【レア物ハンター】Final 永久に……



<オープニング>


●2019年の世界
 インフィニティマインドが星の世界への旅から帰還して4年が過ぎた。
 世界は相変わらず平和で、冒険者達は変異動物や怪獣と戦ったり、人助けをしたり、旅に出たり、第二の人生を歩み始めたりと、思い思いに暮らしている。
 そんな中、誰かが言った。
 魔石のグリモアとの最終決戦から10年。世界が平和になって10年。
 この節目の年に、久しぶりにみんなで集まるのはどうだろうか。
 互いの近況や思い出話など、話題には事欠かないはずだ。
 さあ、冒険者達の同窓会へ出かけよう!

●星屑のその後
「久しぶりねー。セルティスさんってば、元気かな? 随分と有名になってるみたいだし……」
 レア物ハンター・ユイノ(a90198)が、懐かしそうに呟いた。
 セルティスとは10年前にユイノが1枚噛んでいた依頼で、通称『星屑の剣』という黒光りする機能美を追究した剣を鍛えた若き刀匠の名である。もちろん只のヒトなので、もう既に若いとは言えぬ年齢に達しており、その腕も一段と素晴らしいものとなっていた。
「あれから……風の噂で刀を鍛つのは辞めたって聞いたけど、やっぱりお祖父さんの影響かしらね? お祖父さんもやっぱり凄い刀匠だったのに、晩年は刀を鍛たず、ナイフやフォークなんかのテーブルウェアや、アクセサリーなんかを作ってたみたいだし……」
 そう。セルティスの祖父は、これまた有名な刀匠で、通称『星降りの刃』と呼ばれる、瞬く星の光を放つ美しい刃物を作ることで有名だった。
「そう言えば、他の皆にも手紙は届いてるのかな? まぁ、酒場にもまとめて送ったみたいだし、きっと……届いてるわよね?」
 手紙――それはセルティスからのもので、百門の大商都バーレルに工房を構えることが出来たので、オープンセレモニーを執り行うと言うもの。なんと言ってもランドアース一の商業都市。そこに工房と店を構えたというだけでも、彼の努力と才能が窺える。
「皆、どうしてるかな? 色んな思い出に花を咲かせられると良いけど……。もしかしたら、誰かは結婚して子供なんかもいたりして!?」
 あははっ、と一人で声を挙げて笑ってしまうユイノ。想像し切れなかったせいだろうが、かなりアヤしい。
「せっかくだから、私もセルティスさんの鍛ったテーブルウェアセットでも揃えちゃおうかな!? 良いものはあっても困らないし、ね」
 な〜んてことを考えながら、ユイノはバーレルの門をくぐっていた。

●2109年の世界
 世界が平和になってから、100年の時が過ぎた。
 年老いた者もいれば、かつてと変わらない姿を保っている者もいるし、少しだけ年を取った者もいる。中には寿命を迎えた者も少なくない。
 そんなある日、冒険者達にある知らせが届く。
 100年前に行った、フラウウインド大陸のテラフォーミングが完了したというのだ!
 昔とは全く違う姿に生まれ変わったフラウウインドは、誰も立ち入った事の無い未知の場所。
 そうと聞いて、冒険者が黙っていられるはずがない。
 未知の大陸を冒険し、まだ何も書かれていないフラウウインドの地図を完成させよう!

●レア物ハンターの執念
 テラフォーミング獣によって作り変えられたフラウウインド大陸の南方。そこにはとても巨大な湖が出現していた。
「大きい湖ねー。この中からレア物を見つけるとなると、ちょっと大変そうねー」
 現れたのは100年の昔とほとんど変わらぬ姿のユイノ。なんでも生命の書の出汁を、とことん飲み続け、ついに不老を獲得したのだとか……。
 そんなユイノが嬉しそうにキョロキョロと辺りを見回していると、不意に湖面が大きく震えた。
「な、何……!?」
 びっくりして叫んだユイノの目の前に顕れたのは、巨大な水柱を上げて姿を見せた超巨大魚。仮に『ぬし』とでもしておこう。
 その『ぬし』の姿を見た途端、ユイノの瞳がキラリと光った。
「アイツね! アイツのお腹の中!!」
 その意味不明に鋭い眼力が、レア物の在処を暴き出す。そして次の瞬間……。
 小さな水飛沫と共に湖に飛び込んだユイノは、迷うことなくその巨大魚の口の中へ。レア物の為なら火や水はもちろんのこと、魚の口にだって飛び込んでゆく。それこそが真のレア物ハンター。
 唯一の問題は、脱出だとかの後先をまったく考えてないところ。
 そんな訳で……100年後の冒険者諸君。これを見かけたか、あるいは噂を聞きつけたか、偶然居合わせたかした皆の中に、助けてやろうという物好きはいないだろうか!?
 そして、事のついでにこの巨大魚『ぬし』にもステキな名前を命名してやってはもらえないだろうか?

●3009年の世界
 世界は1000年の繁栄を極めていた。
 全てのグリモアを搭載した『世界首都インフィニティマインド』には無敵の冒険者が集い、地上の各地には英雄である冒険者によって幾百の国家が建設された。
 王や領主となって善政を敷いている者もいれば、それを支える為に力を尽くす者もいる。相変わらず世界を巡っている者もいたし、身分を隠して暮らしている者もいて、その暮らしは様々だ。
 1000年の長きを生きた英雄達は、民衆から神のように崇拝される事すらある。
 今、彼らはこの時代で、どのような暮らしを送っているのだろうか?

●レア物キングダム
 平和が訪れてから1000年後の世界。永く続く平和は、いくつもの素晴らしい国々を作りあげていた……しかし。そうでない国もある。
「さぁ、じゃんじゃんレア物を持って来てね〜」
 『6本足の白虎』とかいうレアな変異動物の毛皮を背もたれに掛け、虹色のカクテルグラスを手に、大きな椅子に踏ん反り返るようにして豪気な調子で叫ぶユイノ。
 ひょんなことからレア物好きの領主と意気投合……挙げ句、贅沢三昧のその領主がポックリ逝ってしまい、その遺言により後を託されてしまったが故に、柄にもなく領主の座についたという、希に見る経歴を辿ったユイノは、それからというもの、すっかり道を踏み外し、前領主顔負けの放蕩三昧に明け暮れているという。
「まぁ、なんとかなるんじゃない?」
 いいえ、きっとどうにもなりません。
 それから一月、今ならまだ、集めたレア物を処分することで誰も泣かずに済むかも知れない。それにこの地域にだって、マトモに政治ができる人くらいは居るに違いない。
 ――つまり、今ならまだ間に合う。
 さぁ、勇気ある冒険者の皆……到着する頃には酒乱モードと化しているユイノを、どうにか領主の座から引きずり下ろし、この地域に暮らす人々の未来を守って欲しい。それとて冒険者の大事な使命の1つとして……。

●数万年後の世界
 永遠に続くかと思われた平和は、唐突に終わりを迎えた。
「あれ、海の向こうが消えた?」
 異変に驚いてインフィニティマインドに集まった冒険者達に、ストライダーの霊査士・ルラルは言った。
「あのね、これは過去で起こった異変のせいなの。過去の世界で……希望のグリモアが破壊されちゃったんだよ!」

 とある冒険者がキマイラになり、同盟諸国への復讐を試みた。
 彼は長い時間をかけて、かつて地獄と呼ばれた場所にある『絶望』の力を取り込むと、宇宙を目指した。
「えっと、これ見てくれる?」
 ルラルは星の世界を旅した時の記録を取り出した。
『2009年12月10日、奇妙な青い光に満ちた空間を発見。後日再訪したその場所で過去の光景を目撃。詳細は不明』
「この記録を利用できるかもって思ったみたいだね。そして、実際にできちゃったの」
 どうやら、この空間は過去に繋がっていたらしい。男はここから過去に向かい、希望のグリモアを破壊してしまったのだ!
「世界が平和になったのは、希望のグリモアがあったからだよね。だから希望のグリモアが無かったら、今の世界は存在しないって事になっちゃう。ルラル達、消えかかってるの!」
 今の世界は、希望のグリモアが存在しなければ有り得なかった。
 だから希望のグリモアが消えた事によって、今の世界も消えて無くなろうとしているのだ。
「これは世界の、ううん、宇宙の危機だよ! だって、みんながいなかったら、宇宙はプラネットブレイカーに破壊されてたはずだもん! だからね、絶対に何とかしなくちゃいけないんだよ!」
 ルラルにも方法は分からないが、事態を解決する鍵は、きっとこの場所にある。
「でも、この空間……えっと、タイムゲートって呼ぼうか。このタイムゲートの周囲には、絶望の影響で出現した敵がいるの。これはね、全部『この宇宙で絶望しながら死んでいった存在』なの」
 彼らが立ちはだかる限り、タイムゲートに近付く事は出来ない。
 彼らを倒し、タイムゲートへの道を切り開くのだ!

●コルドフリード艦隊
 そんなタイムゲートの前に立ちはだかるのは、かつて同盟の貴重な戦力となっていたコルドフリード艦隊……のミニチュアたち。
 最終撃滅艦隊、バリア艦隊、ドリル艦隊……そして戦略空母艦隊から構成された無数の艦隊は、本来の艦隊が対ドラゴンの戦力だったのに対し、純粋に冒険者を想定した大きさで。それでありながらも破壊力は本来のそれという、極めて性質の悪いシロモノ。
 特にバリア艦隊に囲まれて、最終撃滅砲なんぞ撃たれた日には、ドラゴンウォリアーとて一環の終わり。
「その数がいくつあるのか……数えるのもイヤになるくらいだけど、だからと言って放置もできない。悪いけど纏めて片付けてきて頂戴。ドラゴンウォリアーの力なら、たとえ宇宙空間だって何てコトもない……そうでしょ」
 などと言っているのは、運命を継ぎし霊査士・フォルトゥナ。そう、かの同名の霊査士の子孫で、わんこの尻尾ながら今もやっぱり霊査士である。
「なぁんだ……コルドフリード艦隊なの? 私の相手には役不足じゃない?」
 説明を聞きながら、1人偉そうに語っているのは、やっぱりユイノ。
「なぁに? それならあなたに相応しい相手って?」
「そうねー、例えば要塞レアとか!?」
 し〜ん…………。
「あぁん、そんな皆冷たい! そこまで白けなくっても良いじゃないの!」
「冗談よ。でも……さっき話した敵の話はすべて真実。かつては味方だったけど、ここでは敵。たいへんだけど、完膚なきまでに叩き潰してきて頂戴!!」
「はーい……」
 後半を一息に告げてユイノのしょうもない意気を挫くと、フォルトゥナは満足そうに手にしたグラスのミネラルウォーターを煽るのだった……。


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参加者
天舞光翼の巫女姫・ミライ(a00135)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
紅蓮鳳蝶・シャノ(a10846)
閃光の・クスィ(a12800)
初代破壊神王・ネメシス(a15270)
幼き眩惑の狐姫・セレス(a16159)
笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)
子供好きなグラップラー・ネレッセ(a66656)
千夜一夜の眠れる剣姫・シェラザード(a76996)
蒼氷を渡る風・フォーゲル(a77438)
NPC:レア物ハンター・ユイノ(a90198)



<リプレイ>

●星屑のその後
「まさに都市ですねぇ」
 百門の大商都バーレルの門をくぐった子供好きなグラップラー・ネレッセ(a66656)は、素直に感嘆した。
 世界に平和が訪れてから早10年、商売に携わる者たちの聖域とも言うべきこの街は、かつてのそれをも上回る栄華を誇っていた。
「とと……思わず寄り道したくなるところでした。えーと、セレモニーの会場は……」
 有名な鍛冶師、しかもかつての名刀匠となれば、冒険者として興味が湧かないはずもなく、祝福がてら自分の目で確かめてみたいとの欲求に素直に従った結果と言えよう。
「でもまぁ、何より懐かしい顔に会えそうな気がする、って方がメインですけど……」
 世界が平和になってからは、それまでよりも自由な生活を送る冒険者たちが増え、酒場に行ってもなかなか知った顔に会えなかったから。
「平和は何にも代え難い、と言いますが……」
 彼自身の身体は、『家』の墓守として、今も新しい傷が増え続けていた……。
 そんな彼が向かった鍛冶師セルティスの新工房は、町外れとは言え、大きな通りの1つに面しており、立地としても決して悪くない。
「さて……それじゃ、行きますか」
 彼自身、初対面となる鍛冶師。些か緊張した面持ちになるのも当然だった……。

 ――その頃。
「ヒャッハァ! オレ様惨状!!」
 まぁ大体いつもと変わらぬ感じでバーレルを訪れたのは、初代破壊神王・ネメシス(a15270)。自称ラスボスな彼は、10年経った今も、世界を制する方法を求め冒険を続けている。
「希望のグリモアでも手に入れられれば……」
 なんてことを思っちゃいるが、未だ良い手を思い付けずにいた。
「はいはい、それじゃ行きましょ♪」
 その肩に手を置き、先を促すのはユイノ。
「んあっ、いったい何処へ行くというのだ!?」
「もう……物忘れヒドくなったんじゃない? 名刀匠だった鍛冶師セルティスさんの工房に忍び込んで、征服の手始めに強力な剣を手に入れる計画でしょ!!」
 妙な計画に参加しているユイノ。テーブルウェアを買いに来ていたと思ったのに、何をどう間違ったのやら。
「そうだった、そうだった……さぁ、行くぞ。モタモタするな」
 そして、アヤしい2人組が工房の裏手にたどり着いた頃。
「おぉ! ユイノさん、お久しぶり〜♪ トロウル退治に一緒に行って以来だね。お元気そうで何よりだよ」
 突然、予期せぬ方から話し掛けてきたのは、笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)。
「あぁっ! リュウさん、ひさしぶり〜」
 かつて依頼を共にした友人との再会に、当初の目的などすっかり飛んでいったユイノ。少し離れてヤキモキするネメシスを他所にその場に佇み、リュウとあれやこれやと話し始めてしまう。
「あの時はさ、村人を人質に取られたりして大変だったよね〜」
「そうそう……戦闘種族ってヤツ? ホント、厄介だったわねー」
 だの、ところで生命の書……あの鍋って美味しかったよねーだとか。
「へぇ〜、それじゃユイノさんも不老になったんだね。実は僕も恋人共々不老になって世界中をぶらぶらしてるんだ。でもまだ全然回り切れてなくて、世界は広いって痛感してるよ〜」
「そうねー。世の中まだまだ見てないものが多いものね。でも、じゃあまたすぐに会うかもね。そうそう、もし珍しいものとか希少なアイテムの情報があったら、酒場に伝言でも残しといてくれる」
「わかったよ。任せといて! って、それよりそろそろセレモニーが始まっちゃうよ!」
「たいへん! 行こっ」
 2人して工房の正面へと急ぐ。そして残されたのはネメシス。
「ちっ……やめた、やめた! 組む相手を間違えた。ココは仕切り直すとするか……」
 こうして彼が世界を制する第一歩は暫し延期となったのだった。
 ――そして工房の正面。既にかつての依頼でセルティスと面識のある面々が集まり始めていた。
「あっ! ミライさん♪」
 旧知の親友の姿を見つけ、ユイノが叫んだ。
「ユイノちゃん、久しぶり☆」
 明るく返した天舞光翼の巫女姫・ミライ(a00135)は、10年という歳月相応に年齢を重ね、オトナの女性になっている。
「おぉ!ミライさんもお久しぶり〜」
「リュウさん? 久しぶりだけど変わらないね」
 少し遅れてリュウも挨拶。どうやら以前、仕事を共にしたことがあったらしい。
「実はミライさんと一緒に行ったタルト祭の依頼、あれが僕の初依頼だったんだ〜。何か凄く懐かしいよ」
 今となっては最初の冒険なんて遥かな記憶の彼方。懐かしいどころじゃない。リュウもミライもそれくらい無数に冒険を重ねてきたのだから。
 しかも、ミライの足元にはまだ幼いチビちゃんが2人。
「もしかして……娘さん?」
「そう。うちは女系だから2人とも娘なの。お姉ちゃんがミキ、そして妹がミスイ。よろしくね」
 ユイノは子供たちの目線にしゃがみこんで、2人にご挨拶。
「こんにちは♪」
「こんにちは☆」
「…………」
 さすがにお姉ちゃんの方はしっかり挨拶できるが、妹の方はまだ幼く、さすがに少し難しかったらしい。
 そんな訳で、子供の話から始まって最近の動向など、お互いのことを報告しあう。そこへやって来たのは幼き眩惑の狐姫・セレス(a16159)。ユイノも所属する旅団を取り仕切っていることもあって、ユイノとはそれほど御無沙汰じゃない。とは言えミライとは久しぶりな訳で、一段と話しが弾む。まさに女3人、姦しいという言葉が相応しい。
 そんな中に、続いて姿を見せた蒼氷を渡る風・フォーゲル(a77438)。落ち着いた彼の登場で、ようやく一同も少しおとなしくなるも、人が増えたことで話題も再び増えた模様。こうして話しこんでいるうちに、すぐにセレモニーの時間が訪れた。
 工房の前は冒険者だけじゃなく一般の人々が殆ど。偶然訪れた住民は勿論のこと、多くはセルティスの作る品のファンがたいへん多い模様。
「皆さん、本日はお集まり頂き、ありがとうございます。後ほど、希望される方には順に工房内もご案内させて戴きます。それではささやかですが、お集まり頂いた皆様にドリンクをお配りしますので、そちらの乾杯を以て、当工房のオープンとさせて頂きたいと思います」
 とても恙無いセルティスの挨拶。以前とは違い血色も良く、だいぶ穏やかに暮らしているらいいことが窺がえる。
 そうしてグラスを配布している間に、ミライの娘2人が並んでセルティスの元へ。用意した花束を差し出す。
「お嬢ちゃんたち、ありがとう……と、これはこれは冒険者の皆さんじゃありませんか。その節はたいへんお世話になりました」
「セルティスさん、お久しぶり〜♪ オープンセレモニーをやるって聞いて遊びに来たよ」
 と爛漫な様子のセレス。
「ありがとうございます。それではこの後ゆっくりお話をさせてください」
 そんな軽い挨拶の後、各自、グラスを片手に乾杯! ここに、鍛冶師セルティスの新たな仕事場が誕生したのだった……。
 こうしてセレモニーも無事に終了、あとはスタッフが順に希望者に工房の様子を説明している。本日は皆、これだけで手一杯になることだろう。
 それゆえ、今日のところは出直した方が良いかと離れようとした時、ようやくセルティスが来て、皆を引き止めた。
「お待たせしちゃって申し訳ありません……それと、先ほども申し上げましたが、その節はたいへん……。皆さんがいなければ、今の私はなかったと思っています」
 そんな風に告げたセルティスに、セレスがぶんぶんと首を振って応える。
「そんなことないよ! セルティスさんの腕があれば、いずれは成功してたに違いないもん。それにこの『星屑の刃』。これが無かったら……って思うと、ゾッとしちゃうくらい何度も助けられたよ。だから、本当にありがとう……」
 と、そこへ凄い速さで駆けてくる影、シェラ(千夜一夜の眠れる剣姫・シェラザード(a76996))の姿。
「遅れてゴメン! ちょっと仕事してたら遅くなっちゃった。お久しぶりユイノ、セルティスさん。それにミライにセレスにフォーゲルも……、ホント懐かしい顔ぶれだね」
「シェラザードさんは今も現役なのですね。それは素晴らしい」
 セルティスも少し驚く。彼ら一般人にとっても今の平和はそれだけ痛感できるものらしい。
「現役って言うなら、私だって! ねー。シェラさん♪」
 ユイノが激しく自己主張。そしてウィンクしながらシェラに同意を求める。
「そうだね。私も仕事ってのもレア物探し、つまり同じレア物ハンターだからね」
 とウィンクを返す。そんな2人のやり取りに、セルティスも思わず、なるほどと納得。
「ところで……剣、打たなくなったんだね。……良いんじゃないかな? これからは平和の時代、未来の生活を切り開く道具を、これからも作り続けてよ」
「そうですね、良く切れる包丁というものは料理人の命、魂にも例えられます。そんな刃物なら私も持ちたいですし、一生大事にしたいと思うのも当然でしょう」
「ありがとうございます。勿論これからも精進して参ります」
 シェラとフォーゲル、2人の労いにセルティスが頷く。
「でも……たまには、この子達の手入れもお願いしたいけど」
 と、ちゃっかり自身の愛剣としている『星降りの刃』や『星屑の剣』を指し示す。
 そうすると、今持ってるこの剣の希少価値が上がり……なんてことを考えたとか。
「そうですね。新たに鍛つのは勘弁頂きたいですが、私や祖父の剣であれば、メンテナンスくらいはさせて頂きます。せっかくですしからお世話になった皆さんにはいつまでも使って頂きたいですし……」
 こうして懐かしい対面を果たした面々は、久しぶりの話に花を咲かせ、あっという間に1時間以上が経過。
「ありがとう。それじゃ……新しいお店でも頑張ってね!」
「いえ、こちらこそ、わざわざお越し頂きまして……」
 帰りがけ、ミライはキッチン用品からテーブルウェアまでセルティスの所で扱っている品を一式買い揃え、久しぶりに会った友人たちとの旧交を温めるべく、皆を自分たちの泊まる宿へと招く。
 そして同じ日、人が捌けてきた頃の工房では、まだ見学の後の商品を買い求める人が幾らか残っており、その中にネレッセや紅蓮鳳蝶・シャノ(a10846)の姿もあった。
「実は……後日でいいから依頼を受けてほしい」
 既製品では飽き足らぬネレッセが、こっそりオファー。セルティスも快諾する。一方のシャノは、先ごろに結婚したばかりの旦那さんと共に、訪れていたバーレルで偶然ここのことを知り、結婚生活に必要な品々を買い求める。
(「不老になったのは良いけど、子供……産めなくなったりはしないなのよね? できたら……彼との子供がほしいな〜なの」)
 生命の書のせいで産めなくなっただとか、そんな副作用は聞かないが、こればっかりは授かり物としての色も濃い。あとは幾許かの運と、2人の努力だけのこと。
 いずれにせよ、鍛冶師セルティスが新たにオープンした工房は、まだまだ当分は客足も安泰だろう。あとは今後とも彼のような卓越した技術が後世に受け継がれること。
 ――それだけが、未来に向けたささやかな願い。

●レア物ハンターの執念
「ヒャッハァ!ネメシス冒険共和帝国ここに建国!!」
 フラウウインド大陸の一角。そこで眼下を見下ろすようにネメシスは立っていた。
「冒険者による冒険者のための冒険者の国、ここに我が国の建国を宣言する!」
 ……まだ国民はいないけど。
 そんな訳で、今日のところはまず、お忍びで。
 やって来たのはフラウウインドの南方に出現した大っきな湖。
「『ぬし』だと!? おのれ、一本釣りにしてくれるわっ」
 くわっ! って感じの気合いで、どこからともなく持参した太い竿を振るネメシス。
 彼の期待はものの数分で実現。湖の中央付近から巨大な水柱と共にその姿を露わにした『ぬし』の巨大さに圧倒。せっかくの竿も一瞬で粉々に砕かれると、ずおーっという凄まじいまでの吸引力と共に、ネメシスは周辺の土ごと『ぬし』の中に飲み込まれるのだった……。

 一方ちょうど同じタイミングで『ぬし』の姿を見つけたユイノは迷わず湖に飛び込む。もうその瞳は微塵の迷いもなく、かの『ぬし』の体内にあると踏んだレア物だけを狙っていた。
「ああっ、ユイノ様!」
 それをすかさず止めようとしてあっさり振り切られてしまったのは、ミユキ。かの親友ミライの系譜に連なる、この時代では幾分若手の冒険者である。
「ユイノ様はレア物になると周りが見えなくなるから……」
 その通り。イメージ通りの行動ゆえ、幸いなことにミユキにも焦りはない。淀みない所作で同じように湖に飛び込むと、ユイノの後に続く。
 さらにその後ろに続くのはシャノ。
「私も行ってみるなの」
 ユイノの言う、レア物の気配ってヤツが一体どんなものなのか、興味津々のシャノ。
 こうして『ぬし』の口から迷わず中へ飛び込んで行く3人。実際には既に飲み込まれているネメシスを含め4人だったけれど。
「……あっ、人が魚に飲まれた!? 大変だ、助けないと!」
 偶然彷徨って、その飲み込まれる直前あたりからを目にした業の刻印・ヴァイス(a06493)。本来であればユイノのことも知っている筈なのだが、どうやら何かのショックで記憶が混乱しているらしく、まったく覚えていない模様。現に今も、こんな調子だった。
 その一方で比較的落ち着いている、という訳でもないがユイノのことをよく知っている面々は……、程度の差はあれ反応はいずれも遠くない。
「ユイノってば………また無茶しちゃって……」
 いくら同じレア物ハンターでも、自分はそこまでしないぞと思いつつ、シェラはすかさず援護しようかと動き始める。
「……ったく、あんのアホんだら!?」
 幾分、人格が過激になった感のあるネレッセは、声を荒げつつも仕方ないと『ぬし』に本気の蹴りでもかましてやろうかと考えていた。
「おぉ、流石はヌシ。でっかいね〜。よし『ぬっしー』と名づけよう!」
 まずは形から、じゃないけれど呼び名がないと面倒だからといきなり命名するリュウ。あれ、飛び込んだ人たちは良いの?
「え? 誰か飛びこんだ? あぁ、ユイノさん? 流石はレア物ハンターだねっ」
 焦るどころか驚きもせず感心するばかり。
「では、ユイノさんのことですから、あの中にレア物があるとでも言うのでしょう。私たちは『ぬし』が潜っていかないようにしませんと……」
 しかし、『ぬし』の武器は巨体だけでなく、先ほどもあった驚異的な吸引力。正面から行ったんでは一筋縄ではゆかぬことだろう……。

 ――そんな訳で『ぬし』の体内。
「身体の中の構造がわからないから、慎重に行動しないとなの!」
「そう思いますわ」
 シャノとミユキ、なんて冷静な2人。良かった……中に入ったのがユイノだけじゃなくて。
「咳やくしゃみなんかのアクシデントには対処が必要かもなの。あとは、外からの手助けを信じて脱出なの♪」
「その前に、レア物よ、レア物! 手に入れないことにはココまで来た意味がないもの」
 と、あまり2人の話など聞いてない様子でユイノが語る。そうして奥へ、奥へ。その途中、やはり体内で高笑いをしているネメシスを発見。これがドラゴンズゲートだったらボスキャラとして退治されていた事だろう。
 そして……暫くの間体内探索を試みた末、ようやく目的の場所に到着。そこにあったのは無数の煌きを持つ宝石。伝承によれば6万色以上もの煌きを内包しているとか。
「綺麗〜♪」
 うっとり見つめる女3人。大小あれどいくつか転がっているその宝石を掴むと、ようやく出口、出口と考え始めた。
「まずは戻れるところまで戻ってみませんか?」
「そうだな。穴から出るのはカンベンだ〜」
 ミユキの勧めにネメシスも激しく同意。穴というのは勿論……。
 だが、生物の体内は逆流するようには出来ていない。それでも遅々と言えども何とか戻れているのは『ぬし』の巨大さ故に。
「あん、なんか服だけじゃなく髪までベトベト〜」
「気にしてる場合じゃないですなの。この辺は『ぬし』の胃袋みたいですなの」
 ほら、靴の底が少し溶け出してるような……。
「誰か〜!」
 ユイノが叫んでみるも、もちろん外になど聞こえるはずがない。
「タスクリーダーの心話で呼びかけてみては如何でしょうか」
 狼狽えるユイノにミユキが告げ、実際に自ら呼び掛けてみる。と言っても外でもタスクを活性化していない限り反応を図る術はないが……。
「あとは通じていることを祈るしかないですなの」
 再び、もと来た道を懸命に戻り始めるのだった。

 ――その頃、再び外では。
「さすがに水中じゃ不利だね。私がもう少し引き寄せてくるよ」
 いつの間にやら『魅惑の紗』と呼ばれた白地に紺碧のクロスラインが入った水着に着替えたシェラが湖に飛び込む。ナイスなボディを隠すには小さすぎる布ではあるが、まぁ水中なら仮にハプニングがあったとしても見られないし……。
 そんな訳で近くまで泳いで水面から顔を出すシェラ。水に濡れた肢体、揺れる胸元が艶めかしい。
「ぬしー、悪食はそこまで。こっちにおいで!」
 異性の目がないことも幸いし、少々の乱れは気にせず紅蓮の雄叫びを放つシェラ。
 幸いというか何というか、ぬしの巨体ゆえマヒの効果はほんの一瞬。おかげですぐにシェラを一飲みにしようと向き直る。そんなのを幾度か繰り返すことで仲間たちの元へ引き寄せる。
「おぉ、それじゃせっかくだから決めちゃおう! ……っても殺しちゃう訳にもいかないし、眠りの歌で眠らせよう!」
「……それじゃ、こっちは蜘蛛糸で抑えよう」
 雄叫び、歌、蜘蛛の糸……3つの技が決まり、さすがに『ぬし』の動きも止まった。
「では、あとは私たちが片付けましょう」
 すかさずフォーゲルが『ぬし』の体に取り付き、両手の斧を取り出す。
「わー、待った待った! 殺しちゃ可哀想だって。何をした訳じゃないんだから!」
 リュウの呼びかけに思い留まるフォーゲル。合わせて、本気の蹴りを放とうと、全身の力を足に溜めていたネレッセもまた踏み止まる。
 そんな2人の脳裡に響くミユキの心話。
(「口に向かって進んでいます。脱出するのに、何とか口を開けさせてください」)
 そこで2人は協力してぬしの巨体に取り付くと、口の両脇に腕を差し込み、冒険者の膂力をフルに活かして力づくでこじ開ける。
「ユイノー、こっちだよー!!」
 僅かに開いた隙間から、シェラが体内に向かって叫ぶ。その頃にはようやく食道に当たる付近を通過、口の傍までやってきていた。
「じゃ、ここは中からもショックを与えれば口が開くかもなの」
 そう言って腕まくりするシャノ。そのまま喉の近くで軽〜い一発。
 バタバタッという激しい反応の後、『ぬし』の口が開いた。
「あれだっ!」
 漏れてくる外界の明かり。ほんの数時間にも満たない出来事ながら、4人の冒険者たちは、何故か人恋しくなりつつ、『ぬし』の巨体から無事(?)に宝石をゲットしつつ生還を果たす。
「あー、良かった。命拾いしたわ。ありがと♪」
 ユイノがまるで他人事のように外から援護してくれた面々と、中にまで一緒に入ってくれた皆に礼。
「……あれ……君は……!?」
 そんなユイノを見て、ヴァイスが首を振る。思い出せない……だが、このユイノとかいう娘は自分を知っている……?
「どうしたのヴァイスさん?」
 ほら!! だが、考えたところで記憶が蘇るわけでもなくて……結局、頭を悩ませる話は先送りにすることとした。
「じゃ、ぬしさん、体内でお騒がせ申し訳ないなの。またゆっくり湖で暮らしてなのよ」
 シャノが『ぬし』に呼び掛ける。その声に応えるように、ぬしはゆっくりと巨体を滑らせ、深い湖底へと去って行った。彼だか彼女だかにとっては、災難とも言える痛みを覚えながら。
 ――この後、暫くして。
 手に入れた宝石は『レインボージュエル』と呼ばれるようになり、市場で高価なものとして取引されるように。そして、そのレインボージュエルを体内で精製する『ぬし』は、人を魅了するほど美しい珠を作ることから、正式な名を『ジュミ(珠魅)』、通称『ぬっしー』と呼ばれるようになったと言う……。

●レア物キングダム
「あんのアホは何やっとるんじゃぁ!?」
 ひょんなことから領主となったユイノの噂を耳にし、閃光の・クスィ(a12800)は思わず激昂した。
「腐れ縁やとは思っとったが、こんな腐ったヤツやとは思わなかったで。あぁもぉ! 冒険者が一般人に迷惑かけてどないすんねん! って、しかも既に酒乱モードやとぉ!? あかん、俺もぉ、胃がかんなり痛いわ………」
 こみ上げる怒りがそのまま胃痛へと転化する。クスィもまた、なかなか忙しい男だった。
「しっかし、どうすっかやな……俺じゃ酒乱モードのあいつにゃ敵わんし……おっしゃ!」
 不意に思いついたのは泥酔作戦。つまり力で勝てないなら酒で勝つ……という手。
「じゃんじゃん酒持って来てや!」
 今更少々ツケが増えたところで怖くなどないと、図らずも後に『踏み倒し王』の称号を手に入れるらしいという噂を持つクスィが、それこそ領地近隣の酒を買い占めるような勢いで注文する。
「ユイノ……久しぶりやのぅ。一杯飲ろうやないか!」
 と、持参した酒のグラスを手渡すクスィ。
(「今度ばかしは俺……肝臓もつかのぉ……」)
 そんな心配を他所に、かんぱ〜い♪
 何の疑念も抱かずにグラスをほいほいと空けるユイノ。酔っ払うと味も加減も分からなくなるらしく、どんどん酩酊から泥酔の道へと進むクスィと共に凄まじいまでの酒気漂う中に座り込んでいる。
(「……よっしゃ……あとは……コレにサイン……させ……れば……」)
 当初の予定では領主辞任の誓約書を、レア物の受領書と偽ってサインさせる計画だったのだが……。
「……だからね、言ってやったのよ。レア物だって言えば何だって私が喜ぶと思ったら大間違いよ! って……あははははっ」
 とか何とか、酒乱モードのユイノに途切れる間もないほど矢継ぎ早に愚痴るユイノのペースに圧され、想定していた許容量以上に飲まされてしまう。自分はあまり飲まずに進めるはずやったのに……。
「もう駄目や……後は……頼んだで……何や、みなどうでもようなってきたわ……えい……この酒代……ユイノに請求して……や……る」
 くかーっ……。クスィはこの日、早々に撃沈させられていた……。

「駄目か……よし、仕事だ。悪政を敷く領主をどうにかしてくれと言われて来てみれば……あの時、折角助けたのにこの酔っぱらいめ」
 散々酔っているようなユイノの姿を認め、機動戦闘を仕掛けて一気に酔いも回してダウンさせる――それが彼の作戦。
「たしかに良い作戦だ。だが、ここはまずオレ様に任せてもらおうか、この『生きた伝説』(リビング・ザ・レジェンド)と言われてる、このオレ様にな」
 と、後からしゃしゃり出て来てヴァイスを制したネメシス。ちなみに彼の生きた何とかいう称号は、知る人ぞ知る、知らない人は全く知らない称号(ほぼ自称とも言う……)である。
「国は……どうした? フラウウインドに建国したんじゃなかったか?」
「あー、アレか。アレは、900年位前に飽きたのでな。見所のある奴に譲ってやった。今も平和に栄えてる……かどうかは知らん」
「ほとんど建ててすぐかよ……」
 そんなツッコミもあったが、無論、ネメシスに聞く耳などある筈がなかった……。
「と言う訳で、ヒャッハァ! ヒッサしぶりだなユイノ〜」
「あ、えーと…………誰だっけ?」
 既に酩酊状態のユイノに人の名前が思い出せる筈もなく……。
「よーし、酒乱ならオレも負けんぜ! 邪竜導師流澱酔拳で解決して……」
 と言った瞬間、胸から衝撃がこみ上げてきて部屋の隅へ駆け寄るネメシス。汚っ!
「ふ、レア物に被害が及ばされたくなかったら素直に降さ………ぎゃ〜〜〜〜〜」
 酒乱モードユイノに散々な目に遭わされる。その詳細は恐ろしすぎて誰にも言えない。
「おのれっ……こ、こうなったらスピリタス一気飲みで勝負だ!」
 自棄になったネメシスは懐から度数96〜という驚異的な数字の酒瓶を取り出して見せる。
「……良いわよ〜。じゃ、私は後攻で……お先にどうぞ〜♪」
 と、酒乱モード全開で酒瓶を奪い取り、その瓶をネメシスの口許へ。
 ウゴッ、グビ、ガボッ、グワッ…………効果音はよく分からないが、とりあえず飲まされて……2人目もここで轟沈したのだった。
「やっぱり無理だったか……」
 端から酒臭かった故、無理だろうとは踏んでいたヴァイスだが、まぁ案の定。ついに彼の出番か。
「待った! ……自堕落な冒険者はココにも居たんだね……あの酒乱モードを甘く見ちゃダメ。私たちも付き合うから一緒に……」
 姿を見せたのは、ユイノの心の友シェラに、同じくかつての親愛なる友ミライの子孫、ミカ。
「いずれにせよ今日のところはアレじゃ話なんて出来そうにないもの……まずは、ね」
 とにかく引き摺り下ろすことで一致を見た3人は一気に勝負を仕掛ける。
 既に部屋に一歩踏み入れただけで酔えそうな空気の中、勝負! と叫んだ3人が頻繁に位置を入れ替えながらユイノに迫る。これだけで充分目が回りそう。これでは攻撃でもないから酒乱モードも役に立たず……。
 そしてヴァイスの手から蜘蛛の糸が広がる。糸は見事にユイノの足元を包み、その自由を奪う。
 動けなくなったユイノのカラダごと、シェラがしっかりと抱きしめる。いくら当社比2倍でも、力では狂戦士のそれには遠く及ばないユイノに抗う術はない。
「ユイノ、そろそろ目を覚まそうか。楽しいレア物探しの旅が待ってるよ、さぁ、行こう? 私は一緒に旅してるユイノの方が好き。……ううん、大好きだよ」
「えっ!? シェラ……さん?」
 思いの他、優しく抱きしめながらのシェラの告白(?)に、瞬間的に酩酊から醒めるユイノ。
「……ホン……ト!?」
「うん……いつだって、私は本気だよ」
 全身の力が抜け、抗う感じの無くなったユイノを、そっと離すシェラ。そこへ、入れ替わるように今度はミカがユイノを抱き寄せ、あらかじめ薬を混入した酒をぐびっ、と口に含んでからユイノの口許へ。
「ユイノ……その唇、貰ったわ」
 そのまま唇を奪うミカ。そして口移しで……んむっ……あっ……。
 コクッ!
 お互い、ほぼ同時にそのお酒を嚥下。やがて……急速に遅い来る眠気の下、2人はやっぱり同じように崩れ落ちてゆくのだった。

 ――そして翌朝。
「ユイノさん、しっかりしてください。朝ですよ……」
 そう言って揺り起こすのはフォーゲル。
「なぁに……まだ早い……」
 すっかり寝ぼけた様子のユイノに、フォーゲルは
「超有名なユイノさんのサインを、記念に頂いて帰りたいのです。どうかこの辺にお名前を……」
 そう言って色紙を差し出す。
「え〜、何? サイン!? いーわよー」
 と、寝ぼけ眼でサラサラ〜っ!
 そしてサインを書き終えた瞬間、フォーゲルがこの1000年の間に何処かで学んだ高笑い。
「ハハッ……掛かりましたね、ユイノさん。これでこの領地は私のモノです」
「えっ? ナニ、何言っちゃってるの!?」
 起き抜けで訳も分からないユイノ。
「だって……」
 サインしたばかりの色紙から、ぺりぺりっと表面の紙を剥がしてゆく……。
「甲(ユイノ)は乙(フォーゲル)に王国の支配権を禅譲し、レア物財産を全て譲渡する」
 そういう旨がしっかりと書かれた正式な文書。
「どうです、分かって貰えましたか?」
「嘘つき〜。サインって言ったじゃない!!」
「さて……そんな事言いましたか……」
「こんなの、無効よ、無効!!」
「そうですか。そう仰るようなら仕方ない。ユイノさんが今後一切という条件で禁酒、末永く真っ当な統治を行うと約束するならこの書面、破棄して差し上げましょう」
 キリの無さそうな会話に、フォーゲルの妥協案。
 ところが、そうやって言い合っている所へネレッセがやって来た。
「そんな妥協なんてする必要ない! こんのアホんだら!?」
 いきなりユイノの頭に拳骨。
「無効も何もない! いい加減目を覚ませや!!」
 と、暴君さながらのネレッセ。増えていく傷に比例し、人格も過激になっているような……。そうして彼はユイノの反論など1秒たりと待つことなく、統治に当たっての各部署の担当者を呼び出すと、新領主フォーゲルの名の下、1年間の期限付きで政務を執り行うと宣言。
 ……それは、失墜した冒険者への信頼を回復させる、最低限の期間。
「ひっどーい、横暴! 反対!」
 何だか妙な抗議を始めるユイノ。まぁ、統治がどうとかにはあまり興味はないのだが、黙っててもレア物が集まるという境遇には少々未練……。しかし。
「ユイノさん、お久しぶり」
 そんな彼女の元を尋ねたのは、以前よりも幾分落ち着いた感のあるセレス。そして、その横にはリュウ。
「ちょ、ユイノさん! ユイノさんは努力もせずに手に入れたお宝なんかで満足なの?」
 率直な疑問を投げかけるリュウ。しかし、ユイノが答えるよりも早くセレスが質問を重ねた。
「ユイノさん、レア物ハンターは廃業しちゃったのかな? 今のユイノさんがやってる事って……レア物ハンターと言うよりは『レア物コレクター』って感じがするんだけど」
 ……はっ! ユイノは何かに気付いた様子。
「それに、そんな生活続けたら、あの『ザンギャバス』みたいな体型になっちゃうよ。それでもいいの?」
 えっ!? それはたぶん誰でもイヤだろう……。
「レア物の価値ってさ、個人個人の感覚で変わってくるものだと思うんだよ。遺跡の宝物庫にある宝石にみんなの目が集まったとしても、その横にある土の壷に価値を見出す人だって居るんだよ? もしかしたら感覚だけじゃなく、気が付かないだけで本当に宝石以上の価値があるかもしれない。それなのに……その選択を、その判断を他人に任せちゃうの?」
 ……ユイノさんは本当にそれで満足なの、と。
 リュウとセレスが交互に説教。やがて、ユイノもそれらの言葉で目を覚ましたようで……。
「そうだった。私……レア物ハンターだったんだよね。たしかにこれじゃ、ハンターとは呼べないね♪」
「せやろー!?」
 突然、尋ねてきたのは、昨日ツブされたクスィ。
「今日は酒も入ってないようやしの。ユイノ、とことん説教してやるわ。ええか、一般人に迷惑かけんなホンマ! 俺は、マジで怒ってるんやで!」
「ごめんなさい……」
 すっかり殊勝な様子になったユイノ。そしてヴァイスも、そして昨日から一連の騒ぎに関係した面々が皆、揃ってやって来た。
「政治なんてものはさ、向いている人間がやればいい……レアな物は探す過程もレア。そうは思わないか?」
「……はい」
 あまりにシュンとしているものだから、却って心配になるリュウ。
「ああぁ、みんな、その位で許してあげようよ〜」と。
「ありがと、リュウさん。そしてみんな、ごめんなさい。私……これからは真っ当なレア物ハンターとして、きちんと精進して努めを果たします!」
「良かった。レア物ハンターとしてユイノさんをゲット〜♪」
 あるべき姿に戻ったユイノに安心し、その腕を捕まえるセレス。こうして、元祖だか本家だかのレア物ハンターは、ようやく本来の姿に戻ったのだった……。

●コルドフリード艦隊
「偽物……遥か昔、竜との戦いの犠牲になった私達タロスの故郷。それを汚されたようで不愉快です」
 かつてないほどの怒気を滲ませ、眼前のコルドフリード艦隊のミニチュアたちを見据えるフォーゲル。
 何しろ相手はスケールこと小さくなっているとは言え、本物と寸分違わぬ作り。彼らタロスが怒りに燃えるのも当然であろう。
「数万年前は心強い艦隊だったのにね……」
 告げたのは、つい先日、別の戦場における死闘の中で、本来の自分自身に覚醒を遂げたミライ。
「ユイノちゃん、こっちの戦場でも宜しくね☆」
「く、時間を越えて希望のグリモアを破壊だと……その力、何て羨ま……もとい禍々しい!」
 思わず本音、ならぬ言い間違い(?)が見え隠れするネメシス。目前で艦砲を撃ってきたドリル艦の一隻に槍の雨で沈め、更にまだ無数に存在する艦隊を前に堂々と言ってのける。
「希望のグリモアはオレ様のもの。破壊など断じて許さん。アレは……アレはオレ様のもにだッ!!」
 そして続くヴァイス。
「ここから先は未来と希望を重んじる者が生きる場所。絶望に囚われた過去に明け渡せるものは欠片もない」
 そう言って過去の絶望とやらを振り払うべく、ナパームの炎を放つ。その炎に焼かれて数を減らす敵前衛ドリル艦隊。
 しかし敵の方もタイムゲートを守るようにして現れた絶望の化身。おとなしくその数を減らさせてくれる訳じゃなく、向こうも我々を撃ち落そうと次々艦砲を撃ってくる。
 ドラゴンウォリアーともなれば、ドリル艦の艦載砲ごときで落とされたりはしない。しかしながら敵の数は明らかに多く、1発ならば平気でも何発も喰らった日には笑ってはいられないだろう。
「厄介な相手だ……星の子達よ、私に力を……!!」
 自らの愛剣として、かれこれ数万年の永きに渡って冒険を支えてくれた星降りの刃と星屑の剣。いずれもシェラにとっては欠かせない存在となっている二振りに願いを込める。
 そして星振りの刃の1つたる巨大剣を軽々と振るい、その剣速がもたらす衝撃波で再び数隻の船を沈める。
「まさかコルドフリード艦隊と正面きって戦う日がこようとは……」
 ネレッセは、目の前に立ちふさがる無数の敵にある種の興奮を覚えつつ、様子見と撹乱を目的として敵艦隊の集団の中央に進む。
 そして全身で練り上げた闘気を、竜巻の如く開放。周囲の敵を一斉に塵と化してゆく。
 しかし1人で先に進むというのは、それなりのリスクを内包していた。今も皆より少し先行した感があるネレッセをターゲットに、ドリル艦隊に紛れるようにして展開するバリア艦隊。
 だが、この広い宇宙空間を隅々まで見渡すのは1人では難しく……ユイノとミライの2人がそれぞれ散開し、声を掛けてはいたが、それでも完全な予測は不可能。
 それは次の瞬間、ネレッセを中心とした四角い箱のような空間が戦場に展開された絶対不可侵領域が物語っていた。
「くっ……」
 こうなると中から自力で脱出するのは不可能。分かっているだけにセレスは、それを目の当たりにした瞬間、腕に溜めた闘気を放ってバリア艦の一隻を沈めようと動く。
 しかしバリア艦はそれだけでは沈まない。
「させません!」
 と、冒頭から一段と気合の入ったフォーゲルが、凄まじい勢いの早駆けでセレスの傍のバリア艦に駆けつけると、
「沈め!」
 と叫びつつ、ガンポットと化した武器で撃ち落とした。
「この程度じゃ、私の怒りは解けません」
 そして、戦場全体を俯瞰して指示をすべく最後方に下がったユイノから、指示が飛ぶ。
「二時の方向、壊れたバリア艦の代わりに戦略空母艦隊接近。再び不可侵領域を作られる前に……クスィさん、リュウさんお願い!」
「何と言うか、やっぱ色々起こるもんだね〜。長生きしてて良かったよ」
 軽口を叩きながらも、きちんと指示通りに飛ぶリュウ。きっちりと流水撃で空母の耐久力を削る。そしてクスィもその空母の進路を妨害するように立ち塞がり、黒炎を放ちつつ戦場を窺がう。
「本当に。敵になるとこんなに厄介だとは……」
 呟いたミライもタスクで仲間に指示を飛ばしつつ自らも前線に身を置いているが故、時には自ら向かった方が早そうと、敵中に飛び込み薔薇の剣戟で艦の1隻を切り刻む。生物ですらない故に、赤い薔薇が舞うことは敵わなかったが、代わりに派手な爆発を生み、向こうの仲間に敵の存在を知らせる。
 それを受け速やかに砲撃を集中させてくる敵。そこは偽だろうが悪だろうが、れっきとした1つの艦隊であり、戦術として徹底されていた。無数の光線やら実弾やらが交錯する。しかし数十にも及ぶそれら総ての軌道を視界に納め、躱し切ったミライは終わってみれば全くの無傷。
「そう簡単にはやられませんよ!」
 と言い放つ。
「こういう戦いっていうのも、なんか懐かしい感じなのね。でも、平和を脅かす存在を野放しにはできない! 早急に、さっさとご退場してもらう!」
 シャノもドラゴウォリアーと化した時点で口調が変わる。同時に性格も変わったようで、雷撃を中心として、敵を引き付けながら着実に敵を片付けてゆく。
「今だ、狙え!」
 ヴァイスの合図。それは呪痕を刻んだという合図。ダメージの蓄積を狙い、続けて雷撃を放つシャノ。その中の一撃が運良く艦砲の射撃口に当たり、戦略空母の一隻を撃ち落とした。
 しかし、その後ろから来ていたドリル艦の猛攻により、辛うじて撃墜はしたものの少々手酷いダメージを被ってしまう。
「今すぐ治すから待っとれや!」
 すぐにクスィが気付き、癒しの波動をもたらすべく翔ぶ。しかし、それよりも早く光の粒子を砲の先端に集める艦が1つ。
「間に合ってくれやー!」
 手を伸ばすクスィ。無理ではない、ほんの少しの無茶。何故なら仲間を救うには自身が艦砲の前に身を晒すしかなかったから。
 背後に感じる凝縮した光。だが、それが放たれることはなく、温かな光がシャノの全身を包んでゆく。
 振り返った2人が見た者は、蜘蛛の糸で艦を拘束したヴァイスの姿。
「危ない、ところだったな」
「スゴい! 間一髪ね〜……」
 余裕を窺わせるヴァイスの笑み。その様子に、戦場の動向を窺っていたユイノの素直な感嘆の声。
「……思い出した。俺は、仲間が護った物を護り続ける為、この身が不死になる事を選んだ。キマイラ……何者かは知らんが、怨むなら怨め。だが、この世界は潰させやしない」
 失われていた記憶。ヴァイスの脳裡にその全てが甦る。
「こうやってると昔を思い出すよ。色々みんなと無茶したけど楽しかった。今回だってそう、私……いやボク達は、絶対に負けないんだからっ!」
 攻撃は決まるも、尽きぬ敵。意思なき艦隊との生命の削り合いの中で、セレスも本来の無垢だったころの気持ちを取り戻す。
 そして、ある意味でスリルを楽しむかのような笑顔と共に、仲間たちの位置を確かめ最も厚い壁へと破鎧掌をぶち込む。ドラゴンウォリアーの力で威力を増したそれが、一瞬でドリル艦の1つを粉々に粉砕。
「やった!」
 だが、その瞬間……。
 セレスの周囲をクリアな壁が囲む。絶対不可侵……何者をも通さぬ無敵の壁が。そして再び最終撃滅艦が姿を見せる。依然。沢山のドリル艦に護られながら。
「いけない! 絶望かなんか知らないけど。私たちがいる限り好き勝手にはさせない!」
 回復したばかりのシャノが飛び込む。その手から放たれる光は、先ほどまでのを遙かに凌駕する強大な雷。仲間が、友が危機に晒されたから!?
 だが、バリア艦の代わりを務める空母は若干耐久力に優る。
 倒し切れぬそれを、艦の死角となる下方から突き上げるように槍の雨で貫くネメシス――宇宙空間に天地はない。
「ひゃっはっはっはっはっは〜。これがオレ様の冒険だー」
 そして、沈みゆく空母を視界の片隅に追いやりつつ、セレスが寸でのところで離脱。誰もいなくなった空間を、撃滅砲が蹂躙する。
「なんてメチャクチャな火力や!」
 やはりこれを放置するわけにはいかない。クスィは渾身の力を以て槍の雨を放つ。狙いは周囲を護るドリル艦隊。身体を包む黒炎と、その身に刻まれた邪竜の印が相まって、彼の力を飛躍的に高める。
「すまんな。俺らのせいで何度も壊れる羽目になってもうて。……せやから、もうゆっくり休んでくれや。ほんまお疲れさん……」
 5隻か10隻か、最初の爆風が激しい炎の連鎖を招き、次々と噴き飛んでゆく。
「全方位検索――前方に進入路発見!」
 フォーゲルの脳裡に閃く光景。それは今しがた破壊したばかりの艦隊群の中央を突き抜ける道。その奥に最終撃滅艦隊がいる!
 だが、敵も当然それは認識しており、再び幾つもの艦隊が周囲から集まって『道』を塞ごうとする。
「させません!」
 フォーゲルの雄叫びが紅蓮の炎の如く宇宙空間に苛烈に迸る。そして道を塞ごうとした艦の動きを止めた。
「今のうちに!」
 切り拓かれた道。そこにまずネレッセが飛び込む。
「未来を否定しても時間は進む!  ここで……こんなところで立ち止まれれるか!」
 彼の闘気が渦を巻いて周囲の艦を叩き潰してゆく――1発、2発、……。すべてを殲滅すべく、使える限りの連発。
 途中、避け得ぬ反撃はフォーゲルのガッツソングによる癒しがカバー。負けられない戦いだから。
「行こう、ユイノ!」
 後方で指示に回っていたユイノの手をシェラが掴む。レア物ハンターとして、共に闘う。その意思を込めた温かい手。
「レア物ハンターは永遠に不滅。良きにせよ悪きにせよトコトン付き合うさ……」
「うん!」
 穿たれた穴に2人して飛び込んでゆく。偽りの最終撃滅艦隊を消し去るために。
 だが、その行く手を阻むのはバリア艦隊の作り出す透明な壁。
「打ち砕け、ダークソウル!! 楽しい未来を作る為!」
 リュウの雷撃がバリア艦を墜とす。これでもう、バリアを展開できるだけの艦は残っていない。そしてそのまま連なるように最終撃滅艦隊へ。もちろん、残る8人も自身の周囲を片付け、順次追随。
 敵はもうそれを防ぐだけの手立てを無くし、最終撃滅砲を無作為に撃つ。しかし、それらは彼ら11人の冒険者たちには1発たりと掠りはしない。
「希望の込められてない撃滅砲など、私たちに当たる筈がないでしょう」
 堂々と言ってのけるミライ。
 そして、ユイノの放った矢が一隻を貫くと同時にシェラの剣が微塵に打ち砕く。そこから更に全員の総攻撃。1発の火力のみを求めた最終撃滅艦隊に既に反撃の余力は残されておらず、残存艦隊による援護は多少あるものの……後はもう、消えゆくのみであった。
 更にまだ幾許かの残存戦力は残っちゃいたが、もう大きな脅威は存在しない……故に冒険者たちは、来る最終決戦に備え一旦退くことを決める。
 ――タイムゲートの深い闇を見据えつつ。すぐに再び訪れることにはなろうけれども。
「同盟に復讐……か。一体そいつに何があったんやろな」
 クスィはただ一人、闇色に染まる門を振り返り呟いたのだった……。


マスター:斉藤七海 紹介ページ
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作成日:2009/12/24
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