さいはて山脈を登れ!〜世界に花を〜



<オープニング>


 ―――――それは、淡雪のように広がる白だった。
 雲海を抜け、真っ青な空に迎えられたインフィニティマインド。そこに乗っていた一行の眼下に広がっていたのは、もうひとつの雲海。
 荒地に広がる綿菓子のような純白の絨毯は、六年で各地に広がっていた。
 地上に一人残った野良ドリアッド・カロア(a27766)が皆の無事を祈り蒔いた種。花の種を蒔くことを誘った霊査士がその花をたいそう気に入り、咲いた花から零れた種をさらに蒔いて歩いたため、あちこち純白の花畑が出来上がっていた。

「こんな花見た事無いけど、お前、何処でこの種手に入れたんだ?」
 六年越しの再会をした銀蟾・カルア(a28603)が旅団員とともに花畑の前でカロアに尋ねる。
「食えるかと思ってポッケに入れていたら勝手に芽が出……カロアさんが可愛いから、道行く商人さんがくれたんだドリ」
「……」
 情報は商人に聞いたほうがよさそうだ。

 幸い植物に詳しい商人はすぐに見つかった。
 商人曰く、さいはて山脈の奥深くに谷間を埋め尽くすかの如く雲の花が咲き乱れ、天上の世界と見紛うほど美しい花畑があるそうだ。
 盗賊の台頭により世が乱れ、彼の地へ向かう手立ては失われてしまっていたが、平和になった今ならかつての道程を辿るなどして、行き着けるのではないか……と。
 花畑には背よりも高い件の花が咲き誇り、一帯を根城としている心優しきノソリンが、渡し舟ならぬ『渡しノソリン』として、花畑を案内してくれるそうだ。
 谷間を埋め尽くす白き花の海。そしてそこを渡る色とりどりのノソリン……。
 それは、まさしく地上の楽園。
 この目で見てみたい、と皆が思ったのも不思議ではない。
 そして、さいはて山脈から吹き降ろす風に乗せ、流れる清流に乗せ、この花の種を世界に届けるお手伝いをしてみたい――――。
 熱意を伝えると商人は古い地図を一行に渡してくれた。
 世が乱れる前に作られた、美しい花畑への地図。やや道のりは遠いが冒険者たちにとってはこのくらいの距離はどうということもないだろう。
 途中、危険な動物などもおらず、危険な道もないという。ただ遠いため食べ物や飲み物は用意しておいたほうがいいだろう。
 少し遠くへのピクニック気分で、思い出をつくりに、一同は準備を始める。


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参加者
野良ドリアッド・カロア(a27766)
銀蟾・カルア(a28603)
小さな海・ユユ(a39253)
ノソ・リン(a50852)
柿・ピースケ(a77486)



<リプレイ>

●ドキがムネムネ
 出発の前夜は特別なものだ。
「想像するだけで、ドキがムネムネしっ放しなんだよ……!」
 興奮した口調で小さな海・ユユ(a39253)が言えば、
「また皆で遊びに行けて、ホントにホントに幸せです……♪」
 幸福そうに野良ドリアッド・カロア(a27766)が頷く。
「このときめきからインスピレーションを得て、新作スイーツの案がビビッと来たよ!」
 ユユは不安そうな銀蟾・カルア(a28603)の顔を見た。
「ちっちゃいカップケーキの山を生クリームでもっこもこにして、可愛いノソリンちゃんのラムネ菓子を乗せるの! これをお土産にすれば……」
 今回来られなかった人にも夢のような景色を見せてあげることができる。ユユは自分の天才パティシエぶりに感激するが、その表情をやはり不安そうに柿・ピースケ(a77486)が見ていた。
「という訳でカルアちゃん、ピーちゃん、生クリームのホイップお願いね!」
 どん、と置かれる大量の生クリーム。カルアとピースケは予感が的中したことに肩を落とし溜息をつく。哀しげな目をして黙々と作業をするカルアとピースケ。クリームをホイップするカシャカシャという哀しい音が夜に響く。
「じゃあ、私はお弁当を用意しようか。各種おにぎりと漬物、出汁巻き玉子……」
 ノソ・リン(a50852)が提案し、朝早く準備することを申し出た。
「アザラシが見つからなかったので、その辺で取ったキノコでも持って行こうと思……」
 ピースケが言うとユユ、カロア、リンが無言で制止のツッコミを入れる。
「……え? ナンデ?」
 色々と見てきた仲間だけあって、制止のタイミングも揃っている。その息の合いっぷりをカルアはホイップクリームを泡立てながら見るだけだ。翔剣士といえども翌日、手が上がらなくなることは言うまでもない。
 女子三人がわくわくと寝床についてもホイップクリームを泡立てる音は続き、空が白むまで止むことはなかった。

 翌朝。
 お弁当用に購入した葡萄と薩摩芋のチーズケーキと間違えて、大量の板を荷物に詰めているうつらうつらしたカルアの姿があった。誰もその致命的なミスに気付かなかったのは幸か不幸か。
 先頭に立ってスキップでもしそうな軽さで進むルルとカロアとは正反対に、さながらアンデッドのようにピースケのグランスティードの後ろに乗るカルア。
「しかし、あの時のカロアの落ち込み様ったら無かったよ……」
 その横を歩きながら、六年前のことをふと思い出してリンは呟く。
「思い余って自力で宇宙に羽ばたいて行っちゃったんじゃなかろうか……って」
 ドサ、とグランスティードからカルアが落ちる。のんびりと先に行ってしまうピースケとグランスティード。
「ああ、ごめん、荷物を持って行くから……しかし重い荷物だな」
「背中のそれ、荷物じゃないから! 路傍の石だから!」
 カルアのぼんやり加減に全力で突っ込むリン。
 遠くのほうではピースケが後ろに乗せていたカルアがいなくなったことに首を捻っていた。
 楽園のような花畑までもう少し。

●スッゲー!
 さいはて山脈の奥へと分け入っていく。
 暫くの間使われなかった道だけあって歩きにくい箇所もあったが、道中カルアが数度グランスティードから落ちる以外大きなトラブルもなく順調に地図のとおり進んでこられた。時間も目安としていた時間とほぼ変わらない。
 視界が晴れたのは突然だった。
「わぁ……!」
 最初に歓喜の声をあげたのは誰だったか。
 広がるは一面の雲海。谷間を埋め尽くすほどの雲の花。その雲の花の合間から首を出し、のんびりと泳ぐように進む色とりどりのノソリンたち。なぁ〜んという鳴き声が谷間に響く。花の香りはどこか甘く、砂糖菓子のよう。揺れる風にあわせて白が揺れた。
 真っ先に雲海へと走ったのはピースケだった。グランスティードから降りると「キャッホーイ!」と叫びながら谷底の花畑へと突入していく。タロスアーマーの白と花畑の白が微妙な陰影を描いて一瞬風景に溶け込む。
「すっげー! ホントに雲の海みたいだ! スッゲー!」
 感動を言葉で表現しながら花畑を転がっていく。
「スッゲー!」
 ごろごろ。
「スッゲー!」
 ごろごろごろごろ。
「スッゲー!」
 ごろごろごろごろ……ドブン!
「ホンギャース!!」
 流れていた小川に落下し沈んでいくピースケ。
 それで久し振りの人の来訪を知ったノソリンたち。ピースケをやや遠巻きにしつつ花の陰からつぶらな瞳で五人の様子を伺っている。「なぁ〜ん?」と鳴き交わしつつ、白の中に一瞬の緊張を走らせた。
 そんな仕草が超かわいい、と胸をときめかすリンの横、カルアは冷静な落ち着きをもってノソリンと対話しようとする。
「警戒しなくとも大丈夫だ、俺たちはこの花畑を荒らすために来たのではなく、少しだけ寝させてもらえればと……」
「お前の話しかけてるソレ、ノソリンじゃないから! 風で麓の村から飛ばされて来た、何処かのお父ちゃんのパンツだから!」
 またもや全力で突っ込むリンの横、疲れでそのまま突っ伏して寝てしまうカルア。
 結局誤解を解いたのはユユの魅了の歌だった。愛らしい声で歌うと、暫く一緒に遊んでくださいと告げる。難しいことはわからずとも、ノソリンは一緒に遊ぶことは理解したようだ。
「お近づきの印に、是非どうぞ♪」
 ユユが差し出したのは小麦粉と人参で作った動物用クッキー。ノソリンはユユの傍へとそろそろ近づいてきてフンフンとクッキーの匂いを嗅ぐ。一匹がユユの手からクッキーを食べるとまた一匹、また一匹と次々ノソリンがやってくる。小さなユユはノソリンの中に埋まってしまいそうだ。クッキーはノソリンの口にあったらしく「なぁ〜ん」「なぁ〜ん」と口々に美味しさともっと食べたい旨を伝える。
「こんなことなら、ユユ、もっと沢山作ってくればよかったね」
 あっという間にクッキーはなくなってしまう。ノソリンたちはのんびりと五人の近くを歩きまわり始めた。どうやら受け入れてもらえたらしい。
 それを理解してからカロアはノソリンたちに事情を話し花を分けてもらい、花冠を編み始めた。この花をやはり気に入っている霊査士へのお土産だ。
 綿帽子の花を花冠にしていると初めて見るものにノソリンたちが次第に集まってじーっとカロアの手元を眺めている。
「……ん? ノソリンちゃんたち、集まってじっと見ていて、どうしたんですか?」
「なぁ〜ん」
「なぁ〜ん」
「あ、ひょっとしてこの花冠が欲しいのかな?」
「なぁ〜ん♪」
「それじゃ遊んで貰ったお礼にノソリンちゃん達にもあげますね♪」
 一番近くにいたノソリンの頭に花冠を乗せるとノソリンは少し得意げに「なぁ〜ん!」と鳴いた。
「他にも欲しい子は並んで並んで〜♪」
 次々と並ぶノソリン達。カロアは花冠の作成に追われることになる。花冠を乗せ、ノソリン達はふわふわと花畑を歩いていく。カロアもノソリン分を作り終えると自分の頭に花冠を乗せた。雲の冠のようだ、と満足げに微笑む。
 それをようやく復活し、意識もしっかりと回復したカルアが見ていた。
「……何それ? シャンプーハットか?」
 鼻で笑う。
「てぇ〜い! 貴様の頭にも乗せてやるわー!!」
 ノソリン用に作っていた花冠を素早い動きでカルアの頭に乗せるカロア。
「全く……このマーベラスセレブリティな花冠の、何処がシャンプーハットだ!」
 プンスカ怒りながら何気なく鏡を覗き込み、
「……似てる……!!」
 言われて見ればそう見えないこともない。
 喜び自慢し合っているノソリン達からそっと視線を逸らすカロア。
 お土産に持って帰る霊査士には部屋に飾ってください、と伝えようとそっと心に思ったとか。
 一方でリンはノソリンの警戒が解けてから「キャッホーイ!」と叫びつつ花畑にダイビングしていた。綿帽子の花はリンの体をふわりと優しく包み込む。ノソリンたちはそんなリンを遠巻きにしてふこふこと鼻を動かした。どうやら匂いを嗅いでいるらしい。大丈夫だとわかればリンの横で一緒に日向ぼっこをするノソリンもいた。
 柔らかなな日差しの下、ごろりと仰向けになると白の綿帽子の隙間から青い空が見える。まるで手に届く雲のようだ。綿毛に似た花弁が風の冷たさや光の強さを不思議と柔らかなものに変える。
(「まるで霞の布団に包まれて眠っているみたいだよ……」)
 うとうととまどろむリンの横でノソリンもうつらうつらと気持ち良さそうにお昼寝を始めた。
 カルアは花畑に一本だけ立つ高い樹に登ると、白い花に埋もれる谷間を見渡した。
 綿帽子の絨毯で埋め尽くされ、泳ぐように歩くノソリンの姿は確かに事前に聞いていた『天上の世界のよう』という言葉がぴったりだ。
(「まだ冒険者になる前……小さな村の小さな世界に生きていた頃は、世界がこんなに広くて奇跡のように美しいなんて、夢にも思わなかったな……」)
 それは近いような遠いような過去。懐かしいと感じて、そんな感傷に目を細める。
「そうだ、折角だから皆でお茶を……」
 樹から下りて荷物を確認するカルア。そこで問題の大量の板を発見するわけだが、原因は勿論誰も知らぬことだった。

●……嬉しいなぁ……
 お弁当が終われば(お茶は板のせいで断念せざるを得なかった)念願のノソリン周遊タイムだ。すっかり五人に懐いたノソリンたちは背中に乗せることを拒むことはなかった。
 日向ぼっこをしながらお昼寝を希望したリンの横にはノソリンが寄り添って昼寝をすることに。しっとりとした肌のノソリン二匹に挟まれるようにして寝転ぶリンの姿はそれはそれで幸せそうだ。
 一番に背中に乗ったユユはノソリンの背に横になる。ちょうど綿帽子の雲海の中、ユユの姿がたゆたうようにも見える。ユユはそれを利用して空中泳法を披露した。ユユとノソリンのコラボが実現させた雲海で泳ぐユユ、それは夢の妙技とも言えよう。白い雲の中を泳ぐような仕草がまるで童話の世界のようだ。優しくノソリンの背が揺れる。
「スイスーイ♪」
 綿帽子の花畑を泳ぐ姿。
「スイスーイ♪」
 泳ぐ姿もなかなか板についているのはセイレーンという種族ゆえだろうか。白い花が風に揺れ、青い髪が風に揺れ……。
「ス……あっ」
 バランスを崩して地面へと落ちる。柔らかな土がユユを受け止め、ユユは仰向けに横になった。
 白い花の隙間から見える綺麗な青空を見上げる。
(「ホントに雲の上に居るみたい……」)
 落ちたユユを不安そうに覗きこむノソリンを撫でながらユユはいつしか眠りについた。
 カルアの場合はノソリンの背中に乗せてもらいながら昼寝をしていた。ノソリンも揺り篭のようにゆらゆらと背を揺らしながらゆっくりと歩く。カルアにとってもノソリンにとってもこんな散歩も悪くないものらしい。
 騒がせたお詫びによい匂いのする薬草を渡してノソリンと和解したピースケは、やはりノソリンの背に乗せてもらった。グランスティードでは速過ぎて折角の花畑を傷めてしまうという配慮からだ。頭に綿帽子の花を挿し、ゆらゆらと揺れながら白い谷間を巡る。
 白、と言えば思いだすのは氷の冷たい白だ。けれどもここの白は氷とは全然違う、暖かくて優しい白。
(「同じ白なのに、なんでこんなに違うんだろ……」)
 ゆらゆらと揺れながらピースケはぼんやりと考える。
(「ランドアースもホワイトガーデンも、ホントに不思議で綺麗だなぁ……」)
 同じ白の体を花に溶け込ませ、ほわほわとピースケは花畑を巡る。
 カロアもノソリンの背に乗せてもらいぐるり周遊・谷間の旅に出発だ。
 白い綿帽子の花は見ているだけで暖かく、ふわふわだ。雲の海を旅しているような錯覚にすら陥る。揺れる白は波頭にも見えてくる。
(「他の子達は、何処に居るのかな……?」)
 昼寝をしているリンとユユ。ノソリンの背で寝ているカルア。ほわほわと同じように巡るピースケに手を振って、カロアは皆が此処にいることを実感する。
(「……嬉しいなぁ……幸せだなぁ……」)
 皆を思って蒔いた種の花畑に、その大事な人たちといる。そのことがカロアの胸をじんわりと暖かくした。

●世界に花を
 日差しが傾き、茜色の日が伸びる。
 白い雲海は茜に染まり、柔らかな色を風が揺らす。
 それはユユが予想をしていたとおりの景色だった。
 一面広がる茜の海は白の雲海とは違う、奥深い色合い。柔らかな毛布のような暖かな色合いは逆光で暗くなるノソリンの影もあってのことだろう。
 夕焼けの寂しさよりも夜のくることへのわくわくを思い出させるような、そんな優しい、無邪気な茜色。
 そんな中、花の種を各自集め終えると、ピースケが落ちた小川のほとりに五人は集まった。
 小川のせせらぎにノソリンの鳴き声がまざり、温かな夜が始まる。
 ようやく日の目を見たカルアの板に花の種を乗せ、小川に流していく。下流へと運ばれていく種。リンとピースケは高台で種を風に飛ばした。風に舞い、種は飛ばされていく。カロアは持ち帰って、各地へと花を届ける予定だ。
 ランドアースに綿帽子の花が増える日もそう遠くないだろう。
 幸せな遠足が終わるようにその場を後にする面々。カルアは最後にゆっくりと谷間を振り返った。
「世界に花を……か……」
 これから世界はどう変わるのだろう。
 これから自分たちはどう変わるのだろう。
 変わらないのは、きっと今日の思い出。今までに築いてきた絆というもの。
 そんな感傷に目を伏せ、カルアは待っている四人のほうへと駆け出す。
 ノソリン達がまた来てほしいと言うように「なぁ〜ん」と鳴いた。


マスター:水城みつき 紹介ページ
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参加者:5人
作成日:2009/12/24
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