 駆け抜ける! ケンハを包囲しようとするものは、相応の被害を受けることになった。七匹の大蛇は頭部を潰されのたうち、『目』が根っこという樹皮怪物は、自慢の根っこを折られ吹き飛んでいった。槍状の棘を持つ貝だって、ドリルランスの敵ではないのだ。
 三代目ケンハのバンカラぶり、初代ケンハの王道、その両方の要素を持つ現代のケンハだった。姿は初代に酷似している。筋肉質にして長身、黄金装束がなくたって、いやでも注目を浴びる姿といっていい。
 そのとき、ケンハの眼前で敵の群れが二つに割れた。
「……何者?」
 その中央から、巨大な海老がやってくる。堂々としたその姿勢、漂う風格には、まるで王者の威圧感があった。いや、王者そのものであろう。なぜなら海老は腰に、鈍く光るチャンピオンベルトを巻いているのだから。しかもその両手は、ハサミではなくボクシンググローブなのだ!
「俺は知っているぜ。あんた、伝承にあるロブスターチャンプだな」
 ケンハは会心の笑みを洩らす。
「あんたのグローブは、東方流格闘術の道場で代々大切に受け継いでいるんだ」
 直立の姿勢で合掌し、崩して右手を差し出した。
 するとロブスターチャンプは、延ばした右のグローブで、彼の手にちょんと触れたのである。
 頭の中でゴングが鳴った。
「だからもう『絶望』なんかで現れず成仏してくれ!」
 ケンハは跳躍し王者に挑む。数万年ぶりのリターンマッチ、決戦の火蓋が切って落とされた!
 一方、ケンハが激闘を繰り広げるすぐ傍では、ロゼリアも自身の戦いを進めていた。
「うふふ、夕飯までには帰らないとですわね」
 きっと生きて帰る。それも、未来というお土産をもって。
 ロゼリアはそう決めている。孤児院の子どもたち、血は繋がらなくても自身の息子と娘たちに、そう約束して出てきたのだ。自分ばかりではない。戦場を見渡せば、可愛い後輩や偉大なる先達、頼もしい仲間がたくさんいる。彼ら全員と、必ず帰還するつもりで戦い続けている。
「アコ様! 左ですわ!」
 ロゼリアの言葉にアコナイトは軽く頷いて、
「わかってる」
 なぁ〜ん、という語尾をあとに曳く。アコナイトは最小限のステップで、トリュフの怪物の突進を回避した。まるで後ろに目でもついているよう。つづけて背後からの、牡蠣怪物にカウンターの一刀を与えている。
 アコナイトが握るは殺戮聖典、刃にびっしりと、喪われた名が刻まれた大鎌だ。
 ………数万年ぶりに力を貸してもらうよ……あなた、みんな――アコナイトは刃に、そこに刻まれた名に、心の中で呼びかける。激闘の日々が脳裏に蘇っていた。今にして思えばえばたったの数年だけど、あの時代、誰もが世界に希望の火を灯すために戦っていた。その火は力強いものだった。誰もが一命を賭した火なのだから。
 ゆえに、
「そんなちっぽけな絶望の嵐なんかで、わたしたちの希望の残り火を消せると思うなよ!」
 語尾は敵の大振り攻撃によってかき消されていた。次にアコナイトの眼前に出現したのは、醜きドラグナーのなれの果てだ。
 後ろ、任せたよ! とロゼリアに言い残し、アコナイトは敵の懐に飛び込んだ。
 ――かつて呼ばれた朱刃の名の通り、目の前の敵を躊躇なく斬るのみ!

 エクセルが還ってきた。
 この戦場に、ついにあのエクセルが還ってきたのだ。しかも、娘エクセレンをはじめとする一族郎党を引き連れて。
 心の傷が完全に癒えたわけではない。いまでも触れば痛みを感じる。
 されどエクセルは、喪失の悲しみを誇りに変えて、大切な記憶を護るために再び立ったのだ。
 一族の先頭に立ち、指導する姿は一軍の将そのもの、彼女は指令を下す。
「私の戦いぶり、しっかりと目に焼き付けておきなさい? これがエクセルの復活よ!」
 雑魚が幾万来ようとも、レイジングサイクロンで纏めて殲滅する。巨大な敵には、出し抜けにデストロイブレードを喰らわせる。その上エクセルは、ガッツソングで味方も回復させることができるのだ。まさしく獅子奮迅、敵にとってはまったくもって不幸、恐るべき冒険者が復帰したと言わざるを得ない。
 止まらぬ進撃を続けるエクセルを、一瞬だけ立ち止まらせた相手がいた。
「……また胴体に風穴を空けられたいのかしら?」
 エクセルは不敵な笑みを浮かべる。敵は強化型ドラグナー、エクセルの記憶にある相手だ。
 強化型ドラグナーは鼻息荒く、挑発気味に唸り声を上げる。鈍色に光る鱗、見た目は無敵の装甲を持つ相手のようだが、エクセルはその弱点を知っていた。
「……柔らかいお腹、だったかしらね?」
 と、数万年変わらぬ笑みを見せるや、敵は逆上し飛びかかってきたのである。
 エクセルは何ら動じない。敵の前脚が触れる寸前、攻撃をかわす。
 そして敵の真下から、弱点目がけデストロイブレードを叩き込んだのだ!
「……全力あの世に持って逝きなさいッ!!」

 伝説の英雄ビューネも、戦場に舞い戻った一人だ。
「まさか、再びこの力を使う日が来るとは思ってもみませんでした」
 数万年暮らした山深い峡谷から、出廬して味わうこの戦場、決して望ましい事態ではない。世界の危機さえなければ、彼女はずっと隠遁していたに違いないのだから。
「でも、嬉しいですね……この空気。この緊張感」
 帰ってきた気がする。
 眠っていた自分の中の何かが、起き出して来たような感覚があった。
 眼鏡を直し、めいわく動物の集団を見据える。タニシ、モグラ、ヤマネにナマケモノ……いずれも恐ろしく巨大化しているが、不思議と怖れは感じない。
「さて、弓の腕、鈍っていないか心配ですが……」
 ビューネは第一矢を構えた。
 フォンティウスも戦場の只中にいた。
 彼はドラゴンウォリアーとなっている。伸びた長髪に純白の鎧、蒼光の翼に、白光を纏う黒白二刀流の長剣、翼広げて嗤うがごとく、フォンティウスは『絶望』に向かって叫ぶ。
「……この世界には、僕らが不屈の魂で紡ぎ上げた無限の物語が、記憶があるんだッ! それらを奪うというのなら……この僕を倒してからにしろッ!」
 叫び剣を構え突貫する。見よこれこそが流水撃、続けて雷刃衝、乱れ切り!
 ウォーレスに声をかけた。それはフォンティウスの盟友、正確にはその子孫にあたる。
「その眼に刻むといい……かつて君の先祖と共に戦った、伝説の記憶を……!」
 獅子の魂を持つディランは没し、その名は史書に残るのみとなった。されどその意志は、子孫・ウォーレスに受け継がれている。普段は寡黙にして無愛想だが、ひとたび変事となるや、他人を守る為なら自分が傷つくことも厭わない男、それがウォーレスだ。
「『絶望』だと? くだらねぇ。そんな物は俺の剣で叩っ斬るだけだ」
 身を躍らせ、ウォーレスは戦場の只中に降りた。勇ましき姿は、在りし日のディランを思い起こさずにはいられないものだ。
 彼は単身遊軍の体を取り、疾風の如く戦況を駆け巡る。
 数に圧されている仲間を見つけるたび加勢し、逆転を見るや礼の言葉を背後に残して、再び別の窮地に向かう。
「間に合え……!」
 この瞬間も彼は、黒い石像巨人と、これに拳を振り下ろされようとしている少女の間に飛び込んでいた。
 間一髪、青い髪の少女を抱いて逃れるに成功し、反転するや彼女と力を合わせて巨人を粉砕する。
 すぐさま立ち去ろうとするが、ウォーレスの……いや、彼の中に生きる『ディラン』の記憶が足を止めさせた。
「!?……なぁ、アンタ、名前は何ていうんだ?」
「ありがとうございました。私はミルティア、翔剣士です」
「ミルティア、か。いや、アンタの姿を見かけた瞬間、俺の中で何かが弾けてな」
 本来ウォーレスはこんな場面でも、口を閉ざして次の敵を求めるような男だ。だが自分の中の何かが、彼に言葉を促していた。
「あんたも一人みたいだな……。俺はウォーレス。よかったらこの戦場、俺と共に切り抜けていかねぇか?」
 これまで、誰にも見せた事のない照れ笑いを浮かべながら手を差し出す。
 ミルティアは何ら迷わなかった。ここまで、仲間の集団から孤立しないよう気をつけて位置取りしてきたというのに、先の瞬間だけは無理な先行をしていた。まったく不安を感じなかったからだ。もしかしたら彼……ウォーレスの存在を近くに感じていたからかもしれない。
「こちらこそ、これからどうかよろしくお願いします」
 ミルティアは、ウォーレスの手をしっかりと握って笑顔を見せた。胸の奥が熱い。
 一目惚れ、という表現が不適切なのであれば、運命的なものを感じたと言い換えよう。彼との関係はこの戦場だけでなく、これからも長く続いていくという、確信めいた思いを抱く。
(「私の遠いお母さんが初めてお父さんと出会ったときも、こんな感じだったのかな」)
 とミルティアは思った。
 ディランとアスティア、その道が、ウォーレスとミルティアという形をとって、再び結ばれた。

 ツクノは震えていた。
 武者震い、と自分に言いきかせる。
 ツクノがこれだけ膨大な数の敵を眼にするのは、間違いなく初めての経験である。圧倒されてしまうのも無理はないことだ。
「ツクノちゃん、大丈夫?」
 彼女の師――この数万年ずっと、ときには厳父のように、ときには慈母ように鍛えてくれたヤシロが声をかけてくれた。現在ヤシロは二十八歳の姿だ。少し落ち着いた雰囲気を身につけていた。
「お師さん達はもっと凄いのを相手にしたんですよね。やっぱり凄い!」
 傍らのヤシロを改めて、尊敬の目で見あげるツクノだった。ツクノも五年ほど年齢を進めたが、それでもヤシロを、あまりにも遠い存在のように思う。彼女の域に達するには、あと何万年の修行が必要なのだろう。
「大丈夫。皆が一緒なら……皆が一緒だから、どんな絶望的な状況でも乗り越えられるんだよ。肝心なのは希望を諦めない事」
 ツクノの想いとは逆に、ヤシロはもう、ツクノを子どもとは思っていない。それどころかすでに、いくつかの面では自分を上回る技量を有しているとすら感じていた。もやはツクノはヤシロにとって、安心して背中を預けることのできるパートナーなのだ。
 ただ、あと一点だけツクノに欠けている点があるとすれば、それは自信だとヤシロは考えていた。世界の命運を握るこの戦いを乗り越えることができれば、それとて身につくはずだ。
 いつの間にかツクノは平静を取り戻している。ヤシロの声が、彼女の震えを止めてくれたのだ。
 闘士二人、ヤシロとツクノは、大勢の仲間とともに戦場に降り立った。
「信じられる仲間たちと戦うって悪くないですね。力が湧いてくる気がします!」
 ツクノの拳が、六本の腕を持つ武者モンスターを貫通した。
「その意気だよツクノちゃん!」
 案山子の姿をした魔物を、ヤシロの足払いが転倒させる。次の瞬間、ヤシロは案山子の胴に追い打ちを入れこれを破壊している。
 疾風怒濤、師弟は竜虎の如く、群がる敵を倒しながら門への快進撃を開始したのだ!
(「ねーさま、天国のユヅキねーさま。見てる? あたし、戦ってるよ、ねーさまの子孫ツクノちゃんと一緒に、かつてのあたしたちみたいに並んで戦ってるよ。今日の戦い、あたしは斃れたっていい。けれどねーさま、ツクノちゃんだけは護ってね」)
 裂帛の突き、『流星錘*華燐*』による猛禽類のような強襲、めまぐるしくヤシロは決めながら、天に届けと念じていた。
(「……それがあたしから、ねーさまへの最後のわがまま!」)
 二人の眼前に、見上げても見上げきれないほどの巨竜が出現する。分厚い翼がはためいていた。盾をびっしり並べたような鱗だ。
「いくよ、ツクノちゃん!」
 ヤシロは飛翔した。高く、高く舞い上がる。
「はい、お師さんっ!」
 ツクモも追った。同じ高みに達する。そこは巨竜の鼻先だ。
 火焔放射すべく息を吸い込んだ竜、その隙を師弟は見逃さない! 同時に叫ぶ。
「くらえ、ダブル疾風斬鉄脚!!」
 ぴったりと呼吸合わせ、放つ凄まじい一撃。それは空間を歪めるほどで、竜の首を落とし消滅させるには十分すぎるものであった!

 まったくもって許せんのです! と、彼は言った。
 さあ、数万年経ったとて、やぱりこのコールは健在! 刮目!
 クーカ・クア・レルカは今日も健在、娘メイメイと決戦に挑む!
 彼は妖術を広めようと企みつづける悪の妖術師だ。
 他力本願だが、悪の頂点に立ったと自称している。
 だからその座を揺るがすような『絶望』なんて、ギッタンギッタンにしてやるのである!
「せっかく苦労して悪の頂点に立ったのに、邪魔なのですよ!」
 モイモイは回想する。彼が悪の頂点に君臨するまでの、悪また悪の艱難辛苦の道のりを。モイモイと結ばれ、メイメイ、ノムカという二人の子に恵まれた四人家族、ずっと仲良くアッシュ辺境伯領で暮らした。……あれ、なにか悪いことしてるか、これ? 艱難辛苦でもないし。
「いやいやいや、頂点なのですよ。自分でそう思っているから問題ないのです……多分」
 と、いささか弱々しい自己肯定、しかし愛娘メイメイは、いつだってクーカの味方だ。心からのエールを送ってくれる。
「パパの覇道の邪魔はさせないなぁ〜ん!」
 ぴっかーん、とチャージ音がクーカの脳内で響いた。彼はやる気再起動!
「よし、昂ぶってきたのです! メイメイよ、モイモイさん譲りの戦槌で、元祖『悪』の恐ろしさをたっぷりと知らしめてやるのです!」
「がんばるなぁ〜ん! 二代目重戦車メイメイ、いざ突撃なぁ〜ん♪」」
 メイメイは急降下、その母モイモイのウォーハンマー、その名もストレートに『突撃』を大回転させながら、ピルグリムグドンの軍団にアタックする。隕石が落ちたような騒ぎだ。消し飛ぶグドン、右往左往するグドン、慌てるあまり同士討ちを開始するグドンもいるがお構いなし!
「氷結粉砕! 覇道アタックなぁ〜ん!」
 すると突然氷の柱が、あちらこちらに生まれてしまう。柱の中身は全部敵だ、氷河衝で瞬間冷凍させたのだ。
「我が娘ながら頼もしいのですよ! おっと! 娘に近寄る不埒者は、父として許さないのです!」
 クーカ自身、数万年前から何ら衰えていない。強力な黒炎を次々と放射し、メイメイを援護し敵を焼き尽くす。
「パパ、でっかいのが来たなぁん!」
「なんですとー!」
 でっかいの、それはカットしたダイアモンドの指輪を、竜ほどに膨らませたようなモンスターだった。しかも鼓膜を破りそうな超大声で、「ワガハイ! ワガハイ!」などと意味不明な叫び声を上げている。頭のてっぺんに中途半端な弁髪をちょろりと生やしているのも、妙に不快だった。
「くーっ、うるさすぎるダイアモンドなのです! お前はたった今から『ウルサス・ダイア』とでも名乗るがいいのです!」
 ダイア怪物は、モイモイをつかまえようと、鋲を打った手甲を伸ばす。
「メイメイ、あぶないのです!」
「なんのっ、タワーシールド『鉄壁』で守るなぁ〜ん!」
 メイメイは素早く盾を出し、敵の一撃を弾き返した。しかも戦槌をぶんぶん振り回し、
「正義の一撃、メイメイクラッシュなぁ〜ん!」
 と大岩斬で逆に、敵の胴体にヒビを入れている。
「さすが! その技は正義のモイモイさん譲りの必殺技なのですね! 帰ったらモイモイさんに聞かせてあげたい活躍ぶりなのです♪」
 僕も負けてられないのです、とクーカが発射したのは、悪魔の頭持つデモニックフレイム、とたんに情けない声上げて『ウルサス・ダイア』は燃え尽きたが、その灰の下から、そっくりそのままの姿をしたダイア怪物が立ち上がる。クーカがコピー怪物を作り上げたのだ。
「悪が悪を手先に使う、至極当然の展開なのです♪ さあ行け、コピー版『ウルサス・ダイア』!」
「なぁ〜ん♪」
 父娘の快進撃は続く!
「絶望など、悪の糧に過ぎんのです!」

 無敵のチーム、その名は必殺部隊、チーム『お姉さま』!
 シンプルなネーミングだ。
 だからといって舐めるなよ、必殺部隊チーム『お姉さま』を!
 それは無敵のチームなのだから。
 敵の波状攻撃第一陣を、あっという間に撃破して、その一人、ラスが振り返った。
「何このちょっとした同窓会!?」
 もう、ゲラゲラと笑いたい。
「変わってねぇ! 又は似過ぎるよ、皆!」
 笑っちゃうほどそのままだ。数万年経っているというのに、みんなすっごくそのままだ。
「変わってないとはなんじゃ、姿が一変しておろうが! この姿になるのは久しいがのぅ……む?」
 レイニーは両の拳をグーにしたまま振り上げ、大剣を振りながら声を上げる。
「変わったのは皆のほうじゃろう! 誰の赦しを経て巨大化しておるのじゃ? 妾に対して頭が高いぞ、頭が!」
 数万年後のレイニーは、年齢を二十歳で固定化させている。従って、変身するまでは皆の平均身長くらいは背丈のあるクールビューティ(自称)になるわけだが、いかんせんドラゴンウォリアー化すると、今や懐かしき六歳児体型になってしまうのだ。
「あー、なんていうか……レイニーのタワゴトが……馴染む。すげえ馴染む」
 タワゴトとはなんじゃー! という抗議の声を華麗に聞き流しつつ、トワイライトは腕組して笑った。トワイライトは、ラス、レイニー同様、数万年前と同一人物、口調も不変だ。
「無視するなー!」
 と足元にたかってくるレイニーに困った顔をして、トワイライトは呼びかける。
「おい、飼い主、なんとかしろ」
「飼い主じゃないよう〜。むしろ僕が飼われて……いやいや」
 などと言い訳しながらも、ティムはきちんとレイニーをなだめている。現在の家庭がどうなっているのかは、ティムはあまり語りたがらなかった。(子どもの数が凄いことになっている……という説がある)
 すいーっ、とスムーズな動きで、レナートがラスの肩に身を寄せる。
「で、どうなんだい、非モテ獣のほうはー?」
 ものすごく親しげに問うた。無論、彼も姿には一切の変化がない。
「なにその久々に聞くイヤな言葉! 非モテ獣違う! 最近の俺モッテモテ! ラス嘘つかない」
「その口調が嘘丸出しなんだけど」
「非モテ獣ってなんですか……?」
「ほら、変なこと言うから後輩が困ってるだろうが!」
 後輩、と呼ばれている彼はアストだ。すなわちラス、トワイライト、レナート、アスト、というお馴染み悪友四人組が勢揃いした……わけでもなさそうだ。
 平和樹立の英雄アストは、もう何万年も昔に天寿を全うしている。すなわち彼もまた、運命の巡り合わせで『アスト』の名を継いだ子孫なのである。危機の到来を見越して、天の配剤が発生したのだろうか、現アストもまた、初代『アスト』とよく似た姿をしている。栗色の髪は同じ、かつて初代のアイが好んだ、透き通るような目の蒼さも同じ、だが少し、性格に差があるようだ。
「まさか皆と、またまたこんな敵を相手にするとはねぇ……」
 というレナートに対しても、
「はい、そう思います」
 と大人しくうなずいている。初代のアストなら、「ああ、同感だ」といった上で、「進歩がないという見方もないわけではない」と一言加えたりしないでもなかった。少々物足りないかもしれないが、そのあたりにはちゃんと理由があるし、その『理由』は彼らを識る者であれば容易にうなずけるものであろう。
 理由とは新しい冒険者仲間にあった。その名は、アイ。
「さて非モテ獣も良いが、新手が来るな。話は一旦ここまでにするか」
 グレーの軍装、同じ色の軍帽にブーツ、黒い髪を背中で編んでおり、すらりと腰のサーベルを抜く姿は、多くの者が記憶している『霊査士アイ』と同じだ。
 それなのに彼女が戦場にいる。盾と剣をもって、ここにいる。
 アイ本人ではない。彼女は、同じ名前と同じ姿を持つが、れっきとした翔剣士である。
「アイ、頼むからもう、さっきみたいな無茶をするなよ。オレがフォローできる範囲にも限度があるんだからな」
 アスト――現アイの従弟の現アストは、彼女には対等な口を利くのだが、その実、非常に彼女を気遣っていることが感じられている。
「別に私は、アストにフォローしてもらおうなどとは思っていない。アストはアストの敵を相手にするがいい。私は一人でも戦える」
「そういう思い上がりが危ないってんだ。オレのほうが年下ではあるけどな、冒険者歴は長いの。アイなんて、ちょっと前になったばかりだろ? 経験者の言うことを聞くもんだ」
「そもそもアストは」
 つかつかと彼に歩み寄り、アイは言った。
「なんでそんなに私のことばかり気にするんだ」
「べ、別にお前のためじゃない。オレの寝覚めが悪いからだ」
 このやりとりを聞きながら、レナートは苦笑を禁じ得ない。まるで小鳥がつつきあうようなやりとり、あんなことをいっているがアイが、さっきの戦闘でもアストのそばを片時も離れなかったのを彼らは知っていた。
「これだからねえ……。うちは素直な夫婦でよかったよ、セイカさん」
 レナートは夫婦で参戦中だ。お姉さまチームに咲く美しき花、そんなセイカではあるが、微笑みながらも声のトーンを落として答えた。
「なんのことでしょう、愛しい旦那様? フラウウインドでの一件以来、放し飼いにすると危険なので、私はずっと、レナートさんの行くところにはご一緒するようにしているんですけれど〜?」
「いや、だからあれは、浮気じゃなくて女の子観賞という名の護衛なんだから! ね?」
「その正直なのだか浮気者なのだかわからないのはなんですか〜」
 しかしもうセイカは笑っていた。
(「そこがレナートさんの素敵なところ、ですけどね」)
 さて皆、来たる敵に対し攻撃のフォーメーションを組み直す。
「第二波が来たぜ! それもまた大量に!」
 トワイライトの口調からも、冗談めいたものは消えていた。敵数が多すぎるのだ。
 ふたたび襲ってきたのは、お姉さま怪物軍団だ。すなわち、果実を連想させる女性型モンスター、ラウンドガール風、保母さん風、超ミニスカお姉さまもあれば、どてらを着ているという新味あふれるお姉さまもある。あのあたりは、一挙掃討のときに戦った相手に相違ない。
 もちろん、かつて見たお姉さまたちも再生している。苺のお姉さまも葡萄のお姉さま姉妹も、林檎、スイカ、メロン、茘枝(ライチ)……次々と。それも、いわゆる手下モンスター付で大量に、どっと攻め寄せてきたのである。気が遠くなるくらい数がいる。この世を埋め尽くすほどのお姉さま。綺麗どころ、キュートどころ、妖艶なのも清楚なのも……なんと多くの『お姉さま』が、この世には存在するのであろうか!
「今度こそ総決算のようですね、さっきより断然数が多いですから」
 セイカはレナートに寄り添うようにして構えを取った。
「チアガール娘まで来おったか! 妾と張り合うにはボリュームが足りん! ボリュームが!」
「はわわ、違いますぅ、僕です僕ぅ〜!」
 レイニーが真っ先に斬りつけようとした相手は、なんとベディヴィアではないか!
「そんな紛らわしい格好していたら、僕だって風のいたずらを……いや、もう家庭人だし、そんなことはしないよ……」
 ツッコミを入れるつもりが自己完結しているティムもいるが、つまり、そういうことだ。
「知った皆さんで『お姉さま』チームで行動するのは良いですけど……うぅ、お約束までやらなくったって良いじゃないですかー」
 ベディヴィアが涙目を向けた方角、五人の戦士が着陸する。
「いえいえ、数万年経てど変わらないものがあっても、良いと思いますよ〜」
 それはミレイラル、襟が高くスリット入り、茘枝のお姉さまの服装で現れる。
「微力ながら私も加わっていいですか? あれが『絶望』のお姉さま……まったく、平和な日々を当然のように壊してくれますわね」
 ミレイラルの永遠のパートナー、シュビレがひらりとこれに続いた。
「はわ! 間に合いました。私たちも参加させてください」
 千年を過ぎた頃から吃音が抜けたリリムが、黒い衣装を風にはためかせながら到着し、
「おお、なんか凄い懐かしいぽいのが一杯だ〜♪」
 その妹、ドラゴンウォリアー化することで健康美のますます映えるアンジェリカも舞い降りた。
「本当に久々の集合です☆ みなさん探しましたよ〜☆」
 純白の衣は、その清らかな心の象徴だろうか。声を聞いているだけで穏やかになれそうだ。彼女はアールコート、やわらかに翼はためかせ降臨する。
「左側面が多少ピンチでしたから、手伝っていて合流が遅くなりました〜。これにてチーム『お姉さま』、第二部隊全員到着、です☆」
 いざ出陣、と、一同戦闘態勢を取るが、それでもまだ、心許ない部分は否めなかった。同系列『お姉さま』もあるのだろうが、あまりに数が多すぎる。空間を埋め尽くすほどだ。しかも、『お姉さま』だけならまだしも手下怪物まであるのだ。いくらドラゴンウォリアーとて、一人が相手できる数には限度がある。……最悪の事態も想定しておくべきだろう。
 自然、チームの戦陣は円形になった。それを包み込むように、恐怖のお姉さま軍団が肉薄する。
「アスト……」
 アイは不安げに、従兄の手を握った。
「大丈夫だ。アイは、俺が守る」
 そんな初々しい二人に、リリムはふっと相好を崩した。
(「アイさんやアストさんのそっくりさんと一緒だと独身時代を思い出すね……そう、あれは、初恋の頃……って、そんな場合じゃないか」)
 リリムの表情は引き締まる。敵を倒そう。若き世代の未来のためにも!
 戦闘集団とチーム『お姉さま』、その両者が、激突した!
 先制弾は冒険者側、光の雨が降り注ぎ、刃が広範囲を薙ぎ、最初の敵勢こそ遠のけているが、『絶望』の数は圧倒的だ。斃れた『お姉さま』を他の『お姉さま』が踏み越え、それが倒されても後続は絶えない。
 ミレイラルが肩口を傷つけられ、空中でバランスを崩すも、
「『絶望』だかなんだか知りませんけどもここでご退場願いましょう!」
 そこにシュビレの回復が飛んだ。
「どいつもこいつも、妾の足元にも及ばぬわっ! ティムも言ってやれい!」
「そうだ! レイニーこそ僕の世界一の嫁だーっ!」
 死地にあってレイニー&ティム夫婦も、絆の強さを証明している。
「くっ!」
 ラスが足を掴まれ、お姉さまの一人にしがみつかれた。ブレザー姿のお姉さまだ。それをきっけに次々と、舞妓さんの扮装の梨のお姉さま、スモック姿した無花果のお姉さま、その他、数え切れないお姉さまモンスターが、ラスにのしかかり圧しようとする。
(「俺……モテてる、モテてるよーっ……って言いたいが、シャレじゃ済みそうもないな……!」)
 生命力を吸われているのかもしれない。ラスは徐々に意識が遠のいてきた。脳裏に、かつて彼が過ごしてきた日々が蘇る。ホワイトビーチ、コルドフリード、ドラゴン界侵攻に闇鍋に……。
(「俺って結構幸せだったのかな……」)
 闇色に消えゆくその思考に、一気に眩い閃光が差した!
「ヒーローは遅れて現れる、ってね!」
 声がすると共に、ラスにたかっていたお姉さまたちが悲鳴を上げ剥がれていく。
「あれは……誰!」
 雷光のあまりのまぶしさに、直視を避けながらアイが叫んだ。
「戦っていた『絶望』がなかなか倒せなくて……色々待たせたわね! チーム『お姉さま』、第三部隊ここに到着!」
 鎔解されたインゴットのように鮮やかなブロンド、血の覚醒継続中の身は気に満ち、しかもその身を包むのは、地肌に直接着た淡い翠のオーバーオールではないか! 彼らはその服を知っている。その服を着る者を、知っている!
「二代目にしてオリジン、スウィートにして鮮烈、メロンのお姉さま再臨、満を持して!」
 ローザマリアだ!
 援軍はローザマリア一人か? いや、彼女は確かに「第三部隊」と言った。ならば少なくとももう一人、その場にいるはずだ。
 思わぬ側面からの攻撃におののいたか、一瞬、お姉さま集団は寂とした沈黙に包まれた。
 シュッ、という音が聞こえた。
 空気を裂くような音。しかし音は、一回に留まらない。何度も繰り返される。
 その音がだんだん、自分たちに近づいてくるのをアンジェリカは知る。
 刀音だ。
 自分も剣を使うからアンジェリカは判る。しかも、音を聞くだけでそれとわかるほど鋭い。
 ぎっしり海のように集まったお姉さま軍団が、中央からまるで、裂けるように割れてゆく。割れるその中央には、ぞっとするほど美しい黒髪の少女がいた。白い着物に紫の袴、羽織るはやはり白の振袖――。草履の足で摺り足、一切の音を立てず、そう、衣擦れすらさせずに歩み来る。
 ただ、その剣が水平に薙がれる都度、例の『シュッ』という音が聞こえるのだ。
 音がする毎に、確実に怪物が倒されていった。首を刎ねられるもの、胴を両断されるもの、防ごうと延ばした腕もろとも落とされている。
 ある程度進んだところで、黒髪の少女は半歩、明白にそれと分かるくらいに踏み込んでいた。
 次の瞬間。
「……斬る」
 其れは遠い遠い彼方のもの。
 物心付いた頃から聞いてきた御伽噺。
 今、目の前にあるもの、これを断つ。
 彼女は円を描いたのである。その白刃で、流れるように真円を描いた。
 黒い血煙が立ち、少女の周囲の敵は一掃されていた。そこだけぽっかりと、大きな円ができた。
 切りそろえられた前髪の間から、セツナは周囲を一瞥する。
 わずか十二歳、まだ開かぬ蕾のような幼さながら、その目は羅刹、鬼とて喰らう達人の色をたたえていた。
 その目を見るやいなや、敵は恐慌を起こした。我先に逃げようとするもの、いきりたって襲いかかってくるもの、逆に茫然自失の体のものもあった。いずれにせよ、大きく乱れたのである。
(「この程度の覚悟で私たちを滅ぼしに来た……笑止」)
 セツナが再度刀を閃かせた。
 このとき、ようやく我に返ったかのように、残るメンバーは反撃に転じる。
「クオンさん……じゃない、ですよねー☆ でも、とても似ています☆」
 アールコートは思った。
 さもあろう。彼女こと御神刹那は、銀之刀匠・クオン(a65674)の衣鉢を継ぐ刀匠兼剣士、元服を迎えたばかりではあるが、成人顔負けの剣聖である。その姿はクオンに瓜二つだった。知られているクオンの年齢よりは若いが、凄絶なまでのその太刀筋は既に、クオンの域に達しているといえよう。
(「伝説の時代より生き、再び立ち上がる者がいる。
 伝説の時代から代々、意思を紡いできた者がいる」)
 セツナは奔る。駆けながら次々、目の前の敵を切り下げていく。
 今、彼女がこれを思っているのか。『彼女』の思考が蘇っているのか。
(「ならば私も、其れに倣いましょう。
 折れず曲がらず、道を斬り拓く。
 己を剣と成せと、受け継がれた此の刀。
 決して曇らぬ、銀の皇と共に」)
「総攻撃よ!」
 ローザマリアが剣を、旗印のように振り上げた。
 鬨の声が上がる。
 トワイライトは口元が笑みに吊り上がるのを止めようがなかった。
(「ったく、本気出すなんていつ以来だ? だがそんなこたぁどうでもいい!」)
 いつしか彼もまた、叫び声を上げていたのである。
「この世界は沢山の仲間達が命を懸けて、勝ち取った平和な世界だ! アイ、アスト、レナートもラスもセイカもみんなだっ! 力を貸してくれ、こいつら、片っ端からぶっ潰してやる!」

 冒険者は全体的に圧している。徐々に前線はタイムゲート付近へと上昇し、やがて目指す場所が眺望できるようになった。
(「あれが『ゲート』か。興味はあるが……」)
 シーズは思考を中断し抜刀する。幽かな紫光を帯ぶ剣が、次々と異形の怪物を切り伏せる。
「シェム! 限界まで引きつけた。範囲攻撃、頼めるか!」
「その言葉を待っていましたよ。さあ……!」
 シェムハザーダはガンディーヴァを構える。遠距離長弓、狙いは敵の集団、その中央部だ。
 狙い定めて微かに、シェムハザーダは眼を細める。
「……ほう、『Higher Ground』最後の戦いで出てきた煉瓦色のモンスターまで居るのですか」
 武人像の集団がある。硬い皮膚を持ち無表情、両眼だけ爛々と赤色に光る。
 その赤色を、シェムハザーダはターゲットと定めた。
「ならば今一度、私達の手で葬って差し上げましょう。冒険者が絶望などに決して染まらない事を知りなさい!」
 着弾した途端、矢は猛炎を上げて炸裂したのである。炎に顔を照らされながらも、
「俺は左から攻める、ルクレツィアは左だ!」
 シーズは少女の名を呼び、その返事も待たず馳せる。
(「世界が消えるのは認められんな。今の世界はそれなりに気に入っているのだからな」)
 左側面からシーズは、シェムの矢が討ち洩らした相手を次々と両断する。
 サーゲイト家当主ルクレツィア、年齢まだ十六歳。これが初陣。
 ここまで切り抜けられた己が身を、ルクレツィアは先祖に感謝した。
「ご先祖様の名に恥じぬ戦いを。どうかお守り下さい……」
 誓って奔る。初陣がすなわち、運命を定む血戦となる! 槍の一撃で自身の道を拓く。
「さぁ! あたしは此処にいるわ! 過去の亡霊よ、かかって来なさいッ!!」
 凛々しく古槍を携えた姿は、まさに在りし日のルーテシアの生き写し、その胸には磨き抜かれた二枚のドッグタグが揺れていた。いずれも、数万年前より、大切に受け継がれてきたものだ。
 右側面よりルクレツィアは吶喊、『絶望』の群れを喰らう勢い。
 そのとき中央に、真っ赤な破裂弾が落下した。
「俺もいるぜッ! やることは、重騎士らしくッ!!」
 落ちたのは槍に見えて槍に非ず。紅い鱗のリザードマンだ!
「守って敵をうち砕くッ!!」
 彼はゼファード、元リバーフィールド騎士団長、転じて騎士の元・鬼教官、然れど現在、現役の重騎士だ。盾で敵の攻撃を受け流し、ギィ・ラムトスの斧で、惑う敵の頭蓋を粉砕する。
「絶望なんてものはもう何万年も前に見てきている。俺たちは、その絶望を踏み越えてきたからこそ今の平和を勝ち取ったんだ。それを今更なかったことにされてたまるかよッ!!」
 ゴッ、と敵集団の中央が破裂した。空より灼熱の火珠が落下したのだ。
「敵集団大将格、巨大石兵は破壊しました。もう烏合の集です!」
 フェイトの声を待つまでもなく、ユウキは空中からその中央部に着地し、これもまた恐ろしい勢いで敵を蹴散らしてゆく。
「ゼファードさんご無事で!」
「元陛下! いい感じだぜ!」
「シーズさん、お久しぶりです!」
「その調子で行け、ユウキ!」
「ルーティさ……いえ、ルクレツィアさん、危なくなったらすぐ知らせて下さい!」
「ご心配なく。あたしになにかあったら、お髭のマスターがうろたえるものね!」
 再度の爆発で、彼らの前の敵はすべて消滅した。
 弓を下ろし、シェムハザーダが駆けつけてくる。
「よし、次へ参りましょう。お髭のマスターさん、今ごろどうしているでしょう?」
「きっと祝勝会の準備中ね」
 ルクレツィアは汗を拭い微笑した。

 敵の勢いが落ち始めている。
 ユキトは荒い息を吐いた。ここまで長時間、凄まじい緊張感と怖れに耐え、命をすり減らしてきた。『絶望』の軍勢が完全崩壊しタイムゲートへの道を開けたというわけではないが、後退局面に入っているのは一目瞭然だ。
 銀栗鼠伯、領地に戻ればそう呼ばれるユキトである。領民の顔を思い返し、僅かに息をつく。
「僕は死ぬ勇気もない臆病者……それだけの理由で今日まで生きてた。領地を治めたのも、ただ、還る場所がほしかったからに過ぎない……」
「何をおっしゃるんです、ユキトさん」
 敵陣営にさらに向かおうとしていたマリーだが、ユキトの告白を聞いて足を止める。
「数万年、恥ずかしげもなく生きてきたんだ。最後の戦いなので、白状したのさ」
「ユキトさん、ではあなたは、もし領地がなかったなら、還る場所はないとおっしゃるのですか?」
 マリーは、笑みを浮かべて彼を見た。
「……っ」
 はたと気づき、ユキトは妻の手を握る。
「すまない。少し、自分を見失っていたのかも。たとえ領地がなくたって、僕が還る場所は、マリーさん、愛する妻の胸だ」
「ありがとうございます。……思い出して下さい、ユキトさんは、貧しい未開拓地に茶畑を造り、そこに暮らす多くの人を潤しました。領主になったのも、今の今まで治世に忙殺されているのも、すべて人々のためでしょう? そして、こうやって戦いを選んだのも、世界のあらゆる人の未来のためではありませんか。あなたは臆病者なんかじゃない。自分を鼠だと思っている獅子です」
「……ありがとう。よし、ならばあと少しだけ、未来のために戦おう」
「その意気です。応援が必要ならいつでも言って下さい。今のように弱気になっても、全部私に話して。いつでも私が助けます。だから今一度頑張って下さいね、あ・な・た♪」
 マリーは彼の頬に軽く口づけした。そして微笑む。
 ユキトは、この微笑みを守るためならば命も要らないと思った。

「あと少しです……! 『絶望』の追加が止まりました。ドラゴンも減っています!」
 プルミエールは仲間を鼓舞する。一時期それこそ絶望的に思えた彼我の戦力差が、確実に埋まっている。やがて逆転することだろう。各方面で奮闘していた冒険者たちも、『ゲート』付近に集結を始めた。
「意外とあっけなかったか? ネガティブな連中など恐るるに足らずだな」
 長剣を手にクロノは飛翔する。彼の傍らには、常に寄り添うスズの姿があった。
「油断……は……禁物……です。まだなにか……不吉な……ものを……感じます」
 スズは用心しつつ、彼と共に中央部へと向かうのだった。
 クライスが速度を増して、プルミエールに並走しその肩を叩いた。
「いろいろと疑わしい部分もありますが……ま、僕たちの力を合わせれば、ざっとこんなもんですね。残る『絶望』はあと僅か、一気に消滅させてしまいましょう」
「え……、あなたは?」
「クライス、といえばピンと来ますかね?」
「ああっ! 毎年私たちのもとに、青い花を贈ってくれる人!」
「ご名答。先代のプルミーさんとは何度も会いました。あなたも来て下さいよ。どうせならアイさんも、ご一緒にね」
 冒険者の序盤の奮闘により、明らかに『絶望』は終焉に向かっていた。あふれかえっていた軍勢は毎秒減少を繰り返し、もはや冒険者の勝利は火を見るよりも明らか、時間の問題だ。
 チーム『お姉さま』も移動しつつ、もう打ち上げの相談をしている。
「……すき焼き、バーベキュー、あとは流しそうめんだっけ? あと、なんか意見はないのか?」
 トワイライトが問うと、
「闇鍋!」
 とラスが笑顔で言った。
「じゃあ評決とるぞー。すき焼き、バーベキュー、流しそうめんのなかから選んでくれ」
「闇鍋……」
 小さくラスが言った。
「三つとも迷うところだねえ。流しそうめんパーティってのも滅多にない話だし」
 レナートが言うと、
「妻の浪費癖と子だくさんで最近……っていうかずっと生活が厳しいので、肉がいいなぁ」
 ティムは応え、
「私はどれでも。セツナは……? そう、肉が苦手なの?」
 ローザマリアもセツナに問いつつ、自身、意見を述べる。
「闇鍋がいいなぁ……」
 誰も聞いてない。
「トワイライト先生……!!」
 すると突然、どぷうっ、とラスが滝のような涙を流し、トワイライトの前に崩れ落ち座り込んだのだ。彼は深く、頭を垂れている!
「……闇鍋がしたいです…………」
「すごい求めっぷりですね☆」
 アールコートはよしよしと彼の背を撫でた。
「楽しそ〜、ボク、やってもいいよ闇鍋〜♪ なんか得体の知れないものを食べるんだよね〜♪」
 アンジェがはい、と挙手をして、なんとなくこれが選ばれそうな雰囲気となる。

 だがこれこそ、『絶望』の軍勢の策だった。一瞬の期待、それを打ち砕かれたときこそ、人間は最も絶望を感じるものだ。
 わずかに気が緩んだこの瞬間、心の隙を、『彼ら』はじっと待っていたのだ。
「待って! なにあれ!」
 ミネルバの顔が驚きと恐怖に蒼白となった。
 轟然、宇宙が裂けた。
 瞬きするほどの時間、その一瞬で、タイムゲートの付近は無論、中央に集まりつつあった冒険者師団全体を包囲するかのように、黒い軍勢が一斉に出現したのだ。これまでにない大軍勢であった。また、一目でそれとわかる精鋭が多い。こうなった今、むしろこれまでが出し惜しみであったとしか思えなかった。
 銅鑼のような音が響く。その音に合わせ、軍勢は内側、そして外側から冒険者に襲いかかった。
 進むか。退くか。その選択は重い。
 新旧世代混合の師団ゆえ、短時間で意思の疎通はできない。
 結果、進む者、退く者、バラバラとなり、これがますます混乱を呼んだ。
 また、この頃にはアビリティ残数も心許なくなってきている。
 プルミーも焦り始めていた。
「は、はわわ……前からも後ろからも敵が……」
 その肩にもう一度、クライスが触れた。
「安心して。『君を守ると誓う』をプルミーさんにかけたから。さっき、ね」
「えっ?」
「ご先祖様との約束……はしてないけど。僕がキミたちを護りたいんだから、いいよね?」
 照れ隠しのようにクライスは、後方の敵目がけ飛び去っていった。
「僕らがいる未来を守るために、頑張ろうっ!」
 その言葉だけを残して。

「戦人は戦場にあってこそ真に輝く……か。逆境にあれば猶のこと、だな」
 落ち着いているな、とナサロークはユウキをみて微笑んだ。王を経験したがゆえだろうか、ユウキはここにきて、殆ど動揺の色を見せていない。
「頼もしくなったものだ。ユウキ、どう見る?」
「ゲートこそが目標です。大勢は予定通り中央突破を目指し、僕ら重騎士が背後を守るべきかと」
「よくぞ言った古強者。ならば我らは後方を攻め、新兵や戦に不慣れな者を内側に誘導すべし」
 ナサロークはユウキの成長を、自分のことのように嬉しく思う。かつての少年であれば、動揺して前後のこともわからなくなっていたはずだ。
「参ろう。ユウキ、その奥方もな。さあ、護りに自信ある者あらば我らに続け!」
 剣を鞘より払いナサロークは背後の敵へ襲いかかった。
「貴殿、新兵だな。ここは任せてほしい。中央突破を目指すのだ!」
 ナサロークにけしかけられ、クビアは自分を取り戻して踵を返した。
「そうだった……俺たちの目的は、タイムゲートを確保すること!」
 銀色の長髪が背でなびく。クビア、彼はヴィクスの子孫、様々な時代、様々な子孫をもったヴィクスの家系だが、ここ数千年は純粋武人が続いている。
 目の前に見えるは、過去に死んでいった者たちが『絶望』となり蘇ったものだという。
「遥か昔の敵……ね。やってやるよ。世界を守り抜いてやるさ」
 左右一対の剣を抜けば、混乱した気持ちは水面のように静まった。
 眼前の敵は何だ。最初の時と違い、一層黒く、一層歪んでいる。憎悪すら感じる。
「オレはクビア、お前たちに引導を渡す者だ!」
 流れるように刀をひらめかせ、クビアは目に見える全ての相手を斬った。
 その少し前方で、やはり敢然、『絶望』に立ち向かい、しかも一歩も退かぬ『漢』があった。
 燃えるような赤いリーゼント、はためく白い特攻服、サングラスも自慢の逸品だ。
「さっきはちょっとばかし驚いたけど、俺たちの目的は一緒なぁ〜ん!」
 無風の構えをとって、突っ込んできた相手に凄まじいカウンターを決める。
「そこをどきやがれ、なぁ〜ん!」
 彼はバリバリ、いつだって、どの子孫だって、全開だったあの男の子孫! ついでに言うとやっぱり子沢山だ! 迷いがない。それが、全世代の彼ら一族の特徴。余計なことは考えない。余計なことは考えないから、純粋戦士として圧倒的に強い。
 タフな敵が出てきたら、指天殺で突き破る。堅い敵に対しては、破鎧掌で丸裸だ。
「もう終わりかなぁ〜ん! 漢なら拳で真っ向勝負なぁ〜ん!」
 バリバリは戦い続ける。未来を取り戻すことができれば、彼の子孫も永遠に、強く逞しい純粋戦士に育っていくことだろう。
 外周の敵に立ち向かうユウキたちに、頼もしい味方が加わった。
 彼女はたった一撃で、広い範囲の敵を一気に氷化させたのである。
「こんなこともあろうかと、冒険者を引退しないでおいてよかったですわ」
「ミオナさんっ!」
 ドラゴンウォリアーとなったミオナはすっかり若返り、耳もヒレ形になっている。
「ユウキさん、フェイトさん、戦場でまた会えるなんて、思ってもみませんでしたよ」
 その後、ストレイハイムの版図拡大に合わせ、ミオナの自治領は本当の独立国家となった。女王として長く統治にあった彼女だが、有事に備え、常に鍛錬を怠らなかったという。その成果がここに花開いている。
 落ち着きを取り戻しているミオナだが、さきほどの急展開には一瞬、自失の状態に陥りかけていた。そのとき彼女を救ったのは、手元に輝くエメラルドの武器飾りだった。
(「絶対負けませんから。……貴女との想い出を守るために……」)
 と、エメラルドに祈って目を開けたとき、再びミオナは鋼の心有す重騎士に復帰していたのだ。
「ここは敵の撃破より、足止めを優先ですね」
 今凍らせた敵にとどめを刺すことより、また別方面をふせぐことを優先させたい。彼らは再会を喜び合う暇もなく、新たな敵に襲いかかるのだ。
(「あの人が生きた軌跡まで、なかったことにされてたまるものですか」)
 ミオナは誓っていた。決して絶望に屈したりはしないと。
(「希望の元に集った者たちが、絶望に負けるわけないでしょう」)
 絆は不滅、彼らの結集に誘われたかのように、ヴィーネも一行に加わる。
「皆様、ご無事ですか? 危機のときには、いつでも声をかけて下さい」
 成人はしていないとはいえ、ヴィーネは美しく、落ち着きのある女性へと成長を遂げていた。
「私は歌いつづけましょう。絶望に負けぬ、愛と希望の歌を」

 激戦は最初に倍するものとなった。敵の銅鑼はこちらの意思疎通を狂わせ、傷つく冒険者も少なくない。だが混戦のさなか、自らの身を顧みず味方を癒す回復役がいた。それも何人も。彼らの献身なくしては、一揉みに潰されてもおかしくない状況であったといえよう。
 レラもそうした者の一人だ。
「最初にも増して暗い目をした連中ばかり……やれやれ……そこまで恨んでおるのか」
 強い意志の力があるから、矢をいかけられようと、投石を受けようと、レラは自身の役割を捨てなかった。
「しかしこちらも、負けるわけにはいかぬのじゃ!」
 挟撃されている現在では前衛も後衛もない! 彼女は両手を振り上げ、癒しの波動を仲間に送る。
 レラの青い頭部を、翼竜のごとき『絶望』の魔物が襲った。
 気づいたときにはもう、その鉤爪は眼前に迫っている。
(「お前が……妾の最後か……」)
 愛する恋人、彼女はこの戦場にいないのだけど、どうか幸せであれ、とレラは願った。

 執事マコトは、遠くサキトの血を引く者だ。いや、サキトのみならず、直線ツッコミのカグヤと、脳震盪ツッコミのハヤトの子孫でもある。
「アリシア様、惑ってはいけません、中央突破に戻りますなぁ〜ん」
「えっ、で、でも、背後にも敵が出ておりますでしょう?」
「落ち着くのですなぁ〜ん、ここで足並みを乱せば、『絶望』の思うつぼですなぁ〜ん!」
 まだ決めかねている主君アリシアに、黙って両刃剣を見せる。
「わかりましたわよっ!」
 マコトのツッコミ、それは、有無を言わさず武器を抜く……歴代で一番、精神衛生上よくないタイプかもしれない。
「アリシア様、グルメなモンスターたちがいますなぁ〜ん!」
「麺道モンスターですわね。懐かしいですわ……マコト、準備はよろしいですわね?」
「アリシア様の御為ならば、いついかなるときでも……ですなぁ〜ん!」
 一瞬だけ振り向いたマコトの顔に、アリシアは歴代の執事を思い浮かべた。
 サキト、カグヤ、ハヤト……そしてマコト。どの執事も厳しかったが、どの執事も、忠義者だったように思う。彼らはいつだって、アリシアのためなら命だって投げ出してくれる。いま、マコトが前進し、盾になってくれている姿のように。
「……これからもよろしく願いますわね」
「なにか言いましたかなぁ〜ん? さあ、参ります……一気刀閃なぁ〜ん!」
 マコトの刃が麺道怪物どもを凍らせると同時に、
「淑女の嗜み御覧あれですわ!」
 抜群のコンビネーションで、アリシアのニードルスピアが暴雨となり降り注いだ。

 場面はレラに戻る。
「フライドさーん!」
「フライドさ……ん?」
 レラが目を開けたとき、翼竜の鉤爪は彼女の顔の横を通り過ぎていった。
 最初の声の主が翼竜に捨て身の突進をして、その軌道を変えたのだ。
「あら、わたくし、焦って思わず、変なことを口走って……」
 勇敢なその女性は、身を起こしてきょとんとしている。敵は、と探しているようだ。
「ミヤコ殿!」
 さらに同じ敵を、ビュネルが飛びついて叩き落としていた。
「おおっ、ビュネル殿も!」  
「こいつら悪いやつなぁ〜んね!」
 叩き落としてなお、ビュネルは容赦がない。暴れる翼竜の首根っこを押さえつけ、爆砕拳で顔面を叩き潰し消滅させている。
「悪いやつは、許さないなぁ〜ん!」
 ビュネルは手を払って立ち上がると、ミヤコに呼びかけた。
「すごいなぁ〜ん。咄嗟の判断でそこまでできるなんてなぁ〜ん」
「二人とも助かったのじゃ。礼を申す。かたじけない」
 だが、立ち上がったミヤコは、不思議そうな顔を崩さなかった。
 レラを見て、
「あの……どなた、でしたかしら?」
「ミヤコ殿!? 妾じゃ、レラじゃ!」
「申し訳ありませんの。永く生きすぎたせいかしら、少しずつ記憶が摩耗するようになって……。一万年以上お会いしていない方は、つい忘れがちになりますの。でも、レラさんというお名前には聞き覚えがありますわ」
「ほら、フラウウインドにともに旅した……」
「そのようなことも、ありましたような……?」
「では、『フライドさーん』も忘れてしまったというのか!?」
「え……」
 ポン、とミヤコは手を打った。
「あ、はい、レラさん♪ 思い出しました思い出しました♪ プルミーさんたちと、フラウウインドで……楽しうございましたわね」
「やれやれ……ほっとしたのじゃ。さて、まだ新手が来おるぞ。妾はここで回復拠点となるつもりじゃ。ビュネル殿、ミヤコ殿、守りを頼む」
「レラさんは、フライドさんのお嫁さんでしたわね♪」
「……ミヤコ殿、思い出す作業は勝利してのち、じっくりやることにしようぞ」

 本日、戦闘開始前にネレッセは、プルミエール(現在)の姿を見て、思わず鼻血を吹いてしまった。しかも、大量失血によって、一時昏睡状態にあったのである。
 世の中、何が幸いするかわからない。
 なんとこれが、味方に大いに有利に働くことになったのだ。
「しまった、遅れてしまった……」
 昏睡状態だったため、彼は出発が遅れてしまった。
 起き上がって、妙に涼しいことに気づく。
「……っ!」
 ネレッセの体は、長い時間をかけ傷だらけになっていた。原因は不明だが、現在、顔を含む全身に浮き上がるようになっており、これを隠すため、深めのフードのついた全身ローブを着ている。……のだが、
「ごめんなさい。この服装が苦しいせいかと思って……脱がしてしまいました」
 傍らで申し訳なさそうに侍しているのは、すぐ隣だったので彼を看病し、出発点に残ったアオイだった。
 何年ぶりだろうか、ネレッセがこれを着て顔を隠さず、人前に出るのは。
「いや、いいんです。看病してもらいありがとうございました」
「遅ればせながら私たちも戦場に向かいましょう!」
 ネレッセとアオイは連なって、ドラゴンウォリアーとなりタイムゲートを目指した。
 繰り返す。これが味方有利に働くことになった。

 支えきれない。
 ユウキとナサローク、ミオナ、フェイト、そこにグレイトも加わり、懸命に後方からの敵を引きつけようとするが、なにせ全周が相手だ。さらには敵の数も多すぎる。逆に彼らは包囲殲滅の危機に瀕していた。
 ドラグナーの突進にバランスを崩し、ユウキが立て直そうとしたとき、その頭上に、
「っ!」
 巨大な、あまりに巨大な、グドンを数十倍にしたような姿のドラグナーが片足を振り上げ、自分をボールか何かのように蹴りつけようとしているのを彼は知った。
「ユウキっ!」
 フェイトが救おうとするも間に合わない。万事休す……か!
 いや!
「でやああああああああああああああああああああ!」
 猛突進して怪物の脚を、盾で受け止める甲冑の騎士があった。なびく青い髪、白い肌、セイレーンの女性だ。理知的なその顔立ちは、ユウキがよく知る人に酷似している。
 彼女は英雄『ネーヴェ』の子孫、その名も同じネーヴェ。これぞ重騎士の本領、と、超重量の怪物の体重を一人で支えるのだ。
「ネーヴェさん……ですか! よく、ここが……」
「いいから……とっとと、離れるのだ……!」
 押し返す。押し返すのだが敵は、さらなる力で押してくる。ドラゴンウォリアーとなっているというのに、それでもなんという重さであろう! 全身の骨が軋む音が聞こえる。甲冑の金属が悲鳴を上げる。気を抜いたらバラバラにされかねない。
 それでもネーヴェは耐えた。ユウキが助けようとしているが、あと何秒耐えられるか自分でも判らない……!
「ネーヴェさ……」
 しかし潰される前に、ドラグナーがぐらりと揺れて転倒していた。
 あれほど鳴っていた銅鑼の音が唐突に消えた。
「間に合った! そこにいるのはユウキさんですね。どうです、腕は鈍っていませんよ!」
 アオイが手を振っている。傍らにあるのはネレッセ、現在の彼は全身傷だらけだが、もうそれを隠そうとせず、堂々と晒していた。
「あいつら、こっちに背を向けているものだから、分厚い包囲も簡単に抜くことができましたよ」
 かくて、師団を囲んでいた外周の一角が破れたのだ。完璧に思える作戦ほど、裏をかかれれば脆いもの、一度開いた穴は容易に広がる。
「あの戦いからどれ程の命の営みが繰り返されたか! 当たり前が当たり前であるために、ここでビビったらあいつらに笑われるんだよ!!」
 すぐさまネレッセは追い打ちのデンジャラスタイフーンを放ち、さらなる混乱を引き起こす。この隙にアオイと一行は、レラたちとも合流を果たすことに成功した。
 そのとき火焔の塊のような怪物が多数飛来し、彼らを抜けて中央部の冒険者の背後を襲おうとしていた。少ない数ではない。ざっと見積もっても百はある大群だ。
「抜かせるな!」
 ネーヴェは盾で数体を弾き、ユウキも眼前の一体を斬るが、敵の数は多すぎる。火焔のうち六十程が彼らの間をすり抜け、直線の進路を取って飛ぶ。
「絶望かぁ……ははっ、ブチのめしがいのある敵どもだね!」
 邪魔するよ! と跳躍し、その群れに飛び込んだ戦闘者がある。
 小兵だが全身より発する『気』はただそれのみで、磨かれた槍の穂先の如く、見る者を戦慄させずにはおかない。その彼女には、また遠い祖先と同じ気高さと愛らしさもあった。
 戦慄させ、魅了もする。一見相反するその両者を矛盾なく同居させる人物は、この広い世界を見渡しても希である。希なるその者、名はスゥベル、彼女の祖先は数限りないドラゴンを手にかけ、その一方で伝説のミュントス五番勝負、そのすべてを制覇した同名の人物だという。
(「この装備、ご先祖様愛用の装備って伝承らしくて持たせてくれたんだけど……なんかおかしくない? 動きやすいではあるけどさ」)
 スゥベルは、メイドの中のメイド、『上メイド』しか認められぬメイド服チェインメイルを着、戦術扇を手にしている。その姿が、舞った。途端、火焔怪物はそれぞれ、蚊でもあるかのようにバタバタと落ちる。
「あたしスゥベル、あなた、ユウキってんだっけ? こっちの戦力が足りなさそうなんで押しかけ参加させてもらったよ。その腕前にも、興味があるし」
「はい、お願いします!」
 応えながらユウキは、遠い昔の『ベルハルト』という戦友のことを思い出している。
 二人は手を握り合う。フェイトもアオイも一緒だ。頼もしい仲間たちも全員健在である。
「最後までこのラインを死守しましょう!」
 ユウキは猛々しく宣言した。

 一方、大半の冒険者たちは、中央突破に全力攻勢をかけていた。
 消耗は激しいが彼らは奮戦する。クーカとメイメイが戦っている。ヤシロとツクノの姿もあった。彼らの絆は、その体内に流れる血だ。
 そしてクロノとスズの絆は、夫婦という名の契り。
「もうじき『タイムゲート』だな。もう油断はしない。このまま行く!」
「はい……」
「スズ、これからも一緒だ。最後までな。離れるなよ……」
 攻防の合間を盗んで、クロノはスズの唇に、自分の唇を重ねた。戦闘の最中、貴重な数秒だが、たっぷりと味わった。
「死亡フラグ? そんなもん関係ないね! 矢でも剣でもプルミーでも何でも持ってこい!」
 びしっと一言そう宣言、クロノはスズと手を取り合って眼前のゲートを目指す。
「我が名はクロノ・ディスケンス!」
「我が名は……スズ・ディスケンス……」
 二人声を揃え、
「ディスケンス夫妻、いざ……参る!」
 名乗り上げて突撃した。
 プルミーやエルス、アイ、アストは、名前こそ同じなれど、意志を継ぐ新世代の冒険者たちだ。
 そしてここにも、同じ境遇の勇者が一人。
「僕が……ご先祖様が守った世界を……守らないと!」
 今より途方もない昔、この少女に似た子が、同じ『レイム』の名と共にこの世にあった。
 その子が守ったこの時代を、あるいはその子の生きた過去を、守るため彼女は、先祖代々伝わる武器を持ちかの地へ訪れたのである。
 位置は陣営後方、享楽の失愛姫・レイム(a70257)にとっては初の実戦となる。しかもこれだけの大量の敵を相手にしており、後方にも敵がいるという極端な状況だ。
(「でも、怖くなんかない。絶望に負けない強い『希望』が、僕達に託されているから……!」)
 自分に言いきかせるようにして、『魂魄の夢』と名づけた強弓を引き絞る。
 向かっていく前衛の仲間を支援するように、ナパームアローを放つのだ。それも、立て続けに。
 まずは成功。振り返って背後の無事を確認するとすぐに次の矢の準備に入る。
(「単騎で突撃してきた敵にはガトリングアローで各個殲滅、ナパームが切れたらジャスティスレイン……」)
 落ち着いて確認すれば、きっとミスはないだろう。
 強い意志でレイムは戦いに臨む。強い意志でなければ未来は掴めない、そう思っているから。

 多くの友人を作った。平和を勝ち取った。旅で見聞を広めて、領主となり善政を敷き、生涯唯一人の愛する伴侶を得た。
 そんな今日までの歩みを『なかったこと』にしろと言われて、容易に納得できる男などいまい。
 レティリウスも当然、納得できない男である。今、緑の髪が乱れるのにも構わず戦い続けるのは、自らの歩みに疑いを持っていないからだ。常に、とはいわずとも、最終的にはほぼ、最良の選択をしてきたものと信じる。
「我の後ろに力無き民が……最愛の伴侶が居る限り絶対に絶望になぞ飲まれん!」
 気炎を吐き正面の敵を見つめる。
 シャコだ。それも、真っ赤なシャコだ。別名『C』、逆襲にやってきたというわけか。以前遭遇したときよりずっと、巨大化しているように思う。
「いくら恨もうと、満足いく解決など得られんものだ。それがなぜ判らん!」
 レティリウスは、気迫を込めて光の雨を降り注がせた。
「レティリウスさん、そこにいたのね。加勢するわ!」
 ルビナスとアリア、頼もしいフローリア学園の仲間たちも来る。これで千人力だ。

 ドラゴンウォリアーと化したエルは、同時に、もう一人のエルと化す。
 どちらが正で、どちらが非とかいうのではない。自分の中で眠っていた部分が、目を覚ますようなものだ。ただ、この『目覚めた』部分は、現在眠っている通常のエルの記憶も有している。
「随分と久々に出て来れた上に………戦場は地上ですらねぇときた。おまけに連中、さんざ小細工を弄してきやがる。面倒だが、まぁ、務めは果たすさ……『アイツ』のためにもな」
 アイツ、それは、一次人格のエルのこと。彼はアイツに、一方的ながら奇妙な友情を感じている。それが、彼がここから出て行かず、また、アイツの座を奪ったりしない理由なのかもしれない。
(「見知った人形が見えるぜ。舌を出し張り付けたような笑顔が怖い少女、道化師のような奇妙なヤツ……なんだあのハンバーガーは……?」)
 だがいずれもエルの敵ではなかった。
 このエルと共闘するはアイとアスト、そしてアイーシャだ。
「絶望などに呑まれた者に、希望の象徴たる同盟の冒険者は害せぬと知れ!」
 ふにゅふにゅした蜜柑のような人形怪物は、九人もいて壮観であったが、いずれもアイーシャのニードルスピアの敵ではなかった。針刺しのようになってクタクタと消滅する。
 アイが手を叩いた。
「さすがアイーシャ殿、伝説の英雄の力、垣間見た気がする」
「なんの、これは相手が弱かっただけのことじゃ。強敵が出たら……むっ!」
 アイーシャは口を閉ざす。
「……なるほど、こいつが、か」
 エルもまた、不敵に口の端を吊り上げる。
 雄と雌、二匹の鼠の人形が歩いてくる。いや、どっちも雄だろうか? 一匹は黄色と黒のいカラリング、もう一匹は青くて、頭がツンツンしている。
「二足歩行ネズミがパチモン臭くなって再登場したー!?」
 アイーシャは、なんだか色んな意味でショックを受けざるを得ない! 
「かつてのアイツは苦戦させられたが、いくら時を経ようともオレの相手にはなんねぇよ」
 エルもやる気満点だ。アイーシャは指示を飛ばした。
「アイ殿、嵐のフィールドを頼むのじゃ。連中の周囲の雑魚をまとめてなぎ払う。アスト殿はその援護を。エル殿は妾に合わせて連中を仕留めてほしいのじゃ」
「了解だ」
「はいっ!」
「いいだろう」
 アイーシャは敵を見据える。エルもまた、同じ相手を狼のような目で狙う。
 二匹の鼠は自分たちの命運がとうに尽きている事も知らず、攻撃の手を伸ばしてきた。

「行きなさい!」
 ローザマリアが押し出してくれたおかげで、プルミーとエルスを含む数人の冒険者が、ゲートへ最接近していた。敵も必死だ。『絶望』に染まった存在が次々と進軍を阻害する。そこまでして守るということは、ここが敵の生命線ということ。その真の理由を知るためにも、どうしても抜かなければならない。
 再度一行の前に出現したのは『絶望』ドラゴンたちだった。
「『絶望』なんかに負けたりするものですか!」
 ミネルバは両腕を広げ大回転し、乱気流を発生させる。
「もう少しだというのにっ……」
 プルミーは肩口を朱に染めている。自分の血だ。振り返ると、ともに攻め上がった仲間は随分数を減じている。彼女たちを送り出すために、めいめいが中途で立ち止まり敵を防いでいるのだ。
(「すみません、皆さん……」)
 敵を全滅させられるかどうかより、ここは誰か一人でもゲートにたどり着けるかどうかが戦局を決定づけよう。敵を一掃しないと開けないにせよ、到達宣言はこちらの士気を高め、敵の士気を挫くに違いない。もはやなりふりは構っていられない。彼らは文字通り死に物狂いで奮戦した。
 黒い炎がプルミーの頭上を掠めた。トレードマークの帽子が、触れもしないのに半分溶けた。
 心臓を、冷たい手で握られたような気がした。
 竜は彼女の眼前、大きな口を開けてさらなる火焔を吐き出そうとしている……!
「ひゃっ!」
 刃を構えたプルミーの小さな体は、誰かに抱かれ宙にあった。
 最前まで彼女のあった位置に、黒い炎が滝のように降り注いでいる。
 火焔を放った竜は、銀色をした針を大量に顔に浴びせかけられ、前脚で頭部を覆って苦悶の叫びを上げていた。
「無理はいけません……あなたは世界に不可欠の人です」
 プルミーは彼を、最初女性かと勘違いした。それほどに清らかな青年であった。激戦にいくら汚れようと、肌は猶、雪のように白い。
 翡翠色の髪をした青年は、プルミーをしっかり立たせると告げた。
「お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫です……あなたは?」
「名乗るほどの者ではありません」
 短く返事すると青年は、彼女を見ないようにして飛び立とうとする。わずか後方は激戦地、彼の力を必要としているからだ。
(「そろそろスピアが尽きますね。ですが、ブラックフレイムだけは使い続けられます。私自身が焼かれる前に、一体でも多く道連れにしてやりましょう」)
 彼は覚悟していた。ここで終焉を迎えようと悔いはない!
 飛び立とうとする彼の背に、プルミーは力の限り叫んだ。
「この戦いが終わったら、お名前、聞かせて下さいね!」
 理由はわからないが、右目の端に涙が浮かんでいた。
「約束ですよ!」
「……はい!」
 微かにうなずいて、ルーシェンは再び、黒竜に立ち向かっていった。
(「貴女が愛したこの世界を見続ける……私が自身に課した約束。それを守るために、決して希望を失ったりしません」)
 かつて愛した女(ひと)に、ルーシェンは心の中で呼びかけた。

 ユウキの真横、金属球体のような怪物を、ソニアが蛇毒刃で仕留めていた。
「コード毒蛇……と、よそ見をしていると危険ぞ。ユウキ殿」
「少年、我々も後方に当たろう。前方の仲間たちは、着実にこの戦場の核……すなわちゲートに近づいている。彼らの邪魔を狙う不埒者を我らは討つ!」
 ディーンもいる。わずか二人援軍が加わっただけだが、勇気百倍する言葉ではないか。
 このとき見上げた天空、大宇宙に出現した光景に、敵味方が一瞬、我を忘れた。
「我ら『安国寺』空爆隊!」
 叫びと共に、黒い袴に白着物、剃髪した小坊主の軍団が飛来してくるではないか! 当然、敵は猛烈にこれを迎撃した。
「うわー、だめだー!」
 たちまちボロボロと小坊主たちは脱落していった。
「ザンネンさん! ムネンさん! チンネンさぁ――ん!!」
 唯一残った小坊主が、涙とともにその隠された真の力を解放する。
「戦う……。戦う……! 戦う!!」
 燃焼せよ、とんち力!
 次の瞬間ちいちゃな小坊主が、いきなりその身長ほぼ二倍、赤銅色の肌を持った筋骨隆々たる恐ろしげな姿に変化した! 髪はみるみる伸びて長髪となり、淡く蛍色に光っている。
「食らえい! とんち! デンジャラス! タイッフゥゥ――ンンッッ!!」
 見たか聞いたかあれぞイッキュウ六歳、10193代目のイッキュウ・ゼンジーだ!
 猛然、湧き起こった旋風が、眼下の敵を宙に巻き上げていた。

 ゲートはもう見えているのに、それでも手が届かぬもどかしさ。
 だが一行は着実に進む。戦い続ける。
「アンジェリカ〜〜露払いしま〜〜す♪」
 決して希望を失わぬ少女が、真っ赤な竜巻を伴って切り結ぶ。
「全力援護するよ、アンジェちゃん!」
 残弾数が底をつき始めたが、それでも気丈に、リリムはスキュラフレイムで強敵を狙う。姉妹の連係攻撃に、壁のようなモンスターも倒壊してしまった。
「お姉ちゃん強くなったね♪」
「アンジェちゃんは、昔から強かったよ、変わらないね」
 姉妹は、互いを想う視線を交わし合った。
 シオンもまた、血で血を洗うような状況ながらも進むべき方向を見失わない。大量の敵を一気に、流水撃で斬り払う。
(「先生……父さんの方は無事でしょうか」)
 父、マサトのことを思った。誰にも明かしはしなかったが、シオンはマサトの実子なのだ。
「後は……あそこですね」
 ゲートへの道を阻む者は、どんな相手でも斬ってみせよう!
 シオンと並列に、アスもまた武を奮う。
「後衛には指一本触らせへんで! うちらの前を塞ぐのも許さん! 要は、あんたら全部、元おったところに送り返したるわ!」
 戦いつつ守る。この加減は難しいところだ。だがアスは成し遂げた。大振りは避けて隙を作らないようにし、後衛を狙う怪物を破壊する。
 黄金のハルバードが、『絶望』どもをかき分ける。
(「この有象無象を見てると冒険者になって初めて受けた依頼を思い出すな」)
 ギルベルトは、剣のような歯を見せこの決戦を楽しんでいた。良き死に場所見つけたりと、全力で敵を打ち払う。癒し手を守り、行く手を塞ぐものを粉砕する。
(「さてあれは何万年前だったか……ま、今はんなこたどうでもいい」)
 これだけの雑魚が居るのだ。遠慮は無用。唯、薙ぎ払うのみ。

 最先頭集団を援護するのは、絶え間ない弓手の放矢だ。
 メアリィ・ストレルカもここに参加している。
(「歴史改変は仕掛けられた事とはいえ祖先の方もしたようですね。果たしてこれが良い事かは分かる事はないでしょうが、少なくとも絶望による破壊はいい事ではないはず」)
 それを裁断する役が、数万年後の世界に持ち越されたというわけだ。
(「全てを否定するこの事象変更だけは避けないといけないのです。悪い事でも改善の可能性があるのが、『希望』という物なのですから」)
 門に向かうメンバーを懸命に支援しつつ、共に戦う伝説の英雄たちの勇姿に、メアリィは胸を高鳴らせる。彼らはまるで迷いがない。一矢一矢、それこそ魂を込めて放っている。
「弓矢隊、一斉攻撃!」
 指揮を執るビューネという戦士は女性だ。
「銀、閃くが如く……銀閃、押して参ります」
 と放矢する。あんなに可愛らしい人なのに、これほど逞しいのに憧れてしまう。
 シェムハザーダも矢をつがえており、その列にはミシャエラも加わっていた。
「でかい仕事って聞いていたけれど、本当にでかい仕事ね!」
 彼女はミシャエラ、時代は流れ、再び牙狩人を選んだ子孫だ。
「なにせ、世界そのものが懸かってるんだもの。そうでしょう!?」
 告げつつミシャエラは、霹靂弓を限界まで引き絞り天頂めざして矢を放った。
「さあ、ぶちかますわよ!」
 直後、凄まじい数の光の雨が降り注ぐ。
 負けじとメアリィも弓を引き続けた。引いては放ち、放ち手ては引くのだ。
 パープルの瞳、髪は空のような美しいブルー、彼女はエンジェルだが、伝説的英雄ミスティの末裔なのだ。英雄たちを目の当たりにしながら彼女は思った。
(「凄い……本当に凄い。祖先のミスティも、これほど凄かったんだろうなぁ……」)
 ミスティがここにいればこれを見て、子孫の活躍に微笑んだだろう。

 最前列、もうゲートに手が触れそうな位置に『アセルス』はいる。
 といっても2019年に、プルミーに子どもらを紹介したあの女性ではない。遠い子孫であり男性だ。されど英雄『アセルス』の力と技を継ぎ、紋章術剣士を名乗る少年である。
 あまり慎重は高くなく細身、少しクセっ毛の白い髪、眼鏡の奥にある紅の瞳はそう――アセルスを思わせる光を湛えているではないか。
 文字通りともに血と汗を流しながら、戦場で邂逅し、そのまま生死を共にする少女に少年は目をやる。今日が初対面なのにここまでの戦いで、彼女には自分の命を賭けてもいい、という確信が彼の中に生まれていた。
 少女は眼前の敵を切り伏せるとすぐに振り向いた。
「どうしてだろう、キミから目を離せない……」
 少女は英雄『レイ』と瓜二つだ。胸の膨らみはたしかにレイとは異なるものの、表情はもちろん口ぶりまでも似ているのは奇跡的ですらある。
(「世間からは氷のような女とも言われているこの私がだ。どうしたというのだ?」)
 彼女は己の、心に問いかける。
(「魂そのものが彼に出会えた事に歓喜しているような……彼になら背中を預けてもいいと訴えている。これは、どういう意味なのか?」)
 だがそんな彼女のすべてを認めるように、少年は微笑したのである。
「……確かに感じましたよ、貴女と僕との間にある繋がりを」
 瞬間、少女は答に気づいた。
「ああ、そうか、キミなんだな、私がずっと探していたのは」
 怪物がブロックしようとするが構わず斬り込み、同じく笑み浮かべて応える。
「キミと共に戦えるのなら、幾百幾千……いや幾万の絶望に囲まれようとも恐れる事など何もない。キミという私にとっての希望がある限り!」
 運命の二人は永劫に思える時を経て、ここに再び出逢った。 

「プルミーちゃん、アイちゃん、見える!? 門だよ、時の大門……タイムゲートだよ!」
 あと少し、あと少しだ。マナヤは残ったエンブレムシャワーを撃ち尽くす覚悟でこれを放った。
 敵も全力抵抗を見せている。マナヤたちのいる場所まで来ている冒険者は殆どいない。皆、どこかで堰き止められているのだ。師団の陣形は直線のように伸びきっており、目指す場所までほんの数歩の距離なのに、突破か戦線崩壊かの瀬戸際にあるのがわかった。
「みんなで力を合わせれば、きっとどんな困難も乗り越えられるよ!」
 そしてマナヤは歌った。いつだって彼女は、こうやってみんなを勇気づけてきたのだ。こうやって何度も、最悪の状況から奇蹟を起こしてきたのだ。
 針を飛ばす敵が、マナヤの柔らかい肩に鋭いものを突き刺した。激痛が走るが、痛いと言っている暇があったら、一言でも皆を勇気づけたい。
「もう一度奇蹟が起こせないはずがないよ!」
 ボクらならできる、必ずできる――声枯れるほどにマナヤは歌い上げる。
 だがマナヤの眼前で、プルミー一行との繋がりは断たれてしまった。
「僕ら……後方を塞がれてる!?」
 オームの子孫ヤジュルは、黒い鬣のソルレオンだ。初陣ゆえ今日は緊張の連続だが、負けるという気は一切しなかった。背後に敵が回り込み、ゲートに届く範囲にあるのは自分を含む数名、そんな状況であっても、彼は希望を捨てなかった。
(「ご先祖様たちだって、もっと大変な場面を乗り越えたんだ。僕にもできる!」)
 若さ故の根拠なき確信――そう笑いたければ笑うがいい。だが人を護る英雄というのは、ときに根拠なき確信にでも、すべてを賭けられる夢想家なのだ。冒険者が夢想家でなければ、今日の繁栄はなかったであろう。ヤジュルも、十分すぎるほどに冒険者だ。
「さあ、この歌に惑ってもらう!」
 ヤジュルの歌うはファナティックソングだ。『絶望』は寄って集って妨害しようとしたが、彼はこれを響かせることに成功する。先祖の血が、歌に感じられた。オームの詩情、リグの明るさ、サーマの重厚さにヤジュルの想い……歌は、成功した。円盤人もきりきりまいだ。
 アイは周囲を見回し、ファナティックソングが多くの敵を混乱させているのを知る。
「ユーリア殿、敵が……」
「ここまでの道を築いてくれた仲間たち、その想いが届いたのでしょう」
 あの華麗なユーリアが、いまは全身いたるところに傷を負っている。だが致命傷がひとつもないのはさすがだ。いまここで倒れ伏したいほど疲労しているが、ユリーシャ譲りの気高き精神が、彼女の足をとどめている。
「門までの敵はほぼすべて混乱しています。これぞ好機!」
 と振り返ったのはシャリオ、十年後百年後千年後、そして数万年後のこの時代に至るまで唯一人のシャリオ、彼の疲労も頂点に達しているが、大声で宣言する。
「誰でもいい、タイムゲートに飛び込んで下さい!」
 おお、と色めきだつ冒険者たちであったが、急転直下……!
「ドラゴン、『絶望』ドラゴンだ……まだいやがったのか、こんなに沢山……」
 アストは荒い息を吐いている。口の端からは血が滴り落ちていた。彼と共にあるレナートは、「この期に及んでこれか……」と、息を呑む。
 門と彼らの間に、割り込むようにして四方八方から、強大な竜が出現したのだ。
「十二匹、だと……」
 嘘であってほしい、とエルスは想った。たとえドラゴンウォリアーでも、たったこれだけの人数では……対処しきれない。
 竜は翼をはためかせ、ぐるりと一同を囲む。いずれもが、黒く歪んだ目で冒険者たちを見下ろしていた。口を開けば一呑み、炎を発するにせよ瞬時にして全員を焼き尽くせる距離だ。
「ああ……」
 さしものプルミエールも気絶しそうになるが、エルスが抱きとめていた。
「しっかりしろ、プルミー! まだ終わっちゃいない! まだ終わりじゃないっ!」
 自身にも言いきかせているのだろう。彼の目は真っ赤だ。
 シャリオは呟く。彼自身、話し続けることで己を保とうとしているのだ。
「思い出す状況は、数万年前の『最後の選択』ですね。あのときも、圧倒的な力を持ったドラゴンが十二体迫ってきた。まさに『絶望』の具現化でした……」
 ですが、とシャリオは言う。
「私たちは『希望』を信じ立ち向かう事で『絶望』を打ち払いました」
「希望……希望か」
 ふっ、とラスが笑う。なんと彼は大胆にも、竜の顔面にもたれ、肩をすくめた。
「なあアスト君。オレ、この戦いが終わったら結婚するんだ……そこのアイちゃんと」
「なんだって!」
 アイがぎょっとして彼を見返すが、それ以上に激変したのはアストだった。
「あいつにチャラいことしたら、オレは英雄殺しの汚名着ますよ!」
 我を忘れ、彼はラスにつかみかかった!
「まったく、人騒がせなことですわね……。ですが」
 シュビレはニコッと微笑んだ。すぐさま告げる。
「ミレイラル、トワイライトさん、結婚式ですって! 参列客参列客!」
 二人、心得たとばかりに、用意しておいた土塊の下僕を撒き散らす。
「ほら行ってこい! ラスゼロ、ラスダブルオー、ラスファイナルっ!」
「量産型ラス、陸戦型ラス、えーと……ラスキャノンとラスタンク!?」
 わらわらわら、彼らは下僕を出し、さらに召喚してますます混乱を高める。
 絶望の眼前で広がる混沌模様、突然のことにドラゴンたちは手出しを躊躇った。なまじっか知性が残っているのが弱点だったといえよう。
 無論、ラスからすべて演技である。(アストは半分本気かもしれないが)
 このとき彼らが稼いだ僅かな……しかし貴重な数十秒が、分断された仲間が再結集するまでの時間を確保してくれた。
 唐突に、竜の一頭が天を仰いで落下していった。
「負けたりしない。僕の……おばあちゃんの想い出も……全部守りきる!」
 レイムのガトリングアローがとどめを刺したようだ。
 そればかりではない。
「数千年の鍛錬の成果、今こそ見せましょう!」
 ユーリアの一撃がこれを追う。圧倒的優位だったはずのドラゴンたちは動揺し、襲いかかってくる新手の冒険者、そして最先行のプルミエール一行、その挟撃を受ける格好となる。
「漢の拳を受けるがいいなぁ〜ん!」
 根性の打撃をバリバリが与え、
「策士策に溺れるとはまさにこのこと、せっかくの優位を活かせぬ疑心暗鬼ぶりは、かつて私たちが滅ぼしたときとそれほど変わっていないようですね」
 ビューネの矢は雨と降り、
「ぜつぼーな敵さんなんて、僕がお姉さまの服を着せられるときの悲しみには及ばないのですよー」
 などと半泣きでベディヴィアが暴れまくった!
「敵の動きはタスクリーダーで伝えるわ、取りこぼすんじゃないよ!」
 ミシャエラのメッセージも抜群の感度だ。
「後方はあらかた片付けたで〜! さあ、ガッツソングも歌い納めやろかー!」
 アスの歌は行進曲、リズムに乗って敵を撲て! 撃て! 討て!
 驚愕のあまり首をすくめたドラゴンがあったが、まさにその首に、ビュネルが飛んで絡め取る。
「せ〜の……なぁん!!」
 なんと敵の巨体を、全力でビュネルは投げた! 飛ばされた竜が別の竜に激突して大惨事だ。
 たとえ相手が竜であろうと、セツナの剣尖に乱れはない。
「……斬り捨てる」
 一言、その言葉は彼女の唇から洩れた途端、現実となった。
「癒しの天使、さ〜んじょうっ! 怪我してる子はいないかな〜? すぐに治してあげるからね」
 アイリーンの楽しげな声も聞こえる。
「後方の敵は算を乱している。そちらに追い込むから各個撃破してくれ! 我々も参る!」
 と告げてネーヴェは、華々しき宣言を、自身の剣で締めくくった。
「見るが良い、これが蒼雪(ソウセツ)の聖剣が本領だ……!」
 絶望も暗闇も全て蒼で塗り替えん、ネーヴェの聖剣が敵を断罪した。
 誰もが知った。今度こそ『絶望』を追い込んだのだと!
 一度形勢が傾けば、大軍ゆえ圧倒的勝利が実現する。それから間もなく、冒険者怒濤の反撃は、ついに『絶望』を掃討し尽くしたのだった。
 勝ち鬨が一斉に上がった。誰もが、この素晴らしい結果に激しく血を燃え上がらせている。
 ある者は希望の歌を唄いながら、ある者は、愛する人と手を取り合いながらこれを祝す。友人同士抱き合う者たちの姿も多く確認された。静かに涙を流している者もいる。
「よしっ! ……よしっ!」
 無闇にエルスがガッツポーズを繰り返している気持ちも、わからないではないだろう。
「なあ、アスト、さっきの話なんだが」
「え、なんの話? オレ知らないよ、ラスさんの言ったことなんて」
 空とぼけるアストを、アイが追い回していた。
「終わりましたね」
 フェイトが、ユウキの背に手を触れた。
「ええ、終わりました。皆さんと一緒だから、ここまで来ることができたんです……特に僕の場合、フェイトさんと一緒だったから、ですね」
 彼はフェイトの体を、背中から抱きしめたのである。
「ユ、ユウキ……今日はちょっと……大胆……」
「浮かれてるんですよ、僕も」

「……プルミーさん、プルミーさん」
 囁き声がプルミエールの背後からする。
「あっ、テルミエールさん♪」
 手を振っているのは、誰あろうテルミエールだ。
「来てくれると思ってました☆ 後方から攻撃支援をされていたんですよね?」
 プルミーはテルミーに寄り添って手を取った。
「ええ、さすがに今日はアビリティを撃ち尽くしてしま……えっ!?」
 ここでテルミーは仰天してしまう。
「私たち初対面ですよね!? どうして現在のプルミーさんが私のことを知って……?」
「数千年前の『先代』、桃色リザードマンの『プルミエール』が、あなたのことを書き残しておいてくれたんです♪ 大切な局面には必ず、テルミエールさんが来てくれますよ、って。あの人はいつだって、『プルミエール』のことを見守ってくれていますって……だから、いま声をかけてくれた人がそうだと、直感的にわかりました」
「ああ、あのときの『プルミー』さんが書いておいてくれたんですか……」
 テルミエールは顔をほころばせていた。各時代、各世代、彼女はたくさんの『プルミエール』に出会った。たくさんの『はじまり』を見てきた。どのプルミエールも、テルミエールにとっては大切なプルミーだ。それはこれからも変わらないだろう。
「いつか本当の『おしまい』が来るかもしれません。でも……」
「今日はその日じゃないですね♪」
 二人は屈託無く笑いあうのだった。あの日の二人のように。
「さあ、タイムゲートに入ってみてはいかがですか、プルミエールさん」
 とテルミーは勧めたのだが、プルミエールは彼女の手を握ったまま提案する。
「一緒に入りましょうよ。『はじまり』と『おしまい』が一緒になれば、それは輪っかみたいに、終わりのない状態……つまり永遠、もしくは、無限ってことになりませんか♪」
 二人は手を取り合い、タイムゲートに手をかけた。
 ――希望が絶望に勝利した瞬間だった。


マスター:桂木京介 紹介ページ
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ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:100人
作成日:2009/12/26
得票数:冒険活劇61  戦闘1  ほのぼの7 
冒険結果:成功!
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我は破滅を断つツルギなり・ルビナス(a57547)  2011年09月24日 00時  通報
プルミエールから始まり、そしてテルミエールで終わり。

ならば私はその始まりから終わりまでの架け橋でありたい、長い道のりの案内人でありたい、道標でありたい。
プルミエールさんの子供達に接し戦い方を教えていたのも、永遠の命を得て正体を隠していたのも、たぶんそんな考えからだったのでしょう。

桂木MSお疲れ様でした。
こんな変な考えの私のプレイングすらこんなにステキに表現されるとは。
本当にありがとうございました!

朱華・オーム(a74565)  2011年06月30日 23時  通報
読み終わるまでに何度も泣きそうになりました。
最期の時間も未来の物語もどれもが感慨深く……
最後を飾る物語がこの物語で本当によかったです。

桂木MSは本当にお疲れさまでした。
そして長い間本当にありがとうございました。

全開・バリバリ(a33903)  2010年06月30日 06時  通報
世話になったなぁ〜ん、ありがとなぁ〜ん。
マスターにも、依頼で一緒になったメンツにも、感謝してるなぁ〜ん。
楽しかったなぁ〜ん。

帰ってきてしまった・イッキュウ(a17887)  2010年06月20日 21時  通報
挿絵が完成してからコメントを書こうと思っていたら、終了まで残り10日だったでござるの巻。
……いや、もう半ば諦めかけていただけに、本っ当〜に嬉しかったですわ。
では、改めて−−「我が生涯に、一片の悔い無し!!」

紅蓮の獅子・ディラン(a17462)  2010年06月08日 14時  通報
あー…すげェ遅くなッたけど、やッぱり桂木MSにして正解だッた。オレは「10年後」と「数万年後」とにウェイトを置いたわけだけど、「100年後」「1000年後」の世界にも出たかッたなー。

星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)  2010年04月08日 01時  通報
これを書いたら本当に終わりと実感しちゃうので躊躇ったけど、やはり書かせてもらおう。
最高でした、桂木MSさん! 良い冒険を感謝します!
そして皆もお疲れ様でした。
これからも、良き冒険、良き出会いがありますように(礼)

全力狂想曲・ティム(a71002)  2010年01月06日 23時  通報
このシナリオで冒険を締め括れてホントよかったと思う
桂木MS、そして一緒したみんな、ありがとーなんだよ!

祖前霊止・アスト(a58645)  2010年01月03日 22時  通報
ふぁ〜、やっと読み終わったよ。プレイングに書いてない時代まで描いてもらえたし感謝感謝。
……しかしまぁ、オレの子孫にしちゃ真面目な所が多いなー。アイの血かな?

繰り返される無限の誤り・トモヤ(a77980)  2009年12月29日 07時  通報
感謝だ・・・
本当にお疲れだ。

嵐を呼ぶ蒼き雨・レイニー(a35909)  2009年12月28日 13時  通報
よ…ようやく読み終えたのじゃ…
何回かに分けて読んだのじゃが、読んでも読んでも終わらぬ。
これを1人であの短期間で仕上げたというのじゃから、圧巻と申すが、ただただ凄いのぅ…
100人参加で、約16万文字かのぅ?
本当に最後の最後に伝説…金字塔を打ち立てた感があるのぅ。
お疲れさまじゃv
おかげで最後まで楽しめたのじゃ。
他の参加者も、また世界のどこかで縁があればよろしくのぅv

界廻る選定の志・エルス(a01321)  2009年12月27日 21時  通報
すっげぇ量になったなぁ……リアイベ並だわ。
桂木MS様は、お疲れ様!

そして……文字数が少なくて、あんまり書けなかったんだよなぁ。
なのにこれだけの描写、本当にありがとうございました!

星竜騎士・ウェイン(a79076)  2009年12月27日 18時  通報
参加者85人までは数えてましたが、まさか100人とは…(汗
非常に楽しく読ませて頂きました。桂木MSさん、お疲れ様です!

月の姫を抱く者・ミレイラル(a43722)  2009年12月27日 16時  通報
ものすごい量になりましたね…それだけでなく、質も良すぎるのです。
いろんな方をしっかりと描写していて、涙なくしては読めませんでした。
私がお世話になる前からも、なり始めてからも、本当に、お疲れ様です♪

雪鈴鳴らす蒼き閃光・クロノ(a19669)  2009年12月27日 13時  通報
最後に夫婦でシナリオ参加で来て良かったよ。
桂木MS、ありがとう、そしておつかれさま!

闇騎士・アドミニ(a27994)  2009年12月27日 11時  通報
依頼で一緒になった方も桂木MSに感謝です。
質も量も圧巻の一言、まさに最後に飾る大作です。
桂木MSは長い戦い、本当にお疲れ様です。

朱刃・アコナイト(a56329)  2009年12月27日 04時  通報
桂木MSは絶望に打ち勝ったんだ!全部読んだらこんな時間だよ。
なんかもう色々言葉にできないなぁ。読み終わっちゃうのが寂しいリプレイなんて初めてだよ。
桂木MSは本当にお疲れ様。これでわたしも悔いなく…

月下黎明の・アオイ(a68811)  2009年12月27日 02時  通報
これは……最後を飾るに相応しい大作でしたね♪
参加されたみなさんとの想い出は、忘れられないものになりましたよ〜。
最後になりますが、桂木MSはお疲れ様でした!そして本当に有難う御座いました!

轟金紳士・アロイ(a68853)  2009年12月27日 02時  通報
なんという質量!私の鎧すらこの文量の前ではその厚みが霞んでしましそうです。
現在から未来へかけての物語…非常に感慨深くあります。
この未来を見ることができるのも一重に桂木MSの頑張りのお陰。
素敵な物語をありがとうございました。

牡丹色の舞闘華・ヤシロ(a37005)  2009年12月27日 02時  通報
量も質もすっごい大作で感動しちゃったよ。
桂木MSさん、参加者の皆に大感謝!
そして本当にお疲れ様でした〜。

紅炎炎舞・エル(a69304)  2009年12月27日 02時  通報
参加者の多さを見てどうなる事かと思ったけど、
こんなに丁寧に描写して貰えてと〜っても嬉しいんだよっ。
桂木MS、ありがと〜♪で、ホントにホント〜に、お疲れ様!

赤眼の紋章術剣士・アセルス(a74501)  2009年12月27日 01時  通報
夫婦親子共々こんなにたくさん描いてもらって嬉しいなぁ♪
最後の激闘を戦い抜いた桂木MSにはお疲れさまと心からの感謝を…。
そして、この世界の全てに…ありがとう!!

世界の果てを描く風・ルーテシア(a76251)  2009年12月27日 01時  通報
まさに圧巻の超大作!受け継がれてゆく壮大なる命と歴史、最後の最後を飾るにふさわしいわね♪
初依頼からお世話になった桂木MSをはじめ、依頼で共に戦った仲間、お店に足を運んでくれた冒険者の皆には心からの感謝を。
長きに渡る戦い、本当にお疲れさま!!

夢見る雫姫・セイカ(a61244)  2009年12月27日 01時  通報
桂木MSさん、本当の本当にお疲れ様だったのですよ〜!

歌姫修行中・マナヤ(a72408)  2009年12月26日 23時  通報
葛城MSさんも、みんなも本当にお疲れ様とありがとう!

集中一閃・シェムハザーダ(a77535)  2009年12月26日 23時  通報
いやはや、圧巻としか言い様がないですね……問答無用に満場一致の超大作、本当にありがとうございました。そして桂木MS様、執筆お疲れ様でした。

迷子の辻ヒール天使・アイリーン(a78658)  2009年12月26日 23時  通報
凄い大作になったねー。桂木MSさん、本当にお疲れさまー。

剣の天使人形・マサト(a47419)  2009年12月26日 22時  通報
桂木MS、本っっ当に、お疲れ様!
もうそれしか言えないぞ!